説明

電気接点層付金属材およびその製造方法

【課題】 電気接点層の形成材料である貴金属の使用量を低減することが可能であり、かつ電気接点層の剥離等の虞なくプレス成形加工を施すことが可能である電気接点層付金属材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 電気接点層付金属材10は、金属基材1と、その金属基材1の表面上に形成された、チタン、ニオブ、タンタル、ジルコニムのうちのいずれかの金属成分を含む金属からなる、厚さ5nm以上〜100nm以下の接着層2と、前記接着層2の表面上に形成された、貴金属からなる、厚さ1nm以上〜20nm以下の電気接点層3とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケルまたはクロムを含む金属からなる金属基材に貴金属からなる電気接点層を付加した電気接点層付金属材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電気接点層を有する電気接点層付金属材は、例えば電池の電極材やコネクターの電気接点部に使用されている。その電気接点層の形成材料として用いられる金属の代表的なものは、Au(金)やPt(プラチナ)のような貴金属や、Sn(錫)、Ni(ニッケル)等であり、それらの金属を、めっき法などによって金属基材の表面上に設けることで、その電気接点層は形成される。
電気接点層の信頼性や耐久性をさらに高いものとするためには、SnやNi等よりも化学的に安定した特性を有するAuのような貴金属が、より好ましい材料として用いられる。
【0003】
しかし、Auのような貴金属を用いる場合、例えばステンレスのような不動態被膜を形成する金属の表面に金めっきを施す工程では、煩雑な前処理等が必要となることや、耐久性を維持するために貴金属めっきを厚く形成しなければならないことなどに起因して、その工程が煩雑なものとなり、またその工程に時間が長く掛かることとなって、製造コストも高価なものとなる傾向にある。しかも、貴金属は一般に、鉱業的な入手困難性が高いことなどに起因して単位重量当たりの材料コストが他の金属よりも顕著に高価なものとなる傾向にある。このため、総合的に電気接点層付金属材はコスト高なものとなってしまう傾向にある。
【0004】
また、上記のステンレスのような不動態被膜が形成される金属基材の表面上に、貴金属からなる電気接点層を確実に形成し、またその形成後にも剥れたりすることのないようにするためには、その電気接点層の下に、いわゆる下地層を形成するという手法が種々提案され、幾つかが実用化されている。
斯様な下地層を形成するための金属としては、Ni、Sn、Agを用いることが考えられている。
【0005】
特許文献1では、Ag層−Ni、Co層を下地層として形成し、その上にPd(パラジウム)からなる電気接点層を形成することが提案されている。
特許文献2では、Niからなる下地層の上に、Pd−Ni合金からなる電気接点層を形成することが提案されている。
特許文献3では、下地層をSnめっきからなるものとすることが提案されている。
上記のように、下地層としてNi、Sn、Co等を用いることが提案されているが、例えばNiの場合、そのNiからなる下地層自体が、電気化学的に腐食するような環境で使用すると、耐久性の低下を引き起こす虞がある。また、このような下地層等のめっきを施してなる電気接点層付金属材では、めっき処理後に部品化するためのプレス成形加工を行うと、そのプレス加工の際や加工後に、めっき層が剥離することが多いため、実際上、そのようなプレス成形加工には馴染み難いものとなっている。
また、特許文献4では、チタン金属板上に、下地層なしでAuめっきを施すことが提案されている。しかし、この手法では、電気接点層の耐久性を確保することがさらに困難である。また、めっき後のプレス成形加工もさらに困難である。
【0006】
特許文献5では、燃料電池用金属セパレータとして用いられるように設定された金属基材の表面上に、Ti(チタン)、Ni、Ta(タンタル)、Nb(ニオブ)、Ptのいず
れかの金属からなる下地層を形成し、その表面上に貴金属層を形成することが提案されている。
