説明

電気機械式パーキングブレーキ及びその動作方法

【課題】検出したアクチュエータの消費電流のみに基づき、周囲温度に依存せず確実かつ正確にパーキングブレーキ力を調整できるよう改良した冒頭記載のパーキングブレーキ及びその動作方法を提供すること。
【解決手段】少なくとも1つの電気機械式のアクチュエータ15を備え、該アクチュエータの回転運動が操作ユニット2を介して直線運動に変換され、少なくとも1つのブレーキシュー3,4が、車輪に結合されたブレーキドラム5に対して、ブレーキシュー3,4に少なくとも1つ設けられたブレーキライニング10,11を所定の力で圧接するように摺動され、当該パーキングブレーキの作動時及び/又は解除時にアクチュエータ15の消費電流が検出されるパーキングブレーキにおいて、あらかじめ設定した所定のパーキングブレーキ力が検出されるようアクチュエータ15の消費電流を変更させる手段9を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの電気機械式のアクチュエータを備え、該アクチュエータの回転運動が操作ユニットを介して直線運動に変換され、少なくとも1つのブレーキシューが、車輪に結合されたブレーキドラムに対して、前記ブレーキシューに少なくとも1つ設けられたブレーキライニングを所定の力で圧接するように摺動され、当該パーキングブレーキの作動時及び/又は解除時に前記アクチュエータの消費電流が検出される原動機付き車両用の電気機械的に操作可能なパーキングブレーキに関するものである。
【0002】
さらに、本発明は、上記パーキングブレーキの動作方法に関するものでもある。
【背景技術】
【0003】
従来の電気機械式パーキングブレーキにおける一般的な課題は、十分なパーキングブレーキ力をできる限り正確に付与することにある。この十分なパーキングブレーキ力として、最大積載量を積載した原動機付き車両(以下単に「車両」という。)が、30%の勾配の路面上で確実に停止状態が維持される程度の所定のレベルが必要である。
【0004】
これについて、電気機械式のアクチュエータを駆動する「電流」の時間変化が利用される。さらに、例えばアクチュエータのロータリエンコーダの値又は制御ストロークの戻り量などの他の量を用いることもでき、これにより制御精度の向上を図ることが可能である。
【0005】
しかし、このような他の情報をセンサにより検出するのにコスト上昇を招くため、通常、このような他の情報は用いられない。
【0006】
ところで、特許文献1には、車両用のパーキングブレーキの操作装置及び操作方法が開示されている。このパーキングブレーキはその作動又は解除のための制御ユニットを備えており、作動時には所定のパーキングブレーキ力が発生し、不揮発性メモリにメモリされる。そして、パーキングブレーキの作動時には、電流強度が所定の値に到達すると、電流センサが信号を発出する。この信号により、例えばパーキングブレーキ力に対応する電流強度が所定の値に到達したときにアクチュエータを停止させるなどしてパーキングブレーキが制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】独国特許出願公開第10200460454号明細書
【特許文献2】国際公開第2006/024635号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のようなパーキングブレーキにおいては、絶対的な電流値を検出しており、この電流値は、周囲温度の影響を強く受けてしまうという問題がある。すなわち、周囲温度が20°であれば十分なパーキングブレーキ力に対応する電流値が検出される一方、周囲温度が−10°であれば十分なパーキングブレーキ力に対応する電流値が検出されない。
【0009】
本発明は上記問題にかんがみてなされたもので、その目的とするところは、検出したアクチュエータの消費電流のみに基づき、周囲温度に依存せず確実かつ正確にパーキングブレーキ力を調整できるよう改良した冒頭記載のパーキングブレーキ及びその動作方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、あらかじめ設定した所定のパーキングブレーキ力が検出されるようアクチュエータの消費電流を変更させる手段を設けたことを特徴としている。さらに、該手段を、所定のパーキングブレーキ力を推定するための、当該パーキングブレーキの作動時又は解除時における前記アクチュエータの消費電流の特徴的な変化が生じるように形成したことを特徴としている。
【0011】
