説明

電池用組成物

【課題】導電助剤を含む電池用組成物において、導電助剤の導電性を阻害せずに分散安定化を図ることにより、これを用いて作製される電池の電池性能を向上させること。
【解決手段】酸性官能基を有するキナクリドン誘導体を含む分散剤と、導電助剤としての炭素材料と、必要に応じて酸と、溶剤とバインダーと、正極活物質または負極活物質とを含む電池用組成物、および集電体上に正極合材層を有する正極と、集電体上に負極合材層を有する負極と、リチウムを含む電解質とを具備するリチウム二次電池であって、前記正極合材層、前記負極合材層が、前記電池用組成物を使用して形成されているリチウム二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池を構成する電極を作製するために使用する組成物の製造方法に関する。特に、本発明の製造方法により作成された電極用組成物は、リチウム二次電池の作製に好適に用いられる。また、本発明は、大電流での放電特性あるいは充電特性、サイクル特性、および電極合材の導電性に優れ、電極集電体と電極合材との接触抵抗が小さい電極を具備するリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラや携帯電話のような小型携帯型電子機器が広く用いられるようになってきた。これらの電子機器には、容積を最小限にし、かつ重量を軽くすることが常に求められてきており、搭載される電池においても、小型、軽量かつ大容量の電池の実現が求められている。また、自動車搭載用などの大型二次電池においても、従来の鉛蓄電池に代えて、大型の非水電解質二次電池の実現が望まれている。
【0003】
そのような要求に応えるため、リチウム二次電池の開発が活発に行われている。リチウム二次電池の電極としては、リチウムイオンを含む正極活物質と導電助剤と有機バインダーなどからなる電極合材を金属箔の集電体の表面に固着させた正極、及び、リチウムイオンの脱挿入可能な負極活物質と導電助剤と有機バインダーなどからなる電極合材を金属箔の集電体の表面に固着させた負極が使用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、正極活物質としては、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム等のリチウム遷移金属複合酸化物が用いられているが、これらは電子伝導性が低く、単独での使用では十分な電池性能が得られない。そこで、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック)やグラファイト(黒鉛)等の炭素材料を導電助剤として添加することで導電性を改善し、電極の内部抵抗を低減することが試みられている。
【0005】
一方、負極活物質としては、通常黒鉛が用いられている。黒鉛はそれ自身が導電性を有しているものの、黒鉛とともに導電助剤としてアセチレンブラック等のカーボンブラックを添加すると充放電特性が改善されることが知られている。これは、一般に用いられる黒鉛粒子は大きいために、黒鉛単独で使用すると電極層に充填された時の隙間が多くなってしまうが、導電助剤としてカーボンブラックを併用した場合は、微細なカーボンブラック粒子が黒鉛粒子間の隙間を埋めることで接触面積が増え、抵抗が下がるためではないかと思われる。しかしながら、この場合も導電助剤の分散が不十分であると、導電効果が低減する。
【0006】
この様に、とりわけ電極の内部抵抗を低減することは、大電流での放電を可能とすることや、充放電の効率を向上させる上で非常に重要な要素の一つとなっている。
【0007】
しかしながら、導電性に優れた炭素材料(導電助剤)は、ストラクチャーや比表面積が大きいため凝集力が強く、リチウム二次電池の電極合材形成用スラリー中に均一混合・分散することが困難である。そして、導電助剤である炭素材料の分散性や粒度の制御が不十分な場合、均一な導電ネットワークが形成さないために電極の内部抵抗の低減が図れず、その結果、活物質であるリチウム遷移金属複合酸化物やグラファイトなどの性能を十分に引き出せないという問題が生じている。また、電極合材中の導電助剤の分散が不十分であると、部分的凝集に起因して電極板上に抵抗分布が生じ、電池として使用した際に電流が集中し、部分的な発熱および劣化が促進される等の不具合が生ずることがある。
【0008】
また、金属箔などの電極集電体上に電極合材層を形成する場合、多数回充放電を繰り返すと、集電体と電極合材層の界面や、電極合材内部における活物質と導電助剤界面の密着性が悪化し、電池性能が低下する問題がある。これは、充放電におけるリチウムイオンのドープ、脱ドープにより活物質および電極合材層が膨張、収縮を繰り返すために、電極合材層と集電体界面および、活物質と導電助剤界面に局部的なせん断応力が発生し界面の密着性が悪化するためと考えられている。そしてこの場合も、導電助剤の分散が不十分であると、密着低下が著しくなる。これは、粗大な凝集粒子が存在すると、応力が緩和されにくくなるためであると思われる。
【0009】
また、電極集電体と電極合材間の問題として、例えば正極の集電体としてアルミニウムを用いると、この表面に絶縁性の酸化皮膜が形成され、電極集電体と電極合材間の接触抵抗が上昇するといった問題もある。
【0010】
前述の様な電極集電体と電極合材間の不具合に対して、いくつかの提案がなされている。例えば特許文献1および特許文献2には、カーボンブラック等の導電剤を分散した塗膜を、電極下地層として集電極上に形成する方法が試みられているが、この場合も導電剤の分散が悪いと十分な効果が得られない。
【0011】
リチウム二次電池においては導電助剤である炭素材料の分散が重要なポイントの一つである。特許文献3、特許文献4には、カーボンブラックを溶剤に分散する際に、分散剤として界面活性剤を用いる例が記載されている。しかしながら、界面活性剤は炭素材料表面への吸着力が弱いため、良好な分散安定性を得るには界面活性剤の添加量を多くしなければならず、この結果、含有可能な活物質の量が少なくなり、電池容量が低下してしまう。また、界面活性剤の炭素材料への吸着が不十分であると、炭素材料が凝集してしまう。また、一般的な界面活性剤では、水溶液中での分散と比較して、有機溶剤中での分散効果が著しく低い。
【0012】
また、特許文献5および特許文献6には、カーボンブラックを溶剤に分散する際に、分散樹脂を添加することでカーボンスラリーの分散状態を改善し、そのカーボンスラリーと、活物質とを混合して、電極用合材を作成する方法が開示されている。しかしながら、この方法では、カーボンブラックの分散性は向上するものの、比表面積の大きな微細なカーボンブラックの分散を行う場合には大量の分散樹脂が必要となること、および分子量の大きな分散樹脂がカーボンブラック表面を被覆してしまうことなどから、導電ネットワークが阻害され電極の抵抗が増大し、結果的にカーボンブラックの分散向上による効果を相殺してしまう場合がある。
【0013】
更に、電極材料の分散性の向上と併せて、充放電の効率を向上させる上で重要な要素としては、電極の電解液に対する濡れ性の向上が挙げられる。電極反応は、電極材料表面と電解液との接触界面で起こるため、電解液が電極内部まで浸透し電極材料が良く濡れることが重要となる。電極反応を促進させる方法としては、微細な活物質や導電助剤を用いて電極の表面積を増大させる方法が検討されているが、特に炭素材料を用いる場合は、電解液に対する濡れが悪く、実際の接触面積が大きくならないため、電池性能の向上が難しいといった問題がある。
【0014】
電極の濡れ性を改善する方法として、特許文献7には、電極中に繊維径1〜1000nmの炭素繊維を含有させることで、活物質粒子間に微細な空隙を持たせる方法が開示されている。しかしながら、通常、炭素繊維は複雑に絡み合っているため、均一な分散が難しく、炭素繊維を混ぜるだけでは、均一な電極を作製することができない。また、同文献では、分散制御のために炭素繊維の表面を酸化処理した炭素繊維を使用する方法も挙げられているが、炭素繊維を直接、酸化処理すると、炭素繊維の導電性や強度が低下してしまうという問題がある。また、特許文献8には、炭素粉末を主剤とする負極材料に高級脂肪酸アルカリ塩の様な界面活性剤を吸着させ、濡れ性を改善する方法が開示されているが、上述したように界面活性剤は特に非水系での分散性能が十分でないことが多く、均一な電極塗膜が得られない。これらの例では、いずれも電極材料の分散性を含めたトータルでの性能としては不十分であった。
【0015】
またリチウム二次電池においては、上述の問題の他に、金属成分の負極上での還元・析出による電池性能劣化の問題や、短絡の発生による過剰発熱や発火といった安全性にかかわる問題もある。金属成分による性能劣化や短絡の要因としては、(1)製造工程における、銅や鉄といった金属不純物の混入や、(2)正極、集電体、電池容器等に含まれる金属イオンが電解液中へ溶出した後に、負極上で還元・析出することや、また、(3)正極の劣化により、正極活物質から金属イオンが溶出し、負極上で還元・析出すること等が考えられる。
【0016】
金属イオンの析出を抑制するために、特許文献9では、セパレーターの表面に陽イオン交換基を導入することにより、正極から溶出した陽イオンをセパレーター表面にトラップさせることで、負極での析出を抑制する試みがなされている。しかしながらこの場合、セパレーターの基体となる不織布を、アクリル酸(モノマー)と重合開始剤の水溶液に浸漬し、窒素雰囲気下で紫外線を照射することにより表面に陽イオン交換基を導入したセパレーターを得るため、製造工程が煩雑になり大量生産には不向きである。またこの場合、セパレーターを通過したイオンを捕獲することはできない。
【0017】
以上のような問題を鑑み、本発明は、導電助剤を含む電池用組成物において、導電助剤の導電性を阻害せずに分散安定化を図ること、炭素材料である導電助剤の電解液に対する濡れ性を向上させること、ならびに、導電助剤に金属イオンを捕捉する機能を付与することにより、これを用いて作製される電池の電池性能を向上させることを目的とする。
【特許文献1】特開2000−123823号公報
【特許文献2】特開2002−298853号公報
【特許文献3】特開昭63−236258号公報
【特許文献4】特開平8−190912号公報
【特許文献5】特開2003−157846号公報
【特許文献6】特表2006−516795号公報
【特許文献7】特開2005−063955号公報
【特許文献8】特開平6−60877号公報
【特許文献9】特開2002−25527号公報
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、導電助剤としての炭素材料を溶剤に分散させる際に、酸性官能基を有するキナクリドン誘導体を分散剤として添加することにより、分散安定性に優れる炭素材料粒子の分散体を調製できることだけでなく、さらに、この炭素材料粒子の分散体を含む組成物について、電極の低抵抗化および、電極集電体と電極合材もしくは、活物質と導電助剤との密着性の向上に起因すると思われる電池性能向上効果を見出した。また、電解液に対する濡れ性改善効果、さらに金属イオン析出抑制効果を見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0019】
本発明の電池用組成物は、リチウム二次電池、ニッケル水素二次電池、ニッケルカドニウム二次電池、アルカリマンガン電池、鉛電池、燃料電池、キャパシタなどに用いることができるが、特にリチウム二次電池に用いると好適である。
【0020】
すなわち、本発明は、酸性官能基の平均置換基数が0.4〜1.9である分散剤としてのキナクリドン誘導体と、導電助剤としての炭素材料を含有すること特徴とする電池用組成物に関する。
また、本発明は、酸性官能基がスルホン酸基(−SOH)、カルボキシル基(−COOH)である上記の電池用組成物に関する。
また、本発明は、酸性官能基がスルホン酸アンモニウム塩、カルボン酸アンモニウム塩、スルホン酸金属塩または、カルボン酸金属塩である上記の電池用組成物に関する。
また、、本発明は、溶剤を含むことを特徴とする上記の電池用組成物に関する。
【0021】
また、本発明は、導電助剤としての炭素材料の分散粒径(D50)が2μm以下であること特徴とする上記の電池用組成物に関する。
また、本発明は、バインダー成分を含むことを特徴とする上記の電池用組成物に関する。
また、本発明は、バインダー成分が、分子内にフッ素原子を含む高分子化合物であることを特徴とする上記の電池用組成物に関する。
また、本発明は、溶剤が、N−メチルピロリドンであることを特徴とする上記の電池用組成物に関する。
また、本発明は、正極活物質または負極活物質を含むことを特徴とする上記の電池用組成物に関する。
【0022】
また、本発明は、集電体上に正極合材層を有する正極と、集電体上に負極合材層を有する負極と、リチウムを含む電解質とを具備するリチウム二次電池であって、前記正極合材層または前記負極合材層が、上記の電池用組成物を使用して形成されていることを特徴とするリチウム二次電池に関する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の好ましい実施態様によれば、電池用組成物において、導電助剤の分散安定性に優れるとともに、導電助剤の導電性を阻害することなく分散安定性が図られていること、および、本電池用組成物による電極では、電解液に対する濡れ性が改善されるとともに、金属イオンの析出が抑制されるため、本発明の好ましい実施態様に係る電池用組成物を用いることにより、例えばリチウム二次電池などの電池性能を総合的に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明における電池用組成物は、酸性官能基を有するキナクリドン誘導体を含む分散剤と、導電助剤としての炭素材料を含むことを特徴とするが、以下にその詳細を説明する。
【0025】
<導電助剤(炭素材料)>
本発明における導電助剤としては、炭素材料が最も好ましい。炭素材料としては、導電性を有する炭素材料であれば特に限定されるものではないが、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー、フラーレン等を単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。導電性、入手の容易さ、およびコスト面から、カーボンブラックの使用が好ましい。
【0026】
カーボンブラックとしては、気体もしくは液体の原料を反応炉中で連続的に熱分解し製造するファーネスブラック、特にエチレン重油を原料としたケッチェンブラック、原料ガスを燃焼させて、その炎をチャンネル鋼底面にあて急冷し析出させたチャンネルブラック、ガスを原料とし燃焼と熱分解を周期的に繰り返すことにより得られるサーマルブラック、特にアセチレンガスを原料とするアセチレンブラックなどの各種のものを単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。また、通常行われている酸化処理されたカーボンブラックや、中空カーボン等も使用できる。
【0027】
カーボンの酸化処理は、カーボンを空気中で高温処理したり、硝酸や二酸化窒素、オゾン等で二次的に処理したりすることより、例えばフェノール基、キノン基、カルボキシル基、カルボニル基の様な酸素含有極性官能基をカーボン表面に直接導入(共有結合)する処理であり、カーボンの分散性を向上させるために一般的に行われている。しかしながら、官能基の導入量が多くなる程カーボンの導電性が低下することが一般的であるため、酸化処理をしていないカーボンの使用が好ましい。
【0028】
用いるカーボンブラックの比表面積は、値が大きいほど、カーボンブラック粒子どうしの接触点が増えるため、電極の内部抵抗を下げるのに有利となる。具体的には、窒素の吸着量から求められる比表面積(BET)で、20m/g以上、1500m/g以下、好ましくは50m/g以上、1500m/g以下、更に好ましくは100m/g以上、1500m/g以下のものを使用することが望ましい。比表面積が20m/gを下回るカーボンブラックを用いると、十分な導電性を得ることが難しくなる場合があり、1500m/gを超えるカーボンブラックは、市販材料での入手が困難となる場合がある。
【0029】
また、用いるカーボンブラックの粒径は、一次粒子径で0.005〜1μmが好ましく、特に、0.01〜0.2μmが好ましい。ただし、ここでいう一次粒子径とは、電子顕微鏡などで測定された粒子径を平均したものである。
【0030】
市販のカーボンブラックとしては、例えば、トーカブラック#4300、#4400、#4500、#5500等(東海カーボン社製、ファーネスブラック)、プリンテックスL等(デグサ社製、ファーネスブラック)、Raven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA等、Conductex SC ULTRA、Conductex 975 ULTRA等(コロンビヤン社製、ファーネスブラック)、#2350、#2400B、#30050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400B等(三菱化学社製、ファーネスブラック)、MONARCH1400、1300、900、VulcanXC−72R、BlackPearls2000等(キャボット社製、ファーネスブラック)、Ensaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、SuperP−Li(TIMCAL社製)、ケッチェンブラックEC−300J、EC−600JD(アクゾ社製)、デンカブラック、デンカブラックHS−100、FX−35(電気化学工業社製、アセチレンブラック)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
<分散剤>
本発明における分散剤としては、酸性官能基を有するキナクリドン誘導体を含むことを特徴とする。とりわけ、下記一般式(1)で示されるキナクリドン誘導体類から選ばれる一種以上の化合物を含むことが好ましい。
【0032】
一般式(1)
【0033】
【化1】


