説明

電気スイッチング素子

第1の層14と第2の層22とを含むスイッチング素子10であり、このスイッチング素子は、第1の状態と第2の状態とを有し、第1の状態において、第1の層14及び第2の層22が接触領域22において積層され、第2の状態において、第1の層及び第2の層が接触領域22において剥離され、このスイッチング素子は、当該スイッチング素子に対するスイッチング刺激の印加により第1の状態から第2の状態へと非可逆的に切り換わる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1の状態と第2の状態とで不可逆的にスイッチングするためのスイッチング素子に関する。
【0002】
本発明はさらに、かかる電気素子を組み込んだ装置に関する。
【背景技術】
【0003】
安価で追記型(write-once-read-many)記憶装置を使用するのが容易な開発のための継続的な努力がある。このような装置は、1度プログラムされることが可能である一方、何度も読み取ることができる。良く知られた例には、正規のコンパクトディスク又は電気的装置におけるプログラマブル読出専用メモリ(PROM)がある。このような装置の全ては、1度切り換えられるが多数回読み取られることのできるスイッチング素子を必要とする。
【0004】
米国特許出願に係る文献のUS2004/0149552には、このようなスイッチング素子の例が開示されている。この開示された装置は、2つの金属導電素子の間でこれらに接触して挟まれた導電性有機ポリマ層を有する電子メモリ素子として用いられる電子スイッチを有する。初期の製造後の状態において、有機ポリマは比較的に導電性が高く、当該製造後の状態は、使われる符号化規約に応じて、例えば2進ビット0又は1を表すように機能することの可能なメモリ素子の第1の状態を構成する。比較的高い電圧パルスは、かかる2つの金属導電素子の間に印加可能であり、この結果、当該有機ポリマの通電容量が著しく減少することになる。有機ポリマ層の通電容量の変化は、概して非可逆性であり、他の2進ビット1又は0を符号化するために用いられることの可能なメモリ素子の第2の安定状態を構成する。開示された例では、有機導電層は、市販のポリエチレンジオキシチオフェン:ポリスチレンスルホン酸(polyethylenedioxythiophene (PEDOT):pylostyrenesulphonic acid (PSS))を構成する。PEDOT:PSSを用いて、高電圧パルスの後の導電性の低下は、2桁から3桁の間にある。
【0005】
このPEDOT:PSS材料の選択では、多くの装置パラメータが、両方の状態における導電性及び印加すべきスイッチング電圧など相互に関係づけられることが不利な点である。何故なら、これらのうちの全てが同じ材料に依拠しているからである。これは、スイッチング素子を必要とする装置に対するデザイン仕様関係について当該スイッチング素子の適切なデザインの妨げとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の第1の目的は、デザインの自由度を向上させることになるスイッチング素子及び当該素子を組み込む装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、独立請求項により規定される。従属請求項は、有利な実施例を規定するものである。
【0008】
本発明は、スイッチング素子のスイッチングの間において、当該スイッチの状態の変化、すなわち第1の状態から第2の状態への変化は、第1の層を第2の層から剥離する形態で当該素子の物理的完全性の変化を引き起こすことによって有利に行われる、という洞察に基づいている。かかる層状剥離は、発生したガスが接触領域において第1及び第2の層を離れて押すように当該スイッチング信号を供給するとガス種を提供する化合物を第1及び第2の層のどちらか又は両方に供給することによって実現される。ここでの積層は、スイッチング前に第1の状態において当該接触領域で第1の層と第2の層との間の或る特定の相互作用があることを意味するものとして解釈されることを意味するものである。これを、例えば、粘着分子力とすることができる。さらに、剥離は、第1及び/又は第2の層が、ヒューズのようにして崩壊され或いは爆発装置におけるが如く当該スイッチング素子から部分的に除去されるようなものから、本提示のスイッチングメカニズム及び装置を区別するものでもある。
【0009】
スイッチングによりガス種を提供する化合物は、例えば、ガス種を放出するようにではあるが何らかの種類の爆発をなさないように気化又は化学的に反応する化合物を意味すると解釈されるべきものである。したがって、本発明は、例えば密集したスイッチング素子を有するアレイがメモリにおいて用いられる状況及び/又は装置の完全性が極めて重大である状況に関して有利である。化学反応は、ガスを放出する化合物となる光化学反応や熱誘導反応を含む。
