説明

電池

【課題】内部短絡を効果的に抑制してその安全性を高めることが可能な捲回型の電池を提供する。
【解決手段】正極11と負極12とセパレータ13を一体とした捲回体を有して成る電池であって、正極11及び負極12は、それぞれ、その両面に導電層11y、12yが形成された樹脂フィルム11x、12xを集電体としたものであり、かつ、樹脂フィルム11xは、捲回体の外周部分(b〜c)に、導電層11yが一切形成されない露出領域を有する構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捲回型の電池(例えばリチウムイオン二次電池)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
正極に金属酸化物、電解質に有機電解液(非水系電解液)、負極に黒鉛等の炭素材料、正極及び負極間に多孔質セパレータを用いるリチウムイオン二次電池(以下、単に電池とも呼ぶ)は、1991年に初めて製品化されて以来、そのエネルギー密度の高さから、小型、軽量化が進む携帯電話のような携帯機器向けの電池として急速に普及してきた。
【0003】
また、発電された電気を蓄えるために容量を大きくしたリチウムイオン二次電池(大容量電池)も研究されている。なお、この大容量電池としては、従来の電池を単にスケールアップして製造された例が報告されている。
【0004】
一方で、リチウムイオン二次電池の急速な普及や大容量化に伴い、その安全性に対する要望は高くなってきている。
【0005】
リチウムイオン二次電池は、電解質として有機電解液を用いているため、過酷な使用条件においても破裂や発火等の事故に至らないように、いくつかの対策が施されている。その対策としては、電池温度が上昇した場合に、セパレータが溶融することによって、セパレータの孔が塞がり、その結果、電流が遮断される”シャットダウン機能”のような安全性を確保する対策が備えられている。
【0006】
しかしながら、これらの対策が施された電池であっても、電池の安全性に関する問題は生じている。例えば、外部からの要因による短絡(釘が刺さった場合等)や内部短絡(異物混入の場合等)が生じて、短絡箇所に電流が集中して流れると、抵抗発熱による発熱が生じ、その熱によって電池内の活物質や電解液の化学反応が引き起こされる。その結果、電池に、いわゆる“熱暴走”が起こり、最悪の場合には破裂、発火に至るといった問題が起こっている。
【0007】
これまでに、内部短絡を防止できる安全性の高いリチウムイオン二次電池として、正極集電体の露出部と対向する負極合剤の表面、及び、負極合剤の表面と対向する正極集電体の露出部の少なくともいずれか一方の表面に絶縁体層を形成した非水系二次電池が開示・提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2007−103356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
確かに、特許文献1に記載の従来技術は、電池の内部短絡防止に資するものであるが、長期の評価において、前記絶縁体層は、少なからず剥離や落下等を生じる懸念がある。そのため、特許文献1に記載の従来技術では、正極集電体の露出部と対向する負極合剤の表面、及び、負極合剤の表面と対向する正極集電体の露出部間の少なくともいずれかで、長期の使用において生じる内部短絡を十分に抑制することができなくなるおそれがあった。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑み、内部短絡を効果的に抑制してその安全性を高めることが可能な捲回型の電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る電池は、正極と負極とセパレータを一体とした捲回体を有して成る電池であって、前記正極及び前記負極のうち、少なくともいずれか一方は、その両面或いは片面に導電層が形成された樹脂フィルムを集電体としたものであり、かつ、前記樹脂フィルムは、前記捲回体の外周部分に、前記導電層が一切形成されない露出領域を有する構成(第1の構成)とされている。
【0011】
なお、上記第1の構成から成る電池において、前記樹脂フィルムは、前記捲回体の最外周部分にのみ、前記露出領域を有する構成(第2の構成)にするとよい。
【0012】
また、上記第1または第2の構成から成る電池において、前記樹脂フィルムは、120℃での熱収縮率が縦、横いずれかの方向で1.5%以上の熱可塑性樹脂から成る構成(第3の構成)にするとよい。
【0013】
