説明

電源装置

【課題】直流電源回路の入力側における交流電源線間にコンデンサが挿入されている場合でも、交流電源の瞬時停電をより早く検出できる電源装置を提供する。
【解決手段】瞬停検出回路5は、三相の商用交流電源2のうち、二相(R相、S相)の電圧波形の傾き、および二相(R相、S相)間の電位差を監視し、その傾きが何れもしきい値未満となるか、またはその電位差がしきい値未満となる状態が所定時間以上継続すると、商用交流電源2の瞬時停電を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相交流電源より交流電源線を介して供給される交流電力を整流して直流化する直流電源回路と、前記交流電源線間に挿入されるコンデンサとを備えた電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
商用交流電源より電力供給を受けている電気、電子機器においては、その電力供給が瞬間的に停止する、いわゆる瞬時停電が発生することを想定して、瞬時停電の発生を検出すると所定の処理を行うものがある。例えばマイコンを使用している機器においては、制御データが破壊されるのを防ぐためにデータを退避させるなどの処理を行う。特許文献1には、交流電源電圧を正方向側のみの波形に変換して監視し、この電圧がしきい値電圧を下回ると、運転状況を表示するLEDを消灯させて電力消費を抑え、マイコンの記憶内容を保持するための電力を維持するといった無停電装置が開示されている。このものによれば、入力される交流電源電圧が基準電圧値よりも低下した場合に瞬時停電の発生を検出するようにしている。
【特許文献1】特開平10−080073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、入力側の交流電源線間には、電源線に重畳されるノイズを除去する目的でコンデンサを挿入する場合が多い。このため、瞬時停電が発生しても、交流電圧のレベルは、上記コンデンサに蓄積された電荷により直ちに低下することなく、しきい値電圧を下回るまでに比較的長い時間を要してしまう。従って、瞬時停電の検出が遅れてしまうという問題がある。
【0004】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、直流電源回路の入力側における交流電源線間にコンデンサが挿入されている場合でも、交流電源の瞬時停電をより早く検出できる電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の電源装置によれば、三相交流電源のうち、何れか二相の電圧波形の傾きを監視し、これら電圧波形の傾きが双方共にしきい値未満となる状態が所定時間以上継続すると、交流電源に瞬時停電が発生したことを検出する。瞬時停電が発生すると、各相電圧は、各相間に挿入されたコンデンサの影響により緩やかに低下するが、このときの電圧波形の傾きは通常時に比べて小さくなる。瞬停検出手段は、このような電圧波形の傾きの変化に基づいて瞬時停電を検出するので、各相間にコンデンサが挿入されている場合でも瞬時停電を速やかに検出できる。
【0006】
請求項2記載の電源装置によれば、前記二相間の電圧差も監視し、この電圧差がしきい値未満となる状態が所定時間以上継続する条件が成立した場合にも、瞬時停電が発生したことを検出する。瞬時停電が発生すれば、各相間の電圧差はほとんどなくなるので、瞬停検出手段は、この電圧差も監視して瞬時停電をより確実に検出することができる。
【0007】
請求項3記載の電源装置によれば、請求項1および請求項2における所定時間を、交流電源周期の2周期以上に設定するので、ノイズ等の影響による一時的な電源変動に基づく誤検出を排除して、確実に瞬時停電を検出することができる。
【0008】
請求項4記載の電源装置によれば、前記二相の電圧レベルを所定周期毎に検出し、各相間における現在の検出値と過去の検出値との変化量を算出する。そして、カウント手段は、この変化量が何れもしきい値未満のときにカウントを行い、何れか一方がしきい値以上であればカウント値をリセットし、カウント値が予め設定された検出値に達すると瞬時停電を検出する。従って、電圧波形の傾き変化が小さくなった期間をカウント手段により積算し、その積算値に基づいて瞬時停電を検出することができる。
【0009】
