説明

電磁波シールド基板の製造方法

【課題】 電磁波シールド性、透明性、非視認性及び接着性を有する電磁波シールド基板を提供する。
【解決手段】表面にOH基を含有する樹脂基板又はガラス基板上にチオール反応性アルコキシシラン化合物を用いて単分子薄膜層を形成する(S12)。次に、当該基板面を光不透過部(幾何学図形部と額縁部)と光透過部(幾何学図形部と額縁部以外の部分)からなるマスクで覆い、露光して(S14)、反応性部分と非反応性部分からなる配線像を表面に描く。これを、触媒溶液に浸漬し(S15)、無電解めっき溶液に浸漬し(S16)て露光されなかった部分を金属めっきして、幾何学模様の金属配線部と額縁部からなり電磁波シールド性と透明性を有する電磁波シールド基板を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CRT、PDP(プラズマ・ディスプレイ・パネル)、液晶、EL(エレクトロ・ルミネッセンス)などのディスプレイ前面から発生する電磁波に対するシールド性を有する透明な電磁波シールド基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポケットベル、PHS、携帯電話などの無線通信機器が非常な発展を遂げ、従来の有線電話に代わって情報通信の主流になろうとしている。一方では、この携帯電話から発射される電磁波が原因で、医療機器の誤作動を引き起こす危険性があるとされ、病院内では携帯電話の使用が禁止されている。無線通信機器のように直接的に電磁波を発射する機器のほかに、電磁波はあらゆる電子機器から電磁波ノイズの形で放射される。いずれにしてもこれらの不要電磁波を原因として、交通機関の制御機能麻痺、ロボットの暴走等々の問題が発生している。さらには、電磁波の人体に対する健康問題も取り沙汰されており、電磁波の氾濫によるさまざまな障害と、それに伴う重大事故への関心はますます高まっている。
【0003】
電磁波障害を防止する方法は、発信源対策と受信源対策からなる。さまざまな電磁波障害防止部品や機器の組み込みなどの対策が実施されているが、発信源や受信源それぞれに電磁波シールド材料を使う方法も併せて行われている。その中でもディスプレイ、メーター、光学センサーなどの表面は、透明性が不可欠であり、不要電磁波の入出を「透明電磁波シールド材料」で防止するのが好ましい。
【0004】
電磁波シールド性と透明性を同時に満足させる方法としては透明なフィルム基材と、このフィルム基材の一方の面に設けられた透明な金属薄膜層と、さらにこの金属薄膜層上に設けられた透明な誘電体薄膜層と、上記フィルム基材の他面に設けられた透明な粘着剤層と、この粘着剤層を介して上記フィルム基材と貼り合わされた透明基板とからなる電磁波シールド材を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、高透磁率非晶合金層を少なくとも一層有する良導電性繊維からなる電磁波シールド材も検討されている(例えば、特許文献2参照)。さらに、透光性基板上に、透明アンカー層が形成されその上に無電解めっき層がパターン状に形成され、無電解めっき層下の透明アンカー層に黒色パターンを形成した電磁波シールド材の提案もなされた(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
一方、透明樹脂基板上に接着剤を使用して銅箔を貼り、ホトリソグラフ法を用いて幾何学模様配線を形成して、電磁波シールド性と透明性を同時に確保する電磁波シールド材が製造され、実用されている(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献1】特開平1−278800号公報
【特許文献2】特開平5−327274号公報
【特許文献3】特開平5−283889号公報
【特許文献4】特開2000−323891号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
透明基板上に金属などの導電体を蒸着して導電層を形成する方法は透明性が確保できる程度の導電性の膜厚(10から200nm)では導電層の抵抗値が高すぎて、30MHzから1GHz領域で要求される30dB以上の電磁波シールド効果は得られない。
【0007】
良導電性繊維や高透磁率非晶合金、いわゆる金属粉末を透明樹脂に添加した電磁波シールド材では30dB以上の電磁波シールド効果は十分得られるが、規則配列に必要な繊維径35μmは太すぎて見えてしまい、非視認性が確保されない。金属粉からなる導電体塗料の印刷もやはり非視認性の課題を達成できない。
【0008】
透明基板に銅無電解めっきにより銅メッシュパターンを形成した電磁波シール材はABS樹脂などには有効であるが、PETやポリカーボネートなどには樹脂との接着強度の点で不適であった。
【0009】
一方、透明樹脂基板上に接着剤を使用して銅箔を貼り、ホトリソグラフを用いて幾何学模様を形成して、電磁波シールド性と透明性を同時に確保する電磁波シールド材は電磁波シールド性、赤外線遮断性、透明性、非視認性、接着性などの特性値を満足するが、製造工程数が多い、製造に要する時間が長い、製造コストが高いという課題がある。特に、基板に導電体の幾何学模様は銅版接着、ホトレジスト塗布、露光、現像、エッチング、レジスト剥離、黒化処理などの7工程を経て製造されるため、製造に要する時間が長くなり、製造コストが大きくなってしまうという課題がある。
【0010】
本発明は電磁波シールド材として必要な電磁波シールド性、透明性、非視認性などの特性値を満足し、かつ特殊な装置や設備などを使用せず幾何学模様の金属配線を、所定溶液への浸漬および紫外線照射によって形成することができる。紫外線照射と複数の所定溶液への浸漬・乾燥・加熱という単純な工程によって低コストで透明電磁波シールド基板を製造することができる。さらに、所定溶液への浸漬・乾燥・加熱という単純な工程によって接着性、赤外線遮断性などの特性値についても良好な透明電磁波シールド基板を製造することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の特徴は、透明電磁波シールド基板の製造方法であって、(1)OH基を含有する透明な基板の表面に、[化1]の一般式で示されるチオール反応性アルコキシシラン化合物を付着させ、(2)前記基板の表面に配線パターンに対応するマスクを用いて紫外線を照射し、(3)パラジウム、白金、銀、スズ、アミン錯体からなる群から選択される触媒を含有する溶液に浸漬して、前記基板の表面であって前記紫外線が照射されていない部分に、前記触媒を担持させ、(4)導電性金属を含有する溶液に浸漬して、前記基板の表面であって前記触媒が担持されている部分に、導電性金属を析出させることにある。
