説明

電磁誘導加熱調理器用容器およびその製造方法並びに電磁誘導加熱調理器ないし電磁誘導加熱炊飯器

【課題】 破損に対する十分な耐性を有し、食品の迅速かつ均一な加熱ができるカーボン凝結体製の電磁誘導加熱調理器用容器およびこれを装備した電磁誘導加熱調理器ないし電磁誘導加熱炊飯器を得る。
【解決手段】 電磁誘導加熱調理器用容器10は、カーボン凝結体を容器形状に切削加工した容器本体2と、セラミックス前駆体を外層面に載置して焼結固着したセラミックス外層体1とから構成される複層構造体である。容器本体1はコークスが主体の粉粒物を原料にして石油タールピッチと共に混練加圧しながら丸棒状態に押出した押出品を、焼結処理し、切削加工(旋盤等)を用いて容器形状(鍋状等)に加工したもので、セラミックス前駆体は花崗岩の粉砕乾燥体とフリットとベントナイトとの混合体に、SiCを含有するγAl23の繊維を混合した繊維混合体であるから、焼結収縮率の差から、容器本体2はセラミックス外層体1によって締め付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁誘導による加熱を応用した電磁誘導加熱調理器ないし電磁誘導加熱炊飯器、およびこれに設置される電磁誘導加熱調理器用容器および電磁誘導加熱調理器用容器の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電磁誘導加熱調理器は電磁誘導加熱を利用ものであって、磁性体金属が誘導加熱コイルによって形成された高周波磁場中に置かれた際、磁性体金属に渦電流が発生するため、該渦電流によって磁性体金属を発熱させるように構成したものである。たとえば、磁性体金属によってコンロや炊飯器等を構成し、これを電磁誘導加熱調理器としている。
このとき、磁性体金属である鉄やステンレス(以下「鉄鋼」と総称する)などは熱伝導率が劣るため、食品を速やかで均一に加熱することができないという欠点があり、これを排除するため鉄鋼とアルミニウムや銅などを積層したクラッド材が用いられていた。
しかしながら、クラッド材は硬度差や熱膨張率が異なる金属板を貼り合わせたものであるため、鍋や釜など(以下「容器」と総称する)に絞り加工する際、該金属板の剥離や表面疵が発生するという問題、また、容器表面にフッ素樹脂などの耐熱樹脂を塗装する際に、容器が変形するという問題、さらに、一体成形容器に比較して容器全体が均一に熱が伝わらないという問題があった。
【0003】
このため、黒鉛(カーボン)のブロック状成型物を所定の容器形状に切削加工した後、調理面である内面にフッ素樹脂を塗装する誘導加熱調理器が提案されている。かかる発明は、クラッド材の有する前記問題を解決し、かつ、コークスなどの高炭素含有物粉粒を1000〜3000℃の高温下で凝結させた焼結体は適度な導電性と誘電性を有するから、誘導加熱方式の調理器具として有効であり、さらに、容器表面にフッ素樹脂またはガラス状カーボンを塗布することによって調理物を容易に剥離して洗浄を容易にする機能や耐摩耗性を向上させる機能を付与するものである(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
また、容器を陶磁器、石材、ガラス、合成樹脂などで形成し、かかる容器の底面の外側または内側にカーボンなどからなる発熱体を、耐熱性の接着剤を用いて接着する電磁調理用の鍋が提案されている。かかる発明は、調理面が摩耗や引っ掻きの耐性に優れた素材をそのまま活用し、高い強度を有するセラミックスを積層したことによって、落下などの大きな付加応力による破損に対する耐性を改善する手段が期待できるものである(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
さらに、SiCを主成分とする焼成体にSiの溶融液を含浸させて緻密化させることによって表面層の摩耗や傷などに対する耐性を強化する方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平9−75211号公報(第3頁、図1)