はキナクリドン色素残基を表し、アルキル基、アリール基、ハロゲン等の置換基を有してもよい。
Zは、酸性官能基−SOMまたは−COOMを表し、Mは1〜3価のカチオンの一当量を表し、
nは整数を表し、好ましくは1または2である。
【0034】
一般式(1)の式中のMは、1〜3価のカチオンの一当量を表し、例えば、水素原子(プロトン)、金属カチオン、4級アンモニウムカチオンのいずれかを表す。金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、ニッケル、コバルト等が挙げられる。
【0035】
4級アンモニウムカチオンとしては、一般式(2)で示される構造を有する単一化合物または、混合物である。
一般式(2)
【0036】
【化2】


、R、R、Rは、水素、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、または置換基を有してもよいアリール基のいずれかを表す。
【0037】
一般式(2)のR、R、R、Rは、それぞれ同一でもよいし、異なっていてもよい。また、R、R、R、Rが炭素原子を有する場合、炭素数は1〜40、好ましくは1〜30、更に好ましくは1〜20である。炭素数が40を超えると電極の導電性が低下する場合がある。)
4級アンモニウムの具体例としては、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、ヒドロキシエチルアンモニウム、ジヒドロキシエチルアンモニウム、2−エチルヘキシルアンモニウム、ジメチルアミノプロピルアンモニウム、ラウリルアンモニウム、ステアリルアンモニウム等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
上記分散剤の合成方法としては、特に限定されるものではないが、発煙硫酸、濃硫酸および、クロロスルホン酸などのスルホン化剤を用いてスルホン化するのが一般的である。また、カルボキシル基を導入する場合は、キナクリドン合成時の原料として、カルボキシル基を持ったものを使用する方法が挙げられる。いずれの方法においても、合成したキナクリドン誘導体の酸性官能基数は分布を持つ。例えば、キナクリドンにスルホン酸基をいくつ導入するかは、反応温度や反応時間等の条件により決められるが、キナクリドンには官能基を導入できる場所が複数あるため、どのような反応条件を採用するにしても、得られる酸性官能基を有するキナクリドン化合物は一種類ではなく、酸性官能基数の異なる数種のキナクリドン化合物の混合物(例えば、無置換体、1置換体、2置換体以上の混合物)となる。
【0039】
よって、とりわけ分離・精製をしない限りは単一化合物とはならず、キナクリドン誘導体の酸性官能基数は、キナクリドン1分子当たりの平均値として表される。
【0040】
とりわけ、好ましく使用できるキナクリドン誘導体の酸性官能基の平均置換基数としては、0.4〜1.9であり、更に好ましくは、0.5〜1.6である。
【0041】
上記の分散剤は、添加した分散剤が炭素材料表面に作用(例えば吸着)することにより、分散効果を発揮するものと思われる。酸性官能基を有するキナクリドン誘導体を溶剤中に完全ないしは一部溶解させ、その溶液中に炭素材料を添加、混合することで、これら分散剤の炭素材料への作用が進むものと思われる。そして、炭素材表面に作用した分散剤が有する酸性官能基が分極ないしは解離することにより、電気的な相互作用(反発作用)が誘起され、炭素材料の解凝集が起こるものと思われる。よって本発明では、(1)炭素材料表面に直接官能基を導入(共有結合)せず、さらに(2)分散樹脂を使用することなく、良好な分散を得ることができる。これらのことから、炭素材料の導電性を落とすことなく良好な分散を得ることができる。そして炭素材料が良好に分散した本発明の電池用組成物を用いることにより、炭素材料が均一に分散した電極を作製することができる。
【0042】
また、本発明の電池用組成物を使用した電極では、炭素材料表面に極性官能基を有する分散剤が存在しているため炭素材料の電解液に対する濡れ性が向上するとともに、上述の均一分散効果とあいまって電極の電解液に対する濡れ性が向上する。
【0043】
本発明の分散剤は、いずれも良好な分散効果および濡れ性改善効果を有するが、中でも一般式(1)の式中のMが4級アンモニウムカチオンの場合、炭素材料の電解液に対する濡れ性の向上効果が特に大きいため好ましい。
【0044】
また、Mがプロトンの場合、酸性官能基により電解液中の金属イオンを捕捉し、金属の析出による電池性能の低下や短絡を抑制する効果が大きいため好ましい。
【0045】
更に、これら酸性官能基を有するキナクリドン誘導体の添加は、後述するポリフッ化ビニリデンの様なフッ素樹脂系バインダーを使用する場合、酸性官能基の効果(例えば、酸性化効果、緩衝効果など)により、バインダーの脱フッ化水素反応による変性を抑制し、塗料の増粘(ないしはゲル化)や、バインダーの硬化による電極膜の密着性の低下等を抑える効果も期待できる。
【0046】
<溶剤>
本発明に使用する溶剤としては、例えば、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類、水等が挙げられる。
【0047】
これらの中でも、比誘電率が15以上の極性溶剤を使用することが好ましい。比誘電率は、溶剤の極性の強さを表す指標のひとつであり、浅原ほか編「溶剤ハンドブック」((株)講談社サイエンティフィク、1990年)等に記載されている。
【0048】
例えば、メチルアルコール(比誘電率:33.1)、エチルアルコール(23.8)、2−プロパノール(18.3)、1−ブタノール(17.1)、1,2−エタンジオール(38.66)、1,2−プロパンジオール(32.0)、1,3−プロパンジオール(35.0)、1,4−ブタンジオール(31.1)、ジエチレングリコール(31.69)、2−メトキシエタノール(16.93)、2−エトキシエタノール(29.6)、2−アミノエタノール(37.7)、アセトン(20.7)、メチルエチルケトン(18.51)、ホルムアミド(111.0)、N−メチルホルムアミド(182.4)、N,N−ジメチルホルムアミド(36.71)、N−メチルアセトアミド(191.3)、N,N−ジメチルアセトアミド(37.78)、N−メチルプロピオンアミド(172.2)、N−メチルピロリドン(32.0)、ヘキサメチル燐酸トリアミド(29.6)、ジメチルスルホキシド(48.9)、スルホラン(43.3)、アセトニトリル(37.5)、プロピオニトリル(29.7)、水(80.1)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
とりわけ、比誘電率が15以上、200以下、好ましくは15以上、100以下、更に好ましくは、20以上、100以下の極性溶剤を使用することが、炭素材料の良好な分散安定性を得るのに好ましい。
比誘電率が15を下回る溶剤では分散剤の溶解性が著しく低下し良好な分散が得られないことが多く、また、比誘電率が200を超える溶剤を使用しても、顕著な分散向上効果が得られないことが多い。
【0050】
また、炭素材料の分散安定性は、溶剤の電子供与性にも影響される傾向が見いだされた。電子供与効果の大きな溶剤の使用が好ましく、とりわけ溶剤のドナー数が15Kcal/mol以上の溶剤が好ましいが、20Kcal/mol以上、60Kcal/mol以下の溶剤が更に好ましい。
【0051】
ドナー数は、各種溶剤の電子供与性の強さを測る尺度であり、基準のアクセプターとして、ジクロロエタン中10−3M SbClを選び、ドナーとの反応モルエンタルピー値として定義される値であって、値が大きいほどその溶剤の電子供与性が強いことを示す。また、いくつかの溶剤については、ドナー数はその溶剤中におけるNaClO23Na−NMRの化学シフトから間接的に推定されている。このドナー数については、V.グートマン(大瀧、岡田訳)「ドナーとアクセプター」(学会出版センター(株)1983年)に記載されている。溶剤が有する誘電率の大きさにもよるが、ドナー数が15Kcal/molを下回る溶剤を用いると、十分な分散安定化効果が得られない場合がある。また、ドナー数が60Kcal/molを超えた溶剤を用いても、顕著な分散向上効果はないものと思われる。
【0052】
ドナー数が15Kcal/mol以上の溶剤としては、例えば、メチルアルコール(ドナー数:19)、エチルアルコール(20)、エチルアミン(55)、t−ブチルアミン(57)、エチレンジアミン(55)、ピリジン(33.1)、アセトン(17)、ホルムアミド(24)、N,N−ジメチルホルムアミド(26.6)、N,N−ジエチルホルムアミド(30.9)、N,N−ジメチルアセトアミド(27.8)、N,N−ジエチルアセトアミド(32.2)、N−メチルピロリドン(27.3)、ヘキサメチル燐酸トリアミド(38.8)、ジメチルスルホキシド(29.8)、酢酸エチル(17.1)リン酸トリメチル(23)、リン酸トリブチル(23.7)、テトラヒドロフラン(20.0)、イソブチロニトリル(15.4)、イソプロピオノニトリル(16.1)、水(18.0)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
分散剤の酸性官能基が分極ないしは解離するのを促す効果が大きい溶剤の使用が、炭素材料の良好な分散安定性を得るのには重要と思われる。電子供与性の大きな溶剤は、酸性官能基を有するキナクリドン誘導体に対する溶媒和力が強いため、分散剤酸性官能基の分極を促し、そして比誘電率の大きな溶剤が分極した酸性官能基の解離を促すものと思われる。よって、炭素材料の良好な分散安定性を得るためには、比誘電率の大きな溶剤と、ドナー数の大きな溶剤とを組み合わせて使用するか、比誘電率およびドナー数がともに大きな溶剤を使用することが好ましい。
【0054】
また、使用する溶剤としては、非プロトン性の極性溶剤であることが好ましい。非プロトン性の極性溶剤とは、溶剤自身にプロトンを放出する能力がなく、また自己解離もしない極性溶剤であり、非プロトン性の極性溶剤は水素結合による自己会合を生じず、溶剤自身の凝集性が弱い。そのため炭素材料の凝集体への浸透力が強く、分散促進効果が期待される。また、非プロトン性の極性溶剤は、溶剤自身の凝集性が弱いために溶解力が強く、種々の分散剤や樹脂を溶解することができるため、汎用性に優れる。更に、酸性官能基を有するキナクリドン誘導体を溶剤に溶解することを考えた場合、非プロトン性の極性溶剤は、カチオン種のみを溶媒和するため、酸性官能基におけるプロトンもしくはカウンターカチオンのみを溶媒和することとなる。このとき、キナクリドン誘導体骨格を含むアニオン側は溶媒和されることなく裸のままであるため、キナクリドン誘導体骨格部分の炭素材料表面への作用(例えば吸着)が阻害されにくい等の効果も期待される。
