説明

電流センサ

【課題】所望のS/Nとなる電流センサを提供する。
【解決手段】被測定電線21が挿通される磁気コア2と、磁気コア2に配置されたホール素子3と、磁気コア2に巻回された負帰還コイル4と、ホール素子3の電流入力端子3a,3aに直流定電流I2を供給する電源部5と、ホール素子3の電圧出力端子3b,3b間に発生する出力電圧V1に基づいて負帰還コイル4に負帰還電流I3を供給する電流生成部6と、負帰還コイル4に接続されて負帰還電流I3を検出電圧V2に変換して出力する終端抵抗7とを備え、測定電流I1の非検出時における検出電圧V2に含まれる予め規定された周波数でのノイズのパワースペクトル密度を算出しつつ、電源部5に対する制御を実行して直流定電流I2の電流値を変更することにより、算出しているパワースペクトル密度を予め規定された基準密度DErefに一致させる補正処理を実行する処理部9を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホール素子を使用して被測定電線に流れる測定電流を検出する電流センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の電流センサとして、下記特許文献1において従来技術として開示されている電流センサ(クランプセンサ)が一般的に知られている。この電流センサは、ゼロフラックス法を採用したセンサであって、被測定電線が挿通される磁気コア、磁気コアに配設されたホール素子、磁気コアに巻回された負帰還コイル、電圧−電流変換器、検出抵抗およびアンプを備えている。
【0003】
この電流センサでは、直流定電流で駆動されているホール素子が、被測定電線に測定電流が流れることによって磁気コアに発生する磁束を検出して、測定電流の電流値に比例して電圧値が変化する出力電圧を出力し、電圧−電流変換器が、この出力電圧を負帰還電流に変換して、負帰還コイルに出力する。この場合、ゼロフラックス法では、負帰還電流は、負帰還コイルに負帰還電流が流れることによって磁気コアに発生する磁束で、被測定電線に測定電流が流れることによって磁気コアに発生する磁束を相殺するように、その電流値が制御される。このため、負帰還電流は、被測定電線に測定電流が流れることによって磁気コアに発生する磁束の大きさ、すなわち測定電流に比例する。検出抵抗は、この負帰還電流を電圧に変換し、この変換された電圧をアンプが増幅して出力する。
【0004】
ところで、この電流センサのS/Nは、センサ検出感度をFとし、磁気コアの磁気抵抗をRとし、測定電流をIとし、ホール素子やアンプのノイズをDとしたときに、下記式で表される。
S/N=F×I/(R×D)
【0005】
このため、電流センサのS/Nを向上させる1つの方法として、ホール素子やアンプのノイズDを下げる方法が考えられるが、現状では、このノイズDは、ホール素子の特性に依存したノイズに大きく支配されているため、大きく下げることは困難である。つまり、ノイズDを下げる方法でのS/Nの大幅な向上は困難である。一方、電流センサのS/Nを向上させる他の方法として、センサ検出感度Fを上げる方法が考えられる。近年では、センサ検出感度Fを規定するパラメータの1つである移動度μの大きなホール素子(現行の多くのホール素子の移動度μ(数千cm/Vs)に対して、移動度μが数万cm/Vs以上のホール素子)が開発されてきているため、このようなホール素子を使用することにより、センサ検出感度Fを上げて電流センサのS/Nを大幅に向上させることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−43073号公報(第2−3頁、第3図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記の移動度μの大きなホール素子を使用して電流センサのS/Nを大幅に向上させる構成には、以下の解決すべき課題が存在している。すなわち、特許文献1に開示されている一般的な回路方式で利用するホール素子の周波数帯域W(直流〜1kHz程度の帯域)では、図3に示すように、最終段のアンプから出力される電圧に含まれるノイズDのパワースペクトル密度(PSD)は、周波数が高くなるに従い、ほぼ反比例の関係で低下する周波数特性を有している。つまり、このノイズは、1/fノイズとしての特性を有している。
【0008】
