説明

電磁弁

【課題】可動コア16をコアガイド部19の片側に吸着させて可動コア16の回転を防止することで、閉弁時のシール性を良好に維持できる技術を提供する。
【解決手段】コアガイド部19には、磁路面積の小さい磁気飽和部21が全周に設けられ、この磁気飽和部21の全体がコアガイド部19の径方向の他方側に片寄って形成されている。これにより、コアガイド部19の他方側と比較して磁路面積が小さい一方側では、磁気抵抗が大きくなるため、コアガイド部19と可動コア16との間に働く磁力が他方側と比較して大きくなる。従って、磁化された固定コア20に可動コア16が吸引される時、つまり、可動コア16がガイド孔の内部を軸方向に移動する際に、可動コア16に対し磁力が大きく働くコアガイド部19の一方側に可動コア16が吸着されて、可動コア16の回転が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁石の磁力を利用して弁体を駆動する電磁弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、常閉タイプの電磁弁では、コイルへの通電によって電磁石が形成され、その電磁石によって磁化された固定コアに可動コアが吸着されることで、可動コアに取り付けられた弁体が弁座から離れて開弁する。一方、コイルへの通電が停止して電磁石の磁力が消滅すると、リターンスプリングの反力によって可動コアが反固定コア方向へ押し戻されて、弁体が弁座に着座して閉弁する。
上記の電磁弁において、例えば、弁体にゴム等の弾性体を用いた場合、長期の使用によって弁体の開閉動作が繰り返し行われると、弁体及び弁座に摩耗やクリープ等の塑性変形が生じて互いに馴染んだ形状となることで、弁体が弁座に着座した時のシール性が時間経過と共に向上する。しかし、可動コアが固定コアに吸引されて移動する時に、弁体を取り付けた可動コアが回転すると、弁体と弁座の互いに馴染んだ形状となった部位が相対的にずれるため、弁体が弁座に着座した時のシール性が維持できなくなる。
【0003】
これに対し、可動コアが固定コアに吸引されて移動する際に、その可動コアの移動を案内する筒状のコアガイド部に対して可動コアを径方向の片側に吸着させる技術が知られている(特許文献1、2参照)。
特許文献1では、可動コアを付勢するリターンスプリングの中心を可動コアの中心軸に対し偏心した位置に配置して、可動コアをコアガイド部の片側に押し付けることにより、可動コアの回転を防止する技術が開示されている。
特許文献2では、可動コアの外周にコアガイド部との間隙を大きくする間隙拡張部を形成する、あるいは、可動コアに取り付けられる衝撃吸収手段の取付け中心を可動コアの中心から偏心させることで、可動コアをコアガイド部の片側に吸着させて、可動コアの回転を防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−214225号公報
【特許文献2】特開2005−98340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の公知技術では、可動コアに対するリターンスプリングの付勢力の作用中心が可動コアの径方向中心からずれるため、弁体が弁座に着座した時のシール荷重に片寄りが発生し、弁洩れを生じる恐れがある。
また、特許文献2の公知技術では、可動コアの重心が径方向の中心からずれる、つまり、可動コアの重心が径方向の中心に無いため、例えば、車両に搭載される電磁弁では、その搭載方向や、車両の加減速、横G等の影響により、可動コアの回転を防止できない場合が生じる。
【0006】
本発明は、上記事情に基づいて成されたもので、その目的は、外部の要因(例えば、車両に搭載された時の搭載方向、車両の加減速、横G等の影響等)によらず、可動コアをコアガイド部の片側に吸着させて可動コアの回転を防止することで、閉弁時のシール性を良好に維持でき、弁洩れを防止できる電磁弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(請求項1に係る発明)
