説明

電磁弁

【課題】アジャスタ部材によるばね部材のセット荷重の調整を容易にする。
【解決手段】アジャスタ38は例えば、プレス成形により円筒状周壁の一端に閉塞端壁38bを連設して薄肉有底円筒状に成形される。閉塞端壁38bには、ばね部材42の外端に嵌入する凸部39が同時に形成される。アジャスタ38は、バルブ本体29の取付孔37に嵌挿後、該アジャスタ38をバルブ本体29に固定する。次いで、アジャスタ38の凸部39を調圧装置47により押圧し、該凸部39を変形させてばね部材42のセット荷重を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一端にソレノイド部を付設したバルブ本体のスリーブ孔に、該ソレノイド部に発生する電磁推力により一方向へ押圧されるスプール弁を嵌挿し、バルブ本体の他端に形成した取付孔に固定される調整栓と該スプール弁との間に、前記スプール弁を電磁推力と反対方向へ付勢するばね部材を縮設した電磁弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電磁弁においては、スプール弁が摺動自在に嵌挿されるスリーブ孔の端部の内周に設けられた雌ねじと、該雌ねじの螺合する雄ねじが形成される受栓と、該受栓の位置を外部から固定する固定手段と、を設け、前記固定手段は、弁スリーブの端部に連設される内周に雌ねじが設けられる薄肉の突出部を設け、該雌ねじに雄ねじが設けられる受栓を螺合し、該受栓の位置を調整後、該突出部をカシメにて固定するように構成されている(例えば、特許文献1参照)。
従来、この種の電磁弁においては、調節栓をバルブ本体の取付孔に螺合して、その螺合深さにより弁ばねのセット荷重を調節し、その調節後、調節栓の螺合部をバルブ本体外側からかしめて固定することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、有底薄肉円筒状に形成した調節栓をバルブ本体の取付孔に圧入して、その圧入深さにより弁バネのセット荷重を調整し、その圧入後の調節栓と取付孔との圧入嵌合面に、互いに密合する凹,凸部をかしめ加工により形成し、固定する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−129884号公報
【特許文献2】特許第3160747号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されているような電磁弁では、調節栓の螺合部の固定のために、かしめが不可欠であり、しかもそのかしめ時には、螺合部の微小隙間により調節栓が軸方向に多少とも変位して、調節済の弁ばねのセット荷重に狂いを生じることがある。さらに、調節栓に螺子部を形成するのでコスト高になる。
また、特許文献2に記載されているような電磁弁では、弁ばねのセット荷重調整後に調節栓にかしめの荷重を加えるため、例えば調節栓の微小な変位や、意図しない変形、たわみ等によって生じる誤差を無視できない。
さらにまた、圧入荷重を適正とするため、調節栓に精度が高い加工が求められので、コスト高になる。
【0005】
本発明は上記の課題を解決するためになされたもので、一端にソレノイド部を付設したバルブ本体のスリーブ孔に、前記ソレノイド部に発生する電磁推力により一方向へ押圧されるスプール弁を嵌装し、前記バルブ本体の他端に形成した取付孔に固定されるアジャスタと前記スプール弁との間に、該スプール弁を前記電磁推力と反対方向へ付勢するばね部材を縮設した電磁弁において、前記アジャスタを前記バルブ本体の固定後、該アジャスタを変形させて前記ばね部材のセット荷重の調整を行うことを特徴とする電磁弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を達成するために請求項1記載の発明は、一端にソレノイド部を付設したバルブ本体のスリーブ孔に、ソレノイド部に発生する電磁推力により一方向へ押圧されるスプール弁を嵌挿し、前記バルブ本体の他端に形成した取付孔に固定されるアジャスタと前記スプール弁との間に、該スプール弁を前記電磁推力と反対方向に付勢するばね部材を縮設した電磁弁において、前記アジャスタを前記バルブ本体に固定後、該アジャスタを変形させて前記ばね部材のセット荷重の調整を行うことを特徴とする。
本発明によれば、アジャスタをバルブ本体に固定する螺子加工の必要が無いのでコストを低減することができる。
請求項2記載の発明は、前記アジャスタの変形は該アジャスタの凸部を調圧装置により押圧するので、調整以降にばね部材のセット荷重に影響する工程が不要になり、該ばね部材のセット荷重の誤差を低減することができるので、好適である。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、前記アジャスタを前記バルブ本体に固定後、該アジャスタを変形させてばね部材の荷重調整を行うことで、調整以降に該ばね部材のセット荷重に影響する工程を無くし、セット荷重の誤差を低減することが可能である。また、アジャスタのネジ成形や、精度の要求される加工を必要とせず、コストを低減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態に係る電磁弁の概略構造を示す縦断面図である。