【0010】
本発明は、スイッチングが、第1の層及び/又は第2の層の特性を変える必要性ではなく当該装置の物理的完全性の変化に基づいているので、従来技術に対して有利なものである。
【0011】
本発明によるスイッチング処理は、自己制限型の処理を含む。このような処理は、信頼性の高い制御可能なスイッチングとなるので有利である。
【0012】
かかるスイッチング刺激を、電気信号、放射線信号又は加熱信号とすることができる。
【0013】
好適実施例において、当該スイッチング刺激は、電子信号を有する。
【0014】
この実施例の第1の変形において、電気信号は、当該化合物を気化するよう熱を出す加熱素子を駆動することができる。加熱素子は、第1又は第2の層のいずれかにより提供されるようにすることができる。このことは、そのような場合に、当該接触領域内の接触表面で少なくとも気化が行われそれに伴いガスが必要となる領域で有効となるので、有利なものとなる。他の代替例において、当該電気信号は、電解又は分解におけるが如き化合物の直接的化学反応をもたらすものとなりうる。これは、この場合に、熱が必要とされないので有利である。電解は、比較的低い電圧で起きるので有利である。低い電圧で便利に電気分解が可能な化合物の好適な例は水である。
【0015】
実施例において、スイッチング刺激は放射線を有する。これは、例えば、例えば可視又はUV光を用いた素子の非接触スイッチングを可能にする。そのような場合、当該スイッチング素子は、光学的に切り換えられる。1つの変形例において、当該放射線は、剥離を生じさせるように気化をなす化合物を加熱する。但し、加熱が好まれない場合、放射線が光化学反応におけるが如きガスを放出するよう当該化合物を化学反応させるようにした有利な変形が用いられる。
【0016】
実施例において、当該接触表面の少なくとも一部は、支持層内のキャビティに位置づけられる。当該接触領域が内部封入される場合、剥離に必要なガス種は、それらの剥離効果を奏することなく当該接触領域の周囲の中へ拡散することを十分に回避させられる。支持層の効果は、そのガス浸透性に依存しており、それが低いほど、その層がその機能を良好に提供する。支持層は、適切なガス浸透性を有する材料のものとすることができる。これは、フォトレジストのような有機性のもの又は二酸化シリコンにおけるが如き無機性のものとすることができる。
【0017】
実施例において、当該スイッチング素子は、その第1の状態が第1の電気的状態を表しその第2の状態が第2の電気的状態を表す電気スイッチである。電気的状態は、電気抵抗、電気容量及び/又は電気誘導の状態又はその混合を意味するものである。したがって、剥離は、第1の層から第2の層までの接触領域にわたり測定される電気的抵抗の増加を誘導することになる。同様に、かかる剥離は、第1の層と第2の層との間にある空間を誘導し、これにより、当該接触領域にわたり測定されるような接触領域のキャパシタンスは、スイッチングにより変わることになる。この実施例は、当該スイッチング素子が、例えば装置の異なる回路部分を接続又は接続解除するような電気的素子として機能しなければならない場合に有利である。また、これはヒューズとして機能するようにしてもよい。さらに、これは、その内容の読み取りが、電気的状態の変化を検知することによって電気的に行われることのできる場合、追記型電気的メモリ素子として有利に用いられることが可能である。なお、スイッチングは、ここで前に説明したように必要に応じて行われるようにしてもよい。
【0018】
好適実施例において、第1の層及び第2の層は、電気的に伝導するものである。抵抗は、メモリ内で容易に検知可能であるので、抵抗性のスイッチング素子が好ましい。当該層のうちの1つは、電極層とすることができる。そのような場合、金属はガスに対して比較的に非透過性であるので、金属により形成されるのが好ましい。これは、ここでの上記支持層に関して明らかとされるような理由のために有利である。
【0019】
実施例において、第1の層及び第2の層のうちの少なくとも一方は、他の化合物を有し、当該他の化合物は、導電性の化合物である。
【0020】
好ましくは、当該層の抵抗性は、ガス種を供給することのできる化合物とは異なる他の化合物によって決まるものである。その場合、当該化合物は、設計自由度、及び主にガス種を供給することのできる化合物に依存したスイッチング条件とは独立した他の化合物の特性に応じて第1の状態の導電性を選択する機会を提供するものが独立して選択可能である。
【0021】