【化1】


(式中、Rは水素原子または炭化水素基を示し、Rは異種原子または官能基を含む炭化水素鎖を示し、Xは水素原子または炭化水素基を示し、Yはアルコキシ基を示し、nは1,2又は3の自然数を示し、Mはアルカリ金属を示す。)
透明な基板には、透明な樹脂基板またはガラス基板が含まれる。
【0012】
本発明の第2の特徴は、前記第1の特徴を有する透明電磁波シールド基板の製造方法であって、Rは硫黄原子、窒素原子、カルバモイル基またはウレア基を含む炭化水素鎖であることにある。
【0013】
本発明の第3の特徴は、前記第1の特徴を有する透明電磁波シールド基板の製造方法であって、
RはH−,CH3−,C2H5−,n−C3H7−,CH2=CHCH2−,n−CH−,CH−,CH11−のいずれかであり、
R2は−CH2CH2−,−CH2CH2CH2−,−CH2CH2CH2CH2CH2CH2−,−CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2−,−CH2CH2SCH2CH2−,−CH2CH2CH2SCH2CH2CH2−,−CH2CH2NHCH2CH2CH2−,−(CH2CH2)2NCH2CH2CH2−,−CH−,−CHCH−,−CH2CHCH2−,−CH2CH2OCONHCH2CH2CH2−,−CH2CH2NHCONHCH2CH2CH2−,−(CH2CH2)2CHOCONHCH2CH2CH2−のいずれかであり、
XはH−,CH−, C2H−, n−CH−, i−CH−, n−CH−, i−CH−,t−CH−のいずれかであり、
YはCHO−, C2HO−, n−CHO−, i−CHO−, n−CHO−, i−CHO−,t−CHO−のいずれかであり、
nは1,2又は3の自然数を示し、
MはLi, Na, K, Ceのいずれかであることにある。
【0014】
本発明の第4の特徴は、前記第1乃至第3の特徴のいずれかを有する透明電磁波シールド基板の製造方法であって、OH基を含有しない透明な基板に、OH基を含有する樹脂を吸着させまたはコートして、前記OH基を含有する透明な樹脂基板または前記OH基を含有するガラス基板を得ることにある。
【0015】
本発明の第5の特徴は、前記第1乃至第3の特徴のいずれかを有する透明電磁波シールド基板の製造方法であって、OH基を含有しない透明な基板に、プラズマ処理、紫外線照射処理またはコロナ放電処理のいずれか一方または双方を行って、前記OH基を含有する透明な基板を得ることにある。
【0016】
本発明の第6の特徴は、前記第1乃至第3の特徴のいずれかを有する透明電磁波シールド基板の製造方法であって、OH基を含有しない透明な基板を、ホルムアルデヒド水溶液に浸漬して、前記OH基を含有する透明な基板を得ることにある。
【0017】
本発明の第7の特徴は、前記第1乃至第6の特徴のいずれかを有する透明電磁波シールド基板の製造方法であって、前記透明な基板の表面であって前記触媒が担持されている部分に、前記導電性金属を析出させた後に、[化2]の一般式で示されるトリアジンジチオール誘導体水溶液に浸漬して前記導電性金属部に接着性を有する皮膜を形成することにある。
【化2】


(式中、RはH−, HO−, HS−, H2N−, CH3O−, CH3S−, CH3NH−, (CH3)2N−, C2H5−, C2H5O−, C2H5S−, C2H5NH−, (C2H5)2N−, n−C3H7−, n−CHO−,n−CHS−, n−CHNH−, (n−CH)2N−, CH2=CHCH2−, CH2=CHCH2O−, CH2=CHCH2S−, CH2=CHCH2NH−, (CH2=CHCH2)2N−, n−CH−, n−CHO−, n−CHS−, n−CHNH−, (n−CH)2N−, CH−, CHO−, CHS−, CHNH−, (CH)2N−, CH11−, CH11O−, CH11S−, CH11NH−, (CH11)2N−のいずれかであり、
MはLi, Na, K, Ce, CH3NH3, (CH3)2NH2, C2H5NH3, (C2H5)2NH2, NH3CH2CH2OH, NH2(CH2CH2OH)2, NH(CH2CH2OH)3, NH3CH2CH2(CH3)OH, NH2(CH2CH2(CH3)OH)2, NH(CH2CH2(CH3)OH)3のいずれかである。)
【発明の効果】
【0018】
本発明におけるチオール反応性アルコキシシラン化合物は(1)紫外線に感応するというレジストの役割を果たすと共に、(2)樹脂またはガラス基板と単分子層を形成し、さらに金属配線層とも金属触媒を介在して化学的に結合する接着剤の役割を果たす。従って、係る化合物の塗布は浸漬するのみでよく、現像は不必要となる。無電解めっき、また必要により金属配線層を厚くするために電解めっきが必要となるが、微細化すればするほど技術的に困難となるレジストの現像や剥離、金属のエッチングが不必要となる。このため、製造が簡単になり、製造に要する時間が短くなり、そして製造コストが著しく削減される。
【0019】
また、接着工程も非常に簡単であり、環境保全に有利な工法である。さらに、製造ラインが2系列で連続生産できるという特徴もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明を実施するための最良の形態を説明する。なお、以下の説明は、単なる例示に過ぎず、本発明の技術的範囲は以下の説明に限定されるものではない。
【0021】
本発明の電磁波シールドとしての機能の本体である金属幾何学模様含有樹脂及びガラス基板の製造において必須とされているチオール反応性アルコキシシラン化合物は、前記の[化1]の一般式で示される1種又は2種以上のもの、あるいはこれを含有する組成物である。
【0022】
[化1]の一般式で示されるトリアジン骨格を有するチオール反応性アルコキシシラン化合物については、アルコキシシラン含有トリアジンジクロリドと水硫化アルカリ化合物の反応により合成できる。この方法については本願発明者が特許出願している(特願2005−030134号)。