【0055】
また、本発明における溶剤の選択は、分散剤としての酸性官能基を有するキナクリドン誘導体と、導電助剤としての炭素材料、および溶剤以外に後述する電極活物質もしくはバインダー成分等を更に添加する場合は、上述の分散性に与える溶剤の影響に加え、活物質との反応性、およびバインダー成分に対する溶解性等を鑑みつつ行う。分散性が高く、活物質との反応性が低く、バインダー成分の溶解性の高い溶剤を選択することが好ましい。
更に、環境負荷軽減や経済的有利性等から、電極製造工程において排出される溶剤を回収・再利用する場合は、混合溶剤ではなく、単一溶剤での使用が好ましい。
【0056】
以上、炭素材料の分散安定性促進効果、活物質との反応性、およびバインダー成分の溶解性を満たし、単一使用での汎用性を有する溶剤としては、アミド系溶剤が好ましく、特に、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ヘキサメチル燐酸トリアミド等のアミド系非プロトン性溶剤の使用が好ましい。
【0057】
<正極活物質及び負極活物質>
本発明の組成物を正極合材もしくは負極合材に用いる場合は、上記分散剤、導電助剤としての炭素材料、および溶剤以外に、少なくとも正極活物質または負極活物質を含有させる。
【0058】
使用する正極活物質としては特に限定はされないが、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能な金属酸化物、金属硫化物等の金属化合物、および導電性高分子等を使用することができる。例えば、Fe、Co、Ni、Mn等の遷移金属の酸化物、リチウムとの複合酸化物、遷移金属硫化物等の無機化合物等が挙げられる。具体的には、MnO、V、V13、TiO等の遷移金属酸化物粉末、層状構造のニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、スピネル構造のマンガン酸リチウムなどのリチウムと遷移金属との複合酸化物粉末、オリビン構造のリン酸化合物であるリン酸鉄リチウム系材料、TiS、FeSなどの遷移金属硫化物粉末等が挙げられる。また、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性ポリマーを使用することもできる。また、上記の無機化合物や有機化合物を混合して用いてもよい。
【0059】
使用する負極活物質としては特に限定はされないが、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能な金属Li、またはその合金、スズ合金、シリコン合金負極、LiFe、LiFe、LiWO等の金属酸化物系、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン等の導電性高分子、ソフトカーボンやハードカーボンといった、アモルファス系炭素質材料や、高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末、カーボンブラック、メソフェーズカーボンブラック、樹脂焼成炭素材料、気層成長炭素繊維、炭素繊維などの炭素系材料が用いられる。
【0060】
<バインダー>
本発明の組成物には、更に、バインダー成分を含有させることが好ましい。使用するバインダーとしては、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、スチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルピロリドン等を構成単位として含む重合体または共重合体;ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂;カルボキシメチルセルロースのようなセルロース樹脂;スチレン−ブタジエンゴム、フッ素ゴムのようなゴム類;ポリアニリン、ポリアセチレンのような導電性樹脂等が挙げられる。また、これらの樹脂の変性体や混合物、および共重合体でも良い。特に、耐性面から分子内にフッ素原子を含む高分子化合物、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テトラフルオロエチレン等の使用が好ましい。
【0061】
また、バインダーとしてのこれらの樹脂類の重量平均分子量は、10,000〜1,000,000が好ましい。分子量が小さいとバインダーの耐性が低下することがある。分子量が大きくなるとバインダーの耐性は向上するものの、バインダー自体の粘度が高くなり作業性が低下するとともに、凝集剤として働き、合材成分が著しく凝集してしまうことがある。
【0062】
<本発明の組成物の用途>
本発明の組成物は、正極合材または負極合材に用いることができる。正極合材または負極合材に用いる場合は、上記分散剤、導電助剤としての炭素材料、溶剤を含む組成物に、正極活物質または負極活物質、好ましくは更にバインダー成分を含有させた正・負極合材ペーストとして使用することが好ましい。
【0063】
電極合材ペースト中の総固形分に占める活物質の割合は、80重量%以上、98.5重量%以下が好ましい。また、電極合材ペースト中の総固形分に占める、酸性官能基を有するキナクリドン誘導体を含む分散剤と、導電助剤としての炭素材料とを合わせた固形分の割合は、0.5重量%以上、19重量%以下が好ましい。そして、電極合材ペースト中の総固形分に占める、バインダー成分の割合は、1重量%以上、10重量%以下が好ましい。また、電極合材ペーストの適正粘度は、電極合材ペーストの塗工方法によるが、一般には、100mPa・s以上、30,000mPa・s以下とするのが好ましい。
【0064】
正・負極合材ペーストは、導電助剤としての炭素材料粒子の分散性に優れるだけでなく、正・負極活物質の凝集を緩和する効果もある。導電助剤である炭素材粒子の分散性が優れるため、導電助剤としての炭素材料および正・負極活物質を溶剤に混合・分散する際のエネルギーが、炭素材料(導電助剤)の凝集物に阻害されることなく効率よく活物質に伝わり、結果的に正・負極活物質の分散性も向上させることができるものと思われる。
【0065】
そして、正極合材ペーストでは、正極活物質の周りに導電助剤である炭素材料粒子を均一に配位・付着することができ、正極合材層に優れた導電性および密着性を付与できる。また、導電性が向上することにより、導電助剤としての炭素材料の添加量を減らすことができるため、正極活物質の添加量を相対的に増やすことができ、電池の大きな特性である容量を大きくすることができる。
【0066】
さらに、本発明の正極合材ペーストは、正極活物質、炭素材料(導電助剤)の凝集が極めて少ないため、集電体に塗布した際に平滑性の高い均一な塗膜を得ることができ、集電体と正極合材との密着性が改善される。また、酸性官能基を有する分散剤が炭素材料(導電助剤)表面に作用(例えば吸着)しているため、リチウム遷移金属複合酸化物のような正極活物質の表面と炭素材料(導電助剤)表面との相互作用が強まり、酸性官能基を有する分散剤を使用しない場合と比較して正極活物質と炭素材料(導電助剤)との密着性が向上する。
【0067】
また、負極合材ペーストでは、負極活物質として炭素材料系の活物質を使用した場合、分散剤として添加している酸性官能基を有するキナクリドン誘導体の効果により、炭素材料系活物質の凝集が緩和される。そして、負極活物質の周りに炭素材料粒子(導電助剤)を均一に配位・付着することができ、負極合材層に優れた導電性、密着性および濡れ性を付与できる。
【0068】
本発明の組成物は、電極下地層にも用いることができる。電極下地層に用いる場合は、酸性官能基を有するキナクリドン誘導体と、導電助剤としての炭素材料および溶剤とからなる分散体をそのまま使用しても良いが、上記バインダー成分を添加し、電極下地ペーストとして使用することが好ましい。電極下地層に用いる組成物の総固形分に占める導電助剤としての炭素材料の割合は、5重量%以上、95重量%以下が好ましく、10重量%以上、90重量%以下が更に好ましい。導電助剤としての炭素材料が少ないと、下地層の導電性が保てない場合があり、一方、導電助剤としての炭素材料が多すぎると、塗膜の耐性が低下する場合がある。また、電極下地ペーストの適正粘度は、電極下地ペーストの塗工方法によるが、一般には、100mPa・s以上、30,000mPa・s以下とするのが好ましい。
【0069】
<本発明の組成物の製造方法>
次に、本発明の組成物の製造方法について説明する。
本発明の組成物は、例えば、酸性官能基を有するキナクリドン誘導体を含む分散剤の存在下、導電助剤としての炭素材料を溶剤に分散し、該分散体に、必要に応じて正極活物質、負極活物質、またはバインダー成分を混合することにより、製造することができる。各成分の添加順序などについては、これに限定されるわけではない。また、必要に応じて更に溶剤を追加しても良い。
【0070】
上記製造方法は、酸性官能基を有するキナクリドン誘導体を含む分散剤を、溶剤中に完全ないしは一部溶解させ、その溶液中に導電助剤としての炭素材料を添加、混合することで、これら分散剤を炭素材料に作用(例えば吸着)させつつ、溶剤に分散するものである。このときの分散体中における炭素材料の濃度は、使用する炭素材料の比表面積や表面官能基量などの炭素材料固有の特性値等にもよるが、1重量%以上、50重量%以下が好ましく、更に好ましくは5重量%以上、35重量%以下である。炭素材料の濃度が低すぎると生産効率が悪くなり、炭素材料の濃度が高すぎると分散体の粘度が著しく高くなり、分散効率や、後述するコンタミ除去工程の効率および、分散体のハンドリング性が低下する場合がある。とりわけ、コンタミを除く工程を入れる場合は、このときの分散体の粘度を好ましくは10,000mPa・s以下、より好ましくは5,000mPa・s以下、更に好ましくは3,000mPa・s以下とする。
【0071】
酸性官能基を有するキナクリドン誘導体を含む分散剤の添加量は、用いる導電助剤としての炭素材料の比表面積等により決定される。一般には、炭素材料100重量部に対して、分散剤を0.5重量部以上、40重量部以下、好ましくは1重量部以上、35重量部以下、さらに好ましくは、2重量部以上、30重量部以下である。分散剤の量が少ないと十分な分散効果が得られないとともに、電解液への濡れ性向上効果や、金属析出を抑制する効果が十分に得られない。また、過剰に添加しても顕著な分散向上効果は得られない。
【0072】
