説明

電磁式リニア弁

【課題】適切な差圧制御の実行を担保しつつ、摩擦力によって自励振動を抑制可能な電磁式リニア弁を提供する。
【解決手段】(a)筒部36,38と、筒部の一端を塞ぐコア部32と、内部を第1液室と第2液室とに区画し、第1液室と第2液室とを連通させる貫通穴が形成された区画部とを有するハウジング20と、(b)軸線方向に移動可能かつ貫通穴の開口に着座可能に第1液室内に配設されたプランジャ22とを備える電磁式リニア弁において、プランジャの外周面の筒部の内周面に摺接する部分のうちで最もコア部の側に位置する端Aが摺接する筒部の内周面の摩擦係数が、着座状態からプランジャがコア部に向かって特定距離α移動している状態((a)一点鎖線)において、着座状態((a)実線)より大きくなるように構成する。このような構成により、差圧制御実行時に摩擦力を小さくし、自励振動発生時に大きな摩擦力によって自励振動を抑制することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プランジャとそのプランジャがそれの軸線方向に移動可能に設けられるハウジングとを備え、プランジャを移動させて弁を開閉する電磁式リニア弁に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁式リニア弁には、(a)筒状をなすハウジング筒部と、そのハウジング筒部の一端を塞ぐコア部と、内部を第1液室と第2液室とに区画するとともに自身を貫通してそれら第1液室と第2液室とを連通させる貫通穴が形成された区画部とを有するハウジングと、(b)一端部がコア部と、他端部が貫通穴の開口と対向する状態で軸線方向に移動可能に第1液室内に配設され、その他端部において開口に着座可能なプランジャとを備える電磁式リニア弁がある。そのようなプランジャとハウジングとを備えた電磁式リニア弁は、弁体が弁座に着座している状態において、高圧側の作動液路から低圧側の作動液路への作動液の流れを禁止し、弁体が弁座から離れている状態において、高圧側の作動液路から低圧側の作動液路への作動液の流れを許容する。さらに、弁体が弁座に接近する方向と弁座から離間する方向との一方にプランジャを付勢する弾性体と、その弾性体がプランジャを付勢する方向とは反対の方向にプランジャを移動させるための磁界を形成するコイルとを備えており、コイルへの通電量を制御することで、高圧側の作動液路内の作動液の液圧(以下、「高圧側作動液圧」という場合がある)と低圧側の作動液路内の作動液の液圧(以下、「低圧側作動液圧」という場合がある)との差圧を制御可能に変更することが可能とされている。下記特許文献には、高圧側作動液圧と低圧側作動液圧との差圧を制御可能な構造の電磁式リニア弁の一例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−208233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記構造の電磁式リニア弁においては、プランジャがハウジング内で弾性体によって支持されていることから、弁の開閉に伴って自励振動が生じる虞がある。プランジャの自励振動を抑制する方法としては、プランジャの外周面とハウジングの内周面との間に生じる摩擦力を大きくすることで自励振動を抑制する方法が考えられる。プランジャの外周面とハウジングの内周面との摩擦力を大きくすれば、自励振動を抑制することは可能である。ただし、高圧側作動液圧と低圧側作動液圧との差圧を制御する際には、コイルへの通電量を制御して、プランジャに作用する力を制御するため、上記摩擦力が大きくなれば、高圧側作動液圧と低圧側作動液圧との差圧の制御を適切に実行できない虞がある。本発明は、そのような事情に鑑みてなされたものであり、適切な差圧制御の実行を担保するとともに、摩擦力によって自励振動を抑制することが可能な電磁式リニア弁を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の電磁式リニア弁は、プランジャの外周面のハウジング筒部の内周面に摺接する部分のうちで最もコア部の側に位置する端(以下、「コア部側摺接端」という場合がある)がプランジャの移動時に摺接するハウジング筒部の内周面の部分の摩擦係数が、プランジャが開口に着座している着座状態からプランジャがコア部に向かって特定距離移動した状態において、着座状態よりも大きくなるように構成される。
【0006】
また、上記課題を解決するために、本発明の電磁式リニア弁は、コア部側摺接端の外径とそのコア部側摺接端が摺接しているハウジング筒部の内径との差が、プランジャが開口に着座している着座状態からプランジャがコア部に接近する方向に移動するほど小さくなるように構成される。
【発明の効果】
【0007】
前者の本発明の電磁式リニア弁においては、例えば、着座状態からのプランジャの移動量が少ない場合には、上記摩擦係数を小さくし、着座状態からのプランジャの移動量が多い場合には、上記摩擦係数を大きくすることが可能である。また、後者の本発明の電磁式リニア弁においては、着座状態からのプランジャの移動量が多くなるほど、プランジャのコア部側摺接端の外径とハウジング筒部の内径との差が小さくなり、プランジャの外周面とハウジングの内周面との間を磁束が流れ易くなる。このため、着座状態からのプランジャの移動量が多くなるほど、プランジャの外周面とハウジングの内周面との間に生じる吸引力が大きくなる。したがって、両者の本発明の電磁式リニア弁においては、プランジャの外周面とハウジングの内周面との間に生じる摩擦力を、着座状態からのプランジャの移動量が多い状態において、その移動量が少ない状態と比較して大きくすることが可能となっている。
【0008】
