説明

電気自動車の制御装置

【課題】蓄電器からの電力を電動機と車室内空調装置とに適切に供給することで、車両の走行性能とドライバが求める空調性能と同時に満足させることが出来る電気自動車の制御装置を提供する。
【解決手段】蓄電器122からの電力供給を受けて車両を駆動する電動機144と、蓄電器122からの電力供給を受けて車室内を温度調整する車室内空調装置162とを備える電気自動車の制御装置であって、蓄電器122の最大許容出力Woutmaxが予め設定された空調停止判定値Wacoff以上の場合に、車室内空調装置162が消費可能な電力Wacを予め設定された最低保障電力Wacmin以上且つ予め設定された最大電力Wacmax以下となるよう設定し、蓄電器122の最大許容出力Woutmaxが空調停止判定値Wacoff未満の場合に、車室内空調装置162が消費可能な電力Wacを零となるよう設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車の制御装置に係り、車両の走行性能とドライバが求める空調性能とを同時に満足させるための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車は、エンジンの燃料消費量及びエンジンから排出される排気ガスの低減が要求されているため、駆動力源として電動機を用いる電気自動車の開発が進められている。
【0003】
電気自動車はエンジンを備えず、高容量の蓄電器と高出力の電動機が搭載され、蓄電器から供給される電力によって電動機や車室内空調装置等の車載機器とを作動させる。従って、電気自動車は燃料を一切消費することなく、且つ排気ガスを一切排出することなく走行が可能である。
【0004】
しかしながら、このような電気自動車に搭載される電動機や車室内空調装置等の車載機器は、同じ蓄電器から電力の供給を受けるため、車載機器の中でも大量の電力を消費する車室内空調装置を長時間作動させ蓄電器の電力を過度に消費してしまうと、蓄電器の残存容量が減少してしまう。その結果、蓄電器が電動機に電力を供給することが出来なくなり、車両の走行性能を満足させることが出来なくなる可能性があった。
【0005】
この課題を解決するものとして、特許文献1に開示された電気自動車用空調装置が知られている。この公報に開示された電気自動車用空調装置は、蓄電器の残存容量に応じて車室内空調装置の消費電力に許容値を設定し、車室内空調装置の消費電力が許容値以下となるよう車室内空調装置の消費電力を制限している。
【0006】
この方法によれば、蓄電器の残存容量に応じて車室内空調装置の消費電力に許容値を設定し、車室内空調装置の消費電力が許容値以下となるよう車室内空調装置の消費電力を制限するので、車室内空調装置によって蓄電器の電力が過度に消費されることがなくなる。その結果、蓄電器が安定して電動機に電力を供給することが出来、車両の走行性能を満足させることが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−32121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記公報に開示された電気自動車のように、車室内空調装置の消費電力が蓄電器の残存容量に応じて決まる許容値以下となるよう車室内空調装置の消費電力を制限すれば車両の走行性能を満足させることが出来るが、車室内空調装置の消費電力を制限してしまうと、ドライバが要求する空調性能を満足させることが出来なくなる可能性がある。
【0009】
本発明は上記課題を解決するためのものであって、その目的は、蓄電器からの電力を電動機と車室内空調装置とに適切に供給することで、車両の走行性能とドライバが求める空調性能と同時に満足させることが出来る電気自動車の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明に係る電気自動車の制御装置は、蓄電器からの電力供給を受けて車両を駆動する電動機と、その蓄電器からの電力供給を受けて車室内を温度調整する車室内空調装置とを備える電気自動車の制御装置であって、前記蓄電器の最大許容出力が前記車室内空調装置を停止するために予め設定された閾値以上の場合に、前記車室内空調装置が消費可能な電力を、予め設定された零より大きい第1の値以上且つ予め設定された前記第1の値より大きい第2の値以下となるよう設定し、前記蓄電器の最大許容出力が前記閾値未満の場合に、前記車室内空調装置が消費可能な電力を零とすることを特徴とする。
【0011】
第2の発明に係る電気自動車の制御装置は、第1の発明の構成に加え、前記蓄電器の最大許容出力の減少に伴って、前記電動機を駆動するための電力を予め設定された走行パワー確保電力に維持しつつ、前記車室内空調装置の消費可能な電力を予め設定された第1の値に向かって減少させ、該車室内空調装置の消費可能な電力がその第1の値に到達すると、その車室内空調装置の消費可能な電力の減少を停止させてその第1の値に維持させる一方で、前記電動機を駆動するための電力を前記走行パワー確保電力より減少させることを特徴とする。
