説明

電気光学装置の製造方法

【課題】有機EL装置の製造方法において、フッ素化合物を含有する有機材料により隔壁62を形成する際に、画素電極24上に当該有機材料の残渣が発生し、画素電極24上の親液性が阻害される。
【解決手段】発光素子27に対応した複数の画素電極24が形成されている素子基板31と発光素子27を駆動する回路が形成された回路素子層43を有する基体41上にフッ素化合物を含有する有機材料により画素電極24の一部に開口部67を有する隔壁62を形成する工程と、基体41において、隔壁62が形成されていない素子基板31側から紫外線光50を照射する工程と、機能層26を形成する材料を含む機能液61,65をインクジェット法により開口部67に吐出する工程と、機能液61,65を乾燥させて機能層26を形成する工程と、機能層26を覆うように素子基板31上に陰極25を形成する工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出法を用いて形成された機能膜を有する電気光学装置の製造方法、及び電気光学装置を用いた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
上記した電気光学装置の一つに、有機EL(エレクトロルミネッセンス)装置がある。有機EL装置は、陽極と陰極との間に発光材料からなる発光層が挟持された構造を有している。有機EL装置の製造方法としては、例えば、特許文献1や特許文献2に記載のように、発光材料をインク化し、インクジェット法を用いてインクを基板上の発光領域に吐出して発光層を形成する工程を含んでいる。基板上の発光領域周辺には、所定部分にインクを充填するために、例えば、有機材料(例えば、アクリル樹脂)からなる隔壁(バンク)が形成されている。隔壁によって区画された発光領域を含む開口部内には、ITO(Indium Tin Oxide)などで形成された画素電極が配置されている。
【0003】
上記画素電極上にインクを適切に配置するために、例えば特許文献1のようにO2プラズマ処理で画素電極上を親液化し、CF4プラズマ処理で有機材料からなるバンク表面を撥液化させる方法がある。しかしながら、上記のような撥液処理をしてしまうと画素電極上も相対的に撥液化され、開口部内のインクの断面プロファイルが均一にならず、その結果、開口部周辺に膜が形成されない、いわゆる膜抜け不良が起こってしまう。
上記のような課題を解決する一つの手段として、特許文献2に開示されているように、予めフッ素化合物等を含有する有機材料でバンクを形成することも検討されている。このような材料でバンクを形成すれば、CF4プラズマによる撥液処理を行わずに済み、当該プラズマ処理による画素電極が撥液化されることは無くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−329741号公報
【特許文献2】特開2010−9913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のフッ素化合物を含有する有機材料は、通常、フォトリソグラフィー法によりパターン形成するが、当該パターン形成工程において画素電極上に有機材料の残渣が発生し、画素電極上が結果的に撥液化してしまうことがわかった。画素電極上の残渣を取り除くにはO2プラズマが有効であるが、同時にバンク表面の撥液性を阻害してしまい、今度はインク漏れなどの不良を招く。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]紫外線を透過する基板と、前記基板上に形成された複数の電気光学素子を駆動する素子を含む回路素子領域を有する回路素子層と、を有する基体と、前記基体上に形成されている前記複数の電気光学素子と、前記複数の電気光学素子の各々に少なくとも発光層を含む機能層と、前記各々の電気光学素子に対応する機能層を区画するための隔壁とを有する電気光学装置の製造方法であって、前記電気光学素子に対応した複数の画素電極が形成されている前記基体上にフッ素化合物を含有する有機材料により前記画素電極の一部に開口部を有する前記隔壁を形成する工程と、前記基体において、前記基板側から紫外線光を照射する工程と、前記機能層を形成する材料を含む機能液をインクジェット法により前記開口部に吐出する工程と、前記機能液を乾燥させて機能層を形成する工程と、前記機能層を覆うように前記基板上に陰極を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