実施例において、スイッチング素子は、ミラー層を有し、このミラー層は、スイッチング素子の第1の状態においては第1の形状を、当該スイッチの第2の状態においては当該第1の形状とは異なる第2の形状を有する。ここで、ミラー層は、放射線を反射する層を意味する。これは、非接触でかつ例えば電気的スイッチング機構とは別個(これにより干渉なし)である放射線を用いることにより当該スイッチの状態の検出を可能とするので、利点である。当該ミラー層は、第1及び第2の層のうちの一方とすることができるが、これは、当該剥離による第1及び/又は第2の層の変形が当該ミラー層の変形をもたらすようにスイッチング装置を介して十分に変換するように設けられる必要はない。このミラー層は、金属で形成されるのが好ましく、よって、実現可能な電極層は、ミラー層として有利に機能することができる。
【0022】
実施例において、この装置は、当該装置の2つの部分を電気的に分断するための請求項5によるスイッチング素子を有する。
【0023】
実施例において、装置は、請求項8によるスイッチング素子を有し、当該スイッチング素子は、スイッチ可能なミラーを提供する。
【0024】
実施例において、装置は、請求項1に記載のスイッチング装置を有し、当該スイッチング素子は、情報を格納するためのメモリ素子である。
【0025】
2006年のネイチャー(Nature)441誌又は未公表国際出願のIB2006/052510には、キャビティにおける金電極に接触するために用いられるPEDOT/PSS電極を備えた容量性デバイスが開示されている。当該金とPEDOT/PSS層との間には、当該デバイスがキャパシタ又は分子接合を構成するような自己組織化システム又は単分子層がある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
本発明のこれらの態様及びその他の態様は、以下の図面に基づいてより詳しく説明される。
【図1】本発明のスイッチング装置の第1の実施例を示す断面図。
【図2A】スイッチング装置の電流−電圧のプロット図。
【図2B】スイッチング装置の電流−時間のプロット図。
【図3A】周囲条件におけるスイッチング前のスイッチング装置の平面図。
【図3B】周囲条件におけるスイッチング後のスイッチング装置の平面図。
【図4】スイッチング信号の供給後のスイッチング装置の断面の走査電子顕微鏡法画像を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、本発明のスイッチング素子の第1の実施例を概略的な断面図として示している。この図は一律の尺度で描かれていない。スイッチング素子10は、基板12、この例では4インチ(10cm)の直径を持つシリコンウェーハ上に形成される。この例における基板12は、酸化シリコン(図示せず)の熱成長した層で不動態化(パッシベート)させられる。但し、この層は、本発明に必須なものではない。金電極14は、厚さ40nmの金が後付けされる厚さ1nmのクロム又はチタンの熱蒸発と、ポジ型フォトレジスト(HPR504TM)、当該フォトレジストのマスク規定露光及び冗長金のエッチングを用いた標準的なフォトリソグラフィによるパターニングによって形成される。その後、この基板は、発煙硝酸を用いて洗浄され、その後に脱イオン化水ですすぎ落とされる。
【0028】
その後、電気的絶縁層16は、金電極をもカバーする基板の頂部上に塗布される。キャビティ18は、当該金電極が接触領域20にわたり露光されるように金電極14の上方に絶縁層16において規定される。本例において、厚さ500nmのネガ型フォトレジスト(ma_N 1407TM又はL6000.5TM)は、仕様に従って標準的処理でパターン化された絶縁層16として用いられる。このようにして、シリコン基板には、1ないし50ミクロンの範囲内の直径の円形接触領域を各々が有する複数のキャビティが設けられたものとなっている。
【0029】
かかるキャビティを満たすよう基板へ中間層22を供給する前に、当該接触領域は、先ずUVオゾン又はOプラズマにかけることにより洗浄され、その後にエタノール浴又はN/Oプラズマのような還元ステップがなされる。この例において、当該中間層は、界面活性剤(FSO100TM(DuPont))の数滴が混入されたH.C. Starck A.Gにより供給されるように水中にポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)及びポリスチレンスルホン(poly(3,4-ethylenedioxythiophene)及びpolystyrenesulphonic;PEDOT/PSS)を有する導電性ポリマ組成物の厚さ100ないし200nmの層をスピンコートし、この膜を1時間にわたり真空中において室温で乾燥させることによって形成される。この膜は、概して1S/cmの導電性を有する。