【特許文献2】特開平9−70352号公報(第4頁、図4)
【特許文献3】特開平7−303569号公報(第2−3頁、図1)
【特許文献4】特開2003−71555号公報(第8−10頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2に開示された発明は、カーボン粉粒の凝結体には、その組成や凝結の態様からくる脆くて割れ易いという欠点があることから、落下や衝突などの大きな応力の付与によっても割れ易いという欠点があり、かかる破損に対しても十分な耐性が付与されないという問題があった。
【0008】
また、特許文献3に開示された発明は、土鍋の底部分にカーボンの板を接着したものであるため、土鍋の側部(環状部分)に熱が伝わり難くいため、食品を速やかで均一に加熱することができないという問題があった。また、カーボンの凝結体は多くの気孔を含んで成ることから、接着剤が効率的な接合に供する塗布状態を確保するためには、気孔に吸収されて濡れ面を確保する必要があるところ、適正な接着剤の選定(限られた性状の塗料の使用)と高い施工技能(それを用いた塗工に高い技量)が要求され、両者が不充分な場合には接着不良による強度不足が発生したり、過剰の接着剤がカーボンの凝結体が備える気孔に含浸され、本来の電気抵抗に影響を及ぼして効率的な電磁誘導による加熱を行えなくなったりするという問題があった。
【0009】
また、特許文献4に開示された発明は、平板状の多孔質焼結体に溶融したSiを含浸させて高強度、高純度、高熱伝導率のSi−SiC複合体を得るものであるため、鍋等の容器形状には適用することができないという問題があった。また、高温などの特定雰囲気に保持して処理する場合に、熱による分解や加熱時の不均一な膨張に伴ってカーボンの凝結体の凝結部などが破壊されるなどの理由により、強度の低下を招くという問題があった。さらに、改質の領域や添加物の組成比を調整することが困難であるため、所望の抵抗値のカーボン凝結体が得られず、電磁誘導加熱による効率的な発熱が実行されないという問題があった。
【0010】
本発明は、前記課題を解決するためになされたもので、高密度で所望の抵抗値を有するカーボン凝結体でありながら、破損に対しても十分な耐性が付与され、しかも食品を速やかで均一に加熱することができる電磁誘導加熱調理器用容器およびその製造方法、並びに、これを装備した電磁誘導加熱調理器ないし電磁誘導加熱炊飯器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る電磁誘導加熱調理器用容器は、カーボンが主体の粉粒を凝結させてなる成型品を所定形状に加工した容器本体と、該容器本体の外層部分に積層され、かつ焼結固着したセラミックス外層体と、からなる複層構造を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電磁誘導加熱調理器用容器は、カーボン凝結体の外に強固なセラミックス外層体を積層したので摩耗や衝突などの外部応力による耐性が向上すると共に、カーボン凝結体がセラミックス外層体によって締め付けられて固着した複層構造をなしているので、カーボン凝結体からの熱伝導が阻害されることがない。よって、かかる電磁誘導加熱調理器用容器が設置された電磁誘導加熱調理器では、食品を速やかで均一に、しかも効率的に加熱することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、実施形態1として本発明の実施形態に係る電磁誘導加熱調理器用容器を、実施形態2として本発明の実施形態に係る電磁誘導加熱調理器用容器の製造方法を、実施形態3として本発明の実施形態に係る電磁誘導加熱炊飯器を説明する。
【0014】
[実施形態1]
(実施例1:電磁誘導加熱調理器用容器:載置セラミックス外層体)
