説明

電着ドリル

【課題】刃部および柄部(シャンク)を備えた、穴加工に用いられる電着ドリルにおいて、その刃部の先端が摩耗しにくい、製品寿命が長い電着ドリルを提供する。
【解決手段】機械主軸に取り付けられる柄部(シャンク)20と、先端に向けて螺旋状のねじれ溝12が形成された刃部10とを備えた穴開け用の電着ドリル1であって、刃部10は、その先端部にダイヤモンド砥粒30が固着されていると共に、先端部10aが円弧凸状になされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電着ドリルに関し、例えば、機械主軸に取り付けられる柄部と、ねじれ溝が形成された刃部とを備え、その刃部にダイヤモンド砥粒を付着させた電着ドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から知られている穴開け用のドリルの構成が特許文献1に開示されている。
ここで、図5を参照しながら、従来から知られている穴開け用のドリルの構成を説明する。
図示するように、穴開け用のドリル100は、機械主軸に取り付けられる柄部(シャンク)110と、先端が円錐状に形成されている刃部120とを備えている。また、刃部120には螺旋状の溝121が設けられている。また、穴開け用のドリル100は、所定強度を確保するため、刃部120の外周囲に、ダイヤモンド砥粒が固着されている。
【0003】
【特許文献1】特開平6−297219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来技術のドリルは、炭化ケイ素などの硬いセラミック焼結体を加工すると、その先端部が摩耗し易く、製品寿命が短いという技術的課題を有している。
具体的には、図6(a)に示すように、上述した従来技術のドリル100は、刃部の先端部120aが鋭利な円錐形状に形成されているため、その先端部120aにダイヤモンド砥粒130を安定して固着させることができなかった。
そのため、ドリル100は、穴開け加工をしている際、刃部120の先端部120aからダイヤモンド砥粒130が簡単に剥がれてしまい(図6(b)参照)、そこから先端部120aの摩耗が進行し、先端部120aが凹んでしまうという技術的課題を有している(図6(c)参照)。すなわち、従来のドリル100は、刃部120の先端120aが局所的な凹みが生じ、この凹みを有する100(所定以上摩耗したドリル100)により穴開け加工を続けると、加工不良を発生させるという技術的課題があった。
なお、早めにドリルを交換することにより、加工不良の発生を防ぐことができるが、交換頻度が多くなり、その手間が面倒であると共に、コストアップを招いていた。
そのため、従来技術のものと比べて、先端部が摩耗しにくい、交換サイクルが長いドリルが望まれているが、現在のところ、そのようなドリルは知られていない。
【0005】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、刃部の先端部が摩耗しにくい、製品寿命が長いドリルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた本発明は、機械主軸に取り付けられる柄部と、ねじれ溝が形成された刃部とを備えた電着ドリルであって、前記刃部は、その先端部にダイヤモンド砥粒が固着されていると共に、該先端部が円弧凸状になされていることを特徴とする。
【0007】
このように、本発明によれば、電着ドリルの先端部が、鋭利な形状ではなく、円弧凸状になされているため、その先端部に、安定した状態でダイヤモンド砥粒を固着させることができる。その結果、本発明によれば、従来技術の電着ドリルと比べて、先端部のダイヤモンド砥粒が剥がれにくくなるため、先端が摩耗しにくくなる。その結果、本発明によれば、電着ドリルを長寿命化することができる。
【0008】
また、前記先端部は、前記先端部における前記円弧凸状の径は、前記刃部の径に等しいことが望ましい。また、前記先端部に付着されたダイヤモンド砥粒の粒度が#120から#80の範囲にあることが望ましい。#120より細かいとダイヤモンド砥粒の寿命が短くなってしまう。また、#80より大きいと先端中心部に付着するダイヤモンド砥粒が少なくなり、ダイヤモンド砥粒が脱落した場合に先端中心部が摩耗しやすくなる。
このように構成することにより、上述した先端部が鋭利なドリルと比べて、刃部の先端部に多量のダイヤモンド砥粒を付着させることができ、穴開け加工の際に一番摩耗する刃部の先端中心部の強度を高めることができる。その結果、刃部の先端中心部が摩耗しにくくなり、電着ドリルを長寿命化させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、刃部の先端部が摩耗しにくい、製品寿命が長い電着ドリルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態の電着ドリルについて図1および図2に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施形態の電着ドリルの側面図である。また、図2は、本発明の実施形態の電着ドリルの刃部の先端部の模式図である。
