説明

電波吸収体およびその製造方法

【課題】 簡単に製造することができ、かつ良好な電波吸収特性を有する電波吸収体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 裏面に電波反射層を設けたマット状繊維集合体の表面に誘電損失塗料が分散して塗布され、当該塗料の硬化物による当該面の表面被覆率が30〜50%とされていることを特徴とする電波吸収体。前記硬化物は、実質的に均一に分布するのが好ましく、互いに離隔して点在するのがより好ましい。また、硬化物のそれぞれは、所定の平面形状に形成されていてもよい。誘電損失塗料のマット状繊維集合体への塗装は、フローコーターまたは印刷によって行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波吸収体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気製品などの製品試験を行うための電波暗室の壁面や天井には、電波吸収体が配設されている。従来、この電波吸収体には、例えばピラミッド状、円錐状および角錐状以外に、マット状のガラス繊維に導電性塗料を付着して形成した電波吸収体がある(例えば、特許文献1参照)。また、抵抗皮膜と電波吸収体との間に誘電体を挟んで作製された特定周波数の電波のみを選択的に吸収するλ/4型電波吸収体がある(特許文献2参照)。
【0003】
昨今では、パソコンや携帯電話などの電波(電磁波)を発する電子機器が増加し、それらから発せられる電波による電波混信や他の電子機器の誤動作などを防止するために、ビルや一般家屋などの室内に電波吸収体(電波吸収壁)を設置することが求められている。しかし、無線LANシステムを導入したオフィスビルや一般家屋などの室内の壁や天井に配設される電波吸収体として、前記従来の電波吸収体を使用するには、下記のような問題があった。
(1)前記特許文献1にあるような音波・電波吸収体では、ガラス繊維層に導電性塗料を含浸させ、その後乾燥させてガラス繊維全体に導電性塗料を付着して電波吸収体を形成しているので、大量の導電性塗料が必要となるばかりでなく、大量に塗料を含浸させると、得られる成形体は密度が高くなり、断熱・吸音性が劣るという問題を有していた。また、ガラス長繊維を用いて繊維層を作製しているため、加工手間やコストが高いといった問題を有していた。
(2)前記特許文献2にあるλ/4型電波吸収体は、これを室内に設置した場合に室内空間を有効利用できるようにコンパクト化(薄型化)に対応できない場合があるばかりでなく、電波吸収膜をスパッタリングにより表面に付着させているため十分な電波吸収特性を得ることができない場合があった。
【特許文献1】特開2003−86988号公報
【特許文献2】特開平5−335832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記事情に鑑み、簡単に製造することができ、かつ良好な電波吸収特性を有する電波吸収体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的は、本発明の一局面によれば、裏面に電波反射層を設けたマット状繊維集合体の表面に誘電損失塗料が分散して塗布され、当該塗料の複数の硬化物による当該面の表面被覆率が30〜50%とされていることを特徴とする電波吸収体によって達成される。
【0006】
また、前記目的は、本発明の別の局面によれば、マット状繊維集合体の表面に表面被覆率が30〜50%となるように誘電損失塗料を分散して塗布する塗装工程と、前記マット状繊維集合体の裏面に電波反射層を接着する積層工程と、前記誘電損失塗料を乾燥硬化させる乾燥工程とを含むことを特徴とする電波吸収体の製造方法によって達成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の電波吸収体は、電波反射層を裏面に設けたマット状繊維集合体の表面に誘電損失塗料を分散して塗布し、その複数の硬化物による表面被覆率を所定の範囲に設定することとしたので、良好な電波吸収特性を備えることができる。また、本発明の電波吸収体の製造方法によれば、マット状繊維集合体の表面にのみ誘電損失塗料を分散して塗布し、その硬化物による当該面の表面被覆率が所定の範囲となるように調整することとし、従来のマット状繊維集合体の全体に誘電損失塗料を含浸させるタイプよりも塗料使用量を低減できるので、良好な電波吸収特性を備えた電波吸収体を簡単かつ安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して本発明の電波吸収体の実施形態について説明する。図1は、本発明の電波吸収体の実施形態の一例を示す断面図である。この図に示すように、本発明の電波吸収体1は、裏面に電波反射層2を設けたマット状繊維集合体3の表面が、当該面に分散して付着させた複数の誘電損失塗料の硬化物4によって表面被覆率が30〜50%となるように被覆されたものである。
