説明

電気機械及び液圧ユニット

本発明は、少なくとも1つの回転軸(3)を備えた電気機械(2)であって、前記回転軸が、ケーシング(4)内で少なくとも1つの転がり軸受け(5)によって回転可能に支承されており、しかも、前記回転軸(3)に少なくとも1つの整流子(14)が相対回動不能に配置されている形式のものに関する。この場合、転がり軸受け(5)の、整流子(14)とは反対の側において、遠心ディスク(16)が回転軸(3)に相対回動不能に配置されている。更に本発明は、特に自動車用の液圧ユニット(1)であって、該液圧ユニットがケーシング(4)と電気機械(2)とを有している形式のものに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの回転軸を備えた電気機械であって、前記回転軸が、ケーシング内で少なくとも1つの転がり軸受けによって回転可能に支承されており、しかも、前記回転軸に少なくとも1つの整流子が相対回動不能に配置されている形式のものに関する。
【0002】
更に本発明は、特に自動車用の液圧ユニットであって、該液圧ユニットが、ケーシングと電気機械とを有している形式のものに関する。
【0003】
背景技術
このような形式の電気機械及び液圧ユニットは、従来技術に基づき公知である。機械的に働く整流子を有していて、液体が電気機械のケーシング内に流入することがある用途に使用しようとする電気機械は、液体が、回転軸を支持している若しくは支承している転がり軸受けを通って通流する、若しくは毛管作用に基づいて浸透する/貫通搬送される恐れがある、という欠点を有している。一般に、転がり軸受けは摩擦を最小限にするために、また場合によっては冷却のために潤滑剤を有している。このような転がり軸受けのシール性を、相応のシールディスクによって高めることは公知であるが、この場合も漏れギャップは回避されない恐れがある。それというのも、転がり軸受けの2つの輪は、シールディスクが設けられた後も引き続き、互いに相対回動されねばならないからである。(軸方向で見て)液体が一度転がり軸受けを通流すると、液体は潤滑剤を連行して、この潤滑剤を転がり軸受けから導出する。転がり軸受けの、いわゆる「洗い流し」が行われる。このことは電気機械において、転がり軸受けから洗い流された潤滑剤が整流子に到達して、この整流子の機能を損なう、ということを生ぜしめる。この過程は、「ペースト付着 (Verpassten)」という概念としても知られている。
【0004】
発明の開示
本発明による電気機械は、整流子に対するペースト付着を防止することによる長い耐用年数を簡単に保証する。このためには、当該電気機械は目下の請求項1に記載の特徴を有している。当該電気機械は、転がり軸受けの、整流子とは反対の側において、遠心ディスクが回転軸に相対回動不能に配置されている、という点において優れている。運転中、前記遠心ディスクは、転がり軸受けを通って整流子の方向に流入する恐れのある液体が、回転軸の回転によって、延いては遠心ディスクの回転によって外側に向かって、つまり最終的に転がり軸受けの危機的な領域から離反するように、遠心作用下で投げ飛ばされるために働く。このために遠心ディスクは、回転軸に対して少なくとも実質的に垂直方向に向けられていて、有利には転がり軸受けの近傍に配置されている。
【0005】
有利には、遠心ディスクの最大直径は少なくとも、転がり軸受けの外輪の内径に等しい。これにより、遠心ディスクは半径方向に見て転がり軸受け内輪の内径から、少なくとも転がり軸受け外輪の内径に至るまで延在しているので、遠心ディスクは少なくとも、潤滑剤を有する転がり軸受け領域をカバーしている。この場合、遠心ディスクが配置されているのが転がり軸受けの近くであればあるほど、保護作用は高まる。
【0006】
更に、遠心ディスクは少なくともその外側の周面領域に、全周にわたって延在する傾斜面を有している。この傾斜面によって、液体を所望のように、転がり軸受けから離反する方向に遠心作用下で投げ飛ばす若しくは搬出することができる。このために有利には、傾斜面が転がり軸受けから離反する方向に向いているので、転がり軸受けの洗い流し及び最終的には整流子に対するペースト付着が確実に防止される。
【0007】