この方法によれば、フッ素化合物を含有する有機材料により隔壁を形成する際に、画素電極上に当該有機材料の残渣が発生しても、紫外線を透過可能な当該基板側から紫外線光を照射することにより、画素電極表面近傍にオゾン(O3)またはラジカルな酸素原子が生成され、当該オゾンやラジカル酸素と残渣が反応することにより、当該有機材料の残渣を低減させることができる。また、紫外線光は、隔壁の頂上部の表面に直接照射されないので、当該隔壁の頂上部の撥液性が劣化する可能性が低くなる。
【0009】
[適用例2]上記適用例に係る電気光学装置の製造方法であって、前記開口部は、平面視で前記回路素子領域と重畳しないように形成されていることを特徴とする。
【0010】
この方法によれば、開口部と回路素子領域が重畳しないことにより、当該回路素子領域に含まれる駆動トランジスターや金属配線等によって紫外線光を開口部に照射することを妨げないようにすることができる。
【0011】
[適用例3]上記適用例に係る電気光学装置の製造方法であって、前記回路素子領域は、平面視で前記隔壁の少なくとも頂上部と重畳するように配置されていることを特徴とする。
【0012】
この方法によれば、当該回路素子領域に含まれる駆動トランジスターや金属配線等によって隔壁の頂上部における紫外線光の照射が阻害されることにより、当該隔壁の頂上部の撥液性を低減させないようにすることができる。
【0013】
[適用例4]上記適用例に係る電気光学装置の製造方法であって、前記隔壁は前記紫外線光を透過しないブラックマトリックス成分を含む材料で形成されていることを特徴とする。
【0014】
この方法によれば、隔壁がブラックマトリックスのように機能するため、紫外線光が当該隔壁の頂上部まで透過できなくなることから、隔壁の頂上部の撥液性を低減させないようにすることができる。
【0015】
[適用例5]上記適用例に係る電気光学装置の製造方法であって、平面視で前記隔壁の頂上部と重畳するように、前記回路素子層内に前記紫外線光を透過しない光遮断層を有することを特徴とする。
【0016】
この方法によれば、光遮断層が隔壁の頂上部を重畳するように配置されていることから、当該隔壁の頂上部に紫外線光が照射されなくなるため、隔壁の頂上部の撥液性を低減させないようにすることができる。また、当該光遮断層が導電性を有する材料で構成されている場合には、陰極の抵抗を低減させるための補助配線として機能させることもできる。
【0017】
[適用例6]上記適用例に係る電気光学装置の製造方法であって、前記隔壁は、前記紫外線光が前記隔壁の表面まで透過しない厚さで形成されていることを特徴とする。
【0018】
この方法によれば、隔壁は、紫外線光が前記隔壁の表面まで透過しない厚さで形成されていることにより、当該隔壁の頂上部における紫外線光の照射強度が小さくなるため、当該隔壁の頂上部の撥液性を低減させないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】電気光学装置としての有機EL装置の構成を模式的に示す等価回路図。
【図2】有機EL装置の構成を示す模式平面図。
【図3】第1実施形態における有機EL装置の構造を示す模式断面図。
【図4】第1実施形態における有機EL装置の製造方法の一部を示す模式断面図。
【図5】第1実施形態における有機EL装置の製造方法の一部を示す模式断面図。
【図6】第2実施形態における有機EL装置の構造を示す模式断面図。
【図7】有機EL装置を備えた電子機器の一例としての携帯電話機を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<有機EL装置の構成>
図1は、電気光学装置としての有機EL装置の構成を示す等価回路図である。以下、有機EL装置の構成を、図1を参照しながら説明する。なお、以下参照する各図面において構成をわかりやすく示すため、各構成要素の層厚や寸法の比率、角度等は適宜異ならせてある。また、本実施形態の有機EL装置は、トップエミッション構造でもよいし、ボトムエミッション構造でも適用可能である。
【0021】
図1に示すように、有機EL装置11は、複数の走査線12と、走査線12に対して交差する方向に延びる複数の信号線13と、信号線13に並行に延びる複数の電源線14とが、それぞれ格子状に配線されている。そして、走査線12と信号線13とにより区画された領域が画素領域として構成されている。信号線13は、信号線駆動回路15に接続されている。また、走査線12は、走査線駆動回路16に接続されている。
