説明

電磁波吸収性に優れた積層型樹脂塗装金属板

【課題】電磁波吸収性および加工性の両方に優れた樹脂塗装金属板を提供する。
【解決手段】金属板の少なくとも片面に、導電性粒子を含有する導電性樹脂皮膜(A)を備えた樹脂塗装金属板であって、金属板と導電性樹脂皮膜(A)との間に、導電性粒子を含有しない樹脂皮膜(B)を有している。導電性樹脂皮膜(A)は、10〜60質量%の導電性粒子を含有し、且つ、厚さ:3〜50μmの範囲である。導電性粒子を含有しない樹脂皮膜(B)の厚さは、3〜50μmの範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波吸収性に優れた積層型樹脂塗装金属板に関し、詳細には、導電性樹脂皮膜と金属板との間に導電性粒子を含有しない樹脂皮膜を有する積層型樹脂塗装金属板に関するものである。本発明の樹脂塗装金属板は、例えば、電子・電気・光学機器等(以下、電子機器で代表させる場合がある。)における筐体等の構成素材に好適に用いられ、例えば、CD、LD、DVD、CD−ROM、CD−RAM、PDP、LCD等の情報記録製品;パソコン、カーナビ、カーオーディオビジュアル等の電気・電子・通信関連製品;プロジェクター、テレビ、ビデオ、ゲーム機等のAV機器;コピー機、プリンター等の複写機;エアコン室外機等の電源ボックスカバー、制御ボックスカバー、自動販売機、冷蔵庫等に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
電子機器の高性能化・小型化が進むなか、電子機器などの筐体には、電子機器の内部で発生する電磁波が外部に漏洩しないように、あるいは、電子機器の外部から侵入する電磁波が内部に侵入しないように、電磁波シールド性に優れていることが要求される。電磁波シールド性とは、電子機器の内部・外部を問わず、電磁波の漏洩を防止する特性を意味する。
【0003】
これまで、電子機器用筐体の電磁波シールド性向上方法は色々提案されている。例えば、「電磁波は、空気穴や配線穴から漏れるだけでなく、鋼板同士の隙間からも漏れる」点に着目し、電気亜鉛めっき鋼板などのような導電性に優れた材料を用いることによって鋼板同士の電気的接続を向上させ、電磁波の漏洩を減少させる方法が提案されている。しかし、この方法では、空気穴や配線穴からの電磁波の漏洩を充分有効に防止することは出来ない。
【0004】
一方、本願出願人は、電磁波シールド性を高められる電磁波吸収性に優れた鋼板として、磁性粉末などの電磁波吸収添加剤を含む磁性塗膜が、少なくとも鋼板の裏面(筐体を構成する内部側面)に被覆された樹脂塗装金属板を開示している(特許文献1および特許文献2)。特許文献1では、主に、金属板として電気亜鉛めっき鋼板(EG)を用いており、特許文献2では、金属板の種類を合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)に限定している。
【0005】
これらの技術は、「電子機器から発生する電磁波は、鋼板に対して吸収するよりも反射することが多い」点に着目してなされたものであり、上記のように裏面側に磁性塗膜を設ければ、筐体内部で発生した電磁波が鋼板に多重反射するなどして吸収されるため、最終的に、空気穴などから筐体外部へ漏洩する電磁波の減衰効果が発揮されると考えられる。多重反射の推定メカニズムは、特許文献1に詳述されている。また、上記の方法では、電磁波吸収性だけでなく良好な加工性も兼備できるように、磁性塗膜の厚さを、電磁波吸収性を阻害しない程度に薄く制御している。これにより、上記特許文献に記載の鋼板は、折り曲げ加工などの過酷な加工が要求される電子機器用筐体の構成素材として好適に用いられる。
【特許文献1】特開2005−21572号公報
【特許文献2】特開2006−161129号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、電磁波吸収性および加工性の両方に優れた樹脂塗装金属板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決し得る本発明の積層型樹脂塗装金属板は、金属板の少なくとも片面に、導電性粒子を含有する導電性樹脂皮膜(A)を備えた樹脂塗装金属板であって、前記金属板と前記導電性樹脂皮膜(A)との間に、前記導電性粒子を含有しない樹脂皮膜(B)を有しており、前記導電性樹脂皮膜(A)は、10〜60%(質量%の意味、以下、同じ)の導電性粒子を含有し、且つ、厚さ:3〜50μmの範囲であり、前記導電性粒子を含有しない樹脂皮膜(B)の厚さは、3〜50μmの範囲であるところに要旨を有している。
【0008】
好ましい実施形態において、前記導電性粒子は磁性粉末である。
【0009】
好ましい実施形態において、前記金属板は合金化溶融亜鉛めっき鋼板である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電磁波吸収性および加工性の両方に優れた樹脂塗装金属板が得られるため、電子機器用筐体に用いられる好適な構成素材を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明者は、前述した特許文献1および特許文献2を提案した後も、より高いレベルの電磁波吸収性を発揮し得、しかも加工性にも優れた樹脂塗装金属板を提供するため、磁性塗膜を備えた樹脂塗装金属板を中心に、引き続き検討を行なってきた。その結果、下記(ア)〜(イ)の知見を得た。