また、特許文献6では、Tiの上にPdの金属層を形成し、それらTiとPdを加熱処理することで合金化処理してなる表層を形成することが提案されている。但しこれは、燃料電池用セパレータとして用いられる金属板における耐食性の向上を主に企図したものである。
【0007】
【特許文献1】特許第3956841号公報
【特許文献2】特許第3161805号公報
【特許文献3】特開2007−9304号公報
【特許文献4】特開2007−146250号公報
【特許文献5】特開2004−158437号公報
【特許文献6】国際特許出願公開(WO)2006/126613 A1号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のような従来提案されている技術では、そのいずれも、電気接点層の形成材料である貴金属の使用量の低減を可能とすることと、電気接点層の形成後にその電気接点層の剥離等の虞なくプレス成形加工を施すことを可能とすることとの、両方を共に達成することについては、解決課題として考慮されていなかった。
従ってまた、上記のような提案を含めて従来の技術を個別に用いても、あるいはそれらを組み合わせて用いたとしても、電気接点層の形成材料である貴金属の使用量の低減が可能でありかつ電気接点層の剥離等の虞なくプレス成形加工を施すことが可能であるような電気接点層付金属材を実現することはできなかった。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みて成されたもので、その目的は、電気接点層の形成材料である貴金属の使用量の低減を可能とすると共に、電気接点層の剥離等の虞なくプレス成形加工を施すことを可能とした電気接点層付金属材およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電気接点層付金属材は、ニッケルまたはクロムを含む金属からなる金属基材に電気接点層を付加してなる電気接点層付金属材であって、前記金属基材の表面上に形成された、チタン、ニオブ、タンタル、ジルコニムのうちのいずれかの金属成分を含む金属からなる厚さ5nm以上〜100nm以下の接着層と、前記接着層の表面上に形成された、貴金属からなる厚さ1nm以上〜20nm以下の電気接点層とを備えたことを特徴としている。
また、本発明の電気接点層付金属材の製造方法は、ニッケルまたはクロムを含む金属からなる金属基材の表面上に、チタン、ニオブ、タンタル、ジルコニムのうちのいずれかの金属成分を含む金属からなる接着層を、所定のチャンバ内で気相法によって5nm以上〜100nm以下の厚さに形成する工程と、前記チャンバ内で前記接着層の形成に引き続いて当該接着層の表面上に、貴金属からなる電気接点層を、気相法によって1nm以上〜20nm以下の厚さに形成する工程とを含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ニッケルまたはクロムを含む金属からなる金属基材の表面上に、チタン、ニオブ、タンタル、ジルコニムのうちのいずれかの金属成分を含む金属からなる、厚さ5nm以上〜100nm以下の接着層を形成し、その上に、貴金属からなる、厚さ1nm以上〜20nm以下の電気接点層を形成するようにしたので、電気接点層の形成材料である貴金属の使用量の低減と、その電気接点層の剥離等の虞なくプレス成形加工を可能と
することとの、両方を実現することができる。そして、延いては、電気接点層付金属材の総合的なコストの低廉化と、プレス加工後の電気接点層の耐久性のさらなる向上とを、両立して達成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態に係る電気接点層付金属材およびその製造方法について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る電気接点層付金属材の主要部の構成を示す図である。
【0013】