【0030】
そして、第2の電極24は、PEDOT/PSS膜の頂部上に設けられる。そして、この例では、厚さ100nmの金の層が蒸着させられ又はスパッタリングされ、パターン化後に金電極がそのエッチング後に残存しなければならない場合を除き全ての個所において基板から除去されるようにパターン化されるポジ型フォトレジスト(HPR504TM)の厚さ500nmの層を用いてフォトリソグラフィの処理を用いて構成される。金の第2の電極24は、スパッタエッチングを用いてエッチングされ、その後に、PEDOT/PSS層22は、マスクとして当該金の第2の電極を用いてOプラズマでのSTS RIEエッチングを用いてエッチングされる。
【0031】
テストスイッチング素子において、電極14及び24は、例えばプローブステーションを用いたスイッチング素子の接触がキャビティを崩壊させないように当該頂部から基板を見たときに当該キャビティの近くに位置づけられるパッドを結合するよう接続されるようにしてパターン化される。図3Aには、組み立てられたスイッチング素子のSEM画像が示される。円形領域25は、スイッチング素子のキャビティの輪郭を表している。
【0032】
異なる接触領域を有するスイッチング素子の電流電圧特性(IV)は、それらの第1及び第2の電極を電源に接続しバイアスを0から5Vに立ち上げることにより周囲条件の下でそれらを維持しつつ測定される。かかるスイッチングを示すために、図2Aには、例として、50ミクロンの直径を持つ接触領域を有するスイッチング素子の電流電圧特性26の一部が示される。1Vのバイアスまでは当該素子は線形抵抗のように振る舞うものの、1Vを超えるバイアスでは、当該抵抗は、初めにゆっくりと増加し始め、最終的に非常に急激に5桁の大きさで増加する。この抵抗の増加は可逆的である。さらに、切り換わる素子の第2の記録は、当該素子が線形の抵抗器としてだが異なる抵抗を持つものとして継続的に振る舞うことを示している。したがって、第1の低い抵抗が当該スイッチング素子の第1の状態を規定するとともに、第2の高い抵抗は、当該スイッチング素子の第2の状態を規定する。
【0033】
かかるスイッチングはまた、当該スイッチング素子を2VブロックパルスにかけることによってIV26の記録のために用いられるような同様の素子の記録がある図2Bの電流トランジェント(It)28からも明らかである。この場合、4桁の大きさの抵抗変化が、当該スイッチング素子の第1及び第2の状態を分離するように誘導される。したがって、2Vのみのスイッチング電圧を用いることで、当該素子は、都合良く切り換えられる。
【0034】
図2A及び図2Bはまた、当該素子を真空状態に維持しながら、IV26及びIt28を記録するために用いられるものと同様のスイッチング素子をそれぞれ記録したIV30及びIt32を示している。スイッチングは観測されない。また、140℃での素子の記録があるIt34も、スイッチングを呈しない。電流は、長い時間期間にわたり、少なくとも10秒を超えて一定のままである。
【0035】
スイッチング電圧は、ここで上述した接触領域の範囲内の接触領域のサイズとは独立している。
【0036】
図3Aにはスイッチング前のスイッチング素子の画像が示され、図3Bにはスイッチング後の結果が示される。かかる結果は、切り換えられたスイッチング素子の全てに対して代表的なものである。25に繋がるキャビティの頂部上の領域内の電極24は、球面状又は球形状に変形されることになるよう上方に押されたものである。
【0037】
図4A及び図4Bは、スイッチング後のスイッチング素子の断面の画像を示しており、PEDOT/PSS層22は間にある空隙又は空間36を形成するよう金電極14から剥離していることが認識できる。
【0038】
スイッチングのメカニズムは次の如くである。概して2Vよりも高い電圧では、水が電解されて、かかる剥離を生じさせるガス種H及び/又はOを供給する。ここで前述したような混合物を用いるものの添加のジメチルスルホキシドを伴ったPEDOT/PSSのスピンコーティングが概して100倍PEDOT/PSS層の導電性を向上させるとともに当該スイッチング電圧が概ね1Vにまで減少することが観察されている。これは、専ら低電圧を利用可能とする装置における当該スイッチング素子の適用に対して有利なものとなる。
【0039】
したがって、本実施例による装置は、米国特許出願に係る文献のUS2004/0149552A1の中で示されているように有利となるスイッチングによる大幅に低いスイッチング電圧の、増加した抵抗変化に関する従来技術文献に対して有利なものとなる。当該素子のスイッチングパラメータ及びスイッチング状態パラメータの独立した最適化である。
【0040】
説明した実施例は、本発明から外れることなく、材料や幾何学的形状配置に関して差別化されることができる。