しかしながら、同じ材料(例えば、インジウム・アンチモンや、ガリウム・砒素など)を使用して同じ移動度μとなるように製造されたホール素子であっても、個体毎に移動度μがばらつく場合があり、特に、移動度μの大きなホール素子の場合には、このばらつきの幅が大きくなる場合がある。
【0009】
また、移動度μのばらつきがノイズDのパワースペクトル密度の周波数特性に与える影響について、移動度μが異なる同種(使用材料が同一)の3つ(μ1,μ2,μ3(μ1>μ2>μ3))のホール素子を用いて実験で確認したところ、これらのホール素子を同一の直流定電流で駆動する条件下において、図3に示すように、ホール素子の移動度μの値に応じてノイズDのパワースペクトル密度の周波数特性が変化すること、具体的には、移動度μがμ1からμ2,μ3と順次小さくなるに従い、各周波数でのノイズDのパワースペクトル密度が上昇する周波数特性となることが確認された。なお、同図中において、移動度がμ1のホール素子についての周波数特性については実線で示し、移動度がμ2のホール素子についての周波数特性については一点鎖線で示し、移動度がμ3のホール素子についての周波数特性については破線で示している。
【0010】
このため、移動度μのばらつきが大きくなる移動度μの大きなホール素子については、同じ直流定電流で駆動したとしても、図3に示すような周波数帯域WでのノイズDのパワースペクトル密度に生ずるばらつき(パワースペクトル密度の周波数特性のばらつき)が、許容範囲を超えて大きくなる可能性が高まることになる。
【0011】
したがって、単に移動度μの大きなホール素子を使用するだけの構成の電流センサでは、S/Nを大幅に向上できるものの、上記したノイズDのパワースペクトル密度についての周波数特性のばらつきに起因して、所望のS/Nを得ることが困難であるという解決すべき課題が存在している。
【0012】
本発明は、かかる課題を改善すべくなされたものであり、所望のS/Nを得ることが可能な電流センサを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成すべく請求項1記載の電流センサは、内部に被測定電線が挿通される磁気コアと、当該磁気コアに配置されたホール素子と、前記磁気コアに巻回された負帰還コイルと、前記ホール素子の一対の電流入力端子に駆動電流を供給する電源部と、前記ホール素子の一対の電圧出力端子間に発生する出力電圧に基づいて前記負帰還コイルに前記磁気コア内の磁束を打ち消す負帰還電流を供給する電流生成部と、前記負帰還コイルに接続されて前記負帰還電流を前記被測定電線に流れる測定電流の電流値に応じて電圧値が変化する検出電圧に変換して出力する電流電圧変換部とを備えているゼロフラックス方式の電流センサであって、前記測定電流の非検出時における前記検出電圧に含まれる予め規定された周波数でのノイズのパワースペクトル密度を算出しつつ、前記電源部に対する制御を実行して前記駆動電流の電流値を変更することにより、当該算出しているパワースペクトル密度を予め規定された基準密度に一致させる補正処理を実行する処理部を備えている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の電流センサでは、処理部による補正処理の実行により、ホール素子のノイズについてのパワースペクトル密度の周波数特性が、予め規定された周波数でのパワースペクトル密度が基準密度となる所定のパワースペクトル密度の基準周波数特性に揃えられる。
【0015】
したがって、この電流センサによれば、S/Nを向上させるために移動度の大きなホール素子を使用した場合に、使用したホール素子の移動度にばらつきが生じていたとしても、ノイズのパワースペクトル密度の周波数特性が基準周波数特性に揃えられた状態で、被測定電線に流れる測定電流の電流値を算出(測定)することができる。つまり、この電流センサによれば、移動度の大きなホール素子を使用してS/Nを向上させつつ、所望のS/Nを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】電流センサ1の構成図である。
【図2】同種のホール素子において、直流定電流の値を変化させたときの各直流定電流でのノイズDのパワースペクトル密度についての周波数特性を示す周波数特性図である。
【図3】移動度μのばらつきに起因して同種のホール素子に発生するノイズDのパワースペクトル密度についての周波数特性のばらつきを説明するための周波数特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、電流センサ1の実施の形態について説明する。