【0012】
第3の発明に係る電気自動車の制御装置は、第2の発明の構成に加え、前記閾値は前記走行パワー確保電力と前記第1の値との和よりも所定値小さく設定されることを特徴とする。
【0013】
第4の発明に係る電気自動車の制御装置は、第1乃至3のうちいずれか1の発明の構成に加え、前記蓄電器からの電力供給を受けて作動する機器のうち前記車室内空調装置以外の補機を備え、前記車室内空調装置が消費可能な電力が、その蓄電器より前記電動機に電力を供給する必要がある場合は前記蓄電器の最大許容出力から前記補機の消費電力と前記電動機を駆動するための電力とを減じることで算出され、前記蓄電器より前記電動機に電力を供給する必要がない場合はその蓄電器の最大許容出力から前記補機の消費電力を減じることで算出されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明に係る電気自動車の制御装置によれば、車室内空調装置が消費可能な電力を蓄電器の残存容量ではなく蓄電器の最大許容出力に応じて算出するので、蓄電器の残存容量は高いが蓄電器の保護のために多くの電力を供給出来ない場合、例えば蓄電器の温度が所定値以上の場合、蓄電器の内部抵抗が所定値以上の場合等でも、車室内空調装置が消費可能な電力を適切に設定することが出来る。そして、車室内空調装置が消費可能な電力を、蓄電器の最大許容出力が車室内空調装置を停止するために予め設定された閾値以上の場合は予め設定された零より大きい第1の値以上且つ予め設定された第1の値より大きい第2の値以下の範囲内となるよう設定し、蓄電器の最大許容出力が車室内空調装置を停止するために予め設定された閾値未満の場合は零と設定することで、車室内空調装置の作動に必要最低限の電力を確保しつつ車室内空調装置により過度に電力が消費されるのを防ぐので、蓄電器は安定して電動機に電力を供給することが出来る。よって、蓄電器からの電力を電動機と車室内空調装置とに適切に供給し、車両の走行性能とドライバが求める空調性能と可及的に同時に満足させることが可能となる。
【0015】
第2の発明に係る電気自動車の制御装置によれば、蓄電器の最大許容出力の減少に伴い、当初は電動機を駆動するための電力を略一定の走行パワー確保電力に維持しつつ車室内空調装置の消費可能な電力を第1の値に向かって減少させることで車両の走行性能を優先させる。次いで、車室内空調装置の消費可能な電力が第1の値に到達するとその車室内空調装置の消費可能な電力の減少を停止させてその第1の値に維持させる一方で、電動機を駆動するための電力を略一定の走行パワー確保電力より減少させることで車室内空調装置の作動を優先させる。このように、車両の走行を優先させる領域と車室内空調装置の作動を優先させる領域とが明確化されることで、車両の走行性能と空調性能とを極端に落とさないようにすることが可能となる。
【0016】
第3の発明に係る電気自動車の制御装置によれば、車室内空調装置を停止するために予め設定された閾値を走行パワー確保電力と第1の値との和より所定値小さく設定するので、蓄電器の最大許容出力が極度に低くなり、空調性能と走行性能と同時に満足させることが出来なくなった場合に、確実に車室内空調装置を停止させ、電動機に電力を供給することが可能となる。
【0017】
第4の発明に係る電気自動車の制御装置によれば、車両が走行する走行レンジが選択されている場合は車室内空調装置が消費可能な電力を蓄電器の最大許容出力から補機の消費電力と電動機を駆動するための電力とを減じることで算出し、車両が停車する非走行レンジが選択されている場合は車室内空調装置が消費可能な電力を蓄電器の最大許容出力から補機の消費電力を減じることで算出するので、車両の走行状態に応じて車室内空調装置が消費可能な電力を適切に設定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る電気自動車の制御装置を搭載した車両の全体図を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る電気自動車の制御装置の構造を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る電気自動車の制御装置の機能ブロック図である。
【図4】本発明の実施形態に係る電気自動車の制御装置の車室内空調装置が消費可能な電力算出時の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施形態に係る電気自動車の制御装置の走行中の車室内空調装置が消費可能な電力の変化を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1及び図2を参照して、本発明の実施形態に係る電気自動車の制御装置200を搭載した車両の全体構造及び電気自動車の制御装置200の構造を説明する。