【0041】
したがって、幾何学的な装置構成を変えることができる。電極24は、層22全体が当該キャビティ内でかつ電極14と24との間に設けられように層22をカバーするようにしてもよい。層22は、全体的に当該キャビティ内にあるものとして、電極24と接触するその表面も当該キャビティ内にあるものとするようにしてもよい。かかるキャビティの形状及び深さが適切に変更可能であることは明らかとなる。
【0042】
基板は、想定されるあらゆる基板も可能である。
【0043】
層16は、異なる材料により形成可能である。有利なのは、ガスを接触表面において凝縮させたままとするためにガスの低い浸透性を提供する材料である。適切な他の有機材料を用いることもできる。また、二酸化シリコン又は窒化シリコンのような無機材料を用いることができる。これにより、半導体装置における集積化を促進する。当該装置が電気的スイッチである場合、層16は電気的に絶縁性であるのが好ましい。但し、スイッチング素子が電気的スイッチング素子でない場合、これは、その場合のものとする必要がない。
【0044】
PEDOT/PSS層は、パターン化される必要がない。上述した例では、当該装置を通じる電流は、層16が絶縁性であるので接触領域20を通じるように強制される。よって、ガス形成層は、キャビティの直径内に限定される。
【0045】
中間層22の導電性を、当該層のために異なる材料を選ぶことによって変化させることができる。したがって、代替えの実施例において、層22は、PEDOT/PSSのような導電体を有しないが、半導体又は当該半導体のそれよりも低い導電性を有する材料は有する。この材料は、有機性又は無機性を有するようにしてもよい。この態様において、異なる導電性を有する材料を選ぶことによって、スイッチング装置の第1の状態の抵抗を、当該スイッチング装置の寸法(キャビティ直径)を変える必要を伴うことなく変えることができる。これは、将来のサイズが予め規定されたパラメータである回路構成に関して有利となる。
【0046】
層22の材料は、最も好ましいのは、導電性ポリマ、例えば、ポリマ材料による、特にその中の導電性の基による不純物(ドーパント)の相互作用の結果として導電性が生じるポリマ材料とするのが良い。これら材料の例は、アルコキシ、アルキル、アリールなどの側基により置き換えられることができるポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリピロールなどがある。或いは、接触層の材料は、銀、グラファイトなどが充填されるエポキシ又は他のポリマのような導電性素子が組み込まれる材料とすることができる。但し、これら後者の材料は、当該層の均等性がかなり小さく、その表面領域にわたる当該素子の均等性が低下するという点で、明らかにあまり好適ではない。
【0047】
最も好ましいのは、導電ポリマとしてポリ−(3,4−置換チオフェン)を用いることである。この類のポリマの最も知られた例は、大抵はPEDOTと称される、3,4−アルキレンジオキシ置換によるものである。このアルキレン基は、オプションとして置換されるC−C−アルキレン基が好適であり、好ましくは、ここでは、CないしC12−アルキル−又はフェニル置換されたメチレン基、オプションとしてCないしC12−アルキル−又はフェニル置換された1,2−エチレン基、1,3−プロピレン基及び1,2−シクロへキシレン基からなるグループから選択される。界面活性剤のような導電性及び処理作用を増加させるよう添加剤を加えてもよい。
【0048】
ガス供給メカニズムがPEDOT/PSSのような電流搬送媒体に存在する水のような化合物の電解に依拠するものであれば、例えばポリアニリンのような他の化合物のために当該PEDOT/PSSを置換することにより層22の導電性を変えることによって、装置を切り換えるために或る特定の臨界電流が当該装置を通じるようにするために必要なスイッチング装置電圧の第1の状態の抵抗を制御することができる。より高い導電性は、より低いスイッチング電圧を意味する。当該層における電圧降下が著しく低い領域が存在することになり、これによりスイッチング電圧が当該導電性とはほぼ独立したものとなり、この領域内で、当該装置の第1の状態の抵抗は、当該スイッチング電圧を変えることなく層22のための適切な材料を選択することにより必要に応じて調整可能である。
【0049】
一実施例において、ここで前述したものによる装置は、中間層22が低い導電性を有するポリビニルアルコール(PVA)であるものが提供される。このPVA層は、水中の加水分解された87〜89%PVA(Aldrich)の5重量パーセント溶液から100ないし200nmの層厚さまでスピンコートされる。この層は、1時間の間、室温で乾燥される。PVA層の導電性は、PEDOT/PSSのものよりも非常に低い。よって、スイッチング装置の第1の状態は、非常に高い。IV曲線において、電流は、低電圧時のナノアンペアレベルから当該素子が切り換わる概ね80V時のマイクロアンペアへと増加する。