【図2】アジャスタの斜視図である。
【図3】アジャスタをバルブ本体の取付孔に嵌挿する動作説明図である。
【図4】アジャスタをバルブ本体に固定する動作説明図である。
【図5】図4の要部拡大図である。
【図6】アジャスタを変形させる機構を示す模写図である。
【図7】アジャスタを変形させる過程を示す動作説明図で、アジャスタを変形させる前の状態を示す。
【図8】アジャスタを変形させる過程を示す動作説明図で、アジャスタが調圧装置によって変形されている状態を示す。
【図9】アジャスタを変形させる過程を示す動作説明図で、アジャスタを変形させてばね部材の弾発力の調整が完了した状態を示す。
【図10】アジャスタをバルブ本体の取付孔に固定する他の動作説明図である。
【図11】図10の要部拡大図である。
【図12】アジャスタをバルブ本体の取付孔に固定するもう1つ他の動作説明図である。
【図13】図12の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の電磁弁につき好適な実施の形態を挙げ、添付図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明の実施の形態に係る電磁弁10の概略構造を示す縦断面図である。
電磁弁10は、磁性体の金属材料であるハウジング11を有し、該ハウジング11は円筒部12とフランジ部13とを備える。前記ハウジング11の内方には、嵌合孔14が貫通して形成される。この場合、前記円筒部12は固定鉄芯としての機能を有する。
【0010】
嵌合孔14には軸受機構15が装着されている。前記軸受機構15は軸心方向に沿って比較的に肉厚が薄い円筒形状の樹脂製の軸受部材16と、該軸受部材16に嵌挿される磁性体の金属製のボール17とを備える。
軸受部材16は両端部でロッド18を支持し、該ロッド18と一体的に形成されているため、ロッド18と共に嵌合孔14を軸心方向に変位する。
【0011】
ハウジング11の外周にはソレノイド20が配設され、該ソレノイド20はボビン21にコイル22が巻き回されカバー23によって覆われている。前記ソレノイド20の一端には、非磁性体のエンドカバー24が当接しており、該エンドカバー24は前記カバー23の一端が固着されている。カバー23には、ハウジング11の嵌合孔14と同軸に穴25が形成されており、該穴25にはロッド18に固着された可動鉄芯26が変位自在に遊嵌されている。
【0012】
参照符号29はバルブ本体で、ハウジング11に当接した状態でカバー23の一端を例えば加締めることによりハウジング11と一体化される。前記バルブ本体29には、嵌合孔14と同軸にスリーブ孔30が穿設され、該スリーブ孔30にスプール31が摺動自在に嵌挿されている。前記バルブ本体29には、ハウジング11から順に図示しないタンクとスリーブ孔30とを連通するタンク通路32と、図示しないアクチュエータとスリーブ孔30とを連通する制御通路33と、図示しないポンプとスリーブ孔30とを連通する供給通路34と、を備える。
【0013】
前記スプール31は、第1のランド部35、第2のランド部36が間隔をおいて軸心方向に沿って形成されており、第1のランド部35によりタンク通路32と制御通路33との連通制御が行われ、第2のランド部36により制御通路33と供給通路34との連通制御が行われる。
バルブ本体29の外端部(図1で右端部)には、スリーブ孔30と同軸状に大径の取付孔37が設けられ、該取付孔37にアジャスタ38が嵌挿されている。アジャスタ38とスプール31の端面(図1で右端面)との間にはロッド18に当接する方向(図1で左方向)に付勢するばね部材42が介装されている。
【0014】
図2に示すように、アジャスタ38は例えば、プレス成形により円筒状周壁38aの一端に閉塞端壁38bを連設して薄肉有底円筒状にアジャスタ本体41が成形される。その際閉塞端壁38bには、ばね部材42の外端に嵌入する凸部39が同時に形成される。
アジャスタ38は、円周方向にアジャスタ本体41が設けられており、取付孔37に嵌挿された際、該アジャスタ本体41の外周面が該取付孔37の内周面に密着するようになっている。
【0015】
図3乃至図5はアジャスタ38をバルブ本体29の取付孔37に固定するときの動作説明図を示す。
先ず、図3に示すように、ジャスタ本体41の外周面を取付孔37の内周面に嵌挿し、該アジャスタ本体41の一端面41aを取付孔37の端面37aに当接する。
次いで、図4及び図5に示ようにバルブ本体29の端面29aを矢印X方向にかしめ治具43でかしめ成形し、該端面29aに突起44を形成してアジャスタ41の他端面41bを押え、該アジャスタ38をバルブ本体29に固定する。
【0016】
一方、電磁弁10は、ばね部材42に付勢される弾発力を調整することによって出力を変えることができる。そこで、本発明の実施の形態では、図6に示すように供給通路34に圧力発生源45を接続し、かつソレノイド20に規定の電流を流して制御通路33の圧油を圧力計46で測定しながら調圧装置47によって該制御通路33の油圧が所定値になるまでアジャスタ38を変形させている。
【0017】