この電気接点層付金属材10は、Ni(ニッケル)またはCr(クロム)を含む金属からなる金属基材1と、その金属基材1の表面上に形成された、Ti(チタン)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Zr(ジルコニム)のうちのいずれかの金属成分を含む金属からなる厚さ5nm以上〜100nm以下の接着層2と、さらにその接着層2の表面上に形成された、例えばAu(金)、Pt(プラチナ)、Rh(ロジウム)、Ru(ルテニウム)、Ir(イリジウム)、Ag(銀)のうちいずれかの貴金属からなる厚さ1nm以上〜20nm以下の電気接点層3とを備えている。
【0014】
その主要な製造工程としては、まず、NiまたはCrを含む金属箔や金属薄板のような金属材料からなる金属基材1の表面上に、Ti、Nb、Ta、Zrのうちのいずれかの金属成分を含む金属からなる接着層2を、所定のチャンバ(図示省略)内で気相法によって5nm以上〜100nm以下の厚さに形成する。そして、上記と同一のチャンバ内で、接着層2の形成に引き続いて、その接着層2の表面上に、例えばAu、Pt、Rh、Ru、Ir、Agのうちいずれかの貴金属からなる電気接点層3を、前述のチャンバ内で気相法によって1nm以上〜20nm以下の厚さに形成する。このようにして、本発明の実施の形態に係る電気接点層付金属材10の主要部が製造される。
【0015】
さらに具体的には、Niを含む金属からなる金属基材1としては、インバー材(Fe−Ni合金、Fe−Ni−Co合金)、オーステナイト系ステンレス(SUS304、SUS316)、コバール材(Fe−Ni−Co合金)、パーマロイ材(Fe−Ni合金)、ハステロイ(Ni−Mo―Fe―Co合金)、インコネル(Ni−Fe−Cr−Nb−Mo合金)等の金属材料を、好適に用いることができる。
または、Niを主成分として含むのではなく、Crを含む金属からなる金属基材1としては、フェライト系ステンレス(SUS430等)や、インバー材(Fe−Co−Cr合金)等の金属材料を、好適に用いることができる。
もしくは、上記の複数種類の金属材料を複合クラッド構成としたものなども、金属基材1として適用可能である。
【0016】
このような金属基材1の表面上に、接着層2、電気接点層3を、この順で形成する。その形成は、真空チャンバ内で、連続気相法によって行うようにすることが好ましい。但しこれのみには限定されないことは勿論であり、その他にも、スパッタ法、蒸着、イオンビーム法、CVD法などを用いることが可能である。
【0017】
金属基材1の表面上に、接着層2が形成される。この接着層2は、金属基材1と電気接点層3との間に介在して、その電気接点層3を金属基材1の表面に対して接触抵抗の増大なくかつ強固に接合させる役割を果たすために設けられたものである。その強固な接合の度合いとしては、例えば電気接点層3の形成後にプレス加工を施しても、電気接点層3の剥離が生じることのないような程度とすることが望ましい。
この接着層2の形成材料としては、Ti(チタン)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Zr(ジルコニム)のうちのいずれかの金属成分を含む金属を用いる。
そしてこの接着層2の厚さ(より具体的には、平均厚さ)は、5nm以上〜100nm以下とする。これは、上記のような金属を用いる場合、この接着層2の厚さが5nm未満になると、接触抵抗が際立って増大する傾向にあり、また100nm超になると、金属基材1からの機械的な剥離が際立って発生し易くなる傾向にあるので、それらを回避して、上記のような確実で強固な接合を、接触抵抗の増大を引き起こすことなく達成するためである。
【0018】
接着層2の表面上に、電気接点層3が形成される。この電気接点層3は、この電気接点層付金属材10の接触抵抗を小さくすると共に、電気接点部分の耐久性を確保するために設けられるものである。斯様な要請に対応するために、この電気接点層3の形成材料としては、Au、Pt、Rh、Ru、Ir 、Agのような貴金属を用いることが望ましい。