【0022】
各画素領域には、走査線12を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用TFT(Thin Film Transistor)21と、このスイッチング用TFT21を介して信号線13から供給される画素信号を保持する保持容量22と、保持容量22によって保持された画素信号がゲート電極に供給される駆動用TFT23(以下、「TFT素子23」と称する。)と、が設けられている。
更に、各画素領域には、TFT素子23を介して電源線14に電気的に接続したときに、電源線14から駆動電流が流れ込む画素電極としての陽極24と、陰極25と、この陽極24と陰極25との間に挟持された発光層を含む機能層26とが設けられている。
【0023】
有機EL装置11は、陽極24と陰極25と機能層26とにより構成される電気光学素子としての発光素子27を複数備えている。また、有機EL装置11は、複数の発光素子27で構成される表示領域を備えている。
【0024】
この構成によれば、走査線12が駆動されてスイッチング用TFT21がオン状態になると、そのときの信号線13の電位が保持容量22に保持され、保持容量22の状態に応じて、TFT素子23のオン・オフ状態が決まる。そして、TFT素子23のチャネルを介して、電源線14から陽極24に電流が流れ、更に、機能層26を介して陰極25に電流が流れる。機能層26は、ここを流れる電流量に応じた輝度で発光する。
【0025】
図2は、有機EL装置の構成を示す模式平面図である。以下、有機EL装置の構成を、図2を参照しながら説明する。
【0026】
図2に示すように、有機EL装置11は、ガラス等からなる基板としての素子基板31に、表示領域32(図中一点鎖線の内側の領域)と、非表示領域33(一点鎖線の外側の領域)と、を有する構成になっている。表示領域32には、実表示領域32a(二点鎖線の内側の領域)と、ダミー領域32b(図中二点鎖線の外側の領域)と、が設けられている。
【0027】
実表示領域32a内には、光が射出されるサブ画素34(後述する、発光領域42)がマトリックス状に配列されている。この、サブ画素34の各々は、スイッチング用TFT21、及びTFT素子23(図1参照)の動作に伴って、R(赤)、G(緑)、B(青)各色を発光する構成となっている。
【0028】
ダミー領域32bには、主として各サブ画素34を発光させるための回路が設けられている。例えば、実表示領域32aの図中左辺、及び右辺に沿うように走査線駆動回路16が配置されており、実表示領域32aの図中上辺に沿うように検査回路35が配置されている。
【0029】
素子基板31の下辺には、フレキシブル基板36が設けられている。フレキシブル基板36には、各配線と接続された駆動用IC37が備えられている。
【0030】
図3は、電気光学装置としての有機EL装置の構造を示す模式断面図である。以下、有機EL装置の構造を、図3を参照しながら説明する。なお、図3は、各構成要素の断面的な位置関係を示すものであり、明示可能な尺度で表されている。
【0031】
図3に示すように、有機EL装置11は、発光領域42(サブ画素34)において発光が行われるものであり、素子基板31と素子基板31上に形成された回路素子層43を有する基体41と、基体41上に形成された発光素子層44と、発光素子層44上に形成された陰極(共通電極)25と、を有する。
【0032】
素子基板31としては、例えば、透光性を有するガラス基板が挙げられる。
回路素子層43には、素子基板31上にシリコン酸化膜(SiO2)からなる下地保護膜45が形成され、下地保護膜45上にTFT素子23が形成されている。詳しくは、下地保護膜45上に、ポリシリコン膜からなる島状の半導体膜46が形成されている。半導体膜46には、ソース領域47、及びドレイン領域48が不純物の導入によって形成されている。そして、不純物が導入されなかった部分がチャネル領域51となっている。なお、回路素子層43に形成された、発光素子27を駆動させるものを駆動回路要素部と呼ぶ。
【0033】
更に、回路素子層43には、下地保護膜45、及び半導体膜46を覆うシリコン酸化膜等からなる透明なゲート絶縁膜52が形成されている。ゲート絶縁膜52上には、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、タングステン(W)などからなるゲート電極53(走査線)が形成されている。