本発明は、内周に弁孔が開口する円環状の弁座と、弁座に着座して弁孔を閉じる閉弁位置と弁座から離座して弁孔を開く開弁位置との間で移動可能に設けられた弁体と、電磁石の磁力を利用して弁体を駆動するソノレイド部とを備え、ソレノイド部は、通電によって電磁石を形成するコイルと、このコイルの内周に磁気通路を形成する筒状のコアガイド部と、このコアガイド部の一端側に配置され、電磁石によって磁化される固定コアと、この固定コアに対向してコアガイド部の内部に収容され、電磁石のオン/オフに応じてコアガイド部の内部を往復動する可動コアとを有し、可動コアと一体に弁体が移動して弁孔を開閉する電磁弁であって、コアガイド部には、径方向に対向する一方側と他方側とで可動コアとの間に働く磁力の大きさが異なる磁気アンバランス部が形成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の電磁弁は、コイルの内周に磁気通路を形成する筒状のコアガイド部に磁気アンバランス部が形成されている。すなわち、コアガイド部の径方向に対向する一方側と他方側とで、可動コアとの間に働く磁力の大きさが異なる。従って、電磁石の働きにより可動コアが固定コアに吸着される時、つまり、可動コアがコアガイド部の内部を移動する際に、可動コアに対し磁力が大きく働くコアガイド部の片側(径方向に対向する一方側または他方側)に可動コアが吸着されるため、可動コアの回転を防止できる。これにより、可動コアと一体に移動する弁体は、弁孔を閉じる閉弁時に常に同じ位置で弁座に着座するため、弁体と弁座とが互いに馴染んだ形状となり、閉弁時のシール性が向上する。
また、可動コアがコアガイド部の内部を移動する際に、可動コアがコアガイド部の片側に吸着されることで、可動コアとコアガイド部との間に摺動抵抗が発生する。その結果、可動コアの移動速度が遅くなるため、可動コアが固定コアに吸着された時に生じる衝撃音を低減できる。
【0009】
(請求項2に係る発明)
請求項1に記載した電磁弁において、コアガイド部は、外周面に凹部を形成して薄肉化することにより、磁路面積を小さくした磁気飽和部が全周に設けられ、磁気飽和部の磁路面積がコアガイド部の径方向に対向する一方側と他方側とで異なることにより、磁気アンバランス部が形成されることを特徴とする。
上記の構成では、磁気飽和部の磁路面積が小さくなる程、磁気通路を形成するコアガイド部の磁気抵抗が大きくなるため、コアガイド部と可動コアとの間に働く磁力が大きくなる。例えば、コアガイド部の径方向に対向する一方側の磁路面積が他方側の磁路面積より小さく形成されると、コアガイド部と可動コアとの間に働く磁力が他方側より一方側の方で大きくなるため、コアガイド部の一方側に可動コアが吸着される。
【0010】
(請求項3に係る発明)
請求項2に記載した電磁弁において、磁気飽和部の外径中心がコアガイド部の径方向中心から偏心した位置に設けられていることを特徴とする。
磁気飽和部の外径中心とコアガイド部の径方向中心とが同心位置に設けられる場合は、コアガイド部の円周方向で磁気飽和部の磁路面積が均一に形成される。これに対し、磁気飽和部の外径中心をコアガイド部の径方向中心からずらして設けることにより、コアガイド部の径方向に対向する一方側と他方側とで磁気飽和部の磁路面積が異なる磁気アンバランス部を形成することができる。
【0011】
(請求項4に係る発明)
請求項2に記載した電磁弁において、コアガイド部は、磁気飽和部の外径中心がコアガイド部の外径中心と同心位置に設けられ、可動コアを収容する円筒内周面の内径中心とコアガイド部の外径中心とが偏心した位置に設けられていることを特徴とする。
コアガイド部の外径中心と円筒内周面の内径中心とが偏心した位置に設けられる、つまり、コアガイド部の外周面に対し円筒内周面を径方向の片側(一方側または他方側)にずらして形成することにより、コアガイド部の径方向に対向する一方側と他方側とで磁気飽和部の磁路面積が異なる磁気アンバランス部を形成することができる。