また、上記第3の構成から成る電池において、前記樹脂フィルムは、ポリオレフィン樹脂、または、ポリ塩化ビニル、若しくは、これらの複合材料から成る構成(第4の構成)にするとよい。
【発明の効果】
【0014】
正極及び負極の集電体が金属箔から成る従来構成の電池では、内部短絡を生じ易い箇所として、正極集電体の露出部と負極の表面との間、正極集電体の露出部と負極集電体の露出部との間、正極の表面と負極の表面との間、並びに、正極の表面と負極集電体の露出部との間を挙げることができる。なかでも、正極集電体の露出部と負極の表面との間は、内部短絡が生じた場合に、特に大きな電流が流れ易い箇所として考えられる。
【0015】
これに対して、本発明に係る電池であれば、正極及び前記負極のうち、少なくともいずれか一方は、その両面或いは片面に導電層が形成された樹脂フィルムを集電体としたものであり、かつ、前記樹脂フィルムは、捲回体の外周部分に、導電層が一切形成されない露出領域を有しているので、正極集電体の露出部と負極の表面との間で内部短絡を生じにくい構造となる。
【0016】
さらに、本発明に係る電池であれば、サイクル中に生じる電極の膨張収縮にも、樹脂フィルムの伸縮で対応することができるので、サイクル特性に及ぼす効果も大きくなる。
【0017】
また、本発明に係る電池であれば、正極及び負極の集電体が金属箔から成る従来構成の電池と比べて、金属の使用量を低減することができる。その結果、電池の軽量化、金属の使用量低減による低コスト化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下では、本発明を捲回型のリチウムイオン二次電池に適用した構成を例に挙げて、詳細な説明を行う。
【0019】
図1は、本発明に係る捲回型のリチウムイオン二次電池の縦断面図である。図1に示すように、本発明に係るリチウムイオン二次電池10は、正極11と、負極12と、セパレータ13と、正極リード14と、負極リード15と、電池缶16と、正極蓋17と、絶縁パッキン18と、センターピン19と、を有して成る。なお、図1において、セパレータ13、正極蓋17、及び、絶縁パッキン18には断面を示すハッチングを省略している。
【0020】
上記の構成要素を有するリチウムイオン二次電池10の電極構造は、次の通りである。正極11と負極12との間には、それぞれ多孔質のセパレータ13が挟まれている。そして、これらを一体として端からスパイラル状に捲回することにより、円筒形の捲回体が形成される。この捲回体は、電池缶16の上面側(正極蓋17側)から正極リード14、底面側から負極リード15がそれぞれ引き出された状態で、円筒形の電池缶16(例えば、直径18[mm]、高さ65[mm])内に収納されている。
【0021】
また、正極リード14は正極蓋17に、負極リード15は電池缶16の底面に、スポット溶接によってそれぞれ取り付けられている。また、上記捲回体の中心部には、巻き崩れ防止のためにセンターピン19が挿入されている。また、電池缶16と正極蓋17との間は、絶縁パッキン18を介在させた状態で、かしめによる密封処理が施されている。
【0022】
セパレータ13は、例えば、電気絶縁性の合成樹脂繊維、ガラス繊維、天然繊維等の不織布、織布、又は、微多孔質膜の中から適宜選択可能である。なかでも、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等の不織布、及び、微多孔質膜は、品質の安定性等の点から、セパレータ13として好適に使用することができる。また、上記合成樹脂の不織布、及び、微多孔質膜をセパレータ13として用いれば、リチウムイオン二次電池10が異常発熱した場合にセパレータ13が熱により溶解し、正極11と負極12との間で電流が遮断される機能、いわゆる”シャットダウン機能”を付加することが可能となる。従って、安全性の観点から見ても、上記合成樹脂の不織布、及び、微多孔質膜は、セパレータ13として好適に使用することができる。
【0023】
なお、セパレータ13の厚みについては、特に限定されないが、必要量の電解液を保持することが可能であって、かつ、正極11と負極12との短絡を防ぐことが可能な厚さがあればよい。例えば、0.01〜1[mm]程度の厚さとすればよく、好ましくは、0.02〜0.05[mm]程度の厚さとすればよい。
【0024】
また、セパレータ13を構成する材質についても、特に限定されないが、電池の内部抵抗値を小さく維持しつつ、電池の内部短絡を防ぐことが可能な強度を確保するために、1〜500[秒/cm]程度の透気度を有する材質を用いることが好ましい。
【0025】
また、セパレータ13の形状や大きさについても、特に限定されないが、正極11及び負極12と共に捲回した場合に、正極11よりも大きいことが好ましく、なかでも、正極11よりもやや大きく、負極12よりもやや小さな相似形であることが好ましい。