【0009】
マット状繊維集合体3は、有機繊維や無機繊維を絡み合わせてマット状に形成されたものである。このような有機繊維としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキザゾール繊維、ポリ乳酸繊維などの合成繊維;木質ファイバー、木綿、麻繊維、竹、リンター(棉花の額)などのセルロース繊維(ウール)や絹、羊毛などの天然繊維;レーヨンなどの再生セルロース繊維などが挙げられる。また、無機繊維としては、グラスウールなどのガラス繊維、ロックウール、アルミナ繊維、炭化珪素繊維などが挙げられる。これらの繊維は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。なお、これらの繊維の直径およびアスペクト比などは特に限定されず、適宜設定できる。これらのうち、ロックウール、グラスウール、セルロースウールは汎用性があり、不燃性、断熱性および吸音性に優れ、安価で軽量であるので、これらを用いるのが好ましい。また、マット状繊維集合体3は、少なくともその表裏面が樹脂シートなどで被覆されたものであってもよい。
【0010】
マット状繊維集合体3には撥水剤を付与し、これに撥水性をもたせることもできる。ここで、撥水剤としては特に限定されず、公知の撥水剤を使用でき、具体的には例えば、アミノ変性シリコーン、脂肪酸のアンモニウム塩及び/又はアミン塩、フッ素化合物、ワックス類などが好ましく挙げられる。
【0011】
前記アミノ変性シリコーンとしては、オルガノポリシロキサンの末端にアミノ基が導入されたもの若しくは側鎖にアミノ基が導入されたもの、または末端と側鎖の両方にアミノ基が導入されたものなどが使用できる。なかでも、側鎖にエチレン基、プロピレン基あるいはブチレン基を介して、アミノ基をペンダント状に付加したものがより好ましい。また、必要に応じて、アミノ基以外の官能基がオルガノポリシロキサンに結合していてもよい。このようなアミノ基以外の官能基としては、ヒドロキシ基、カルボキシル基、オキシメチレン基などが挙げられる。
【0012】
前記脂肪酸のアンモニウム塩としては、炭素数が10〜30の脂肪酸(デカン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、オレイン酸、エライジン酸、セトレイン酸、エルカ酸、ブラシジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸など)とアンモニアとの中和塩などが挙げられる。
【0013】
前記脂肪酸塩のアミン塩としては、上述した10〜30の脂肪酸と、アミン(エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、プロピルアミン、t−ブチルアミン、sec−ブチルアミン、ジイソブチルアミン、3−(メチルアミノ)プロピルアミン、3−(ジエチルアミノ)プロピルアミン、3−(ジブチルアミノ)プロピルアミン、3−(ジメチルアミノ)プロピルアミン、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン、3,3’−イミノビス(プロピルアミン)、N−メチル−3,3’−イミノビス(プロピルアミン)、2−エチルヘキシルアミン、ジ−2−エチルヘキシルアミン、3−エトキシプロピルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、アリルアミン、ジアリルアミン、トリアリルアミン、トリ−n−オクチルアミン、3−メトキシプロピルアミン、N,N’−ジエチルエタノールアミン、N,N’−ジメチルエタノールアミン、N,N’−ジブチルエタノールアミン、N−(2−アミノエチル)エタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリンなど)との中和塩などが挙げられる。
【0014】
前記フッ素化合物としては、水酸基、アミノ基、エポキシ基、メチロール基、カルボキシル基、イソシアネート基から選ばれる官能基と、ポリフルオロアルキル基とを有する化合物などが挙げられる。
【0015】
