説明

電磁弁

【課題】 電磁駆動部等の体格を小型に維持しつつ、適用可能な流体圧力限界を向上する電磁弁を提供する。
【解決手段】 電磁弁1は、電磁駆動部3の通電時に、可動コア40が固定コア35に吸引され、シャフト50に一体に接続された弁体60がバルブシート部26に当接することで、区画室11と圧力室12とを連通する弁孔24を閉塞する。固定コア35と可動コア40との間の作動室13は、可動コア40の移動に伴って容積が変化する。シャフト50は、軸方向に貫通し作動室13と圧力室12とを連通する貫通孔52を有している。これにより、圧力室12と作動室13との流体圧力が同等となる(圧力キャンセル効果)。その結果、圧力室12の流体圧力によって弁体60が受ける受圧力と、作動室13の流体圧力によってダイヤフラム70が受ける受圧力とが互いに反対方向に作用し、弁体60に作用する受圧力が相対的に減少する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の通路を開閉可能な電磁弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、弁体に対し、電磁駆動部の電磁吸引力と付勢部材(スプリング等)の付勢力とを互いに反対方向に作用させ、電磁駆動部への通電をオンオフすることにより流体の通路を開閉する電磁弁が知られている。
例えば特許文献1に記載の電磁弁は、車両の燃料タンクから流出した蒸発燃料が大気中に放出されるのを防止する蒸発燃料処理装置において、キャニスタの大気開放通路の途中に設けられる。この電磁弁は、ノーマリーオープン式であり、蒸発燃料のリークチェック時に電磁駆動部に通電すると、可動コアが固定コアに吸引され、可動コアに連結された弁体がハウジングの弁座に当接し、キャニスタ側の通路と大気側の通路とを遮断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−235866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような電磁弁では、固定コアと可動コアとの間に形成される作動室の容積が可動コアの往復移動に伴って変化する。特許文献1に記載の電磁弁では、この容積変化に伴い、作動室内部の空気がオリフィスを通って外部と流通することで作動室の内圧の変化が調整される。ここで、オリフィスの流路抵抗は、弁体の作動応答性に影響する。すなわち、オリフィスの流路抵抗が大きいほど容積変化に対する追従が遅れることとなる。
また、ある限界圧(負圧の場合は絶対値)を超える流体圧力が弁体を弁座に対して当接(正圧の場合)または離間(負圧の場合)させるように作用した場合、弁体に作用する受圧力が許容範囲を超え、弁体の開閉作動が不能となる事態が発生し得る。
【0005】
もっとも、特許文献1に記載の実施形態のように、電磁弁がリークチェック時の通路開閉にのみ用いられる場合には、限界圧を超えるような流体圧力が弁体に作用する状況は想定し難く、実用上の問題は無い。
ところが、例えばこの電磁弁を、吸気管からの吸気負圧が弁体に作用するような環境で適用すると仮定する。具体的には、電磁弁をキャニスタと燃料タンクとの間に設け、蒸発燃料処理装置のパージ弁を開いたとき、吸気負圧がキャニスタを経由して燃料タンクまで到達しないように、電磁弁によって通路を遮断するという用途を想定する。
【0006】
このような場合には、負の流体圧力が弁体を弁座から離間させるように作用するため、電磁駆動部の電磁吸引力がこれを上回らない限り、「閉弁させることができない」、或いは「閉弁状態を維持することができない」状況が起こり得ると考えられる。これに対応するためには、電磁駆動部を大型化し電磁吸引力を大きくせざるを得ないという問題がある。
一方、弁体に正の流体圧力が作用する場合には、電磁駆動部への通電を停止したときの開弁作動が制限される。そこで、開弁機能を確保するために付勢部材の付勢力を大きくすることとなり、それに応じて、やはり電磁駆動部を大型化し電磁吸引力を大きくせざるを得ないという問題がある。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、電磁駆動部等の体格を小型に維持しつつ、適用可能な流体圧力限界を向上する電磁弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の電磁弁は、電磁駆動部、付勢部材、シャフト、ハウジング、弁体およびダイヤフラムを備える。