【実施例】
【0020】
制御装置200は、ECU100と、補機110と、バッテリECU120と、蓄電器122と、モータECU140と、インバータ142と、電動機144と、エアコンECU160と、車室内空調装置162とを有する。
【0021】
インバータ142は、図示しない6つのIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)と、各IGBTにそれぞれ並列に接続された図示しない6つのダイオードとを含み、モータECU140からの信号に基づいて、電動機144を制御する。インバータ142は電動機144を発電機として制御する場合は、各IGBTのゲートをオンまたはオフ(通電または遮断)して電動機144が発電した交流電力を直流電力に変換し、蓄電器122に充電する。インバータ142は電動機144を電動機として制御する場合は、各IGBTのゲートをオンまたはオフ(通電または遮断)して蓄電器122から供給された直流電力を交流電力に変換し、電動機144に供給する。
【0022】
電動機144は、インバータ142を介して蓄電器122及びモータECU140に接続され、インバータ142からの電流を受けて駆動し、駆動力を駆動輪90に伝達する。尚、車両の制動時には運動エネルギを消費して回生制動力を発生する発電機として機能し、蓄電器122に回生電力を供給することも可能である。
【0023】
車室内空調装置162は、蓄電器122からの電力供給を受けエアコンECU160により制御され車室内温度を設定値とするために温度調整作動する。尚、従来の自動車はエンジンを備えているため、このエンジンを暖房用の熱源として用いているが、電気自動車はエンジンを備えていない。そのため、電気自動車は熱源として図示しない暖房用のヒータを備えている。このヒータも蓄電器122からの電力の供給を受け作動しているので、特に冷間暖房時における車室内空調装置162の作動には大量の電力を必要とする。
【0024】
次に、図3の機能ブロック図を参照して、本発明の実施形態に係る電気自動車の制御装置200に設けられたECU100、エアコンECU160等の電子制御装置の制御機能について説明する。
【0025】
まず、ECU100はエアコン出力算出手段102と、シフトポジション検出手段104と、補機消費電力算出手段106と、プレ空調制御手段108とを有する。
【0026】
ECU100は、モータ走行中に後述するエアコン出力算出手段102が車室内空調装置162が消費可能な電力Wac(kW)を設定するために、後述する蓄電器最大許容出力算出手段126が算出する蓄電器122の最大許容出力Woutmax(kW)を読み込み、蓄電器122の最大許容出力Woutmaxの低下に応じて車室内空調装置162が消費可能な電力Wacを制御して走行パワー確保電力Wrunk(kW)を確保し、車両の走行性能を優先させる。この走行パワー確保電力Wrunkとは走行中にドライバより要求される駆動力を十分に満足することが出来るよう電動機144を駆動するために確保される電力であり、例えば20kW程度に予め設定されている。すなわち、ECU100は、蓄電器122の最大許容出力Woutmaxが走行パワー確保電力Wrunkと後述する例えば1kW程度に予め設定された車室内空調装置162の最低保障電力Wacmin(kW)との和より大きい区間では、電動機144を駆動するための電力Wrunを少なくとも予め設定されている走行パワー確保電力Wrunkとし、この区間では車両の走行性能を優先させる。また、蓄電器122の最大許容出力Woutmaxが走行パワー確保電力Wrunkと車室内空調装置162の最低保障電力Wacminとの和より小さい区間では、蓄電器122の最大許容出力Woutmaxより車室内空調装置162の最低保障電力Wacminと、後述する補機消費電力算出手段106より算出される補機110で消費される電力である補機消費電力Whkとを減じた出力を電動機144を駆動するための電力Wrunとし、この区間では車室内空調装置162の作動を優先させる。ECU100はこうして算出した電動機144を駆動するために確保される電力Wrunをエアコン出力算出手段102に送信する。そして、ECU100は、算出した電動機144を駆動するための電力Wrunを基に走行中にドライバより要求された駆動力を得られるように、電動機144の出力を制御する。
【0027】