前記ワックス類としては、蜜ろう、ラノリンワックス及びセラックワックスなどの動物系ワックス、カルナバワックス、木ろう、ライスワックス及びキャンデリラワックスなどの植物系ワックス、モンタンワックス及びオゾケライトなどの鉱物系ワックス、パラフィンワックス及びマイクロクリスタリンワックスなどの石油系ワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ポリカーボネートワックス、やし油脂肪酸エステル、牛脂脂肪酸エステル、ステアリン酸アミド、ジペプタデシルケトン及び硬化ひまし油などの合成ワックスなどが挙げられる。
【0016】
これらの撥水剤は、いずれか1種類を単独でまたは組み合わせて用いることができ、そのまま希釈せずに、若しくは水などの溶媒で希釈してマット状繊維集合体3の表面に直接付与し、またはマット状繊維集合体3に使用するバインダーと混合して個々の繊維に付与することができる。撥水剤の繊維への付与量については特に限定されないが、撥水剤の種類によって、繊維の全重量に対して固形分換算で0.025〜1.5質量%が好ましく、0.05〜0.5質量%がより好ましい。
【0017】
マット状繊維集合体3の裏面に設けられる電波反射層2は、導電性を備え、本発明の電波吸収体に抵抗皮膜層2側から入射した電波が透過しないものであれば特に制限なく使用できる。このような電波反射層2の具体例としては、金属(めっき、蒸着膜、箔、板など)、炭素繊維布、導電性インク、導電性プラスチックなどが挙げられるが、好ましくはアルミ箔などの金属箔やアルミシート(板)などの金属シート(板)を用いるのがよい。アルミ箔を用いる場合、このアルミ箔には種々の厚さのものが存在するが、完全に電波を反射させるためには7μm以上の厚さのものを用いるのが好ましい。また、アルミシート(板)を用いる場合には、それ自体が可とう性を備えていることが好ましく、そのためには約100μm以下とするのがよい。これにより、電波反射層2を必要に応じて容易に湾曲させることができ、マット状繊維集合体3の裏面に確実に密着させることができるようになる。この電波反射層2はまた、前記の金属箔や金属シート(板)に例えばクラフト紙などの紙を貼付したものであってもよい。
【0018】
前記マット状繊維集合体3の表面に分散して塗布される誘電損失塗料4としては、誘電損失体、バインダー樹脂および溶媒(分散媒)の各成分を少なくとも含有したものが使用できる。前記誘電損失体としては、カーボン、グラファイト、金属、金属酸化物の粉末(粒子)およびこれらの繊維などが挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
前記バインダー樹脂は、塗膜形成能を有するものであれば特に限定されず、熱可塑性樹脂でもよく、熱硬化性樹脂でもよい。具体例としては、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、ブチラール樹脂、ポリオレフィン樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は単独でまたは2種以上混合して使用できる。これらのうち、マット状繊維集合体3の表面に対して良好な接着性を示し、優れた耐候性を有するアクリル樹脂を用いるのがより好ましい。
【0020】
前記溶媒としては、前記各成分を均一に溶解または分散させることの可能な公知のものを適宜選択して用いることができ、各種有機溶媒および水などが挙げられる。これらのうち、製造工程での安全性やハンドリング性の観点からは、水を溶媒とした水性塗料を用いるのが好ましい。
【0021】
前記誘電損失体、バインダー樹脂、溶媒の各成分の混合割合は特に制限されないが、通常、塗料の全量を100重量%としたときに、誘電損失体5〜20重量%、バインダー0.5〜60重量%とし、残部が溶媒とされる。なお、本発明で使用する誘電損失塗料には、前記各成分のほかに、公知の安定剤、酸化防止剤、防錆剤、分散剤、沈降防止剤などをこれらの成分の機能を阻害しない範囲で適宜添加することができる。
【0022】
前記誘電損失塗料は、前記各成分をニーダ、ボールミル、サンドミル、ロールミル、ジェットミル、ホモジナイザーなどから適宜選択した混合装置を用いて分散、混合することにより調製することができる。前記各成分を混合する場合、混合装置内に前記各成分を直接投入してもよく、予め前記溶媒中に樹脂を溶解または縣濁させておき、これと誘電損失体とを混合装置内に投入する添加してもよい。また、前記樹脂の溶液または縣濁液と誘電損失体の縣濁液とをそれぞれ調製しておき、これらを混合装置内に投入してもよい。このようにして調製された誘電損失塗料は、これを塗布するに際して、必要であれば、当該装置で使用可能な塗料の粘度範囲に適合するように希釈することもできる。
