説明

電気的接触子

【課題】 弾性変形時における針圧や高周波特性を確保しつつ、耐電流性能を向上させることができる電気的接触子を提供する。
【解決手段】 コンタクトプローブ100は、弾性変形部1とコンタクト部2とからなり、弾性変形部1が、長尺方向の力によって弾性変形する細長い板状体10A,10Bと、板状体10A,10Bの長尺方向と交差するワーク対向面12w上にコンタクト部2が配置され、空隙10Sを介して主面を対向させた状態で板状体10A,10Bの一端を互いに結合させる針先結合部12と、板状体10A,10Bの他端を互いに結合させる針元結合部11とからなる。板状体10A,10Bは、第1の導電性金属からなる応力層101,103と、第1の導電性金属よりも比抵抗が小さい第2の導電性金属からなる電導層102とから形成され、第1の導電性金属の機械的強度が第2の導電性金属よりも高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気的接触子に係り、更に詳しくは、弾性変形部の弾性変形を伴ってコンタクト部を電極端子に接触させる電気的接触子の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスは、半導体ウエハ上に多数の半導体デバイスを形成し、これらの半導体デバイスの電気的特性試験を行った後に半導体ウエハをダイシングし、半導体デバイスごとに分離することによって製造される。
【0003】
半導体デバイスの電気的特性試験は、配線基板上に多数のコンタクトプローブを形成したプローブカードに半導体ウエハを近づけ、各コンタクトプローブを半導体ウエハ上の対応する電極パッドに接触させることによって行われる。コンタクトプローブと電極パッドとを接触させる際、両者が接触しはじめる状態に達した後、プローブカードに半導体ウエハを更に近づける処理が行われる。このような処理をオーバードライブと呼び、また、オーバードライブの距離をオーバードライブ量と呼んでいる。
【0004】
オーバードライブは、コンタクトプローブを弾性変形させる処理であり、オーバードライブを行うことにより、電極パッドの高さやコンタクトプローブの高さにばらつきがあっても、全てのコンタクトプローブを電極パッドと確実に接触させることができる。また、オーバードライブ時にコンタクトプローブが弾性変形し、その先端が電極パッド上で移動することにより、スクラブが行われる。このスクラブにより電極パッド表面の酸化膜が除去され、接触抵抗を低減させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特願2011−038490
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この様なプローブカードでは、コンタクトプローブの長さを短くすれば、そのインダクタンスを低下させ、テスト信号の高周波特性を改善することができる。しかしながら、コンタクトプローブの長さを短くしつつ、十分なオーバードライブ量を確保しようとすれば、オーバードライブ時にコンタクトプローブが塑性変形してしまうという問題があった。
【0007】
コンタクトプローブの長さをより短くすれば、オーバードライブ時にコンタクトプローブをより大きく湾曲させる必要がある。その結果、コンタクトプローブに発生する応力が、応力限界を越えれば、塑性変形してしまう。このため、オーバードライブ量を確保しつつ、コンタクトプローブの長さを短くすることは困難であった。
【0008】
そこで、コンタクトプローブの断面サイズを減少させることにより、オーバードライブ時の応力を抑制することが考えられる。コンタクトプローブは、長尺方向の力によって弾性変形する細長い板状体からなる場合、その厚さ方向に湾曲させると、湾曲部の外側に最大の応力が発生する。この応力はコンタクトプローブの厚さに応じた値になるため、コンタクトプローブの厚さを減少させれば、オーバードライブ時の応力を減少させることができる。つまり、コンタクトプローブの長さを短くしたとしても、それに応じて厚さを減少させれば、所望のオーバードライブ量を確保することができる。
【0009】
ところが、コンタクトプローブの厚さを減少させると、その断面積も減少することから、オーバードライブ時における針圧が低下し、また、耐電流特性が劣化するという問題が生じる。この様な問題を解決しようとすれば、コンタクトプローブの幅を増大させて断面積を確保する必要がある。しかしながら、コンタクトプローブの幅を大きくするのにも限界がある。例えば、製造上の制限や、コンタクトプローブの配置間隔などにより決まる幅の最大値を越えることはできず、コンタクトプローブの長さを短くするのには限界があった。
【0010】