【0034】
ゲート絶縁膜52、及びゲート電極53上には、透明な第1層間絶縁膜54、第2層間絶縁膜55が形成されている。第1層間絶縁膜54、及び第2層間絶縁膜55は、例えば、シリコン酸化膜(SiO2)などから構成されている。ゲート電極53は、半導体膜46のチャネル領域51に対応する位置に設けられている。
【0035】
半導体膜46のソース領域47は、ゲート絶縁膜52、及び第1層間絶縁膜54を貫通して設けられたコンタクトホール56を介して、第1層間絶縁膜54上に形成された信号線13と電気的に接続されている。
一方、ドレイン領域48は、ゲート絶縁膜52、第1層間絶縁膜54、第2層間絶縁膜55を貫通して設けられたコンタクトホール57を介して、第2層間絶縁膜55上に形成された陽極24と電気的に接続されている。
【0036】
陽極24は、例えば、発光領域42ごとに形成されている。また、陽極24は、透明のITO(Indium Tin Oxide)膜からなり、例えば、平面的に略矩形状の形状となっている。陽極24は、発光色の波長に対して透光性を有する導電性材料であればよく、上記ITOの他に、酸化亜鉛系材料、酸化すず系材料などを用いることができる。
なお、回路素子層43には、図示しない保持容量22、及びスイッチング用TFT21が形成されている。また、上記したように、回路素子層43には、各陽極24に接続された駆動用のトランジスター(TFT素子23)が形成されている。
【0037】
発光素子層44は、図1に示すようにマトリックス状に配置された発光素子27を具備して素子基板31上に形成されている。詳述すると、図3に示すように、発光素子層44は、陽極24上に形成された機能層26と、機能層26を区画する隔壁(バンク)62とを主体として構成されている。機能層26は、例えば、正孔注入層63と、発光層64などから構成されている。なお、機能層26は場合に応じて、上記正孔注入層63、発光層64の他に正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層などを含むこともある。
【0038】
回路素子層43と隔壁62との間には、絶縁層66が形成されている。絶縁層66としては、例えば、シリコン酸化膜(SiO2)等の無機材料が挙げられる。絶縁層66は、隣り合う陽極24間の絶縁性を確保すると共に、発光領域42の形状を所望の形状(例えば、トラック形状)にするために、陽極24の周縁部上に乗り上げるように形成されている。
【0039】
つまり、陽極24と絶縁層66とは、平面的に一部が重なるように配置された構造となっている。更に言い換えれば、絶縁層66は、発光領域42を除いた領域に形成されていることになる。絶縁層66は、見方を変えれば、有機材料で形成される隔壁62とともに画素分離する役割をすることから、隔壁62の一部としてみなすこともできる。すなわち、画素分離する隔壁は、絶縁層66と隔壁62の2層構造とみなすこともできる。
【0040】
隔壁62は、例えば、断面に見て傾斜面を有する台形状であり、発光領域42(発光素子27)を囲むように形成されている。つまり、囲まれた領域が隔壁62の開口部67(67b)となる。隔壁62の材料としては、例えば、特開2010−9913号公報に記載されているような、フッ素系の撥液剤を含んでいるアクリル樹脂やポリイミド樹脂等の耐熱性、耐溶剤性、及び撥液性を有する有機材料が挙げられる。
【0041】
機能層26は、上記したように、正孔注入層63と発光層64とを有して構成されており、隔壁62に囲まれた領域、すなわち開口部67(発光領域42)に、インクジェット法を用いて順に形成されている。
【0042】
正孔注入層63は、導電性高分子材料中にドーパントを含有する導電性高分子層からなる。このような正孔注入層63は、例えば、ドーパントとしてポリスチレンスルホン酸を含有する3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT−PSS)などから構成することができる。
【0043】
発光層64は、正孔注入層63の上に形成されており、エレクトロルミネッセンス現象を発現する有機発光物質の層である。機能層26上、及び隔壁62上を含む基板上の全体には、陰極25が全面成膜(ベタ成膜)されている。