図1は本発明の実施形態に係る電磁誘導加熱調理器用容器の実施例1を示す断面図である。図1において、電磁誘導加熱調理器用容器(以下「調理容器」と称す)10は、カーボンが主体の粉粒を凝結させてなる成型品を所定形状に加工した容器本体2と、容器本体2の外層部分に積層され、かつ焼結固着したセラミックス外層体1と、からなる複層構造を有している。
すなわち、電磁誘導加熱調理器の加熱コイルからの誘導電流を受けて発熱する容器本体2(鍋等)を適度な電気抵抗を有するカーボン凝結体によって形成し、容器本体2の外面をガラス繊維で強化した多孔質セラミックスで被覆している。以下、製造方法(図4参照)を参考にして詳述する。
【0015】
(容器本体)
容器本体2は、カーボン凝結体を容器形状に切削加工したものである。
すなわち、コークスが主体の粉粒物を原料にして、これを300℃の溶融状態にある石油タールピッチと共に混練して加圧しながら丸棒状態に押出して押出品とし、該押出品を3000℃の無酸素状態で焼結処理をして99.9%以上の純度で、密度が1.7g/cm3のカーボン凝結体を得る。そして、該カーボン凝結体を、切削加工(旋盤等)を用いて肉厚が4mmの容器形状(鍋状等)に加工したものである。なお、該切削加工に際しては、切削屑がカーボン凝結体の気孔内に残留して後述する液状樹脂の含浸を阻害することの無いように、切削屑を吸引するなどして排除している。
【0016】
(セラミックス外層体)
セラミックス外層体1は、後記セラミックス前駆体を容器本体2の外層面に載置した後、焼結したものである。
【0017】
(セラミックス前駆体の作成)
セラミックス前駆体は、花崗岩に20%の煉瓦屑を混合して粉砕した後、200℃で乾燥した粉砕乾燥体と、フリットと、ベントナイトと、を5:1:1の割合で混合した混合体を作成し、該混合体に、SiC(シリコンカーバイト)を約20%含有するγAl23(ガンマーアルミナ)で長さが1〜5mmの繊維を7%混合した繊維混合体に、チクソトロピー性を損なわない程度に水を加えて十分に混合して粘土質状に作成したものである(これについては、茨城県工業試験センター研究報告・第17号を参考に調整した)。
【0018】
(セラミックス前駆体の載置)
次に、前記セラミックス前駆体を2mm厚さの平板に成型する。このとき、練上げるようにして多方面から加圧を繰り返すことによって脱泡している。そして、成型された平板を、容器本体2の外面に沿わせるために載置し、さらに、載置したセラミックス前駆体を、厚さが5mmゴム平板を用いて叩くことによって厚さが0.5〜1.5mmの平滑面を確保しながら容器本体2に貼り付けている。このとき、容器本体2の端面部分の蓋が載置される上縁部を覆うように巻き込んだ位置で、セラミックス前駆体を裁断している。
【0019】
(セラミックス前駆体の焼結)
次いで、セラミックス前駆体(容器本体2の外面に載置されている)を100℃で30分の乾燥処理をした後、無酸素状態で2℃/minの速度で1000℃まで昇温して焼結させる(以下、焼結後のセラミックス前駆体を「セラミックス外層体1」と称する)。したがって、衝突や引っ掻きなどの調理時にかかる各種強度や摩耗に優れたセラミックス外層体1が得られる。
そして、この乾燥と焼結の条件では、セラミックス前駆体の焼結時の収縮率(以下「焼結収縮率」と称す)が1.5〜2.0%であるのに対し、容器本体2(カーボン凝結体に同じ)がほとんど収縮しないことから、セラミックス外層体1は容器本体2を締め付けるように固着して複層構造体が得られている。したがって、セラミックス外層体1と容器本体2との間で熱伝達が阻害されることがない。
【0020】
(調理容器)
以上より、調理容器10は、誘導電流を受けて発熱する容器本体2(カーボン凝結体)と、容器本体2の外面を締め付けるように固着するセラミックス外層体1と、を有するから、破損に対しても十分な耐性が付与される。
また、外側にあるセラミックス外層体1の焼結時の収縮率を、内側にある容器本体2の焼結時の収縮率よりも大きくしているので、前記内層部分を外層部分が締め付けて固着した複層構造が形成され、誘導電流を受けて発熱するカーボン凝結体からの熱伝導を阻害することない。したがって、調理容器10を電磁誘導加熱調理器に設置すると、効率的な加熱と共に、食品を速やかで均一に加熱することができる。
