説明

電気自動車用減速差動装置

【課題】電動モータ及び遊星ギヤ型の減速機と差動装置とからなる電気自動車用減速差動装置において、当該装置の両側において同軸上に配置されるモータ側及び差動側の等速ジョイント間の距離を短縮することにより、等速ジョイントの取付け角度を小さくし、もって当該等速ジョイントの耐久性を向上させることである。
【解決手段】差動側等速ジョイントに含まれる差動側外輪17のステム17bに軸方向の軸受穴19が設けられ、前記軸受穴19に挿入された出力シャフト15の端部と前記軸受穴19の内径面との間に出力シャフト支持軸受22が介在された構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、モータを駆動源とした電気自動車用減速差動装置に関し、特に
軸方向の長さの短縮化を図ることによって車両のレイアウト上の制限を減少させ、等速ジョイントの取付け角度を小さくすることにより等速ジョイントの耐久性を向上するようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
電気自動車用減速差動装置として従来から知られているものは、電動モータ、遊星ギヤ型減速機、遊星ギヤ型差動装置の組み合わせにより構成されている(特許文献1、2)。前記減速機は前記電動モータのモータシャフトと一体化された入力シャフトを備え、前記差動装置は前記減速機の減速出力を入力とする。
【0003】
差動装置においては、遊星ギヤ機構を構成するサンギヤとキャリヤの2つの分配部材に出力が差動分配され、いずれか一方の分配部材(特許文献1の場合はサンギヤ、特許文献2の場合はキャリヤ)のセンターに挿入結合された出力シャフトが、減速機入力シャフト及びこれと一体のモータシャフトの内部を同軸状態に貫通する。その出力シャフトの先端部にモータ側等速ジョイントの外輪が連結される。また、他方の分配部材(特許文献1の場合はキャリヤ、特許文献2の場合はサンギヤ)のセンターに差動側等速ジョイントの外輪が連結される。
【0004】
前記の各外輪はそれぞれ左右の等速ジョイントの駆動側となり、被駆動側となる内部部材との間に一定の取付け角度が設けられる。その取付け角度は、各ジョイントから対応する車輪までの距離が一定であるとすると、減速差動装置の左右に配置されたモータ側及び差動装置側のジョイントの間の距離が短くなる。ジョイントの取付け角度が小さくなることで、ジョイント内部の各接触部に負荷されるジョイント一回転あたりの荷重負荷が小さくなり、ジョイント寿命が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−42656号公報
【特許文献2】特開平6−323404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の場合は、差動側等速ジョイントにおいて、出力シャフトを支持する軸受(特許文献1の図1の軸受8D)と、キャリヤを支持する軸受(同じく図1の軸受8A)との間に軸方向の一定の距離があるため、その距離分が等速ジョイント間の軸方向距離を長くする要因となっている。
【0007】
特許文献2の場合は、差動装置のキャリヤが出力シャフトに結合され、サンギヤが差動側等速ジョイントに連結される構造である。前記サンギヤに軸方向に伸びたボスが設けられ、そのボスには等速ジョイントのステムを挿入するに必要な一定長さを確保するために、サンギヤよりさらに軸方向に延び出した延設部が設けられる。その延設部の内径面に等速ジョイントのステムが挿入され結合一体化される。そのため、前記延設部の軸方向長さだけ等速ジョイント間の軸方向距離が長くなる。
【0008】