有利には、傾斜面は遠心ディスクに対して15°〜70°、特に25°〜60°の角度を有している。これは、傾斜面を有する遠心ディスクの周面領域が少なくとも、15°〜70°、特に25°〜60°の角度で、回転軸に対して少なくとも実質的に垂直方向に向けられている遠心ディスクの面若しくは仮想の遠心ディスク平面に対して位置する表面を有している、ということを意味している。この場合、前記傾斜面は直線的に延びているか、又は湾曲されて延びていてもよい。
【0008】
電気機械の有利な1構成では、周面領域が傾斜面形成のために曲げられている。つまり、遠心ディスクはその外側の周面領域において、全周にわたって延在する傾斜面を形成するように曲げられている。この場合、この曲げられた形状は、遠心ディスクの最初の成形時に既に予め与えることができるか、又は引き続く変形過程において初めて与えてもよい。この場合、曲げられた縁部領域の製作に関する選択は、実質的に遠心ディスクの材料に関連している。曲げられた縁部領域による傾斜面の形成は、材料コスト及び重量が節減されるという利点を有している。
【0009】
有利には、遠心ディスクは少なくとも部分的に、環状の波形成形部を有しており、この場合、この波形成形部の環状の波は、遠心ディスクの回転軸線に対して、若しくは回転軸に対して有利には同軸的に位置していて、延いてはそれぞれ遠心ディスクの全周にわたって延在している。これにより、遠心ディスクはある程度のフレキシビリティーを有しており、液体の遠心作用下での投げ飛ばしを複数の半径方向領域において行うことが可能である。それというのも、波構造によって最終的に複数の傾斜面が形成されるからである。特に、上記傾斜面は、外側の周面領域において波構造により一緒に形成される。
【0010】
更に、遠心ディスクの最大直径は、遠心ディスクの領域のケーシングの内径よりも小である。これにより、遠心ディスクと電気機械のケーシングとの間の半径方向の空隙が保証される。この空隙は、有利には0.5〜3mm、特に1.0〜2.0mmの幅を有している。これにより、遠心ディスクには一方では、回転数が高い場合に外側に向かって膨張する可能性が与えられており、このことは、遠心ディスクとケーシングとの間に摩擦接触が生じること無しに、例えば波構造のフレキシビリティーによって保証される。
【0011】
更に、回転軸には有利には少なくとも1つの偏心軸受けが、転がり軸受けの、整流子とは反対の側で配置されている。この場合、この偏心軸受けは特に回転軸の慣性力を均衡させるために役立つ。特にこの場合に遠心ディスクが有利であるということが判った。それというのも、偏心軸受けは、その偏心に基づいて、液体を玉軸受けの方向に流入させる恐れがあるからである。
【0012】
この場合、遠心ディスクは有利には偏心軸受けと転がり軸受けとの間に軸方向で保持若しくは支承されている。特に有利には、遠心ディスクは偏心軸受けと転がり軸受けとの間に挟み込まれて、若しくは緊締されて保持されている。この場合、予負荷は波構造に基づいて簡単に実現可能である。
【0013】
本発明による液圧ユニットは、上述の電気機械に基づいて優れている。特に自動車のブレーキシステムの液圧ユニット、例えばABS装置(ABS=アンチロックシステム)、又はESP装置(ESP=エレクトロニックスタビリティープログラム)においては、例えば液圧ユニットの液圧回路内で液圧を形成するために働く電気機械が、液体によって直接に取り囲まれている。この場合、遠心ディスクを備えた電気機械の有利な構成は、遠心ディスクが整流子に対するペースト付着を効果的に防止することにより、電気機械の持続的な運転を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】電気機械の簡略化された断面図である。
【図2】電気機械の遠心ディスクの斜視図である。
【0015】
以下に、本発明の実施の形態を図面につき詳しく説明する。
【0016】
