説明

電着ホイール

【課題】加工面となる電着層の面積率の適正化を行って、砥粒摩耗の平均化を実現し、寿命を向上させた電着ホイールを提供する。
【解決手段】取付穴4に沿うホイールの内周縁Lからの幅aが、ホイールの内周縁Lから外周縁Mまでの幅Wに対して15%以下の領域である内周部5においては、電着部3の表面面積の割合をその領域における台金2の面積の80%以上としている。また、ホイールの幅Wに対してホイールの外周縁Mからの幅bが20%以下の領域である外周部6においては、電着部3の表面面積の割合をその領域における台金2の面積の70%以上90%以下としている。内周部5と外周部6とに挟まれた領域であり、幅cを有する中央部7においては、電着部3の表面面積の割合をその領域における台金2の面積の40%以上60%以下としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両頭研削盤に用いられる電着ホイールに関する。
【背景技術】
【0002】
両頭研削盤に用いられる電着ホイールは、研削面となる台金の表面全面に、ダイヤモンドやcBNからなる砥粒を電着によって固定した砥粒層が形成されており、砥粒層が台金表面を占める面積比は通常100%となっている。このようなホイールによって被削材が挟み込まれて研削が行われる。
【0003】
このようなホイールを使用した両頭研削においては、砥粒層、すなわち電着層の面積が広いため、切粉の排出性が悪く、切粉の目詰まりや被削材の溶着の発生が避けられない。そのため、砥粒が有効に使用されないまま、被削材の焼けや研削抵抗の上昇によって、ホイールの寿命と判断されていた。
【0004】
また、このような両頭研削盤ホイールは、使用面幅が広いため、外周部と内周部とでホイールの周速が大きく異なり、研削仕事量も異なる。外周部に対して内周部ではホイールの周速が遅く、砥粒の摩滅が激しい。また、内周部と外周部とに挟まれた中央部は、主加工部となるため被削材の溶着が激しい。一方、外周部では周速は速いため、これによる摩耗は小さいものの、被削材の入口となることによる砥粒摩耗が大きい。
【0005】
このように、外周部、中央部、内周部それぞれに砥粒の負荷が異なり、その結果、砥粒摩耗が不均一となるため、部分的な砥粒摩耗が原因で寿命と判断されるケースもある。
特許文献1には、電着領域での超砥粒が占める面積を各領域によって最適化した回転円盤カッターが記載されている。また、ラッピング装置やその他の研削砥石において、砥粒層の形状や配置を工夫したものが、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5に記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開平9―123064号公報
【特許文献2】実開昭52−171791号公報
【特許文献3】特開2000−288917号公報
【特許文献4】特開昭55−144970号公報
【特許文献5】特開平9―193025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の発明は、主加工部ではない基板側面について、基板摩擦防止を目的として電着面積率の適正化を狙ったものであり、この構成によっても、両頭研削における、周速の違いや外周部が被削材の入口となることによる砥粒摩耗を有効に防止することはできない。また、特許文献2から5に記載の発明は、発生する切粉の除去効果を高め加工能率を向上させること、および研削砥石の部分的な偏摩耗を防止するため主に結合材強度を変化させるものであるが、研削砥石の最外周部に最も負荷が加わる研削方式では、砥石外周部に開口部(スリット)があると砥石破損等が発生する可能性がある。
【0008】
本発明は、以上の問題点を解決するためになされたもので、加工面となる電着層の面積率の適正化を行って、砥粒摩耗の平均化を実現し、寿命を向上させた電着ホイールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するために、本発明の電着ホイールは、両頭研削盤に用いられ、円盤状台金の表面に砥粒が電着によって固定された電着部が形成された電着ホイールにおいて、前記電着部の表面面積の割合を、台金の中心に設けられた取付穴側の領域である内周部では、その領域における台金の表面面積に対して80%以上とし、前記内周部の外周側の領域である中央部では40%以上60%以下とし、前記中央部の外周側の領域である外周部では70%以上90%以下としたことを特徴とする。
【0010】
台金の表面面積に対する電着部の表面面積の割合を、内周部では80%以上とすることにより、内周部で周速が遅いことによる砥粒の摩耗を防止することができる。80%未満では、電着部の表面面積の割合が小さいため、砥粒の摩耗を十分に防止することができない。また、台金の表面面積に対する電着部の表面面積の割合を、中央部では40%以上60%以下とすることにより、被削材の溶着を有効に防止することができる。電着部の表面面積の割合が40%未満であると、砥粒への負荷が高くなり、砥粒摩耗を防止する効果が得られにくくなって好ましくなく、60%を超えると、溶着防止効果が得られにくくなって好ましくない。また、台金の表面面積に対する電着部の表面面積の割合を、外周部では70%以上90%以下とすることにより、研削時に外周部が被削材の入口となることによる砥粒摩耗を防止することができる。電着部の表面面積の割合が70%未満であると、電着部の表面面積の割合が小さいため、外周部が被削材の入口となることによる砥粒摩耗を防止する効果が得られにくく、90%を超えると、溶着防止効果が得られにくくなって好ましくない。