導電助剤としての炭素材料の分散粒径は、0.03μm以上、2μm以下、好ましくは、0.05μm以上、1μm以下、更に好ましくは0.05μm以上、0.5μm以下に微細化することが望ましい。導電助剤としての炭素材料の分散粒径が0.03μm未満の組成物は、その作製が難しい場合がある。また、導電助剤としての炭素材料の分散粒径が2μmを超える組成物を用いた場合には、電極の抵抗分布のバラつきや、低抵抗化のために導電助剤の添加量を増やさなければならなくなるなどの不具合が生じる場合がある。ここでいう分散粒径とは、体積粒度分布において、粒子径の細かいものからその粒子の体積割合を積算していったときに、50%となるところの粒子径(D50)であり、一般的な粒度分布計、例えば、動的光散乱方式の粒度分布計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)等で測定される。
【0073】
また、上記分散剤を炭素材料に作用(例えば吸着)させつつ、炭素材料を溶剤に分散するための装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機が使用できる。例えば、ディスパー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等のミキサー類、ホモジナイザー(エム・テクニック社製「クレアミックス」、PRIMIX社「フィルミックス」等)類、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、コボールミル等のメディア型分散機、湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS−5」、奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機、その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、分散機としては、分散機からの金属混入防止処理を施したものを用いることが好ましい。
【0074】
例えば、メディア型分散機を使用する場合は、アジテーターおよびベッセルがセラミック製または樹脂製の分散機を使用する方法や、金属製アジテーターおよびベッセル表面をタングステンカーバイド溶射や樹脂コーティング等の処理をした分散機を用いることが好ましい。そして、メディアとしては、ガラスビーズや、ジルコニアビーズ、アルミナビーズ等のセラミックビーズを用いることが好ましく、中でもジルコニアビーズの使用が好ましい。また、ロールミルを使用する場合についても、セラミック製ロールを用いることが好ましい。分散装置は、1種のみを使用しても良いし、複数種の装置を組み合わせて使用しても良い。
【0075】
また、炭素材料分散時に金属異物等のコンタミを除く工程を入れることが好ましい。カーボンブラック、グラファイトおよび、炭素繊維等の炭素材料には、それらの製造工程由来(ラインコンタミや触媒として)の金属異物が含まれている場合が多く、これら異物を除去することは、電池の短絡を防ぐために非常に重要となる。本発明では、酸性官能基を有するキナクリドン誘導体を含む分散剤の効果により、炭素材料の凝集がよくほぐれること、および分散体の粘度が低くなるため、分散剤が未添加の場合に比して、分散体中の炭素材料濃度が高い場合でも、効率良く異物を取り除くことができる。異物を除く方法としては、磁石による除鉄や、ろ過、遠心分離等の方法が挙げられる。
【0076】
バインダー成分の添加方法としては、上記分散剤の存在下、導電助剤としての炭素材料を溶剤に分散してなる分散体を攪拌しつつ、固形のバインダー成分を添加し、溶解させる方法が挙げられる。また、バインダー成分を溶剤に溶解したものを事前に作製しておき、上記分散体と混合する方法が挙げられる。また、バインダー成分を上記分散体に添加した後に、上記分散装置で再度分散処理を行っても良い。
【0077】
また、酸性官能基を有するキナクリドン誘導体を含む分散剤の存在下、導電助剤としての炭素材料を溶剤に分散するときに、バインダー成分の一部ないしは全量を、同時に添加して分散処理を行うこともできる。
【0078】
正極活物質または負極活物質の添加方法としては、上記分散剤の存在下、導電助剤としての炭素材料を溶剤に分散してなる分散体を攪拌しつつ、正極活物質または負極活物質を添加し、分散させる方法が挙げられる。また、酸性官能基を有するキナクリドン誘導体を含む分散剤の存在下、導電助剤としての炭素材料を溶剤に分散するときに、正極活物質または負極活物質の一部ないしは全量を、同時に添加して分散処理を行うこともできる。また、このときの混合、分散を行うための装置としては、通常の顔料分散等に用いられている上述の分散機が使用できる。
【0079】
本発明の電池用組成物は、上述するように、通常は溶剤を含む分散体(液)、ペーストなどとして、製造、流通、使用される。これは、導電助剤や活物質と分散剤を乾燥粉体の状態で混合しても、導電助剤や活物質に均一に分散剤を作用させることはできず、液相法で、分散剤の存在下、導電助剤や活物質を溶剤に分散することにより、導電助剤や活物質に均一に分散剤を作用させることができるからである。また、以下に説明するように、集電体に電極合材層を形成する場合には、液状の分散体をできるだけ均一に塗布してこれを乾燥させることが好ましいからである。
【0080】
しかしながら、例えば、液相法で作製した分散体を、運搬コストなどの理由から、一度溶剤を除去して乾燥粉体とすることも考えられる。そして、この乾燥粉体を適当な溶剤で再分散させて、電極合材層の形成に用いることも考えられる。したがって、本発明の組成物は、液状の分散体に限られず、このような、乾燥粉体の状態の組成物であってもよい。
【0081】
また、本発明の製造方法としては、分散剤を溶剤中に完全ないしは一部溶解させ、その溶液中に導電助剤としての炭素材料を添加、混合する代わりに、上記分散剤をあらかじめ処理した導電助剤としての炭素材料を溶剤に分散してもよい。
【0082】
酸性官能基を有するキナクリドン誘導体を含む分散剤により処理された導電助剤としての炭素材料を得る方法としては、乾式処理による方法および、液相中での処理による方法が挙げられる。
【0083】
乾式処理としては、例えば、常温もしくは加熱下で、乾式処理装置により上記炭素材料および分散剤の、混合、粉砕等を行いながら、炭素材料表面に分散剤を作用(例えば吸着)させる方法が挙げられる。使用する装置としては特に限定されるものではく、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、アトライター、振動ミル等のメディア型分散機、ニーダー、ローラーミル、石臼式ミル、プラネタリーミキサー、フェンシェルミキサー、ハイブリダイザー((株)奈良機械製作所)、メカノマイクロス((株)奈良機械製作所)、メカノフュージョンシステムAMS(ホソカワミクロン(株))等のメディアレス分散・混錬機が使用できるが、金属コンタミ等を考慮し、メディアレスの分散・混錬機を使用するのが好ましい。
【0084】
液相処理としては、有機溶剤中または水中で、分散剤と導電助剤としての炭素材料とを混合し、分散剤を炭素材料に作用(例えば吸着)させる工程と、分散剤が作用した炭素材料を凝集させ、凝集粒子を得る工程を含むことが好ましい。
【0085】
例えば有機溶剤系での処理について、分散剤を炭素材料に作用(例えば吸着)させる工程としては、酸性官能基を有するキナクリドン誘導体を含む分散剤と、導電助剤としての炭素材料および、有機溶剤とを混合し、分散剤を炭素材料に作用(例えば吸着)させる。とりわけ、酸性官能基を有するキナクリドン誘導体を含む分散剤を、有機溶剤に完全ないしは一部溶解させ、その溶液中に導電助剤としての炭素材料を添加して混合・分散することで、これら分散剤を炭素材料に作用(例えば吸着)させるのが好ましい。
【0086】
分散剤を炭素材料に作用(例えば吸着)させる工程において使用する溶剤としては、比誘電率が15以上の極性溶剤を使用することが好ましい。とりわけ、処理液中での炭素材料の濃度を上げ、処理効率を高めるためには、比誘電率が15以上、200以下、好ましくは15以上、100以下、更に好ましくは、20以上、100以下の極性溶剤を使用するのが好ましい。
【0087】
比誘電率が15を下回る溶剤では分散剤の溶解性が著しく低下し、炭素材料の分散性は低下するため、炭素材料濃度を上げることができないことが多く、また、比誘電率が200を超える溶剤を使用しても、顕著な効果が得られないことが多い。
【0088】
また、炭素材料の分散安定性は、溶剤の電子供与性にも影響される傾向が見いだされ、電子供与効果の大きな溶剤の使用が好ましく、とりわけ溶剤のドナー数が15Kcal/mol以上の溶剤が好ましいが、20Kcal/mol以上、60Kcal/mol以下の溶剤が更に好ましい。これらの有機溶剤は、単独で使用しても良いし、2種類以上を併用しても良い。比誘電率の大きな溶剤と、ドナー数の大きな溶剤とを組み合わせて使用するか、比誘電率およびドナー数がともに大きな溶剤を使用することが好ましい。
【0089】
また、炭素材料を溶剤に混合・分散させつつ、上記分散剤を炭素材料に作用(例えば吸着)させるための装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機が使用できる。例えば、ニーダー、ディスパー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等のミキサー類、ホモジナイザー(エム・テクニック社製「クレアミックス」、PRIMIX社「フィルミックス」等)類、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、コボールミル等のメディア型分散機、湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS−5」、奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機、その他ロールミル等が挙げられる。使用する装置はこれらに限定されるものではないが、処理の効率や生産性の観点から、ミキサーやメディア型分散機の使用が好ましい。また、装置からの金属混入防止処理を施したものを用いることが好ましい。
【0090】
分散剤が作用した炭素材料を液中で凝集させ、凝集粒子を得る工程としては、上述の処理物を加熱および/もしくは減圧して、溶剤を留去する方法が挙げられる。また、炭素材料表面の分散剤の溶剤に対する溶解性または分散性を低下させて凝集させる方法として、上述の処理スラリーにを比誘電率が15未満、さらに好ましくは10以下の溶剤と混合することで凝集させる方法等が挙げられる。比誘電率が15未満の溶剤としては特に限定されるものではないが、例えば、メチルイソブチルケトン(比誘電率:13.1)、酢酸エチル(6.0)、酢酸ブチル(5.0)、ジエチルエーテル(4.2)、キシレン(2.3)、トルエン(2.2)、ヘプタン(1.9)、ヘキサン(1.9)、ペンタン(1.8)等が挙げられる。