この様な課題は、弾性変形を伴って電極端子に接触させ、当該電極端子と確実に導通させる電気的接触子に共通の課題であり、半導体デバイスの電気的特性試験に用いられるコンタクトプローブは、この様な電気的接触子の一例である。
【0011】
上記課題に鑑みて、本願の発明者らは、先の特許出願(特許文献1)において、弾性変形部が、空隙を介して主面を対向させた複数の細長い板状体と、板状体の一端を互いに結合させる結合部とからなる電気的接触子を提案した。この電気的接触子では、弾性変形時における針圧を確保しつつ、高周波特性を向上させることができる。しかし、最近では、コンタクトプローブなどの電気的接触子の配列に対する狭ピッチ化の要求によって電気的接触子の断面サイズが縮小する傾向にあるにもかかわらず、耐電流性能は従来と変わらない値が要望されている。このため、弾性変形時における針圧を確保しつつ、耐電流性能を向上させなければならないという課題があった。
【0012】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、弾性変形部の弾性変形を伴ってコンタクト部を電極端子に接触させる電気的接触子の耐電流特性を向上させることを目的としている。特に、弾性変形時における針圧や高周波特性を確保しつつ、耐電流性能を向上させることができる電気的接触子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の本発明による電気的接触子は、弾性変形部の弾性変形を伴ってコンタクト部を電極端子に接触させる電気的接触子であって、上記弾性変形部が、長尺方向の力によって弾性変形する2以上の細長い板状体と、上記コンタクト部が先端に配置され、空隙を介して主面を対向させた状態で上記板状体の一端を互いに結合させる針先結合部と、上記板状体の他端を互いに結合させる針元結合部とからなり、上記板状体が、第1の導電性金属からなる応力層と、上記第1の導電性金属よりも比抵抗が小さい第2の導電性金属からなる電導層とから形成され、上記第1の導電性金属の機械的強度が上記第2の導電性金属よりも高いように構成される。ここでいう板状体の主面とは、板状体の広い面を意味している。
【0014】
電気的接触子の一部を板状体にすることにより、板状体の主面と交差する方向に屈曲させた時に発生する応力を低減することにより、塑性変形させることなく、より大きく湾曲させることができる。このため、所望のオーバードライブ量を確保しつつ、電気的接触子を短くすることができる。つまり、電極端子に確実に接触させることができる電気的接触子の高周波特性を向上させることができる。
【0015】
しかも、2以上の板状体を備え、これらの板状体の主面を空隙を介して対向させることにより、各板状体の断面サイズを増大させることなく弾性変形部の断面積を増大させ、針圧や耐電流特性を確保することができる。つまり、電極端子に確実に接触させることができる電気的接触子について、針圧や耐電流特性を確保しつつ、高周波特性を向上させることができる。
【0016】
さらに、板状体は、機械的強度が電導層よりも高い導電性金属からなる応力層と、比抵抗が応力層よりも小さい導電性金属からなる電導層とから形成される。このため、板状体が応力層だけで形成される場合に比べ、電気抵抗が小さくなるので、弾性変形部の弾性変形を伴ってコンタクト部を電極端子に接触させる電気的接触子の耐電流性能を向上させることができる。また、板状体が電導層だけで形成される場合に比べ、機械的強度の低下が抑制されるので、弾性変形時における針圧を確保しつつ、電気的接触子の耐電流性能を向上させることができる。
【0017】
第2の本発明による電気的接触子は、上記構成に加え、上記応力層及び上記電導層が、上記板状体の端面と交差する方向に配列され、上記電導層が、上記応力層によって挟まれているように構成される。この様な構成によれば、応力層が板状体の両端面側に配置されるので、長尺方向の力によって板状体を弾性変形させた際に、板状体がねじれるのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明による電気的接触子は、その一部を板状体にすることにより、湾曲時に発生する応力を低減し、より大きく湾曲させることができる。このため、所望のオーバードライブ量を確保しつつ、電気的接触子を短くすることができ、電気的接触子の高周波特性を向上させることができる。また、2以上の板状体を備え、これらの板状体の主面を空隙を介して対向させることにより、各板状体の断面サイズを増大させることなく弾性変形部の断面積を増大させ、針圧や耐電流特性を確保することができる。このため、電気的接触子の針圧や耐電流特性を確保しつつ、高周波特性を向上させることができる。
【0019】