【0044】
陰極25は、例えば、カルシウム(Ca)、及びアルミニウム(Al)の積層体である。陰極25の上には、水や酸素の侵入を防ぐための、樹脂などからなる封止部材(図示せず)が積層されている。陽極24と、機能層26と、陰極25とによって電気光学素子としての発光素子27が構成されている。
【0045】
上述した発光層64は、陽極24と陰極25との間に電圧を印加することによって、発光層64には、正孔注入層63から正孔が、また、陰極25から電子が注入される。発光層64において、これらが結合したときに光を発する。以下、電気光学装置としての有機EL装置の製造方法について説明する。
【0046】
(第1実施形態)
<有機EL装置の製造方法>
図4、及び図5は、有機EL装置の製造方法を示す模式断面図である。以下、有機EL装置の製造方法を、図4、及び図5を参照しながら説明する。
【0047】
図4(a)に示すように、素子基板31の上に公知の技術を用いて回路素子層43を形成する。次に、回路素子層43内のドレイン領域48と電気的に接続されているコンタクトホール57と、電気的に接続されるように陽極24が回路素子層43上に形成される。
陽極24はITOであり、スパッタリング法などにより形成される。陽極24は、サブ画素34(発光領域42)の配列に応じてマトリックス上に複数形成される。
【0048】
さらに陽極24の周囲には絶縁層66が形成される。絶縁層66は、例えば、シリコン酸化膜(SiO2)を含んだ絶縁膜を、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等により、回路素子層43、及び陽極24上を覆うように形成する。次に、フォトリソグラフィー技術、及びエッチング技術を用いて、絶縁膜のうち発光領域42に対応する領域に開口部67aを形成し、絶縁層66を完成させる。
【0049】
図4(b)は、隔壁を形成する模式断面図である。隔壁形成工程では、絶縁層66上に隔壁62を形成する。
まず、隔壁62の材料の塗工液を絶縁層66上、及び陽極24上に塗布する。具体的には、隔壁62の材料の液体との接触角が90°となるように撥液剤の容量を調整したフッ素化合物の撥液剤入りアクリル樹脂の塗工液である。
【0050】
次に、塗工液を乾燥させて隔壁層を形成する。その後、この隔壁層における発光領域42(サブ画素34)に対応する領域に開口部67bを形成する。これにより、隔壁62の形状が完成する。隔壁62の厚さは1μm以上2μm以下の範囲で形成される。なお、隔壁62は、上記の範囲に限らず、発光素子27の構造の最適化により適当な厚さで形成される。
【0051】
開口部67bは、本実施形態では、感光剤入りのアクリル樹脂を用い、公知のフォトリソグラフィー法により形成される。すなわち、隔壁62を形成する材料そのものが一種の有機レジスト材料として機能する。
【0052】
なお、アクリル樹脂に感光剤を配合していない材料を用いる場合には、アクリル樹脂を基板全面に形成した後、有機レジストを塗布、現像し、アクリル樹脂を公知のエッチング技術によって加工し、開口部67bを形成することもできる。
【0053】
ここで、フッ素化合物を含有したアクリル樹脂は、現像したときに画素電極の表面などに、極めて薄い膜として、または島状の残渣として残る場合がある。通常のアクリル樹脂の場合、ある程度の残渣であれば、アクリル樹脂自体が強い撥液性を有するものではないので、後述するインクジェット法による機能層形成工程における機能液の断面形状の平坦性は、許容値の範囲内となる。しかしながら、フッ素含有の樹脂の残渣等が存在する場合には、微量な残渣といえども、機能液の断面形状が大きく乱れ、平坦性が許容値の範囲外となる可能性が高くなる。すなわち、画素電極や基体表面等に付着する余計なフッ素化合物含有樹脂を除去することが重要な課題の1つとなっている。
【0054】
図4(c)は、紫外線光を照射する工程を示す模式断面図である。図に示すように紫外線光50を、既存の紫外線照射装置を用い、大気中で素子基板31側、すなわち回路素子層43が形成されていない側から基体41に照射する。
紫外線光50は、波長185nmまたは254nmのもの、またはその両方を使用する。波長185nmの紫外線は、空気中でオゾン(O3)を生成するのに用いられ、254nmの紫外線は生成したオゾンの活性化またはラジカルな酸素原子を生成することに用いられる。紫外線光50の照射量はおよそ1300mJ/cm2とした。
【0055】