また、本発明の他の実施形態は、前記手段を、当該パーキングブレーキの剛性に影響を与えるあらかじめ付勢された少なくとも1つの弾性部材で形成したことを特徴としている。さらに、該弾性部材を、あらかじめ付勢された皿バネとして当該パーキングブレーキにおける力伝達箇所に設けるか、又はあらかじめ付勢されたねじりバネとして当該パーキングブレーキにおけるトルク伝達箇所に設けたことを特徴としている。
【0012】
なお、前記手段を少なくとも1つのすべりクラッチとして形成してもよい。
【0013】
上記目的を達成するため、本発明に係るパーキングブレーキ動作方法は、当該パーキングブレーキの作動時及び/又は解除時における前記アクチュエータの消費電流を、あらかじめ設定した所定のパーキングブレーキ力が検出されるよう利用することを特徴としている。ここで、前記所定のパーキングブレーキ力を、前記ブレーキシューの位置特定について調整されるパーキングブレーキ力の決定に使用される、前記アクチュエータの消費電流の信号変化における変曲点を検出することにより検出することを特徴としている。
【0014】
また、本発明に係るパーキングブレーキ動作方法の一実施形態は、前記アクチュエータの消費電流の信号変化の勾配を検出するとともに、該勾配を、付与されたパーキングブレーキ力及び/又は前記ブレーキシューの位置の特定に使用することを特徴としている。
【0015】
また、本発明に係るパーキングブレーキ動作方法の一実施形態は、前記アクチュエータの消費電流の絶対値を検出し、該絶対値を、検出されたパーキングブレーキ力の正確性判断に用いることを特徴としている。
【0016】
また、本発明に係るパーキングブレーキ動作方法の一実施形態は、前記アクチュエータの消費電流に基づき当該パーキングブレーキの作動過程及び/又は解除過程を複数の段階に区分することを特徴としている。ここで、当該パーキングブレーキの作動過程を初動段階、惰性段階、接触段階、圧接段階及び圧力保持段階に区分する一方、当該パーキングブレーキの解除過程を初動段階、戻り段階、隙間形成段階、惰性段階及び中立位置段階に区分にする。
【0017】
さらに、本発明に係るパーキングブレーキ動作方法の一実施形態は、前記各段階を、劣化プロセス及び摩耗プロセスを考慮するために学習手順を備えたモデルによって特定することを特徴としている。このモデルにおいては、例えば周囲温度、ブレーキドラム温度などのパラメータが考慮され、これらの影響を最小化するようにしている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、検出したアクチュエータの消費電流のみに基づき、周囲温度に依存せず確実かつ正確にパーキングブレーキ力を調整することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】原動機付き車両用の電気機械的に操作可能なパーキングブレーキの概要を示す図である。
【図2】アクチュエータの消費電流、パーキングブレーキ力及びブレーキライニングあるいはブレーキシューの位置の時間変化を示すグラフである。
【図3】パーキングブレーキ作動時のアクチュエータの消費電流、パーキングブレーキ力及びアクチュエータの回転数の時間変化を段階に区分して示すグラフである(図3a〜図3c)。
【図4】パーキングブレーキの解除時の図3に対応するグラフである(図4a〜図4c)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0021】
本発明は電気機械的に操作されてディスクブレーキ又はドラムブレーキに作用するパーキングブレーキに関するものであり、本発明による方法も上記両ブレーキのいずれにも対応するものである。
【0022】
図1には電気機械的に操作されるパーキングブレーキが例示されており、このパーキングブレーキは、基本的に、公知のデュオサーボ型ドラムブレーキ及び電気機械式のアクチュエータ15で構成されている。このデュオサーボ型ドラムブレーキは、ここでは部分的にのみ示すロータとして車両の車輪に結合されたブレーキドラム5と、ブレーキライニング10,11を備えつつブレーキ動作手段として機能する一対のブレーキシュー3,4と、操作ユニット2とを備えて構成されている。
【0023】
この操作ユニット2は、エキスパンダとして形成されており、アクチュエータ15の回転運動を直線運動に変換してブレーキシュー3,4におけるブレーキライニング10,11をブレーキドラム5の内面に圧接させるようにするものである。
【0024】
ところで、デュオサーボ型ドラムブレーキの特徴として、フローティング支持装置16がブレーキシュー3とブレーキシュー4の間における操作ユニット2と対向する箇所に設けられている。
【0025】