さらに、機械的強度が電導層よりも高い導電性金属からなる応力層と、比抵抗が応力層よりも小さい導電性金属からなる電導層とから板状体が形成される。このため、板状体が応力層だけで形成される場合に比べ、電気抵抗が小さくなるので、弾性変形部の弾性変形を伴ってコンタクト部を電極端子に接触させる電気的接触子の耐電流性能を向上させることができる。また、板状体が電導層だけで形成される場合に比べ、機械的強度の低下が抑制されるので、弾性変形時における針圧を確保しつつ、電気的接触子の耐電流性能を向上させることができる。従って、弾性変形時における針圧や高周波特性を確保しつつ、電気的接触子の耐電流特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態によるコンタクトプローブの一構成例を示した外観図である。
【図2】図1のコンタクトプローブ100をA−A切断線で切断した場合の切断面を示した断面図である。
【図3】図1のコンタクトプローブ100を含むプローブカード200の一構成例を示した断面図である。
【図4】図1のコンタクトプローブ100のオーバードライブによる弾性変形の一例を示した図である。
【図5】図1のコンタクトプローブ100のオーバードライブによる弾性変形の他の例を示した図である。
【図6】図1のコンタクトプローブ100の製造方法の一例についての説明図である。
【図7】図1のコンタクトプローブ100の製造方法の一例についての説明図である。
【図8】図7(a)のシリコン基板400を斜め上から見た様子を示した斜視図である。
【図9】図1のコンタクトプローブ100の他の例を示した断面図である。
【図10】図1のコンタクトプローブ100のその他の例を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<コンタクトプローブ>
図1は、本発明の実施の形態によるコンタクトプローブの一構成例を示した外観図であり、図中の(a)及び(b)には、コンタクトプローブ100,110がそれぞれ示されている。なお、コンタクトプローブ100,110は、半導体デバイスの電気的特性試験に用いられるプローブ(探針)であり、電気的接触子の一例である。
【0022】
図中の(a)に示したコンタクトプローブ100は、弾性変形部1及びコンタクト部2からなり、略直線状の細長い形状からなる弾性変形部1の一端にコンタクト部2を形成した垂直型プローブである。弾性変形部1及びコンタクト部2は、いずれも導電性材料からなり、検査対象物(不図示)に対し略垂直となるように弾性変形部1を配置し、検査対象物上の電極端子にコンタクト部2を当接させて使用される。また、オーバードライブ時には、弾性変形部1が弓形に弾性変形することにより、電極端子に対し、コンタクト部2を確実に接触させることができる。
【0023】
弾性変形部1は、コンタクト部2を電極端子に接触させた際の長尺方向の力によって弾性変形する本体部である。この弾性変形部1は、2枚の板状体10A,10Bと、これらの板状体10A,10Bの一端(後端)を互いに結合させる針元結合部11と、板状体10A,10Bの他端(前端)を互いに結合させる針先結合部12とによって構成される。
【0024】
板状体10A,10Bは、いずれも、弾性変形部1の長尺方向に細長い形状からなり、長尺方向の力によって厚さ方向に容易に湾曲させることができる。つまり、板状体10A,10Bは、長尺方向と交差する断面が細長い矩形形状からなり、長尺方向の長さが、幅や厚さに比べて十分に大きい。ここでは、板状体10A,10Bにおける長尺方向に平行な2組の対向面のうち、面積が広い方の対向面を主面と呼び、狭い方の対向面を端面と呼ぶことにする。このとき、主面間の距離は、板状体10A,10Bの厚さであり、端面間の距離が板状体10A,10Bの幅である。
【0025】
また、針元結合部11及び針先結合部12は、空隙10Sを介して主面を対向させた状態で板状体10A,10Bを互いに結合させる。この様に主面を対向させて板状体10A,10Bを配置することにより、弾性変形部1を板状体10A,10Bの厚さ方向へ湾曲させることができる。
【0026】
コンタクト部2は、ワーク(検査対象物)上の電極端子に接触させるためのコンタクトチップであり、針先結合部12の先端(前端)に形成され、針先結合部12から突出する形状からなる。
【0027】
弾性変形部1は、導電率が高く、かつ、弾性特性に優れた材料、例えば、Ni(ニッケル)系合金からなることが望ましく、コンタクト部2は、導電率が高く、かつ、耐摩耗特性に優れた材料、例えば、Rh(ロジウム)からなることが望ましい。コンタクト部2は、弾性変形部1の前端から突出していればよく、その形状は任意である。
【0028】