【0012】
(ア)前述した特許文献に開示された磁性塗膜と金属板との間に、導電性粒子を含有しない樹脂塗膜をスペーサーとして介在させた積層構造とすると、後記する実施例に示すように、従来よりも良好な電磁波吸収性が得られた。電磁波吸収性のみならず加工性を考慮すれば、上記のスペーサーの膜厚を所定範囲に制御する必要がある。
【0013】
(イ)上記の積層型樹脂塗装金属板では、電磁波吸収に用いられる添加剤の種類は、従来のように磁性金属粉末(代表的には、センダストやパーマロイなど)に限定されず、磁性を有しない導電性の金属粉末(例えば、Al、Cuなどの金属単体など)も用いることができるようになる(後記する実施例を参照)。特に、扁平率の大きい導電性粒子を用いると電磁波吸収作用が向上することが判明した。後記する実施例に示すように、扁平率の大きい金属粉末を用いた場合(実施例1)は、磁性粉末を用いた場合(実施例2)に比べ、概して電磁波吸収性は向上する傾向にあり、とりわけ、金属板(原板)として電気亜鉛めっき鋼板(EG)を用いたときの電磁波吸収性向上効果は、磁性粉末を用いた場合に比べて格段に上昇することが分かった(後記する表1と表3を対比)。
【0014】
本発明のような積層構造とすることによって、磁性塗膜のみを有する従来の単層構造に比べて電磁波吸収性が向上する詳細なメカニズムは不明であるが、金属板と磁性塗膜との間にスペーサーを設けることにより、筐体内部で発生した電磁波の一部が磁性塗膜を通過し、磁性塗膜と金属板との間で多重反射して吸収されるためではないか、などと推察される。
【0015】
本明細書において、「電磁波吸収性に優れている」とは、後記する実施例に詳述するように、後記する図5〜図7に示す測定装置を用いて電磁波吸収性を評価したとき、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)を用いたときは4.0dB以上、電気亜鉛めっき鋼板(EG)を用いたときは0.5dB以上のものを意味している。このように本明細書では、金属板(原板)の種類によって電磁波吸収性の合格基準を変更しているが、これは、前述した特許文献2にも開示したように、電気亜鉛めっき鋼板(EG)に比べて合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)の方が、電磁波吸収性が著しく向上するためである。後記する実施例に示すように、本発明のような積層型樹脂塗装金属板を用いれば、前述した特許文献に記載の単層型樹脂塗装金属板に比べ、金属板としてGAを用いたときの電磁波吸収性が向上するだけでなく、EGを用いたときの電磁波吸収性も向上することから、本発明では、両金属板の合格基準を設定した次第である。
【0016】
なお、本発明では、前述した特許文献に比べ、電磁波吸収性の測定精度を一層高めるために、図5〜図7の電磁波吸収測定装置を用いている。電磁波吸収性を評価するための手法自体は、本発明も前述した特許文献も同じであるが、前述した特許文献に示す装置(特許文献1に記載の図12〜図14、および特許文献2に記載の図6〜図8を参照)を用いて測定を行うと、サンプル鋼板の被測定表面がSUS製フレーム面と接触するなどし、接触抵抗損失分も含んだ電磁波吸収量(実際よりも高い測定値)を示すようになることが、本発明者のその後の研究により判明した。そこで、本発明では、図5〜図7の測定装置を用い、サンプル鋼板の被測定表面はSUS製フレーム面と接触しない、または接触したとしても面積が小さくなるように、サンプル鋼板の形状を変えた。具体的には、図5に示すSUS製フレームに貼り付けるサンプル鋼板の形状を、図6(a)、図6(b)、図7(a)の内側の線に合致するように制御した(詳細は後述する)。本発明の測定装置を用いて得られる電磁波吸収量は、測定誤差が少なくなる分だけ、従来の測定装置を用いた場合に比べて約0.1〜0.2dB程度低くなる傾向にある。
【0017】
従って、電磁波吸収性の合格基準について本発明と前述した特許文献を比較してみると、電気亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板のいずれにおいても、本発明の方が、合格基準は高く設定している。まず、電気亜鉛めっき鋼板に関し、前述した特許文献1も本発明も、いずれも、0.50dB以上を合格基準と定めたが、本発明では、特許文献1に比べて測定値が低く算出されることを勘案すれば、本発明の方が、合格基準は高いことになる。一方、合金化溶融亜鉛めっき鋼板に関し、前述した特許文献2では、3.5dB以上を合格基準と定めたが、本発明では、それよりも更に高い4.0dB以上を合格基準として設定している点で、本発明の方が、合格基準を非常に高く設定していることになる。
【0018】
以下、図1を参照しながら、本発明の積層型樹脂塗装金属板を詳しく説明する。
【0019】