電磁式リニア弁での差圧制御において、後に詳しく説明するように、着座状態からのプランジャの移動量は、通常、比較的少ない。一方で、自励振動発生時には、プランジャは比較的大きな振幅で振動する場合がある。したがって、両者の本発明の電磁式リニア弁によれば、差圧制御が実行されている際には、摩擦力を小さくすることが可能となり、自励振動が発生した場合には、大きな摩擦力によって自励振動を抑制することが可能となる。つまり、適切な差圧制御の実行を担保するとともに、摩擦力によって自励振動を抑制することが可能となるのである。
【発明の態様】
【0009】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0010】
なお、下記(0)項は、請求可能発明の前提となる構成を示した態様に関する項であり、その項の態様に、その項以降に掲げる項のいずれかに記載の技術的特徴を付加した態様が、請求可能発明の態様となる。ちなみに、(0)項を引用する(1)項が請求項1に相当し、請求項1に(2)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項2に、請求項1または請求項2に(3)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項3に、請求項1ないし請求項3のいずれか1つに(4)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項4に、それぞれ相当する。また、(0)項を引用する(5)項が請求項5に相当し、請求項5に(6)項に記載の技術的特徴を付加したものが請求項6に、それぞれ相当する。
【0011】
(0)(a)筒状をなすハウジング筒部と、(b)そのハウジング筒部の一端を塞ぐコア部と、(c)前記ハウジング筒部の内部を前記コア部の側に位置する第1液室と前記コア部とは反対側に位置する第2液室とに区画し、それら第1液室と第2液室とを連通するように自身を貫通する貫通穴が形成された区画部と、(d)前記第1液室と連通する流出ポートと、(e)前記第2液室と連通する流入ポートとを有するハウジングと、
一端部が前記コア部と、他端部が前記貫通穴の開口と対向する状態で軸線方向に移動可能に前記第1液室内に配設され、その他端部において前記開口に着座可能なプランジャと、
そのプランジャの他端部が前記貫通穴の前記開口に接近する方向と前記開口から離間する方向との一方に前記プランジャを付勢する弾性体と、
前記ハウジングの周りに設けられ、前記弾性体が前記プランジャを付勢する方向とは反対の方向に前記プランジャを移動させるための磁界を形成するコイルと
を備えた電磁式リニア弁であって、
前記プランジャが、外周面において前記ハウジング筒部の内周面に摺接した状態で前記第1液室内を軸線方向に移動可能とされた電磁式リニア弁。
【0012】
本項に記載された態様は、請求可能発明の前提をなす態様であり、請求可能発明の電磁式リニア弁の基本的な構成要素を列挙した態様である。プランジャの外径は、ハウジング筒部の内径より僅かに小さくされており、プランジャのハウジング内での円滑な移動が担保されている。ただし、プランジャは、通常、ハウジング筒部の内周面に摺接した状態で移動しており、プランジャの外周面とハウジング筒部の内周面との間には摩擦力が生じている。
【0013】
(1)前記プランジャの外周面の前記ハウジング筒部の内周面に摺接する部分のうちで最も前記コア部の側に位置する端であるコア部側摺接端が前記プランジャの移動時に摺接する前記ハウジング筒部の内周面の部分の摩擦係数が、前記プランジャが前記開口に着座している着座状態から前記プランジャが前記コア部に向かって特定距離移動した状態において、前記着座状態よりも大きい(0)項に記載の電磁式リニア弁。
【0014】
電磁式リニア弁においては、プランジャがハウジング内で弾性体によって支持されていることから、弁の開閉に伴って自励振動が生じる虞がある。自励振動の発生は望ましくなく、従来から種々の自励振動の抑制方法が考えられている。例えば、上述したプランジャの外周面とハウジング筒部の内周面との間に生じる摩擦力を大きくすることで自励振動を抑制する方法が考えられる。プランジャとハウジング筒部との摩擦力を大きくすれば、自励振動を抑制することは可能であるが、そのような摩擦力が大きくなれば、高圧側作動液圧と低圧側作動液圧との差圧の制御を適切に実行できなくなる虞がある。
【0015】
以上のことに鑑みて、本項に記載された電磁式リニア弁においては、プランジャの外周面のハウジング筒部の内周面に摺接する部分のうちで最もコア部の側に位置する端(以下、「コア部側摺接端」という場合がある)がプランジャの移動時に摺接するハウジング筒部の内周面の部分の摩擦係数が、着座状態からプランジャがコア部に向かって特定距離移動した状態において、着座状態よりも大きくされている。つまり、プランジャがコア部に向かって特定距離移動した状態での上記摩擦力は、着座状態での上記摩擦力より大きくされている。このため、例えば、着座状態からのプランジャの移動量が少ない場合には、上記摩擦力を小さくし、着座状態からのプランジャの移動量が多い場合には、上記摩擦力を大きくすることが可能となっている。
【0016】
電磁式リニア弁は、差圧制御時に、プランジャを開口に接近させる方向(以下、「接近方向」という場合がある)に付勢する力とプランジャを開口から離間させる方向(以下、「離間方向」という場合がある)に付勢する力とのバランスを制御するものであり、プランジャが開口から大きく離れることは少ない。つまり、通常の差圧制御時において、着座状態からのプランジャ移動量が多くなることは殆どない。一方、プランジャの自励振動発生時には、プランジャの振幅が比較的大きくなる場合があり、プランジャが通常の差圧制御時でのプランジャの移動量を超えて移動する場合がある。したがって、本項に記載された電磁式リニア弁によれば、差圧制御が実行されている際には、摩擦力を小さくするとともに、自励振動が発生した場合には、大きな摩擦力によって自励振動を抑制することが可能となり、適切な差圧制御の実行と自励振動の抑制との両立を図ることが可能となる。