請求項5記載の電源装置によれば、カウント手段は、同一の検出タイミングにおける前記二相間の電圧検出値の差を求め、その差がしきい値未満となる条件が成立した場合にもカウントを行い、この検出値の差がしきい値以上であればカウント値をリセットするので、電圧検出値の差が小さくなった場合も請求項4と同様にしてカウント手段により積算を行うことで、瞬時停電をより確実に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明をロボットのアクチュエータに電源供給を行う電源装置に適用した場合の一実施例について図面を参照しながら説明する。
図1は、電源装置の電気的構成を示している。電源装置1は、例えば三相200Vの商用交流電源(三相交流電源に相当)2より供給される電力を整流および平滑して、負荷たる産業用ロボット3に供給するための直流電源回路4と、商用交流電源2における瞬時停電を検出するための瞬停検出回路(瞬停検出手段に相当)5とから構成されている。
【0011】
直流電源回路4は、全波整流回路6および平滑用コンデンサ7を有して構成されており、商用交流電源2のR,S,Tの各相出力は、開閉器8および交流電源線9r、9s、9tを介して全波整流回路6の入力側に接続されている。各交流電源線9r〜9t間には、それぞれノイズ除去用のコンデンサ10、11、12が接続されている。全波整流回路6より出力される直流電源は、直流電源線13a,13bを介してロボット3に供給されており、これら直流電源線13a,13b間には平滑用コンデンサ7が接続されている。なお、全波整流回路6は、6個の整流素子を三相ブリッジ形に接続してなる周知構成のものである。
【0012】
一方、瞬停検出回路5は、商用交流電源2の瞬時停電を検出する制御部(変化量算出手段およびカウント手段に相当)14と、入力された電圧のレベルを制御部14に入力可能なレベルに変換して出力するレベル変換回路15とから構成されている。レベル変換回路15には、交流電源線9r,9sよりR相およびS相の交流電圧が入力されており、レベル変換回路15は、入力された交流電圧をレベル変換した電圧信号Vr,Vsとして制御部14に出力するようになっている。
【0013】
制御部14は、CPU14a、A/D変換器14b、メモリ14cなどを有するマイクロコンピュータを主体として構成されており、詳細は後述するが、レベル変換回路15からの電圧信号Vr,Vsに基づいて商用交流電源2の瞬時停電を検出するようになっている。そして、瞬時停電を検出すると、ロボット3のアクチュエータを駆動制御するエンジンボード(図示せず)に対して瞬停検出信号Saを出力する。
【0014】
制御部14に入力された電圧信号Vr,Vsは、A/D変換器14bによりデジタル値に変換され、CPU14aは、この変換データを所定周期、本実施例では1ms毎にサンプリングしてメモリ14cに書き込むように構成されている。また、制御部14における基準(グランド)電位は、直流電源線13bと同電位であり、このため、電圧信号Vr,Vsの波形は、図2に示す半波整流されたような脈流波形となる。
【0015】
なお、図2においては、電圧信号Vrの最新の変換データをnewVr,1ms前の変換データをold1Vr,2ms前のデータをold2Vr,3ms前のデータをold3Vrというように示している。また、電圧信号Vsについても、同様にnewVs,old1Vs,old2Vs,old3Vsと表記している。
【0016】
次に、上記構成の作用について図3も参照して説明する。
図3は、瞬時停電検出処理時におけるCPU14aの制御内容を示すフローチャートである。CPU14aは、ステップS1にて初期設定を行うとともに、Δフラグ(delta_flg)、比較フラグ(comp_flg)およびカウント値(cnt)をリセットする。ステップS2では、サンプリング間隔である1msの経過待ちをして、1ms経過するとステップS3以降へと進む。
【0017】
ステップS3では、下記式に基づいてその時点の電圧信号Vrの最新サンプリングデータnewVrと3ms前のデータold3Vrとの差分データΔVrを算出する。また電圧信号Vsについても、同様にΔVsを算出する。
ΔVr=newVr−old3Vr
ΔVs=newVs−old3Vs
上記ΔVrおよびΔVsは、交流電圧波形の傾きおよび交流電圧の変化量に相当する。
【0018】