図1に示すように、本発明の樹脂塗装金属板10は、金属板11の上に、導電性粒子を含有しない樹脂皮膜(B、下層皮膜)12と、導電性粒子(図中、X)を含有する導電性樹脂皮膜(A、上層皮膜)13とが順次積層された積層構造を有している。上記の積層構造は、少なくとも、鋼板の裏面(電子機器の筐体からみて内側)に設けられていれば良い。電磁波吸収性は、電子機器部材の内側で要求されるからである。図1には、金属板11の片面にのみ上記の積層構造を有する態様を示しているが、これに限定されず、鋼板の表面(筐体を構成する外部側面)については、(ア)導電性粒子を含有しない樹脂皮膜のみを有する態様、(イ)導電性粒子を含有する導電性樹脂皮膜のみを有する態様、(ウ)本発明のように、導電性粒子を含有しない樹脂皮膜と導電性粒子を含有する導電性樹脂皮膜とが積層された積層構造を有する態様、のいずれも、本発明の範囲内に包含される。
【0020】
以下では、説明の便宜上、導電性粒子を含有しない樹脂皮膜(B)を「スペーサー層」と呼び、導電性粒子を含有する導電性樹脂皮膜(A)を単に「導電性皮膜」と呼ぶ場合がある。導電性皮膜とスペーサー層とは、導電性粒子を含むか含まないかの点で大きく相違しており、樹脂皮膜の組成は同じであっても良いし、異なっていてもよい(詳細は後述する。)。
【0021】
図1において、導電性粒子を含有する導電性樹脂皮膜(A)13は、10〜60%(質量%の意味、以下、同じ)の導電性粒子を含有し、且つ、厚さ:3〜50μmの範囲である。これにより、電磁波吸収性および加工性の両方が高められる。本発明における導電性皮膜を、前述した特許文献1および特許文献2に開示されている磁性皮膜と対比すると、両者は、用いられる電磁波吸収添加剤の種類および含有量(下限)が相違している。本発明では、(ア)電磁波吸収添加剤の種類を、上記特許文献のように磁性粉末に限定せず磁性を有しない導電性粒子(導電性粒子の詳細は後述する。)まで拡大しており、且つ、(イ)導電性粒子の含有量の下限を10%とし、上記特許文献のように磁性粉末の含有量の下限(20%)よりも拡げているが、これらは、いずれも、本発明において、金属板と導電性皮膜との間にスペーサー層を介在させた積層構造の構成を採用したことによる効果である。
【0022】
ここで、導電性皮膜に用いられる「導電性粒子」は、導電性を有する金属粒子(金属粉末)の意味であり、磁性を有する金属粒子(金属粉末)のほか、磁性を有しない金属粒子(金属粉末)も包含される。これらは単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても構わない。
【0023】
磁性を有する金属粒子(金属粉末)としては、前述した特許文献1および特許文献2に開示された磁性粉末が挙げられ、代表的には、磁性合金粉末が挙げられる。磁性合金粉末としては、例えば、パーマロイ(Ni−Fe系合金でNi含有量が35%以上のもの)やセンダスト(Si−Al−Fe系合金)などが挙げられる。
【0024】
磁性を有しない金属粒子(金属粉末)としては、例えば、AlやCuなどの金属単体などが挙げられる。
【0025】
上記導電性粒子の含有量は、電磁波吸収性および加工性の観点から、10〜60%とする。導電性粒子の含有量が10%未満の場合、所望とする電磁波吸収特性が得られない。一方、60%を超えると加工性が低下するほか、スペーサー層との皮膜密着性や耐食性が低下するようになり、電子機器部材用鋼板に要求される特性を満足させることができない。導電性粒子の好ましい含有量は、おおむね、15%以上55%以下であり、より好ましい含有量は、おおむね、20%以上50%以下である。
【0026】
導電性粒子の平均粒径は、おおむね、20μm以下であることが好ましく、大粒径(例えば、30μm以上)の粉末はできるだけ除去することが好ましい。これにより、導電性皮膜の形成が容易となって、加工性や耐食性などの低下を抑制できる。導電性粒子の平均粒径は、一般的な粒度分布計によって分級後の粒子の粒度分布を測定し、その測定結果に基づいて算出される小粒径側からの積算値50%の粒度(D50)を意味する。斯かる粒度分布は、粒子に光を当てることにより生じる回折や散乱の強度パターンによって測定することができ、この様な粒度分布計としては、例えば、日機装社製のマイクロトラック9220FRAやマイクロトラックHRA等が例示される。
【0027】
尚、上述した好ましい平均粒径を満足する導電性粒子は、市販品を使用しても良い。例えば、パーマロイ(78%Ni)[日本アトマイズ加工(株)製SFR−PC78、平均粒径5.7μm]、パーマロイ(45%Ni)[日本アトマイズ加工(株)製SFR−PB45、平均粒径5.8μm]、センダスト[日本アトマイズ加工(株)製SFR−FeSiAl(84.5−10−5.5)、平均粒径6.9μm]などが挙げられる。
【0028】
また、導電性粒子の形状は、扁平状であることが好ましい。後記する実施例に示すように、扁平形状を有する添加剤[旭化成アルミペーストM−301、粒径19μm、厚さ0.4μm]を用いた場合、不規則形状を有する添加剤[パーマロイ(78%Ni)、三菱製鋼(株)製、平均粒径7.8μm]を用いた場合に比べ、電磁波吸収性の向上作用が格段に上昇している。
