説明

電磁弁

【課題】プランジャに作用する偏荷重の発生を抑制する電磁弁を提供する。
【解決手段】電磁弁10はボディ12、コア13、プランジャ14、コイル21等を有する。プランジャ14のスプール側端面から反スプール側端面に至るまで軸心方向に流体通路としての貫通孔17が形成されている。貫通孔17の対向位置にコア13からプランジャ14に磁束が流れ込む範囲に該貫通孔17に並行位置に止まり孔18を設け、貫通孔17に作用する電磁力と止まり孔18に作用する電磁力とがバランスを保つようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電磁弁に関し、さらに詳細には吸引力特性を向上させる電磁弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電磁弁装置2(特許文献1の図3に記載する符号を示す。以下、同じ)は円筒壁に複数の流体流路32〜35を有するハウジング31と、該ハウジング31内を往復移動することにより前記流体流路32〜35を切り換えるスプール30を有し、該スプール30の軸方向に直列に配設されたプランジャ60と、該プランジャ60を保持する円筒形状の固定鉄心であるステ−タコア50、電磁力を付与するコイル21及び樹脂成形体22を有している。前記プランジャ60には、スプール側端面から反スプール側端面に至るまで軸心方向に偏心して貫通孔61が形成されている。この貫通孔61は、プランジャ60の移動に伴い作動油が移動するのに十分な通路断面積を確保するための呼吸通路としての機能を有する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
さらに、電磁弁10(特許文献2の図1に記載する符号を示す。以下、同じ)のケース12には、プランジャ18を軸心方向に往復動自在に収容するヨーク14と、プランジャ18をスプール側に吸引する磁力を発生するコア15と、フランジ部19と、を備え一体成形されている。プランジャ18はヨーク14の内壁面に摺動自在に支持されている。
プランジャ18のスプール側端面から反スプール側端面に至るまで軸心方向に流体通路としての貫通孔20が形成され、該貫通孔20はその孔径をスプール端面側に孔20aに形成し、反スプール端面側を孔20bに形成し、孔20aの孔径が孔20bより小さくなっている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−243057号公報
【特許文献2】特開2007−032783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、特許文献2に記載されている電磁弁装置1,電磁弁10において、コイルに通電されて電磁力が発生した際、プランジャ60、18は磁束の通り道となる。この場合、呼吸油路の機能を有する貫通孔61、貫通孔20の孔部の近傍はプランジャ60、18の体積が減少しているため、磁束が通りにくくなって径方向の電磁力が減少し、プランジャ60、18の中心軸に対する電磁力のバランスが崩れ、該プランジャ60、18の作動時に偏荷重が発生しプランジャ60、18の作動抵抗が増加するという問題があった。
【0006】
このため、従来、例えばプランジャ60、18の中心軸に対し対称に一対の貫通孔を設けて該プランジャ60、18の作動による作動抵抗の増加を回避しており、呼吸油路としての機能以上に貫通孔を設ける必要があった。
しかしながら、プランジャ60、18に一対の貫通孔の孔加工の深さは径の10倍程度となるため孔加工が困難でコストアップの原因となっていた。
【0007】
本発明は、偏心してプランジャを貫通する呼吸油路の機能を有する貫通孔に対称位置に該貫通孔に平行して止まり孔を設けることにより、プランジャに作用する偏荷重の発生を抑制する電磁弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、円筒壁に複数の流体流路を有するスリーブと、
ボディを介して前記スリーブに一体的に係合する固定鉄心と、
前記スリーブ内を往復動することにより前記流体流路を切り換えるスプールと、
前記スプールの軸心方向に直列に配置され前記ボディに摺動自在に嵌挿されたプランジャと、
前記プランジャを支持する円筒形状のコア及び電磁力を付与するコイルを保持するケースと、
を備えた電磁弁において、
前記プランジャの軸心に偏心して前記スプール側端面及び反スプール側面を貫通するように設けられた貫通孔と、
前記プランジャの前記スリーブ側に前記貫通孔に平行して設けられた磁束バランス孔と、
を設け、
前記プランジャの作動による偏荷重の発生を抑制することを特徴とする。
本発明によれば、呼吸油路の貫通孔を設けたプランジャに該貫通孔に対称位置に平行して磁束バランス孔を設けることによりプランジャに偏荷重の発生を抑制することができて、電磁力に影響を与えずプランジャの動きを良好にし、応答性を向上させることができる。
【0009】
請求項2記載の発明では、前記磁束バランス孔は孔の深さをコアからプランジャに磁束が流れ込む範囲に限定すると、該磁束バランス孔の孔加工時間を短縮し、かつプランジャに作用する電磁力の偏荷重の発生を抑制することができるので、好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、呼吸油路の貫通孔を設けたプランジャに該貫通孔に対称位置に平行して磁束バランス孔を設けることによりプランジャに偏荷重の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発の実施の形態に係る電磁弁の概略縦断面図である。