図1には、液圧ユニット1の一部が簡略化された断面図で示されている。この液圧ユニット1は電気機械2を有しており、この電気機械2の回転軸3は、ケーシング4内に支承されている。つまりケーシング4は、液圧ユニット1及び電気機械2の両方の構成部材である。回転軸3を支承するためには、転がり軸受け5が設けられており、この転がり軸受け5は、有利には玉軸受け6として形成されている。転がり軸受け5は、その外輪7において半径方向で主として軸受けキャップ8により保持されて、ケーシング4の収容部9に部分的に突入している。転がり軸受け5は更に内輪10を有しており、この内輪10は回転軸3に相対回動不能に配置されている。外輪7と内輪10との間では複数の転動体が、有利には玉の形状で、対応する溝内で案内されている。転がり軸受け5は、その軸方向端面においてシールリング11,12によって閉鎖されており、この場合、これらのシールリング11,12は、それぞれ外輪7又は内輪10に固定されていて、転がり軸受け5の対応する他方の内輪10又は外輪7には接触しているだけなので、外輪7と内輪10との間で相対運動が可能である。転がり軸受け5の内室13は、有利には少なくとも部分的に潤滑剤で満たされている。最も簡単な場合、この潤滑剤は潤滑グリースである。
【0017】
電気機械2の回転軸3には更に、図1で見て転がり軸受け5の左側に整流子14が相対回動不能に配置されている。整流子14は、その外周面に複数の整流子薄板15を有しており、これらの整流子薄板15は、電気機械2の整流子ブラシ(図示せず)と協働する。
【0018】
図1において転がり軸受け5の右側、つまり転がり軸受け5の、整流子14とは反対の側で、回転軸3には更に、遠心ディスク16が相対回動不能に配置されている。この場合、この遠心ディスク16の外径は、遠心ディスク16の外周面と、収容部9の内面との間に空隙が生じるように選択されている。この空隙は、有利には0.5〜3.0mm未満、殊に1.00〜2.00mm未満である。本発明では、遠心ディスク16は波形成形部17を有しており、この場合、波形成形部17の波は、回転軸3若しくは回転軸3の回転軸線18に対して同軸的になるように位置調整されていて、それぞれ遠心ディスク16の全周にわたって延びている。
【0019】
この場合、波形成形部17は、遠心ディスク16の外側の周面領域19において傾斜面20を形成しており、この傾斜面20は、回転軸3に対して実質的に垂直方向に向けられた遠心ディスク16の面に対して、所定の角度α(本発明では約40°)で向けられている。一般に、前記角度は以下で説明する所望の作用を得るために、15°〜70°、特に25°〜60°であってよい。
【0020】
液圧ユニット1内に電気機械2を設けることにより、この電気機械2は、例えば液圧ユニット1を介して圧送されるべき液体21の直近に位置している。この液体21は、本発明では収容部9内の軸受けの領域、つまり転がり軸受け5の領域に集まる。電気機械2の運転中に、転がり軸受け5の方向に移動する液体21は、特に回転軸3に到達すると、遠心ディスク16により角度αで外側に向かって遠心作用により投げ飛ばされる。角度αに基づいて、前記傾斜面20は有利には転がり軸受け5から離反する方向に向いているので、液体21は転がり軸受け5から離反する方向に遠心作用により投げ飛ばされる。これにより特に簡単に、液体が転がり軸受け5に流入して、内室13から潤滑剤を洗い流す恐れはない、ということが保証される。液体が転がり軸受け5に流入して、内室13から潤滑剤を洗い流すと、整流子14にペーストが付着 (Verpassten) して、整流子14が汚染される恐れがある。このように、電気機械2及び液圧ユニット1の長い耐用年数は簡単に保証される。この場合、有利には遠心ディスク16は軸方向で転がり軸受け5の内輪10に接触している。この場合、遠心ディスク16は有利には回転軸3から外輪7の内径を越えるまで延在している。有利な波形成形部17に基づいて、外輪7と遠心ディスク16との間の摩擦接触が回避され得る。
【0021】
図1に示した実施形態において、回転軸3には更に偏心軸受け22が相対回動不能に配置されており、これにより、遠心ディスク16が軸方向で転がり軸受け5と偏心軸受け22との間に支承されて、有利には挟み込まれて若しくは緊締されて支承されるようになっている。
【0022】