上記のように素子基板31側からから紫外線光50を照射することにより、平面視において開口部67bと重畳している陽極24表面近傍にオゾンまたはラジカルな酸素原子が生成され、当該オゾンやラジカル酸素と陽極24上等に発生する残渣が反応することにより、陽極24上の残渣の大部分が除去される。また、紫外線光50は、隔壁62の頂上部62aの表面に直接照射されないので、紫外線光50の照射による隔壁62の頂上部62aの撥液性が劣化することはない。
【0056】
ここで、「平面視」というのは、有機EL装置11を図2のような平面方向から見たものであり、より具体的には、例えば、基体41の断面に対して隔壁62が形成されている面に対して垂直な方向から観察したときの視点をいう。以下、「平面視」という語句は、上記のものを定義とする。
【0057】
なお、上記の条件は、隔壁62の厚さが1μm以上の場合には、当該隔壁62の頂上部62aに対して紫外線光50の影響が及ばないように調整したものである。紫外線光50の照射量は、隔壁62の厚さによって変更することができる。すなわち、隔壁62の厚さが小さい場合には、紫外線光50の照射による照射量を小さくして、当該隔壁62の頂上部62aが影響を受けないようにすることができる。
【0058】
なお、隔壁62は上記のように紫外線光50を照射することで、開口部67bを介して陽極24の残渣を除去することから、開口部67bは、回路素子層43の回路素子形成領域と平面視で重畳しないように形成されていることが望ましい。
ここで、回路素子形成領域とは、回路素子層43に形成されている上記TFT素子23、ゲート電極53(走査線12)などの電気配線が形成されている領域のことをいう。
【0059】
逆に、回路素子形成領域は隔壁62の頂上部62aと平面視で重畳していることが望ましい。回路素子形成領域によって、頂上部62aへの紫外線光50が遮断され、より隔壁62の頂上部62aが影響を受けないようにすることができる。
【0060】
なお、開口部67aは、絶縁層66を開口して得られるものであり、絶縁層66は上記のようにシリコン酸化膜で形成されているので、紫外線光50に対して透光性を有する。したがって、ここでは、開口部67aは紫外線光50に対して作用するものではないので、主に紫外線光50と開口部67bとについて説明をしている。
仮に絶縁層66が紫外線光50に対して透光性を有していない場合については、上記の紫外線光50と開口部67bとの関係との説明は、紫外線光50と開口部67aに置き換えて説明が可能である。
【0061】
図5(a)は、機能層形成工程を示す模式断面図である。陽極24上における絶縁層66、及び隔壁62によって囲まれた発光領域42に、正孔注入層63の材料を含んだ機能液61を液滴吐出法(例えば、インクジェット法)により吐出する。詳しくは、機能液61の液滴を、陽極24を底部とし絶縁層66、及び隔壁62を側壁とする凹部に向けて吐出する。
【0062】
正孔注入層63の機能液61としては、例えば、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等のポリチオフェン誘導体にドーパントとしてのポリスチレンスルホン酸(PSS)を加えた混合物(PEDOT/PSS)等を用いることができる。PEDOT−PSS分散液の一例としては、PEDOTとPSSとの重量比が1:10、かつ固形分濃度が0.5%であり、ジエチレングリコールを50%含み、残量が純水であるものを用いることができる。
【0063】
正孔注入層63の機能液61は、底部の陽極24にフッ素含有の有機材料である残渣がほぼ除去されているため、機能液61が凹部内で平坦化する。そのため、残渣が存在していたときのように撥液によって機能液61が存在しない領域が発生したり、機能液61が存在しても機能液61の断面形状が大きく乱れたりして、膜厚制御ができなくなるといった不良は低減される。
【0064】
次に、機能液61を乾燥させて正孔注入層63を形成する。詳しくは、機能液61を高温環境下で乾燥又は焼成して溶媒を蒸発させ、機能液61に含まれるPEDOT−PSSを固形化させることにより、開口部67内に正孔注入層63を形成する。
乾燥の条件としては、例えば200℃の環境下で、素子基板31を10分間放置する。膜厚は、例えば、50nmであり、少なくとも正孔注入層63が形成されていない領域は存在せず、ほぼ平坦な断面形状の正孔注入層63が得られる。
【0065】