【0012】
(請求項5に係る発明)
請求項1に記載した電磁弁において、コアガイド部は、径方向の片側(一方側または他方側)のみにコアガイド部の周壁を貫通する貫通孔を形成することによって磁気アンバランス部を形成していることを特徴とする。
上記の構成では、磁気通路を形成するコアガイド部の周壁に貫通孔が形成されると、その分、磁気抵抗が大きくなるため、コアガイド部と可動コアとの間に働く磁力が大きくなる。例えば、コアガイド部の一方側のみ貫通孔を形成すると、他方側より一方側の方が磁気抵抗が大きくなるため、コアガイド部と可動コアとの間に働く磁力が大きい一方側に可動コアが吸着される。
【0013】
(請求項6に係る発明)
請求項1に記載した電磁弁において、コアガイド部は、径方向に対向する一方側と他方側とに、それぞれ、コアガイド部の周壁を貫通する貫通孔が形成され、且つ、一方側と他方側とで、それぞれ、貫通孔の数が異なることによって磁気アンバランス部を形成していることを特徴とする。
上記の構成では、コアガイド部の径方向に対向する一方側と他方側とで、それぞれ、コアガイド部の周壁を貫通する貫通孔の数が異なるため、一方側と他方側とで磁気抵抗の大きさが異なる。例えば、コアガイド部の一方側に形成される貫通孔の数の方が、他方側に形成される貫通孔の数より多い場合(但し、貫通孔の孔径は全て同一寸法とする)は、他方側より一方側の方が磁気抵抗が大きくなるため、コアガイド部と可動コアとの間に働く磁力が大きい一方側に可動コアが吸着される。
【0014】
(請求項7に係る発明)
請求項1に記載した電磁弁において、コアガイド部は、径方向に対向する一方側と他方側とに、それぞれ、コアガイド部の周壁を貫通する貫通孔が形成され、且つ、一方側と他方側とで、それぞれ、貫通孔の孔径を変化させることによって磁気アンバランス部を形成していることを特徴とする。
上記の構成では、コアガイド部の径方向に対向する一方側と他方側とで、それぞれ、コアガイド部の周壁を貫通する貫通孔の孔径を変化させることで、一方側と他方側とで磁気抵抗の大きさが変化する。例えば、コアガイド部の一方側に形成される貫通孔の孔径の方が、他方側に形成される貫通孔の孔径より大きい場合は、他方側より一方側の方が磁気抵抗が大きくなるため、コアガイド部と可動コアとの間に働く磁力が大きい一方側に可動コアが吸着される。
【0015】
(請求項8に係る発明)
請求項5〜7に記載した何れか一つの電磁弁において、コアガイド部は、外周面に凹部を形成して薄肉化することにより、磁路面積を小さくした磁気飽和部が全周に設けられ、この磁気飽和部に貫通孔が形成されていることを特徴とする。
コアガイド部に磁気飽和部を形成することにより、コアガイド部から固定コアに直接流れる磁束が低減して、その分、コアガイド部と可動コアとの間に働く磁力が大きくなるため、可動コアを吸引する磁力が増大する。この磁気飽和部に貫通孔を空けて磁気アンバランス部を形成することにより、可動コアに対し磁力が大きく作用するコアガイド部の片側(径方向に対向する一方側または他方側)に可動コアを吸着させることが出来る。
【0016】
(請求項9に係る発明)
請求項1〜8に記載した何れか一つの電磁弁において、可動コアの外周面には、コアガイド部の内周面に対し摺動する部分のみコーティング剤が塗布されていることを特徴とする。本発明の電磁弁は、電磁石の作用により可動コアが固定コアに吸引されてコアガイド部の内部を移動する際に、コアガイド部の片側(径方向に対向する一方側または他方側)に吸着されることで、可動コアの回転が防止される。この場合、コアガイド部の内周面に摺動する可動コアの外周面、つまり可動コアの摺動面は略一定である。言い換えると、可動コアの摺動面は、可動コアの周方向において略一定の範囲内である。従って、可動コアの全周にコーティング剤を塗布する必要はなく、可動コアの摺動面のみにコーティング剤を塗布すれば良いので、コーティング剤の使用量を少なくできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ソレノイド部の断面図である(実施例1)。
