説明

電気自動車等の走行抵抗低減方法

【課題】電気自動車等の空気抵抗、転がり抵抗の低減方法の提案。
【解決手段】平坦化した車両床下に積極的に走行風を流して走行抵抗係数の低減を図るとともに、特に高速走行時における走行の安定性を損なうことのない範囲内で、前記床下走行風によって揚力を発生させる揚力発生機構を設け、揚力の発生による車両接地荷重の低減即ち転がり抵抗の低減を図る。
また揚力発生機構による揚力発生量は車両重量等の変化に対応して可変とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、例えば電気自動車等、車両容積に比べて重量の大きな車両における走行抵抗低減のための車両の空気力学的構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の走行抵抗の主体は転がり抵抗と空気抵抗である。転がり抵抗、空気抵抗は各々(数1)、(数2)であらわされる。
【0003】
(数1)
Rr =μr・W
ここで、
Rr :転がり抵抗、
μr :転がり抵抗係数、
W :車両重量、
である。
従って転がり抵抗低減には車両重量の低減が必要となる。
【0004】
(数2)
Ra =Cd・ρ・S・V2 /2
ここで、
Ra :空気抵抗、
Cd :空気抵抗係数、
ρ:空気密度、
S:車両前面投影面積、
V:車速、
である。
【0005】
即ち、(数2)で示される如く、空気抵抗は空気抵抗係数Cdおよび車両前面投影面積Sに比例することから、車両機能・室内容積等は不変即ち車両前面投影面積Sは不変とすると、空気抵抗を低減するためには空気抵抗係数を低減しなければならない。
空気抵抗係数を低減する有効な方策として車両の上面・側面に加えて下面(床下)走行風をスムースに流す方法(特許文献1)があるが、床下に走行風を流すことによって揚力が生じ、これによる接地荷重の減少は、特に車両重量の小さな小型車両では、走行安定性悪化につながる恐れがある。そこで前記接地荷重を確保するためのダウンフォース発生を促す種々の工夫がなされることになる(特許文献2、特許文献3)。
【0006】
一方、地球温暖化対策車両として最も期待されている電気自動車においては、一回の充電での走行距離を従来のガソリン車(の一回の給油での走行距離)に近づけるため、車両に搭載するバッテリーの容量を大きくしなければならない、即ち大容量のバッテリーを搭載しなければならない。この結果として車両重量は従来のガソリンエンジン車等に比べて大きく従って転がり抵抗が増加し、電気自動車最大の特徴である省エネルギー性能を低減させてしまうという問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−120769
【特許文献2】特開2005−297783
【特許文献3】特開2009−143396
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明は、例えば電気自動車の如く大容量バッテリー搭載の結果としての車両重量増大、従って転がり抵抗の増加による省エネルギー性能の低下、に対応しての空気力学的に有効な走行抵抗、即ち空気抵抗および転がり抵抗、の低減策を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明においては、空気抵抗低減は主として車両床下の平坦化による空気抵抗係数の低減によって、また転がり抵抗軽減は前記積極的に取り込んだ床下走行風の活用による車両揚力増大による接地荷重の低減即ち車両重量の低減によって、各々行う。
【0010】
電気自動車においては、大容量のバッテリーを一般的には車両下部(床部分)に敷設する。この結果車両の重心はガソリンエンジン車等の従来車と比べて下がり車両の走行安定性は向上する。
この大容量バッテリー搭載による車両重量の増加及び重心の低下によって、車両の空気抵抗係数を低減させることを目的として床下に走行風を積極的に流しても、走行安定性に支障をきたすほどの揚力の増加、従って接地荷重の低減、にはならないどころか、前記床下走行風を利用したさらなる揚力の増加、従って接地荷重の低減、も可能となる。
【0011】
そこで車両の空気抵抗係数低減を目的として車両床下に積極的に走行風を流すための床下構造の平坦化に加えて、例えば床下後端形状を、走行風によって必要な揚力が得られるように後方下がり型(走行風の流れを下向きに曲げる構造)とする、あるいは車体の床下に左右の懸架装置をつなぐトーションビーム型サスペンションが採用された車両において、トーションビーム断面構造を後下がりの翼状形状(車両前方に比べて後方が下がっている翼断面形状、図1参照)とする等によって床下走行風による揚力を発生させ接地荷重の低減即ち転がり抵抗の低減を図る。
【0012】
あるいは、車両床下走行風に限らず車両上方あるいは側方走行風に対して、従来ダウンフォースを発生させるために用いられたエアロパーツの形状・取り付けを揚力発生のために上下反転させた形状・取り付けに変える、例えばリアウイング(リアスポイラー)の取り付けを、図2(b)に示すごとく、ダウンフォース発生の取り付け状態から、図2(a)に示すごとく揚力発生のための取り付け状態に変える、ことによっても車両の接地荷重の低減即ち転がり抵抗の低減を図ることができる。
【0013】
上記の如く積極的に揚力を増大させて車両の転がり抵抗を低減させることの結果として、想定される車両走行安定性の低下は、上記揚力発生機構を、走行風に正対したときは大きな揚力を発生するが、正対状態から一定量ずれた場合には揚力量は急激に低下するように設定・調整すること、たとえば車両移動方向に揚力発生機構が正対しない場合、即ち車両進行方向が直進状態から一定角度ずれた場合、揚力発生機構に対する走行風の流入量は大幅に低減されるように車両前面における走行風の取り込み量を制限するガイド機構を設ける等、によって、解決可能である。
この結果、例えば車両がコーナーを曲がるときには走行風の揚力発生装置への流入量が低減することになり、高速走行時の遠心力によるスリップあるいはスピンの発生は防止できる等、走行安定性の低下は実質的には起こらないようにすることが可能となる。