【0029】
導電性皮膜の厚さは、3〜50μmとする(後記する実施例を参照)。導電性皮膜の厚さが3μm未満では、所望とする電磁波吸収性が得られないほか、導電性粒子の多くが皮膜上に現れるため、外観が悪化し、導電性粒子が脱落するなどの問題がある。一方、導電性皮膜の厚さが50μmを超えると、曲げ加工性が低下してしまう。導電性皮膜の好ましい厚さは、詳細には使用する導電性粉末の種類や含有量などによっても変化し得るが、おおむね、4μm以上40μm以下であり、より好ましい厚さは、おおむね、5μm以上30μm以下である。
【0030】
導電性皮膜および後記するスペーサー層の厚さは、皮膜重量から比重換算する方法によって測定しても良いし、あるいは、樹脂皮膜の断面を顕微鏡観察(SEM写真観察)して測定してもよい。
【0031】
一方、スペーサー層(導電性粒子を含有しない樹脂皮膜)12の厚さは、電磁波吸収性および加工性の両方を向上させるため、3〜50μmの範囲とする。後記する実施例に示すように、スペーサー層の厚さが3μmを下回ると、電磁波吸収性向上効果が小さくなり、一方、厚さが50μmを超える加工性が低下する。スペーサーの好ましい厚さは、おおむね、5μm以上30μm以下であり、より好ましい厚さは、おおむね、8μm以上20μm以下である。
【0032】
上記の導電性皮膜13およびスペーサー層12の樹脂は、同一であっても良いし、異なっていてもよい。いずれにしても、これらの樹脂皮膜を構成するベース樹脂としては、例えば、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂、およびこれら樹脂の混合物または変性した樹脂などが挙げられる。なお、本発明の樹脂塗装金属板は、主に、電子機器の筐体に使用され、曲げ加工性、皮膜密着性、耐食性などの特性が更に要求されることを考慮すると、ポリエステル樹脂若しくは変性ポリエステル樹脂(例えば、不飽和ポリエステル樹脂にエポキシ樹脂を加えて変性させた樹脂)であることが好ましい。
【0033】
樹脂皮膜は、前述したベース樹脂のほか、架橋剤を更に含有しても良い。架橋剤の種類は、樹脂塗装金属板に通常用いられるものであれば特に限定されず、例えば、メラミン系化合物、イソシアネート系化合物などが挙げられる。これらは、単独で使用しても良いし、併用しても良い。架橋剤の含有量(合計量)は、おおむね、0.5〜30質量%の範囲内であることが好ましい。
【0034】
樹脂皮膜は、前述したベース樹脂や架橋剤のほか、公知の添加剤(例えば、防錆剤、艶消し剤、顔料など)を含有してもよい。
【0035】
本発明に用いられる金属板11は、特に限定されず、冷延鋼板、熱延鋼板、電気亜鉛めっき鋼板(EG)、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)、亜鉛と鉄族元素(Fe,Co,Ni)との合金めっき鋼板[特に、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)]、5%Al−Znめっき鋼板、55%Al−Znめっき鋼板、Al等の各種めっき鋼板、ステンレス鋼板等の鋼板類や、公知の金属板等を全て適用することができる。
【0036】
電磁波吸収性向上の観点からすれば、亜鉛と鉄族元素(Fe,Co,Ni)との合金めっき鋼板が好ましい。亜鉛−鉄族元素との合金めっき鋼板としては、ZnとFeとの合金めっき鋼板、ZnとNiとの合金めっき鋼板、ZnとCoとの合金めっき鋼板が挙げられる。電磁波吸収性を確保するという観点からすれば、Fe、Ni、Co含有量は、いずれも、おおむね、5〜20%の範囲内に制御することが好ましい。なお、めっきの方法は特に限定されず、溶融めっき法、電気めっき法のいずれの方法によっても得られる。なお、溶融めっき法、電気めっき法の詳細なめっき条件は特に限定されず、通常用いられている方法を採用することができる。
【0037】
めっきの付着量は、電磁波吸収性を考慮すると、少ない方が良く、例えば、50g/m以下であることが好ましく、40g/m以下であることがより好ましく、35g/m以下であることが更に好ましく、30g/m以下であることが更により好ましい。めっき付着量の下限は、電磁波吸収性の観点からは特に限定されないが、耐食性などを考慮すると、例えば、5g/mであることが好ましく、10g/mであることがより好ましい。
【0038】
更に、コストなどを考慮すると、安価で簡便に製造可能な合金化溶融亜鉛めっき鋼板(ZnとFeとを、溶融めっき法によって合金化した鋼板、GA)の使用が最も好ましい。
【0039】
上記のように、本発明では、金属板として、合金化めっき鋼板を用いることが推奨されるが、そのほかに、めっき付着量を約15g/m以下に制御した純亜鉛めっき鋼板や、冷延鋼板を用いることも可能である。このような合金化を行なわない鋼板を用いることにより、合金化鋼板の使用による問題点(例えば、曲げ加工時に発生するクラックなどのひび割れや剥離など)を回避することができる。
【0040】
例えば、めっきを行なわない冷延鋼板を用いれば、加工の厳しい用途への適用が可能である。ただし、冷延鋼板は耐食性に劣っており、電子機器の筐体への適用を考慮すると総合的な特性評価は低くなることから、冷延鋼板よりも合金化めっき鋼板の使用が好ましい。