【0017】
本項に記載の「摩擦係数」は、プランジャが離間方向に特定距離移動した状態において、着座状態より大きければよく、例えば、着座状態からプランジャの離間方向への移動に伴って漸増するものであってもよく、着座状態からプランジャが特定距離移動したときに急増するものであってもよい。また、プランジャが離間方向に特定距離を越えて移動した状態においては、着座状態以下とされてもよく、着座状態よりも大きくされてもよい。さらに言えば、着座状態からプランジャが特定距離を超えて移動した状態において、着座状態よりも大きくされる場合には、プランジャがコア部に最も接近する状態に至るまで、着座状態より大きくされてもよく、プランジャがコア部に最も接近する状態に至る前に、着座状態以下とされてもよい。
【0018】
(2)前記摩擦係数が、
前記着座状態から前記プランジャが前記コア部に向かって前記特定距離までは移動していない状態において、前記着座状態と同じである(1)項に記載の電磁式リニア弁。
【0019】
本項に記載の電磁式リニア弁においては、着座状態からプランジャが特定距離移動するまでは摩擦係数は変化せずに、着座状態から特定距離移動したときに摩擦係数が増加するようになっている。したがって、本項に記載の電磁式リニア弁によれば、プランジャが着座状態から特定距離移動する迄の摩擦力を好適に低減させることが可能となり、例えば、摩擦力の低い状態で差圧制御を実行することが可能となる。
【0020】
(3)前記摩擦係数が、
前記着座状態から前記プランジャが前記特定距離を超えて移動した状態においては、前記コア部に最も接近する状態に至るまで、前記着座状態よりも大きい(1)項または(2)項に記載の電磁式リニア弁。
【0021】
本項に記載の電磁式リニア弁においては、プランジャが特定距離を越えて移動してコア部に最接近しても、摩擦係数が着座状態以下となら無いようにされている。つまり、プランジャが特定距離を越えて移動するほど、摩擦係数の高い部分へのプランジャの外周面の摺接部分が多くなり、摩擦力を大きくすることが可能となる。これにより、自励振動を好適に抑制することが可能となる。
【0022】
(4)前記特定距離が、前記着座状態から前記プランジャが前記コア部に最も接近している状態までの前記プランジャの移動距離の1/3以上、かつ2/3以下である(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載の電磁式リニア弁。
【0023】
本項に記載の電磁式リニア弁においては、摩擦力を低減可能な範囲を具体的に限定している。差圧制御時においてプランジャは、通常、プランジャのハウジング内での移動可能な距離の1/3〜2/3の範囲内で移動する。したがって、本項に記載の電磁式リニア弁によれば、差圧制御時における摩擦力を適切に低減させることが可能となる。
【0024】
(5)前記プランジャの外周面の前記ハウジング筒部の内周面に摺接する部分のうちで最も前記コア部の側に位置する端であるコア部側摺接端の外径とそのコア部側摺接端が摺接している前記ハウジング筒部の内径との差が、前記プランジャが前記開口に着座している着座状態から前記プランジャが前記コア部に接近する方向に移動するほど小さくされている(0)項に記載の電磁式リニア弁。
【0025】
本項に記載の電磁式リニア弁においては、プランジャの外周面とハウジングの内周面との間に生じる吸引力を変化させることで、それらの間の摩擦力を変化させている。詳しく言えば、プランジャの外径とハウジング筒部の内径との差が小さくなると、プランジャの外周面とハウジングの内周面との間を磁束が流れ易くなり、それらの間に生じる吸引力が大きくなる。そして、その吸引力に依拠して生じる摩擦力が大きくなるのである。このため、本項に記載の電磁式リニア弁では、着座状態からのプランジャの移動量が多くなるほど、プランジャの外周面とハウジングの内周面との間に生じる摩擦力が大きくなるのである。したがって、本項に記載の電磁式リニア弁によれば、プランジャが着座状態から移動し始める際の摩擦力を最も小さくするとともに、差圧制御時での摩擦力もある程度低減させることが可能となる。また、プランジャの自励振動が大きくなるほど、摩擦力を大きくすることが可能となり、好適に自励振動を抑制することが可能となる。このように、本項に記載の電磁式リニア弁においても、適切な差圧制御の実行と自励振動の抑制との両立を図ることが可能となる。
【0026】
(6)前記ハウジング筒部の内周面の前記プランジャが摺接する部分が、
前記コア部の側の端部に向かって内径が小さくなるテーパ形状の面となっていることで、前記コア部側摺接部の外径と前記ハウジング筒部の内径との差が、前記着座状態から前記プランジャが前記コア部に接近する方向に移動するほど小さくされている(5)項に記載の電磁式リニア弁。
【0027】
本項に記載の電磁式リニア弁では、プランジャが摺接するハウジングの内周面をテーパ形状の面とすることで、上記差を容易に変化させるとともに、プランジャの円滑な移動を担保することが可能とされている。
【0028】
(6)前記弾性体が、前記プランジャの他端部が前記開口に接近する方向に前記プランジャを付勢するものである(1)項ないし(5)項のいずれか1つに記載の電磁式リニア弁。
【0029】