【0050】
スイッチングのためにガス種を供給する他の化合物も、本発明による装置において用いることができる。したがって、これを例えば揮発性化合物とすることができる。或いは、当該化合物を、ガス種を供給する過程の進行する化学反応の結果として熱に感応性のあるものとする。これらのケースでは、抵抗性ヒータとして有利に用いられるような電極14は、すなわち、蒸着のために十分な熱を発生するような高い抵抗が付与される。有利な形で、この蒸着は、ほぼ、剥離させたい箇所の接触表面において行われる。この実施例は、第2の電極24を用いないスイッチング回路を提供する。よって、これは、当該スイッチの状態をサンプリングするために電極14及び24を用いることになる当該抵抗を測定するための電気回路から少なくとも一部が分離される。加熱は、例えばレーザを用いて行われるようにして、照射によっても行われることができる。
【0051】
また、光化学反応によりガスを放出する化合物の使用が可能である。
【0052】
層22の堆積のために幾つかの方法を用いることができる。かかる堆積方法は、しばしば、当該層のために使われる材料に依存することになる。幾つかの堆積方法は、インクジェットプリントなど、本来の場所でのパターニングを有利な形で可能とする。よって、層22の個別パターニングは必要ではない。他の変形例において、層22は全くパターン化されない。
【0053】
第1及び/又は第2の電極の適切な材料は、金、銅、導電性酸化物、アルミニウム、ドープされたシリコンGaAs、他のIII−V族半導体、水銀、ニッケル、プラチナ、パラジウムなどを含む。当該電極への層22の接着は、中間層への電極層の接着を合わせるために有利な形で用いられる。接着が強固であるほど、剥離はより困難となり、これによりスイッチングがより困難となる。
【0054】
第1の層と第2の層との接着を調整するため、適切な化学組成を有する単分子層を用いてボンディングを調整するようにしてもよい。
【0055】
自己組織化システムを、第1の層14と第2の層22との間のキャビティに適用してこれら層の間の接着を調整するようにしてもよい。この自己組織化層は、1つ又は複数の単分子層を有してもよい。金電極の場合、アルカンチオール又はアルカンジチオールのような単分子層を用いることができる。しかし、用いられるシステムのタイプは、接着を必要とする層及び必要な接着の程度により決まることが理解される筈である。単分子層は、非公開国際出願IB2006/052510に記述されているような処理に応じて適用可能である。
【0056】
結合は、上記非公開出願において明らかとされるような化学結合又は物理的結合とすることができる。
【0057】
説明した実施例においては、第1の電極14は、鏡として機能することができる。その場合、スイッチング装置は、スイッチ可能ミラーを提供する。何故なら、当該スイッチの第1の状態において、スイッチングの前に、ミラー表面はほぼ平坦である一方、スイッチング後の第2の状態では、当該ミラーは図3A及び図3Bに示されるような球状を呈するからである。代替えの変形例は、当該ミラーとして、第2の電極24及び/又は中間層22を有する。当該ミラー層が層22のように埋め込み層である場合、16及び/又は14及び/又は24のような取り囲み又はカバーリング層は、当該ミラーが当該ミラーにより反射すべき放射線を用いて検出されることができるような透明な窓を提供するのが好ましい。
【0058】
スイッチ可能ミラーは、反射した照射ビームの変化を生じさせるために用いることができる。すなわち、当該スイッチの状態は、放射に基づく原理及びシステムを用いて検出可能である。これにより、スイッチング装置は、例えば、光メモリ機能を提供することができる。当業者であれば、このような検出システムをどのようにして提供するかを知ることになる。
【0059】
なお、当該スイッチの状態の検出はここで上述したように光検出のような放射線に基づく検出を有しうるが、当該装置のスイッチングは、放射線信号により必ずしも刺激される必要はない。
【0060】
したがって、当該スイッチは、例えば、本発明の原理により電気的に切り換えられることも可能である。或いは、便利なように検出からスイッチングを分離するために、スイッチは、照射を用いて切り換えられるようにしてもよい。
【0061】