【0091】
そしてこれらの凝集物を、濾過または遠心分離等により取り出す。得られた処理物はそのまま使用することもできるが、その後、洗浄、乾燥、粉砕して使用するのが好ましい。
【0092】
また、例えば水系での処理について、分散剤を炭素材料に作用(例えば吸着)させる工程としては、酸性官能基を有するキナクリドン誘導体を含む分散剤と、導電助剤としての炭素材料および、水とを混合し、分散剤を炭素材料に作用(例えば吸着)させる。とりわけ、酸性官能基を有するキナクリドン誘導体をむ分散剤を、水または塩基性水溶液に完全ないしは一部溶解させ、その溶液中に導電助剤としての炭素材料を添加して混合・分散することで、これら分散剤を炭素材料に作用(例えば吸着)させるのが好ましい。水はイオン交換水または精製水を使用するのが好ましい。また、分散剤の溶解性を上げるために、処理液のpHは、7<pH<14が好ましく、更に好ましくは7<pH≦11、特に好ましくは8≦pH≦10である。処理液のpHを塩基性にする為に塩基を添加する。塩基としては、アルカリ金属等の金属水酸化物類、弱酸と強塩基の反応により得られる塩類、アンモニア、有機アミン類等、水に溶解して塩基性を示す化合物を用いることができる。
【0093】
また、炭素材料を溶剤に混合・分散させつつ、上記分散剤を炭素材料に作用(例えば吸着)させるための装置としては、有機溶剤系での処理と同様の装置を使用することができるが、処理の効率や生産性の観点から、ミキサーやメディア型分散機の使用が好ましい。また、装置からの金属混入防止処理を施したものを用いることが好ましい。
【0094】
分散剤が作用した炭素材料を液中で凝集させ、凝集粒子を得る工程としては、上述の処理物を加熱および/もしくは減圧して、水分を留去する方法が挙げられる。また、炭素材料表面の分散剤の、水に対する溶解性または分散性を低下させて凝集させる方法として、処理液のpHを中性ないしは酸性化して凝集させる方法、また、例えば塩化ナトリウムの様な無機塩を添加し、炭素材料表面の分散剤を塩析させ凝集させる方法、更には、有機アミンまたは有機アミンの塩等を添加して凝集させる方法等が挙げられる。中でも、処理液のpHを中和ないしは酸性化して凝集させる方法および、有機アミンまたは有機アミンの塩等を添加して凝集させる方法が好ましい。
【0095】
中和ないし酸性化には酸を添加する。使用できる酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸、強酸と弱塩基の反応によって得られる塩類の無機化合物、カルボン酸類、スルホン酸類などの有機酸、水に溶解して酸性を示す化合物用いることができる。中でも揮発性のカルボン酸類や塩酸の使用が好ましい。
【0096】
また、有機アミンおよび有機アミンの塩としは、炭素材料に分散剤を作用させる工程で使用した塩基よりも水に対する溶解性が低いものを使用することが好ましい。
【0097】
凝集させた粒子については、濾過または遠心分離、洗浄工程を経て、酸性官能基を有するキナクリドン誘導体をあらかじめ処理した導電助剤としての炭素材料とするのが好ましい。また、得られた酸性官能基を有するキナクリドン誘導体をあらかじめ処理した導電助剤としての炭素材料は乾燥して使用することもできる。
【0098】
<リチウム二次電池>
次に、本発明の組成物を用いたリチウム二次電池について説明する。
リチウム二次電池は、集電体上に正極合材層を有する正極と、集電体上に負極合材層を有する負極と、リチウムを含む電解質とを具備する。前記正極合材層と前記集電体との間や、前記負極合材層と前記集電体との間には、電極下地層が形成されていてもよい。
【0099】
電極について、使用する集電体の材質や形状は特に限定されず、材質としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、ステンレス等の金属や合金が用いられるが、特に正極材料としてはアルミニウムが、負極材料としては銅の使用が好ましい。また、形状としては、一般的には平板上の箔が用いられるが、表面を粗面化したものや、穴あき箔状のもの、およびメッシュ状のものも使用できる。
【0100】
集電体上に電極下地層を形成する方法としては、前述の電極下地ペーストを電極集電体に塗布、乾燥する方法が挙げられる。電極下地層の膜厚としては、導電性および密着性が保たれる範囲であれば特に制限されないが、一般的には0.05μm以上、20μm以下であり、好ましくは0.1μm以上、10μm以下である。
【0101】
集電体上に電極合材層を形成する方法としては、集電体上に上述の電極合材ペーストを直接塗布し乾燥する方法、および集電体上に電極下地層を形成した後に電極合材ペーストを塗布し乾燥する方法などが挙げられる。また、電極下地層の上に電極合材層を形成する場合、集電体上に電極下地ペーストを塗布した後、湿潤状態のうちに電極合材ペーストを重ねて塗布し、乾燥を行っても良い。電極合材層の厚みとしては、一般的には1μm以上、500μm以下であり、好ましくは10μm以上、300μm以下である。
【0102】
塗布方法については、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。具体的には、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、スプレーコティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法、静電塗装法等が挙げられる。また、塗布後に平版プレスやカレンダーロール等による圧延処理を行っても良い。
【0103】
<電解液>
本発明のリチウム二次電池を構成する電解液としては、リチウムを含んだ電解質を非水系の溶剤に溶解したものを用いる。電解質としては、LiBF、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiCFSO、Li(CFSON、LiCSO、Li(CFSOC、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF、LiSCN、LiBPh等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0104】
非水系の溶剤としては特に限定はされないが、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート類、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−オクタノイックラクトン等のラクトン類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,2−メトキシエタン、1,2−エトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン等のグライム類、メチルフォルメート、メチルアセテート、メチルプロピオネート等のエステル類、ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド類、アセトニトリル等のニトリル類、が挙げられる。またこれらの溶剤は、それぞれ単独で使用しても良いが、2種以上を混合して使用しても良い。
【0105】
更に上記電解液を、ポリマーマトリクスに保持しゲル状とした高分子電解質とすることもできる。ポリマーマトリクスとしては、ポリアルキレンオキシドセグメントを有するアクリレート系樹脂、ポリアルキレンオキシドセグメントを有するポリホスファゼン系樹脂、ポリアルキレンオキシドセグメントを有するポリシロキサン等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0106】
本発明の組成物を用いたリチウム二次電池の構造については特に限定されないが、通常、正極および負極と、必要に応じて設けられるセパレーターとから構成され、ペーパー型、円筒型、ボタン型、積層型など、使用する目的に応じた種々の形状とすることができる。
【0107】
[実施例]
以下、実施例に基づき本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。実施例中、部は重量部を、%は重量%をそれぞれ表す。カーボン分散体の粒度分布測定には、動的光散乱方式の粒度分布計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)を用い、体積粒度分布において、粒子径の細かいものからその粒子の体積割合を積算していったときに、50%となるところの粒子径(D50)を求めた。但し、導電助剤としてカーボンナノファイバーを用いたカーボン分散体の分散粒度は、グラインドゲージによる判定(JIS K5600−2−5に準ず)より求めた。また、電極合材ペーストの分散粒度については、グラインドゲージによる判定(JIS K5600−2−5に準ず)より求めた。
【0108】
<分散剤の構造と平均置換基数>
実施例で使用した分散剤について、分散剤としての酸性官能基を有するキナクリドン誘導体の平均置換基数は、以下の様にして求めた。
【0109】
スルホン酸系のキナクリドン誘導体について、フリーのスルホン酸誘導体(構造式中のMがプロトン)については、硫黄成分についての元素分析から、1分子当たりの平均置換基数を求めた。また、造塩型のスルホン酸誘導体(構造式中のMがカリウム、ラウリルアンモニウム)については、合成時に造塩前のスルホン酸誘導体(フリーのスルホン酸誘導体)を取り出し、上記と同様にして1分子当たりの平均置換基数を求めた。
【0110】
カルボン酸系の誘導体について、フリーのカルボン酸誘導体(構造式中のMがプロトン)については、電導度滴定により水酸化ナトリウムを添加し一昼夜攪拌後、塩酸により逆滴定し、中和点より酸性基量を求めた。また、造塩型のカルボン酸誘導体(構造式中のMがカリウム、ラウリルアンモニウム)については、合成時に造塩前のカルボン酸誘導体(フリーのカルボン酸誘導体)を取り出し、上記と同様にして1分子当たりの平均置換基数を求めた。
【0111】
実施例で使用した分散剤について構造表1に示した。なお、表中の略号の意味は以下のとおりである。
av:平均置換基数
M :スルホン酸基またはカルボキシル基との造塩物(スルホン酸アニオンまたはカルボン酸アニオンのカウンターカチオン)