【0023】
本発明の電波吸収体においては、前記誘電損失塗料4がマット状繊維集合体3の表面に分散して塗布され、当該塗料の複数の硬化物4によって当該面の表面被覆率が30〜50%となるように被覆される。この誘電損失塗料の硬化物は、前記マット状繊維集合体の表面に実質的に均一に分布した状態とされるのが好ましく、さらに個々の硬化物が互いに離隔し、点在した状態とされるのがより好ましい。また、誘電損失塗料の硬化物のそれぞれは、所定の平面形状に形成され、これらがマット状繊維集合体の表面に規則的に配置されるようにしてもよい。
【0024】
次に、本発明の電波吸収体の製造方法について説明する。本発明の電波吸収体の製造方法は、マット状繊維集合体の表面に表面被覆率が30〜50%となるように誘電損失塗料を分散して塗布した後に硬化させる塗装工程と、前記マット状繊維集合体の裏面に電波反射層を設ける積層工程と、前記誘電損失塗料を乾燥硬化させる乾燥工程とを含んでいる。
【0025】
前記塗装工程としては、前記所定の表面被覆率が得られれば特に限定されず、公知の塗装方法を採用することができるが、以下のいずれかの塗装方法によるのが好ましい。
(1)マット状繊維集合体3の表面の全面または一部を撥水処理した後、当該面にフローコーターを用いて前記誘電損失塗料を塗布する方法、
(2)印刷によってマット状繊維集合体3の表面に前記誘電損失塗料を分散して付着させる方法。
【0026】
前者のフローコーターを用いる場合、マット状繊維集合体3の表面への撥水処理は、前記例示の撥水剤の塗布によるのがよい。この撥水剤の塗布方法を適宜変更することで、誘電損失塗料4をマット状繊維集合体43の表面に均一に分布させ、さらに誘電損失塗料4の個々の塗膜が互いに離隔状態に点在させることができる。また、マット状繊維集合体3の表面に所定の平面形状の誘電損失塗料の塗膜4を均一に配置するように付着させる場合には、前記塗膜を所定の平面形状に付着させたい部分以外の領域に撥水剤を塗布することもできる。このような平面形状については特に制限されず、例えば円形、楕円形、三角形、四角形、五角形などの多角形などの中から適宜選択することができる。
【0027】
フローコーターの構造の概要を図4に示す。この図において、符号11、12がコンベア、13が塗料タンク、14が塗料ポンプ、15が塗料配管、16が流量調整バルブ、17がフィルター、18がヘッダー、19がスリット、21が塗料受け、22が塗料の戻り配管である。本発明においてこのフローコーターを使用する場合、事前に前記誘電損失塗料4を塗料タンク13中に投入し、当該塗料を塗料ポンプ14によって送り出し、ヘッダー18に貯留させ、スリット19から誘電損失塗料4をカーテン状に落下させる(符号20参照)。その際、流量調整バルブ16により、ヘッダー18内の塗料のヘッド圧を極力一定にしておくことが好ましい。
【0028】
誘電損失塗料のカーテン20が安定したところで、表面を上にしてマット状繊維集合体3をコンベア11上に載置し、当該コンベア11上をコンベア12に向けて移動させる。コンベア速度には特に制限はなく、この速度が小さいとマット状繊維集合体3の表面に多量の誘電損失塗料4が塗布され、速度が大きいと当該面に少量塗布されることになるが、通常、50〜100m/分に設定される。移動するマット状繊維集合体3が前記誘電損失塗料のカーテン20内を通過する際に、その表面に誘電損失塗料4が塗布される。塗布された誘電損失塗料4は、マット状繊維集合体3の表面の撥水処理によってはじかれ、結果として当該面にその塗膜が均一に分散して付着した状態、より好適には互いに離隔して点在した状態、さらには所定の平面形状の塗膜が均一に配置された状態をつくり出すことができる。これにより、得られる電波吸収体は優れた電波吸収特性を示すようになる。
【0029】
また、後者の印刷による場合には、版面に画線部が適宜設けられた印刷版を用意し、当該画線部に誘電損失塗料を付着させた上で、前記印刷版をマット状繊維集合体3の表面に押し付けて誘電損失塗料4を転移させるようにする。この場合に使用するマット状繊維集合体3としては、これが内包する繊維の全量に対して0.1重量%以下撥水剤を添加したものを用いるのが好ましい。
【0030】
印刷版は、平版、凸版または凹版などのいずれであってもよい。凸版を用いる場合には当該版の表面に突出した画線部に誘電損失塗料を付着させ、凹版の場合には、当該版の表面の凹状の画線部に誘電損失塗料を詰めておき、平版の場合には当該版の平坦な表面に誘電損失塗料を付着させる。また、印刷版のサイズは、画線部を1個のみ有する小型のいわゆるスタンプから、複数個の画線部が形成され、使用するマット状繊維集合体3の表面全面に一度に印刷することができる大きさのものまで任意に設定できる。