【0041】
一方、純亜鉛めっき鋼板を用いれば、加工が激しく、且つ、耐食性も要求される用途への適用が可能である。めっき付着量は、耐食性を有効に発揮させるため、約3g/m以上であることが好ましく、6g/m以上であることがより好ましい。なお、めっき付着量の上限は、電磁波吸収性を考慮すると、15g/mであることが好ましく、12g/mであることがより好ましく、10g/mであることが更に好ましい。
【0042】
金属板は、耐食性向上、樹脂皮膜との密着性向上などを目的として、クロメート処理やリン酸塩処理等の表面処理(下地処理)が施されていてもよい。あるいは、環境汚染等を考慮して、ノンクロメート処理した金属板を使用してもよく、いずれの下地処理が施された金属板も本発明の範囲内に包含される。
【0043】
また、ノンクロメート処理する方法は特に限定されず、通常、使用される公知の下地処理を行えば良い。具体的には、リン酸塩系、シリカ系、チタン系、ジルコニウム系等の下地処理を、単独で、若しくは併用して行うことが推奨される。
【0044】
尚、一般にノンクロメート処理すると耐食性が低下することから、耐食性向上の目的で、塗膜中または下地処理の際、防錆剤を使用しても良い。上記防錆剤としては、シリカ系化合物、リン酸塩系化合物、亜リン酸塩系化合物、ポリリン酸塩系化合物、イオウ系有機化合物、ベンゾトリアゾール、タンニン酸、モリブデン酸塩系化合物、タングステン酸塩系化合物、バナジウム系化合物、シランカップリング剤等が挙げられ、これらを単独で若しくは併用することができる。特に好ましいのは、シリカ系化合物(例えばカルシウムイオン交換シリカ等)と、リン酸塩系化合物、亜リン酸塩系化合物、ポリリン酸塩系化合物(例えばトリポリリン酸アルミニウム等)との併用であり、シリカ系化合物:(リン酸塩系化合物、亜リン酸塩系化合物、またはポリリン酸塩系化合物)を、質量比率で0.5〜9.5:9.5〜0.5(より好ましくは1:9〜9:1)の範囲で併用することが推奨される。この範囲に制御することにより、所望の耐食性と加工性の両方を確保することができる。
【0045】
上記防錆剤の使用によりノンクロメート処理金属板の耐食性は確保できるが、その反面、防錆剤の添加による加工性低下も知られている。その為、塗膜の形成成分として、特にエポキシ変性ポリエステル系樹脂及び/又はフェノール誘導体を骨格に導入したポリエステル系樹脂、及び架橋剤(好ましくはイソシアネート系樹脂及び/又はメラミン系樹脂、より好ましくは両者の併用)を組み合わせて使用することが推奨される。
【0046】
このうちエポキシ変性ポリエステル系樹脂及びフェノール誘導体を骨格に導入したポリエステル系樹脂(例えばビスフェノールAを骨格に導入したポリエステル系樹脂等)は、ポリエステル系樹脂に比べ、耐食性及び塗膜密着性に優れている。
【0047】
一方、イソシアネート系架橋剤は加工性向上作用(加工後の外観向上作用を意味し、後記する実施例では、密着性曲げ試験におけるクラック数で評価している)を有しており、これにより、防錆剤を添加したとしても優れた加工性を確保することが可能となる。
【0048】
また、メラミン系架橋剤は、優れた耐食性を有している。従って、本発明では、前述した防錆剤と併用することにより、非常に良好な耐食性が得られることになる。
【0049】
これらのイソシアネート系架橋剤及びメラミン系架橋剤は単独で使用しても良いが、両者を併用すると、ノンクロメート処理金属板における加工性及び耐食性を一層向上させることができる。具体的には、イソシアネート系樹脂100質量部に対し、メラミン系樹脂を5〜80質量部の比率で含有することが推奨される。メラミン系樹脂が5質量部未満の場合、所望の耐食性が得られず、一方、メラミン系樹脂が80質量部を超えると、イソシアネート系樹脂の添加による効果が良好に発揮されず、所望の加工性向上作用が得られない。より好ましくは、イソシアネート系樹脂100質量部に対し、10質量部以上、40質量部以下、更により好ましくは15質量部以上、30質量部以下である。
【0050】
本発明の樹脂塗装金属板は、金属板(上記下地処理したものも含む)の表面に、上記の様な各種添加剤を含む樹脂皮膜が被覆されたものであるが、必要に応じて、耐疵付き性や耐指紋性などの付与を目的として、導電性皮膜の表面に、更に別の樹脂皮膜を施した三層の皮膜構造としても良い。
【0051】
次に、本発明の樹脂塗装金属板を製造する方法を説明する。
【0052】
本発明の樹脂塗装金属板は、ベース樹脂および架橋剤のほか、必要に応じて種々の添加剤を含む塗料を、公知の塗装方法で金属板の表面に塗布し、焼き付けを行なうことによって所定のスペーサー層および導電性樹脂皮膜を順次形成することによって得られる。
【0053】
塗料の固形分濃度は、使用する塗料の粘度や塗装条件などに応じて、塗布し易いように適切に調整すればよいが、おおむね、10〜50%の範囲内であることが好ましい。
【0054】
焼き付け条件は、例えば、塗料の希釈に用いる溶剤の種類などによって金属板の谷部(凹部)への流れ込みの程度が変化することなどを考慮し、おおむね、1分間以内に焼き付けを完了することが好ましい。