この電気接点層3の厚さは、1nm以上〜20nm以下とする。これは、この電気接点層3の厚さを薄くすることで、機械的な内部歪みを低減することができ、剥離の虞なくプレス成形が可能な耐久性を得ることが可能となるのであるが、しかし、厚さが1nm未満のように余りにも薄いと、その下層の接着層2の表層に酸化が生じ、それが長時間使用により1nm以上の厚さとなって、接触抵抗の増大が引き起こされる虞が高くなる。また、20nmを超える厚さであると、機械的な内部歪みが際立って大きくなり、金属基材1からの剥離が際立って起りやすくなる。そこで、それらを回避して、接触抵抗の低減を達成すると共に電気接点部分の耐久性を確保することを可能とするためである。
【0019】
すなわち、本発明者は、実施例で詳述するような材料設定および厚さの仕様の異なる多種類の試料を用いた実験およびそれに対する考察等を実施した結果、上記のような材料からなる、上記のような厚さの、接着層2および電気接点層3を、この順で金属基材1の表面上に形成することにより、電気接点層3を形成した後にプレス成形加工を施しても電気接点層3の剥離やその後の耐久性の低下等を引き起こすことのないような優れた耐久性と、貴金属の使用量の低減とを、共に達成することが可能となることを見出し、本発明を成すに至ったのであった。
【0020】
このように、本発明の実施の形態に係る電気接点層付金属材10およびその製造方法によれば、電気接点層3の形成材料であるAuやPtなどのような貴金属の使用量の低減と、その電気接点層3の剥離等の虞なくプレス成形加工を可能とするほどの強固な接合との、両方を達成することができる。そして、延いては電気接点層付金属材10の総合的なコストの低廉化と、プレス加工後の電気接点層3の耐久性のさらなる向上とを、両立して達成することが可能となる。
【0021】
なお、上記の実施の形態では、接着層2および電気接点層3を形成した後にプレス成形加工を施す場合について説明したが、金属基材1にプレス成形加工を施した後、その表面に接着層2および電気接点層3を形成することも可能であることは勿論である。この場合でも、電気接点層付金属材10の総合的なコストの低廉化と、プレス加工後の電気接点層3の耐久性のさらなる向上とを、両立して達成することが可能となる。
また、接着層2および電気接点層3の成膜プロセスでは、気相法として、蒸着法、イオンビーム、スパッタ、CVD、等の製法技術を用いることが好ましいが、これのみには限定されないことは言うまでもない。
また、電気接点層3や接着層2の耐久性のさらなる向上を図るために、電気接点層3を形成した後、ピンホールの封印を目的として酸化処理、陽極酸化処理などを行うようにしてもよい。
【実施例】
【0022】
上記の実施の形態で説明したような電気接点層付金属材10を作製し、それにプレス成形加工を施して、実施例に係る電気接点層付金属材10の成形品11の試料とした。また
、上記の実施の形態で説明したようなものとは異なる仕様または形成材料からなる電気接点層付金属材10を作製し、それにプレス成形加工を施して、比較例に係る電気接点層付金属材10の成形品11の試料とした。そしてそれら試料の各々について、接触抵抗と耐久性とをそれぞれ評価した。
【0023】
その評価方法は、上記のような試料のそれぞれについて、環境試験を行う前と後とでの接触抵抗を測定し、特にその環境試験後の接触抵抗の値、およびその前後での接触抵抗の変化に基づいて、それら各試料の接触抵抗特性が所定の基準に適合したものであるか否かを評価するものとした。また、環境試験を行った後の、各試料の表面状況を観察し、剥離等の劣化や破損が発生しているか否かに基づいて、それら各試料の耐久性が所定の基準に適合したものであるか否かを確認するものとした。
【0024】
図2は、本実施例の実験に使用する試料をプレス成形加工する際に用いた金型を模式的に示す図(a)、およびその金型を用いたプレス成形加工によって形成された電気接点層付金属材の成形品の形状を示す図(b)、図3は、各試料として作製された電気接点層付金属材の成形品における接触抵抗値の測定方法を模式的に示す図である。
また、表1は、実施例1〜17の各試料および比較例1〜6の各試料についての主要な仕様と評価結果とを纏めて示したものであり、表2は、実施例18〜39の各試料および比較例7の試料についての主要な仕様と評価結果とを纏めて示したものである。