【図2】プランジャに1本の貫通孔を設けた場合の概略縦断面図である。
【図3】プランジャに作用する電磁力の大きさを示す模写図である。
【図4】図1のプランジャ、ロッド、スペーサとの係合状態を示す縦断面図である。
【図5】図4の右側面図である。
【図6】プランジャに2本の貫通孔を設けた場合の他の変形例の概略図で、(A)は正面図を示し、(B)は(A)のVII−VII線の断面図を示し、(C)は(A)のVIII−VIII線の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態に係る電磁弁について図面により詳細に説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る電磁弁10の概略構造を示す縦断面図である。
図1に示すように、電磁弁10はボディ12、コア13、プランジャ14、コイル21等を有する。この場合、ボディ12、コア13、プランジャ14は、磁性体材料で形成されている。なお、ソレノイド11は、ボディ12、コア13、プランジャ14、コイル21等より形成されている。
ボディ12はプランジャ14を軸心方向に摺動自在に収容しており、プランジャ14に嵌着したロッド15はコア13に装着された軸受機構16に移動自在に支持され、その先端部(図1で右端)をスプール31のシャフト40に当接させている。
【0013】
なお、ボディ12、コア13は筒状の周壁面を有しこの順序で反スプール側(図1でスプール31の左側)からスプール側(図1でスプール31の右側)に向かって同軸上の位置にあってコイル21を包含する樹脂成形体22の内周面に嵌挿されている。
コイル21と電気的に接続している図示しない端子から該コイル21に電流が供給されると、ボディ12、コア13、プランジャ14によって形成される磁気回路に磁束が流れ、コア13とプランジャ14との間に磁気吸引力が発生する。これにより、プランジャ14及びスプール31は矢印X方向に変位する。
【0014】
プランジャ14には図1でスプール31の左側に至るまで軸心方向に流体通路としての貫通孔(油路)17が該プランジャ14の軸心より偏心して形成されている。
さらに、プランジャ14のスプール側端面には貫通孔17の対向位置に該貫通孔17と同方向に止まり孔(磁束バランス孔)18を穿設している。この止まり孔18はコア13とプランジャ14間に作用する電磁力を対称に磁束バランスを保つ機能を備える。
すなわち、プランジャ14に貫通孔17のみが設けられている場合に該プランジャ14に作用する荷重は図2及び図3に示めすように、貫通孔17による電磁力Faの大きさは止まり孔18(図1参照)が設けられていない位置に発生する電磁力Fbより小さく、磁束バランスが保たれない。
なお、符号Fc及びFdは貫通孔17及び止まり孔18に対して直交するプランジャ14に作用する電磁力、すなわちプランジャ14に貫通孔17、止まり孔18が穿設されていない方向に作用する電磁力を示し、これらの電磁力Fc及びFdの大きさは略同じである。
しかし、プランジャ14に貫通孔17及び止まり孔18を設けることにより、貫通孔17に作用する電磁力Faと止まり孔18に作用する電磁力Fbとがバランスを保つようになっている。また、止まり孔18は孔の深さをコア13からプランジャ14に磁束が流れ込む範囲に限定することで、止まり孔18の孔加工時間を短縮し、かつプランジャ14に作用する電磁力の偏荷重の発生を抑制する。
【0015】
参照符号23は、プランジャ14の右端面に設けられたステンレス性の薄型円盤状のスペーサであって、磁力によりプランジャ14がコア13に接触した際に乖離が容易なように機能する。
スペーサ23は、図4及び図5に示めすようにプランジャ14の右側面に接触するようにロッド15に嵌合して溶接、かしめ加工により該ロッド15に固定しており、貫通孔17及び止まり孔18が臨設する部位は円周方向に切欠いて、該貫通孔17及び該止まり孔18が開口されている。
【0016】
スリーブ30は、円筒状であってスプール31を往復動自在に嵌挿している。スリーブ30には、スリーブ孔31a,31bに直交して入力ポート(流体流路)32、出力ポート(流体流路)33、フィードバックポート(流体流路)34及びドレーンポート(流体流路)35が形成されている。
入力ポート32は、図示しないタンクからポンプによって供給される圧力流体が流入する機能を有する。出力ポート33は、図示しない自動変速機等の作動装置に圧力流体を供給するポートである。出力ポート33及びフィードバッグポート34は電磁弁10の外部
(図示しない)で連通しており、該出力ポート33から流出する圧力流体の一部がフィードバッグポート34に流入する。フィードバッグ室36はフィードバッグポート34と連通している。ドレーンポート35は、図示しないタンクに圧力流体を排出する機能を有する。
【0017】
スプール31には、反プランジャ側からランド37,38,39がこの順序で形成されている。ここで、ランド39は外径がランド37,38よりも小さい。スプール31の両端部には、ランド37〜39の外径よりも小さく小径のシャフト40及び41が形成されている。前記シャフト40はコア13のロッド15側に突出し、先端部がプランジャ18の端面中心部に当接している。一方、シャフト41は、スリーブ31の空間部42に突出している。
【0018】