次に、正孔注入層63上に、発光層64の材料を含んだ機能液65を液滴吐出法により吐出する。発光層64の機能液65としては、例えば、赤色蛍光材料を固形分濃度0.8%で含み、シクロヘキシルベンゼンを溶媒とするものを用いることができる。
【0066】
次に、機能液65を乾燥させて、発光層64を形成する(図5(a)参照)。詳しくは、機能液65を高温環境下で乾燥又は焼成して溶媒を蒸発させ、機能液65に含まれる、例えば、赤色蛍光材料等を固形化させることにより発光層64を形成する。乾燥させる条件としては、例えば100℃の環境下で素子基板31を1時間放置する。形成された発光層64の膜厚としては、例えば、100nmである。
【0067】
図5(b)は陰極形成工程を示す模式断面図である。発光層64の形成された素子基板31上の略全体に、カルシウム膜、及びアルミニウム膜をこの順に、例えば蒸着法によって積層させることにより、陰極25を形成する。形成されたカルシウム膜は、例えば、5nmである。形成されたアルミニウム膜は、例えば、300nmである。
【0068】
その後、陰極25上に、例えば、接着剤、及びガラス基板を用いて封止を行うことにより有機EL素子が形成され、その結果、有機EL装置11が完成する。
【0069】
以上詳述したように、第1実施形態によれば、以下に示す効果が得られる。
【0070】
第1実施形態によれば、隔壁62が形成されている面と反対側の面から紫外線光50を照射することにより、陽極24の表面近傍にオゾンまたはラジカルな酸素原子が生成され、当該オゾンやラジカル酸素と陽極24上等に発生する残渣が反応することにより、陽極24上の残渣の大部分が除去される。
また、紫外線光50は、隔壁62の頂上部62aの表面に直接照射されないので、紫外線光50照射による隔壁62の頂上部62aの撥液性が劣化することはない。
【0071】
したがって、機能液61が凹部内で平坦化するため、残渣が存在していたときのように撥液によって機能液61が存在しない領域が発生したり、機能液61が存在しても当該機能液61の断面形状が大きく乱れたりして、膜厚制御ができなくなるといった不良は低減される。
【0072】
(第2実施形態)
図6は、本実施形態の第2実施形態を示す断面図である。本実施形態では、光遮断層58を有するところが第1実施形態と異なるところである。光遮断層58は回路素子層43内に形成されており、少なくとも隔壁62の頂上部62aと重畳するように形成されている。これにより第1実施形態で説明した紫外線照射工程(図4(c)参照のこと)において、隔壁62の頂上部62aの撥液性を弱めることなく、陽極24上の撥液性を有する有機物残渣を除去することができる。
【0073】
また、本実施形態においては、光遮断層58はアルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、タングステン(W)などの導電性材料で形成されており、非表示領域33において当該光遮断層58が、コンタクトホール59を介して陰極25と接続されている。
これにより、光遮断層58は陰極25の抵抗を低減させるための補助配線として機能させることもできる。当該有機EL装置11がトップエミッション型で陰極抵抗が高くなるような構造の場合には特に有効である。
【0074】
(第3実施形態)
<電子機器の構成>
図7は、上記した有機EL装置を備えた電子機器の一例として携帯電話機を示す模式図である。以下、有機EL装置を備えた携帯電話機の構成を、図7を参照しながら説明する。
【0075】
図7に示すように、携帯電話機91は、表示部92、及び操作ボタン93を有している。表示部92は、内部に組み込まれた有機EL装置11によって、均一に発光することができる等、高品位な表示を行うことができる。なお、上記した有機EL装置11は、上記携帯電話機91の他、モバイルコンピューター、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、車載機器、オーディオ機器、露光装置や照明機器などの表示装置、などの各種電子機器に用いることができる。
【0076】
以上詳述したように、第3実施形態によれば、以下に示す効果が得られる。
第3実施形態によれば、上記した第1実施形態又は第2実施形態の有機EL装置11を備えているので、電気光学的に安定した機能を発揮することができる(例えば、高品位な画像を形成することができる)。
【0077】
なお、実施形態は上記に限定されず、以下のような形態で実施することもできる。