なお、本実施形態の電着ドリル1は、刃部10の先端部10aの形状に特徴があり、刃部10の先端部10aの形状以外は、一般的な電着ドリルと略同様に構成されている。そのため、以下では、本実施形態の特徴的な部分を詳細に説明し、一般的な電着ドリルと同様の構成については、その説明を省略する。
【0011】
具体的には、図1に示すように、電着ドリル1は、略棒状になされ、機械主軸に取り付けられる柄部(シャンク)20と、先端に向かって螺旋状のねじれ溝12が形成された刃部10とを備える。また、電着ドリル1は、刃部10の先端部10aに、ダイヤモンド砥粒30が電着により付着されている(例えば、電着によりダイヤモンド砥粒30が一層だけ付着されている)。
なお、電着ドリル1は、例えば、高速度鋼により形成される。
【0012】
また、本実施形態の電着ドリル1は、一般的なドリルのように、刃部の先端にチゼルが形成されているのではなく、刃部10の先端部10aが円弧凸状になされている(刃部10の先端の頂点10a1を軸線に平行に切断した軸断面が略舌状に形成されている)。
また、図1に示すように、電着ドリル1は、先端部10aの円弧凸状の径(R1(mm))と、刃部10の径(R2(mm))とが等しい長さ寸法(R1=R2)になされている。
そして、刃部10には、図2に示すように、ダイヤモンド砥粒30が、その頂点10a1からコーナ10a2を若干越えた位置まで付着されている(これにより切れ刃が形成される)。
なお、図2に示す例では、電着ドリル1の刃部10の先端部10aが、刃部10の先端部10a以外の部分に比べて、ダイヤモンド砥粒30の膜厚分だけ突出しているが、特にこれに限定されるものではない。
例えば、刃部10のうちダイヤモンド砥粒30が付着される部分の径を、膜厚分だけ小さく形成しておいて、刃部10の先端部10aと、刃部10の先端部10a以外の部分とが面一に形成されていてもよい。
【0013】
また、本実施形態では、電着ドリル1に付着されるダイヤモンド砥粒30の量を、電着ドリル1の部位により異ならせるようにしてもよい。例えば、電着ドリル1の先端部10aのうち、頂点10a1およびその周辺部(加工する際にワーク(被研削材)が当接する部分)に、他の部分に比べて、多くの量のダイヤモンド砥粒30を付着させる。このように構成することにより、穴開け加工の際に一番摩耗する刃部10の先端中心部の強度を高めることができる。
【0014】
また、本実施形態は、電着ドリル1の大きさ寸法、ダイヤモンド砥粒30の膜厚等について特に限定されるものではない。
例えば、先端部10aに付着させるダイヤモンド砥粒30の平均粒度は、「#120から#80」の範囲が好ましい。
【0015】
このように、本実施形態では、刃部10の先端部10aが円弧凸状になされているため、上述した従来技術のものと比べて、刃部10にダイヤモンド砥粒30を安定して付着させることができる。また、刃部10の先端部10aが円弧凸状になされているため、上述した従来技術のものと比べて、刃部10の先端部10aに多量のダイヤモンド砥粒30を付着させることができる。
そのため、本実施形態によれば、上述した従来技術のものと比べて、刃部10の先端部10aのダイヤモンド砥粒30が剥がれにくくなり、摩耗の局所化を低減でき、その結果、先端部10aが摩耗しにくい製品寿命が長い電着ドリル1を提供することができる。
そして、本実施形態の電着ドリル1を利用すれば、電着ドリル1の交換回が減少するため、交換作業の手間が軽減されると共に、コストダウンを図ることができる。
【実施例】
【0016】
続いて、本発明の実施形態の電着ドリル1の耐久性について、本発明の実施形態の電着ドリル1で実際に穴開け加工を行った実施例に基づいて検証する。
【0017】
[実施例]
本実施形態の電着ドリル1を用いて、SiCにより形成された板に、「φ4.5×30mm」の穴開け加工(穴加工)を行い、加工後に、電着ドリル1の先端の摩耗量を測定した。
具体的には、下記の表1に示す長さ寸法の電着ドリル1を20個用意して、マシニングセンタ(OKK(大阪機工株式会社)製)に電着ドリル1を装着して、それぞれの電着ドリル1毎に、連続穴加工(3穴/1本)を行った。
なお、加工方法は、「ステップ加工」として、加工条件は、「送り速度:1(mm/min)」、「回転数:3000回転/min 逆回転)」、「切り込み:0.1(mm)」、「穴深さ:30(mm)」とした。
また、1穴の穴加工が終わる毎に、工具長測定機(レニショー社製)を用いて、電着ドリル1の先端部10a1の摩耗量を測定した。
【0018】
【表1】