板状体10A,10Bを湾曲させた場合、湾曲部の外側と内側とに最大の応力が発生する。一般に、湾曲部の曲率が同じであるとすれば、湾曲部に発生する応力は、板状体10A,10Bの断面サイズに応じた値になる。このため、板状体10A,10Bの厚さを薄くすれば、湾曲時に発生する応力を減少させることができる。つまり、板状体10A,10Bの厚さを薄くすることによって、塑性変形させることなく板状体10A,10Bをより大きく湾曲させることが可能になり、オーバードライブ量を増大させることができる。
【0029】
また、板状体10A,10Bは、その幅を増大させることにより、それぞれの断面積を増大させることができる。さらに、2枚の板状体10A,10Bを配置することによって、コンタクトプローブ100の断面積を更に増大させることができる。この様にしてコンタクトプローブ100の断面積を増大させれば、針圧を増大させることができるとともに、耐電流特性を向上させることができる。
【0030】
つまり、2枚の板状体10A,10Bを用いることによって、板状体10A,10Bの厚さを薄くしたとしても、コンタクトプローブ100の断面積を確保することが可能になる。従って、所望のオーバードライブ量を確保し、また、所望の針圧や耐電流特性を確保しつつ、弾性変形部1の長尺方向の長さを短くすることができる。弾性変形部1を短くすることができれば、コンタクトプローブ100のインダクタンスを低下させることができるため、その高周波特性を向上させることができる。
【0031】
図中の(b)に示したコンタクトプローブ110は、コンタクトプローブ100と比較すれば、3枚の板状体10A〜10Cを備えている点で異なるが、その他の構成は同一である。3枚の板状体10A〜10Cは、空隙10Sを介して、互いの主面が対向している。また、針元結合部11は、3枚の板状体10A〜10Cの一端を互いに結合させ、針先結合部12は、3枚の板状体10A〜10Cの他端を互いに結合させている。
【0032】
各板状体10A〜10Cの断面サイズが同一であれば、3枚の板状体10A〜10Cを有するコンタクトプローブ110は、2枚の板状体10A,10Bを有するコンタクトプローブ100よりも弾性変形部1の断面積を増大させることができる。
【0033】
板状体10A〜10Cは、いずれも長尺方向の力によって、厚さ方向、すなわち、主面と交差する方向に弾性的に湾曲する。針先結合部12は、ワーク対向面12w上にコンタクト部2が配置され、空隙10Sを介して主面を対向させた状態で、板状体10A〜10Cの前端を互いに結合させる。ワーク対向面12wは、ワーク(検査対象物)の電気的特性試験時に、ワークと対向させた状態で配置される針先結合部12の前端面であり、板状体10A〜10Cの長尺方向と交差する平坦面からなる。
【0034】
<板状体10A〜10Cの積層構造>
図2は、図1のコンタクトプローブ100をA−A切断線で切断した場合の切断面を示した断面図である。板状体10A及び10Bは、いずれも、長尺方向に垂直な断面における短辺の長さが厚さL2、長辺の長さが幅L1の薄板であり、短辺の長さ方向、すなわち、主面に垂直な方向に容易に湾曲させることができる。
【0035】
この板状体10A,10Bは、いずれも、機械的強度が電導層102よりも高い導電性金属からなる応力層101,103と、比抵抗が応力層101,103よりも小さい導電性金属からなる電導層102とから形成されている。
【0036】
具体的には、機械的強度としてヤング率(縦弾性率)を用い、応力層101及び103が、いずれもヤング率が電導層102よりも大きい金属からなるのに対し、電導層102は、比抵抗(電気抵抗率)が応力層101,103よりも小さい金属からなる。ヤング率は、弾性範囲内において引張り応力(圧縮応力)を加えた際の変形量(ひずみ)に対する応力の割合を示す物理量である。或いは、機械的強度として、降伏強さ又は引っ張り強さを用い、降伏強さ又は引っ張り強さが電導層102よりも大きい導電性金属により応力層101及び103を形成するような構成であっても良い。
【0037】
例えば、応力層101,103は、Ni系合金からなり、電導層102は、Au(金)又はRhからなる。この板状体10A,10Bでは、応力層101,103及び電導層102が、板状体10A,10Bの端面と交差する方向、すなわち、板状体10A,10Bの幅方向に配列され、電導層102が、応力層101と応力層103とによって挟まれている。つまり、応力層101,103と電導層102とは、板状体10A,10Bの端面と略平行な界面で互いに接している。この様に構成することにより、応力層101,103が板状体10A,10Bの両端面側に配置されるので、長尺方向の力によって板状体10A,10Bを弾性変形させた際に、板状体10A,10Bがねじれるのを抑制することができる。
【0038】