【0026】
また、リチウムイオン二次電池10に含まれる電解質としては、一般に、有機溶媒と電解質塩とを含む非水系電解液が使用される。
【0027】
なお、上記有機溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート類と、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート類、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等のラクトン類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等のフラン類、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジオキサン等のエーテル類、ジメチルスルホキシド、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、ギ酸メチル、酢酸メチル等が挙げられる。これら有機溶媒は、2種以上混合してもよい。
【0028】
また、上記電解質塩としては、ホウフッ化リチウム(LiBF)、リンフッ化リチウム(LiPF)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、トリフルオロ酢酸リチウム(LiCFCOO)、トリフルオロメタンスルホン酸イミドリチウム(LiN(CFSO)等のリチウム塩が挙げられる。これら電解質塩は、2種以上を混合してもよい。
【0029】
また、上記の非水系電解液をポリマーマトリックス中に保持したゲル電解質や、イオン液体から成る電解質を用いることも可能である。
【0030】
次に、正極11及び負極12の電極構造について説明する。本発明に係るリチウムイオン二次電池10において、捲回体を形成する正極11及び負極12のうち、少なくともいずれか一方は、その表面に導電層が形成された樹脂フィルムを集電体としたものであり、かつ、上記の樹脂フィルムは、捲回体の外周部分に、導電層が一切形成されない露出領域を有する構造とされている。以下では、この特徴的な構造について、詳細な説明を行う。
【0031】
図2及び図3は、それぞれ、捲回体の横断面図(捲回軸に対して垂直方向に切断した場合の断面図)である。なお、図2には、正極11及び負極12の断面構造を詳細に説明するために、正極11及び負極12をシート状に広げた状態(捲回する前の状態)が示されている。一方、図3には、電池缶16内部における正極11及び負極12の相対的な位置関係を詳細に説明するために、正極11及び負極12を捲回した状態が示されている。なお、図3では、正極11が実線で示されており、負極12が破線で示されている。
【0032】
図2に示すように、正極11は、その両面に導電層11yが形成された樹脂フィルム11xを集電体としている。また、負極12は、その両面に導電層12yが形成された樹脂フィルム12xを集電体としている。なお、導電層11y及び導電層12yの形成方法については、特に限定されないが、蒸着、スパッタリング、無電解めっき等の方法を用いることができる。また、正極11の導電層11yを形成する導電性材料としては、アルミニウムを用いることが好ましく、負極12の導電層12yを形成する導電性材料としては、銅或いはニッケルを用いることが好ましい。また、導電層11y及び導電層12yの厚さについては、電池の負荷特性を鑑みて0.3[μm]以上とすることが好ましく、また、導電性材料の使用量低減を鑑みて3[μm]以下とすることが好ましい。
【0033】
なお、上記では、正極11、負極12の端部にそれぞれ1箇所ずつリード取り出し箇所(タブ接続部)を載置した構成を例に挙げて説明を行ったが、タブ接続部の載置位置や載置数は、これに限定されるものではない。例えば、導電層や活物質層が形成された集電体での抵抗ロスを鑑みると、電極端部に1箇所だけタブ接続部を載置した上記の構成では、タブ接続部から集電体最遠部(タブ接続部を起点としてそこから最も遠い位置にある集電体の一部分を指すものであって、上記の構成に即して言えば、タブ接続部が載置された電極端部とは逆側の電極端部に相当)までの距離が大きくなるので、集電体での抵抗ロスも大きくなる。そこで、さらなる電池特性の向上を図る場合には、タブ接続部から集電体最遠部までの距離を短縮して、集電体での抵抗ロスを抑制するために、電極端部以外(例えば電極両端からの距離が等しくなる中間位置)にタブ接続部を載置したり、若しくは、電極上の2箇所以上にタブ接続部を載置することが好ましい。なお、このような構成を採用する場合、負極12のタブ接続部に対向する箇所には、正極11の活物質層が存在しないように設計することが好ましい。また、このような構成は、正極側、負極側のいずれにも適用することが可能であるが、正極側に適用することがより好ましい。