本項に記載の電磁式リニア弁は、常閉弁の電磁式リニア弁に限定されている。プランジャの自励振動の発生頻度は、一般的に、常開弁の電磁式リニア弁より、常閉弁の電磁式リニア弁のほうが高いことが知られている。したがって、本項に記載の電磁式リニア弁では、プランジャの自励振動を抑制する効果が充分に活かされる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】請求可能発明の実施例である電磁式リニア弁を示す概略断面図である。
【図2】図1の電磁式リニア弁の拡大図である。
【図3】プランジャの着座状態からの移動距離とプランジャとハウジングとの間に生じる摩擦力との関係を示すグラフである。
【図4】請求可能発明のもう1つの実施例である電磁式リニア弁を示す概略断面図である。
【図5】図4の電磁式リニア弁の軸線方向に垂直な断面を概略的に示す図である。
【図6】プランジャの着座状態からの移動距離とプランジャとハウジングとの間に生じる摩擦力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、請求可能発明のいくつかの実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本請求可能発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【実施例1】
【0032】
<電磁式リニア弁の構成>
図1に、本発明の実施例の電磁式リニア弁10を示す。本電磁式リニア弁10は、高圧側の作動液路12および低圧側の作動液路14に接続されており、通常、弁体が弁座に着座することで、高圧側の作動液路12から低圧側の作動液路14への作動液の流れを禁止している。一方、弁体が弁座から離れることで、高圧側の作動液路12から低圧側の作動液路14への作動液の流れを許容し、作動液の流れを許容する際の高圧側の作動液路12内の作動液の液圧と低圧側の作動液路14内の作動液の液圧との差圧を制御可能に変更することが可能とされている。
【0033】
電磁式リニア弁10は、図1に示すように、中空形状のハウジング20と、そのハウジング20内に自身の軸線方向に移動可能に設けられたプランジャ22と、ハウジング20の外周に設けられた円筒状のコイル24とを備えている。ハウジング20は、有蓋円筒状の有蓋円筒部材26と、その有蓋円筒部材26の下端部に嵌入された弁部材30とによって構成されている。
【0034】
ハウジング20の有蓋円筒部材26は、円柱状のコア部32と円筒部34とによって構成されており、強磁性材料からなる単一の素材から一体的に成形されている。ただし、円筒部34の上端部、つまり、円筒部34のコア部32に連続する部分は、レーザー加工によって非磁性化されており、有蓋円筒部材26は、強磁性を有するコア部32と、非磁性化された円筒部34の上端部(以下、「非磁性円筒部」という場合がある)36と、円筒部34からその非磁性円筒部36を除いた強磁性を有する部分(以下、「強磁性円筒部」という場合がある)38とに区分けすることが可能である。さらに、その非磁性円筒部36の内周面には、その内周面の摩擦係数を大きくするための処理が施されており、非磁性円筒部36の内周面の摩擦係数が、強磁性円筒部38の内周面の摩擦係数より大きくされている。なお、図1では、コア部32と非磁性円筒部36との境界および非磁性円筒部36と強磁性円筒部38との境界を点線によって示している。
【0035】
有蓋円筒部材26の円筒部34の内径は均一とされており、それの下端部に、区画部としての弁部材30が固定的に嵌入されている。そして、その弁部材30によって、ハウジング筒部としての円筒部34の内部が、第1液室46と第2液室48とに区画されている。第1液室46はコア部32の側に位置しており、第2液室48はコア部32とは反対の側に位置している。その第2液室48はハウジング20の下端面に開口しており、その開口が流入ポートとして機能することで、高圧側の作動液路12が第2液室48に接続されている。また、弁部材30には軸線方向に貫通する貫通穴50が形成されており、第1液室46と第2液室48とを連通している。その貫通穴50の第1液室46への開口52はテーパ状に形成され、その開口52が弁座として機能している。
【0036】
プランジャ22は、コア部32と円筒部34と弁部材30とによって区画された第1液室46の内部に、軸線方向に移動可能に設けられている。プランジャ22は、強磁性材料により形成された概して円柱状の円柱部材60と、その円柱部材60の下端に固定されたロッド部材62と、円柱部材60に固定的に外嵌され、非磁性材料により形成された概して円筒状のスリーブ64とから構成されている。円柱部材60は、大径部66と、その大径部66の上端面に形成された凸部68とによって構成されており、コア部32の側の端部において段付形状とされている。その円柱部材60の大径部66の外周面は、その外周面の上端部を除いて、スリーブ64によって覆われている。そのスリーブ64の外径は、ハウジング20の円筒部34の内径より僅かに小さくされており、プランジャ22はハウジング20内を円滑に移動できるようになっている。また、円柱部材60の下端面には、有底穴70が形成されており、その有底穴70に、ロッド部材62の上端部が圧入されることで、ロッド部材62が円柱部材60の下端に固定されている。そのロッド部材62の下端は、半球状とされており、弁部材30に形成された貫通穴50の開口52と向かい合うようにされている。そのロッド部材62の下端は、開口52に着座可能とされており、弁体として機能するものとされている。その弁体として機能するロッド部材62の下端が、弁座として機能する開口52に着座することで、貫通穴50が塞がれるのである。
【0037】