そこで、この発明は、等速ジョイント外輪の支持構造に改良を加え、左右の等速ジョイント間の距離を一層短縮することにより各等速ジョイントの取付け角度を小さくし、以って等速ジョイントの耐久性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するために、この発明は、同軸状態に配置された電動モータ、遊星ギヤ型の減速機及び遊星ギヤ型の差動装置、並びに前記各部材を収納したケーシング、出力シャフト、前記電動モータ側と差動装置側に分かれて配置されたモータ側等速ジョイントの外輪及び差動側等速ジョイントの外輪の組み合わせからなり、前記出力シャフトは前記電動モータのモータシャフトを貫通して配置されその両端部が出力シャフト支持軸受を介して前記ケーシングに支持され、前記電動モータの動力は前記減速機において減速され前記差動装置に出力され、減速された駆動力は前記差動装置において負荷の大きさに応じて差動分配されて2つの分配部材に出力され、一方の分配部材は前記出力シャフトを介して前記モータ側等速ジョイントの外輪に連結され、他方の分配部材は前記差動側等速ジョイントの外輪と連結された電気自動車用減速差動装置において、前記差動側等速ジョイントの外輪のステムに軸方向の軸受穴が設けられ、前記軸受穴に挿入された前記出力シャフトの端部と前記軸受穴の内径面との間に前記出力シャフト支持軸受が介在された構成としたものである。
【0010】
前記差動装置の2つの分配部材の一方の分配部材が差動側遊星ギヤ機構を構成する差動側サンギヤであり、他方の分配部材が当該遊星ギヤ機構のピニオンシャフトに連結された差動側キャリヤであり、前記出力シャフトの一端部が前記差動側サンギヤに連結された構成を採ることができる。
【0011】
その他、前記軸受穴が設けられた部分のステム外径面に前記差動側キャリヤのボスが嵌合一体化された構成、前記差動側キャリヤのボスと前記ステムがセレーション結合により嵌合一体化された構成、前記差動側キャリヤのボスの外径面と前記ケーシングとの間に差動側キャリヤ支持軸受が介在された構成などを採ることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、この発明によれば、差動側等速ジョイント側の出力シャフト支持軸受を、当該出力シャフト端部と、当該等速ジョイントの外輪のステムに設けた軸受穴の内径面との間に介在した構成としたものであるから、左右の等速ジョイント間の距離を短縮することができる。その結果、等速ジョイントの取付け角度が小さくなり当該等速ジョイントの耐久性が向上する。
【0013】
また、前記軸受穴が設けられた部分のステム外径面に前記差動側キャリヤのボスが嵌合一体化された構成を採ることによって一層前記の距離が短縮され、等速ジョイントの耐久性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実施形態1の断面図である。
【図2】図2は、同上の一部拡大断面図である。
【図3】図3は、図1のX1−X1線の断面図である。
【図4】図4は、図1のX2−X2線の断面図である。
【図5】図5は、遊星ギヤ機構のギヤの一部拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
[実施形態1]
【0016】
実施形態1に係る電気自動車用減速差動装置は、図1及び図2に示したように、同軸状態に配置された電動モータ11、遊星ギヤ型の減速機12及び遊星ギヤ型の差動装置13、並びに前記各部材を収納したケーシング14、出力シャフト15、前記電動モータ11側に配置されるモータ側等速ジョイントの外輪16(以下、モータ側外輪16と称する。)、及び差動装置13側に配置される差動側等速ジョイントの外輪17(以下、差動側外輪17と称する。)の組み合わせからなる。
【0017】
前記モータ側外輪16及び差動側外輪17はそれぞれカップ16a、17a及びステム16b、17bを有し、それぞれカップ16a、17aとステム16b、17bの間はカップ底板16c、17cによって区切られている。ステム16bには軸方向に貫通したセレーション穴18が設けられ、ステム17bには軸方向に貫通した軸受穴19が設けられる。
【0018】