【図2】コアガイド部と可動コアとの間に働く磁気アンバランスを示すソレノイド部の断面図である。
【図3】(a)可動コアを除いたソレノイド部の断面図、(b)コアガイド部に形成される磁気飽和部の断面図である(実施例1)。
【図4】燃料蒸気処理システムの概略図である。
【図5】(a)可動コアを除いたソレノイド部の断面図、(b)コアガイド部に形成される磁気飽和部の断面図である(実施例2)。
【図6】(a)可動コアを除いたソレノイド部の断面図、(b)コアガイド部に形成される磁気飽和部の断面図である(実施例3)。
【図7】(a)可動コアを除いたソレノイド部の断面図、(b)コアガイド部に形成される磁気飽和部の断面図である(実施例4)。
【図8】可動コアの斜視図である(実施例5)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための最良の形態を以下の実施例により詳細に説明する。
【実施例】
【0019】
(実施例1)
本発明の電磁弁を車両の蒸発燃料処理システムに用いた実施例を説明する。
蒸発燃料処理システムは、車両に搭載される燃料タンク1の内部で気化した蒸発燃料(ベーパと呼ぶ)が大気中へ放出されることを防止するシステムであり、図4に示す様に、燃料タンク1から流出したベーパを一時的に吸着保持するキャニスタ2を備える。
キャニスタ2の内部には、ベーパを吸着する活性炭等の吸着剤が充填されている。
キャニスタ2には、ベーパ通路3によって燃料タンク1に接続されるベーパポート2a、パージ通路4によって内燃機関の吸気管5に接続されるパージポート2b、および、大気開放通路6を通じて大気に開放される大気ポート2cが設けられている。
【0020】
パージ通路4には、内燃機関の吸気負圧によってキャニスタ2から吸気管5へ吸入されるベーパ流量を調節するパージバルブ7が設けられている。このパージバルブ7には、本発明の電磁弁が適用される。なお、パージ通路4は、吸気管5の内部に設けられるスロットルバルブ8より吸気下流側(内燃機関側)に接続される。
大気開放通路6には、キャニスタ2の内部に流入する空気を濾過するためのフィルタ9と、キャニスタ2の大気ポート2cを必要に応じて閉塞する常開型のキャニスタ制御弁10とが設けられている。なお、フィルタ9は、パージバルブ7に内蔵することも可能であり、その場合、大気開放通路6に設置するフィルタ9を省略しても良い。
【0021】
次に、本発明に係るパージバルブ7の構成を図1に基づいて説明する。
パージバルブ7は、パージ通路4に接続される接続通路を形成するハウジング(図示せず)と、このハウジングの内部に収容される弁体11と、電磁石の磁力を利用して弁体11を駆動するソレノイド部12とを備える。
ハウジングは、パージバルブ7よりキャニスタ2側である上流側のパージ通路4に接続される流入ポートと、パージバルブ7より吸気管5側である下流側のパージ通路4に接続される流出ポートと、流入ポートと流出ポートとの間を連通する連通路とで上記の接続通路を形成し、連通路の途中に円環状の弁座13が設けられている。
弁体11は、例えば、ゴム系弾性体(フッ素ゴム、シリコンゴム等)によって形成され、弁座13の内周に開口する弁孔14を開閉可能に設けられている。つまり、弁体11が弁座13に着座して弁孔14を閉じることで、流入ポートと流出ポートとの連通が遮断され、弁体11が弁座13から離座して弁孔14を開くことで、流入ポートと流出ポートとの間が連通する。
【0022】
ソレノイド部12は、絶縁性を有するボビン(図示せず)に巻回されるコイル15と、このコイル15の周囲に磁気回路を形成する磁路形成部材(下述する)と、コイル15の軸心方向(図示上下方向)に可動する可動コア16と、この可動コア16を一方向に付勢するコイルスプリング17等より構成される。
コイル15は、図示しない駆動回路を介してエンジン制御ユニット(ECU)により通電制御され、励磁電流が供給されることによって電磁石を形成する。