【0034】
樹脂フィルム11x及び樹脂フィルム12xの材質としては、熱可塑性樹脂から成るプラスチック材料が好ましく、例えば、熱変形温度が150℃以下であるポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン樹脂、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル、ポリアミドを好適に用いることができる。なかでも、120℃での熱収縮率が縦、横いずれかの方向で1.5%以上のポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニルが好ましい。また、これらの複合フィルムや、これらに表面加工処理を行った樹脂フィルムも好適に用いることができる。また、セパレータ13と同じ材質から成る樹脂フィルムを用いることもできる。
【0035】
なお、上記熱収縮率の測定は次のように行えばよい。まず、樹脂フィルム上に50[mm]以上の間隔を空けて2つのポイントを付け、両者のポイント間距離を測定する。その後、15分間、120℃で加熱処理を行った後に、再度、同じポイント間距離を測定し、加熱処理前後の測定値に基づいて熱収縮率を求める。この方法に基づき、樹脂フィルムの縦方向及び横方向について、それぞれ3つ以上のポイント間距離を測定し、各々の測定結果から算出された熱収縮率の平均値を最終的な樹脂フィルムの熱収縮率として採用する。このとき、樹脂フィルムの縦方向及び横方向のそれぞれについて、少なくとも、樹脂フィルムの端部から10%以内の2点と、樹脂フィルムの端部から50%前後の1点を、ポイント間距離の測定地点として選定すべきである。
【0036】
樹脂フィルム11x及び樹脂フィルム12xの厚さについては、二次電池としてのエネルギー密度向上と強度維持のバランスを取るべく、10[μm]以上、100[μm]以下とすることが望ましい。樹脂フィルム11x及び樹脂フィルム12xの製造方法については、一軸延伸、二軸延伸、または、無延伸等のいずれの方法を採用しても構わない。
【0037】
上記構成から成る正極11において、導電層11y上には、正極活物質を含む正極活物質層(正極合剤層)11zが形成される。また、上記構成から成る負極12において、導電層12y上には、負極活物質を含む負極活物質層(負極合剤層)12zが形成される。
【0038】
なお、正極活物質としては、リチウムを含有した酸化物が挙げられる。具体的には、LiCoO、LiNiO、LiFeO、LiMnO、LiMn、及び、これら正極活物質の遷移金属を一部他の金属元素で置換した物が挙げられる。また、通常の使用において、正極活物質が保有するリチウム量の80%以上を電池反応に利用することが可能なものであれば、過充電による課題を解決し、電池の安全性を高めることが可能となる。このような正極活物質としては、LiMnのようなスピネル構造を有するものや、LiMPO(MはCo、Ni、Mn、Feから選ばれる少なくとも1種以上の元素)で表されるオリビン構造を有する正極材料等がある。なかでも、MnやFeを用いた正極活物質がコストの観点から好ましい。
【0039】
また、さらに好ましい正極活物質としては、安全性及び充電電圧の観点から、LiFePOが挙げられる。通常、電池に温度上昇が生じると、これに伴って正極活物質が酸素を放出するので、電解液が燃焼してさらに激しい発熱を生じてしまうが、LiFePOは、全ての酸素が強固な共有結合によって燐と結合しているため、電池に温度上昇が生じた場合でも、酸素の放出が非常に起こりにくく、安全性の観点から好ましい。また、LiFePOは燐を含んでいるため、消炎作用も期待できる。
【0040】
さらに、LiFePOは、その充電電圧が3.5[V]程度であり、3.8[V]でほぼ充電が完了するため、電解液の分解を引き起こす電圧レベルまでは少し余裕がある。従って、LiFePOを正極活物質として用いれば、規定された負荷特性に電極の分極があったとしても、充電電圧を適切なレベルまで高めることにより、電解液の分解を引き起こすことなく充電が可能となる。一方、充電電圧が4[V]以上に達するような正極活物質を用いた場合には、それ以上に充電電圧を上げると、電解液の分解が起こりやすくなる。そのため、上記のように分極が大きい場合に、さらに充電電圧を上げて充電すると、サイクル特性に影響を及ぼすおそれがあり、好ましくない。
【0041】