【0011】
このように、台金の表面面積に対する電着部の表面面積の割合を各領域において上記の範囲とすることによって、各部での砥粒摩耗を均等化させることができ、砥粒が有効に使用されるため、寿命が向上する。
ここで、内周部とは取付穴に沿うホイールの内周縁からの幅が、ホイールの内周縁から外周縁までの幅に対して15%以下の領域であり、外周部とはホイールの外周縁からの幅が、ホイールの内周縁から外周縁までの幅に対して20%以下の領域であり、中央部とは内周部と外周部とに挟まれた領域である。
【0012】
本発明においては、前記内周部と前記中央部では電着部の表面を円形状に形成し、前記外周部では非電着部の表面を円形状に形成することができる。
内周部と中央部とにおいては電着部の表面が円形状に形成されていることにより、電着部が被削材に対して円弧状に接触するため、研削時の衝撃を和らげることができる。これに対し、電着部の表面を角形状に形成すると、被削材に対して電着部が直線状に接触するため、衝撃により被削材に欠け(チッピング)が発生しやすい。
【0013】
さらに、外周部においては、被削材の入口もしくは近傍となるため電着面への負荷が加わりやすいが、非電着部の表面が円形状に形成され、その周囲に電着部が形成されるため、電着密着を高めてその強度を維持することができる。そのため、この領域で被削材がはじかれて研削に悪影響を及ぼすことを防止できる。
【0014】
本発明においては、前記外周部のうち最も外周側に位置する最外周縁部に全面電着部を設けることができる。
最外周縁部は、被削材の入口となる領域であることによる電着面への負荷が最も加わりやすいが、この領域を全面電着部とすることにより、電着密着を高めてその強度を維持することができる。そのため、この領域で被削材がはじかれて研削に悪影響を及ぼすことを防止できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、電着面積率の適正化により各部での砥粒の磨耗が均等となり、切れ味と寿命が向上する。また、主加工部となる中央部にも電着パターンにより非電着部を設けているため、切粉の逃げ道ができ、被削材溶着量が減少する。さらに、研削時の衝撃を和らげることができ、衝撃によるチッピングの発生を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明をその実施形態に基づいて説明する。
図1に、本発明の実施形態に係る電着ホイールの研削面の半分を示す。
電着ホイール1(以下、「ホイール」と略記することがある)には、円盤状の台金2の表面に、ダイヤモンドやcBNからなる砥粒が電着によって単層に固定された電着部3が形成されている。台金2の中心には、取付穴4が設けられている。
【0017】
本発明の電着ホイール1においては、台金2における電着パターンを領域によって変化させており、取付穴4に沿うホイールの内周縁Lからの幅aが、ホイールの内周縁Lから外周縁Mまでの幅Wに対して0%以上15%以下の領域である内周部5においては、電着部3の表面面積の総計の割合をその領域における台金2の面積の80%以上としている。また、ホイールの幅Wに対してホイールの外周縁Mからの幅bが0%以上20%以下の領域である外周部6においては、電着部3の表面面積の総計の割合をその領域における台金2の面積の70%以上90%以下としている。内周部5と外周部6とに挟まれた領域であり、幅cを有する中央部7においては、電着部3の表面面積の総計の割合をその領域における台金2の面積の40%以上60%以下としている。また、外周部6のうち最も外周側に位置する最外周縁部8に全面電着部9が設けられ、この全面電着部の外周縁Mからの幅dを10mm以下としている。
【0018】
内周部5と中央部7とにおいては、砥粒が単層に電着された電着部3の表面が円形状に形成されている。また、外周部6においては、これとは逆に、非電着部10の表面が円形状に形成され、非電着部10の周囲が電着部となっている。
【0019】
図2に、本発明の電着ホイールにおいて、電着部の表面を円形状に形成したことによって生じる、研削の際の利点について説明する。なお、説明の都合上、図2には電着部の表面を円形状に形成したもののみを表示し、図1における外周部6、最外周縁部8は表示していない。
図2(a)に示すように、ワーク20はワークキャリア21に適度な間隔を置いて配置され、このワークキャリア21を上下両側から電着ホイール1で挟み込んで研削する構造となっており、ワークキャリア21が回転するとともに、電着ホイール1もその回転軸11を回転中心として回転する。ワークキャリア21の回転速度は、電着ホイール1の回転速度の約1/100程度である。
【0020】
電着ホイール1の面上に形成された電着部3は、図2(b)に示すように、ワーク20に接触することによってワーク20の研削がなされるが、本発明においては、電着部3の表面を円形状に形成しているため、電着部3とワーク20とが接触する部分を拡大した図2(c)に示すように、ワーク20の初期研削は、電着部3の外周である円弧の一部と接触することによってなされ、電着部3の回転によってワーク20には円弧状に接触する。従って、ワーク20に対する電着部3の当たりが滑らかとなり、研削時の衝撃を和らげることができるため、チッピングの発生を低減することができる。
【0021】
図3に基づいて、電着部3の形状を変えたときの研削状況の違いについて説明する。