【0018】
まず、電流センサ1の構成について、図1を参照して説明する。
【0019】
電流センサ1は、図1に示すように、磁気コア2、ホール素子3、負帰還コイル4、電源部5、電流生成部6、電流電圧変換部7、アンプ8、処理部9、記憶部10、操作部11および出力部12とを備え、ゼロフラックス方式の電流センサとして構成されて、磁気コア2に挿通された被測定電線21に流れる測定電流I1を検出する。
【0020】
磁気コア2は、一例として、基端部(図1中の下端部)を中心として開閉可能な分割型で形成されて、活線状態の被測定電線21をクランプ可能(内部に被測定電線21を挿通可能)に構成されている。なお、磁気コア2については、分割型に限定されず、貫通型(非分割型)とすることもできる。
【0021】
ホール素子3は、電流センサ1のセンサ検出感度を向上させるために、移動度μが数万cm/Vs以上のホール素子が使用されている。また、ホール素子3は、一例として、磁気コア2の基端部に配設されている。また、ホール素子3は、一対の電流入力端子3a,3a、および一対の電圧出力端子3b,3bを備え、電源部5から一対の電流入力端子3a,3aに制御用の直流定電流I2が供給された状態で作動する。また、ホール素子3は、この作動状態において、磁気コア2の内部に発生する磁束を検出して、磁束密度に応じた(具体的には、比例、またはほぼ比例した)電圧値の出力電圧V1を一対の電圧出力端子3b,3b間から出力する。この場合、磁気コア2の内部に発生する磁束とは、磁気コア2に挿通された被測定電線21に測定電流I1が流れることによって発生する磁束φ1と、負帰還コイル4に後述する負帰還電流I3が流れることによって発生する磁束φ2との差分(φ1−φ2)の磁束である。
【0022】
負帰還コイル4は、磁気コア2に巻回されている。電源部5は、ホール素子3の一対の電流入力端子3a,3aを介して、駆動電流としての直流定電流I2をホール素子3に供給する。また、電源部5は、本例では、一例として、電流値を変更可能な直流定電流源で構成されて、処理部9によって制御されることにより、直流定電流I2の電流値を変更可能に構成されている。
【0023】
電流生成部6は、ホール素子3から出力電圧V1を入力すると共に、この出力電圧V1に基づいて負帰還電流I3を生成して、負帰還コイル4の一端部に供給する。この場合、電流生成部6は、出力電圧V1がゼロボルトになるように、つまり、ホール素子3において検出される磁気コア2の内部に発生している磁束(φ1−φ2)の磁束密度がゼロになるように(言い換えれば、磁束φ2で磁束φ1を相殺するように)、負帰還電流I3の電流値を制御する。
【0024】
電流電圧変換部7は、負帰還電流I3を電圧に変換する。本例では、一例として、電流電圧変換部7は、負帰還コイル4の他端部と基準電位(本例ではグランド電位)との間に接続された終端抵抗で構成されている(以下、「終端抵抗7」ともいう)。この構成により、終端抵抗7は、その抵抗値をR1としたときに、負帰還電流I3を検出電圧V2(=R1×I3)に変換する。なお、図示はしないが、終端抵抗に代えて、非反転入力端子が基準電位に接続された演算増幅器と、その反転入力端子と出力端子との間に接続された帰還抵抗とで構成される公知の電流電圧変換器を使用して、電流電圧変換部7を構成することもできる。
【0025】
アンプ8は、検出電圧V2を入力すると共に、予め規定された増幅率で増幅して、新たな検出電圧V3として処理部9に出力する。なお、アンプ8の増幅率については、検出電圧V3が処理部9に内蔵されている後述のA/D変換器の入力定格を満たす電圧値となるように予め規定されている。
【0026】
処理部9は、A/D変換器およびCPU(いずれも図示せず)を備え、検出電圧V3に基づいて電源部5からホール素子3に対して供給する直流定電流I2の電流値を補正する補正処理、および検出電圧V3に基づいて被測定電線21に流れる測定電流I1を算出する電流検出処理を実行する。記憶部10は、例えば、RAMなどの半導体メモリや、HDD(Hard Disk Drive )で構成されて、ホール素子3の直流定電流I2についての基準値Irefが予め記憶されている。また、記憶部10には、予め規定された周波数(本例では、一例として、100Hz)でのノイズDについてのパワースペクトル密度が基準密度DErefとして記憶されている。