また、操作ユニット2はスクリュナット−スピンドル機構8及び2つの押圧部材13,14で形成されており、これら押圧部材13,14は、それぞれスピンドル7及びスクリュナット6と相互に作用するようになっている。図1に示すように、スクリュナット−スピンドル機構8は、概要のみ示す減速ギヤ装置12をアクチュエータ15に直列配置した状態で該アクチュエータ15によって駆動されるはすば歯車1によって動作する。
【0026】
ここで、スクリュナット6の外面には該スクリュナット6の軸中心線に対して平行に直線状の歯が延設されており、はすば歯車1は、該直線状の歯と共にはすば歯車機構を形成している。そして、アクチュエータ15によってはすば歯車1を駆動すると、スクリュナット6が回転する。このスクリュナット6の回転によってスクリュナット−スピンドル機構8のスピンドル7が直線運動し、ブレーキシュー3,4が所望の力でブレーキドラム5に圧接される。
【0027】
また、パーキングブレーキを動作させるために、減速ギヤ12又はスクリュナット−スピンドル機構8がセルフロック式に形成されており、これにより、ブレーキシュー3,4は、アクチュエータに給電がなされていない状態であってもブレーキドラム5に圧接された状態に保持される。
【0028】
車両が傾斜路に停止している場合には、所望のパーキングブレーキ力に調節した後、車両は傾斜路を下る方向へわずかに移動する。このとき、ブレーキドラム5も共に回転し、デュオサーボ型ドラムブレーキ特有のセルフロック効果が生じる。しかしながら、この際、前記調節されたパーキングブレーキ力は減少することになるため、本発明においては、スクリュナット−スピンドル機構8と、スクリュナット6と相互に作用する押圧部材14との間に弾性部材9を設けており、該弾性部材9によって前記調節されたパーキングブレーキ力の減少が補償されるようになっている。
【0029】
また、加熱されたブレーキドラム5の冷却が生じると、パーキングブレーキの解除ができないことがある。このような冷却が生じるときには、ブレーキドラム5がわずかに収縮し、構成部材の剛性に起因してパーキングブレーキ力が高められる。このとき、このパーキングブレーキ力が過大であり構成部材が引っかかってしまうため、アクチュエータ15によってパーキングブレーキ力の解除ができなくなってしまうことがある。
【0030】
それに対し、図1に示すものにおいては、このような作用が防止されている。弾性部材9は、アクチュエータ15の消費電流を、パーキングブレーキ力が所定の大きさとなるよう変化させる。なお、これについては図2に基づいて詳細に説明する。
【0031】
ところで、冒頭で述べたように、本発明は、電気機械的に操作されるパーキングブレーキの作動方法に関するとともに、電気機械的に操作されてディスクブレーキに作用するパーキングブレーキ装置にも関するものである。この場合、ブレーキ駆動装置はブレーキピストンとして形成されており、該ブレーキピストンは、スクリュナット−スピンドルユニットとして形成された操作ユニットによって摺動される。そして、これにより、ブレーキピストンに結合されたブレーキライニングがロータとしてのブレーキディスクに圧接されることになる。
【0032】
図2には、パーキングブレーキ力F、ブレーキライニングあるいはブレーキシュー3,4の位置S、消費電流I及びパーキングブレーキによる圧力Uの特徴的な変化が示されている。これら特性量のうち、ここでは消費電流Iのみを用いている。ただし、本発明においては、この消費電流Iの絶対的な値を知る必要はなく、概略的な変化を知るのみで十分である。
【0033】
なお、本発明による方法をより良好に説明するため、消費電流I以外の特性量についても縦軸に記載しており、横軸には時間tが記載されている。また、パーキングブレーキ力Fを点線で、ブレーキシュー3,4の位置Sを一点鎖線で、アクチュエータ15の消費電流Iを「+」で、パーキングブレーキによる圧力Uを実線でそれぞれ示している。
【0034】
しかして、図2における時間経過の開始時において、パーキングブレーキは解除状態にある。すなわち、時点t0で符号20により示す箇所で、ブレーキシュー3,4の位置S及びパーキングブレーキ力Fは共に「ゼロ」となっている。また、符号21で示す箇所は、パーキングブレーキ作動開始時には比較的大きな消費電流(初動電流)が必要であることを示している。そして、時点t1においてこの初動段階が終了する。
【0035】
この初動段階につづいて、時点t2まで接触段階となる。すなわち、時点t2においてブレーキライニング10,11がブレーキドラム5に当接し、ブレーキシュー3,4が更に拡張し、パーキングブレーキ力Fが上昇する(符号23で示す箇所)。このパーキングブレーキ力Fは、時点t3までの圧接段階の間第1の勾配を伴って上昇する。そして、時点t3でパーキングブレーキ力Fの勾配が変化し、消費電流Iについてもこの箇所で変曲点となっている。
【0036】