つまり、ECU100は蓄電器122の最大許容出力Woutmaxの減少に伴い、当初は電動機144を駆動するための電力Wrunを略一定の走行パワー確保電力Wrunkに維持しつつ車室内空調装置162の消費可能な電力Wacを最大電力Wacmaxから最低保障電力Wacminに向かって減少させることで車両の走行性能を優先させる。次いで、車室内空調装置162の消費可能な電力Wacが最低保障電力Wacminに到達するとその車室内空調装置162の消費可能な電力Wacの減少を停止させてその最低保障電力Wacminに維持させる一方で、電動機144を駆動するための電力Wrunを略一定の走行パワー確保電力Wrunkより減少させることで車室内空調装置162の作動を優先させる。このように、車両の走行を優先させる領域と車室内空調装置162の作動を優先させる領域とが明確化されることで、車両の走行性能と空調性能とを極端に落とさないようにすることが可能となる。
【0028】
エアコン出力算出手段102は、後述するエアコンゲート状態検出手段164より車室内空調装置162内に設けられた図示しないゲートの開閉状態を示すゲート状態信号を受信し、ゲート状態信号を基に車室内空調装置162が車室内へ暖房又は冷房のための送風を行っているかを判断する。
【0029】
そして、エアコン出力算出手段102は、後述するエアコン制御手段166より車室内空調装置162の通常の温度調整作動を要求する信号である通常作動要求信号を、または後述するプレ空調制御手段108より車室内空調装置162のプレ空調作動を要求する信号であるプレ空調作動要求信号を受信すると、車室内空調装置162が消費可能な電力Wacを算出する。
【0030】
車室内空調装置162が消費可能な電力Wacの算出方法だが、まずエアコン出力算出手段102は、後述する蓄電器最大許容出力算出手段126にて算出される蓄電器122の最大許容出力Woutmaxを読み込む。そして、蓄電器122の最大許容出力Woutmaxが予め設定された空調停止判定値Wacoff(kW)より大きく、且つ受信している信号が通常作動要求信号の場合は、蓄電器122の最大許容出力Woutmaxから補機消費電力算出手段106より算出された補機消費電力Whkと電動機144を駆動するための電力Wrunとを減じることにより車室内空調装置162が消費可能な電力Wacを算出し、予め設定された最低保障電力Wacmin以上且つ予め設定された最大電力Wacmax以下となるよう車室内空調装置162が消費可能な電力Wacを書き換えてエアコン制御手段166に送信する。また、蓄電器122の最大許容出力Woutmaxが空調停止判定値Wacoffより大きく、且つ受信している信号がプレ空調作動要求信号の場合は、蓄電器122の最大許容出力Woutmaxより補機消費電力Whkとを減じることにより車室内空調装置162が消費可能な電力Wacを算出し、予め設定された最低保障電力Wacmin以上且つ予め設定された最大電力Wacmax以下となるよう車室内空調装置162が消費可能な電力Wacを書き換えてエアコン制御手段166に送信する。さらに、蓄電器122の最大許容出力Woutmaxが空調停止判定値Wacoffより小さい場合は、受信している信号に因らず車室内空調装置162が消費可能な電力Wacを零と算出してエアコン制御手段166に送信する。
【0031】
つまり、エアコン出力算出手段102は車室内空調装置162が消費可能な電力Wacを蓄電器122の残存容量SOC(%)ではなく蓄電器122の最大許容出力Woutmaxに応じて算出するので、蓄電器122の残存容量SOCは高いが蓄電器122の保護のために多くの電力を供給出来ない場合、例えば蓄電器122の温度が所定値以上の場合、蓄電器122の内部抵抗が所定値以上の場合等でも、車室内空調装置162が消費可能な電力Wacを適切に算出することが出来る。そして、車室内空調装置162が消費可能な電力Wacを、蓄電器122の最大許容出力Woutmaxが車室内空調装置162を停止するために予め設定された閾値である空調停止判定値Wacoff以上である場合は予め設定された零より大きい第一の値である車室内空調装置162の最低保障電力Wacmin以上且つ予め設定された最低保障電力Wacminより大きい第2の値である最大電力Wacmax以下の範囲内となるよう設定し、蓄電器122の最大許容出力Woutmaxが空調停止判定値Wacoff未満の場合は零と設定することで、車室内空調装置162の作動に必要最低限の電力を確保しつつ車室内空調装置162により過度に電力が消費されるのを防ぐので、蓄電器122は安定して電動機144に電力を供給することが出来る。よって、蓄電器122からの電力を電動機144と車室内空調装置162とに適切に供給し、車両の走行性能とドライバが求める空調性能と可及的に同時に満足させることが可能となる。また、エアコン出力算出手段102は空調停止判定値Wacoffを走行パワー確保電力Wrunkと車室内空調装置162の最低保障電力Wacminとの和より所定値小さく設定するので、蓄電器122の最大許容出力Woutmaxが極度に低くなり、空調性能と走行性能とを同時に満足させることが出来なくなった場合に、確実に車室内空調装置162を停止させ、電動機144に電力を供給することが可能となる。さらに、エアコン出力算出手段102は車両が走行する走行レンジが選択されている場合は車室内空調装置162が消費可能な電力Wacを蓄電器122の最大許容出力Woutmaxから補機消費電力Whkと電動機144を駆動するための電力Wrunとを減じることで算出し、車両が停車する非走行レンジが選択されている場合は車室内空調装置162が消費可能な電力Wacを蓄電器122の最大許容出力Woutmaxから補機消費電力Whkを減じることで算出するので、車両の走行状態に応じて車室内空調装置162に電力を適切に供給することが可能となる。