また、LiFePOは、充電の末期に電圧が急激に上昇するため、満充電状態の検出が非常に行いやすく、組み電池にした場合にも、電圧検出の精度があまり要求されることがないという利点も有する。
【0042】
一方、負極活物質としては、天然黒鉛、粒子状(鱗片状ないし塊状、繊維状、ウイスカー状、球状、破砕状等)の人造黒鉛、或いは、メソカーボンマイクロビーズ、メソフェーズピッチ粉末、等方性ピッチ粉末等の黒鉛化品等に代表される高結晶性黒鉛、若しくは、樹脂焼成炭等の難黒鉛化炭素等が挙げられ、さらにはこれらを2種以上混合してもよい。また、錫の酸化物、シリコン系の負極活物質等の容量の大きい合金系の材料を使用することもできる。
【0043】
また、図2及び図3に示したように、本発明に係るリチウムイオン二次電池10において、正極11の集電体を形成する樹脂フィルム11xは、捲回体の最外周部分(符号b〜cで示された区間)に、導電層11yが一切形成されない露出領域(非導電領域)を有する構成とされている。この露出領域は、導電層11yの形成工程において、パターニングを行うことにより作成すればよい。パターニングの方法としては、マスクを用いる方法など、一般的に用いられている方法で対応することができる。
【0044】
なお、上記した捲回体の「最外周部分」とは、符号aで示すポイントを起点とし、センターピン19を捲回軸として、スパイラル状に捲回体を形成したときに、最後に巻き取られる1周分(符号b〜cで示された区間)を指すものとする。
【0045】
また、図3において、極太線Xで示された領域は、樹脂フィルム上に導電層と活物質層が形成された領域を示している。太線Yで示された領域は、樹脂フィルム上に導電層のみが形成された領域(電極領域)を示している。細線Zで示された領域は、樹脂フィルム上に導電層が形成されていない露出領域(非導電領域)を示している。また、図3中の符号a〜cは、それぞれ、図2中の符号a〜cに相当する。
【0046】
このように、本発明に係るリチウムイオン二次電池10において、正極11の集電体を形成する樹脂フィルム11xは、捲回体の最外周部分に、導電層11yが一切形成されない露出領域を有しているので、この露出領域と負極12との間では、内部短絡を生じるおそれがない。従って、集電体が金属箔で形成されていた従来構成と異なり、電池の内部短絡を生じた場合であっても、正極集電体の露出領域と負極との間に大電流が流れることを防止できるので、電池の安全性向上に大きく寄与することが可能となる。
【0047】
また、本発明に係るリチウムイオン二次電池10では、捲回体の最外周部分にのみ樹脂フィルム11xの露出領域が形成されているので、電池容量を不要に損なうことがない。
【0048】
さらに、本発明に係るリチウムイオン二次電池10であれば、サイクル中に生じる電極の膨張収縮にも、樹脂フィルム11x、12xの伸縮で対応することができるので、サイクル特性に及ぼす効果も大きくなる。
【0049】
また、本発明に係るリチウムイオン二次電池10であれば、正極11及び負極12の集電体が金属箔から成る従来構成の電池と比べて、金属の使用量を低減することができる。その結果、電池の軽量化、金属の使用量低減による低コスト化が可能となる。
【0050】
なお、上記の実施形態では、本発明を捲回型のリチウムイオン二次電池に適用した構成を例示して詳細な説明を行ったが、本発明の適用対象はこれに限定されるものではなく、捲回型の電池全般に広く適用することが可能である。
【0051】
また、本発明の構成は、上記実施形態のほか、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。
【0052】
例えば、上記実施形態では、正極11と負極12の両方に樹脂フィルム11x、12xを用いた構成を例に挙げて説明を行ったが、本発明の構成はこれに限定されるものではなく、いずれか一方のみに樹脂フィルムを用い、他方については従来通りの金属箔を用いる構成としても構わない。
【0053】
また、上記実施形態では、捲回体の最外周部分(図2及び図3の符号b〜cで示された区間)にのみ、樹脂フィルム11xの露出領域を形成する構成を例に挙げて説明を行ったが、本発明の構成はこれに限定されるものではなく、図4に示すように、樹脂フィルム11xの露出領域を符号bで示すポイントよりもさらに内側の符号dで示すポイントから形成した構成、すなわち、捲回体の外周部分に、樹脂フィルム11xの露出領域を有する構成としても構わない。
【0054】
なお、上記した捲回体の「外周部分」とは、符号aで示すポイントを起点とし、センターピン19を捲回軸として、スパイラル状に捲回体を形成したときに、最後に巻き取られるn周分(ただしn>1であり、符号d〜b〜cで示された区間)を指すものとする。