電磁駆動部は、固定コア、及び、通電時に電磁吸引力によって固定コアに吸引され軸方向に移動可能な可動コアを有する。ここで、固定コアと可動コアとの間に形成される作動室の容積は、可動コアの移動に伴って変化する。
付勢部材は、可動コアを電磁吸引力による吸引方向と反対方向に付勢する。
シャフトは、可動コアの固定コアと反対側に接続される。
【0009】
ハウジングは、区画壁が形成される。区画壁は、シャフトの可動コアと反対側の端部が位置し流体の圧力が作用する圧力室と、圧力室の電磁駆動部側に形成される区画室とを区画する。また、区画壁は、圧力室と区画室とを連通する弁孔を有する。
ここで、流体とは、空気等の気体でもよく、水等の液体でもよい。また、圧力室に作用する流体圧力は、大気圧に対し負圧である場合、正圧である場合、又は大気圧と同等である場合を含む。
【0010】
弁体は、シャフトの可動コアと反対側の端部の径外方向に固定され、シャフトの往復移動に伴って弁孔を開放または閉塞する。
ダイヤフラムは、可動コアと一体に移動可能な中央部、ハウジングに対する相対位置が固定された外縁部、及び、中央部と外縁部との径方向の間に設けられる弾性変形可能な撓み部を有し、前記作動室と前記区画室との間をシールする。
ここで「シールする」とは、流体が気体の場合には「気密を確保する」ことをいい、流体が液体の場合には「液密を確保する」ことをいう。
【0011】
そして、シャフトは、軸方向の一方の端部から他方の端部に貫通し作動室と圧力室とを連通する貫通孔を有していることを特徴とする。
これにより、圧力室および作動室が貫通孔を経由して連通し、圧力室と作動室との流体圧力が同等となる。これを「圧力キャンセル効果」という。
その結果、圧力室の流体圧力によって弁体が受ける受圧力と、作動室の流体圧力によってダイヤフラムが受ける受圧力とが互いに反対方向に作用する。したがって、従来技術のように、シャフトに貫通孔を有しない構成に比べ、弁体に作用する受圧力が相対的に減少する。
よって、電磁駆動部等の体格を小型に維持しつつ、言い換えれば大型化することなく、電磁弁が適用可能な流体圧力限界を向上させることができる。
【0012】
ここで、ダイヤフラムの受圧面積と弁体の受圧面積とを等しくすれば、圧力室と作動室との流体圧力が均衡したとき、受圧面積と圧力との積である受圧力は、ダイヤフラムおよび弁体について等しくなる。すなわち、圧力室と作動室との圧力差を減少することで、弁体に作用する受圧力を相対的に減少することができる。
【0013】
また、電磁弁は、ノーマリーオープン式でもよく、ノーマリークローズ式でもよい。
ノーマリーオープン式の場合、弁体は、シャフトが弁孔を挿通することにより区画壁の圧力室側に設けられ弁孔を開閉する。電磁駆動部の非通電時には、弁体は弁孔を開放し、電磁駆動部の通電時には、弁体は弁孔を閉塞する。
ノーマリークローズ式の場合、弁体は、区画壁の区画室側に設けられ弁孔を開閉する。弁体の反電磁駆動部側の面は、弁孔を通して圧力室に露出する。電磁駆動部の非通電時には、弁体は弁孔を閉塞し、電磁駆動部の通電時には、弁体は弁孔を開放する。
【0014】
本発明による電磁弁を蒸発燃料装置に適用する場合、具体的には、圧力室を蒸発燃料処理装置のキャニスタ側に接続し、区画室を燃料タンク側に接続する。本発明による電磁弁は、比較的大きな吸気負圧が弁体に作用する状況でも弁の開閉が可能であり、パージ弁を開弁したとき圧力室と区画室との間の弁孔を閉塞することにより、パージ時の吸気負圧がキャニスタを経由して燃料タンクまで到達することを防止する。
例えばノーマリーオープン式の電磁弁では、パージ時以外は、電磁駆動部に通電せず付勢部材によって開弁状態を維持し、パージ時に電磁駆動部に通電して閉弁させればよい。
【0015】
請求項2に記載の発明によると、シャフトの貫通孔を経由し圧力室と作動室とを連通する経路中に、貫通孔を通過する流体の流量を制限する絞り部が形成される。
これにより、閉弁および開弁時の可動部の移動速度を適度に減速し、ストッパ部となる部位での衝突音を低減することができる。
ところで、貫通孔を通過する流体の流量を絞り部によって制限し過ぎると、せっかく貫通孔を設け圧力室と作動室の流体圧力を同じにすることによって圧力キャンセル効果を得ることができる構造であっても、圧力室内と作動室内との流体圧力が同じになるまでに時間がかかる。そのため、圧力室の圧力変化への追従が遅くなり応答性が極端に悪くなる又は圧力変化の激しい環境で作動できなくなるおそれがある。したがって、絞り部の開口面積や流路長等の仕様は、貫通孔による圧力キャンセル効果と絞り部の流路抵抗による衝突音低減効果とを両立するように設定されることが望ましい。