ここで、コンタクトプローブ100,110は、後述するように、板状体10A,10Bの端面と平行な基板上にめっき層を積層することによって形成される。すなわち、コンタクトプローブ100,110は、板状体10A,10Bの幅方向にめっき層を積層することによって形成される。このめっき層の積層方向の距離(ここでは、板状体10A,10Bの幅方向の距離)を積層厚と呼ぶことにすれば、応力層101と応力層103とは、同程度の積層厚からなる。なお、板状体10A,10Bの厚さ方向の距離は、基板上のめっき層からなる導電パターンの幅に対応する。
【0039】
本願の発明者らによる評価実験によれば、板状体10A,10BをNi系合金からなる応力層101,103と、Auからなる電導層102とから形成することにより、板状体10A,10BがNi系合金の単一層からなる場合に比べ、針圧を同程度に保ちつつ、電気抵抗を減少させられることがわかった。
【0040】
電導層102の積層厚の比率を大きくすれば、プローブ抵抗は下がり、コンタクトプローブ100の耐電流性能を上げることができるが、針圧が低下する。従って、応力層101,103の材料や、電導層102の厚さの比率は、要求される針圧やプローブ抵抗に応じて定められる。
【0041】
<プローブカード200>
図3は、図1のコンタクトプローブ100を含むプローブカード200の一構成例を示した断面図であり、プローブカード200を鉛直面で切断した場合の切断面の様子が示されている。この図では、コンタクトプローブ100のみ破断せずに描かれている。
【0042】
このプローブカード200は、メイン基板3、インターポーザー4及びプローブユニット5により構成される。なお、プローブユニット5には、図1に示したコンタクトプローブ100が用いられている。
【0043】
メイン基板3は、プローブ装置(不図示)に対し着脱可能に取り付けられる配線基板であり、外周付近に外部端子が形成され、中央付近にインターポーザー4が取り付けられている。プローブユニット5は、2以上のコンタクトプローブ100を保持する構造体であり、インターポーザー4に取り付けられている。インターポーザー4は、メイン基板3に広ピッチで形成された電極端子(不図示)と、プローブユニット5に狭ピッチで形成された電極端子(不図示)とを導通させるスプリングピン用のガイド板である。
【0044】
プローブユニット5は、ST(Space Transformer)基板50、ガイド板51,52、ガイド支持部53及びコンタクトプローブ100により構成される。ST基板50は、2以上のコンタクトプローブ100を支持する支持基板であり、コンタクトプローブ100に対応する2以上の電極端子50tが形成されている。ガイド板51は、2以上のガイド穴51hが形成され、電極端子50tを露出させるように、ST基板50に固着されている。ガイド板52は、空間を挟んでガイド板51と対向するように配置され、電極端子50tに対応する2以上のガイド穴52hが形成されている。ガイド支持部53は、ST基板50に固着されるとともに、ガイド板52を支持している。
【0045】
コンタクトプローブ100は、弾性変形部1の上端が、ガイド板51のガイド穴51hに挿入され、ST基板50上の電極端子50tに接続されている。また、コンタクト部2が形成された弾性変形部1の下端は、ガイド板52のガイド穴52hを貫通し、ガイド板52から突出している。ガイド穴51h,52hは、コンタクトプローブ100の両端付近においてコンタクトプローブ100を拘束し、その長手方向への移動を可能としつつ、当該長手方向に交差する方向への移動を規制している。
【0046】
つまり、コンタクトプローブ100は、その両端付近をガイド板51,52によって上下動可能に支持され、オーバードライブ時にガイド板51,52間の空間において、湾曲することができるとともに、当該湾曲により、コンタクトプローブ100の両端の位置がずれるのを抑制している。
【0047】
図4は、図1のコンタクトプローブ100のオーバードライブによる弾性変形の一例を示した図である。図中の(a)には、オーバードライブ直前のコンタクトプローブ100の状態が示されている。つまり、検査対象物及びコンタクトプローブ100を互いに近づけ、電極端子300がコンタクト部2に接触し始めた時の様子が示されている。
【0048】
また、図中の(b)には、オーバードライブ後のコンタクトプローブ100の状態が示されている。つまり、(a)の状態から、予め定められたオーバードライブ量Lだけ、検査対象物及びコンタクトプローブ100を更に近づけた時の様子が示されている。
【0049】
このコンタクトプローブ100は、板状体10A,10Bが、その厚さ方向に大きく湾曲することにより、コンタクト部2をオーバードライブ量Lだけ後退させている。このため、オーバードライブ前のコンタクトプローブ100は、電極端子300に対して略垂直であったが、オーバードライブ後は、コンタクトプローブ100の前端付近が大きく傾いている。