【0023】
具体的には、(1)下記一般式(I)又は(II)
R1NHR2SiX3-nYn (I)
HNR3SiX3-nYn (II)
(式中、R1はH−,CH3−,C2H5−,n−C3H7−,CH2=CHCH2−,n−C4H9−,C6H5−またはC6H13−のいずれかであり、
R2は−CH2CH2−, −CH2CH2CH2−, −CH2CH2CH2CH2CH2CH2−, −CH2CH2SCH2CH2−, −CH2CH2NHCH2CH2CH2−, −CH2CH2OCONHCH2CH2CH2−または−CH2CH2NHCONHCH2CH2CH2−のいずれかであり、
R3は−(CH2CH2)2NCH2CH2CH2−または, −(CH2CH2)2CHOCONHCH2CH2CH2−であり、
XはCH3−, C2H5−, n−C3H7−, i−C3H7−, n−C4H9−, i−C4H9−またはt−C4H9−のいずれかであり、
YはCH3O−, C2H5O−, n−C3H7O−, i−C3H7O−, n−C4H9O−, i−C4H9O−またはt−C4H9O−のいずれかであり、
nは1から3までの整数のいずれかであり、Mはアルカリ金属である。)
で示されるアルコキシシラン含有アミン化合物と塩化シアヌルとを反応させ、下記[化3]又は[化4]の一般式
【化3】

【化4】

(式中、R1,R2,R3,X,Y及びnは一般式(I)又は(II)の場合と同じである。)
で示されるアルコキシシラン含有トリアジンジクロリドを合成し、
(2)次いで、得られたアルコキシシラン含有トリアジンジクロリドと水硫化アルカリとを反応させて[化5]又は[化6]の一般式
【化5】

【化6】

(式中、R1,R2,R3,X,Y及びnは一般式(I)又は(II)の場合と同じである。)
で示される水溶性アルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩を製造する。
【0024】
[化1]の式で示される化合物の少なくとも1種を含有する組成物とは水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、イソパノール、プロピレングリコール、カルビトール、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、安息香酸メチル、フタル酸ジエチル、アジピン酸ジエチルなどのエステル類、ジブチルエーテル、アニソールなどのエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類など溶剤、またはこれらの混合溶媒に溶解または分散したものである。
【0025】
[化1]の式で示される化合物の濃度は0.01から500g/Lの範囲であれば良く、0.1から100g/Lの範囲であることが望ましい。0.1g/L以下の濃度では希薄過ぎて浸漬に時間がかかりすぎる。100g/L以上の濃度では付着トリアジントリチオールの除去に時間がかかることと槽外へのトリアジンジチオールの持出量が多くなるので好ましくない。
【0026】
本実施の形態で使用されるOH基を含有する基板とは、
(1)それ自身にOH基を有する基板
(2)OH基を含有する樹脂を吸着またはコートした基板
(3)プラズマ処理して得たOH基を含有する基板
(4)紫外線照射処理して得たOH基を含有する基板
(5)コロナ放電処理して得たOH基を含有する基板
(6)紫外線及びコロナ放電後OH基含有樹脂を吸着した基板
(7)ホルムアルデヒド−酸性水溶液に浸漬してOH基を導入した基板
などを云う。
【0027】
それ自身にOH基を有する基板とは、セルロース、メチル化セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、デンプン、酢酸セルロース、フェノール−ホルマリン樹脂、ハイドロキノン樹脂、クレゾール樹脂、ポリビニルフェノール樹脂、レゾルシン樹脂、セロファン、メラミン樹脂、グリプタル樹脂、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、水酸基含有ポリビニルホルマール樹脂、ポリヒドロキシエチルメタアクリレートとその共重合体、ポリヒドロキシエチルアクリレートとその共重合体、ポリビニルアルコールとその共重合体、ポリ酢酸ビニルの表面加水分解物など樹脂表面にOH基を含有する樹脂基板であれば何でも良い。従って上記以外の樹脂に対して高分子量又は低分子量の多価アルコール類を混合して得られる、表面に水酸基を有する樹脂複合体なども使用できる。
【0028】
OH基を含有する樹脂を吸着またはコートした基板とは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル樹脂類、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、EVAなどのポリオレフィン樹脂類、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニルなどのビニル樹脂類、不飽和ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、アクリルアミド、ポリアセタール、ポリアクリル酸エステル、ポリメチルメタクリル酸エステル、ポリメチルペンテンなどのOH基を含有しない樹脂を、OH基を含有する樹脂の希薄溶液に浸漬して樹脂表面にOH基を導入した樹脂、またはOH基を含有しない樹脂の濃厚溶液(塗料)をコートして表面にOH基を導入した樹脂基板である。
【0029】
プラズマ処理、紫外線照射処理して得たOH基を含有する樹脂基板は、OH基を含有しない樹脂にプラズマ処理又は200nmから380nmの波長の紫外線を空気中で0℃から100℃の温度範囲で0.1秒から10分間照射して得られる。
【0030】
コロナ放電処理して得たOH基を含有する樹脂基板とは、OH基を含有しない樹脂にコロナ放電表面改質装置を用いて、2kVから100kVの電圧で0.01秒から60秒間放電処理を行って得られる樹脂基板である。
【0031】
紫外線又はコロナ放電後OH基含有樹脂を吸着した樹脂基板とは、OH基を含有しない樹脂に前記条件で紫外線又はコロナ放電処理し、その後に、OH基を含有する樹脂の希薄溶液に浸漬してOH基含有率を高めた樹脂基板である。