磁路形成部材は、コイル15の外周に磁気通路を形成するヨーク18と、コイル15の内周に磁気通路を形成するコアガイド部19と、このコアガイド部19の軸方向一端側に配置される固定コア20とで構成される。
ヨーク18は、コイル15の全長(コイル15の軸心方向の長さ)に渡ってコイル15の外周を覆う外周ヨーク部と、コイル15の一端側の端面を覆う底面ヨーク部とを形成している。
【0023】
コアガイド部19は、可動コア16を内部に収容するガイド孔19a〔図3(a)参照〕が形成された円筒形状に設けられている。ガイド孔19aの内周面は、ガイド孔19aの長さ方向全体において内径が一定の円筒面である。また、コアガイド部19には、軸方向の反固定コア側にコアプレート19bが一体に設けられている。このコアプレート19bは、コアガイド部19の径方向外側へ延出してフランジ状に形成され、コイル15の他端側の端面を覆って、ヨーク18に繋がる磁気通路を形成している。このコアガイド部19には、下述する磁気飽和部21および磁気アンバランス部が形成されている。
固定コア20は、コイル15への通電により磁化されることで、可動コア16を軸方向に吸引する吸引部を形成している。この固定コア20は、図1に示す様に、コアガイド部19と一体に設けられるが、両者を別体に形成することも可能である。
【0024】
可動コア16は、コアガイド部19に形成されるガイド孔19aの内部に収容され、固定コア20に対向してガイド孔19aの内部を軸方向(図示上下方向)に可動する。この可動コア16は、内周にスプリング室16aを有する円筒状に形成され、軸方向の反固定コア側のみ端板16bによって閉塞され、この端板16bに前記弁体11が取り付けられている。可動コア16の外周面は、可動コア16の長さ方向全体において外径が一定の円筒面であり、且つ、ガイド孔19aの内部を軸方向に往復動できるように、ガイド孔19aの内径より若干小さい外径を有している。
コイルスプリング17は、可動コア16のスプリング室16aに収容され、可動コア16の軸心と同心に配置されている。このコイルスプリング17は、一端側の端部が固定コア20の端面に支持され、他端側の端部が可動コア16の端板16bに支持されて、可動コア16を反固定コア方向(図示上方向)へ付勢している。言い換えると、弁体11が弁座13に着座して弁孔14を閉じる閉弁方向へ付勢している。
【0025】
続いて、コアガイド部19に形成される磁気飽和部21および磁気アンバランス部について図3を基に説明する。なお、図3(a)は、可動コア16を除いたソレノイド部12の断面図、同図(b)は、図3(a)に示すA−A線で切断したコアガイド部19の断面図である。
コアガイド部19には、図3(a)に示す様に、固定コア20に近接する位置で外周面に凹部を形成して薄肉化することにより、磁路面積を小さくして磁気抵抗を高めた磁気飽和部21が全周に設けられている。コアガイド部19に磁気飽和部21を設けることにより、コアガイド部19から固定コア20に直接流れる磁束が低減して、その分、コアガイド部19と可動コア16との間に働く磁力が大きくなるため、固定コア20と可動コア16との間に働く吸引力が増大する。
【0026】
磁気アンバランス部は、コアガイド部19に形成された磁気飽和部21の磁路面積、すなわち、薄肉化された部分の断面積が、コアガイド部19の径方向に対向する一方側と他方側とで異なり、コアガイド部19と可動コア16との間に働く磁力の大きさが異なる様に形成される。具体的には、図3(b)に示す様に、コアガイド部19の外径中心Oa(=ガイド孔19aの内径中心)と、磁気飽和部21の外径中心Obとが偏心した位置に設けられ、磁気飽和部21の全体が、図3(a)に矢印で示す様に、コアガイド部19の径方向の他方側(図示右側)に片寄って形成される。この場合、磁気飽和部21の磁路面積がコアガイド部19の全周で一定ではなく、図示左側の方が図示右側より磁路面積が小さく形成される。