【0050】
電極端子300上の酸化膜は、コンタクト部2が当接することによって破壊される。このため、その後のオーバードライブにより、コンタクトプローブ100を傾け、電極端子300に接触させるコンタクト部2の接触面を変えることにより、コンタクト部2及び電極端子300間に酸化膜の破片が挟まりにくく、良好な導通状態を得ることができる。
【0051】
図5は、図1のコンタクトプローブ100のオーバードライブによる弾性変形の他の例を示した図である。図中の(a)には、オーバードライブ直前の状態が示され、図中の(b)には、オーバードライブ後の状態が示されている。図5を図4と比較すれば、コンタクトプローブ100の前端付近がガイド板52によって長手方向に移動可能に支持されている点で異なる。
【0052】
ガイド板52のガイド穴52hにコンタクトプローブ100を貫通させ、ガイド板52によってコンタクトプローブ100の前端付近を拘束することにより、オーバードライブ時に、電極端子300に対し、コンタクト部2をスクラブさせることができる。すなわち、ガイド板52を用いていない図4の場合、オーバードライブ時に、電極端子300に対するコンタクトプローブ100の角度が変化するだけであるのに対し、ガイド板52を用いる図5の場合には、オーバードライブ時にコンタクト部2が電極端子300上を移動する。このため、電極端子300上の酸化膜を除去して、良好な接触状態を得ることができる。
【0053】
特に、図5のコンタクトプローブ100では、オーバードライブ前及びオーバードライブ後のいずれにおいても、針先結合部12がガイド板52のガイド穴52hの内周面と対向するように保持されている。つまり、オーバードライブ前の状態において、針先結合部12の後端がガイド板52よりもST基板50側に位置している。このため、オーバードライブ時に、コンタクト部2が、電極端子300に対し略垂直に移動する。従って、電極端子300の面積が小さい場合に、コンタクト部2がスクラブすることによって、コンタクト部2が電極端子300と接触しなくなるのを防止することができる。
【0054】
<製造工程>
図6〜図8は、図1のコンタクトプローブ100の製造方法の一例についての説明図である。図6の(a)〜(d)及び図7の(a)〜(d)は、コンタクトプローブ100の製造工程を時系列に示した図である。また、図8は、図7の(a)の状態を示した斜視図である。このコンタクトプローブ100は、板状体10A,10Bの幅方向にめっき層を積層することによって形成される。
【0055】
ここでは、コンタクトプローブ100が、いわゆるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて作製される。MEMS技術とは、フォトリソグラフィ技術及び犠牲層エッチング技術を利用して、微細な立体的構造物を作成する技術である。フォトリソグラフィ技術は、半導体製造工程などで利用されるフォトレジストを用いた微細パターンの加工技術である。また、犠牲層エッチング技術は、犠牲層と呼ばれる下層を形成し、その上に構造物を構成する層を形成した後、犠牲層のみをエッチングによって除去することにより、立体的な構造物を作成する技術である。
【0056】
犠牲層を含む各層の形成処理には、周知のめっき技術を利用することができる。例えば、陰極としての基板と、陽極としての金属片とを電解液に浸し、両電極間に電圧を印加することにより、電解液中の金属イオンを基板表面に付着させることができる。この様な処理は、電気めっき処理と呼ばれ、基板を電解液に浸すウエットプロセスであることから、めっき処理後には、乾燥処理が行われる。また、この乾燥処理後には、研磨処理などによって積層面を平坦化する平坦化処理が必要に応じて行われる。
【0057】
図6の(a)には、弾性変形部1の応力層101を形成するためのレジストパターンを導電性基板上に形成した状態が示されている。ここでは、シリコン基板400の上面全体に導電性薄膜401が形成されているものとする。導電性薄膜401は、Cuなどの犠牲金属からなる。レジストパターンは、導電性薄膜401上にフォトレジストからなるレジスト膜402を形成し、弾性変形部1の応力層101に相当する領域内のレジスト膜だけを選択的に除去することによって形成される。
【0058】
図6の(b)には、レジスト膜402の非形成領域に導電性金属層403を形成した後、表面を研磨した状態が示されている。導電性金属層403は、電気めっきを利用して、レジスト膜402の非形成領域内にNi系合金などの導電性金属を堆積させることによって形成される。
【0059】
図6の(c)には、レジスト膜402を除去した後、犠牲層404を形成し、表面を研磨した状態が示されている。犠牲層404は、レジスト膜402を除去したシリコン基板400上に犠牲金属を堆積させることによって形成される。