また、第1液室46は、プランジャ22によって、円柱部材60の上端面とコア部32の下端面との間のばね室72と、円柱部材60の下端面と弁部材30の上端面との間の弁室74とに区画されている。それらばね室72と弁室74とは、プランジャ22の円柱部材60とハウジング20の円筒部34との間のクリアランスを介して連通されているが、そのクリアランスは比較的狭いことから、プランジャ22の円柱部材60には軸線方向に延びるようにして2本の軸方向通路76が形成されている。この軸方向通路76によって、ばね室72と弁室74とが連通されることで、それらの間を作動液が流れ易くなっている。ちなみに、弁室74はハウジング20の円筒部34の外壁面に開口しており、その開口が流出ポートとして機能することで、低圧側の作動液路14が弁室74、つまり、第1液室46に接続されている。
【0038】
また、ハウジング20のコア部32には、プランジャ22の上端部に位置する凸部68と対向するように凹部78が形成されており、その凹部78の底面に有底穴80が形成されている。その有底穴80には圧縮コイルスプリング82が挿入されている。圧縮コイルスプリング82の下端部は有底穴80から突出しており、圧縮コイルスプリング82は、有底穴80の底面とプランジャ22の上端面とによって圧縮された状態で配設されている。このため、プランジャ22は、弾性体としての圧縮コイルスプリング82の弾性力によってコア部32から離れる方向に付勢されている。つまり、プランジャ22のロッド部材62の下端が開口52に接近する方向(以下、「接近方向」という場合がある)に付勢されている。なお、有底穴80には、圧縮コイルスプリング82に囲まれるようにして棒状のストッパ84が挿入されており、そのストッパ84によって、プランジャ22の上方への移動量が制限されている。
【0039】
また、コイル24は、樹脂製の保持部材86によってハウジング20の外周部において保持されており、その保持部材86とともに、強磁性材料によって形成されたコイルケース88によって覆われている。コイルケース88は、上端部において有蓋円筒部材26のコア部32に固定されるとともに、下端部において強磁性円筒部38に固定されている。このため、コイル24による磁界の形成に伴って、コイルケース88,コア部32,プランジャ22,強磁性円筒部38に磁路が形成されるようになっている。
【0040】
<電磁式リニア弁の作動>
上述した構造によって、電磁式リニア弁10は、コイル24に電流が供給されていないときには、高圧側の作動液路12から低圧側の作動液路14への作動液の流れを禁止しており、コイル24に電流を供給することによって、高圧側の作動液路12から低圧側の作動液路14への作動液の流れを許容するとともに、作動液の流れが許容される際の高圧側の作動液路12内の作動液の液圧と低圧側の作動液路14内の作動液の液圧との差圧を制御可能に変化させる構造とされている。
【0041】
詳しく説明すれば、コイル24に電流が供給されていない場合には、圧縮コイルスプリング82の弾性力によって、プランジャ22のロッド部材62の下端が高圧側の作動液路12に繋がる貫通穴50の開口52に着座することで、電磁式リニア弁10は、高圧側の作動液路12から低圧側の作動液路14への作動液の流れを禁止している。この際、ロッド部材62の下端には、高圧側の作動液路12内の作動液の液圧(以下、「高圧側作動液圧」という場合がある)と低圧側の作動液路14内の作動液の液圧(以下、「低圧側作動液圧」という場合がある)との差に基づく力F1が作用している。この圧力差に基づく力F1と圧縮コイルスプリング82の弾性力F2とは互いに逆向きに作用するが、弾性力F2は圧力差に基づく力F1と比較してある程度大きくされているため、電磁式リニア弁10は、コイル24への電流非供給時には開弁しないようになっている。
【0042】
一方、コイル24に電流が供給されると、磁界の形成に伴って、磁束が、コイルケース88,コア部32,プランジャ22,強磁性円筒部38を通過する。そして、ロッド部材62の下端が貫通穴50の開口52から離間する方向(以下、「離間方向」という場合がある)にプランジャ22を移動させようとする磁気力が生じる。コイル24に電流が供給されて磁界が形成されている際に、プランジャ22には、圧力差に基づく力F1と磁気力によってプランジャ22が上方に付勢される力F3との和と、圧縮コイルスプリング82の弾性力F2とが互いに逆向きに作用する。この際、圧力差に基づく力F1と磁気力による付勢力F3との和が、弾性力F2より大きい間は、ロッド部材62の下端によって塞がれていた開口52が開き、高圧側の作動液路12から低圧側の作動液路14へ作動液が流れる。
【0043】
そして、高圧の作動液が低圧側の作動液路14へ流れることで、低圧側作動液圧が増加し、圧力差に基づく力F1が減少する。その圧力差に基づく力F1が減少することで、圧力差に基づく力F1と磁気力による付勢力F3との和が、弾性力F2より小さくなれば、電磁式リニア弁10は閉弁され、高圧側の作動液路12から低圧側の作動液路14への作動液の流れが阻止される。このため、低圧側作動液圧は、圧力差に基づく力F1と磁気力による付勢力F3との和が、弾性力F2より小さくなった時点の低圧側作動液圧に維持される。つまり、コイル24への通電量を制御することで、低圧側作動液圧と高圧側作動液圧との圧力差を制御することが可能となり、低圧側作動液圧を目標とする作動液圧まで増加させることが可能となっている。
【0044】