また、時点t3において、パーキングブレーキ力Fは弾性部材9が圧縮される程度に大きくなっている。弾性部材9はあらかじめ張設されているので、時点t3においてパーキングブレーキ力Fがどの程度大きいかが分かる。例えば、弾性部材9が2000Nであらかじめ付勢されているとすると、時点t3におけるパーキングブレーキ力Fも2000Nである。
【0037】
そして、ブレーキシュー3,4が更に拡張し、弾性部材9が更に圧縮される。このとき、パーキングブレーキ力Fが弾性部材9によって吸収されるため、パーキングブレーキ力Fは、時点t3と時点t4の間では時点t2と時点t3の間のように大きく上昇しない。
時点t4では弾性部材9が完全に圧縮され、消費電流Iは、時点t4において変曲点を生じ、この時点t4からパーキングブレーキ力Fとほぼ平行に以前のように大きく上昇する。
【0038】
そして、時点t5において消費電流Iがその最大値Imaxに到達し、この時点t5以降、ブレーキシュー3,4についてはこれ以上拡張せず、これらブレーキシュー3,4の位置Sについてもこれ以上変化しない。さらに、ブレーキシュー3,4がこれ以上拡張しないため、パーキングブレーキ力Fもこれ以上上昇しない。
【0039】
ここで重要なのは、弾性部材9によってアクチュエータ15の消費電流Iを、所定のパーキング力(すなわち弾性部材9に作用する力及び弾性部材9を完全に収縮させるために必要な力)が検出されるように変化させることである。このような、符号23及び24で示す箇所での特徴的な変化は、アクチュエータ15の消費電流Iに基づき検出される。
【0040】
また、アクチュエータ15の消費電流Iは、本実施の形態においては、あらかじめ付勢された弾性部材(皿バネ)9によって生じる。この弾性部材9は、パーキングブレーキにおける力伝達箇所に配置されており、パーキングブレーキ全体の剛性に影響する。なお、あらかじめ付勢されたねじりバネをパーキングブレーキにおけるトルク伝達箇所に配置することも、アクチュエータ15の消費電流Iを変化させるのに適したものとなっている。
【0041】
アクチュエータ15の消費電流Iの特徴的な変化を得る他の形態は、目標とする部材の剛性による影響を用いることである。例えば、所定の負荷において力伝達箇所での部材の断面を大きく設定しつつ断面全体を縮小させ、これにより剛性が急激に高まるようにする。これに代えて、又はこれに加えて、当該すべりクラッチがすべる前に、最大のパーキングブレーキ力を発生するすべりクラッチを用いることも考えられる。なお、すべりクラッチの動作検出方法が特許文献2に開示されている。
【0042】
以前に検出されたパーキングブレーキ力Fあるいはブレーキシュー3,4の位置Sに対応する消費電流Iについての符号23及び24で示す箇所の検出は、この符号23及び24で示す箇所における信号変化を検出することによりなされる。また、時点t2と時点t3の間、時点t3と時点t4の間及び時点t4と時点t5の間における異なる信号変化(勾配の変化)も同様に検出され、これがパーキングブレーキ力Fの算出に用いられる。
【0043】
さらに、正確さを確保するために、絶対的な電流値が測定され、これが算出された電流値と比較される。このような関係において、消費電流Iを図3a〜図3cに示すように段階別に区分し、そして、段階の検出が行われる。
【0044】
図3aには図2に基づくアクチュエータ15の消費電流Iの変化が示されており、一方、図3bにはパーキングブレーキ力Fの変化が示されている。さらに、図3cにはアクチュエータ15の回転数変化が示されている。そして、パーキングブレーキの作動は、初動段階(段階1)、惰性段階(段階2)、接触段階(段階3)、圧接段階(段階4)及び圧力保持段階(段階5)に区分されている。
【0045】
初動段階(段階1)において、アクチュエータ15が始動する。そして、この初動段階において電流が常にわずかしか消費されておらず(すなわち負の勾配)、かつ、消費電流Iが一定でなければ、パーキングブレーキ力Fはまだ作用していないことになる。すなわち、押圧部材13,14におけるパーキングブレーキ力はゼロである。そして、初動段階(段階1)が検出され、比較的小さな消費電流Iが所定時間一定に保持されると、段階2である惰性段階が検出される。この段階でもパーキングブレーキ力Fはゼロであるか、又はわずかである。
【0046】
そして、アクチュエータ15の消費電流Iが、惰性段階(段階2)において所定の閾値を上回り、かつ、例えば比較的緩やかな割合で連続的に上昇すると、段階3である接触段階が検出される。
【0047】