【0060】
図6の(d)には、コンタクト部2を形成するためのレジストパターンを形成し、レジスト膜405の非形成領域に導電性金属層406を形成した状態が示されている。レジストパターンは、犠牲層404を形成したシリコン基板400上にレジスト膜405を形成し、コンタクト部2に相当する領域内のレジスト膜だけを選択的に除去することによって形成される。導電性金属層406は、電気めっきを利用して、レジスト膜405の非形成領域内にRhなどの導電性金属を堆積させることによって形成される。
【0061】
図7の(a)には、レジスト膜405を除去した後、弾性変形部1の電導層102を形成するためのレジストパターンを形成した状態が示されている。レジストパターンは、導電性金属層406を形成したシリコン基板400上にレジスト膜407を形成し、弾性変形部1の電導層102に相当する領域内のレジスト膜だけを選択的に除去することによって形成される。図8は、このときのシリコン基板400を斜め上から見た様子を示した斜視図である。針先結合部12、板状体10A,10B及び針元結合部11に相当する領域内のレジスト膜が除去されている。このレジスト膜の非形成領域内に導電性金属を堆積させれば、針先結合部12、板状体10A,10B及び針元結合部11を一体的に形成することができる。
【0062】
図7の(b)には、レジスト膜407の非形成領域に導電性金属層408を形成した後、表面を研磨した状態が示されている。導電性金属層408は、電気めっきを利用して、レジスト膜407の非形成領域内にAuなどの導電性金属を堆積させることによって形成される。
【0063】
図7の(c)には、レジスト膜407を除去した後、弾性変形部1の応力層103を形成するためのレジストパターンを形成し、レジスト膜409の非形成領域に導電性金属層410を形成した状態が示されている。レジストパターンは、導電性金属層408を形成したシリコン基板400上にレジスト膜409を形成し、弾性変形部1の応力層103に相当する領域内のレジスト膜だけを選択的に除去することによって形成される。導電性金属層410は、レジスト膜409の非形成領域内にNi系合金などの導電性金属を堆積させることによって形成される。
【0064】
図7の(d)には、導電性金属層410を形成したシリコン基板400の表面を研磨した後、犠牲金属を除去することによって得られたコンタクトプローブ100が示されている。例えば、導電性薄膜401及び犠牲層404がともにCuからなる場合であれば、Cuを選択的に溶解するエッチング液を用いて、導電性金属層403,406,408,410からなるコンタクトプローブ100を取り出すことができる。
【0065】
電導層102を構成する導電性金属としては、コンタクトプローブ100の製造工程において使用されるこの様なエッチング液に対し耐性を有する金属、例えば、Au又はRhが望ましい。
【0066】
本実施の形態によれば、コンタクトプローブ100,110が板状体10A〜10Cからなり、オーバードライブ時に、板状体10A〜10Cをその厚さ方向に湾曲させている。このため、板状体10A〜10Cの厚さL2を薄くし、オーバードライブ時の応力を低減すれば、弾性限界を越えることなく、弾性変形部1を大きく湾曲させることができる。従って、所望のオーバードライブ量を確保しつつ、コンタクトプローブ100,110の長尺方向の長さを短くし、その高周波特性を向上させることができる。
【0067】
また、コンタクトプローブ100,110が、空隙10Sを介して主面を対向させた2以上の板状体10A〜10Cからなることにより、板状体10A〜10Cの厚さL2を薄くしても、弾性変形部1の断面積を確保することができる。従って、所望の針圧を確保するとともに、耐電流特性を確保しつつ、弾性変形部1の長尺方向の長さを短くし、コンタクトプローブ100,110の高周波特性を向上させることができる。
【0068】
さらに、板状体10A〜10Cが、機械的強度が高い導電性金属からなる応力層101,103と、比抵抗が小さい導電性金属からなる電導層102とから形成されるので、弾性変形時における針圧を確保しつつ、コンタクトプローブ100,110の耐電流性能を向上させることができる。
【0069】
なお、本実施の形態では、応力層101,103及び電導層102が、板状体10A,10Bの幅方向に配列され、電導層102が、応力層101,103によって挟まれている場合の例について説明したが、本発明は板状体10A〜10Cの構成をこれに限定するものではない。例えば、板状体10A〜10Cが、電導層と応力層とを板状体10A〜10Cの幅方向に配列した2層からなるものも本発明には含まれる。
【0070】