(変形例1)
隔壁62をブラックマトリックスとして機能する材料で形成したり、または、ブラックマトリックスとして機能する材料を含むアクリル材料等で形成したりすることができる。このようにすれば、隔壁62がブラックマトリックスとして機能するため、紫外線光50が当該隔壁62の頂上部62aまで透過できなくなることから、隔壁62の頂上部62aの撥液性を低減させないようにすることができる。
【符号の説明】
【0078】
11…有機EL装置、12…走査線、13…信号線、14…電源線、15…信号線駆動回路、16…走査線駆動回路、21…スイッチング用TFT、22…保持容量、23…駆動用TFT(TFT素子)、24…画素電極としての陽極、25…陰極、26…機能層、27…発光素子、31…基板としての素子基板、32…表示領域、33…非表示領域、34…サブ画素、35…検査回路、36…フレキシブル基板、37…駆動用IC、41…基体、42…発光領域、43…回路素子層、44…発光素子層、45…下地保護膜、46…半導体膜、47…ソース領域、48…ドレイン領域、50…紫外線光、51…チャネル領域、52…ゲート絶縁膜、53…ゲート電極、54…第1層間絶縁膜、55…第2層間絶縁膜、56,57,59…コンタクトホール、58…光遮断層としての補助電極、61,65…機能液、62,62a…隔壁の頂上部、63…正孔注入層、64…発光層、66…絶縁層、67…開口部、91…電子機器としての携帯電話機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線を透過する基板と、前記基板上に形成された複数の電気光学素子を駆動する素子を含む回路素子領域を有する回路素子層と、を有する基体と、前記基体上に形成されている前記複数の電気光学素子と、前記複数の電気光学素子の各々に少なくとも発光層を含む機能層と、前記各々の電気光学素子に対応する機能層を区画するための隔壁とを有する電気光学装置の製造方法であって、
前記電気光学素子に対応した複数の画素電極が形成されている前記基体上にフッ素化合物を含有する有機材料により前記画素電極の一部に開口部を有する前記隔壁を形成する工程と、
前記基体において、前記基板側から紫外線光を照射する工程と、
前記機能層を形成する材料を含む機能液を液滴吐出法により前記開口部に吐出する工程と、
前記機能液を乾燥させて機能層を形成する工程と、
前記機能層を覆うように前記基板上に陰極を形成する工程と、
を有することを特徴とする電気光学装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電気光学装置の製造方法であって、
前記開口部は、平面視で前記回路素子領域と重畳しないように形成されていることを特徴とする電気光学装置の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電気光学装置の製造方法であって、
前記回路素子領域は、平面視で前記隔壁の少なくとも頂上部と重畳するように配置されていることを特徴とする電気光学装置の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の電気光学装置の製造方法であって、
前記隔壁は前記紫外線光を透過しないブラックマトリックス成分を含む材料で形成されていることを特徴とする電気光学装置の製造方法。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれか一項に記載の電気光学装置の製造方法であって、
平面視で前記隔壁の頂上部と重畳するように、前記回路素子層内に前記紫外線光を透過しない光遮断層を有することを特徴とする電気光学装置の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の電気光学装置の製造方法であって、
前記隔壁は、前記紫外線光が前記隔壁の表面まで透過しない厚さで形成されていることを特徴とする電気光学装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−174394(P2012−174394A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32933(P2011−32933)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】