【0016】
請求項3に記載の発明によると、貫通孔から侵入する異物を捕捉しつつ絞り部として機能するフィルタを備える。
流体に異物が混入しうる状況で電磁弁が使用される場合、圧力室から作動室に至る流体経路の途中にフィルタが備えられることが望ましい。そこで、このフィルタに、本来の異物除去機能に加え、「絞り部」として衝突音低減機能を持たせることで、「絞り部」を簡便かつ効率的に構成することができる。
なお、フィルタは、メッシュフィルタ、不織布、濾紙等のいずれでもよい。
【0017】
請求項4に記載の発明によると、可動コアは、付勢部材を収容し且つ貫通孔に連通する付勢部材収容凹部が形成されている。また、フィルタは、付勢部材収容凹部の底面と付勢部材との間に狭持される。
これにより、付勢部材収容凹部に収容された付勢部材が、同時に、付勢部材収容凹部の底面との間にフィルタを狭持する機能を兼ねる。したがって、フィルタを固定するための専用の構成が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態による電磁弁の断面図である。
【図2】本発明の一実施形態による電磁弁が適用される蒸発燃料処理装置の概略構成図である。
【図3】図1の電磁弁の(a)非通電時(開弁時)、(b)通電時(閉弁時)の要部断面図である。
【図4】図1の電磁弁による圧力キャンセル効果を説明する模式図である。
【図5】比較例の電磁弁の(a)非通電時(開弁時)、(b)通電時(閉弁時)の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
(一実施形態)
本発明の一実施形態による電磁弁を用いた蒸発燃料処理装置を図2に示す。蒸発燃料処理装置は、車両等の燃料タンク内から流出した蒸発燃料が大気中へ放出されることを防止する装置である。
【0020】
図2に示すように、電磁弁1は、燃料タンク91とキャニスタ92とを接続する配管94の途中に設けられる。キャニスタ92には蒸発燃料を吸着する吸着材921が収容されている。キャニスタ92は、また、配管95によって吸気管93と接続される。配管95の途中にはパージ弁97が設けられる。キャニスタ92は、また、配管99によってフィルタ96と接続される。配管96の途中には大気開放弁98が設けられ、大気開放弁98が開弁すると、キャニスタ92はフィルタ99を経由して大気開放される。
【0021】
この蒸発燃料処理装置では、パージ弁97および大気開放弁98を開弁すると、キャニスタ92に吸着された蒸発燃料がスロットル弁931の下流に発生する吸気負圧によって吸気管93内に排出(パージ)される。これにより、キャニスタ92に吸着された蒸発燃料が大気中へ放出されることが防止される。
【0022】
ここで、キャニスタ92から蒸発燃料がパージされるとき、キャニスタ92と燃料タンク91とが連通していると、吸気管93からの吸気負圧が燃料タンク91に伝わり、燃料タンク91内の蒸発燃料までも吸引され燃料タンク内が負圧になる。この場合に液体燃料の蒸発を促進してしまい余計に燃料蒸気を発生させてしまうだけでなく、燃料タンクが変形してしまうおそれがある。そこで、パージ弁97が開弁するときに電磁弁1を閉弁することにより、燃料タンク91内の蒸発燃料が吸気管93に吸引されることを防止する。
【0023】
次に、本実施形態による電磁弁1の構成を図1に基づいて説明する。電磁弁1は、ノーマリーオープン式の弁であり、外郭をなすハウジング21およびカバー22に、電磁駆動部3、シャフト50、弁体60、ダイヤフラム70等が組み付けられて構成されている。
以下の電磁弁1の説明では、便宜上、図1の上側を「上」、図1の下側を「下」として説明する。ただし、電磁弁1の現実の搭載姿勢はこれに限らない。
【0024】
ハウジング21は、樹脂により筒状に形成されており、内部に圧力室12および区画室11を有する。圧力室12は、ハウジング21の下端側に開口する。区画室11は、ハウジング21に一体に形成された区画壁23によって、圧力室12の電磁駆動部3側に区画されている。また、区画室11は、ハウジング21の側壁に形成された連通路111を経由してハウジング21の外部と連通している。
【0025】