続いて、算出したΔVrとΔVsの値を確認し、それらが何れもしきい値Vth(詳細は後述するが、例えば400mV)以下の場合(ステップS4、S5の両方で「YES」)には、電圧信号Vr,Vsの上昇度合が何れも小さい状態を示しているのでステップS6へ進み、Δフラグをセットする(delta_flg=1)。そして、ΔVrおよびΔVsの値のうち、何れか一方がしきい値Vthより大きい場合(ステップS4、S5の何れかで「NO」)には、交流電源電圧の上昇度合が正常である状態を示しているのでステップS7に進み、Δフラグをリセットする(delta_flg=0)。
【0019】
ステップS8では、その時点における電圧データnewVrとnewVsとの差分Aを算出する。ステップS9では、算出した差分データAの値を確認してその値がしきい値Vth(例えば400mV)以下の場合(「YES」)には、商用交流電源2の二相間電位差が小さいと判断してステップS10に進み、比較フラグをセットする(comp_flg=1)。そして、差分データAの値がしきい値Vthより大きい場合(「NO」)には、商用交流電源2の二相間電位差は正常であると判断してステップS11に進み、比較フラグをリセットする(comp_flg=0)。
【0020】
上記しきい値Vthは、交流電力の供給状態が正常である場合における、電圧信号Vr,Vsが上昇している間の変化量よりも小さく、且つ、エンジンボードがロボット3のアクチュエータをPWM制御する場合に電圧信号Vr,Vsに重畳されるノイズよりも大きい値に設定する必要がある。そこで、正常時におけるこれらの値を測定した結果、電圧信号上昇時(本実施例では3ms間とする)の変化量は、商用交流電源2の状態が207V/47Hz(最も電圧変化量が小さくなる条件)のときに約600mVとなり、電圧信号に重畳されるノイズは、商用交流電源2の状態が253V/63Hz(最もPWMノイズが大きくなる条件)のときに約325mVとなった。従って、本実施例においては、上記しきい値Vthを、これらの間の値である400mVに設定している。
【0021】
さて、ステップS12においてはΔフラグの状態を確認し、Δフラグがセットされている場合(「YES」)はステップS13に進み、カウント値をインクリメントする(cnt=cnt+1)。また、Δフラグがリセットされている場合(「NO」)はステップS14に進み、比較フラグの状態を確認する。そして、比較フラグがセットされている場合(「YES」)はステップS13に進む。また、比較フラグがリセットされている場合(「NO」)はステップS15に進み、カウント値をリセットする(cnt=0)。
【0022】
ステップS16では、カウント値を確認し、カウント値が瞬停検出値「45」以上(cnt≧45)である場合(「YES」)には、交流電源電圧の変化が異常である状態が45ms継続したことを示すので、エンジンボードに対して瞬停検出信号Saを出力し(ステップS17)処理を終了する。すると、エンジンボードは、例えばアクチュエータの駆動を停止するなどの異常処理を行う。一方、カウント値が「45」未満である場合(「NO」)には、ステップS2へ戻る。
なお、上記瞬停検出値は、商用交流電源2の周波数が47Hzであると想定した場合(最も周期が長くなる条件)、その2倍の周期(1/47Hz×2≒43ms)よりも大きな値に設定している。
【0023】
以上説明した本実施例によれば、次のような効果が得られる。
瞬停検出回路5は、三相の商用交流電源2のうち、二相(R相、S相)の電圧波形の傾きを監視し、その傾きが何れもしきい値未満となる状態が所定時間以上継続すると、商用交流電源2の瞬時停電を検出するようにした。具体的には、CPU14aは、電圧信号Vr,Vsについて、電圧波形の傾きΔVr,ΔVsを算出し、ΔVr,ΔVsが何れもしきい値Vth未満のときにカウントを行い、何れか一方がしきい値Vth以上であればカウント値をリセットし、カウント値が予め設定した瞬時停電検出値(所定時間)に達すると瞬時停電を検出する。すなわち、瞬時停電が発生すると、各相電圧はノイズ除去用のコンデンサ10〜12の影響により緩やかに低下するが、このときの電圧波形の傾きは通常に比べて小さくなる。そこで、上記したように電圧波形の傾きの変化に基づいて瞬時停電を検出することで、各相間にコンデンサ10〜12が挿入されている場合であっても、瞬時停電を速やかに検出することができる。
【0024】
また、瞬停検出回路5は、三相の商用交流電源2のうち、二相(R相、S相)間の電位差も監視し、その電位差がしきい値未満となる状態が所定時間以上継続する条件が成立した場合にも、商用交流電源2の瞬時停電を検出するようにした。具体的には、CPU14aは、電圧信号Vr,Vsについて、同一のサンプリングタイミングにおけるデータの差分Aも算出し、この差分Aがしきい値Vth未満のときにも上記カウントを行い、しきい値Vth以上であればカウント値をリセットする。すなわち、瞬時停電が発生すると、各相間の電位差はほとんどなくなるので、このように二相間の電位差も併せて監視することで瞬時停電をより確実に検出することができる。