【0021】
(耐性の比較)
調理容器10と比較容器との割れ耐性を比較した。比較容器はカーボン凝結体のみで作成し、該カーボン凝結体を厚さが6mmの同形状に切削加工したものである。すなわち、コンクリート面の上に厚さ10mmのラワン材を載置した疑似床面上に、10cm刻みで高さを代えて落下させ、破損した高さを記録した。その結果、比較容器(カーボン凝結体のみで成形)が80cmの高さから落下させた場合に破損したのに対し、本発明による調理容器10は140cmからの落下した場合でも破損しなかったことから、有意に耐性が向上していることを確認した。
【0022】
(繊維補強)
以上は、セラミックス外層体1をアルミナ繊維で補強したものを例示しているが、本発明はこれに限定するものではなく、これに代えてフライアッシュセメントなどのセメント類や、陶器に用いる粘土を代替物として用いても同様の効果が得られる。
さらに、かかる代替物に無機質の繊維物質を混合してもよい。このとき、かかる無機質の繊維物質は、前記代替物の焼結温度で溶解や結晶形態が変化するなどの変質をきたさない耐熱性を備えるものであればよく、たとえば、前記代替物の焼結温度が500℃であればガラス繊維でも良く、さらに低温で焼結(凝結)できるものであればアラミドなどの耐熱樹脂繊維を用いてもよい。
【0023】
(フッ素樹脂コート層)
なお、調理容器10の内面はカーボン凝結体の表面が剥き出しになっているが、本発明はこれに限定するものではなく、調理容器10の内面(カーボン凝結体の表面に同じ)にフッ素樹脂のコート層の塗装を行い、調理の際に具材が固着するのを防止してもよい。たとえば、プライマーはPES(ポリエーテルスルフォン)などの耐熱樹脂の溶液にPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)微粉末を分散させたものを塗布させた後に、乾燥、その上にPFAの粉末をスプレーなどで吹き付けて載置した後に、380℃に加熱して溶融することによってフッ素樹脂のコート層を塗装することにより完成する。
【0024】
したがって、前記フッ素樹脂のコート層は水などが浸透しないように20〜80μmの厚さを有している。このため、容器本体2(カーボン凝結体)の内部に残留する空気などの気体が調理の温度で膨張して「膨れ」や「白化」が生じるのを防止するため、容器本体2の外部に設けたセラミックス外層体2は、通気性を備えていることが肝要で、多孔性で通気性を備えていることが特長となる。
【0025】
(実施例2:電磁誘導加熱調理器用容器:塗布セラミックス外層体)
図2は本発明の実施形態に係る電磁誘導加熱調理器用容器の実施例2を示す断面図である。すなわち、セラミックス前駆体を容器本体の外面に塗布して製造した電磁誘導加熱調理器用容器である。図2において、電磁誘導加熱調理器用容器(以下「調理容器」と称す)20は、カーボンが主体の粉粒を凝結させてなる成型品を所定形状に加工した容器本体4と、容器本体4の外層部分に積層され、かつ焼結固着したセラミックス外層体3と、容器本体4の内面に塗装されたフッ素樹脂コート層5と、からなる複層構造を有している。なお、調理容器20は、調理容器10(図1参照)と断面形状は同様であって、容器本体2を容器本体4と、セラミックス外層体1をセラミックス外層体3と読み替えたものであるので、共通する内容については説明しない。
【0026】
(容器本体)
調理容器20の容器本体4は、調理容器10の容器本体2と同様であって、肉厚が5mmに加工されたものである。
【0027】
(セラミックス外層体)
セラミックス外層体3は、後記セラミックス前駆体を容器本体4の外層面に塗布(フライアッシュの流動性を利用する)した後、焼結したものである。
【0028】
(セラミックス前駆体)