【0031】
印刷版の表面に形成される画線部は、個々に不定形とし、印刷版上に全体的に均一に分散し互いに離隔状態に点在するように斑状に配置してもよく、個々に所定の平面形状に形成し、印刷版上に規則的に配置してもよい。後者の場合、画線部の平面形状としては、例えば円形、楕円形、三角形、四角形、五角形などの多角形などのほか、さらに複雑な形状のなかから1種または2種以上を適宜選択できる。例えば、円形の画線部と多角形の画線部とを組合せて配置するなどしてもよい。前者、後者のいずれの場合も個々の画線部の大きさは任意に設定できるが、後者の場合、画線部の大きさ(円形の場合にはその直径、多角形の場合には1辺の長さ)は約5〜100mm程度とするのが好ましく、約8〜40mm程度とするのがより好ましい。
【0032】
印刷版の画線部に誘電損失塗料4を付着させ、当該印刷版をその大きさによっては1回または複数回マット状繊維集合体3の表面に押し付けることで、誘電損失塗料4を当該面に転移させることができる。また、これらの印刷版とマット状繊維集合体3との間にゴム布やゴムロールを介在させ、一旦このゴム布などに転移させた誘電損失塗料4をマット状繊維集合体3の表面に付着させるようにしてもよい。印刷版を複数回マット状繊維集合体3またはゴム布などの表面に押し付ける場合には、予め各回の押し付け位置を決定した上で、誘電損失塗料4の塗膜がこれらの表面に均一に分布若しくは互いに離隔状態に点在するように、または規則的に配置されるようにする。このようなマット状繊維集合体3表面への誘電損失塗料4の印刷については、公知の装置を用いることができる。こうして得られる電波吸収体は、前記フローコーターを用いる塗装方法の場合と同様に、優れた電波吸収特性を示すようになる。
【0033】
電波反射層2をマット状繊維集合体3の裏面に設ける積層工程は、前記のマット状繊維集合体3の表面に誘電損失塗料を分散して塗布する塗装工程の前後いずれに設けてもよい。この電波反射層2をマット状繊維集合体3の裏面に設ける方法としては特に限定されず、公知の方法によることができる。例えば、公知の接着剤を用いてマット状繊維集合体3の裏面に電波反射層2を接着することができる。この場合に用いられる接着剤としては、例えば酢酸ビニル樹脂系接着剤、ポリビニルアルコール樹脂系接着剤、ビニルアセタール樹脂系接着剤、塩化ビニル樹脂系接着剤、塩化ビニリデン樹脂系接着剤、アクリル樹脂系接着剤、メタクリ酸樹脂系接着剤、スチレン樹脂系接着剤、ポリエチレン樹脂系接着剤、ポリイソブチレン樹脂系接着剤、クマロン・インデン樹脂系接着剤、ポリアミド樹脂系接着剤、ポリアミドイミド樹脂系接着剤、ポリイミド樹脂系接着剤、尿素樹脂系接着剤、メラミン樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、レゾルシノール樹脂系接着剤、シリコン樹脂接着剤、エポキシ樹脂系接着剤などの公知の接着剤のほか、これらの樹脂またはその他の樹脂の系列に含まれるホットメルト接着剤が挙げられる。これらの接着剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうちでは、ホットメルト接着剤を用いるのが製造ラインでの連続生産性に優れるため好ましい。
【0034】
ホットメルト接着剤としては、ポリエステル系;ポリエステル共重合体系;エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体などのポリオレフィン系;変性ポリオレフィン系;ポリウレタン系;ポリ塩化ビニル系;変成シリコーン系プレポリマー系;ポリアミド系;熱可塑性ゴム系、スチレン−ブタジエン共重合体系、スチレン−イソプレン共重合体系などなどが挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
前記接着剤は、繊維系断熱吸音体層3の裏面にこれが3〜30g/m付着するように塗布されるのが好ましい。この範囲を超えて塗布した場合には、接着剤の比誘電率が本発明の電波吸収体の電波吸収性能に悪影響を及ぼすので好ましくなく、前記範囲未満では、マット状繊維集合体3と電波反射層2との間の接着性が劣り、電波吸収体として一体に積層できず、その結果電波吸収性能が低下するだけでなく、層間剥離が生じやすくなるので好ましくない。
【0036】
このようにして得られた電波吸収体を乾燥機に導入し、その表面に塗布された誘電損失塗料を乾燥硬化させる。乾燥機としては本発明の電波吸収体を導入可能であれば特に限定されず、トンネル型乾燥機などの公知の乾燥機を使用できる。また、乾燥時の温度条件についても特に限定されないが、通常、100〜150℃とされる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