【0055】
塗装方法は特に限定されないが、例えば表面を清浄化して、必要に応じて塗装前処理(例えばリン酸塩処理、クロメート処理など)を施した長尺金属帯表面に、ロールコーター法、スプレー法、カーテンフローコーター法などを用いて塗料を塗工し、熱風乾燥炉を通過させて乾燥させる方法などが挙げられる。被膜厚さの均一性や処理コスト、塗装効率などを総合的に勘案して実用上好ましいのは、ロールコーター法である。
【0056】
本発明の樹脂塗装金属板が適用される電子機器部材としては、例えば、閉じられた空間に半導体素子を内蔵する電子機器部材であって、該電子機器部材は、その外壁の全部または一部が上記電子機器部材用塗装体で構成されている電子機器部材も包含される。上記電子機器部材としては、CD、LD、DVD、CD−ROM、CD−RAM、PDP、LCD等の情報記録製品;パソコン、カーナビ、カーAV等の電気・電子・通信関連製品;プロジェクター、テレビ、ビデオ、ゲーム機等のAV機器;コピー機、プリンター等;エアコン室外機等の電源ボックスカバー、制御ボックスカバー、自動販売機、冷蔵庫等が挙げられる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適切に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0058】
実施例1
本実施例では、導電性粒子として、磁性を有しない金属粒子を用いたときの電磁波吸収性および加工性を調べた。金属板としては、電気亜鉛めっき鋼板(板厚:0.8mm;表裏面に夫々、めっき付着量:20g/mのめっき層が形成されている)および合金化溶融亜鉛めっき鋼板(板厚:0.8mm;表裏面に夫々、めっき付着量:30g/mのめっき層が形成されている。めっき中のFe含有量は10.3%)の2種類を用いた。
【0059】
導電性皮膜およびスペーサー層を形成するための塗料は、以下のようにして調製した。
【0060】
(導電性皮膜用塗料の調製)
まず、ベース樹脂として、東洋紡績(株)製ポリエステル樹脂「バイロンGK780」を、架橋剤として、住友化学(株)製メラミン樹脂「スミマールM−40ST」を、それぞれ用い、ベース樹脂と架橋剤(固形分80%)を重量比80:20で混合してマトリックス樹脂とし、導電性粒子として、旭化成(株)製「アルミペーストM−301」(固形分66%、粒径19μm、厚さ0.4μm)を表1および表2に示した量(樹脂皮膜中の含有量)となるように添加した。この原料組成物の固形分濃度が、15%または30%となるように、キシレン/シクロヘキサノン混合溶剤(キシレン:シクロヘキサノン=1:1)で希釈して、ハンドホモジナイザで10000rpmで10分撹拌し、原料組成物を調製した。
【0061】
(スペーサー層用塗料の調製)
前述した導電性皮膜用塗料の調製において、導電性粒子を添加しなかったこと以外は、上記と同様にして、原料組成物を調製した。
【0062】
このようにして得られた各樹脂皮膜用原料組成物を、表1および表2に示した膜厚となるように各種金属板にバーコートで塗工し、熱風乾燥炉内にて到達板温230℃で約120秒間焼き付けして、樹脂塗装金属板を作製した。樹脂皮膜の厚さは、希釈塗料の固形分濃度、およびバーコート塗装に用いるバーの番手を変えることにより、2〜60μmの範囲内に変化させた。
【0063】
樹脂皮膜の平均厚さは、以下に示す方法で求めた。まず、塗料中にマーカーとして酸化ケイ素(SiO)を1〜10重量%の重量比率で添加し、蛍光X線分析法にてSi付着量を測定した。Si付着量の測定に当たっては、予め、Si量と蛍光X線強度との関係を表す検量線を作成しておき、この検量線に基づき、Si付着量を測定した。次に、上記のようにして測定したSi付着量から、比重換算を行なって樹脂皮膜の重量を算出し、平均厚さt(μm)を求めた。具体的な換算方法は、以下のとおりである。
樹脂皮膜の平均厚さt(μm)={A/(B×C×D)}×1000
式中、
A=Si付着量(mg/m
B=28/60(Si/SiO
C=SiOの重量比率
D=樹脂皮膜の比重(g/cm
【0064】
このようにして得られた樹脂塗装金属板について、以下のようにして電磁波吸収性および加工性を評価した。
【0065】
(電磁波吸収性の評価)
図2は、樹脂塗装金属板の電磁波吸収性を評価する方法を説明する図である。図2に示すように、直方体形状の筐体1内には、高周波ループアンテナ5が設置され、磁界結合されるように構成されている。高周波ループアンテナ5は、コネクタ(図示せず)を介して同軸ケーブル6の一端に接続され、同軸ケーブル6の他端はネットワークアナライザ7に接続されている。ネットワークアナライザ7では、周波数を掃引しながら電磁波を発生し、同軸ケーブル6、高周波ループアンテナ5を経由して筐体1内に入力(高周波入力波:矢印B)するようにされている。筐体1の共振周波数では、入力された電磁波が蓄積されるために、反射量が少なくなる特性が観察される(図3参照)。そして、矢印Cで表される高周波反射波は、観察値としてネットワークアナライザ7に入力(高周波反射波:矢印C)される。
【0066】