また、接触段階(段階3)において消費電流Iが更に大きな勾配で線形に上昇すると、段階4である圧接段階が検出される。この段階4において、弾性部材9は、変曲点を考慮することで様々なグラフにおける上昇勾配に対して設定される。ここで、段階4における消費電流I及びパーキングブレーキ力Fの変化は、弾性部材9に応じて設定され、異なる形態を示す。
【0048】
次に、段階5として示す圧力保持段階及び最大の消費電流に到達する。この最大の消費電流は圧接段階(段階4)において生じたパーキングブレーキ力を保持するためのものであり、圧力保持段階(段階5)におけるパーキングブレーキ力の一定保持は、電流を制限することによってなされている。
【0049】
図4a〜図4cには電気機械式のパーキングブレーキの解除過程が示されており、このパーキングブレーキ解除過程は、初動段階(段階1)、戻り段階(段階2)、隙間形成段階(段階3)、惰性段階(段階4)及び中立位置段階(段階5)に区分されている。すなわち、パーキングブレーキ作動過程及びパーキングブレーキ解除過程は、それぞれ5段階に区分されて実行される。
【0050】
ここで、パーキングブレーキ解除過程における中立位置段階(段階5)は、パーキングブレーキが完全に解除されたことを明確に検出するために非常に重要である。しかし、ここでの欠点は、パーキングブレーキ力付与にかかる時間が長くなってしまうとともに、アクチュエータ15その他の関連部材の耐久性を大きく設定する必要があることである。
【0051】
そのため、アクチュエータ15を、惰性段階(段階4)における所定時間経過後に停止させるようにしている。この停止時間は、様々なパラメータに依存するとともに、例えば前回のパーキングブレーキ作動過程における隙間克服時間などの前回のパーキングブレーキ作動過程における段階間の時間間隔を考慮して決定される。
【0052】
また、パーキングブレーキの完全な解除が明確でない場合又は所定の作動回数後に隙間克服時間を学習する場合に、パーキングブレーキ解除過程における段階5に入るように設定されている。パーキングブレーキ解除過程における段階5にもかかわらずパーキングブレーキ力が付与されるまでの時間を減少させるために、パーキングブレーキ解除過程における段階5の終了後、アクチュエータ15がわずかにパーキングブレーキ力を付与する方向へ動作する。すなわち、アクチュエータ15がにパーキングブレーキ解除方向と逆方向へわずかに調整される。
【0053】
なお、アクチュエータ15はパーキングブレーキ解除過程において段階5なしには中立位置へ到達しないため、該アクチュエータ15により発生する力は、段階4の終了直前にはゼロとなっている。
【0054】
ところで、研究開発時に、アクチュエータ15の消費電流の測定のほかに、図3b及び図4bに示すようなパーキングブレーキ力並びに図3c及び図4cに示すようなアクチュエータ15の回転数も測定した。これにより、消費電流、パーキングブレーキ力及び回転数の特性曲線がメモリされる。なお、これら特性曲線は、ブレーキシュー3,4によるパーキングブレーキ力及びブレーキシュー3,4の位置を設定するために使用される。
【0055】
また、消費電流、パーキングブレーキ力及び回転数の特性曲線に基づき、全体モデルが構築され、該全体モデルにより、パーキングブレーキ作動過程又はパーキングブレーキ解除過程において目下作用しているパーキングブレーキ力又はパーキングブレーキ操作部材の位置が推定されるとともに、ある過程の終了、すなわちパーキングブレーキが作動しているか、又は解除されているかが明確に検出される。
【0056】
このような全体モデルは、ブレーキドラム温度、外部温度、荷重スペクトル、電圧供給などのパラメータが考慮されている。このパラメータにおいては、例えば様々な外部条件下での電流−パーキングブレーキ力−回転数特性曲線が記録されている。
【符号の説明】
【0057】
1 はすば歯車
2 操作ユニット
3,4 ブレーキシュー
5 ブレーキドラム
6 スクリュナット
7 スピンドル
8 スクリュナット−スピンドル機構
9 弾性部材
10,11 ブレーキライニング
12 減速ギヤ装置
13,14 押圧部材
15 アクチュエータ
16 フローティング支持装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機付き車両用の電気機械的に操作可能なパーキングブレーキであって、少なくとも1つの電気機械式のアクチュエータ(15)を備え、該アクチュエータの回転運動が操作ユニット(2)を介して直線運動に変換され、少なくとも1つのブレーキシュー(3,4)が、車輪に結合されたブレーキドラム(5)に対して、前記ブレーキシュー(3,4)に少なくとも1つ設けられたブレーキライニング(10,11)を所定の力で圧接するように摺動され、当該パーキングブレーキの作動時及び/又は解除時に前記アクチュエータの消費電流が検出される上記パーキングブレーキにおいて、