前記出力シャフト15は電動モータ11の中空のモータシャフト21を貫通して配置され、その出力シャフト15の電動モータ11側の端部は、モータ側外輪16のステム16bのセレーション穴18に挿入され、セレーション結合により一体に連結される。また、出力シャフト15の差動装置13側の端部は、差動側外輪17のステム17bの軸受穴19に挿入される。出力シャフト15の挿入端部とステム17bの内径面との間に針状ころ軸受でなる出力シャフト支持軸受22が介在される。
【0019】
ケーシング14は、電動モータ11を収納したモータケーシング14aと、減速機12及び差動装置13を収納した減速差動ケーシング14b並びに差動装置13側のケーシング蓋14cを組み合わせたものである。
【0020】
モータケーシング14a及び減速差動ケーシング14bは、それぞれ一端が閉塞され他端が開放されている。モータケーシング14aの開放端に減速差動ケーシング14bの閉塞端が同軸状態に密着・結合され、また減速差動ケーシング14bの開放端にケーシング蓋14cが密着・結合される。
なお、ケーシング14の構造は、一例を示しているだけであり、これに限らずさらに分割した構造でもよい。
【0021】
モータケーシング14aの閉塞端部のセンターに軸穴23が設けられ、その軸穴23の内側に軸方向に突き出したボス24が設けられる。ボス24の内端内径面にモータシャフト21一端部が挿入され、両者の間に深溝玉軸受でなるモータシャフト支持軸受25が介在される。
【0022】
前記ボス24の外側開放端部に前記モータ側外輪16のステム16bが挿入され、そのステム16bとボス24の間に深溝玉軸受でなる出力シャフト支持軸26が介在される。その出力シャフト支持軸受26の外側に並んでステム16bとボス24の間にオイルシール27が装着され、モータケーシング14a内の潤滑油をシールする。
【0023】
前記のモータケーシング14aに収納された電動モータ11は、モータケーシング14aの内周面に固定されたステータ28と、その内径側においてモータシャフト21に一体に取り付けられたロータ29によって構成される。モータシャフト21の一端部は前記のモータシャフト支持軸受25によって支持され、他端部は減速差動ケーシング14bとの間に介在された深溝玉軸受でなるモータシャフト支持軸受31によって支持される。そのモータシャフト支持軸受31から減速機12側に突き出したモータシャフト21の端部は減速機入力シャフト30となっている。
【0024】
前記の減速差動ケーシング14bには、閉塞端部から順に、減速機12及び差動装置13が同軸状態に収納される。
【0025】
減速機12は、前記減速機入力シャフト30の先端部外周面に一体に設けられた減速側サンギヤ35(図2、図3参照)、その外径側において前記減速差動ケーシング14bの内径面に同軸状態に固定された減速側リングギヤ36、前記サンギヤ35とリングギヤ36の間において周方向の3個所に等間隔をおいて介在された減速側ピニオンギヤ37及び減速側キャリヤ38(図1、図2参照)により構成される。この場合、ピニオンギヤ37を3個使用する形式、即ち3ピニオン形式であるが、その数にはこだわらない。
【0026】
減速側ピニオンギヤ37はサンギヤ35とリングギヤ36に噛み合う。また、
前記ピニオンギヤ37は深溝玉軸受39(図2、図3参照)を介して減速側ピニオンシャフト41によって支持される。ピニオンシャフト41には、軸方向に貫通した通油穴42が設けられる。
【0027】
前記減速側ピニオンシャフト41の両端部は、図2に示したように、それぞれ減速側キャリヤ38と後述の差動側リングギヤ44の円板部44aによって支持される。
【0028】
前記減速側キャリヤ38は、図2に示したように、減速差動ケーシング14bの閉塞端と、減速側ピニオンギヤ37との間において、減速機入力シャフト30の回りに径方向のすき間をおいて嵌合される。減速側キャリヤ38と、前記閉塞端との間にスラスト軸受43が介在される。
【0029】