上述したように、電磁式リニア弁10においては、プランジャ22を移動させようとする磁気力F3、つまり、コイルケース88,コア部32,プランジャ22,強磁性円筒部38を通過する磁束の量を制御することで、低圧側作動液圧と高圧側作動液圧との差圧が制御されている。この差圧制御時には、プランジャ22と強磁性円筒部38との間を磁束が流れ、プランジャ22と強磁性円筒部38との間に吸引力が生じる。このため、プランジャ22は、それの外周面においてハウジング20の内周面に摺接した状態でハウジング20内を移動することになり、プランジャ22の外周面とハウジング20の内周面との間に摩擦力が生じることになる。電磁式リニア弁10は、プランジャ22を上方に付勢する力と下方に付勢する力とのバランスを制御することで、差圧制御を実行するものであり、そのような摩擦力が大きくなると、差圧制御に影響を及ぼす虞がある。そこで、本電磁式リニア弁10においては、プランジャ22の外周面を非磁性材料により形成されたスリーブ64で覆っている。これにより、プランジャ22と強磁性円筒部38との間を流れる磁束の量を減らすことが可能となり、プランジャ22と強磁性円筒部38との間に生じる摩擦力を低減させることが可能となっている。
【0045】
一方で、電磁式リニア弁には、プランジャの自励振動の問題があり、その自励振動を抑制するためにプランジャの外周面とハウジングの内周面との間に生じる摩擦力が有効であることが知られている。このため、プランジャの外周面とハウジングの内周面との間に生じる摩擦力を、一律的に低減させてしまっては、プランジャの自励振動を抑制し難くなる虞がある。そこで、本電磁式リニア弁10においては、プランジャ22の外周面とハウジング20の内周面との間に生じる摩擦力、つまり、プランジャ22のスリーブ64とハウジング20の円筒部34との間に生じる摩擦力が、プランジャ22が着座している状態から離間方向にある特定の距離移動するまでは小さく、その特定の距離を越えて離間方向にプランジャ22が移動する際には大きくなるようになっている。
【0046】
詳しく言えば、電磁式リニア弁10は、差圧制御時にプランジャ22を上方に付勢する力と下方に付勢する力とのバランスを制御するものであり、プランジャ22を上方に付勢する力と下方に付勢する力とが大きく異なることは少ない。このため、通常の差圧制御時には、プランジャ22の開口52からの移動量が多くなることは少ない。一方で、プランジャの自励振動発生時には、プランジャ22は、その通常の差圧制御時での移動量を超えて振動する場合がある。このため、プランジャ22が通常の差圧制御時に移動する範囲における上記摩擦力を小さくし、その通常の差圧制御時での移動範囲を超えた場合における上記摩擦力を大きくすることで、適切な差圧制御の実行と自励振動の抑制との両立を図ることが可能となるのである。
【0047】
具体的には、図2(a)に示すように、プランジャ22が貫通穴50の開口52に着座している状態において、プランジャ22のスリーブ64は、コア部32側の端からコア部32とは反対側の端まで、ハウジング20の強磁性円筒部38に摺接している。そして、磁界の形成に伴ってプランジャ22が離間方向に特定距離α移動すると、プランジャ22のスリーブ64は、図2(a)の一点鎖線に示すように、コア部32側の端において非磁性円筒部36と摺接するようになる。非磁性円筒部36の内周面には、上述したように、その内周面の摩擦係数を大きくするための処理が施されており、非磁性円筒部36の内周面の摩擦係数は、強磁性円筒部38の内周面の摩擦係数より大きくされている。つまり、ハウジング20の内周面に摺接するスリーブ64のコア部32側に位置する端(以下、「コア部側摺接端」という場合があり、図2において点Aによって示す)が摺接するハウジング20の内周面の摩擦係数は、プランジャ22が離間方向に特定距離α移動した場合に大きくなるのである。そして、プランジャ22が、さらに離間方向に移動して、ストッパ84によって移動が制限された状態では、プランジャ22のスリーブ64は、図2(b)に示すように、コア部側摺接端を含む端部において、非磁性円筒部36と摺接する。
【0048】
上述したように、コア部側摺接端が摺接するハウジング20の内周面の摩擦係数が変化することで、プランジャ22の外周面とハウジング20の内周面との間に生じる摩擦力は、図3に示すように変化する。図中のβは、プランジャ22の移動可能な距離を示すものであり、着座状態(図2(a))からプランジャ22がコア部に最も接近した状態(図2(b))までの移動距離を示すものである。この図から解るように、プランジャ22は、着座状態から特定距離α移動するまでは、比較的低い摩擦力が発生するようにされており、プランジャ22がその特定距離αを越えて移動すると、大きな摩擦力が発生し、移動距離が大きくなるほど、さらに大きな摩擦力が発生するようにされている。ちなみに、特定距離αは、プランジャの移動可能な距離βの半分程度とされている。差圧制御が実行されている際に、通常、プランジャはプランジャの移動可能な距離の1/3〜2/3程度の範囲内で移動するようにされており、その範囲を超えてプランジャが移動することは少ないためである。つまり、本電磁式リニア弁10では、特定距離αがプランジャの移動可能な距離βの半分程度とされているが、特定距離αをプランジャの移動可能な距離βの1/3〜2/3程度とすることが可能である。
【0049】
このように、本電磁式リニア弁10では、プランジャ22が通常の差圧制御時に移動する範囲において、上記摩擦力を小さくし、その通常の差圧制御時での移動範囲を超えた場合において、上記摩擦力を大きくすることが可能とされており、適切な差圧制御の実行と自励振動の抑制との両立を図ることが可能とされている。
【実施例2】
【0050】
上記電磁式リニア弁10は、ハウジング20の内周面の摩擦係数を変化させることで、プランジャ22の外周面とハウジング20の内周面との間に生じる摩擦力の大きさを変化させる構造とされていたが、プランジャとハウジングとの間に生じる吸引力の大きさを変化させることで、その摩擦力の大きさを変化させることも可能である。このように、プランジャとハウジングとの間に生じる吸引力の大きさを変化させることが可能な構造の電磁式リニア弁100を、図4に示す。電磁式リニア弁100は、ハウジング102およびプランジャ104を除いて、上記電磁式リニア弁10と略同様の構成であるため、それらを中心に説明し、同様の機能の構成要素については、同じ符号を用いて説明を省略あるいは簡略に行うものとする。