あらかじめ設定した所定のパーキングブレーキ力が検出されるよう前記アクチュエータ(15)の消費電流を変更させる手段(9)を設けたことを特徴とするパーキングブレーキ。
【請求項2】
前記手段(9)を、所定のパーキングブレーキ力を推定するための、当該パーキングブレーキの作動時又は解除時における前記アクチュエータ(15)の消費電流の特徴的な変化が生じるように形成したことを特徴とする請求項1記載のパーキングブレーキ。
【請求項3】
前記手段(9)を、当該パーキングブレーキの剛性に影響を与えるあらかじめ付勢された少なくとも1つの弾性部材で形成したことを特徴とする請求項2記載のパーキングブレーキ。
【請求項4】
前記弾性部材(9)を、あらかじめ付勢された皿バネとして当該パーキングブレーキにおける力伝達箇所に設けるか、又はあらかじめ付勢されたねじりバネとして当該パーキングブレーキにおけるトルク伝達箇所に設けたことを特徴とする請求項3記載のパーキングブレーキ。
【請求項5】
前記手段を少なくとも1つのすべりクラッチとして形成したことを特徴とする請求項2記載のパーキングブレーキ。
【請求項6】
原動機付き車両用の電気機械的に操作可能なパーキングブレーキの動作方法であって、少なくとも1つの電気機械式のアクチュエータ(15)を備え、該アクチュエータの回転運動が操作ユニット(2)を介して直線運動に変換され、少なくとも1つのブレーキシュー(3,4)が、車輪に結合されたブレーキドラム(5)に対して、前記ブレーキシュー(3,4)に少なくとも1つ設けられたブレーキライニング(10,11)を所定の力で圧接するように摺動され、当該パーキングブレーキの作動時及び/又は解除時に前記アクチュエータの消費電流が検出されるよう構成されたパーキングブレーキの上記動作方法において、
当該パーキングブレーキの作動時及び/又は解除時における前記アクチュエータ(15)の消費電流を、あらかじめ設定した所定のパーキングブレーキ力が検出されるよう利用することを特徴とするパーキングブレーキ動作方法。
【請求項7】
前記所定のパーキングブレーキ力を、前記ブレーキシュー(3,4)の位置特定について調整されるパーキングブレーキ力の決定に使用される、前記アクチュエータの消費電流の信号変化における変曲点(23,24)を検出することにより検出することを特徴とする請求項6記載のパーキングブレーキ動作方法。
【請求項8】
前記アクチュエータ(15)の消費電流の信号変化の勾配を検出するとともに、該勾配を、付与されたパーキングブレーキ力及び/又は前記ブレーキシュー(3,4)の位置の特定に使用することを特徴とする請求項7記載のパーキングブレーキ動作方法。
【請求項9】
前記アクチュエータ(15)の消費電流の絶対値を検出し、該絶対値を、検出されたパーキングブレーキ力の正確性判断に用いることを特徴とする請求項6又は7記載のパーキングブレーキ動作方法。
【請求項10】
前記アクチュエータ(15)の消費電流に基づき当該パーキングブレーキの作動過程及び/又は解除過程を複数の段階に区分することを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載のパーキングブレーキ動作方法。
【請求項11】
当該パーキングブレーキの作動過程を初動段階(段階1)、惰性段階(段階2)、接触段階(段階3)、圧接段階(段階4)及び圧力保持段階(段階5)に区分する一方、当該パーキングブレーキの解除過程を初動段階(段階1)、戻り段階(段階2)、隙間形成段階(段階3)、惰性段階(段階4)及び中立位置段階(段階5)に区分にすることを特徴とする請求項10記載のパーキングブレーキ動作方法。
【請求項12】
前記各段階を、劣化プロセス及び摩耗プロセスを考慮するために学習手順を備えたモデルによって特定することを特徴とする請求項11記載のパーキングブレーキ動作方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−500511(P2010−500511A)
【公表日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−523241(P2009−523241)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【国際出願番号】PCT/EP2007/057869
【国際公開番号】WO2008/017613
【国際公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(399023800)コンティネンタル・テーベス・アクチエンゲゼルシヤフト・ウント・コンパニー・オッフェネ・ハンデルスゲゼルシヤフト (162)
【Fターム(参考)】