前記減速側キャリヤ38の外周縁の周方向複数個所には、差動装置13側に屈曲した結合片40(図1、図3参照)が設けられる。その結合片40を差動側リングギヤ44のリングギヤ円板部44aに差し込んで固定することにより、減速側キャリヤ38と差動側リングギヤ44とが結合一体化される。
【0030】
前記差動装置13は、図1、図2及び図4示したように、差動側リングギヤ44、その内径側において同軸状態に設けられた差動側サンギヤ45、前記リングギヤ44とサンギヤ45の間に介在され相互に噛み合ったダブルピニオン形式の差動側ピニオンギヤ46a、46b、これらのピニオンギヤ46a、46bを支持する差動側ピニオンシャフト47a、47b、これらのピニオンシャフト47a、47bを支持した差動側キャリヤ48によって構成される。
【0031】
前記差動側リングギヤ44は、円板部44aと、その円板部44aの外周縁を外向き(ケーシング蓋14cの向き)に屈曲形成された周縁部44b及びその周縁部44bの内径面に形成されたギヤ部44cによって構成される。円板部44aが出力シャフト15の外周に径方向のすき間をおいて同軸状態に嵌合・配置される(図2参照)。前記円板部44aと差動側サンギヤ45との間にスラスト軸受63が介在される。
【0032】
前記差動側サンギヤ45は、そのセンターに設けられたセレーション穴50に出力シャフト15が挿通され、セレーション結合によって当該出力シャフト15と一体化される。そのセレーション結合部から外方に突き出した出力シャフト15の先端部は、前記差動側外輪17のステム17bに挿入される。出力シャフト15の先端部とステム17bの内径面との間に針状ころ軸受でなる出力シャフト支持軸受22が介在される。ステム17bの部分は後述の差動側キャリヤ支持軸受54を介してケーシング蓋14cに支持される。差動側サンギヤ45には軸方向の通油穴62が設けられる。
なお、前記のセレーション結合の部分は、スプライン結合であってもよい。
【0033】
前記のダブルピニオン形式のピニオンギヤ46a、46bは、同一歯数の同一サイズのギヤである。図4に示したように、相互に噛み合うとともに、一方のピニオンギヤ46aは他方のピニオンギヤ46bより大きいPCDを有しリングギヤ44と噛み合い、PCDの小さいピニオンギヤ46bがサンギヤ45と噛み合う。各ピニオンギヤ46a、46bと各ピニオンシャフト47a、47bの間に、それぞれ針状ころ軸受58a、58bが介在される。各ピニオンシャフト47a、47bには給油穴66が設けられる。
【0034】
差動側キャリヤ48は、図2に示したように、ケーシング蓋14cの内側面に沿って配置され、差動側リングギヤ44の円板部44aに沿って配置された差動側キャリヤ補助部材49との間で前記のピニオンシャフト47a、47bの各両端部を支持する。差動側キャリヤ48の外周縁の複数個所には結合突部59が差動側キャリヤ補助部材49側に向けて設けられ(図1、図4参照)、その結合突部59の先端に設けられた小突起60が差動側キャリヤ補助部材49の結合穴61に挿入固定される。これによって、差動側キャリヤ48と差動側キャリヤ補助部材49が結合一体化される。
【0035】
前記差動側キャリヤ48は、センター穴の周りに外方に突き出したボス51を有し、そのボス51に差動側外輪17のステム17bが挿入される。ステム17bの外径面とボス51の内径面にはそれぞれセレーションが設けられ、両方のセレーションを強固に噛み合わせることによるセレーション結合部52が構成され、いわゆる嵌め殺しによる一体化を図っている。差動側キャリヤ48と差動側サンギヤ45との間にスラスト軸受64が介在される。
【0036】
前記差動側キャリヤ48のボス51とケーシング蓋14cのボス53との間に深溝玉軸受によって構成されたキャリヤ支持軸受54が介在され、差動側キャリヤ48と差動側外輪17をケーシング蓋14cにおいて支持するようにしている。
【0037】
前記のキャリヤ支持軸受54の押さえリング55が前記ケーシング蓋14cのボス53の外側面にボルト56によって固定される。その押さえリング55とステム17bとの間にオイルシール57が装着され、減速差動ケーシング14b内の潤滑油をシールする。