【0051】
電磁式リニア弁100の備えるハウジング102は、有蓋円筒状の有蓋円筒部材110と、その有蓋円筒部材110の下端部に嵌入された弁部材30とによって構成されており、有蓋円筒部材110は、上記電磁式リニア弁10の有蓋円筒部材26と同様に、コア部112と非磁性円筒部114と強磁性円筒部116とに区分けすることが可能となっている。ただし、本電磁式リニア弁100の非磁性円筒部114の内周面には、上記電磁式リニア弁10の非磁性円筒部34と異なり、摩擦係数を大きくするための処理は施されておらず、非磁性円筒部114の内周面の摩擦係数と強磁性円筒部116の内周面の摩擦係数とは同じとされている。また、非磁性円筒部114と強磁性円筒部116とによって構成されるハウジング筒部の内径は均一とされておらず、それの内周面の上側の半分は、コア部112の側の端部に向かって小さくなるテーパ形状の面とされている。
【0052】
また、プランジャ104は、有蓋円筒部材110と弁部材30とによって区画された第1液室118の内部に、軸線方向に移動可能に設けられており、強磁性材料により形成された円柱部材120と、その円柱部材120の下端に固定されたロッド部材122と、円柱部材120に固定的に外嵌され、非磁性材料により形成されたスリーブ124とから構成されている。円柱部材120およびスリーブ124の外周面もコア部112の側の端部に向かって小さくなるテーパ形状の面とされており、プランジャ104は、スリーブ124のテーパ形状の外周面において、ハウジング102の内周面のテーパ形状の部分と摺接するようになっている。ちなみに、スリーブ124の外周面のテーパの傾きは、ハウジング102の内周面のテーパの傾きより小さくされており、スリーブ124とハウジング102とのクリアランス、つまり、プランジャ104の外径とハウジング102の内径との差は、上方に向かうほど小さくなっている。なお、図2では、その差を明確にするべく、
スリーブ124の外周面のテーパの傾き、および、ハウジング102の内周面のテーパの傾きは誇張して図示されている。
【0053】
本電磁式リニア弁100においても、上述した構造によって、上記電磁式リニア弁10と同様に、差圧制御を実行することが可能とされており、差圧制御時に、プランジャ104のスリーブ124がハウジング102の内周面と摺接するようにされている。このため、プランジャ104の外周面とハウジング102の内周面との間に生じる摩擦力を低減することが可能となり、適切に差圧制御を実行することが可能となっている。また、上述したように、プランジャ104の外径とハウジング102の内径との差が、上方に向かうほど小さくされることで、プランジャ104が離間方向に移動するほど、上記摩擦力を大きくし、プランジャ104の自励振動を抑制することが可能となっている。
【0054】
詳しく言えば、プランジャ104は、上述したように、スリーブ124の外周面において、ハウジング102の内周面のテーパ形状の部分と摺接するようになっており、そのハウジング102の内周面に摺接するスリーブ124のコア部112側に位置する端(以下、「コア部側摺接端」という場合がある)は、プランジャ104の離間方向への移動に伴って、内径の小さくなるハウジング102内に入り込んでいく。つまり、コア部側摺接端におけるスリーブ124の外径と、そのコア部側摺接端が摺接しているハウジング102の内径との差は、プランジャが104が離間方向へ移動するほど小さくなっている。図5に、コア部側摺接端における電磁式リニア弁100の軸線方向に垂直な断面を簡略化して示し、その図を用いて詳しく説明する。
【0055】
図5での符号130によって示される実線は、スリーブ164のコア部側摺接端における外周縁を示している。また、符号132によって示される実線は、着座状態においてコア部側摺接端が摺接しているハウジング102の内周縁を示し、符号134によって示される2点鎖線は、プランジャ104が最も離間方向に移動した状態においてコア部側摺接端が摺接しているハウジング102の内周縁を示している。ちなみに、コア部側摺接端におけるスリーブ124の外径とハウジング102の内径との差を解り易くするために、着座状態におけるハウジング102の内周縁132を誇張して大きく示している。
【0056】
図から解るように、プランジャ104が離間方向に最も移動している状態でのハウジング102の内周縁134とコア部側摺接端の外周縁130との差は、着座状態でのハウジング102の内周縁132とコア部側摺接端の外周縁130との差より小さくなっている。また、ハウジング102の内径は、コア部132の側に向かうほど漸減するようになっている。このため、上記差は、着座状態からプランジャ104が離間方向へ移動するほど小さくなるのである。プランジャ102の外径とハウジング104の内径との差が小さくなると、プランジャ104とハウジング102との間を磁束は流れ易くなり、プランジャ104とハウジング102との間の吸引力は大きくなる。つまり、着座状態からプランジャ104が離間方向へ移動するほど、プランジャ104とハウジング102との間の吸引力は大きくなり、それらの間に生じる摩擦力も大きくなるのである。なお、プランジャ104の着座状態からの移動距離と上記摩擦力との関係を、図6に示しておく。
【0057】