【0027】
これにより、コアガイド部19の径方向に対向する一方側と他方側とで、可動コア16との間に働く磁力の大きさが異なる。本実施例では、コアガイド部19の他方側と比較して、磁路面積が小さく形成される一方側の方が、コアガイド部19と可動コア16との間で磁力が大きく働くため、可動コア16は、ガイド孔19aの内部でコアガイド部19の一方側に吸着される。なお、上記のように、磁気飽和部21の全体がコアガイド部19の径方向の他方側に片寄って形成されるので、磁気飽和部21の磁路面積(薄肉化された部分の断面積)は、最も小さく形成される部分と最も大きく形成される部分との間で急激に変化することはなく、図3(b)に示す様に、コアガイド部19の周方向で緩やかに変化している。
【0028】
(実施例1の作用および効果)
本実施例のパージバルブ7は、ソレノイド部12に使用されるコアガイド部19に磁気アンバランス部が形成されている。すなわち、コアガイド部19の全周に形成された磁気飽和部21の磁路面積(薄肉化された部分の断面積)が、コアガイド部19の径方向に対向する一方側で小さく、他方側で大きく形成されている。その結果、コアガイド部19の他方側と比較して磁路面積が小さい一方側では、磁気飽和部21での磁気抵抗が大きくなるため、図2に矢印の太さで表している様に、コアガイド部19と可動コア16との間に働く磁力が他方側と比較して相対的に大きくなる。
【0029】
従って、コイル15への通電によって磁化された固定コア20に可動コア16が吸引される時、つまり、可動コア16がガイド孔19aの内部を軸方向に移動する際に、可動コア16に対し磁力が大きく働くコアガイド部19の径方向の一方側に可動コア16が吸着されて、可動コア16の回転が防止される。また、可動コア16に磁気アンバランス部を形成している訳ではないので、可動コア16の重心が径方向の中心からずれることもない。つまり、可動コア16の重心が径方向の中心に位置しているため、例えば、車両への搭載方向や、車両の加減速、横G等の影響により、可動コア16が回転することはない。
【0030】
これにより、可動コア16の端板16bに取り付けられた弁体11は、弁孔14を閉じる閉弁時に常に同じ位置で弁座13に着座するため、弁体11の開閉動作が繰り返し行われることで、弁体11と弁座13とが互いに馴染んだ形状となり、閉弁時のシール性が向上する。
また、可動コア16がガイド孔19aの内部を移動する際に、可動コア16がコアガイド部19の片側(径方向の一方側)に吸着されることで、可動コア16とコアガイド部19との間に摺動抵抗が発生するため、可動コア16の移動速度が遅くなる。その結果、可動コア16が固定コア20に吸着された時に生じる衝撃音を低減できる。
【0031】
(実施例2)
この実施例2は、図5に示す様に、コアガイド部19の外径中心Oaに対しガイド孔19aの内径中心Ocを偏心させて磁気アンバランス部を形成する一例である。
コアガイド部19に形成される磁気飽和部21は、コアガイド部19の外周面に形成される凹部の深さがコアガイド部19の全周で一定である。つまり、コアガイド部19の外径中心Oaと磁気飽和部21の外径中心Obとが一致している。
一方、コアガイド部19に穿設されるガイド孔19aは、図5(b)に示す様に、コアガイド部19の外径中心Oaに対し、ガイド孔19aの内径中心Ocが径方向の一方側(図示左側)に偏心した位置に形成される。つまり、ガイド孔19aの全体がコアガイド部19の径方向の一方側に片寄って形成される。
【0032】
これにより、コアガイド部19の全周に形成される磁気飽和部21の磁路面積(薄肉化された部分の断面積)は、コアガイド部19の径方向に対向する一方側で小さく、他方側で大きく形成される。その結果、実施例1と同様に、コアガイド部19の他方側と比較して磁路面積が小さい一方側では、磁気飽和部21での磁気抵抗が大きくなるため、コアガイド部19と可動コア16との間に働く磁力が他方側と比較して相対的に大きくなる。従って、可動コア16がガイド孔19aの内部を軸方向に移動する際に、可動コア16に対し磁力が大きく働くコアガイド部19の一方側に可動コア16が吸着されて、可動コア16の回転が防止される。これにより、実施例1と同様の効果(閉弁時のシール性向上、および、騒音低下)を得ることができる。