【0112】
【表1】

【0113】
<分散剤処理カーボンの調製>
表2に示した組成に従って、カーボンの分散剤処理を行った。また、表2に分散剤処理の方法と、使用した処理装置をあわせて示した。
[分散剤処理カーボン(1)−(3)]
イオン交換水2000部に、各種分散剤を添加した。ディスパーにて攪拌混合しつつ25%アンモニア水を添加し、液のpHを約10とし、分散剤を完全ないしは一部溶解させた。続いて導電助剤となる各種カーボンを100部加え攪拌混合した。このときアンモニア水を適宜添加し、処理液のpHを9.5〜10.5の範囲で維持した。
次に、処理スラリーを磁石つきのストレーナーを通した後、1N塩酸水溶液を加え、液のpHを2〜3とした。このとき液の粘度が急激に上昇するため、適宜イオン交換水を追加した。凝集物を濾取した後、イオン交換水で洗浄、その後乾燥、粉砕して分散剤処理カーボン(1)〜(3)を得た。
【0114】
カーボンとしては、市販のアセチレンブラック(デンカブラック粉状品、一次粒径35nm、比表面積68m/g、電気化学工業社製)、市販のケッチェンブラック(EC−300J、比表面積800m/g、アクゾ社製)または、市販のカーボンナノファイバー(CNF)(製品名「VGCF」、繊維長10〜20μm、繊維径150nm、比表面積13m/g、昭和電工社製)のいずれかを使用した。
【0115】
<分散処理の有無によるカーボンの濡れ性評価>
分散剤未処理の各種カーボンおよび、各種分散剤処理カーボンを80℃で10時間減圧乾燥した。続いて乾燥物をメノウ製の乳鉢で粉砕した後、更に80℃で12時間減圧乾燥した。得られた乾燥物を再度メノウ製乳鉢で粉砕した後、錠剤成型器(Specac社製)にて500kgf/cmで荷重をかけ、カーボンのペレットを作製(直径10mm、厚0.5mm)した。このペレットにマイクロシリンジにて、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを1:1混合した液滴を落とし、液滴がペレットに浸透する時間を測定した。この測定を各サンプルとも5回行い、それらの平均浸透時間が1秒未満であったものを「◎」、1秒以上、5秒未満であったものを「○」、5秒以上、10秒未満であったものを「△」、10秒以上であったものを「×」とした。
、分散剤処理の有無によるカーボンの濡れ性評価の結果を表2に示した。
【0116】
【表2】

【0117】
本発明の分散剤を処理したカーボンでは、分散剤未処理のカーボンに比して、電解液に対する濡れ性が向上した。
【0118】
<導電助剤用カーボン分散体の調製>
[カーボン分散体1−6、9−15、17−20]
表3および表4にに示す組成に従い、ガラス瓶に各種溶剤89.5部および、分散剤B〜J、L、M、O、P、Qのいずれか0.5部を仕込み、攪拌・混合して分散剤を完全ないしは一部溶解させた。次に、導電助剤となる各種カーボン10部を添加し、更にメディアとしてジルコニアビーズを添加した後に、ペイントシェカーで分散した。
得られた分散液を磁石つきの攪拌翼でよく攪拌したのち、更に目開き20μmのフィルターを通し、各種カーボン分散体を得た。
カーボンとしては、市販のアセチレンブラック(デンカブラック粉状品、一次粒径35nm、比表面積68m/g、電気化学工業社製)、もしくはファーネスブラック(Super−P Li、一次粒径40nm、比表面積62m/g、TIMCAL社製)のいずれかを使用した。
【0119】
[カーボン分散体7、8、16]
表3および表4にに示す組成に従い、ガラス瓶にN−メチルピロリドン(NMP)88.5〜89.7部および、表2に示した分散剤処理カーボン(1)〜(3)のいずれか10.3〜11.5部を仕込み攪拌・混合した後、更にメディアとしてジルコニアビーズを添加し、ペイントシェカーで分散した。
得られた分散液を磁石つきの攪拌翼でよく攪拌したのち、更に目開き20μmのフィルターを通し、各種カーボン分散体を得た。
【0120】
カーボンとしては、市販のアセチレンブラック(デンカブラックFX−35、一次粒径23nm、比表面積133m/g、電気化学工業社製)、ケッチェンブラック(EC−300J、比表面積800m/g、アクゾ社製)、もしくは、カーボンナノファイバーCNF(製品名「VGCF」、繊維長10〜20μm、繊維径150nm、比表面積13m/g、昭和電工社製)のいずれかを使用した。
【0121】
[カーボン分散体21、26]
表4に示す組成に従い、ガラス瓶にN−メチルピロリドン(NMP)93部および、導電助剤となる各種カーボン7部を添加し、更にメディアとしてジルコニアビーズを添加した後に、ペイントシェカーで分散し、各種カーボン分散体を得た。
カーボンとしては、市販のアセチレンブラック(デンカブラック粉状品、一次粒径35nm、比表面積68m/g、電気化学工業社製)、もしくはファーネスブラック(Super−P Li、一次粒径40nm、比表面積62m/g、TIMCAL社製)のいずれかを使用した。
【0122】
[カーボン分散体22−24]
表4に示す組成に従い、ガラス瓶に、N−メチル−2−ピロリドン(MNP)89.5部および、分散剤として界面活性剤または、分散樹脂0.5部を仕込み、混合攪拌して分散剤を溶解させた。次に、導電助剤となるアセチレンブラック(デンカブラック粉状品、一次粒径35nm、比表面積68m/g、電気化学工業社製)10部を加え、さらにメディアとしてジルコニアビーズを添加した後に、ペイントシェーカーで分散し、カーボン分散体を得た。
【0123】
界面活性剤としては、ノニオン性の界面活性剤(エマルゲンA−60、ポリオキシエチレン誘導体、花王社製)または、アニオン性の界面活性剤(デモールN、β−ナフタレンスルホン酸−ホルマリン縮合物のナトリウム塩、花王社製)のいずれかを使用した。
分散樹脂としては、ポリビニルピロリドン(重量平均分子量:約80000、日本触媒社製)を使用した。
【0124】
[カーボン分散体25、27、28]
表4に示す組成に従い、ガラス瓶にN−メチル−2−ピロリドン(MNP)89.5部および、分散剤A、K、Nのいずれか0.5部を仕込み、攪拌・混合して分散剤を完全ないしは一部溶解させた。次に、導電助剤となる各種カーボン10部を添加し、更にメディアとしてジルコニアビーズを添加した後に、ペイントシェカーで分散し、各種カーボン分散体を得た。
【0125】
カーボンとしては、市販のアセチレンブラック(デンカブラック粉状品、一次粒径35nm、比表面積68m/g、電気化学工業社製)、もしくはファーネスブラック(Super−P Li、一次粒径40nm、比表面積62m/g、TIMCAL社製)のいずれかを使用した。
【0126】
<分散処理カーボンの濡れ性評価>
カーボン分散体1、2、6、9〜15、17〜21および、26については、分散処理後のカーボンの濡れ性評価を行った。
【0127】
各カーボン分散体の溶剤をエバポレーターにて減圧留去した後、得られた残渣を80℃で10時間減圧乾燥した。続いて乾燥物をメノウ製の乳鉢で粉砕した後、更に80℃で12時間減圧乾燥した。得られた乾燥物を再度メノウ製乳鉢で粉砕した後、錠剤成型器(Specac社製)にて500kgf/cmで荷重をかけ、カーボンのペレットを作製(直径10mm、厚0.5mm)した。このペレットにマイクロシリンジにて、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを1:1混合した液滴を落とし、液滴がペレットに浸透する時間を測定した。この測定を各サンプルとも5回行い、それらの平均浸透時間が1秒未満であったものを「◎」、1秒以上、5秒未満であったものを「○」、5秒以上、10秒未満であったものを「△」、10秒以上であったものを「×」とした。
【0128】
上記カーボン分散体の組成を表3、表4に示した。また、分散評価結果および、濡れ性評価結果を、表5に示した。なお、表中の略号の意味は以下のとおりである。
DN:溶剤のドナー数
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
DMSO:ジメチルスルホキシド
DMF:N,N−ジメチルホルムアミド
【0129】
【表3】