【0032】
シフトポジション検出手段104は、図示しないシフトレバーよりシフトポジション(P、R、N、D、B)を検出し、エアコン出力算出手段102に送信する。尚、Pポジションとは車両を駐車させる場合に選択されるポジションであり、Rポジションとは車両を後進走行させる場合に選択されるポジションであり、Nポジションとは電動機144と図示しない駆動軸とを連結しない場合に選択されるポジションであり、Dポジションとは車両を前進走行させる場合に選択されるポジションであり、Bポジションとは制動時に積極的に蓄電器122の充電を行う場合に選択されるポジションである。
【0033】
補機消費電力算出手段106は、車両に搭載された機器のうち車室内空調装置162を含まない補機110で消費される電力補機消費電力Whkを算出し、ECU100及びエアコン出力算出手段102に送信する。尚、ここで言う補機110とは例えばワイパーやヘッドライト等のことである。
【0034】
プレ空調制御手段108は、車両が予め設定された条件、例えば車両が停車中、蓄電器122の残存容量SOCが所定値以上、車室内温度が所定値以上等を満たしており、ドライバよりプレ空調が要求された場合に、車室内空調装置162をプレ空調作動させるようエアコン出力算出手段102とエアコン制御手段166とにプレ空調要求信号を送信する。尚、プレ空調とは車両が走行する前の停車中に予備的に車室内空調装置162を用いて車室内を空調しておくことである。
【0035】
バッテリECU120は、蓄電器残存容量算出手段124と、蓄電器最大許容出力算出手段126とを有する。
【0036】
蓄電器残存容量算出手段124は、予め記憶された関係から図示しないセンサより検出された蓄電器122の電圧値、電流値、温度を基に蓄電器122の残存容量SOCを算出し、蓄電器最大許容出力算出手段126に送信する。
【0037】
蓄電器最大許容出力算出手段126は、蓄電器残存容量算出手段124が算出した蓄電器122の残存容量SOCを受信し、予め記憶された関係から蓄電器122の残存容量SOCと蓄電器122の温度とを基に蓄電器122の最大許容出力Woutmaxを算出し、ECU100及びエアコン出力算出手段102に送信する。
【0038】
エアコンECU160は、エアコンゲート状態検出手段164と、エアコン制御手段166とを有する。
【0039】
エアコンゲート状態検出手段164は、車室内空調装置162内に設けられた図示しないゲートの開閉状態を検出し、ゲートの開閉状態をゲート状態信号としてエアコン出力算出手段102に送信する。
【0040】
エアコン制御手段166は、車両内に設けられた図示しないスイッチより車室内空調装置162の作動要求を検出した場合は、通常作動要求信号をエアコン出力算出手段102に送信する。そして、通常作動要求信号を受け算出された車室内空調装置162が消費可能な電力Wacをエアコン出力算出手段102より受信し、車室内空調装置162の消費電力が車室内空調装置162が消費可能な電力Wac以下となるよう車室内空調装置162を通常の温度調整作動を行うように制御する。また、プレ空調制御手段108よりプレ空調要求信号を受信した場合は、プレ空調要求信号を受け算出された車室内空調装置162が消費可能な電力Wacをエアコン出力算出手段102より受信し、車室内空調装置162の消費電力が車室内空調装置162が消費可能な電力Wac以下となるよう車室内空調装置162をプレ空調作動させて制御する。
【0041】
最後に、図4のフローチャート及び図5のタイムチャートを参照して、ECU100、エアコンECU160等の電子制御装置の制御作動のうち、車室内空調装置162の消費可能な電力Wacを算出する場合に実行されるECU100及びエアコン出力算出手段102の制御作動と、本発明の実施形態に係る電気自動車の制御装置200を搭載した車両の走行中の車室内空調装置162が消費可能な電力Wacの変化について説明する。
【0042】
図4において、ステップ(以下、Sと記す)1乃至7はエアコン出力算出手段102に対応している。S1では、シフトポジション検出手段104により検出されたシフトポジションを読み込む。
【0043】