【0014】
一方、車両に許容される揚力、即ち走行安定性に支障をきたさない揚力、はその走行速度あるいは車両重量(例えば乗員は運転者一人のみかあるいは定員一杯の乗員数か、貨物積載量は多いのか否か等)によって異なってくる。従って、揚力を有効に活用するためには、その時の乗員数あるいは積載物等によって変化する車両の接地荷重に対応した最適な揚力が発生できるように揚力発生機構の設定・調整を最適化する必要がある。
具体的には接地荷重を、車両床面から道路面までの距離、あるいは懸架装置を構成するコイルスプリングの圧縮量等、から検知してそれに対応した揚力発生機構の発生揚力を最適化する、たとえばトーションビーム断面翼の走行風に対する迎え角を最適設定する等の調整を行う、ことによって発生させる揚力量を最適化する。
【0015】
但しこの揚力最適化のための設定・調整は、設定・調整動作によって走行安定性に支障がないように、車両の停止中あるいは定速走行中に行う、あるいは車両重量変化に自動的に対応できるような構造、たとえば懸架装置スプリングの圧縮量に対応して翼状トーションビームの走行風に対する迎え角が変化する構造、とする必要がある。
【発明の効果】
【0016】
このような空気力学的構造の採用によって、特に高速走行時においては、空気抵抗係数Cd の低減によって車両の空気抵抗は低減するとともに、揚力の発生によって接地荷重の低減による車両の転がり抵抗は低減する。即ち省エネルギー、地球温暖化ガス削減を目的とした電気自動車の車両重量増加による省エネルギー化・地球温暖化ガス削減化性能の劣化がある範囲内で防げることになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本願発明の基本的考え方を説明するための翼型断面構造をもつトーションビームと床下走行風及び揚力の関係図、
【図2】ダウンフォース発生と揚力発生のためのエアロパーツの取り付け方法比較説明図、である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以上、電気自動車に対する本願発明の適用を述べてきたが、本願発明は必ずしも電気自動車にその適用範囲を限定するものではない。
車両重量、したがって接地荷重が大きく、接地荷重を揚力によって低減しても車両の走行安定性に支障をきたさない車両、たとえばエンジン/モータハイブリッド車、燃料電池車、あるいは積載量の大きな大型ディーゼルトラック等においても適用可能である。
即ち、車両の走行安定性に支障をきたさない範囲で、床下走行風を整流された状態で積極的に流すこと、および接地荷重低減のための揚力の付加を目的とした車体構造の採用、エアロパーツの装備、等が可能であれば当該車両の空気抵抗、転がり抵抗の低減即ち車両駆動エネルギーの効率的利用、地球温暖化ガス排出量の削減が可能となる。
以下に、本願発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は、車両の揚力を増大させるための方策として、車体の床下に左右の懸架装置をつなぐトーションビーム型サスペンションが採用された車両において、トーションビーム断面構造を後ろ下がりの翼状形状とすることによって車両の揚力増加を図る場合の基本的考え方を例示している。
即ち、断面が翼状形状のトーションビームを車両前方から車両後方に通過する床下走行風下に図に示す如く設置することによって、トーションビームに揚力が加わり、本揚力によって車両接地荷重の低減即ち車両転がり抵抗の低減が可能となる。
【実施例2】
【0020】
車両の揚力を増大させる方策は、原理的には、従来ダウンフォースを発生させるための方策を、ダウンフォースと上下逆の力即ち揚力を発生させるように、その形状・取り付け条件等を上下反転させる。たとえば図2(b)に示すごとくダウンフォースを発生させるために車両後部に設置されるリアウイング(リアスポイラー)翼断面の上下向きを図2(a)に示すごとく反転させて揚力を発生させる等によって実現可能である。
【符号の説明】
【0021】
図1において、
1:後ろ下がりの翼状断面形状をもったトーションビーム、
である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦化して走行風が安定して流れるようにした車両床下に積極的に走行風を流して車両の空気抵抗低減を図るとともに、走行の安定性を損なうことのない範囲内で、前記走行風が通過する車両床下に前記走行風による揚力発生機構を設けて揚力を発生させ、車両接地荷重の低減による転がり抵抗を低減を図ること、を特徴とする電気自動車等の走行抵抗低減方法。
【請求項2】
車体の床下に左右の懸架装置をつなぐトーションビーム型サスペンションを採用した車両において、トーションビーム断面構造を後ろ下がりの翼状形状とし、そこを通過する床下走行風によって揚力を発生させることを特徴とする請求項1記載の電気自動車等の走行抵抗低減方法。
【請求項3】
車両走行の向きが直進状態から一定角度以上変化したとき、走行風通過によって揚力を発生する揚力発生機構の発生揚力量が急激に低減するように走行風量および走行風の向きと揚力発生機構の相対関係を構成・設定することを特徴とする請求項1あるいは/および請求項2記載の電気自動車等の走行抵抗低減方法。
【請求項4】
走行風通過によって揚力を発生する揚力発生機構の揚力量は、車両重量変化に対して可変であることを特徴とする請求項1あるいは/および請求項2記載の電気自動車等の走行抵抗低減方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−251623(P2011−251623A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126623(P2010−126623)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(301001199)
【Fターム(参考)】