【0025】
[材料の準備および各試料の作製]
NiまたはCrを含んだ金属からなる金属基材1として、表1に示したように、実施例1〜17および比較例1〜6の各試料については、ステンレス430(Fe−Cr合金)からなる板厚t=0.1mmのものを用いた。
また、表2に示したように、実施例18〜39および比較例7の各試料については、NiまたはCrを含んだ金属からなる金属基材1として、上記のようなステンレス430とは異なり、ステンレス304(Fe−Cr−Ni合金)、ステンレス316(Fe−Cr−Ni−Mo合金)、コバール(Fe−Ni合金、ニラコ製:品番633321)、78パーマロイ(Ni―Fe合金、ニラコ製:品番783322)、インバー(Fe−Ni−Co合金、ニラコ製:品番623323)、ハステロイC−276(Ni−Mo合金、ニラコ製:品番583321、インコネル600(Ni−Fe−Cr合金、ニラコ製:品番603290)からなるものを用いた。
それら金属基材1の板厚tは、基本的に0.1mmとした。但し、Cr(Ni−Cr合金、ニラコ製:品番693333)からなるものについては、材料準備の都合上、厚さt=0.12mmのものを用いた。
【0026】
そして、そのような金属基材1の表面上に、表1、2に示したような材種(金属の種類)および厚さとなるように、接着層2および電気接点層3をこの順で、同一のチャンバ内で連続スパッタ法により形成した。
このスパッタ法による成膜プロセスは、さらに具体的には、RFスパッタ装置(株式会社アルバック、型式:SH−350)を用いて行った。成膜時の雰囲気としてはArガスを用いて、圧力を7Paとした。RF出力については、金属の種類に対応して適宜に調整した。厚みの制御は、成膜する金属の材種ごとに、あらかじめ平均成膜速度を測量した上で、成膜時間を調整することにより行った。本実施例では、板材の両面(表と裏の両方)に、同じ成膜処理を施すようにした。
【0027】
そして、接着層2、電気接点層3を形成した後、図2(a)に示したような金型20を用いて、その金型本体部21に設けられた凹凸形状に則した形状に電気接点層付金属材10を加工するプレス成形試験として、図2(b)に示したような波型形状(凹凸が連続した形状)のプレス成型加工を施すことにより、実施例1〜39に係る電気接点層付金属材
10の成形品11の各試料、および比較例1〜7に係る電気接点層付金属材10の成形品11の各試料を得た。
各試料の波型形状は、その山および谷の直線に沿った(図2(b)の紙面に垂直な方向の)長さを52mm、ピッチWを2.9mmとし、凹部と凸部とを交互に合計17本形成してなるものとした。その波型形状の深さh(凹部と凸部との高低差)は0.6mmとした。
【0028】
[環境試験]
環境試験は、硫酸と純水によりpH2に調整された溶液に塩化ナトリウムを1200ppm添加した溶液を用意し、この溶液に各試料を室温約25℃で24時間に亘って浸漬する条件設定とした。なお、各試料の端面は皮膜処理が施されておらず金属基材1が剥き出しの状態であるため、ビニールマスキングテープにより封止処理を行った後、上記の溶液に浸漬するようにした。
【0029】
接触抵抗値の測定は、図3に示したように、Cu(銅)からなるブロック31a、31bの各表面にAuめっき32a、32bを施し、その両者の間に、試料である電気接点層付金属材10の成形品11を、寸法および面積が2cm×2cm=4cmのカーボンペーパ(東レ株式会社:品番TGP−H−060)33a、33bを表裏にそれぞれ介挿させて挟み込み、油圧プレス機で加重(10kg/cm)を加えながら、カーボンペーパ33a〜電気接点層付金属材10の成形品11〜カーボンペーパ33bにおける電気抵抗値(単位:mΩ)を、4端子測定方式の測定装置(アデックス株式会社、型番:AX−125A)によって測定した。このときの接触面の占有率λは0.5とした。そして、この電気抵抗値を表面積4cmで規格した値(すなわち4倍した値)を、各試料の接触抵抗(単位:mΩ・cm)とした。
【0030】
[評価結果]
本実施例では、接触抵抗=25mΩ・cmを、接触抵抗特性の評価基準値として用いて、環境試験後の接触抵抗が25mΩ・cm以下の試料を適合と評価し、25mΩ・cm超の試料を不適合と評価することとした。