【0055】
また、上記実施形態では、正極11側の樹脂フィルム11xのみに露出領域を形成する構成を例に挙げて説明を行ったが、本発明の構成はこれに限定されるものではなく、図4に示すように、正極11側の樹脂フィルム11xと負極12側の樹脂フィルム12xの双方に、導電層11y、12yが形成されていない露出領域を設けても構わない。
【0056】
また、上記実施形態では、樹脂フィルム11x、12xの両面に、それぞれ、導電層11y、12yを形成する構成を例に挙げて説明を行ったが、本発明の構成はこれに限定されるものではなく、図5に示すように、樹脂フィルム11x、12xの片面にのみ、それぞれ、導電層11y、12yを形成する構成としても構わない。このような構成とすることにより、捲回体を形成する際に、導電層11y、12yを互いに対向させることで、両者の間に1枚のセパレータ13を介在すれば足りることになる。
【0057】
また、上記実施形態では、正極11側の樹脂フィルム11xに露出領域を形成した構成を例に挙げて説明を行ったが、本発明の構成はこれに限定されるものではなく、正極11と負極12との関係を互いに入れ替えても構わない。すなわち、図1〜図5で示した符号11を負極とし、符号12を正極としてもよい。ただし、一般には、正極11よりも負極12の方が電極面積が大きくなるので、負極12が捲回体の外側となることが好ましい。
【0058】
また、上記実施形態では、円筒型の電池缶16を用いた構成を例に挙げて説明を行ったが、本発明の構成はこれに限定されるものではなく、その他の形状(例えば、三角柱型や四角柱型)を有する電池缶16を用いても構わない。
【実施例】
【0059】
以下では、実施例と比較例を挙げ、これらを対比することによって、本発明の作用・効果を具体的に説明するが、これらの実施例や比較例によって、本発明の技術的範囲は何ら限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
本実施例では、本発明に係る円筒型電池の充放電試験を行った。なお、正極活物質としてLiCoOを100重量部、導電材としてアセチレンブラックを10重量部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(以下ではPVDFと呼ぶ)を10重量部、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン(以下ではNMPと呼ぶ)をそれぞれ用い、正極活物質層を形成するためのペーストを作製した。また、厚さ15[μm]のプロピレンフィルムの両面に厚さ1[μm]のアルミニウム蒸着層を形成して正極の集電体を作製した。そして、上記のペーストを集電体の両面に塗工し、十分に乾燥させた後、油圧プレスでプレスすることにより、正極を得た(樹脂フィルム幅59[mm]×長さ725[mm]、電極塗工幅59[mm]×長さ650[mm])。この正極における単位面積あたりの活物質の重量は40[mg/cm]となった。正極の一端には、正極リードとなるアルミニウムタブを取り付けた。
【0061】
次に、負極活物質として中国産の天然黒鉛(平均粒径15[μm]、平均面間隔d002=0.3357[nm]、BET比表面積3m/g)を100重量部、バインダーとしてPVDFを12重量部、溶剤としてNMPをそれぞれ用い、負極活物質層を形成するためのペーストを作製した。また、厚さ15[μm]のプロピレンフィルムの両面に厚さ1[μm]の銅蒸着層を形成して負極の集電体を作製した。そして、上記のペーストを集電体の両面に塗工し、十分に乾燥させた後、油圧プレスでプレスすることにより、負極を得た(樹脂フィルム幅59[mm]×長さ725[mm]、電極塗工幅59[mm]×長さ655[mm])。負極の一端には、負極リードとなるニッケルタブを取り付けた。
【0062】
セパレータとしては、厚さ25[μm]のポリエチレン製の微多孔膜を用いた。また、電解質としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比1:1で混合した混合溶媒にリンフッ化リチウムを1Mの割合で溶解させた電解液を電池缶に注液した。
【0063】
この円筒型電池の充放電試験は、25℃の恒温槽において、下記の表1に示す通りに実施した。さらに、特性を測定した後、満充電状態で2[m]の高さからコンクリート床への落下試験を10回行い、その電池の表面温度を観測し、落下試験後の内部短絡発生の評価を行った。
【0064】
【表1】

【0065】
(実施例2)