【0038】
実施形態1の電気自動車用減速差動装置は以上のように構成され、次にその作用について説明する。
【0039】
電動モータ11(図1参照)が駆動されると、そのモータシャフト21が回転し、同時にそのモータシャフト21と一体の減速機入力シャフト30及びその入力シャフト30と一体の減速側サンギヤ35が回転する。減速側サンギヤ35に噛み合った減速側ピニオンギヤ37は自転しつつ公転する。その公転によって減速側キャリヤ38が減速回転され、その減速回転が差動装置13側の差動側リングギヤ44へ出力される。
【0040】
減速側サンギヤ35の歯数をZs、減速側リングギヤ36の歯数をZrとした場合の減速比は、周知のように、Zs/(Zs+Zr)となる。
【0041】
車両の一方の車輪の負荷は、モータ側外輪16を含むモータ側等速ジョイント、出力シャフト15を介して差動側サンギヤ45に加えられ、他方の車輪の負荷は、差動側外輪17を含む差動側等速ジョイントを介して差動側キャリヤ48に加えられる。両方の車輪に作用する負荷が均等である場合は、差動側サンギヤ45、ピニオンギヤ46a、46b、キャリヤ48は、リングギヤ44の入力回転に伴って一体となって回転し、相対回転することがない。このため、入力回転がモータ側外輪16及び差動側外輪17に均等に配分され、それぞれの等速ジョイントを介して左右の車輪を等速回転させる。
【0042】
これに対し、左右の車輪に作用する負荷に差が生じると、ピニオンギヤ46a、46bの自転と公転によって入力回転は負荷の差に応じてモータ側外輪16及び差動側外輪17を経て左右の車輪に差動分配される。
【0043】
即ち、モータ側外輪16を通じて出力シャフト15に作用する負荷が相対的に大きくなり、これと一体のサンギヤ45の回転数Nsが、リングギヤ44の入力回転数NrよりΔNだけ小さくなった場合、キャリヤ48の回転数Ncは、
Nc=Nr+λ/(1−λ)・ΔN
となり、キャリヤ48及びこれと一体の差動側外輪17が増速される。但し、λは歯車比(=Zs/Zr)、Zsはサンギヤ45の歯数、Zrはリングギヤ44の歯数である。
【0044】
逆に、差動側外輪17に作用する負荷が相対的に大きくなり、これと一体のキャリヤ48の回転数Ncが、入力回転数NrよりΔNだけ小さくなった場合、サンギヤ45の回転数Nsは、
Ns=Nr+(1−λ)/λ・ΔN
となり、出力シャフト15が増速される。
【0045】
以上述べた実施形態1の電気自動車用減速差動装置の潤滑方式は、油浴潤滑が採用される。即ち、ケーシング14の内部において、モータケーシング14a、減速差動ケーシング14bに共通の潤滑油が油面Lで示す位置まで収納される。電動モータ11のステータ28は油面Lに浸かるが、ロータ29は浸からないようにする。こうすると、ロータ29が回転してもロータ29によって潤滑油が攪拌されることはなく、攪拌による損失を小さくすることができる。
【0046】
減速機12においては、減速側キャリヤ38の外周部に設けられた結合片40及び減速側ピニオンギヤ37が、回転の途中において潤滑油の油面L以下の油中を通過することにより、潤滑油の掻き上げ作用を行う。掻き上げられた潤滑油は減速機12の内部に飛散され各部品に掛けられる。その一部は、減速側ピニオンシャフト41の通油穴42を通過して軸方向に移動する。
【0047】
差動装置13においては、差動側キャリヤ48の外周部に設けられた結合突部59、差動側ピニオンギヤ46a、46b等が、それぞれ潤滑油の掻き上げ作用を行う。掻き上げられた潤滑油は、差動装置13の内部に飛散され各部品に掛けられる。その一部は、差動側サンギヤ45に設けられた通油穴62を通過して軸方向に移動する。
【0048】
前記の作動中、潤滑油がケーシング14の外部に漏れ出すことは、左右2個所のオイルシール27、57によって防止される。また、ケーシング14の内部において、モータケーシング14aと減速差動ケーシング14bに溜まった潤滑油は、減速差動ケーシング14bの閉塞壁に設けられた連通穴65を通って行き来する。