区画壁23の中央部には、圧力室12と区画室11とを連通する弁孔24が形成されている。弁孔24の周囲の圧力室12側には、閉弁時に弁体60が当接する環状のバルブシート部26が形成されている。また、弁孔24の周縁部の区画室11側には、開弁時にリテーナ62の中間突起部64が当接するストッパ部25が形成されている。
【0026】
電磁弁1が配管94の途中に設置されたとき、圧力室12はキャニスタ92に連通し、区画室11は連通路111を経由して燃料タンク91と連通する(図2参照)。そのため、パージ弁97が開弁されると、吸気管93からの吸気負圧がキャニスタ92を経由して圧力室12に作用する。
【0027】
ハウジング21の側壁に形成されたリング溝221、222には、電磁弁1が組み付けられる相手部材(図示しない)との間の気密を確保するためのシール部材であるOリング271、272が装着されている。
カバー22は、ハウジング21の圧力室12と反対側の端部(上端部)を覆う。カバー22には、ソレノイドコイル34と車載電源(バッテリー)とを電気的に接続するためのターミナル39をインサート成形したコネクタ部29が一体に形成されている。
【0028】
電磁駆動部3は、通電によって磁気吸引力を発生する電磁式アクチュエータであって、ヨーク31、ヨーク32、コイルボビン33、ソレノイドコイル34、磁性プレート36、固定コア35および可動コア40等から構成されている。
ヨーク31は、鉄等の磁性材料で筒状に形成され、ソレノイドコイル34の径外側にハウジング21の内壁に沿って設けられる。ヨーク32は、鉄等の磁性材料で形成され、ソレノイドコイル34のカバー22側の端部に設けられる。
【0029】
コイルボビン33は、樹脂で筒状に形成され、固定コア35の径外側に設けられる。ソレノイドコイル34は、コイルボビン33の径外側に巻回される。ソレノイドコイル34が巻回されたコイルボビン33は、さらに樹脂モールド部材39によって一体にモールドされる。ソレノイドコイル34は、通電により起磁力を発生する。
【0030】
磁性プレート36は、ソレノイドコイル34のヨーク32と反対側の端部に設けられ、ヨーク31、ヨーク32と共に磁気回路の一部を構成する。また、磁性プレート36は、環状本体から上方に突出する筒部361が形成される。筒部361の内壁362は、可動コア40を軸方向に摺動可能に支持する。
【0031】
固定コア35は、中心軸O上に設けられ、上端部がヨーク32に固定される。固定コア35は、ソレノイドコイル34に発生した起磁力により可動コア40を吸引する。
可動コア40は、中心軸O上の固定コア35の下方に設けられ、外壁が磁性プレート36の筒部361の内壁362に摺動可能に支持される。可動コア40の上端部は、固定コア35の凹テーパ状の吸引部に対向した凸テーパ状となっており、可動コア40が固定コア35に吸引されるとき、同軸度を確保しつつ吸引される。
【0032】
可動コア40の上端部には、「付勢部材収容室」としてのスプリング収容凹部41が形成される。スプリング収容凹部41には、リターンスプリング37およびフィルタ45が収容される。
「付勢部材」としてのリターンスプリング37は、固定コア35と可動コア40との間に設けられ、固定コア35と可動コア40とを互いに離間させるように付勢する。これにより、ソレノイドコイル34への非通電時、可動コア40は、リターンスプリング37の付勢力によって下方に付勢される。
【0033】
すなわち、可動コア40は、ソレノイドコイル34の通電時には磁気吸引力により上方へ移動し、ソレノイドコイル34の非通電時にはリターンスプリング37の付勢力により下方へ移動する。この可動コア40の往復移動に伴って、固定コア35と可動コア40との間の作動室13の容積が変化する。
【0034】
フィルタ45は、スプリング収容凹部41の底面とリターンスプリング37との間に挟持される。本実施形態では、フィルタ45は、環状の枠の内側に一体に形成されたメッシュフィルタである。フィルタ45は、作動室13への異物の侵入を防止するとともに、後述するように、閉弁時又は開弁時の衝突音の低減を目的として、メッシュの開口面積が調整されている。すなわち、フィルタ45は、特許請求の範囲に記載の「絞り部」として機能する。なお、その他の実施形態では、フィルタは、メッシュフィルタの他、不織布、濾紙等であってもよい。
【0035】
一方、可動コア40の下端部は、シャフト50が圧入等により挿入される嵌合孔44が形成されている。スプリング収容凹部41と嵌合孔44とは、嵌合孔44より小径の連通孔43を経由して連通している。