このとき、筐体1における下記(1)式で求められるQ値を計測すれば、筐体1内で蓄積されるエネルギーの大きさが分かる。尚、下記(1)式から求められるQ値は、アドミタンス軌道が満足する条件から、求まる周波数差Δfと共振周波数frから計算されるものである(例えば、中島将光著、「森北電気工学シリーズ3 マイクロ波工学 −基礎と原理−」森北出版株式会社発行、第159〜163頁)。
Q値=fr/Δf ‥‥(1)
【0067】
上記(2)式から求められるQ値が小さくなるほど、筐体1内で蓄積されるエネルギーが減ることを意味する。従って、Q値が小さくなる程、筐体1から内部に反射される電磁界レベルも減ることになる。
【0068】
このときの様子を模式的に図4に示すが、この図は、Ez=0、TE011という最も低
い周波数の共振モードでの電磁界分布を図示したものであり、図中、Eは高周波磁界、Fは高周波電界を夫々示している。上記Ezはz方向の電界強度を意味し、TE011は、共
振モードの電磁界分布の姿態を示している。このTEは、z方向に波が進むとして、その横方向に電界が存在することを意味している。添字「011」は、x、y、z方向に対して、y及びz方向には電界の強度分布が1つあり、x方向には電界の強度分布が変化しないことを示している(例えば、上記文献第141〜144頁参照)。
【0069】
また、図4に示した電磁界分布は、以下の式で表せる。
z=H011・cos(ky・y)・sin(kz・z)
y=(−kz・ky/kc2)・H011・sin(ky・y)・cos(kz・z)
x=(−jωμky/kc2)・H011・sin(ky・y)・sin(kz・z)
ここで、ky=π/b、kz=π/c、kc=kyである。b、cは図4の直方体(筐体1)のy、z方向の長さ、jは虚数、ωは各周波数、μは空気の透磁率を夫々示す。
【0070】
本発明者らは、サンプル鋼板の内面に占める割合を100%近くまで(即ち、筐体内面の全面まで)高めることのできる筐体を作製した。図5はこの筐体を構成するSUS製フレーム(枠体)を示す説明図であり、図5(a)は平面図、図5(b)は正面図、図5(c)は左側面図を夫々示している。尚、このフレームは上下左右が対象となるように構成されており、従って底面図は平面図[図5(a)]と、背面図は正面図[図5(b)]と、右側面図は左側面図[図5(c)]と、夫々同一に現れるものである。
【0071】
図5に示したフレームに、図6、図7に示すSUS板を貼りつけて(取り付けネジ)、筐体(240×180×90m)とした。尚、図6(a)はフレームの正面・背面部分に配置されるSUS鋼板(2枚)、図6(b)はフレームの左右側面部分に配置されるSUS板(2枚)、図7(a)は上面部分に配置されるSUS板、図7(b)は底面部分に配置されるSUS板を、夫々示している。サンプル鋼板は、図6(a)、図6(b)、図7(a)の内側の線に合致する形状のものを貼り付けた。
【0072】
上記のような構成によって、筐体を作製すればその内面が100%に近い割合までサンプル鋼板で占めることができる。また、取り付けネジは、そのピッチを20〜40mmとし、接触抵抗を低減しているので、多数個のネジ止めを要するものである。ネジ止めは、トルクを管理することによって、Q値測定の再現性を高めることができる。こうした筐体を用いてQ値を測定し(前記図2)、下記の式によって電磁波吸収性を算出した。
サンプル鋼板の電子波吸収性(dB)=10×log10([EG]/[A])
但し、[EG]:基板となる電気亜鉛めっき鋼板のQ値
[A] :サンプル鋼板のQ値
【0073】
上記方法によって算出された値(dB)が高いほど電磁波吸収性に優れていると評価される。本実施例では、上記のようにして算出された値が、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)の場合では4.0dB以上のものを電磁波吸収性に優れる(合格)と評価し、電気亜鉛めっき鋼板(EG)の場合は0.5dB以上のものを電磁波吸収性に優れる(合格)と評価した。
【0074】
(加工性の評価)
JIS K5600−5−1の耐屈曲性試験に記載のタイプ2の試験装置を用いて、0T曲げ(180゜曲げ)を行い、曲げた後の樹脂皮膜(曲げ後は樹脂皮膜が曲げ部外側にある)の剥離状態を目視で観察し、下記基準で評価した。本実施例では、◎および○を合格とした。
◎ :剥離は全くなし。
○ :加工部の一部分に僅かな微小クラックが生じている。
△ :加工部全体に微小クラックが生じている。
× :加工部全体に亀裂が生じた。
* :表面外観が劣化し、粒子の脱落が生じた。
【0075】
これらの結果を、表1および表2に併記する。上記表中、「下層皮膜」はスペーサー層を意味し、「上層皮膜」は導電性皮膜を意味している。また、これらの表には、総合評価の欄を設け、電磁波吸収性および加工性の両方が合格のものに○、いずれか一方のものが不合格のものに×を付した。総合評価が○のものを「本発明例」とする。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