セラミックス前駆体はフライアッシュからなり、主成分のシリカ(SiO2)とアルミナ(Al2O)が全体の70〜80%を占め、球形微細粒子を成しているので、耐熱性と流動性に富んでいる。すなわち、フライアッシュは高温の燃焼ガス中で浮遊する際に溶融状態を経た石炭灰の粒子を温度が低下するボイラ出口の電気集塵器などで捕集されるものであるため、シンダアッシュ(石炭火力発電所で微紛砕した石炭の微紛炭燃焼ボイラ内での燃焼において、燃焼ガスが空気予熱器・節炭器などを通過する際に落下採取された石炭灰)や、クリンカアッシュ(微紛炭燃焼ボイラの炉底に落下して採取された石炭灰)と相違している。
【0029】
(セラミックス前駆体の塗布)
まず、フライアッシュの100部に対して4部の酸化マグネシウムを添加して空練りし、これにリン酸アルミニウムの80部に対して40部の水を混合したものを添加し、これを撹拌混合して粘調なスラリー液を確保する。
そして、該スラリー液の流動性を利用して、これを容器本体4(カーボン凝結体に同じ)の外側表面に垂らして濡らすようにして塗布し、乾燥するまで室温〜50℃で10〜24時間の放置する。なお、容器本体4はコークスの粉粒物を主体とするカーボン原料を無酸素状態で焼結処理をして得た後に、旋盤を用いた切削加工によって肉厚が5mmの容器形状(釜状、鍋状等)に加工されたものである。
さらに、乾燥した後、1℃/minで350℃まで昇温させた後に1時間の保持をすることにより焼結させる。
【0030】
したがって、容器本体4(カーボン凝結体)の表面に塗布されたスラリー液は、溶媒である水が前記カーボン凝結体の備える気孔に吸収され、容易に乾燥状態になって流動性を失って保持される。このため、前述した乾燥過程で割れを発生することがない。さらに、この乾燥状態のセラミックス前駆体を焼結させることによって生じる収縮は3%程度であるため、焼結後のセラミックス前駆体(以下「セラミックス外層体3」と称す)は、割れを発生することなく、内側の容器本体4を締め付けるように固着して一体化する。
【0031】
(フッ素樹脂コート層)
容器本体4(カーボン凝結体)とセラミックス外層体3とを積層させた調理容器20は、その内面にあるカーボン凝結体の表面にフッ素樹脂のコート層5の塗装を行い、調理の際に具材が固着するのを防止している。すなわち、プライマーはPES(ポリエーテルスルフォン)などの耐熱樹脂の溶液にPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)微粉末を分散させたものを塗布させた後に、乾燥、その上にPFAの粉末をスプレーなどで吹き付けて載置した後に、380℃に加熱して溶融することによってフッ素樹脂のコート層5を塗装することにより完成したものである。
【0032】
したがって、前記フッ素樹脂のコート層5は水などが浸透しないように20〜80μmの厚さを有している。このため、容器本体4(カーボン凝結体)の内部に残留する空気などの気体が調理の温度で膨張して「膨れ」や「白化」が生じるのを防止するため、容器本体4の外部に設けたセラミックス外層体3は、通気性を備えていることが肝要で、多孔性で通気性を備えていることも特長としている。また、セラミックス外層体3は前述のように洗浄の際にたわし等で擦られる際の摩耗に耐えるものである。
【0033】
(実施例3:電磁誘導加熱調理器用容器:載置セラミックス内層体)
図3は本発明の実施形態に係る電磁誘導加熱調理器用容器の実施例2を示す断面図である。すなわち、セラミックス前駆体を容器本体の内面に塗布して製造した電磁誘導加熱調理器用容器である。図3において、電磁誘導加熱調理器用容器(以下「調理容器」と称す)30は、カーボンが主体の粉粒とバインダとを混練した混練体の押出体を所定形状に加工した未焼結容器本体6と、該未焼結容器本体6の内層部分に積層された未焼結セラミックス内層7とを、焼結固着してなる複層構造(それぞれ焼結前後で同じ符号を付している)を有している。なお、調理容器30は、調理容器10(図1参照)と断面形状は同様であるので、共通する内容については説明しない。
【0034】
(セラミックス内層体)