【0027】
操作部11は、操作スイッチ(不図示)を備え、操作スイッチに対する操作に応じて、処理部9に対して補正処理を実行させる指示、および処理部9に対して電流検出処理を実行させる指示を示す指示データDcoを出力する。出力部12は、一例として、液晶ディスプレイなどの表示装置で構成されて、処理部9において算出された測定電流I1の電流値を画面上に表示させる。
【0028】
次に、電流センサ1の動作について図面を参照して説明する。
【0029】
最初に、オペレータは、磁気コア2の内部に被測定電線21を挿通させず、かつ磁気コア2を閉じた状態(測定電流I1の非検出時)において、操作部11を操作して、処理部9に対して補正処理を実行させる指示を含む指示データDcoを出力する。
【0030】
処理部9は、操作部11からこの指示データDcoを入力して補正処理を実行する。この補正処理では、処理部9は、まず、記憶部10から基準値Irefを読み出すと共に、電源部5に対する制御を実行して、電源部5から出力される直流定電流I2の電流値を基準値Irefに規定する。電源部5は、この直流定電流I2をホール素子3の一対の電流入力端子3a,3aに出力する。
【0031】
これにより、ホール素子3は、電流値が基準値Irefに規定された直流定電流I2を駆動電流として作動して、磁気コア2の内部に発生している磁束(φ1−φ2)を検出すると共に、この磁束の磁束密度に比例した電圧値の出力電圧V1を一対の電圧出力端子3b,3b間から出力する。電流生成部6は、この出力電圧V1に基づいて負帰還電流I3を生成して負帰還コイル4の一端部に供給する。
【0032】
磁気コア2に被測定電線21が挿通されていない状態では、磁束φ1はゼロであり、これに伴い、電流生成部6は、負帰還電流I3が負帰還コイル4に流れることによって磁気コア2内に生じる磁束φ2(磁束φ1を相殺するための磁束)もゼロになるように、負帰還電流I3の電流値を制御する。すなわち、電流生成部6は、負帰還電流I3の電流値をゼロに制御する。終端抵抗7(電流電圧変換部7)は、この負帰還電流I3を電圧に変換して、ゼロボルトの検出電圧V2を発生させ、アンプ8が、この検出電圧V2を検出電圧V3(この検出電圧V3の電圧もゼロボルトとなる)に増幅して処理部9に出力する。
【0033】
処理部9では、A/D変換器が検出電圧V3を予め規定されたサンプリングレートでサンプリングして、検出電圧V3の電圧値を示すデジタルデータ(電圧データ)に変換し、CPUがこの電圧データに基づいてフーリエ変換処理を実行することにより、検出電圧V3についての周波数毎のパワースペクトル密度を算出する。この場合、検出電圧V3は、磁気コア2に被測定電線21が挿通されていない状態(非検出時)での電圧であるため、ノイズDに起因して発生した検出電圧V3についてのパワースペクトル密度を示している。また、背景技術で述べたように、電流センサ1に発生しているノイズは、ホール素子3の特性に依存したノイズDに大きく支配されるため、処理部9において算出されたパワースペクトル密度は、ホール素子3に固有に発生するノイズDについてのパワースペクトル密度を示すものでもある。
【0034】
次いで、処理部9は、算出したノイズDについての周波数毎のパワースペクトル密度(パワースペクトル密度の周波数特性)に基づいて、予め規定された周波数(本例では、一例として、100Hz)でのノイズDについてのパワースペクトル密度を検出する処理を実行する。続いて、処理部9は、この検出したパワースペクトル密度と記憶部10から読み出した基準密度DErefとを比較する処理を実行しつつ、検出したパワースペクトル密度が基準密度DErefに近づくように(両密度の差が減少するように)、電源部5に対する制御を実行して直流定電流I2の電流値を変更する処理を実行する。処理部9は、この予め規定された周波数でのノイズDについてのパワースペクトル密度の検出、検出したパワースペクトル密度と基準密度DErefとの比較、および直流定電流I2の電流値の変更の各処理を、検出したパワースペクトル密度が基準密度DErefと一致(両密度の差分の絶対値が予め規定された値内に収まる状態をいうものとする)するまで繰り返し実行する。
【0035】