【0025】
さらに、上記所定時間(瞬時停電検出値)を、商用交流電源2の電源周期の2周期以上となる45ms(カウント値「45」)に設定したので、ノイズ等の影響による一時的な電源変動に基づく誤検出を排除して、確実に瞬時停電を検出することができる。
そして、制御部14は、上記のように瞬時停電を検出した後、速やかにエンジンボードに対して瞬停検出信号Saを出力するので、エンジンボードにおいて、遅延なく瞬時停電後の各処理を実行することが可能となる。
【0026】
なお、本発明は上記し且つ図面に記載した実施例に限定されるものではなく、次のような変形又は拡張が可能である。
電圧信号Vr,Vsのサンプリング間隔およびしきい値Vthは、商用交流電源2の電圧、周波数および重畳されるノイズなどの電源条件や、瞬時停電の検出精度に応じて適宜変更可能である。
【0027】
瞬時停電を検出するための所定時間は、交流電源周期の2周期未満であってもよい。
同一の検出タイミングにおける電圧信号VrとVsとの差分Aに基づく瞬時停電状態の判断については、使用する電源の状態等に応じて設ければよい。
単相200V、もしくは100Vの交流電源を使用するものに適用してもよい。
電源装置1は、産業用ロボットに対して電源を供給するものに限らず、その他の電気、電子機器に対して電源を供給するものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施例を示すもので、電源装置の電気的構成図
【図2】電圧信号Vr,Vsの波形を示す図
【図3】瞬時停電検出処理時における制御内容を示すフローチャート
【符号の説明】
【0029】
図面中、1は電源装置、2は商用交流電源(三相交流電源)、4は直流電源回路、5は瞬停検出回路(瞬停検出手段)、9r,9s,9tは交流電源線、10〜12はコンデンサ、14は制御部(変化量算出手段、カウント手段)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流電源より交流電源線を介して供給される交流電力を整流して直流化する直流電源回路と、前記交流電源線間に挿入されるコンデンサとを備えた電源装置において、
前記三相のうち何れか二相について電圧波形の傾きを監視し、その傾きが双方共にしきい値未満となる状態が所定時間以上継続すると、前記交流電源の瞬時停電を検出する瞬停検出手段を備えることを特徴とする電源装置。
【請求項2】
前記瞬停検出手段は、前記二相間の電圧差も監視し、その電圧差がしきい値未満となる状態が前記所定時間以上継続する条件が成立した場合にも、前記交流電源の瞬時停電を検出することを特徴とする請求項1記載の電源装置。
【請求項3】
前記所定時間を、前記交流電源周期の2周期以上に設定することを特徴とする請求項1または2記載の電源装置。
【請求項4】
前記瞬停検出手段は、前記各相の電圧レベルを所定周期毎に検出し、
前記各相毎に、現在の検出値と過去の検出値との変化量を算出する変化量算出手段と、
この変化量算出手段により算出された各相電圧の変化量が何れもしきい値未満のときにカウントを行い、何れか一方が前記しきい値以上であればカウント値をリセットするカウント手段とを備え、
前記カウント手段のカウント値が予め設定された検出値に達すると、前記瞬時停電を検出することを特徴とする請求項1ないし3の何れかに記載の電源装置。
【請求項5】
前記カウント手段は、同一の検出タイミングにおける前記各相間の電圧検出値の差を求め、その差がしきい値未満となる条件が成立した場合にもカウントを行い、前記検出値の差が前記しきい値以上であればカウント値をリセットすることを特徴とする請求項4記載の電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−128897(P2008−128897A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−315732(P2006−315732)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(501428545)株式会社デンソーウェーブ (1,155)
【Fターム(参考)】