【0032】
ホルムアルデヒド水溶液に浸漬してOH基を導入した樹脂基板とは6-ナイロン、66-ナイロン、610-ナイロン、芳香族ポリアミド、メラミン樹脂、ポリスチレン、尿素樹脂などをホルムアルデヒドの酸性水溶液に20℃から80℃の温度範囲で1分間から100分間浸漬して表面にメチロール基を導入した樹脂である。
【0033】
表面にOH基を含有するガラスとは、SiO2からなるもの、又はこれを主成分として他にMg,Ca,Ba,Ti,Si,Mn,Al,Zn,Sn,Zr,Co,Fe,Ni,Cu,Agなどの酸化物を含有するものである。
【0034】
チオール反応性を含有する樹脂基板又はガラス基板は、上記OH基含有樹脂又はガラス基板を[化1]で示される化合物の少なくとも1種からなら溶液または分散液に浸漬又は接触して得られる。浸漬又は接触条件は、溶剤の沸点以下で行うのが好ましい。
【0035】
浸漬後、チオール反応性含有樹脂基板及びガラス基板は乾燥機などの熱媒体中で120から170℃の温度範囲で、0.2から20分間加熱してアルコキシシラン基と樹脂表面のOHの反応を完結させる。
【0036】
幾何学模様のマスクは額縁部と配線部が光不透過のインクなどで形成され、光透過部は透明樹脂又はガラスからなる。
【0037】
幾何学模様は正三角形、正四角形、正五角形、正六角形、正八角形、長方形、ひし形、平行四辺形、台形、円形、楕円およびこれらと直線の組合せからなる。
【0038】
幾何学図形のライン幅は40μm以下、ライン間隔は100μm以上、ライン厚みは40μm以下が好ましい。また、幾何学図形の非視認性の観点からライン幅は25μm以下、可視光透過率の観点からライン間隔は120μm以上、ライン厚みは18μmがさらに好ましい。
【0039】
ライン幅は40μm以下が好ましく、25μm以下がより好ましいが、あまりに小さく細くなると表面抵抗が大きくなりすぎてシールド効果に劣るので、1μm以上が好ましい。
【0040】
ライン厚みは40μm以下が好ましく、あまりに厚みが薄いと表面抵抗が大きくなりすぎてシールド効果に劣るので、0.5μm以上が好ましく、1μm以上がさらに好ましい。
【0041】
ライン間隔は、大きいほど開口率は向上し、可視光透過率は向上する。前述のようにディスプレイ前面に使用する場合、開口率は50%以上が好ましいが、60%以上がさらに好ましい。ライン間隔が大きくなり過ぎると、電磁波シールド性が低下するため、ライン間隔は1000μm(1mm)以下とするのが好ましい。なお、ライン間隔は、幾何学図形等の組み合わせで複雑となる場合、繰り返し単位となる図形の面積を正方形の面積に換算してその一辺の長さをライン間隔とする。
【0042】
なお、開口率は図1において非線部/(非線部+配線部)×100により算出される。
【0043】
[露光]
チオール反応性含有樹脂及びガラス基板上に上記幾何学図形模様のマスクを載せて、露光すると光透過部はSH面からSS面に変化するが、光不透過部はSH面を保持する(図3、ステップS14)。
【0044】
「SH面からSS面に変化する」とは表面のチオール(-SH)基がジスルフィド(-SS-)基に変化することを言う。
【0045】
露光に使用される光源としては、水銀ランプ(波長:254, 303, 313, 365nm)、メタルハライドランプ(200-450nm)及びエキシマレーザー(波長:KrF 248nm, ArF193nm, F2 157nm)が有効である。また、ベンゾフェノン系の増感剤を吸着させるとハイパーメタルハライドランプ(400-450nm)の使用も可能である。
【0046】
照射の条件は0から100℃、0.1秒から100分間で目的を達成できるが、好ましくは20から50℃で1秒から180秒である。これら以下の条件では紫外線照射部分が完全にSS基に変換しないでSH基が残る場合がある。またこれら以上の条件では紫外線照射部分が分解する場合があるので、好ましくない場合がある。一般に、100%SS基変換率は温度が低いと、長時間で達成され、温度が高いと短時間で達成される。単分子層での反応であるので、SS基変換速度は一般のホトレジストに比べて速い。
【0047】
チオール反応性含有樹脂基板又はガラス基板は、紫外線の照射を受けずにSH基のままである領域と、紫外線照射によってSS基に変化した領域との反応性の違いにより幾何学模様を形成するとともに触媒担持能に差異を生じるので、一般に使用されているホトレジストと異なり、現像を必要としない。さらに、エッチングやレジスト残渣の除去も必要としない。
【0048】
[電磁波シールド機能の付与]
電磁波シールド機能を付与するためには、額縁部及び配線部をメタル化する必要がある。額縁部及び配線部のメタル化は無電解めっきにより行う。
【0049】
無電解めっきでは先ず、基板の表面に触媒を担持させるが、使用される触媒担持浴はパラジウム塩、白金塩、銀塩、塩化スズ、アミン錯体などからなる水溶液であり、この水溶液にSH基とSS基を含有する樹脂基板を浸漬する(図3、ステップS15)。
【0050】
浸漬後は、SH基部分にパラジウム、白金及び銀などが反応して化学的に結合するので洗浄しても脱落しない。しかし、SS基部分には反応しないので、付着しないか、付着しても水又は酸性水で洗浄すると容易に落ちる。
【0051】
一般に、触媒としてPd-Sn系の触媒が使用される。例えば、水にPdCl2とSnC12・7H2Oを溶解させて活性化浴を調製する。PdCl2とSnC12・7H2Oはそれぞれ0.001から1mol/Lの濃度範囲で調製され、0から70℃の温度範囲で1秒から60分の浸漬時間で使用される。
【0052】
Pd-Sn系などの触媒が担持された基板を無電解めっき浴に浸漬する(図3、ステップS16)。ここで云う無電解めっき浴とは金属塩と還元剤が主成分であり、これにpH調整剤、緩衝剤、錯化剤、促進剤、安定剤及び改良剤などの補助成分が添加されてなる。
【0053】
無電解めっきによってめっきされる金属は、金、銀、銅、ニッケル、コバルト、鉄、パラジウム、白金、真鍮、モリブデン、タングステン、パーマロイ(商標)、スチールなどであり、これらの金属塩が使用される。
【0054】