【0033】
(実施例3)
この実施例3は、図6に示す様に、コアガイド部19の周壁に貫通孔22を空けることで磁気アンバランス部を形成する一例である。
磁気飽和部21を形成するコアガイド部19の周壁に貫通孔22を空けると、その分、磁気飽和部21の磁路面積が更に減少して磁気抵抗が高くなる。そこで、図6(b)に示す様に、径方向に対向するコアガイド部19の一方側(図示左側)のみ複数個の貫通孔22を形成すると、磁気飽和部21の他方側と比較して、一方側の磁気抵抗が相対的に大きくなる。従って、可動コア16がガイド孔19aの内部を軸方向に移動する際に、可動コア16に対し磁力が大きく働くコアガイド部19の一方側に可動コア16が吸着されて、可動コア16の回転が防止される。貫通孔22は、例えば、レーザ照射、切削加工、ウォータジェット加工、プレス加工等によって形成できる。
なお、図6では、径方向に対向するコアガイド部19の一方側のみ複数個の貫通孔22を形成しているが、コアガイド部19の他方側にも貫通孔22を形成し、且つ、その他方側に形成される貫通孔22の数を一方側より少なくすることで磁気アンバランス部を形成することもできる。
【0034】
(実施例4)
この実施例4は、コアガイド部19の周壁に貫通孔22を空けることで磁気アンバランス部を形成する他の例である。
上記の実施例3では、径方向に対向するコアガイド部19の一方側のみ複数個の貫通孔22を空ける一例を記載したが、この実施例4は、図7に示す様に、径方向に対向する磁気飽和部21の一方側と他方側とにそれぞれ同数の貫通孔22を形成し、その貫通孔22の孔径を変化させることで磁気アンバランス部を形成している。図7に示す例では、磁気飽和部21の一方側(図示左側)に形成される貫通孔22の方が、他方側に形成される貫通孔22より孔径が大きく形成される。これにより、磁気飽和部21の一方側の方が他方側より磁気抵抗が相対的に大きくなるため、可動コア16がガイド孔19aの内部を軸方向に移動する際に、可動コア16に対し磁力が大きく働くコアガイド部19の一方側に可動コア16が吸着されて、可動コア16の回転が防止される。
【0035】
(実施例5)
この実施例5は、可動コア16が固定コア20に吸引されてガイド孔19aの内部を軸方向に移動する際に、コアガイド部19の片側に吸着される可動コア16の外周面にコーティング剤23を塗布する一例である。
実施例1〜4では、コアガイド部19の他方側と比較して、一方側の方が磁気抵抗が相対的に大きくなるため、コアガイド部19の一方側に可動コア16が吸着されて、可動コア16の回転が防止される。この場合、可動コア16がガイド孔19aの内部を移動する際に、ガイド孔19aの内周面に摺動する可動コア16の外周面、つまり摺動面は、略一定である。言い換えると、可動コア16の摺動面は、可動コア16の周方向において略一定の範囲内である。従って、図8に示す様に、コアガイド部19に吸着される可動コア16の摺動面のみにコーティング剤23を塗布すれば良く、可動コア16の全周にコーティング剤23を塗布する必要はないので、コーティング剤23の使用量を少なくできる。
【0036】
(変形例)
実施例1では、車両の蒸発燃料処理システムに使用されるパージバルブ7に本発明の電磁弁を適用したが、キャニスタ制御弁10に適用することもできる。また、車両の蒸発燃料処理システムに用いるだけでなく、例えば、内燃機関のバルブタイミング調整装置に使用される油圧制御弁、あるいは、車両の自動変速機に使用される油圧ソレノイド等にも適用可能である。
【符号の説明】
【0037】
7 パージバルブ(電磁弁)
11 弁体
12 ソノレイド部
13 弁座
14 弁孔
15 コイル
16 可動コア
19 コアガイド部
20 固定コア