好適なのは、電気素子の製造が電子装置の製造において1つの工程を構成することである。このような電子装置は、本発明により構成されるような複数の電気素子と、さらに好ましくは他の受動及び能動素子とを有することができる。本発明の素子は、図示の如きアレイの中に集積させることも可能であり、これにより、メモリの製造を可能にする。そして、その電極を備えた各スイッチング素子は、既知の技術によりワードラインとビットラインとの間においてダイオード又はトランジスタのような選択デバイスと直列に電気的に接続される。電子装置が集積回路である場合、相互接続構造の中に本発明の素子を集積させることが適していると想定され、或いは、当該パッシベーション層の頂部上にそうした集積をなすことがより適していると想定される。第1及び第2の電極は、相互接続部、電極、結合パッドなどの如き他のパターンが規定される層の一部として適切に設けられることが分かる筈である。これの製造は、プレートレベルで適切に行われ、その後に、個々の装置が互いに分離される。当業者であれば、メモリ又はその他の手段でスイッチとして当該素子を用いるために電子装置の中へ当該素子をどのようにして集積し当該スイッチング素子の有利な特性をどのように活用するかを知る筈である。
【0062】
なお、上述した実施例は、本発明を限定するものではなく例示するものであり、当業者であれば、添付した請求項の範囲を逸脱することなく数多くの代替実施例を構成することができる筈である。請求項において、括弧内に付された参照符号は、その請求項を限定するものと解釈してはならない。「有する」なる文言は、請求項に挙げられたもの以外の要素又はステップの存在を排除するものではない。要素又は生成物の単数表現は、そのような要素又は生成物の複数のものの存在を排除しない。或る特定の方策が相互に異なる従属請求項において挙げられているという点は、これらの方策の組み合わせが活用できないことを意味するものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の層及び第2の層を含み、第1の状態及び第2の状態を有するスイッチング素子であって、前記第1の状態において、前記第1の層及び前記第2の層は、接触領域において積層され、前記第2の状態において、前記第1の層及び前記第2の層は、前記接触領域において剥離され、当該スイッチング素子は、当該スイッチング素子へのスイッチング刺激の印加により前記第1の状態から前記第2の状態へと非可逆的に切り換わる、スイッチング素子。
【請求項2】
請求項1に記載のスイッチング素子であって、前記スイッチング刺激は、電気的信号を有する、スイッチング素子。
【請求項3】
請求項1に記載のスイッチング素子であって、前記スイッチング刺激は、放射線を有する、スイッチング素子。
【請求項4】
請求項1に記載のスイッチング素子であって、前記接触表面の少なくとも一部は、支持層内のキャビティに位置づけられる、スイッチング素子。
【請求項5】
請求項1に記載のスイッチング素子であって、第1の電気的状態を表す第1の状態及び第2の電気的状態を表す第2の状態を有する電気的スイッチであるスイッチング素子。
【請求項6】
請求項5に記載のスイッチング素子であって、前記第1の層及び前記第2の層のうちの少なくとも一方は、導電性がある、スイッチング素子。
【請求項7】
請求項6に記載のスイッチング素子であって、前記第1の層及び前記第2の層のうちの少なくとも一方は、他の化合物を有し、当該他の化合物は、導電性化合物である、スイッチング素子。
【請求項8】
請求項1に記載のスイッチング素子であって、ミラー層を有し、このミラー層は、当該スイッチング素子の第1の状態において第1の形状を、当該スイッチの第2の状態において前記第1の形状とは異なる第2の形状を有する、スイッチング素子。
【請求項9】
請求項5に記載のスイッチング素子を有する装置であって、当該装置の2つの部分を電気的に接続解除する装置。
【請求項10】
請求項8に記載のスイッチング素子を有する装置であって、前記スイッチング素子は、スイッチ可能ミラーを提供する、装置。
【請求項11】
請求項1に記載のスイッチング素子を有する装置であって、前記スイッチング素子は、情報を記憶するためのメモリ素子である、装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【公表番号】特表2010−516053(P2010−516053A)
【公表日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−545269(P2009−545269)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際出願番号】PCT/IB2008/050067
【国際公開番号】WO2008/087566
【国際公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】