セラミックス内層体7は、実施例2で用いたフライアッシュが主成分であるスラリー状のセラミックス原料をガラス不織布に含浸させ、これを容器本体6(カーボン凝結体)の内面に載置して密着、保持されたものである。このとき、ガラス不織布は100g/m2の坪量のものを用い、含浸させたガラス不織布の表面に残留するスラリー液を排除せずにそのままの状態を保持、乾燥させたものを前駆体として用いている。
【0035】
(押出体)
押出体は、コークスの粉粒物を主体とするカーボン原料と、300℃の溶融状態にある石油タールピッチ(バインダ)とを共に混練しながら加圧して丸棒状態に押し出したものである。そして、冷却(たとえば、自然冷却)した後、所定形状に切削加工される。
【0036】
(前駆体)
容器本体6(焼結前)は、冷却された前記押出体を旋盤の切削加工によって肉厚4mmの鍋状に加工したものである(以下、「押出体加工品」と称す)。このとき、押出体加工品は、原料のコークス粉粒と石油タールピッチを凝集させた状態であって、凝集した原料間に隙間を備えている。
そして、押出体加工品の内面に、スラリー状のセラミックス原料を含浸させたガラス不織布を載置すると、ガラス不織布に残留するスラリーが含む水分を吸収して乾燥状態となるプリプレグの状態となる。これを室温で1昼夜の風乾を行うことにより、カーボンとセラミックスが積層した構造体の前駆体が得られた。
【0037】
(容器本体)
次に、この前駆体を無酸素の状態下を確保したうえで 2℃/minで昇温させ、1300℃で1時間の保持をしたことによって、各原料を凝結させる。
このとき、容器本体6は2〜4%の収縮を来すが、反面、セラミックス原料スラリー液を含浸したガラス不織布(焼結後のものを「セラミックス内層体7」と称する)は、焼結時の収縮率が1%以下であることから、容器本体6(焼結後)がセラミックス内層体7(焼結後)を締め付けるように固着して一体化する。したがって、かかる複層構造では誘導電流を受けて発熱するカーボン凝結体からの熱伝導が阻害されないから、調理容器30を電磁誘導加熱調理器に設置すると、効率的な加熱と共に、食品を速やかで均一に加熱することができる。
【0038】
併せて、容器本体6の原料であるカーボンの一部が、セラミックス内層体7の原料であるシリカ(SiO2、フライアッシュの主成分)の溶融時に反応してSiCを形成することによって接着するので、強固な容器本体6とセラミックス内層体7との積層構造が形成され、容器本体6の強度が大幅に向上している。なお、セラミックス内層体7に無機の繊維状物質を配したことにより、クラックの伝播が防止されるため、割れが抑制され、大幅な強度向上が奏されることが、摩耗試験と落球衝撃とによる評価結果から確認されている。
【0039】
[実施形態2]
(実施例1:電磁誘導加熱調理器用容器の製造方法:載置セラミックス外層体)
図4は本発明の実施形態に係る電磁誘導加熱調理器用容器の製造方法の一例を示すフロー図であって、実施形態1の実施例1に示す電磁誘導加熱調理器用容器(以下「調理容器」と称す)についてのものである。なお、図中、ステップを「S」と表示する。すなわち、調理容器の製造方法は、容器本体を製造する工程(S1〜S4)と、セラミックを貼り付ける工程(S5〜S7)とを有している。
【0040】
(容器本体の製造)
図4において、容器本体の製造は、まず、原料であるコークスが主体の粉粒物と、300℃の溶融状態にある石油タールピッチとを共に混練する工程(S1)と、混練した混合物を加圧しながら丸棒状態に押出して押出品とする工程(S2)と、該押出品を3000℃の無酸素状態で焼結処理をして99.9%以上の純度で、密度が1.7g/cm3のカーボン凝結体を得る工程(S3)と、該カーボン凝結体を切削加工(旋盤等)により肉厚が4mmの容器形状(鍋状成型品)に加工する工程(S4)とを有している。
なお、該切削加工に際しては、切削屑がカーボン凝結体の気孔内に残留して後述する液状樹脂の含浸を阻害することの無いように、切削屑を吸引するなどして排除している。
【0041】
(セラミックス外層体の製造)