【0049】
前記の油浴潤滑によると、軸受部分への給油だけでなく、各種ギヤの噛み合い部分にも給油されるが、ギヤの歯面の潤滑性を一層向上させるために、ギヤの歯面に以下のような粗面加工を施すことが有効である。
【0050】
即ち、減速機12及び差動装置13の遊星ギヤ機構を構成するギヤにおいては、図5に示したように、これらのギヤの歯面71を形成する歯先部72、歯たけ部73及び歯底部74に無数の微小なくぼみ75をランダムに設ける。
【0051】
前記歯面71の表面粗さパラメータは、Ryniが2.0〜5.5μm、Rymaxが2.5〜7.0μm、Rqniが0.3〜1.1μm、Rskが1.6以下に設定される。
【0052】
前記の微小なくぼみ75が油溜まりとなるので、油浴潤滑の場合であっても十分な耐久性を保つことができる。その結果、ギヤ自体の小型化、装置全体の小型化に資することができる。
【0053】
前記の粗面加工は、減速機12及び差動装置13の各遊星ギヤ機構のうち、最も直径の小さいギヤの歯面に施すことが望ましい。減速機12においてはサンギヤ35、差動装置13においては差動側ピニオンギヤ46a、46bは、それぞれ他のギヤに比べて小さく、負荷回数が多くなることから、他のギヤに比べ前記の粗面加工を施すことが有効である。場合によっては、サンギヤ35とピニオンギヤ46a、46bの両方に施した方がよい場合がある。
【0054】
前記の微小なくぼみ75をランダムに形成するには、歯面71をジャイロ研磨、バレル研磨等によって平滑化したのち、平滑化した歯面にくぼみ形成手段を施すことにより行う。その場合のくぼみ形成手段としては、ショットピーニング加工、液体ホーニング加工等によって酸化アルミニウム等を主成分とした微小な硬質粒子を衝突させる方法により行う。
【符号の説明】
【0055】
11 電動モータ
12 減速機
13 差動装置
14 ケーシング
14a モータケーシング
14b 減速差動ケーシング
14c ケーシング蓋
15 出力シャフト
16 モータ側外輪
16a カップ
16b ステム
16c カップ底板
17 差動側外輪
17a カップ
17b ステム
17c カップ底板
18 セレーション穴
19 軸受穴
21 モータシャフト
22 出力シャフト支持軸受
23 軸穴
24 ボス
25 モータシャフト支持軸受
26 出力シャフト支持軸受
27 オイルシール
28 ステータ
29 ロータ
30 減速機入力シャフト
31 モータシャフト支持軸受
35 減速側サンギヤ
36 減速側リングギヤ
37 減速側ピニオンギヤ
38 減速側キャリヤ
39 深溝玉軸受
40 結合片
41 減速側ピニオンシャフト
42 通油穴
43 スラスト軸受
44 差動側リングギヤ
44a 円板部
44b 周縁部
44c ギヤ部
45 差動側サンギヤ
46a、46b 差動側ピニオンギヤ
47a、47b 差動側ピニオンシャフト
48 差動側キャリヤ
49 差動側キャリヤ補助部材
50 セレーション穴
51 ボス
52 セレーション結合部
53 ボス
54 差動側キャリヤ支持軸受
55 押さえリング
56 ボルト
57 オイルシール
58a、58b 針状ころ軸受
59 結合突部
60 小突起
61 結合穴
62 通油穴
63 スラスト軸受
64 スラスト軸受
65 連通穴
66 給油穴
71 歯面
72 歯先部
73 歯たけ部
74 歯底部