具体的な金属塩として、AuCN,Ag(NH3)2NO3,AgCN,CuSO4・5H2O,CuEDTA,NiSO4・7H2O,NiCl2,Ni(OCOCH3)2,CoSO4,CoCl2,SnCl2・7H2O,PdCl2などを挙げることができ、主に0.001から1mol/Lの濃度範囲で使用される。
【0055】
還元剤とは上記の金属塩を還元して金属を生成する作用を持つものであり、KBH4,NaBH4,NaH2PO2,(CH3)2NH・BH3,CH2O,NH2NH2,ヒドロキシルアミン塩、N,N-エチルグリシンなどであり、0.001から1mol/Lの濃度範囲で使用される。
【0056】
以上のような主成分に対して、無電解めっき浴の寿命を延長させたり、還元効率を高めたりする目的で補助成分を加えるが、塩基性化合物、無機塩、有機酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩、水酸化アンモニア、EDTA、ジアミノエチレン、酒石酸ナトリウム、エチレングリコール、チオ尿素、トリアジンチオール、トリエタノールアミンなどが0.001から0.1mol/Lの濃度範囲で使用される。
【0057】
無電解めっきは浴の種類及びめっきの目的などによりめっき条件が異なり明確に範囲指定し難いが、おおよそ0から98℃の温度範囲及び、1分から300分の浸漬時間で使用される。
【0058】
幾何学模様上に触媒が担持された樹脂基板またはガラス基板を無電解めっき浴に浸漬すると、触媒が担持された部分に金属が析出して幾何学模様の金属配線が出来上がる。この時、触媒は樹脂基板と結合したSH基とイオン結合で結合しているので、金属膜と樹脂基板は化学結合で連結され、接着強度を発生する。
【0059】
同時に析出した金属の界面(樹脂と接触した部分)は樹脂基板表面の粗さが転写される。また金属膜の表面(空気との接触面)はレベリング剤などの作用により、表面粗さを維持する。
【0060】
金属配線における金属膜を厚化する場合は、電気めっきを行う(図3、ステップS17)。電気めっきを行うと、短時間で金属膜が成長する。電気めっきは一般に、被めっき体を電気めっき浴に入れ、めっきする金属を陽極とし、被めっき体を陰極とし、両極間に適当な電位差を与えることによって行う。
【0061】
本実施形態で言う電気めっきとは、金、白金、銀、銅、ニッケル、亜鉛、コバルト、すず、パラジウムなどの青酸、硫酸、塩酸、硝酸、ピロ燐酸、シュウ酸などのように水に溶解する塩を主成分とした電気めっき浴を用いて、金属を析出させるめっきである。めっき浴の中には主成分の他に、浴の安定剤、光沢剤、pH調整剤、内部応力調整剤などの添加物を添加する。電気めっきはこれらの浴中で10℃から90℃の浴温度範囲で0.1から100A/dm2の電流密度により1分から10時間電解して行う。
【0062】
[配線部と額縁部の金属への接着性の付与]
樹脂基板またはガラス基板の配線部と額縁部の金属に接着性を付与するためには、トリアジンジチオール誘導体溶液に樹脂基板またはガラス基板を浸漬して接着性の皮膜を形成させる(図3、ステップS18)。
【0063】
浸漬処理条件は例えば[化2]の1種または2種以上からなるトリアジンチオール誘導体の水溶液を用いて、10から100mg/Lの濃度範囲及び20℃から70℃の温度範囲で、1秒から200秒の浸漬時間で処理すると0.8fkg/cm程度の剥離強度の接着物が得られる。
【0064】
[赤外線塗料の塗布]
電磁波シールド基板に赤外線遮断機能を付与するためには、樹脂基板またはガラス基板の非線部21および配線部22(図2)に赤外線吸収性塗料を塗布硬化する必要がある(図3、ステップS19)。
【0065】
赤外線吸収性塗料とは樹脂成分、硬化剤成分、及び赤外線吸収剤成分からなり、これらをバンバリーミキサー、ロール、ニーダーなどの混合機を用いて混合して調製される。
【0066】
赤外線吸収性塗料における樹脂成分とはビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、ポリアルコール・ポリグリコール型エポキシ樹脂、ポリオレフィン型エポキシ樹脂、脂環式・ハロゲン化エポキシ樹脂、ポリイソプレン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリ塩化ビニル、ニトリル/ブタジエンゴム、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステルなどとこれらの混合物を挙げることができる。
【0067】
赤外線吸収性塗料における樹脂成分にエポキシ基を含有している場合には硬化剤を配合するのが好ましく、係る硬化剤成分としてはトリエチレンテトラミン、キシレンジアミン、ジアミノジフェニルメタンなどのアミン類、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水ドデシル琥珀酸、無水ピロメリット酸などの酸無水物、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、アルキル置換イミダゾールなどとこれらの混合物などを挙げることがある。硬化剤は上記ポリマー100重量部に対して、0.1から50質量部、好ましくは1から30質量部である。1質量部未満では硬化が不十分となり、0.1質量部未満では硬化しない。また、30質量部を超えると硬化剤が過剰となり、かえって硬化率が減少し、50質量部を超えると硬化剤が析出し、いわゆる粉を吹くことになり好ましくない。
【0068】
赤外線吸収剤成分とは900から1000nmの領域において赤外線吸収率の高い化合物であり、酸化鉄、酸化セリウム、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化スズ添加酸化インジウム(ITO)などの金属酸化物、6塩化タングステン、塩化スズ、硫化第二銅などの無機塩類、クロムコバルト錯体、チオールニッケル錯体、アルミニウム有機錯体、ジアンモニウム化合物は有効である。有効な遮断効果を発生させるためにはこれらの赤外線吸収剤の粒径は0.01から5μmが好ましく、0.1から3μmがさらに好ましい。0.01μm未満では遮断効果が減少する。又5μmを超える場合では遮断効果は向上するが、粒子表面での乱反射による透明性の低下が問題となるので好ましくない。
【0069】