シャフト50は、弁孔24を通り、区画室11と圧力室12とに跨って設けられる。シャフト50の可動コア40側の端部は、可動コア40の嵌合孔44に圧入、又は挿入後にかしめ等で係止することにより固着されている。これにより、シャフト50は、可動コア40と一体に往復移動する。一方、シャフト50の圧力室12側の端部の外壁には、ワッシャ68を係止するための鍔部51が形成されている。
また、シャフト50は、中心軸O上に可動コア40側の端部から圧力室12側の端部に貫通する貫通孔52が形成されている。シャフト50が可動コア40の嵌合孔44に接続されることにより、貫通孔52は、作動室13と圧力室12とを連通する。
【0036】
弁体60は、円環板状のゴム系弾性体からなり、圧力室12内でリテーナ62の第1突起部63とワッシャ68の肉厚部69との間に挟み込まれる。これにより、弁体60は、可動コア40およびシャフト50と一体に軸方向に移動する。弁体60は、電磁駆動部3の通電時にバルブシート部26に当接することで弁孔24を閉塞する。
【0037】
ダイヤフラム70は、膜状のゴム系弾性体からなり、シャフト50の径外側に配設される。詳しくは、厚肉に形成された中央部71が、可動コア40の下端面とリテーナ62の第2突起部65の上端面との間に挟み込まれている。これにより、中央部71は、シャフト50との間のシール性を確保しつつ、シャフト50と一体に軸方向に移動する。
また、ダイヤフラム70の厚肉に形成された外縁部73は、磁性プレート36とハウジング21の段部211との間に挟み込まれ、固定されている。
【0038】
ダイヤフラム70の中央部71と外縁部73との径方向の間には、比較的薄肉の撓み部72が形成されている。撓み部72は、作動室13と区画室11との気密を確保しつつ、中央部71と外縁部73との軸方向の相対位置に応じて弾性変形可能である。
筒状のダイヤフラムガイド72は、外縁の鍔部がダイヤフラム70の外縁部73とハウジング21の段部212との間に挟み込まれ、固定されている。ダイヤフラムガイド72の内壁は、ダイヤフラム70の撓み部72が径外方向へ広がることを規制する。これにより、ダイヤフラム70の受圧径φD2(図4参照)を安定させることができる。
【0039】
ダイヤフラム70の撓み部72の上面、磁性プレート36の下端面および可動コア40の外壁に囲まれた環状の空間は、ダンパー室14を形成する。ダンパー室14は、磁性プレート36の筒部361の内壁362と可動コア40の外壁との摺動隙間を経由して、作動室13と連通している。そのため、ダンパー室14の圧力は、作動室13の圧力と同等となっている。撓み部72は、電磁駆動部3の通電時に区画室11とダンパー室14との圧力バランスによって弾性変形し、可動コア40の移動速度を減速させる。これにより、弁体60をバルブシート部26に緩やかに当接させることができる。
【0040】
リテーナ62は、シャフト50の径外側であって軸方向の弁体60とダイヤフラム70との間に設けられ、可動コア40、シャフト50および弁体60と一体に移動する。
リテーナ62は、弁体60側から順に、第1突起部63、中央突起部64、第2突起部65の3つの突起部が一体に形成されている。円錐台筒状の第1突起部63は、ワッシャ68の肉厚部69との間に弁体60の中央部を挟み込む。周方向に不連続な円錐台筒状の中央突起部64は、電磁駆動部3の非通電時に、リターンスプリング37の付勢力によって区画壁23の区画室11側に形成されるストッパ部25に当接する。鍔状の第2突起部65は、可動コア40の前端面との間にダイヤフラム70の中央部71を挟み込む。
【0041】
以上のように、シャフト50、ダイヤフラム70の中央部71、リテーナ62、弁体60およびワッシャ68は、電磁駆動部3への通電オンオフに伴い、可動コア40と一体に上下方向に移動する。以下、これらの一体に移動する部分を総括して「可動部」という。
【0042】
次に、実施形態の電磁弁1の作用について図3を参照して説明する。
まず、電磁弁1の開弁状態(図3(a))から閉弁状態(図3(b))への作動について説明する。電磁駆動部3のソレノイドコイル34に通電すると、リターンスプリング37の付勢力に抗して可動コア40が固定コア35に吸引され、可動部が図3の上方へ移動する。そして、弁体60がバルブシート部26に当接して弁孔24が閉塞される。これにより、圧力室12と区画室11との連通が遮断される。よって、キャニスタ92と燃料タンク91との連通が遮断される。
【0043】