実験によれば、ホール素子は、通常、駆動電流としての直流定電流I2の電流値の増減に伴い、図2に示すように、周波数帯域WでのノイズDのパワースペクトル密度についての周波数特性が変化するという特性を有している。具体的には、ホール素子3は、同図に示すように、直流定電流I2の電流値を多くする(増加させる)に従い、各周波数でのノイズDのパワースペクトル密度が低下し、逆に、直流定電流I2の電流値を少なくする(減少させる)に従い、各周波数でのノイズDのパワースペクトル密度が上昇するという特性を有している。
【0036】
処理部9は、ホール素子3のこのパワースペクトル密度についての特性を考慮して、検出したパワースペクトル密度が基準密度DErefよりも大きい場合には、電源部5に対する制御を実行して直流定電流I2の電流値を増加させることにより、予め規定された周波数でのパワースペクトル密度を低下させ、逆に、検出したパワースペクトル密度が基準密度DErefよりも小さい場合には、電源部5に対する制御を実行して直流定電流I2の電流値を減少させることにより、予め規定された周波数でのパワースペクトル密度を上昇させて、予め規定された周波数でのパワースペクトル密度を基準密度DErefに一致させる。
【0037】
パワースペクトル密度を基準密度DErefに一致させた後、処理部9は、このときの直流定電流I2の電流値で、記憶部10に記憶されている基準値Irefを更新する。これにより、補正処理が完了する。ホール素子3についての周波数帯域WでのノイズDのパワースペクトル密度は、上記したように、周波数が高くなるに従い、ほぼ反比例の関係で低下する周波数特性(1/fノイズとしての特性)を有している。これにより、周波数帯域Wでの予め規定された周波数でのパワースペクトル密度を基準密度DErefに一致させることにより、周波数帯域W全体に亘るノイズDのパワースペクトル密度の周波数特性は、予め規定された周波数において基準密度DErefとなる1つの周波数特性に揃えられる。
【0038】
例えば、図3において破線で示す周波数特性のように、予め規定された周波数(本例では100Hz)でのパワースペクトル密度が基準密度DEref(一点鎖線で示す周波数特性でのパワースペクトル密度)よりも大きい場合には、処理部9は、補正処理の実行により、直流定電流I2の電流値を増加させて予め規定された周波数でのパワースペクトル密度を低下させることで、破線で示される周波数特性を、一点鎖線で示される周波数特性に一致させる(揃える)。一方、図3において実線で示す周波数特性のように、予め規定された周波数(100Hz)でのパワースペクトル密度が基準密度DErefよりも小さい場合には、処理部9は、補正処理の実行により、直流定電流I2の電流値を減少させて予め規定された周波数でのパワースペクトル密度を上昇させることで、実線で示される周波数特性を、一点鎖線で示される周波数特性に一致させる(揃える)。
【0039】
この補正処理の完了の後、オペレータは、磁気コア2の内部に被測定電線21を挿通させ、操作部11を操作して、処理部9に対して電流検出処理を実行させる指示を含む指示データDcoを出力する。
【0040】
処理部9は、操作部11からこの指示データDcoを入力して電流検出処理を実行する。この補正処理では、処理部9は、まず、記憶部10から基準値Iref(上記の補正処理によって更新された基準値Iref)を読み出すと共に、電源部5に対する制御を実行して、電源部5から出力される直流定電流I2の電流値を基準値Irefに規定する。電源部5は、この直流定電流I2をホール素子3の一対の電流入力端子3a,3aに出力する。
【0041】
これにより、ホール素子3は、電流値が基準値Irefに規定された直流定電流I2を駆動電流として作動して、磁気コア2の内部に発生している磁束(φ1−φ2)を検出すると共に、この磁束の磁束密度に比例した電圧値の出力電圧V1を一対の電圧出力端子3b,3b間から出力する。電流生成部6は、この出力電圧V1に基づいて負帰還電流I3を生成して負帰還コイル4の一端部に供給することにより、ホール素子3で検出される磁束(φ1−φ2)の磁束密度(磁気コア2内の磁束密度)がゼロになるように(磁束φ2で磁束φ1を相殺するように)、負帰還電流I3の電流値を制御する。
【0042】
終端抵抗7は、この負帰還電流I3を検出電圧V2に変換し、アンプ8が、この検出電圧V2を予め規定された増幅率で増幅して、新たな検出電圧V3として処理部9に出力する。処理部9は、この検出電圧V3をデジタルデータ(電圧データ)に変換すると共に、この電圧データと、負帰還コイル4の巻回数と、終端抵抗7の抵抗値とに基づいて、被測定電線21に流れる測定電流I1の電流値を算出して、出力部12を構成する表示装置の画面上に表示させる。これにより、電流検出処理が完了する。