赤外線吸収剤は樹脂成分と硬化剤成分の総和100質量部に対して、0.01から10質量部添加されるが、好ましくは0.1から5質量部である。10質量部を超えると著しく透明性が損なわれるので、5質量部以下が好ましい。0.01質量部以下では効果が不十分であり、十分な効果を発揮させるためには0.1質量部以上が望まれる。
【0070】
赤外線吸収性塗料は図2の電磁波シールド配線部と非線部に0.1から10μmの膜厚範囲でコート後、加熱またはUV照射により硬化させる。この硬化過程で、電磁波シールド配線部のTT(トリアジントリチオール)皮膜または非線部のSS結合(ジスルフィド結合)が反応して、塗膜と電磁波シールド基板が接着する。
【0071】
本実施の形態では赤外線吸収性塗料の機能の維持及び向上の目的で希釈剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線防止剤などを添加することができる。
【0072】
[導電性塗料の塗布]
電磁波シールド基板と外部との良好な接点をとるためには、樹脂基板またはガラス基板の額縁部に導電性塗料を塗布後硬化して、導電性接続部分を作ることが必要である(図3、ステップS20)。
【0073】
導電性塗料は樹脂及びゴム成分、硬化剤成分、導電剤成分、溶剤成分及びその他からなり、これらをミキサー、ニーダー及びロールなどを用いて混合して導電性塗料を調製する。
【0074】
導電性塗料における樹脂及びゴム成分とはビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、ポリアルコール・ポリグリコール型エポキシ樹脂、ポリオレフィン型エポキシ樹脂、脂環式・ハロゲン化エポキシ樹脂、ポリイソプレン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、スチレン/ブタジエンゴム、ウレタンゴム、ニトリル/ブタジエンゴム、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、シリコンゴムなどとこれらの混合物を挙げることができる。
【0075】
導電性塗料における樹脂、ゴム成分にエポキシ樹脂を含有している場合には硬化剤を配合するのが好ましく、係る硬化剤成分とはトリエチレンテトラミン、キシレンジアミン、ジアミノジフェニルメタンなどのアミン類、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水ドデシル琥珀酸、無水ピロメリット酸などの酸無水物、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、アルキル置換イミダゾール、硫黄とチアゾール系、スルフェンアミド系、及びチウラム系及び加硫促進剤、過酸化物系加硫剤、塩化白金酸系触媒架橋などを挙げることができる。硬化剤は上記ポリマー100質量部に対して、0.1から50質量部、さらに好ましくは1から30質量部である。0.1質量部未満では硬化が不十分となり、50質量部を超える場合では硬化剤が過剰となりかえって未硬化エポキシ樹脂が生成して好ましくない場合や過架橋物となり著しく弾性機能を消失する場合が発生するのでやはり好ましくない。
【0076】
導電性塗料における導電性成分とは金、白金、パラジウム、銀、銅、ニッケル、コバルト、スズなどの球形、樹脂状、扁平形及び針状の粉体及びケッチンブラック(ライオンアグゾ(株)製)などのカーボンブラックなどを意味し、樹脂及びゴム成分100質量部に対して5から200質量部、さらに好ましくは10から120質量部を添加する。5質量部未満では導電性が確保できない場合が多く、少なくとも10質量部以上が必要である。200質量部を超えると皮膜の強度が弱くなり結果として導電性も減少するので120質量部までが好ましい。
【0077】
導電性塗料における溶剤成分とはキシレン、トルエン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸ブチル、アニソール、アセトニトリル、プロピルニトリルなどの溶剤、一官能性エポキシ化合物などであるが、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂及びシリコン樹脂の場合で塗料に流動性があるときは溶剤を使用しない場合がある。溶剤の量は樹脂成分100質量部に対して50から500質量部である。50質量部未満でもエポキシ樹脂、ウレタン樹脂及びシリコン樹脂の場合は有効であるが、他の樹脂やゴムは溶解性が十分で無いので使用できない。500質量部を超えると塗料の粘度が低すぎて塗布作業に問題をきたすので好ましくない。
【0078】
導電性塗料における他成分とは塗料の粘度調整や安定性向上、塗膜の抗酸化性向上、耐紫外線性向上及び銅害防止の目的のために添加剤が使用される。
【0079】
幾何学模様の配線が表面に形成され(1)電気接続性と(2)赤外線遮断性と、(3)電磁波シールド性と、(4)透明性および(5)配線の非視認性を備える上記の樹脂基板またはガラス基板を、使用用途に合わせてプラスチック板などに取り付けて電磁波遮断構成体を作成して、使用することが便利である。
【0080】
電磁波遮断構成体はディスプレイ画面にはめて、そこから発生する電磁波を遮断し、外部に漏れることを防止するため、電磁波障害が防止できる。
【0081】
[実施例と比較例]
表面にOH基を含有しないポリエチレンテレフタレートフィルムシート41(図4(a):東レ(株)、PET、積層フィルムシート、5μm)をコロナ放電表面改質装置(コロナマスター、信光電気計装(株))を用いて、12kVの電圧で0.5秒間放電処理を行って(図3、ステップS11)、表面にOH基を含有する表面改質PET42を得た(図4(b))。
【0082】
改質前は31dyne/cmの表面張力であり、XPS表面分析では244.6eV、248.5eV及び250eVにそれぞれCH、>C=O、及び-COORに基づく吸収が認められたが、改質後は54dyne/cmの表面張力のPETに変化しており、表面には新しく246.8eVにOH基に基づく吸収が確認された。
【0083】
OH基含有PET42を[化1]で示される多機能性トリアジンジチオールの一種である6-トリエトキシシリルプロピルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールモノソジウム塩(TESTT,1g)のエタノール溶液(100ml)に30℃で5分間浸漬し(図3、ステップS12)、150℃で10分間加熱乾燥した(図3、ステップS13)。