セラミックス前駆体として、花崗岩に20%の煉瓦屑を混合して粉砕した後、200℃で乾燥して粉砕乾燥体とし、フリットと、ベントナイトと、を5:1:1の割合で混合した混合体を作成し、該混合体に、SiC(シリコンカーバイト)を約20%含有するγAl23(ガンマーアルミナ)で長さが1〜5mmの繊維を7%混合した繊維混合体に、チクソトロピー性を損なわない程度に水を加えて十分に混合して粘土質状に作成する(これについては、茨城県工業試験センター研究報告・第17号を参考)。
【0042】
(積層構造体の製造)
次に、粘土質状のセラミックス前駆体に多方面から加圧を繰り返すことによって脱泡して、練上げる(S5)。そして、前記セラミックス前駆体を2mm厚さの平板に成型する。このとき、そして、成型された平板を、容器本体(鍋状成型品)の外面に沿わせるために載置し、さらに、載置したセラミックス前駆体を、厚さが5mmゴム平板を用いて叩くことによって厚さが0.5〜1.5mmの平滑面を確保しながら容器本体2に貼り付ける(S6)。このとき、容器本体2の端面部分の蓋が載置される上縁部を覆うように巻き込んだ位置で、セラミックス前駆体を裁断している。
次いで、セラミックス前駆体(容器本体の外面に載置されている)を100℃で30分の乾燥処理をした後、無酸素状態で2℃/minの速度で1000℃まで昇温して焼結させる(S7)。以上により、カーボン製の容器(図中「カーボン製の鍋」と表示している)が製造される。
【0043】
(実施例3:電磁誘導加熱調理器用容器の製造方法:載置セラミックス内層体)
実施形態1の実施例3に示す電磁誘導加熱調理器用容器(セラミックス内層体)の製造方法は、カーボンが主体の粉粒とバインダ(たとえば、石油タールピッチ)とを混練して押し出して押出体を製造する工程と、該押出体を所定形状に加工して容器本体を製造する工程と、該容器本体の内層部分にセラミックス内層体(たとえば、セラミックス原料スラリー液を含浸したガラス不織布)を貼り付けて、これを乾燥・焼結する工程と、を有している(図示しない)。
なお、かかる製造方法は、実施形態1の実施例3の説明に同じであるため詳細な説明を省略する。すなわち、未焼結の押出体に未焼結のセラミックス内層体を貼り付け、該両者を一体的に乾燥・焼結するものであって、該乾燥・焼結の際、外側の容器本体の方が内側のセラミックス内層体よりも大きく収縮するため、容器本体(焼結後)がセラミックス内層体(焼結後)を締め付けるように固着して一体化した複層構造が得られる。
【0044】
したがって、かかる複層構造では誘導電流を受けて発熱するカーボン凝結体からの熱伝導が阻害されないから、調理容器30を電磁誘導加熱調理器に設置すると、効率的な加熱と共に、食品を速やかで均一に加熱することができる。
併せて、容器本体の原料であるカーボンの一部が、セラミックス内層体の原料であるシリカ(SiO2、フライアッシュの主成分)の溶融時に反応してSiCを形成することによって接着するので、強固な容器本体とセラミックス内層体との積層構造が形成され、容器本体の強度が大幅に向上している。さらに、セラミックス内層体に無機の繊維状物質を配したことにより、クラックの伝播が防止されて、割れが抑制され、大幅な強度向上が奏される。
【0045】
[実施形態3]
(電磁誘導加熱炊飯器)
図5は本発明の実施形態に係る電磁誘導加熱炊飯器の構造を示す断面図である。図5において、電磁誘導加熱炊飯器100内に内鍋(電磁誘導加熱調理器10に同じ)10が収納されている場合を例に示している。電磁誘導加熱炊飯器100は、本体101と、本体101に内装固着された内鍋収納部102と、内鍋収納部102の外底部に設けられた電磁誘導加熱用の第一加熱コイル103aと、内鍋収納部102の外底部コーナーに設けられた第二加熱コイル103bと、を有している。
【0046】