21 磁気飽和部
22 貫通孔
23 コーティング剤
Oa コアガイド部の外径中心
Ob 磁気飽和部の外径中心
Oc ガイド孔の内径中心(コアガイド部の円筒内周面の径方向中心)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に弁孔が開口する円環状の弁座と、
前記弁座に着座して前記弁孔を閉じる閉弁位置と前記弁座から離座して前記弁孔を開く開弁位置との間で移動可能に設けられた弁体と、
電磁石の磁力を利用して前記弁体を駆動するソノレイド部とを備え、
前記ソレノイド部は、
通電によって電磁石を形成するコイルと、
このコイルの内周に磁気通路を形成する筒状のコアガイド部と、
このコアガイド部の一端側に配置され、前記電磁石によって磁化される固定コアと、
この固定コアに対向して前記コアガイド部の内部に収容され、前記電磁石のオン/オフに応じて前記コアガイド部の内部を往復動する可動コアとを有し、
前記可動コアと一体に前記弁体が移動して前記弁孔を開閉する電磁弁であって、
前記コアガイド部には、径方向に対向する一方側と他方側とで前記可動コアとの間に働く磁力の大きさが異なる磁気アンバランス部が形成されていることを特徴とする電磁弁。
【請求項2】
請求項1に記載した電磁弁において、
前記コアガイド部は、外周面に凹部を形成して薄肉化することにより、磁路面積を小さくした磁気飽和部が全周に設けられ、前記磁気飽和部の磁路面積が前記コアガイド部の径方向に対向する一方側と他方側とで異なることにより、前記磁気アンバランス部が形成されることを特徴とする電磁弁。
【請求項3】
請求項2に記載した電磁弁において、
前記磁気飽和部の外径中心が前記コアガイド部の径方向中心から偏心した位置に設けられていることを特徴とする電磁弁。
【請求項4】
請求項2に記載した電磁弁において、
前記コアガイド部は、前記磁気飽和部の外径中心が前記コアガイド部の外径中心と同心位置に設けられ、前記可動コアを収容する円筒内周面の内径中心と前記コアガイド部の外径中心とが偏心した位置に設けられていることを特徴とする電磁弁。
【請求項5】
請求項1に記載した電磁弁において、
前記コアガイド部は、径方向の片側(一方側または他方側)のみに前記コアガイド部の周壁を貫通する貫通孔を形成することによって前記磁気アンバランス部を形成していることを特徴とする電磁弁。
【請求項6】
請求項1に記載した電磁弁において、
前記コアガイド部は、径方向に対向する一方側と他方側とに、それぞれ、前記コアガイド部の周壁を貫通する貫通孔が形成され、且つ、前記一方側と他方側とで、それぞれ、前記貫通孔の数が異なることによって前記磁気アンバランス部を形成していることを特徴とする電磁弁。
【請求項7】
請求項1に記載した電磁弁において、
前記コアガイド部は、径方向に対向する一方側と他方側とに、それぞれ、前記コアガイド部の周壁を貫通する貫通孔が形成され、且つ、前記一方側と他方側とで、それぞれ、前記貫通孔の孔径を変化させることによって前記磁気アンバランス部を形成していることを特徴とする電磁弁。
【請求項8】
請求項5〜7に記載した何れか一つの電磁弁において、
前記コアガイド部は、外周面に凹部を形成して薄肉化することにより、磁路面積を小さくした磁気飽和部が全周に設けられ、この磁気飽和部に前記貫通孔が形成されていることを特徴とする電磁弁。
【請求項9】
請求項1〜8に記載した何れか一つの電磁弁において、
前記可動コアの外周面には、前記コアガイド部の内周面に対し摺動する部分のみコーティング剤が塗布されていることを特徴とする電磁弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−163130(P2012−163130A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22509(P2011−22509)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】