75 くぼみ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸状態に配置された電動モータ、遊星ギヤ型の減速機及び遊星ギヤ型の差動装置、並びに前記各部材を収納したケーシング、出力シャフト、前記電動モータ側と差動装置側に分かれて配置されたモータ側等速ジョイントの外輪及び差動側等速ジョイントの外輪の組み合わせからなり、前記出力シャフトは前記電動モータのモータシャフトを貫通して配置されその両端部が出力シャフト支持軸受を介して前記ケーシングに支持され、前記電動モータの動力は前記減速機において減速され前記差動装置に出力され、減速された駆動力は前記差動装置において負荷の大きさに応じて差動分配されて2つの分配部材に出力され、一方の分配部材は前記出力シャフトを介して前記モータ側等速ジョイントの外輪に連結され、他方の分配部材は前記差動側等速ジョイントの外輪と連結された電気自動車用減速差動装置において、前記差動側等速ジョイントの外輪のステムに軸方向の軸受穴が設けられ、前記軸受穴に挿入された前記出力シャフトの端部と前記軸受穴の内径面との間に前記出力シャフト支持軸受が介在されたことを特徴とする電気自動車用減速差動装置。
【請求項2】
前記差動装置の2つの分配部材の一方の分配部材が差動側遊星ギヤ機構を構成する差動側サンギヤであり、他方の分配部材が当該遊星ギヤ機構のピニオンシャフトに連結された差動側キャリヤであり、前記出力シャフトの一端部が前記差動側サンギヤに連結されたことを特徴とする請求項1に記載の電気自動車用減速差動装置。
【請求項3】
前記軸受穴が設けられた部分のステム外径面に前記差動側キャリヤのボスが嵌合一体化されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の電気自動車用減速差動装置。
【請求項4】
前記差動側キャリヤのボスと前記ステムがセレーション結合により嵌合一体化されたことを特徴とする請求項3に記載の電気自動車用減速差動装置。
【請求項5】
前記差動側キャリヤのボスの外径面と前記ケーシングとの間に差動側キャリヤ支持軸受が介在されたことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の電気自動車用減速差動装置。
【請求項6】
前記モータ側等速ジョイントの外輪のステムに軸方向のセレーション穴が設けられ、そのセレーション穴に挿入された出力シャフトの端部と前記ステムとがセレーション結合により一体化され、前記ステムと前記ケーシングとの間に出力シャフト支持軸受が介在されたことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の電気自動車用減速差動装置。
【請求項7】
前記他方の出力シャフト支持軸受の軸方向外側において、当該ステムとケーシングの間にオイルシールが介在されたことを特徴とする請求項6に記載の電気自動車用減速差動装置。
【請求項8】
前記減速機及び差動装置の遊星ギヤ機構を構成する歯車の歯面に微小な凹形状のくぼみをランダムに無数に設け、この面の面粗さパラメータを、Ryniが2.0〜5.5μm、Rymaxが2.5〜7.0μm、Rqniが0.3〜1.1μm、Rskが1.6以下に設定したことを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の電気自動車用減速差動装置。
【請求項9】
前記微小な凹形状のくぼみを、少なくとも減速機の遊星ギヤ機構のうち直径が最も小さいギヤの歯面に設けたことを特徴とする請求項8に記載の電気自動車用減速差動装置。
【請求項10】
前記微小な凹形状のくぼみを、少なくとも差動装置の遊星ギヤ機構のうち直径が最も小さいギヤの歯面に設けたことを特徴とする請求項8に記載の電気自動車用減速差動装置。
【請求項11】
前記歯面をジャイロ研磨によって平滑化し、この平滑化した歯面に、前記無数のくぼみを、酸化アルミニウムを主成分とした微小な硬質粒子を衝突させるくぼみ形成手段でランダムに形成したことを特徴とする請求項9又は10に記載の電気自動車用減速差動装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−241770(P2012−241770A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111154(P2011−111154)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】