このように可動部が上方へ移動するとき、作動室13およびダンパー室14内の容積減少分の空気は、矢印Ex1で示すように、フィルタ45および貫通孔52を通って圧力室12に排出される。これにより、作動室13およびダンパー室14と圧力室12との圧力が同等となる。これを、「圧力キャンセル効果」という。
このとき、フィルタ45が「絞り部」として機能し、可動部の移動速度を適度に減速するため、弁体60がバルブシート部26に当接するときの衝突音が抑えられる。また、ダイヤフラム70は、外縁部73に対する中央部71の軸方向の相対位置が近づき、作動室13と区画室11との圧力バランスによって、撓み部72が弾性変形する。
【0044】
次に、電磁弁1の閉弁状態(図3(b))から開弁状態(図3(a))への作動について説明する。電磁駆動部3のソレノイドコイル34への通電を停止すると、可動コア40に作用する起磁力が消滅するため、リターンスプリング37の付勢力によって可動コア40が図3の下方へ付勢され、可動部が図3の下方へ移動する。そして、弁体60が、バルブシート部26から離間して弁孔24が開放される。これにより、圧力室12と区画室11とが連通する。よって、キャニスタ92と燃料タンク91とが連通する。
【0045】
このように可動部が下方へ移動するとき、圧力室12内の空気は、貫通孔52を通って作動室13およびダンパー室14に流入することで、圧力がキャンセルする。
このとき、フィルタ45が「絞り部」として機能し、可動部の移動速度を適度に減速するため、リテーナ62の中央突起部64がストッパ部25に当接するときの衝突音が抑えられる。また、ダイヤフラム70は、外縁部73に対する中央部71の軸方向の相対位置が遠ざかり、作動室13と区画室11との圧力バランスによって、撓み部72が弾性変形する。
【0046】
次に、電磁弁1の効果について、図3〜図5を参照し、比較例と対比しつつ説明する。
比較例の電磁弁の非通電時および通電時の要部断面図を図5(a)、(b)に示す。比較例の電磁弁9は、特許文献1に記載された従来技術の電磁弁に相当する。図5において、本実施形態と実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。また、比較例の電磁弁の弁体、圧力室等の構成は、本実施形態の電磁弁1と同様であり、これらの図示を省略した。
【0047】
比較例の電磁弁9は、シャフト55に貫通孔が設けられていない。その代わり、磁性プレート36の筒部361の外壁とコイルボビン33の内壁との間にオリフィス56が形成されている。オリフィス56は、軸方向のソレノイドコイル34と磁性プレート36との隙間に形成される連通路57を経由して、ソレノイドコイル34の径外方向に開口する空気孔58に連通する。
【0048】
電磁弁9は、ソレノイドコイル34に通電されると、可動コア40が固定コア35に吸引される。このとき、図5(b)にて矢印Ex9で示すように、作動室13の容積の減少に伴い、作動室13内の空気がオリフィス56、連通路57を経由して空気孔58から外部に排出される。したがって、圧力室に作用する流体圧力が空気孔58の外部の圧力と同等の場合には、シャフト55の両端の圧力は同等になる。
【0049】
しかし、圧力室に作用する流体圧力と、空気孔58の外部の圧力との圧力差がある限界値を超えると、シャフト55の作動が規制されるおそれがある。例えば、圧力室に負圧がかかったとき、図5の下向きの受圧力が磁気吸引力を上回ると、可動コア40の固定コア35側への移動が阻害されるおそれがある。これを回避するためには、例えばソレノイドコイル34を大型化し、電磁吸引力を増加させなければならない。
【0050】
それに対し本実施形態の電磁弁1は、図3(b)に示すように、ソレノイドコイル34に通電されると、作動室13の容積の減少に伴い、作動室13およびダンパー室14内の空気はシャフト50の貫通孔52を通って圧力室12へ排出される(矢印Ex1)。これにより、作動室13およびダンパー室の圧力P2と圧力室12の圧力P1とがキャンセルされる。すなわち、P1≒P2となる。
【0051】
また、図4に示すように、弁体60の受圧径φD1とダイヤフラム70の受圧径φD2とはほぼ同等に設定されている。ここで、弁体60にかかる受圧力F1、及びダイヤフラム70にかかる受圧力F2は、下式1、2で表される。
F1=(π/4)φD12×P1 ・・・(式1)
F2=(π/4)φD22×P2 ・・・(式2)
式1、2より、φD1≒φD2、かつ、P1≒P2であれば、F1≒F2となる。