【0130】
【表4】

【0131】
【表5】


カーボン分散体16の粒度は、グラインドゲージによる判定。
【0132】
本発明の分散剤を使用したカーボン分散体(分散体1〜20、25、27、28)は、未処理のカーボンのみを溶剤に分散した場合(分散体21、26)や、一般的な界面活性剤を使用した場合(分散体22、23)に比べて、分散性が良好で、分散体の粘度が低く、分散粒度も小さいことがわかる。また本発明の分散剤を用いた場合でも、分散体25、27、28については、一般的な界面活性剤を使用した場合に対する分散優位性は小さくなった。
【0133】
更に分散体1〜20は、経時分散安定性(50℃x3日)も良好で、増粘や凝集の発生は見られなかった。
【0134】
<リチウム二次電池用正極合材ペーストの調製(活物質:コバルト酸リチウム)>
[実施例1、2、5、7−14]
正極活物質としてコバルト酸リチウムLiCoO(HLC−22、平均粒径6.6μm、比表面積0.62m/g、本荘ケミカル社製)90部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(KFポリマー、クレハ社製)4.75部、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン21.9部をプラネタリーミキサーにより混練した後に、先に調製したカーボン分散体のいずれか50部(カーボン量として5部)を加え、更に混練し、正極合材ペーストとした。各実施例で使用したカーボン分散体は表6に示す。
[実施例3、4]
正極活物質としてコバルト酸リチウムLiCoO(HLC−22、平均粒径6.6μm、比表面積0.62m/g、本荘ケミカル社製)90部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(KFポリマー、クレハ社製)4.75部、溶剤としてジメチルスルホキシド21.9部または、ジメチルホルムアミド21.9部をプラネタリーミキサーにより混練した後に、先に調製したカーボン分散体(4)または(5)のいずれか50部(カーボン量として5部)を加え、更に混練し、正極合材ペーストとした。各実施例で使用したカーボン分散体は表6に示す。
[実施例6]
正極活物質としてコバルト酸リチウムLiCoO(HLC−22、平均粒径6.6μm、比表面積0.62m/g、本荘ケミカル社製)90部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(KFポリマー、クレハ社製)4.75部、分散剤Dを0.25部、導電助剤となるアセチレンブラック(デンカブラック粉状品、一次粒径35nm、比表面積68m/g、電気化学工業社製)5部および、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)36.7部をプラネタリーミキサーにより混練した後に、更にNMPを30部加え混練し、正極合材ペーストとした(表6を参照)。
【0135】
[比較例1]
正極活物質としてコバルト酸リチウムLiCoO(HLC−22、平均粒径6.6μm、比表面積0.62m/g、本荘ケミカル社製)90部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(KFポリマー、クレハ社製)5部、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)0.2部および、先に調製したカーボン分散体(21)71.4部(カーボン量として5部)を加え、混練して正極合材ペーストとした(表6を参照)。
[比較例2−5]
正極活物質としてコバルト酸リチウムLiCoO(HLC−22、平均粒径6.6μm、比表面積0.62m/g、本荘ケミカル社製)90部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(KFポリマー、クレハ社製)4.75部、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)21.9部をプラネタリーミキサーにより混練した後に、先に調製したカーボン分散体のいずれか50部(カーボン量として5部)を加え、更に混練し、正極合材ペーストとした。各比較例で使用したカーボン分散体を表6に示した。
【0136】
<リチウム二次電池用正極合材ペーストの調製(活物質:マンガン酸リチウム)>
[実施例15、17−20]
正極活物質としてマンガン酸リチウムLiMn(CELLSEED S−LM、平均粒径12μm、比表面積0.48m/g、日本化学工業社製)85部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(KFポリマー、クレハ社製)5.6部および、先に調製した各種カーボン分散体35部をプラネタリーミキサーにより混練した。続いて、各種カーボン分散体55部を添加して更に混練し、正極合材ペーストとした。各実施例で使用したカーボン分散体を表7に示した。
[実施例16]
正極活物質としてマンガン酸リチウムLiMn(CELLSEED S−LM、平均粒径12μm、比表面積0.48m/g、日本化学工業社製)85部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(KFポリマー、クレハ社製)5.6部および、先に調製したカーボン分散体(16)35部をプラネタリーミキサーにより混練した。続いて、カーボン分散体(16)55部を添加して更に混練し、正極合材ペーストとした(表7参照)。
【0137】
[比較例6]
正極活物質としてマンガン酸リチウムLiMn(CELLSEED S−LM、平均粒径12μm、比表面積0.48m/g、日本化学工業社製)85部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(KFポリマー、クレハ社製)6部および、先に調製したカーボン分散体(26)35部をプラネタリーミキサーにより混練した。続いて、カーボン分散体(26)94部を添加して更に混練し、正極合材ペーストとした(表7を参照)。
[比較例7、8]
正極活物質としてマンガン酸リチウムLiMn(CELLSEED S−LM、平均粒径12μm、比表面積0.48m/g、日本化学工業社製)85部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(KFポリマー、クレハ社製)5.6部および、先に調製した各種カーボン分散体35部をプラネタリーミキサーにより混練した。続いて、各種カーボン分散体55部を添加して更に混練し、正極合材ペーストとした。各実施例で使用したカーボン分散体を表7に示した。
【0138】
<リチウム二次電池用正極合材ペーストの調製(活物質:ニッケル酸リチウム)>
[実施例21]
正極活物質としてニッケル酸リチウムLiNiO(田中化学研究所社製)91部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(KFポリマー、クレハ社製)4.8部、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン30.9部をプラネタリーミキサーにより混練した後に、先に調製したカーボン分散体(20)40部(カーボン量として4部)を加え、更に混練し、正極合材ペーストとした(表8を参照)。
[比較例9]
正極活物質としてニッケル酸リチウムLiNiO(田中化学研究所社製)91部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(KFポリマー、クレハ社製)4.8部、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン30.9部をプラネタリーミキサーにより混練した後に、先に調製したカーボン分散体(28)40部(カーボン量として4部)を加え、更に混練し、正極合材ペーストとした(表8を参照)。
【0139】
<リチウム二次電池用正極合材ペーストの調製(活物質:リン酸鉄リチウム)>
[実施例22]
正極活物質としてリン酸鉄リチウムLiFePO(平均粒径3.6μm、比表面積15m/g、 TIANJIN STL ENERGY TECHNOLOGY社製)91部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(KFポリマー、クレハ社製)4.8部、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)30.9部をプラネタリーミキサーにより混練した後に、先に調製したカーボン分散体(2)40部(カーボン量として4部)を加え、更に混練し、正極合材ペーストとした(表8を参照)。
[比較例10]
正極活物質としてリン酸鉄リチウムLiFePO(平均粒径3.6μm、比表面積15m/g、 TIANJIN STL ENERGY TECHNOLOGY社製)91部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(KFポリマー、クレハ社製)4.8部、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)30.9部をプラネタリーミキサーにより混練した後に、先に調製したカーボン分散体(25)40部(カーボン量として4部)を加え、更に混練し、正極合材ペーストとした(表8を参照)。
【0140】
<リチウム二次電池用負極合材ペーストの調製>
[実施例23、24、26−37、比較例13、15、16]
負極活物質として、球状黒鉛(平均粒径約10〜20μm、日本黒鉛社製)93部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(KFポリマー、クレハ社製)4.9部、先に調製した各種カーボン分散体20部(カーボンブラック量として2部)をプラネタリーミキサーにより混練した後に、N−メチル−2−ピロリドン48.7部を加え、更に混練し、負極合材ペーストとした。各実施例で使用したカーボン分散体は表9に示す。
[比較例12、14]
負極活物質として、球状黒鉛(平均粒径約10〜20μm、日本黒鉛社製)93部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(KFポリマー、クレハ社製)5部、先に調製したカーボン分散体(21)または(26)28.6部(カーボンブラック量として2部)をプラネタリーミキサーにより混練した後に、N−メチル−2−ピロリドン40.1部を加え、更に混練し、負極合材ペーストとした(表9を参照)。
[実施例25]
負極活物質として、球状黒鉛(平均粒径約10〜20μm、日本黒鉛社製)93部、バインダーとしてカルボキシメチルセルロース(サンローズF300MC、日本製紙ケミカル社製)1部および、スチレンブタジエンゴム(TRD2001、JSR社製)3.9部、先に調製したカーボン分散体(3)20部(カーボンブラック量として2部)をプラネタリーミキサーにより混練した後に、イオン交換水48.7部を加え、更に混練し、負極合材ペーストとした(表9を参照)。
[比較例11]
負極活物質として、球状黒鉛(平均粒径約10〜20μm、日本黒鉛社製)93部、バインダーとしてカルボキシメチルセルロース(サンローズF300MC、日本製紙ケミカル社製)1部および、スチレンブタジエンゴム(TRD2001、JSR社製)4部、導電助剤となるアセチレンブラック(デンカブラック粉状品、一次粒径35nm、比表面積68m/g、電気化学工業社製)および、イオン交換水18部をプラネタリーミキサーにより混練した後に、イオン交換水48.7部を加え、更に混練し、負極合材ペーストとした(表9を参照)。
【0141】
<リチウム二次電池用正極の作製>
[実施例1−22、比較例1−10]
先に調製した正極合材ペーストを、集電体となる厚さ20μmのアルミ箔上にドクターブレードを用いて塗布した後、減圧加熱乾燥、圧延処理して、厚さ100μmの正極合材層を作製した(表6〜8を参照)。
[実施例38−49、比較例17−19]
実施例1、2、5、9、10、12、14、15、17−20および、比較例1、5、8で使用した正極合材ペーストを、厚さ20μmのアルミ箔の両面に塗布した後、減圧加熱乾燥し、圧延処理して正極合材層を作製した(表10を参照)。
【0142】
<リチウム二次電池用負極の作製>
[実施例23−37、比較例11−16]
先に調製した各種負極合材ペーストを、集電体となる厚さ20μmの銅箔上にドクターブレードを用いて塗布した後、減圧加熱乾燥、圧延処理し、厚さ100μmの負極合材層を作製した(表9を参照)。
[実施例38−49、比較例17−19]
実施例23、24、26−28、30、32−37および、比較例12、13、16で使用した負極合材ペーストを、厚さ20μmの銅箔の両面に塗布した後、減圧加熱乾燥し、圧延処理して負極合材層を作製した(表10を参照)。
【0143】
<リチウム二次電池正極評価用セルの組み立て>
[実施例1−22、比較例1−10]
先に作製した正極を、直径9mmに打ち抜き作用極とし、金属リチウム箔(厚さ0.15mm)を対極として、作用極および対極の間に多孔質ポリプロピレンフィルムからなるセパレーター(セルガード社製 #2400)を挿入積層し、電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを1:1に混合した混合溶媒にLiPFを1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を満たして二極密閉式金属セル(宝仙社製 HSフラットセル)を組み立てた。セルの組み立てはアルゴンガス置換したグローブボックス内で行い、セル組み立て後、所定の電池特性評価を行った(表11〜13を参照)。
【0144】
<リチウム二次電池負極評価用セルの組み立て>
[実施例23−37、比較例11−16]
先に作製した負極を、直径9mmに打ち抜き作用極とし、金属リチウム箔(厚さ0.15mm)を対極として、作用極および対極の間に多孔質ポリプロピレンフィルムからなるセパレーター(セルガード社製 #2400)を挿入積層し、電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを1:1に混合した混合溶媒にLiPFを1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を満たして二極密閉式金属セル(宝仙社製 HSフラットセル)を組み立てた。セルの組み立てはアルゴンガス置換したグローブボックス内で行い、セル組み立て後、所定の電池特性評価を行った(表14を参照)。
【0145】
<リチウム電池の金属コンタミ耐性評価用セルの組み立て>
[実施例38−49、比較例17−19]
先に作製した正極および負極を幅54mm、長さ500mmに切り出し、ポリエチレンからなるセパレーター(膜厚25μm、幅58mm、空孔率50%)を介在させて巻回した。これを電池缶に納め、電解液を注液した。注液後、封口部を封止して電池を作製した(表10を参照)。
【0146】
尚、本実施例および比較例では、金属成分混入時の電池耐性を評価するために、電解液として、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを1:1に混合した溶媒にLiPFを1Mの濃度で溶解させたものに、更に銅イオン源としてCu(BFを10ppmもしくは、鉄イオン源としてFe(CFSOを50ppm添加したものを使用した
【0147】
<リチウム二次電池正極特性評価>
[充放電サイクル特性 実施例1−21、比較例1−9]
作製した電池評価用セルを室温(25℃)で、充電レート0.2C、1.0Cの定電流定電圧充電(上限電圧4.2V)で満充電とし、充電時と同じレートの定電流で放電下限電圧3.0Vまで放電を行う充放電を1サイクル(充放電間隔休止時間30分)とし、このサイクルを合計20サイクル行い、充放電サイクル特性評価(評価装置:北斗電工社製SM−8)を行った。また、評価後のセルを分解し、電極塗膜の外観を目視にて確認した。評価結果を表11〜13に示した。
【0148】
[充放電サイクル特性 実施例22、比較例10]
作製した電池評価用セルを室温(25℃)で、充電レート0.2C、1.0Cの定電流定電圧充電(上限電圧4.5V)で満充電とし、充電時と同じレートの定電流で放電下限電圧2.0Vまで放電を行う充放電を1サイクル(充放電間隔休止時間30分)とし、このサイクルを合計20サイクル行い、充放電サイクル特性評価(評価装置:北斗電工社製SM−8)を行った。また、評価後のセルを分解し、電極塗膜の外観を目視にて確認した。評価結果を表13に示した。
【0149】
[直流内部抵抗測定 実施例1、2、5、6、9、10、18−22、比較例1−6、8−10]
作製した電池評価用セルを室温(25℃)、充電レート0.2Cの定電流定電圧充電(上限電圧4.2V)で満充電とし、0.1C、0.2C、0.5C、1.0Cのレートの定電流で5秒放電後、電池電圧を測定した。電流値に対し電圧値をプロットし、得られた直線関係の傾きを内部抵抗とした。評価結果を表11〜13に示すが、正極活物質としてコバルト酸リチウムを用いた場合については、実施例5の内部抵抗測定値を100としたときの相対値として示した。正極活物質としてマンガン酸リチウムを用いた場合については、実施例19の内部抵抗測定値を100としたときの相対値として示した。また、正極活物質としてニッケル酸リチウムを用いた場合については、実施例21の内部抵抗測定値を100としたときの相対値として示した。また、極活物質としてリン酸鉄リチウムを用いたものについては、実施例22の内部抵抗測定値を100としたときの相対値として示した。
【0150】
表6〜8および、表11〜13から分かるように、実施例では、比較例に比べて、正極合材ペーストの分散性および経時安定性が向上した。また、比較例に比して、内部抵抗の低下傾向が見られるとともに、電池容量および、20サイクル容量維持率が向上した。
【0151】
<リチウム二次電池負極特性評価>
[充放電サイクル特性 実施例23−37、比較例11−16]
作製した電池評価用セルを室温(25℃)、充電レート0.2C、1.0Cの定電流定電圧充電にて、0.05Vで満充電とし、充電時と同じレートの定電流で電圧が1.5Vになるまで放電を行う充放電を1サイクル(充放電間隔休止時間30分)とした。
そしてまず、5回この充放電操作を行い、6回目の放電容量を初期値とした。その後、このサイクルを合計20サイクル行い、充放電サイクル特性評価(評価装置:北斗電工製SM−8)を行った。また、評価後のセルを分解し、電極塗膜不良の有無を目視にて確認した。評価結果を表20に示した。
【0152】
表9および、表14から分かるように、実施例では、比較例に比べて、負極合材ペーストの分散性および経時安定性が向上した。また比較例に比して、電池容量および、20サイクル容量維持率が向上した。
【0153】
<リチウム電池の金属コンタミ耐性評価>
[充放電サイクル特性 実施例38−49、比較例17−19]
作製した電池を室温(25℃)、充電レート1.0Cの定電流定電圧充電(上限電圧4.0V)で満充電とし、充電時と同じレートの定電流で電圧が2.75Vになるまで放電を行う充放電を1サイクル(充放電間隔休止時間30分)とし、このサイクルを合計20サイクル以上行った。評価としては、初期放電容量と20サイクル目の放電容量とから、容量維持率を求め、容量維持率が95%以上の場合を「◎」、90%以上95%未満を「○」、85%以上90%未満を「△」、85%未満を「▲」とした。評価結果を表15に示した。
【0154】
実施例38〜49および、比較例17、18の電池では、20サイクル安定して充放電サイクルを繰り返すことができた。しかしながら、比較例17、18では実施例に比して、容量維持率が低下する傾向が見られた。また、分散剤の官能基が、フリーのスルホン酸(−SOH)、フリーのカルボン酸(−COOH)の場合に、20サイクル時の容量維持率が高くなる傾向が見られた。一方、比較例19では5サイクルで充放電が不可能となった。評価後にセルを分解したところ、デンドライト状の金属析出物により短絡が生じていた。
【0155】
【表6】