図9は、図1のコンタクトプローブ100の他の例を示した断面図であり、コンタクトプローブ100をA−A切断線で切断した場合の切断面が示されている。この板状体10A,10Bでは、応力層101と電導層102とが板状体10A,10Bの幅方向に配列されている。この様な構成であっても、弾性変形時における針圧を確保しつつ、コンタクトプローブ100,110の耐電流性能を向上させることができる。
【0071】
図10は、図1のコンタクトプローブ100のその他の例を示した断面図である。このコンタクトプローブ100では、応力層101,103及び電導層102が、板状体10A,10Bの主面と交差する方向、すなわち、板状体10A,10Bの厚さ方向に配列され、電導層102が、応力層101,103によって挟まれている。つまり、応力層101,103と電導層102とは、板状体10A,10Bの主面と平行な界面で互いに接している。この様な構成であっても、弾性変形時における針圧を確保しつつ、コンタクトプローブ100,110の耐電流性能を向上させることができる。
【0072】
また、本実施の形態では、コンタクトプローブ100が、板状体10A,10Bの幅方向にめっき層を積層することによって形成される場合の例について説明したが、本発明によるコンタクトプローブ100,110の製造方法はこれに限られるものではない。例えば、板状体10A,10Bの厚さ方向にめっき層を積層することによって、コンタクトプローブ100,110を形成しても良い。
【0073】
また、本実施の形態では、板状体10A,10Bの応力層101と応力層103とが同じ導電性金属からなる場合の例について説明したが、機械的強度が電導層102よりも高ければ、応力層101及び103が異なる金属からなるものも本発明には含まれる。
【0074】
また、本実施の形態では、板状体10A及び10Bが、いずれも応力層101,103及び電導層102からなる場合の例について説明したが、2以上の板状体10A〜10Cのうちの一部の板状体だけが応力層101,103及び電導層102からなるものも本発明には含まれる。
【0075】
また、本実施の形態では、半導体デバイスの電気的特性試験に用いられるコンタクトプローブ100,110の例について説明したが、本発明による電気的接触子は、この様なコンタクトプローブ100,110のみに限定されない。すなわち、本発明は、弾性変形部1の弾性変形を伴って、コンタクト部2を電極端子に接触させる様々な電気的接触子に適用することができる。例えば、互いの主面を対向して配置された2枚の回路基板を導通させるための電気的接触子として使用することもできる。具体的には、本実施の形態におけるプローブユニット5のST基板50を上記回路基板の一方とし、検査対象物を上記回路基板の他方に置き換えて、本発明を適用することもできる。
【符号の説明】
【0076】
100,110 コンタクトプローブ
101,103 応力層
102 電導層
1 弾性変形部
10A〜10C 板状体
10S 空隙
11 針元結合部
12 針先結合部
12w ワーク対向面
2 コンタクト部
200 プローブカード
3 メイン基板
4 インターポーザー
5 プローブユニット
50 ST基板
50t 電極端子
51,52 ガイド板
51h,52h ガイド穴
53 ガイド支持部
300 ワーク上の電極端子
L オーバードライブ量
L1 板状体の幅
L2 板状体の厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性変形部の弾性変形を伴ってコンタクト部を電極端子に接触させる電気的接触子において、
上記弾性変形部は、長尺方向の力によって弾性変形する2以上の細長い板状体と、
上記コンタクト部が先端に配置され、空隙を介して主面を対向させた状態で上記板状体の一端を互いに結合させる針先結合部と、
上記板状体の他端を互いに結合させる針元結合部とからなり、
上記板状体は、第1の導電性金属からなる応力層と、
上記第1の導電性金属よりも比抵抗が小さい第2の導電性金属からなる電導層とから形成され、上記第1の導電性金属の機械的強度が上記第2の導電性金属よりも高いことを特徴とする電気的接触子。
【請求項2】
上記応力層及び上記電導層は、上記板状体の端面と交差する方向に配列され、上記電導層が、上記応力層によって挟まれていることを特徴とする請求項1に記載の電気的接触子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−7700(P2013−7700A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141751(P2011−141751)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000232405)日本電子材料株式会社 (272)
【Fターム(参考)】