S2では、S1にて検出されたシフトポジションがNポジションか否かを判断する。シフトポジションがNポジションである場合はS2の判断を肯定してS5を実行する。シフトポジションがNではない場合はS2の判断を否定してS3を実行する。
【0044】
S3では、S1にて検出されたシフトポジションがPポジションか否かを判断する。シフトポジションがPポジションである場合はS3の判断を肯定してS5を実行する。シフトポジションがPではない場合はS3の判断を否定してS4を実行する。
【0045】
S4では、プレ空調制御手段108よりプレ空調作動信号を受信しているか否かが判断する。プレ空調作動信号を受信している場合はS4の判断を肯定してS5を実行する。プレ空調作動信号を受信していない場合はS4の判断を否定してS6を実行する。
【0046】
S5では、S2にてシフトポジションがNポジションである非走行ポジション信号を、若しくはS3にてシフトポジションがPポジションである非走行ポジション信号を、若しくはS4にてプレ空調制御手段108よりプレ空調作動要求信号を受信していると判断したため、車両は停車中であり蓄電器122より電動機144に電力を供給する必要がないので、蓄電器最大許容出力算出手段126及び補機消費電力算出手段106より蓄電器122の最大許容出力Woutmaxと補機消費電力Whkとをそれぞれ読み込み、蓄電器122の最大許容出力Woutmaxから補機消費電力Whkを減じた出力を車室内空調装置162が消費可能な電力Wacとするようエアコン制御手段166に信号を送信し、S7を実行する。
【0047】
S6では、S4にてシフトポジションが走行ポジションであってNポジション又はPポジションでなく、さらにプレ空調制御手段108よりプレ空調作動要求信号を受信していないと判断したため、車両は走行中であり蓄電器122より電動機144に電力を供給する必要があるので、ECU100、蓄電器最大許容出力算出手段126及び補機消費電力算出手段106より走行パワー確保電力Wrunkと、蓄電器122の最大許容出力Woutmaxと、補機消費電力Whkとをそれぞれ読み込み、蓄電器122の最大許容出力Woutmaxから補機消費電力Whkと、走行パワー確保電力Wrunkとを減じた出力を車室内空調装置162が消費可能な電力Wacとするようエアコン制御手段166に信号を送信し、S7を実行する。尚、図5は走行中の車室内空調装置162の消費可能な電力Wacの変化を表しているので、蓄電器122の最大許容出力Woutmaxから補機消費電力算出手段106にて算出された補機消費電力Whkと走行パワー確保電力Wrunkとを減じた出力を車室内空調装置162が消費可能な電力Wacとしており、t1からt3がこの状態を示しているが、t1からt2の区間では後述のS13において車室内空調装置162が消費可能な電力Wacが一定の最大電力Wacmaxに制限されている。
【0048】
S7では、S5又はS6で算出した車室内空調装置162が消費可能な電力Wacが予め設定された車室内空調装置162の最低保障電力Wacmin以上か否かを判断する。車室内空調装置162が消費可能な電力Wacが車室内空調装置162の最低保障電力Wacmin以上場合はS7の判断を肯定してS9を実行する。車室内空調装置162が消費可能な電力Wacが車室内空調装置162の最低保障電力Wacmin未満である場合はS7の判断を否定してS8を実行する。
【0049】
S8はECU100とエアコン出力算出手段102とに対応している。S8では、S5又はS6で算出された車室内空調装置162が消費可能な電力Wacが車室内空調装置162の最低保障電力Wacmin未満とS7にて判断しており、電動機144を駆動するために確保される電力Wrunを走行パワー確保電力Wrunkよりも減少させて車室内空調装置162の作動に必要最低限の電力Wacminを確保する必要があるため、エアコン出力算出手段102は車室内空調装置162が消費可能な電力Wacを最低保障電力Wacminに書き換えて、さらにECU100は電動機144を駆動するための電力Wrunを蓄電器122の最大許容出力Woutmaxより車室内空調装置162の最低保障電力Wacminと、補機消費電力Whkとを減じた出力に書き換えて、S9を実行する。尚、図5のt3からt4がこの状態を示している。
【0050】
S9乃至13はエアコン出力算出手段102に対応している。S9では、エアコンゲート検出手段164からのゲート状態信号に基づいて車室内空調装置162内に設けられたゲートが閉状態であるか否かを判断する。車室内空調装置162内に設けられたゲートが閉状態である場合はS9の判断を肯定してS11を実行する。車室内空調装置162内に設けられたゲートが開状態である場合はS9の判断を否定してS10を実行する。
【0051】