【0156】
【表7】

【0157】
【表8】

【0158】
【表9】

【0159】
【表10】

【0160】
【表11】

【0161】
【表12】

【0162】
【表13】

【0163】
【表14】

【0164】
【表15】






【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性官能基の平均置換基数が0.4〜1.9である分散剤としてのキナクリドン誘導体と、導電助剤としての炭素材料とを含有すること特徴とする電池用組成物。
【請求項2】
酸性官能基がスルホン酸基(−SOH)もしくは、カルボキシル基(−COOH)であることを特徴とする請求項1記載の電池用組成物。
【請求項3】
酸性官能基がスルホン酸アンモニウム塩、カルボン酸アンモニウム塩であることを特徴とする請求項1記載の電池用組成物。
【請求項4】
酸性官能基がスルホン酸金属塩もしくは、カルボン酸金属塩であることを特徴とする請求項1記載の電池用組成物。
【請求項5】
更に、溶剤を含むことを特徴とする請求項1ないし請求項4いずれか記載の電池用組成物。
【請求項6】
導電助剤としての炭素材料の分散粒径(D50)が2μm以下であること特徴とする請求項1ないし請求項5いずれか記載の電池用組成物。
【請求項7】
更に、バインダー成分を含むことを特徴とする請求項1ないし請求項6いずれか記載の電池用組成物。
【請求項8】
バインダー成分が、分子内にフッ素原子を含む高分子化合物であることを特徴とする請求項7記載の電池用組成物。
【請求項9】
溶剤が、N−メチルピロリドンであることを特徴とする請求項5ないし請求項8いずれか記載の電池用組成物。
【請求項10】
更に、正極活物質または負極活物質を含むことを特徴とする請求項1ないし請求項9いずれか記載の電池用組成物。
【請求項11】
集電体上に正極合材層を有する正極と、集電体上に負極合材層を有する負極と、リチウムを含む電解質とを具備するリチウム二次電池であって、前記正極合材層または前記負極合材層が、請求項9記載の電池用組成物を使用して形成されていることを特徴とするリチウム二次電池。

【公開番号】特開2010−49873(P2010−49873A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−211621(P2008−211621)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】