上述した構造によって、本電磁式リニア弁100においては、着座状態からのプランジャ104の移動距離が長くなるほど、上記摩擦力は大きくなる。このため、差圧制御時にプランジャ104が着座状態から移動し始める際の上記摩擦力を最も小さくすることが可能となるとともに、通常の差圧制御時での上記摩擦力もある程度低減させることが可能となる。また、プランジャ104の自励振動が大きくなるほど、上記摩擦力を大きくすることが可能となり、好適に自励振動を抑制することが可能となる。したがって、本電磁式リニア弁100においても、上記電磁式リニア弁10と同様に、適切な差圧制御の実行と自励振動の抑制との両立を図ることが可能とされている。
【符号の説明】
【0058】
10:電磁式リニア弁 20:ハウジング 22:プランジャ 24:コイル 30:弁部材(区画部) 32:コア部 34:円筒部(ハウジング円筒部) 46:第1液室 48:第2液室 50:貫通穴 52:開口 82:圧縮コイルスプリング(弾性体) 100:電磁式リニア弁 102:ハウジング 104:プランジャ 112:コア部 114:非磁性円筒部(ハウジング筒部) 116:強磁性円筒部(ハウジング筒部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)筒状をなすハウジング筒部と、(b)そのハウジング筒部の一端を塞ぐコア部と、(c)前記ハウジング筒部の内部を前記コア部の側に位置する第1液室と前記コア部とは反対側に位置する第2液室とに区画し、それら第1液室と第2液室とを連通するように自身を貫通する貫通穴が形成された区画部と、(d)前記第1液室と連通する流出ポートと、(e)前記第2液室と連通する流入ポートとを有するハウジングと、
一端部が前記コア部と、他端部が前記貫通穴の開口と対向する状態で軸線方向に移動可能に前記第1液室内に配設され、その他端部において前記開口に着座可能なプランジャと、
そのプランジャの他端部が前記貫通穴の前記開口に接近する方向と前記開口から離間する方向との一方に前記プランジャを付勢する弾性体と、
前記ハウジングの周りに設けられ、前記弾性体が前記プランジャを付勢する方向とは反対の方向に前記プランジャを移動させるための磁界を形成するコイルと
を備えた電磁式リニア弁であって、
前記プランジャが、外周面において前記ハウジング筒部の内周面に摺接した状態で前記第1液室内を軸線方向に移動可能とされ、
前記プランジャの外周面の前記ハウジング筒部の内周面に摺接する部分のうちで最も前記コア部の側に位置する端であるコア部側摺接端が前記プランジャの移動時に摺接する前記ハウジング筒部の内周面の部分の摩擦係数が、前記プランジャが前記開口に着座している着座状態から前記プランジャが前記コア部に向かって特定距離移動した状態において、前記着座状態よりも大きい電磁式リニア弁。
【請求項2】
前記摩擦係数が、
前記着座状態から前記プランジャが前記コア部に向かって前記特定距離までは移動していない状態において、前記着座状態と同じである請求項1に記載の電磁式リニア弁。
【請求項3】
前記摩擦係数が、
前記着座状態から前記プランジャが前記特定距離を超えて移動した状態においては、前記コア部に最も接近する状態に至るまで、前記着座状態よりも大きい請求項1または請求項2に記載の電磁式リニア弁。
【請求項4】
前記特定距離が、前記着座状態から前記プランジャが前記コア部に最も接近している状態までの前記プランジャの移動距離の1/3以上、かつ2/3以下である請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の電磁式リニア弁。
【請求項5】
(a)筒状をなすハウジング筒部と、(b)そのハウジング筒部の一端を塞ぐコア部と、(c)前記ハウジング筒部の内部を前記コア部の側に位置する第1液室と前記コア部とは反対側に位置する第2液室とに区画し、それら第1液室と第2液室とを連通するように自身を貫通する貫通穴が形成された区画部と、(d)前記第1液室と連通する流出ポートと、(e)前記第2液室と連通する流入ポートとを有するハウジングと、
一端部が前記コア部と、他端部が前記貫通穴の開口と対向する状態で軸線方向に移動可能に前記第1液室内に配設され、その他端部において前記開口に着座可能なプランジャと、
そのプランジャの他端部が前記貫通穴の前記開口に接近する方向と前記開口から離間する方向との一方に前記プランジャを付勢する弾性体と、
前記ハウジングの周りに設けられ、前記弾性体が前記プランジャを付勢する方向とは反対の方向に前記プランジャを移動させるための磁界を形成するコイルと
を備えた電磁式リニア弁であって、
前記プランジャが、外周面において前記ハウジング筒部の内周面に摺接した状態で前記第1液室内を軸線方向に移動可能とされ、
前記プランジャの外周面の前記ハウジング筒部の内周面に摺接する部分のうちで最も前記コア部の側に位置する端であるコア部側摺接端の外径とそのコア部側摺接端が摺接している前記ハウジング筒部の内径との差が、前記プランジャが前記開口に着座している着座状態から前記プランジャが前記コア部に接近する方向に移動するほど小さくされている電磁式リニア弁。
【請求項6】
前記ハウジング筒部の内周面の前記プランジャが摺接する部分が、
前記コア部の側の端部に向かって内径が小さくなるテーパ形状の面となっていることで、前記コア部側摺接部の外径と前記ハウジング筒部の内径との差が、前記着座状態から前記プランジャが前記コア部に接近する方向に移動するほど小さくされている請求項5に記載の電磁式リニア弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−154404(P2012−154404A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13548(P2011−13548)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】