【0084】
その後洗浄乾燥して改質PET表面をXPS分析した結果、S2p:5.0%,N1s:10.3%及びSi2p:2.4%が検出された。この結果はPET表面のOH基とTESTTのアルコキシシリル基が反応してPET表面にトリアジン環とSiO2基が導入されていることを示す。また、S2pを波形分離して硫黄官能基の種類を分析した結果、160.9eVに>CS*H基及び161.8eVに>C=S*基が観察されたので、PET表面はすべてSH基を含有することが確認された(図4(c))。
【0085】
一方、TESTT処理しないPET表面ではS2pやN1sの存在は全く観察されない。つまり、TESTT処理しないPETは表面にSH基を含有しないと理解される。また、コロナ放電による表面改質をしていないがTESTT処理したPETについてもXPS分析したが、S2pやN1sの存在は全く観察されない。つまり、表面改質をしなければ、TESTT処理をしても表面にSH基を含有するようにはならないと理解される。
【0086】
SH基含有PET43に図1のように、配線部のライン幅25μm、ライン間隔300μm、及び額縁部の幅を10mmとしたマスクを載せて、高圧水銀ランプ(出力:1.5kW、照射エネルギー:2800mJ/cm2、アイグラフィック(株)製アイミニグランテイジ)を用いて20℃で30秒間紫外線を照射した(図3、ステップS14)。
【0087】
非線部、配線部および額縁部をXPS表面分析した。配線部および額縁部には160.9eVに>CS*H基及び161.8eVに>C=S*基が観察されたので、すべてSH面からなることが確認された。
【0088】
一方、非線部ではSH基に基づく吸収は減退し、新しく164.0eVにSS基に基づく吸収が生成した。この結果は、図4(d)に示すように、TESTT処理PET表面がSH面(紫外線未照射部分)とSS基面(紫外線照射部分)に分かれることを示す。
【0089】
さらに、Pd-Sn触媒水溶液(NP-8 150ml/lとHCl 150ml/l、上村工業(株)製)に25℃で1分間浸漬した(図3、ステップS15)。その後、XPS表面分析をした結果、SH面にはPdの存在が確認された(図4(e)の触媒担持面)。
【0090】
Pd触媒を担持したPET基板をスルカップPSY-1A
100ml/l、スルカップPSY-1B 55ml/l、18.5ホルムアルデヒド水溶液20ml/lからなる無電解銅めっき浴(上村工業(株)製)に40℃で20分間浸漬した(図3、ステップS16)。非線部には何も析出しないが、配線部と額縁部(図4(e)の触媒担持面)がおよそ2μmの銅箔で覆われた(図4(f)の銅めっき面)。
【0091】
さらに、これを銅電気めっき浴(上村工業(株)製スルカップETN浴、CuSO4・5H2O;80g/l, H2SO4;200g/l,Cl-;50ppm,スルカップETN-1A;1ml/l, スルカップETN-1B;10ml/l)中で、5A/dm2 で30℃、80分間電気めっきを行った(図3、ステップS17)。その結果、銅めっき膜厚はおよそ50μmに達した。これに1cm幅の切りを入れて、その端を2cm剥がし、島津オートグラフP-100により、5mm/minの速度でT字型剥離試験を行い、基板と銅箔の接着強度を測定したところ0.85fkg/cmの剥離強度を得た。以上の結果はPET表面に十分な接着強度の銅配線部と銅接点部(額縁部)ができたことを示す。
【0092】
一方、TESTT処理しないPETまたはコロナ放電による表面改質をしていないがTESTT処理したPETにマスクを当てて紫外線照射後、触媒液浸漬、そして無電解銅めっき浴に40℃で100分間浸漬しても、銅の析出は配線部、額縁部及び非線部に全く起こらなかった。
【0093】
銅配線部と銅接点部が形成されたPET板は、トリアジントリチオール(TT)モノソジウム50mg/lとN(CH2CH2OH)3
37mgの水溶液100gに60℃で60秒間浸漬すると表面にトリアジントリチオールトリ銅塩が生成する。
【0094】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)、エピコートE-1、エポキシ等量170)100質量部、紫外線吸収剤(三井東圧(株)、SIR-159)0.5質量部、3官能性イソシアナート(住友バイエルウレタン(株)、スミジュールN)5質量部、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール2質量部、トルエン50質量部をミキサーで混合した赤外線吸収剤塗料ペーストを調製し、銅配線部と非配線部のPET基板上に20μm塗布する(図3、ステップS19)。
【0095】
さらに、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)、エピコートE-1、エポキシ等量170)100質量部、ケッチンブラック30質量部、3官能性イソシアナート(住友バイエルウレタン(株)、スミジュールN)5質量部、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール2質量部、酢酸エチル100質量部をミキサーで混合した導電性塗料ペーストを調製し、額縁部のPET基板上に20μm塗布する(図3、ステップS20)。
【0096】
それぞれの塗料ペーストを塗布したPET基板を室温で乾燥後、オーブン中で80℃で20分間、そして150℃で30分間加熱して硬化した(図3、ステップS21)。赤外線遮断処理及び導電性処理PET基板における幾何学図形模様の開口率は81%であった。
【0097】
赤外線遮断処理及び導電性処理PET基板における電磁波シールド性は47dBであった。
【0098】
赤外線遮断処理及び導電性処理PET基板の非線部における400から700nmの可視光透過率(ダブルビーム分光光度計、島津製作所製)は66%(塗料ペースト塗布前:66%)であった。
【0099】
配線部の線(25μm)は50cmの距離から目視で観察した結果、視認できなかった。
【0100】
配線部PETと塗料フィルムとの間の接着強度は1.6kgf/cm(コロナ放電しない場合:0.25kgf/cm)、額縁部の銅箔と塗料フィルムの接着強度は1.3 kgf/cm(TT処理しない場合:0.15kgf/cm)であった。