【0052】
具体的には、図4(a)に示すように圧力室12に負圧(P1<0)が作用したときには、作動室13およびダンパー室14も負圧(P2<0)となり、弁体60にかかる図の下向きの受圧力F1と、ダイヤフラム70にかかる図の上向きの受圧力F2とが同等となる。また、図4(b)に示すように圧力室12に正圧(P1>0)が作用したときには、作動室13およびダンパー室14も正圧(P2>0)となり、弁体60にかかる図の上向きの受圧力F1と、ダイヤフラム70にかかる図の下向きの受圧力F2とが同等となる。
【0053】
このように、貫通孔52によって圧力室12と作動室13およびダンパー室14との圧力差がキャンセルされる結果、閉弁作動に必要とされる電磁吸引力Fmは、圧力室12の圧力P1によって大きく影響を受けない。すなわち、電磁吸引力Fmとして、リターンスプリング37の荷重Fspに、可動コア37の摺動摩擦やダイヤフラム70の撓み抵抗等を加えた力が確保されれば、可動部を適切に移動させることができる。よって、電磁弁1は、電磁駆動部3等の体格を小型に維持しつつ、適用可能な流体圧力限界を向上させることができる。
【0054】
本実施形態のように電磁弁1が蒸発燃料処理装置に適用される場合には、電磁弁1は、イグニションスイッチをオンしてエンジンが駆動している間、或いは、少なくともパージ弁97を開弁している間、常に電磁駆動部3に通電されている。したがって、パージ弁97を開弁してキャニスタ92に吸着された蒸発燃料を吸気管93にパージするときには、可動コア40は固定コア35に吸引されている。このとき、キャニスタ92を経由して伝達される吸気負圧が圧力室12に作用する。
【0055】
この圧力室12の負圧は、貫通孔52を経由して作動室13に伝わり、圧力室12と作動室13およびダンパー室14との圧力差がキャンセルされる。そのため、特に電磁駆動部3の大型化等によって電磁吸引力を増大しなくても、可動部は適切に移動可能である。そして、弁体60がバルブシート部26に当接し弁孔24を閉塞することで、圧力室12と区画室11との連通を遮断する。よって、キャニスタ92を経由した吸気負圧が区画室11を経由して燃料タンク91にまで及ぶことを防止することができる。
【0056】
また、圧力室12と作動室13とを連通する経路中にフィルタ45が設けられているため、流体中に混入した異物が作動室13内に侵入し、固定コア35と可動コア40との間等のギャップ部に噛み込むことが防止される。
さらに、フィルタ45の開口面積は、異物の侵入を防止するとともに、貫通孔52を通過する空気の流量を制限し可動部の移動速度を適度に減速する「絞り部」としての機能を果たすように、言い換えれば、「エアダンパ機能」を発揮するように調整されている。
これにより、閉弁時には弁体60がバルブシート部26に衝突するとき、また開弁時にはリテーナ9の中央突起部64がストッパ部25に衝突するときの衝突音を低減することができる。
【0057】
なお、貫通孔52を通過する流体の流量をフィルタ45によって制限し過ぎると、せっかく貫通孔52を設け応答性を向上することによって得られた圧力キャンセル効果を得ることができる構造であっても、圧力室12内と作動室13内との流体圧力が同じになるまでに時間がかかる。そのため、圧力室12の圧力変化への追従が遅くなり応答性が極端に悪くなる又は圧力変化の激しい環境で作動できなくなるおそれがある。したがって、フィルタ45の開口面積や流路長等の仕様は、貫通孔52による圧力キャンセル効果と「絞り部」としての流路抵抗による衝突音低減効果とを両立するように設定されることが望ましい。
加えて、フィルタ45は、固定のための専用の構成を要することなく、スプリング収容凹部41の底面とリターンスプリング37との間に挟持されているため、部品点数を低減することができる。
【0058】
(その他の実施形態)
(ア)上記実施形態の電磁弁1は、電磁駆動部3の非通電時に弁孔24を開放し、電磁駆動部3の通電時に弁孔24を閉塞するノーマリーオープン式の弁である。これに対し、電磁駆動部3の非通電時に弁孔24を閉塞し、電磁駆動部3の通電時に弁孔24を開放するノーマリークローズ式の弁としてもよい。その場合、シャフト50の先端部に接続される弁体60を区画壁23の区画室11側に配置し、弁孔24の周囲の区画室11側にバルブシート部を形成する構成とすればよい。
(イ)上記実施形態の電磁弁1は、フィルタ45がスプリング収容穴41の底部でリターンスプリング37に挟持される。その他、フィルタをシャフト50の中間部または圧力室12側の先端部等に設置してもよい。