[誘電損失塗料の調製]
表1に示した各成分を同表記載の添加量で5分間混合し、誘電損失体が均一に分散した塗料を得た。使用した混合装置は、ハンドミキサーである。得られた塗料の粘度をイワタカップを用いて測定したところ、48秒であった(塗料温度17℃)。
【0038】
【表1】

【0039】
[実施例1]
表面に撥水剤としてオルガノシロキサン(商品名BY22、東レ・ダウコーニング社製)を繊維に対して0.15重量%(グラスウールに対する目付量として1g/m)塗布して撥水処理を施したグラスウール(15mm厚、500mm角)の裏面に、7μm厚のアルミ箔を貼付したクラフト紙を酢酸ビニル系ホットメルト接着剤を用いてアルミ箔が外側となるように接着積層した。前記誘電損失塗料をフローコーターの塗料タンクに投入した後、塗料ポンプを運転してヘッダーにこの塗料を移し、該ヘッダーのスリットから塗料がカーテン状に安定して落下するようになってから、撥水処理を施した面を上にして前記グラスウールをコンベア速度80m/分にてコンベヤ上を搬送させ、塗料のカーテンを通過させることで、グラスウールの表面に誘電損失塗料を塗布した。グラスウール表面への塗料の塗布量は155g/mであった。その後、この塗料を塗布したグラスウールを2ゾーンタイプのトンネル型乾燥機(温度条件:1ゾーン100℃、2ゾーン130℃)に2分間で通過させることで、表面の塗料を乾燥させて電波吸収体を得た。この電波吸収体の表面では、当該面に付与した撥水剤によって塗布された誘電損失塗料がはじかれ、誘電損失塗料の硬化物が分散して付着した状態となっており、この塗料硬化物による表面被覆率は約40%であった。
【0040】
[比較例1]
実施例1で用意したアルミ箔を貼付したクラフト紙を裏面に接着積層したグラスウールの表面全面にスプレーを用いて前記誘電損失塗料を塗布した。被塗面への塗料の塗布量は、35g/mであった。その後、実施例1と同様の条件でトンネル型乾燥機内を通過させ、表面の塗料を乾燥させて電波吸収体を得た。得られた電波吸収体表面の塗料硬化物による表面被覆率は100%であった。
【0041】
[実施例2〜3]
直径30mmの円形の画線部を備えたスタンプに前記誘電損失塗料を付着させ、裏面にアルミ箔を貼付したクラフト紙を接着積層した15mm厚、500mm角のグラスウールの表面にこれを押捺して、図5(a)に示すように、10x10個(合計100個)の塗膜を互いに等間隔になるように配置した(実施例2)。また、同様のグラスウールに前記スタンプを用い、図5(b)に示すように、12x12個(合計144個)の塗膜を互いに等間隔になるように配置した(実施例3)。これらの試料の誘電損失塗料硬化物による表面被覆率の計算値は、それぞれ30.2%および43.5%である。このように誘電損失塗料を塗布したグラスウールを実施例1と同様の温度条件の乾燥機中を2分間で通過させて誘電損失塗料を乾燥させ、実施例2および実施例3の電波吸収体試料を得た。
【0042】
[比較例2]
裏面にアルミ箔を貼付したクラフト紙を接着積層した15mm厚、500mm角のグラスウールの表面に、実施例2で使用したスタンプを用い、図5(c)に示すように、当該グラスウールの両辺にそれぞれ平行な方向において互いに塗膜を近接させて15x15個(合計225個)の誘電損失塗料を塗布した(表面被覆率の計算値67.9%)。その後、実施例1と同様の条件で乾燥機中を通過させ、塗膜を乾燥硬化させて、比較例2の電波吸収体試料を得た。
【0043】
[電波吸収特性の測定方法]
前記の実施例1〜3および比較例1、2で得られた電波吸収体試料について、反射電力法に従い、電波暗室内でそれぞれ電波吸収特性の測定を行った。結果を図6〜9に示す。図6は、実施例1の試料についての測定結果、図8は実施例2および3の試料についての測定結果、図7は比較例1の試料についての測定結果、図9は比較例2の試料についての測定結果である。また、これらの各図において、(a)は各試料にH偏波を入射させた場合の結果、(b)はV偏波を入射させた場合の結果である。なお、測定に際して、試料の表面と電波発信源であるホーンアンテナとの間の距離は820mmとし、測定周波数は0.1〜18GHzとした。また、電波の入射角度は10°とした。
【0044】