【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】幾何学模様のマスクの一例を示す図である。
【図2】基板上に形成される幾何学模様の配線の一例を示す図である。
【図3】本発明の実施形態における処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態における基板表面の変化を説明するための図である。
【符号の説明】
【0102】
10…幾何学模様のマスク
11…額縁部に対応する光不透過部
12…配線部に対応する光不透過部
13…非線部に対応する光透過部
21…額縁部
22…配線部
23…非線部
41…OH基未含有PET
42…OH基含有PET
43…SH基含有PET


【特許請求の範囲】
【請求項1】
OH基を含有する透明な基板の表面に、[化1]の一般式で示されるチオール反応性アルコキシシラン化合物を付着させ、
前記基板の表面に配線パターンに対応するマスクを用いて紫外線を照射し、
パラジウム、白金、銀、スズ、アミン錯体からなる群から選択される触媒を含有する溶液に浸漬して、前記基板の表面であって前記紫外線が照射されていない部分に、前記触媒を担持させ、
導電性金属を含有する溶液に浸漬して、前記基板の表面であって前記触媒が担持されている部分に、導電性金属を析出させることを特徴とする透明電磁波シールド基板の製造方法。
【化1】


(式中、Rは水素原子または炭化水素基を示し、Rは異種原子または官能基を含む炭化水素鎖を示し、Xは水素原子または炭化水素基を示し、Yはアルコキシ基を示し、nは1,2又は3の自然数を示し、Mはアルカリ金属を示す。)
【請求項2】
Rは硫黄原子、窒素原子、カルバモイル基またはウレア基を含む炭化水素鎖であることを特徴とする請求項1に記載の透明電磁波シールド基板の製造方法。
【請求項3】
RはH−,CH3−,C2H5−,n−C3H7−,CH2=CHCH2−,n−CH−,CH−,CH11−のいずれかであり、
R2は−CH2CH2−,−CH2CH2CH2−,−CH2CH2CH2CH2CH2CH2−,−CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2−,−CH2CH2SCH2CH2−,−CH2CH2CH2SCH2CH2CH2−,−CH2CH2NHCH2CH2CH2−,−(CH2CH2)2NCH2CH2CH2−,−CH−,−CHCH−,−CH2CHCH2−,−CH2CH2OCONHCH2CH2CH2−,−CH2CH2NHCONHCH2CH2CH2−,−(CH2CH2)2CHOCONHCH2CH2CH2−のいずれかであり、
XはH−,CH−, C2H−, n−CH−, i−CH−, n−CH−, i−CH−,t−CH−のいずれかであり、
YはCHO−, C2HO−, n−CHO−, i−CHO−, n−CHO−, i−CHO−,t−CHO−のいずれかであり、
nは1,2又は3の自然数を示し、
MはLi, Na, K, Ceのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の透明電磁波シールド基板の製造方法。
【請求項4】
OH基を含有しない透明な基板に、OH基を含有する樹脂を吸着させまたはコートして、前記OH基を含有する透明な基板を得ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の透明電磁波シールド基板の製造方法。
【請求項5】
OH基を含有しない透明な基板に、プラズマ処理、紫外線照射処理またはコロナ放電処理のいずれか一方または双方を行って、前記OH基を含有する透明な基板を得ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の透明電磁波シールド基板の製造方法。
【請求項6】
OH基を含有しない透明な基板を、ホルムアルデヒド水溶液に浸漬して、前記OH基を含有する透明な基板を得ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の透明電磁波シールド基板の製造方法。
【請求項7】
前記透明な基板の表面であって前記触媒が担持されている部分に、前記導電性金属を析出させた後に、[化2]の一般式で示されるトリアジンジチオール誘導体溶液に浸漬して前記導電性金属部に接着性を有する皮膜を形成することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の透明電磁波シールド基板の製造方法。
【化2】


(式中、RはH−, HO−, HS−, H2N−, CH3O−, CH3S−, CH3NH−, (CH3)2N−, C2H5−, C2H5O−, C2H5S−, C2H5NH−, (C2H5)2N−, n−C3H7−, n−CHO−,n−CHS−, n−CHNH−, (n−CH)2N−, CH2=CHCH2−, CH2=CHCH2O−, CH2=CHCH2S−, CH2=CHCH2NH−, (CH2=CHCH2)2N−, n−CH−, n−CHO−, n−CHS−, n−CHNH−, (n−CH)2N−, CH−, CHO−, CHS−, CHNH−, (CH)2N−, CH11−, CH11O−, CH11S−, CH11NH−, (CH11)2N−のいずれかであり、
MはLi, Na, K, Ce, CH3NH3, (CH3)2NH2, C2H5NH3, (C2H5)2NH2, NH3CH2CH2OH, NH2(CH2CH2OH)2, NH(CH2CH2OH)3, NH3CH2CH2(CH3)OH, NH2(CH2CH2(CH3)OH)2, NH(CH2CH2(CH3)OH)3のいずれかである。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−329302(P2007−329302A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−159415(P2006−159415)
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(504165591)国立大学法人岩手大学 (222)
【Fターム(参考)】