図7乃至図9は、アジャスタ38を変形させる過程を示す動作説明図で、図7はアジャスタ38を変形させる前、すなわち、アジャスタ38をバルブ本体29の取付孔37に嵌挿して該アジャスタ38をバルブ本体29に固定した状態を示す。よって、図7においてばね部材42の一端がスプール31に係合し、他端がアジャスタ38の閉塞端壁38bを形成する凸部39に接触した状態に確保されている。
【0018】
図8はアジャスタ38が調圧装置47によって変形されている状態を示しており、該調圧装置47を矢印X方向に移動させて、該アジャスタ38の凸部39に変形荷重を付加して該凸部39を矢印X方向に変形させてばね部材42の弾発力を調整している。
このとき、アジャスタ38に付加している調圧装置47の押圧力を除去するとアジャスタ38の凸部39のばね部材42の着座面はスプリングバック分だけ矢印Y方向に移動するため、変形量を補正する。
具体的には、変形荷重の値と、材料の弾性係数からあらかじめ変形量を補正してアジャスタ38を変形させてもよい。また、調圧時、目標値の手前で一度変形荷重を除去し、そのときのスプリングバック量を測定して変形量を補正し、再度変形させてもよい。
図9は、アジャスタ38の凸部39を変形させてばね部材42の弾発力の調整が完了した状態を示している。
【0019】
図10はアジャスタ38をバルブ本体29の取付孔37に固定する他の動作説明図を示し、図10中、図3乃至図5の構成要素と同一の構成要素は同一を付して詳細な説明を省略する。
図10において、アジャスタ38のアジャスタ本体41に固定する際に、半径方向からアジャスタ38をかしめる。具体的にはアジャスタ本体41に半径方向に孔41cを穿設し、アジャスタ38をバルブ本体29の取付孔37に嵌挿後、受け治具48をアジャスタ38の内周面に嵌挿して該受け治具48の端面を凸部39に接触させる。次いでアジャスタ本体41に形成される孔41cに相当するバルブ本体29の外側の部位を、受け治具48及びかしめ工具49によりかしめると、図10及び図11に示すように孔41cに臨む該バルブ本体29の内周面に突起50が成形されアジャスタ38がバルブ本体29に固定される。
【0020】
図12及び図13はアジャスタ38をバルブ本体29の取付孔37に固定するもう1つ他の動作説明図を示し、図12及び図13中、図3乃至図5の構成要素と同一の構成要素は同一を付して詳細な説明を省略する。図12及び図13はバルブ本体29とアジャスタ38を受け治具48とかしめ工具49でかしめ、バルブ本体29及びアジャスタ38に凹部51、凸部52のかしめにより形成して固定するもので、特許第3160747号に記載されている内容と略同じなので詳細な説明を省略する。
【0021】
電磁弁10の組立に際しては、スプール31を取付孔37に通してバルブ本体29のスリーブ孔30に挿装後、ばね部材42を挿入して、該ばね部材42の内端部(図1で左側)をスプール31の外端(図1で右側)に接触させる。次いでアジャスタ38の閉塞端壁38bの凸部39でばね部材42の外端(図1で右側)を支承しながらアジャスタ38のアジャスタ本体41を取付孔37に没入するまで嵌挿する。
そして、図4及び図5に示ようにバルブ本体29の端面29aを矢印X方向にかしめ、かしめ治具43でかしめ成形し、該端面29aに突起44を形成してアジャスタ41の他端面41bを押え、該アジャスタ38をバルブ本体29に固定する。
その後、図8に示すように調圧装置47を矢印X方向に移動させて、該アジャスタ38の凸部39に変形荷重を付加して該凸部39を矢印X方向に変形させてばね部材42の弾発力を調整する。
【符号の説明】
【0022】
10 電磁弁 11 ハウジング
12 円筒部 15 軸受機構
16 軸受部材 17 ボール
20 ソレノイド 29 バルブ本体
30 スリーブ孔 31 スプール
37 取付孔 38 アジャスタ
41 アジャスタ本体 42 ばね部材
43 固定板 44、50 突起
45 油圧発生装置 46 圧力計
47 調圧装置 48 受け治具
49 かしめ工具




【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端にソレノイド部を付設したバルブ本体のスリーブ孔に、ソレノイド部に発生する電磁推力により一方向へ押圧されるスプール弁を嵌挿し、前記バルブ本体の他端に形成した取付孔に固定されるアジャスタと前記スプール弁との間に、該スプール弁を前記電磁推力と反対方向に付勢するばね部材を縮設した電磁弁において、前記アジャスタを前記バルブ本体に固定後、該アジャスタを変形させて前記ばね部材のセット荷重の調整を行うことを特徴とする電磁弁。
【請求項2】
請求項1記載の電磁弁において、
前記アジャスタの変形は該アジャスタの凸部を調圧装置により押圧することを特徴とする電磁弁。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−185497(P2010−185497A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29240(P2009−29240)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000005197)株式会社不二越 (625)
【Fターム(参考)】