また、環境試験後の表面状態に剥離等の劣化や損傷が発生しているか否かに基づいて、耐久性(およびプレス成形加工が可能か否かという機械加工適性)を評価することとした。
【0031】
その結果、表1に示したように、金属基材1をSUS430とすると共に、接着層2を
Tiからなるものとした場合では、接着層2の厚さを上記実施の形態で説明したような適正範囲(5nm以上〜100nm以下)に設定すると共に電気接点層3の厚さを上記実施の形態で説明したような適正範囲(1nm以上〜20nm以下)に設定してなる実施例1〜17の各試料は、いずれも環境試験後の接触抵抗値が25mΩ・cm以下であり、かつ表面に剥離等の劣化や損傷は発生しておらず、評価基準に適合したものとなることが確認された。
【0032】
他方、接着層2のない比較例1の試料は、環境試験後の接触抵抗が32mΩ・cmであり、不適合となった。
また、接着層2の厚さを、上記実施の形態で説明したような適正範囲(5nm以上〜100nm以下)から敢えて大幅に逸脱した大きな値の150nmとした、比較例2の試料は、環境試験後の接触抵抗が40mΩ・cmと大幅に評価基準値を超えたものになると共に、表面に剥離が生じ、接触抵抗特性と耐久性との両方の点で不適合となった。
また、Auからなる電気接点層3の厚さを、上記実施の形態で説明したような適正範囲(1nm以上〜20nm以下)から敢えて逸脱した小さな値の0.5nmとした、比較例3の試料は、表面に剥離は生じなかったが、環境試験後の接触抵抗が30mΩ・cm
評価基準値の25mΩ・cmを大幅に超えた値になり、接触抵抗特性の点で不適合となった。
また、Auからなる電気接点層3の厚さを、上記実施の形態で説明したような適正範囲から敢えて逸脱した大きな値の25.0nmとした、比較例4の試料は、表面に剥離は生じなかったが、環境試験後の接触抵抗が30mΩ・cmと評価基準値を超えた値になり、接触抵抗特性の点で不適合となった。
また、電気接点層3をAuの代りにPtからなるものとし、その電気接点層3の厚さを、上記実施の形態で説明したような適正範囲から敢えて逸脱した小さな値の0.5nmとした、比較例5の試料でも、表面に剥離は生じなかったが、環境試験後の接触抵抗が30mΩ・cmと評価基準値を超えた値となり、接触抵抗特性の点で不適合となった。
また、電気接点層3をAuの代りにPtからなるものとし、その電気接点層3の厚さを、上記実施の形態で説明したような適正範囲から敢えて逸脱した大きな値の25.0nmとした、比較例6の試料でも、表面に剥離は生じなかったが、環境試験後の接触抵抗が35mΩ・cmと評価基準値を大幅に超えた値になり、接触抵抗特性の点で不適合となった。
【0033】
【表1】

【0034】
そして、表2に示したように、金属基材1をSUS430とは異なる各種金属材料からなるものとすると共に、接着層2を上記実施の形態で説明したようなTiやその他の各種金属からなるものとした場合では、接着層2の厚さを上記実施の形態で説明したような適正範囲(5nm以上〜100nm以下)に設定すると共に電気接点層3の厚さを上記実施の形態で説明したような適正範囲(1nm以上〜20nm以下)に設定してなる実施例1
8〜39の各試料は、いずれも環境試験後の接触抵抗が25mΩ・cm以下であり、かつ表面に剥離等の劣化や損傷は発生しておらず、評価基準に適合したものであることが確認された。
他方、接着層2の厚さを、上記実施の形態で説明したような適正範囲(5nm以上〜100nm以下)から敢えて逸脱した大きな値の150nmとした、比較例7の試料は、環境試験後の接触抵抗が40mΩ・cmと評価基準値の25mΩ・cmを大幅に超えた値になると共に、表面に剥離が生じ、接触抵抗特性と耐久性との両方の点で不適合となった。
【0035】
【表2】

【0036】
また、表1、表2に、「初期」として示した、環境試験を行う以前の段階での各試料の接触抵抗についても比較・検討したところ、実施例1〜39の全てが10mΩ・cm未満であったが、比較例3、5では12mΩ・cmとなり、この点でも本発明の実施例に係る電気接点層付金属材10は優位な特性を備えていることが確認された。