【0043】
このように、この電流センサ1では、処理部9による補正処理の実行により、電流センサ1に使用されているホール素子3の周波数帯域WでのノイズDについてのパワースペクトル密度の周波数特性が、予め規定された周波数(100Hz)でのパワースペクトル密度が基準密度DErefとなる所定のパワースペクトル密度の周波数特性(基準周波数特性)に揃えられている。
【0044】
したがって、この電流センサ1によれば、S/Nを向上させるために移動度μの大きなホール素子3を使用した場合に、使用したホール素子3の移動度μにばらつきが生じていたとしても、ノイズDのパワースペクトル密度の周波数特性が基準周波数特性に揃えられた状態で、被測定電線21に流れる測定電流I1の電流値を算出(測定)することができる。つまり、この電流センサ1によれば、移動度μの大きなホール素子3を使用してS/Nを向上させつつ、所望のS/Nを得ることができる。したがって、この電流センサ1によれば、S/Nを均一化することができる結果、ホール素子3の移動度μのばらつきに起因した電流センサ1の歩留率の低下を回避することもできる。
【0045】
なお、上記の電流センサ1では、ホール素子3に対して駆動電流としての直流定電流I2を供給する電源部5に直流定電流源を使用すると共に、処理部9が電源部5に対する制御を実行して、直流定電流I2の電流値を補正する構成を採用しているが、この構成に限定されるものではない。例えば、電源部5に直流電圧源を使用して、処理部9がこの電源部5に対する制御を実行して、ホール素子3の一対の電流入力端子3a,3a間に印加される電圧を制御することにより、ホール素子3に供給される直流定電流I2の電流値(印加される電圧とホール素子3の入力抵抗とで規定される電流値)を補正する構成を採用することもできる。さらには、例えば、電源部5に直流定電圧源を使用すると共に、ホール素子3の一対の電流入力端子3a,3aを可変抵抗(電流制限抵抗の一例)を介してこの直流定電圧源に接続し、処理部9がこの可変抵抗に対する制御を実行して、ホール素子3に供給される直流定電流I2の電流値を補正する構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0046】
1 電流センサ
2 磁気コア
3 ホール素子
3a 電流入力端子
3b 電圧出力端子
4 負帰還コイル
5 電源部
6 電流生成部
7 終端抵抗
9 処理部
21 被測定電線
DEref 基準密度
I1 測定電流
I3 負帰還電流
V2,V3 検出電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に被測定電線が挿通される磁気コアと、当該磁気コアに配置されたホール素子と、前記磁気コアに巻回された負帰還コイルと、前記ホール素子の一対の電流入力端子に駆動電流を供給する電源部と、前記ホール素子の一対の電圧出力端子間に発生する出力電圧に基づいて前記負帰還コイルに前記磁気コア内の磁束を打ち消す負帰還電流を供給する電流生成部と、前記負帰還コイルに接続されて前記負帰還電流を前記被測定電線に流れる測定電流の電流値に応じて電圧値が変化する検出電圧に変換して出力する電流電圧変換部とを備えているゼロフラックス方式の電流センサであって、
前記測定電流の非検出時における前記検出電圧に含まれる予め規定された周波数でのノイズのパワースペクトル密度を算出しつつ、前記電源部に対する制御を実行して前記駆動電流の電流値を変更することにより、当該算出しているパワースペクトル密度を予め規定された基準密度に一致させる補正処理を実行する処理部を備えている電流センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−83552(P2013−83552A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223795(P2011−223795)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000227180)日置電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】