【0059】
(ウ)流体中に異物が混入する可能性が少ない環境で電磁弁を使用する場合や、電磁弁外部の流体経路に既設のフィルタが有る場合等は、電磁弁内部にフィルタを設けなくてもよい。この場合、貫通孔52の途中、又は可動コア40の連通孔43の途中等に絞り部を形成することにより、フィルタ45を備えた場合と同様に可動コア40の移動速度を減速し衝突音を低減することができる。
(エ)さらに、衝突音が問題とならない用途で電磁弁を使用する場合は、絞り部が形成されなくてもよい。これにより、孔加工が容易となり、また、貫通孔による圧力キャンセルの効果がより発揮されやすくなる。
【0060】
(オ)本発明の電磁弁は、燃料蒸発処理装置に限らず、あらゆる流体用の電磁弁として適用可能である。例えば、車両に搭載される補機類や空調装置等に使用することができる。流体としては、空気以外に、気相冷媒等の気体、水や液相冷媒等の液体、あるいは気液二相状態の流体を使用することができる。また、上述の説明にも記載したように、圧力室に作用する流体圧力は、負圧であっても正圧であってもよい。
以上、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 ・・・電磁弁、
11 ・・・区画室、
12 ・・・圧力室、
13 ・・・作動室、
21 ・・・ハウジング、
23 ・・・区画壁、
24 ・・・弁孔、
26 ・・・バルブシート部
3 ・・・電磁駆動部、
34 ・・・ソレノイドコイル、
35 ・・・固定コア、
37 ・・・リターンスプリング(付勢部材)、
40 ・・・可動コア、
41 ・・・スプリング収容凹部(付勢部材収容凹部)、
45 ・・・フィルタ(絞り部)、
50 ・・・シャフト、
52 ・・・貫通孔、
60 ・・・弁体、
70 ・・・ダイヤフラム、
71 ・・・中央部、
72 ・・・撓み部、
73 ・・・外縁部、
φD1・・・弁体60の受圧径、
φD2・・・ダイヤフラム70の受圧径。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定コア、及び、通電時に電磁吸引力によって前記固定コアに吸引され軸方向に移動可能な可動コアを有し、前記固定コアと前記可動コアとの間に形成される作動室の容積が前記可動コアの移動に伴って変化する電磁駆動部と、
前記可動コアを前記電磁吸引力による吸引方向と反対方向に付勢する付勢部材と、
前記可動コアの前記固定コアと反対側に接続されるシャフトと、
前記シャフトの前記可動コアと反対側の端部が位置し流体の圧力が作用する圧力室と前記圧力室の前記電磁駆動部側に形成される区画室とを区画し且つ前記圧力室と前記区画室とを連通する弁孔を有する区画壁が形成されるハウジングと、
前記シャフトの前記可動コアと反対側の端部の径外方向に固定され、前記シャフトの往復移動に伴って前記弁孔を開放または閉塞する弁体と、
前記可動コアと一体に移動可能な中央部、前記ハウジングに対する相対位置が固定された外縁部、及び、前記中央部と前記外縁部との径方向の間に設けられる弾性変形可能な撓み部を有し、前記作動室と前記区画室との間をシールするダイヤフラムと、
を備え、
前記シャフトは、軸方向の一方の端部から他方の端部に貫通し前記作動室と前記圧力室とを連通する貫通孔を有していることを特徴とする電磁弁。
【請求項2】
前記シャフトの前記貫通孔を経由し前記圧力室と前記作動室とを連通する経路中に、前記貫通孔を通過する流体の流量を制限する絞り部が形成されることを特徴とする請求項1に記載の電磁弁。
【請求項3】
前記貫通孔から侵入する異物を捕捉しつつ前記絞り部として機能するフィルタを備えることを特徴とする請求項2に記載の電磁弁。
【請求項4】
前記可動コアは、前記付勢部材を収容し且つ前記貫通孔に連通する付勢部材収容凹部が形成されており、
前記フィルタは、前記付勢部材収容凹部の底面と前記付勢部材との間に狭持されることを特徴とする請求項3に記載の電磁弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−108607(P2013−108607A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256237(P2011−256237)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】