【0037】
このように、本実施例によれば、ニッケルまたはクロムを含む金属からなる金属基材1の表面上に、Ti、Nb、Ta、Zrのうちのいずれかの金属成分を含む金属からなる厚さ5nm以上〜100nm以下の接着層2を形成し、その上に、貴金属からなる厚さ1nm以上〜20nm以下の電気接点層3を形成することで、電気接点層3の形成材料である貴金属の使用量の低減と、その電気接点層3に剥離や耐久性の低下等が発生する虞なくプレス成形加工を可能とすることとの両方を達成することが可能となることが、実験的に実証された。
【0038】
なお、本発明の実際的な製品等への適用においては、プレス成形加工による製品の形状は、上記のような波型形状のみに限定されないことは言うまでもない。その他にも種々の形状に加工することが可能である。
また、電気接点層3は、必ずしも金属基材1の表裏両面に形成する必要はなく、片面のみに形成することや、金属基材1の表面上の所定位置にのみ形成すること、あるいは所定のパターン形状に形成することなども可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施の形態に係る電気接点層付金属材の主要部の構成を示す図である。
【図2】実施例の実験に使用する試料をプレス成形加工する際に用いた金型を模式的に示す図(a)、およびその金型を用いたプレス成形加工によって形成された電気接点層付金属材の成形品の形状を示す図(b)である。
【図3】各試料として作製された電気接点層付金属材の成形品における接触抵抗値の測定方法を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0040】
1 金属基材
2 接着層
3 電気接点層
10 電気接点層付金属材
11 成形品
21 金型本体部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルまたはクロムを含む金属からなる金属基材に電気接点層を付加してなる電気接点層付金属材であって、
前記金属基材の表面上に形成された、チタン、ニオブ、タンタル、ジルコニムのうちのいずれかの金属成分を含む金属からなる厚さ5nm以上〜100nm以下の接着層と、
前記接着層の表面上に形成された、貴金属からなる厚さ1nm以上〜20nm以下の電気接点層と
を備えたことを特徴とする電気接点層付金属材。
【請求項2】
請求項1記載の電気接点層付金属材において、
前記電気接点層の貴金属は、金、プラチナ、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、銀のうちのいずれかである
ことを特徴とする電気接点層付金属材。
【請求項3】
ニッケルまたはクロムを含む金属からなる金属基材の表面上に、チタン、ニオブ、タンタル、ジルコニムのうちのいずれかの金属成分を含む金属からなる接着層を、所定のチャンバ内で気相法により5nm以上〜100nm以下の厚さに形成する工程と、
前記チャンバ内で前記接着層の形成に引き続いて当該接着層の表面上に、貴金属からなる電気接点層を、気相法により1nm以上〜20nm以下の厚さに形成する工程と
を含むことを特徴とする電気接点層付金属材の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の電気接点層付金属材の製造方法において、
前記電気接点層の貴金属は、金、プラチナ、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、銀のうちのいずれかである
ことを特徴とする電気接点層付金属材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−266536(P2009−266536A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−113670(P2008−113670)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】