正極の集電体をアルミニウム箔(厚さ20[μm])に変更し、電極塗工領域を幅59[mm]×長さ660[mm]に変更した以外は、実施例1と同様に電池を作製した。得られた電池の特性を測定した後、満充電状態で2[m]の高さからコンクリート床への落下試験を10回行い、その電池の表面温度を観測し、落下試験後の内部短絡発生の評価を行った。
【0066】
(実施例3)
負極の集電体を銅箔(厚さ12[μm])に変更し、電極塗工領域を幅59[mm]×長さ725[mm])に変更した以外は、実施例1と同様に電池を作製した。得られた電池の特性を測定した後、満充電状態で2[m]の高さからコンクリート床への落下試験を10回行い、その電池の表面温度を観測し、落下試験後の内部短絡発生の評価を行った。
【0067】
(実施例4)
負極の集電体を銅箔(厚さ12[μm])に変更し、電極塗工領域を幅59[mm]×長さ725[mm])に変更し、正極のタブ接続箇所を2箇所にした以外は、実施例1と同様に電池を作製した。得られた電池の特性を測定した後、満充電状態で2[m]の高さからコンクリート床への落下試験を10回行い、その電池の表面温度を観測し、落下試験後の内部短絡発生の評価を行った。
【0068】
(比較例1)
正極の集電体をアルミニウム箔(厚さ20[μm])に、負極の集電体を銅箔(厚さ12[μm])に変更した以外は、実施例1と同様に電池を作製した。得られた電池の特性を測定した後、満充電状態で2[m]の高さからコンクリート床への落下試験を10回行い、その電池の表面温度を観測し、落下試験後の内部短絡発生の評価を行った。
【0069】
上記実施例1〜4及び比較例1の電池の測定結果を下記の表2に示す。
【0070】
【表2】

【0071】
表2から、集電体に樹脂フィルムを用いた実施例1〜4の電池は、これを用いない比較例1の電池と比べて、電流特性が同程度に維持できており、落下試験後の内部短絡の発生セル数が抑制されていることが分かる。また、実施例1〜4の電池では、電池の発熱は観測されなかったが、比較例1の電池では、電池の発熱(表面温度の上昇)が観測された。
【0072】
実施例1〜4及び比較例1の結果より、本発明に係るリチウムイオン二次電池10は、安全性に優れていることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、捲回型の電池(例えばリチウムイオン二次電池)の安全性向上や軽量化、低コスト化を図る上で有用な技術である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】は、本発明に係る捲回型リチウムイオン二次電池の縦断面図である。
【図2】は、捲回体の横断面図(非捲回状態)である。
【図3】は、捲回体の横断面図(捲回状態)である。
【図4】は、捲回体の変形例を示す横断面図(非捲回状態)である。
【図5】は、捲回体の別の変形例を示す横断面図(非捲回状態)である。
【符号の説明】
【0075】
10 リチウムイオン二次電池
11 正極
12 負極
13 セパレータ
14 正極リード
15 負極リード
16 電池缶
17 正極蓋
18 絶縁パッキン
19 センターピン
11x、12x 樹脂フィルム
11y、12y 導電層
11z、12z 活物質層(合剤層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極とセパレータを一体とした捲回体を有して成る電池であって、
前記正極及び前記負極のうち、少なくともいずれか一方は、その両面或いは片面に導電層が形成された樹脂フィルムを集電体としたものであり、かつ、
前記樹脂フィルムは、前記捲回体の外周部分に、前記導電層が一切形成されない露出領域を有することを特徴とする電池。
【請求項2】
前記樹脂フィルムは、前記捲回体の最外周部分にのみ、前記露出領域を有することを特徴とする請求項1に記載の電池。
【請求項3】
前記樹脂フィルムは、120℃での熱収縮率が縦、横いずれかの方向で1.5%以上の熱可塑性樹脂から成ることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電池。
【請求項4】
前記樹脂フィルムは、ポリオレフィン樹脂、または、ポリ塩化ビニル、若しくは、これらの複合材料から成ることを特徴とする請求項3に記載の電池。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【公開番号】特開2010−40488(P2010−40488A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−205665(P2008−205665)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】