【0019】
そして、上記の穴加工による電着ドリル1の先端部10a1の摩耗量の測定結果を表2に示す。また、上記実施例から得られた測定結果を表したグラフを図3に示す。
なお、図3では、各電着ドリル1の1回目の穴加工後の摩耗量を「□印」で示し、2回目の穴加工後の摩耗量を「△印」で示し、3回目の穴加工後の摩耗量を「×印」で示している。
【0020】
【表2】

【0021】
[比較例]
つぎに、図5に示した従来技術のドリル100(すなわち、先端部が円錐状に形成されている刃部120を備え、刃部120の先端部にダイヤモンド砥粒が付着されたドリル100)を用いて、SiCにより形成された板に、「φ4.5×30mm」の穴開け加工(穴加工)を行った。
具体的には、下記の表3に示す長さ寸法のドリル100を15個用意して、マシニングセンタ(OKK(大阪機工株式会社)製)にドリル100を装着して、ドリル100毎に、連続穴加工(3穴/1本)を行った。
なお、加工方法および加工条件は、上記の実施例と同じである。また、1穴の穴加工が終わる毎に、工具長測定機(レニショー社製)を用いて、ドリル100の先端部の摩耗量を測定した。
【0022】
【表3】

【0023】
そして、上記比較例の穴加工によるドリル100の先端の摩耗量の測定結果を表4に示す。また、上記比較例から得られた測定結果を表したグラフを図4に示す。
なお、図4では、図3と同様、各ドリル100の1回目の穴加工後の摩耗量を「□印」で示し、2回目の穴加工後の摩耗量を「△印」で示し、3回目の穴加工後の摩耗量を「×印」で示している。
【0024】
【表4】

【0025】
そして、上記の表2および表4を参照して、上記実施例の測定結果と、上記比較例の測定結果とを比べると、穴加工後の摩耗量の平均は、上記実施例の測定により得られた摩耗量の平均の方が、比較例の測定で得られた摩耗量の平均よりも小さいものとなった。
また、図3および図4に示すように、上記実施例の測定結果の方が、上記比較例の測定結果よりも、バラツキが小さかった。
このように、本発明の電着ドリル1は、従来技術の電着ドリル100に比べて、刃部の先端が摩耗しにくいものとなっているとともに、摩耗量のバラツキが小さいことが確認された。
【0026】
また、実施例(或いは比較例)の条件で穴加工を行う場合、例えば、ドリル1(ドリル100)の先端の摩耗量が「0.3(mm)」を超えるか否かを基準(交換目安)に、電着ドリル1(電着ドリル100)の交換が行われている。
そして、上記の表2に示すように、実施例では、1穴を開けた後の摩耗量の平均が「0.078(mm)」であり、2穴を穴開けした後の摩耗量の平均が「0.219(mm)」であり、3穴を穴開けした後の摩耗量の平均が「0.382(mm)」であった。
すなわち、電着ドリル1を利用して、実施例の穴開け加工を行う場合には、2穴を穴開けした後で、電着ドリル1を交換すれば、先端部の摩耗による加工不良の発生を防止できる。
【0027】
一方、上記の表3に示すように、比較例では、1穴を開けた後の摩耗量の平均が「0.218(mm)」であり、2穴を穴開けした後の摩耗量の平均が「0.454(mm)」となった。すなわち、従来技術の電着ドリル100は、2穴を加工している際に、先端が交換目安の「0.3(mm)」を超えて摩耗する可能性が高い。
そのため、電着ドリル100を利用して、比較例の穴開け加工を行う場合、先端部の摩耗による加工不良の発生を防止するために、1穴を穴開けした後で、電着ドリル100を交換しなければならない。
このように、実施例および比較例を比べると、電着ドリル1は、従来技術の電着ドリル100に比べて、交換サイクルが長く、長寿命化が実現されていることが確認された。
【0028】
以上説明したように、本発明の実施形態によれば、刃部の先端が摩耗しにくい、製品寿命が長い電着ドリルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態の電着ドリルの側面図である。
【図2】本発明の実施形態の電着ドリルの刃部の先端部の模式図である。
【図3】本実施形態の電着ドリルを用いて、SiCにより形成された板に穴開け加工を行い、加工後に、電着ドリルの先端部の摩耗量を測定した実施例の測定結果を示したグラフである。
【図4】従来技術の電着ドリルを用いて、SiCにより形成された板に穴開け加工を行い、加工後に、電着ドリルの先端部の摩耗量を測定した比較例の測定結果を示したグラフである。
【図5】従来技術による電着ドリルの側面図である。
【図6】従来技術による電着ドリルの先端部の模式図である。
【符号の説明】
【0030】
1…電着ドリル
10…刃部
10a…先端部
10a1…頂点
10a2…コーナ
12…ねじれ溝
20…柄部(シャンク)
30…ダイヤモンド砥粒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械主軸に取り付けられる柄部と、ねじれ溝が形成された刃部とを備えた電着ドリルであって、
前記刃部は、その先端部にダイヤモンド砥粒が付着されていると共に、該先端部が円弧凸状になされていることを特徴とする電着ドリル。
【請求項2】
前記先端部における前記円弧凸状の径は、前記刃部の径に等しいことを特徴とする請求項1に記載の電着ドリル。
【請求項3】
前記先端部に付着されたダイヤモンド砥粒の粒度が#120から#80の範囲にあることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電着ドリル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−64173(P2010−64173A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−231770(P2008−231770)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】