S10では、蓄電器最大許容出力算出手段126にて算出された蓄電器122の最大許容出力Woutmaxが車両の退避走行を確保するために車室内空調装置162を停止させねばならない程極度に蓄電器122の放電機能が低下したことを示す予め設定された空調停止判定値Wacoff未満か否かを判断する。蓄電器122の最大許容出力Woutmaxが空調停止判定値Wacoff未満の場合はS10の判断を肯定してS11を実行する。蓄電器122の最大許容出力Woutmaxが空調停止判定値Wacoff以上の場合はS10の判断を否定してS12を実行する。
【0052】
S11では、S9にて車室内空調装置162内に設けられたゲートが閉状態であり車室内空調装置162より車室内に送風を行っていないと判断しており、車室内空調装置162に電力を供給する必要がないため、若しくはS10にて蓄電器122の最大許容出力Woutmaxが空調停止判定値Wacoff未満であると判断しており、最大許容出力Woutmaxが著しく低下し電動機144に蓄電器122の電力を補機110及び電動機144のうち少なくとも電動機144に供給し車両の退避走行を行う必要があるため、車室内空調装置162が消費可能な電力Wacを零に書き換えて、S12を実行する。尚、図5のt4以降がこの状態を示している。
【0053】
S12では、算出した車室内空調装置162が消費可能な電力Wacが車室内空調装置162の仕様から定まる予め設定された制限値である最大電力Wacmax以下か否かを判断する。車室内空調装置162が消費可能な電力Wacが車室内空調装置162の最大電力Wacmax以下の場合はS12の判断を肯定して本ルーチンを終了した後、次の制御サイクルを開始する。車室内空調装置162が消費可能な電力Wacが車室内空調装置162の最大電力Wacmaxより大きい場合はS12の判断を否定してS13を実行する。
【0054】
S13では、S12にて車室内空調装置162が消費可能な電力Wacが車室内空調装置162の最大電力Wacmaxより大きいと判断しており、何等かの原因によって車室内空調装置162により過度に電力が消費されるのを防ぐ必要があるため、車室内空調装置162が消費可能な電力Wacを車室内空調装置162の仕様から定まる予め設定された制限値である最大電力Wacmaxに書き換えて、本ルーチンを終了した後、次の制御サイクルを開始する。尚、図5のt1からt2がこの状態を示している。
【0055】
以上のように、本実施形態に係る電気自動車の制御装置200によれば、エアコン出力算出手段102は車室内空調装置162が消費可能な電力Wacを蓄電器122の残存容量SOC(%)ではなく蓄電器122の最大許容出力Woutmaxに応じて算出するので、蓄電器122の残存容量SOCは高いが蓄電器122の保護のために多くの電力を供給出来ない場合、例えば蓄電器122の温度が所定値以上の場合、蓄電器122の内部抵抗が所定値以上の場合等でも、車室内空調装置162が消費可能な電力Wacを適切に算出することが出来る。そして、車室内空調装置162が消費可能な電力Wacを、蓄電器122の最大許容出力Woutmaxが車室内空調装置162を停止するために予め設定された閾値である空調停止判定値Wacoff以上である場合は予め設定された零より大きい第一の値である車室内空調装置162の最低保障電力Wacmin以上且つ予め設定された最低保障電力Wacminより大きい第2の値である最大電力Wacmax以下の範囲内となるよう設定し、蓄電器122の最大許容出力Woutmaxが空調停止判定値Wacoff未満の場合は零と設定することで、車室内空調装置162の作動に必要最低限の電力を確保しつつ車室内空調装置162により過度に電力が消費されるのを防ぐので、蓄電器122は安定して電動機144に電力を供給することが出来る。よって、蓄電器122からの電力を電動機144と車室内空調装置162とに適切に供給し、車両の走行性能とドライバが求める空調性能と可及的に同時に満足させることが可能となる。
【0056】
また、本実施形態に係る電気自動車の制御装置200によれば、ECU100は蓄電器122の最大許容出力Woutmaxの減少に伴い、当初は電動機144を駆動するための電力Wrunを略一定の走行パワー確保電力Wrunkに維持しつつ車室内空調装置162の消費可能な電力Wacを最大電力Wacmaxから最低保障電力Wacminに向かって減少させることで車両の走行性を優先させる。次いで、車室内空調装置162の消費可能な電力Wacが最低保障電力Wacminに到達するとその車室内空調装置162の消費可能な電力Wacの減少を停止させてその最低保障電力Wacminに維持させる一方で、電動機144を駆動するための電力Wrunを略一定の走行パワー確保電力Wrunkより減少させることで車室内空調装置162の作動を優先させる。このように、車両の走行を優先させる領域と車室内空調装置162の作動を優先させる領域とが明確化されることで、走行性能と空調性能とを極端に落とさないようにすることが可能となる。
【0057】