シャフト41に巻装され空間部42に収納されたばね部材43は、スリーブ30の端面に螺着されたアジャスタ44の締め込み量により調整される弾発力によりスプール31をプランジャ側へ付勢している。これにより、スプール31は、プランジャ14により矢印X方向に付勢され、ばね部材43の弾発力によりプランジャ14と共に矢印X方向に付勢されることにより、該プランジャ14と協動してスリーブ30内を矢印X方向及びY方向に変位する。
フィードバッグ室36はランド38とランド39との間に形成されており、該ランド38と39との外径差によりフィードバッグされた圧力流体が作用する受圧面積が異なる。よって、フィードバッグ室36の流体は矢印Y方向(反ソレノイド方向)にスプール31を押圧するように作用する。この場合、電磁弁10において出力される流体の一部をフィードバッグするのは、供給される流体の圧力、すなわち入力圧の変動により出力圧が変動することを防止するためである。
【0019】
スプール31は、ばね部材43の弾発力と、コイル21に供給される電流によりコア13に発生する電磁力によってプランジャ14がスプール31を押す力と、フィードバック室36の流体からのスプール31が受ける力とが釣り合う位置で静止する。
入力ポート32から出力ポート33に流入する圧力流体の流量は、スリーブ30の内周壁31aとランド38の外周壁との重合部分のシール長によって決定される。すなわち、シール長が短くなると入力ポート32から出力ポート33へ流れる流体の流量が増大し、シール長が長くなると入力ポート32から出力ポート33へ流れる流体の流量が減少する。同様に、出力ポート33からドレーンポート35へ流れる流体の流量は、スリーブ30の内周壁31bとランド37の外周壁とのシール長によって決定される。
【0020】
コイル21に電流が印加されると、該コイル21の励磁力によりスプール31が矢印X
方向に変位して、内周壁31bとランド37とのシール長が短くなり、内周壁31aとランド38とのシール長が長くなる。これにより、入力ポート32から出力ポート33へ流れる圧力流体の流量が減少する。よって、出力ポート33から流出する圧力流体の圧力が下降する。
電磁弁10は、コイル21に通電する電流値を制御することでソレノイド11がスプール31を反ソレノイド11の方向に押圧力を調整し、出力ポート33から流出する流体の油圧を調整する。コイル21に通電する電流値を増大させると、電流値に比例してコア13の電磁力が増大し、シャフト40がスプール31を反ソレノイド方向(矢印Y方向)に押す力が増大する。この電磁力によりプランジャ14からスプール31に作用する力、ばね部材40の弾発力、フィードバッグされる流体の圧力によってスプール31が反ソレノド方向(矢印Y方向)へ押される力が釣り合う位置でスプール31は停止する。したがって、コイル21に通電する電流値に比例して出力ポート33ら流出する圧力流体の油圧が低下する。
【0021】
図1に示す電磁弁10において、プランジャ14はスプール側端面から反スプール側端面に貫通している貫通孔17と、止まり孔18が形成されている。この止まり孔18はコア13とプランジャ14間に作用する電磁力を対称に磁束バランスを保つように設けられている。これにより、止まり孔18の孔加工時間を短縮し、かつプランジャ14に作用する電磁力の偏荷重の発生を抑制することができる。
【0022】
図6はプランジャ14に2本の貫通孔を設けた場合の他の変形例の概略図を示す。この図6では、プランジャ14に設けた複数、例えば2本の貫通孔17に対して、2本の止まり孔18を設けて該プランジャ14に作用する電磁力の偏荷重のバランスをとっている。
【符号の説明】
【0023】
10 電磁弁 11 ソレノイド
12 ボディ 13 コア
14 プランジャ 15 ロッド
16 軸受機構 17 貫通孔
18 止まり孔 21 コイル
22 樹脂成形体 23 スペーサ
30 スリーブ 31 スプール
32 入力ポート 33 出力ポート
34 フィードバックポート 35 ドレーンポート
36 フィードバック室 37〜39 ランド
40、41 シャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒壁に複数の流体流路を有するスリーブと、
ボディを介して前記スリーブに一体的に係合する固定鉄心と、
前記スリーブ内を往復動することにより前記流体流路を切り換えるスプールと、
前記スプールの軸心方向に直列に配置され前記ボディに摺動自在に嵌挿されたプランジャと、
前記プランジャを支持する円筒形状のコア及び電磁力を付与するコイルを保持するケースと、
を備えた電磁弁において、
前記プランジャの軸心に偏心して前記スプール側端面及び反スプール側面を貫通するように設けられた貫通孔と、
前記プランジャの前記スリーブ側に前記貫通孔に平行して設けられた磁束バランス孔と、
を設け、
前記プランジャの作動による偏荷重の発生を抑制することを特徴とする電磁弁。
【請求項2】
請求項1記載の電磁弁において、前記止まり孔は孔の深さをコアからプランジャに磁束が流れ込む範囲に限定することを特徴とする電磁弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−229738(P2012−229738A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97974(P2011−97974)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000005197)株式会社不二越 (625)
【Fターム(参考)】