図6および図8から、実施例1〜3の電波吸収体では、測定周波数域における特定周波数の電波に対して反射減衰量が15dB以上の優れた電波吸収特性を示すことが明らかである。特に実施例1の試料では、H偏波およびV偏波のいずれでも、3〜3.5GHzの周波数域において反射減衰量のピークが認められる。このことは、従来のλ/4型電波吸収体では前記周波数域に中心周波数を有する電波を吸収する場合にはスペーサーの厚さを21〜25mmに設定する必要があるところ、本発明においてはこのスペーサーに相当するマット状繊維集合体の厚さは15mmであり、電波吸収体をより薄く作製できることを示している。これにより、本発明の電波吸収体を室内に施工する場合でも、電波吸収体の占有スペースを小さくして室内空間を有効に利用することができる。これに対して、図7および図9から、比較例1および2の電波吸収体では、測定した周波数域において特定の周波数での反射減衰量のピークは認められず、電波吸収特性が相対的に劣ることが示された。
【0045】
以上説明したように、裏面に電波反射層を設けたマット状繊維集合体の表面に誘電損失塗料を分散して塗布し、当該塗料の硬化物による表面被覆率を30〜50%とすることで、特定の周波数の電波に対して優れた電波吸収特性を備えた電波吸収体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の電波吸収体の一実施形態の側面図である。
【図2】本発明の電波吸収体の表面における誘電損失塗料の分布状態の一例を示す図である。
【図3】本発明の電波吸収体の表面における誘電損失塗料の分布状態の別の例を示す図である。
【図4】フローコーターの構造の概要を示す説明する図である。
【図5】実施例および比較例の電波吸収体試料の表面の誘電損失塗料の塗布状態を示す図である。
【図6】実施例1の電波吸収体試料の電波吸収特性の測定結果を示すグラフである。
【図7】比較例1の電波吸収体試料の電波吸収特性の測定結果を示すグラフである。
【図8】実施例2および実施例3の電波吸収体試料の電波吸収特性の測定結果を示すグラフである。
【図9】比較例2の電波吸収体試料の電波吸収特性の測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0047】
1 電波吸収体
2 電波反射層
3 マット状繊維集合体
4 誘電損失塗料(および当該塗料の硬化物)
11、12 べルトコンベア
13 塗料タンク
14 塗料ポンプ
15 配管
16 流量調整バルブ
17 フィルター
18 ヘッダー
19 スリット
20 落下する誘電損失塗料によるカーテン
21 塗料受け
22 塗料戻り配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏面に電波反射層を設けたマット状繊維集合体の表面に誘電損失塗料が分散して塗布され、当該塗料の硬化物による当該面の表面被覆率が30〜50%とされていることを特徴とする電波吸収体。
【請求項2】
前記誘電損失塗料の硬化物は、前記マット状繊維集合体の表面に実質的に均一に分布してなる請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項3】
前記誘電損失塗料の硬化物は、前記マット状繊維集合体の表面に互いに離隔状態に点在してなる請求項1又は2に記載の電波吸収体。
【請求項4】
前記誘電損失塗料の硬化物のそれぞれは、所定の平面形状に形成されてなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の電波吸収体。
【請求項5】
マット状繊維集合体の表面に表面被覆率が30〜50%となるように誘電損失塗料を分散して塗布する塗装工程と、前記マット状繊維集合体の裏面に電波反射層を接着する積層工程と、前記誘電損失塗料を乾燥硬化させる乾燥工程とを含むことを特徴とする電波吸収体の製造方法。
【請求項6】
前記塗装工程は、前記マット状繊維集合体の表面の全面または一部を撥水処理し、当該面にフローコーターを用いて前記誘電損失塗料を塗布するものである請求項5に記載の電波吸収体の製造方法。
【請求項7】
前記塗装工程は、印刷によって前記マット状繊維集合体の表面に前記誘電損失塗料を分散して付着させるものである請求項5に記載の電波吸収体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−300708(P2008−300708A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146477(P2007−146477)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(000116792)旭ファイバーグラス株式会社 (101)
【Fターム(参考)】