図3(a)は、電着ホイール1の研削面を示しており、(b)はこの面上に表面が角形状の電着部3bを形成し、この角形状の電着部3bの一辺が電着ホイール1の回転方向に対して垂直になるようにしたものであり、(c)は同様に角形状の電着部3cを形成したものを(b)の位置から45°回転し、角形状の電着部3cの一点が電着ホイール1の回転方向の先端になるようにしたものであり、(d)は表面が円形状の電着部3dを形成したものである。図3(b)、(c)、(d)における一点鎖線は、図3(a)における径方向の線を意味する。
【0022】
図3(b)の場合は、電着部3bは角形状の一辺が直線として初期研削に作用し、その後ワークに断続的に当たるため、チッピングが発生しやすい。また、(c)の場合は、電着部3cは角形状の一点が初期研削に作用するため、電着部3cの先端の砥粒にかかる負荷は大きくなるが、チッピングの発生は(b)のものよりも低減できる。これに対し、(d)の場合は、電着部3dは円形状であるため、ワークに対して円弧状に接触するため、衝撃が少なく、チッピングの発生を抑制するためには極めて有効である。
【0023】
図4に、その試験結果を示す。
ここでのチッピング率は、チッピングの発生した発生品数を全加工数で割ったものとして定義している。
図4からわかるように、電着部の表面を円形に形成することにより、チッピングの発生が著しく低下している。
【0024】
図5に、内周部、中央部、外周部での電着面積率を変えたときの試験結果を示す。ここでは、355mm径の電着ホイールを上下にセットして、巻バネの両端面研削を行なうことにより試験を行った。
【0025】
図5(a)は、内周部、中央部、外周部における電着部の表面面積を変えたときの寿命を示しており、台金の全領域に対して全面電着したときを100とした指数で表示している。電着部の表面面積の割合を内周部では80%以上とし、中央部では40%以上60%以下とし、外周部では70%以上90%以下としたときに寿命が向上していることがわかる。特に、外周部においては、周速のみを考慮するならば電着部の面積を小さくすることが好ましいにもかかわらず、本発明では外周部が被削材の入口となることによる砥粒摩耗が大きいことを考慮して、外周部における電着部の面積を大きくしており、これによる効果が良く現れている。なお、内周部については、電着部の表面を円形状に形成するという観点からは、内周部における電着部の表面面積の割合について自ずから上限が定まるが、図5(a)に示すデータに基づくと、内周部における電着部の表面面積の割合を少なくとも90%以下にすると寿命が良好に保たれていることがわかる。
【0026】
図5(b)は、内周部、中央部、外周部における電着部の表面面積を変えたときの消費電力を示しており、台金の全領域に対して全面電着したときを100とした指数で表示している。被削材が溶着しやすい中央部において、電着部の表面面積の割合を60%以下としたことによって、溶着を有効に防止することができ、消費電力が低下している。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、加工面となる電着層の面積率の適正化を行って、砥粒摩耗の平均化を実現し、寿命を向上させた電着ホイールとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係る電着ホイールの研削面を示す図である。
【図2】本発明の電着ホイールを用いてワークを研削する様子を示す図である。
【図3】電着部の形状を変えたときの研削状況の違いを説明する図である。
【図4】電着部の形状を変えたときの研削状況の試験結果を示す図である。
【図5】内周部、中央部、外周部における電着面積率を変えたときの試験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1 電着ホイール
2 台金
3 電着部
4 取付穴
5 内周部
6 外周部
7 中央部
8 最外周縁部
9 全面電着部
10 非電着部
11 回転軸
20 ワーク
21 ワークキャリア
L 内周縁
M 外周縁
W 幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両頭研削盤に用いられ、円盤状台金の表面に砥粒が電着によって固定された電着部が形成された電着ホイールにおいて、前記電着部の表面面積の割合を、台金の中心に設けられた取付穴側の領域である内周部では、その領域における台金の表面面積に対して80%以上とし、前記内周部の外周側の領域である中央部では40%以上60%以下とし、前記中央部の外周側の領域である外周部では70%以上90%以下としたことを特徴とする電着ホイール。
【請求項2】
前記内周部と前記中央部とにおいては、電着部の表面が円形状に形成され、前記外周部においては、非電着部の表面が円形状に形成されていることを特徴とする請求項1記載の電着ホイール。
【請求項3】
前記外周部のうち最も外周側に位置する最外周縁部に全面電着部が設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の電着ホイール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−246615(P2008−246615A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−89767(P2007−89767)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000111410)株式会社ノリタケスーパーアブレーシブ (73)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】