表1は、電気亜鉛めっき鋼板(EG)を用いたときの結果を示している。表1に示すように、本発明のような積層構造(No.3)を採用すれば、スペーサー層(下層皮膜)を有しない単層構造(No.2)に比べ、電磁波吸収性が向上した。
【0079】
表2は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)を用いたときの結果を示している。表2に示すように、金属板と導電性皮膜(上層皮膜)との間に、厚さが適切に制御されたスペーサー層(下層皮膜)を有する積層構造(No.3〜4、6、10〜13)を採用すれば、スペーサー層を有しない単層構造(No.2)に比べ、電磁波吸収性が向上した。
【0080】
これに対し、スペーサー層(下層皮膜)の厚さが厚いNo.5、導電性皮膜(上層皮膜)の厚さが厚いNo.7では、いずれも、加工性が低下した。また、導電性皮膜の厚さが薄いNo.8、および導電性皮膜に含まれる導電性粒子の含有量が少ないNo.9では、いずれも、電磁波吸収性が低下したほか、No.8では、表面外観が劣化し、粒子の脱落が生じた。
【0081】
実施例2
本実施例では、導電性粒子として、パーマロイ(78%Ni)[三菱製鋼(株)製、平均粒径7.8μm]を用い、表3および表4に示す範囲となるように調整したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂塗装金属板を作製し、電磁波吸収性および加工性を評価した。これらの結果を表3および表4に併記する。
【0082】
【表3】

【0083】
【表4】

【0084】
表3は、電気亜鉛めっき鋼板(EG)を用いたときの結果を示している。表3に示すように、本発明のような積層構造(No.2)を採用すれば、スペーサー層(下層皮膜)を有しない単層構造(No.1)に比べ、電磁波吸収性が向上した。
【0085】
表4は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)を用いたときの結果を示している。表4に示すように、金属板と導電性皮膜(上層皮膜)との間に、厚さが適切に制御されたスペーサー層(下層皮膜)を有する積層構造(No.2、4〜5、7、12〜15)を採用すれば、スペーサー層を有しない単層構造(No.1)に比べ、電磁波吸収性が向上した。
【0086】
これに対し、スペーサー層(下層皮膜)の厚さが薄いNo.3、導電性皮膜の厚さが薄いNo.9、および導電性皮膜に含まれる導電性粒子の含有量が少ないNo.10、11では、いずれも、電磁波吸収性が低下した。また、No.9では、表面外観が劣化し、粒子の脱落が生じた。一方、スペーサー層の厚さが厚いNo.6、導電性皮膜(上層皮膜)の厚さが厚いNo.8、導電性皮膜に含まれる導電性粒子の含有量が多いNo.16では、いずれも、加工性が低下した。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の樹脂塗装金属板の一例を模試的に説明する断面図である。
【図2】塗装鋼板における電磁波吸収性能の評価方法を説明する図である。
【図3】入力された電磁波が筐体の共振周波数で反射量が少なくなる状態を説明する図である。
【図4】電磁波吸収性を測定したときの状態を模式的に示した説明図である。
【図5】電磁波吸収性を測定するための筐体を構成するSUS製フレーム(枠体)を示す説明図である。
【図6】フレームの左右側面部分に配置されるSUS板の形状を示す説明図である。
【図7】フレームの上面部分および底面部分に配置されるSUS板の形状を示す説明図である。
【符号の説明】
【0088】
1 筐体
5 高周波ループアンテナ
6 同軸ケーブル
7 ネットワークアナライザ
10 樹脂塗装金属板
11 金属板
12 導電性粒子を含有しない樹脂皮膜(スペーサー層)
13 導電性粒子を含有する導電性樹脂皮膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の少なくとも片面に、導電性粒子を含有する導電性樹脂皮膜(A)を備えた樹脂塗装金属板であって、
前記金属板と前記導電性樹脂皮膜(A)との間に、前記導電性粒子を含有しない樹脂皮膜(B)を有しており、
前記導電性樹脂皮膜(A)は、10〜60%(質量%の意味、以下、同じ)の導電性粒子を含有し、且つ、厚さ:3〜50μmの範囲であり、
前記導電性粒子を含有しない樹脂皮膜(B)の厚さは、3〜50μmの範囲であることを特徴とする電磁波吸収性に優れた積層型樹脂塗装金属板。
【請求項2】
前記導電性粒子は磁性粉末である請求項1に記載の積層型樹脂塗装金属板。
【請求項3】
前記金属板は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板である請求項1または2に記載の積層型樹脂塗装金属板。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【公開番号】特開2008−246974(P2008−246974A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93805(P2007−93805)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】