また、本実施形態に係る電気自動車の制御装置200によれば、エアコン出力算出手段102は空調停止判定値Wacoffを走行パワー確保電力Wrunkと車室内空調装置162の最低保障電力Wacminとの和より所定値小さく設定するので、蓄電器122の最大許容出力Woutmaxが極度に低くなり、空調性能と走行性能とを同時に満足させることが出来なくなった場合に、確実に車室内空調装置162を停止させ、電動機144に電力を供給することが可能となる。
【0058】
また、本実施形態に係る電気自動車の制御装置200によれば、エアコン出力算出手段102は車両が走行する走行レンジが選択されている場合は車室内空調装置162が消費可能な電力Wacを蓄電器122の最大許容出力Woutmaxから補機消費電力Whkと電動機144を駆動するための電力Wrunとを減じることで算出し、車両が停車する非走行レンジが選択されている場合は車室内空調装置162が消費可能な電力Wacを蓄電器122の最大許容出力Woutmaxから補機消費電力Whkを減じることで算出するので、車両の走行状態に応じて車室内空調装置162に電力を適切に供給することが可能となる。
【0059】
尚、上述したのはあくまでも本発明の一実施例であり、本発明はその他の態様においても適用される。
【0060】
例えば、前述の実施例では電動機144を駆動源として走行する電気自動車であったが、シリーズ型ハイブリッド車両、パラレル型ハイブリッド車両、燃料電池車両のように蓄電器からの電力供給に基づいてモータ走行可能な車両においても適用される。
【0061】
また、前述の実施例の蓄電器122は、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池等の二次電池から構成されるものであってもよいが、高容量のキャパシタによって構成されたものでもよい。
【符号の説明】
【0062】
100:ECU、110:補機、122:蓄電器、144:電動機、162:車室内空調装置、200:制御装置、Woutmax:蓄電器の最大許容出力、Wacmax:車室内空調装置の最大電力、Wacmin:最低保障電力、Wrun:電動機を駆動するための電力、Wrunk:走行パワー確保電力、Whk:補機消費電力、Wacoff:空調停止判定値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電器からの電力供給を受けて車両を駆動する電動機と、該蓄電器からの電力供給を受けて車室内を温度調整する車室内空調装置とを備える電気自動車の制御装置であって、
前記蓄電器の最大許容出力が前記車室内空調装置を停止するために予め設定された閾値以上の場合に、前記車室内空調装置が消費可能な電力を、予め設定された零より大きい第1の値以上且つ予め設定された前記第1の値よりも大きい第2の値以下となるよう設定し、前記蓄電器の最大許容出力が前記閾値未満の場合に、前記車室内空調装置が消費可能な電力を零とすることを特徴とした、電気自動車の制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の電気自動車の制御装置であって、
前記蓄電器の最大許容出力の減少に伴って、前記電動機を駆動するための電力を予め設定された走行パワー確保電力に維持しつつ、前記車室内空調装置の消費可能な電力を予め設定された第1の値に向かって減少させ、該車室内空調装置の消費可能な電力が該第1の値に到達すると、該車室内空調装置の消費可能な電力の減少を停止させて該第1の値に維持させる一方で、前記電動機を駆動するための電力を前記走行パワー確保電力より減少させることを特徴とする。
【請求項3】
請求項2に記載の電気自動車の制御装置であって、
前記閾値は前記走行パワー確保電力と前記第1の値との和よりも所定値小さく設定されることを特徴とする。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちいずれか1に記載の電気自動車の制御装置であって、
前記蓄電器からの電力供給を受けて作動する機器のうち前記車室内空調装置以外の補機を備え、
前記車室内空調装置が消費可能な電力が、該蓄電器より前記電動機に電力を供給する必要がある場合は前記蓄電器の最大許容出力から前記補機の消費電力と前記電動機を駆動するための電力とを減じることで算出され、前記蓄電器より前記電動機に電力を供給する必要がない場合は該蓄電器の最大許容出力から前記補機の消費電力を減じることで算出されることを特徴とする。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−44849(P2012−44849A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186640(P2010−186640)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】