図2には、図1に示した遠心ディスク16が斜視図で示されている。本発明では、遠心ディスク16は深絞り成形部材23として形成されている。この場合、傾斜面20は曲げられた外側の周面領域19によって形成される。択一的に、傾斜面20は隆起部として、それ以外は平らな遠心ディスク16に形成されていてもよい。波形成形部17に基づいて、更に半径方向内側に位置するように別の傾斜面24が形成されており、この別の傾斜面24もやはり、液体21を遠心作用により投げ飛ばすために使用され得る。遠心ディスク16は、回転軸収容部25に円筒形の区分26を有しており、この円筒形の区分26は、回転軸3における遠心ディスク16の確実な位置調整及び配置を保証する。有利には、遠心ディスク16は打抜き可能な材料、殊にC60‐材料から製作されていて、有利には化学的なニッケル‐燐コーティングを有している。このコーティングは、遠心ディスク16の摩耗を防止し且つ遠心ディスク16の硬度を、有利には偏心軸受け22の硬度に相当するように向上させる。
【0023】
遠心ディスク16が転がり軸受け5の、整流子14とは反対の側に配置されていることによって、整流子14の方向での転がり軸受け5の洗い流し、延いては整流子14のペースト付着による汚染が効果的且つ簡単に防止される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの回転軸(3)を備えた電気機械(2)であって、前記回転軸(3)が、ケーシング(4)内で少なくとも1つの転がり軸受け(5)によって回転可能に支承されており、前記回転軸(3)に少なくとも1つの整流子(14)が相対回動不能に配置されている形式のものにおいて、
転がり軸受け(5)の、整流子(14)とは反対の側において、遠心ディスク(16)が回転軸(3)に相対回動不能に配置されていることを特徴とする、電気機械。
【請求項2】
遠心ディスク(16)の最大直径が少なくとも、転がり軸受け(5)の外輪(7)の内径に等しい、請求項1記載の電気機械。
【請求項3】
遠心ディスク(16)が少なくともその外側の周面領域(19)に、全周にわたって延在する、特に転がり軸受け(5)から離反する方向に向いた傾斜面(20)を有している、請求項1又は2記載の電気機械。
【請求項4】
前記傾斜面(20)が、遠心ディスク(16)に対して15°〜70°、特に25°〜60°の角度(α)を有している、請求項1から3までのいずれか1項記載の電気機械。
【請求項5】
前記周面領域(19)が、前記傾斜面(20)を形成するために曲げられている、請求項1から4までのいずれか1項記載の電気機械。
【請求項6】
遠心ディスク(16)が少なくとも部分的に、環状の波形成形部(17)を有している、請求項1から5までのいずれか1項記載の電気機械。
【請求項7】
遠心ディスク(16)の最大直径が、遠心ディスク(16)の領域のケーシング(4)の内径よりも小である、請求項1から6までのいずれか1項記載の電気機械。
【請求項8】
転がり軸受け(5)の、整流子(14)とは反対の側において、少なくとも1つの偏心軸受け(22)が回転軸(3)に配置されている、請求項1から7までのいずれか1項記載の電気機械。
【請求項9】
遠心ディスク(16)が、偏心軸受け(22)と転がり軸受け(5)との間に軸方向で保持されており、特に緊締されて保持されている、請求項1から8までのいずれか1項記載の電気機械。
【請求項10】
特に自動車用の液圧ユニット(1)であって、該液圧ユニット(1)がケーシング(4)と電気機械(2)とを有している形式のものにおいて、
電気機械(2)が、請求項1から9までのいずれか1項記載の構成を有していることを特徴とする、液圧ユニット。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−509146(P2013−509146A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534596(P2012−534596)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【国際出願番号】PCT/EP2010/062187
【国際公開番号】WO2011/047903
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】