内鍋10は、内鍋収納部102に着脱自在に収納され、内蓋107及び外蓋109によって密閉されるものであり、内鍋10と内蓋107との接触部分に蓋パッキン108が設けられ、内蓋107と外蓋109との間には係止材110が設けられている。また、内蓋107及び外蓋109には、蒸気を排出するための蒸気口111が貫通するように設けられている。この蒸気口111は、容器内弁111aと外部弁11bとによって構成されている。さらに、外蓋109には、ユーザからの指示を受け付けたり、電磁誘導加熱炊飯器100の状態を示したりする操作表示部112が設けられている。
【0047】
第一加熱コイル103a及び第二加熱コイル103b(該両者によって誘導加熱コイル103が構成されている)は、スパイラル状に旋回され直列に接続されており、高周波電流が供給されるようになっている。この高周波電流は、インバータ回路(図示しない)から供給されるようになっている。インバータ回路は、制御部(図示しない)により駆動制御されて、電磁誘導加熱される内鍋10の加熱調節を行う。なお、この制御部に用いられる情報として、内鍋10の重量情報や温度情報が利用されている。
【0048】
したがって、内鍋10は前述の電磁誘導加熱調理器10に同じであるから、電磁誘導加熱炊飯器100は、破損に対する十分な耐性を有し、食品を迅速かつ均一に、しかも効率的に加熱することができる。
【0049】
なお、実施形態3として、調理容器として内鍋が設置される電磁誘導加熱炊飯器を例示しているが、本発明はこれに限定するものではなく、所定形状の調理容器が設置される電磁誘導加熱調理器(炊飯器以外)であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上より、本発明の電磁誘導加熱調理器用容器は、破損に対する十分な耐性と良好な熱伝導性が付与されるため、各種電磁誘導加熱調理器に設置される調理容器ないし電磁誘導加熱炊飯器に設置される鍋として広く利用することができる。また、本発明の電磁誘導加熱調理器ないし電磁誘導加熱炊飯器は、食品を迅速かつ均一に、しかも効率的に加熱する各種電磁誘導加熱調理器ないし各種電磁誘導加熱炊飯器として広く利用することができる。さらに、本発明の電磁誘導加熱調理器用容器の製造方法は、電磁誘導加熱調理器用容器の強度を向上する方法として広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態に係る電磁誘導加熱調理器用容器の実施例1を示す断面図。
【図2】本発明の実施形態に係る電磁誘導加熱調理器用容器の実施例2を示す断面図。
【図3】本発明の実施形態に係る電磁誘導加熱調理器用容器の実施例3を示す断面図。
【図4】図1に示す電磁誘導加熱調理器用容器の製造方法の一例を示すフロー図。
【図5】本発明の実施形態に係る電磁誘導加熱炊飯器の構造を示す断面図。
【符号の説明】
【0052】
1:セラミックス外層体、2:容器本体、3:セラミックス外層体、4:容器本体、5:コート層(フッ素樹脂コート層)、6:容器本体、7:セラミックス内層体、10:調理容器、20:調理容器、30:調理容器、100:電磁誘導加熱炊飯器、101:本体、102:内鍋収納部、103:加熱コイル、107:内蓋、108:蓋パッキン、109:外蓋、110:係止材、111:蒸気口、112:操作表示部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンが主体の粉粒を凝結させてなる成型品を所定形状に加工した容器本体と、該容器本体の外層部分に積層され、かつ焼結固着したセラミックス外層体と、からなる複層構造を有する電磁誘導加熱調理器用容器。
【請求項2】
前記セラミックス外層体が前記容器本体を締め付けることによって一体化することを特徴とする請求項1記載の電磁誘導加熱調理器用容器。
【請求項3】
カーボンが主体の粉粒とバインダとを混練して押し出した押出体を所定形状に加工した未焼結容器本体と、該未焼結容器本体の内層部分に積層された未焼結セラミックス内層体とを、焼結固着した容器本体とセラミックス内層体とからなる複層構造を有する電磁誘導加熱調理器用容器。
【請求項4】
前記容器本体が前記セラミックス内層体を締め付けることによって一体化することを特徴とする請求項3記載の電磁誘導加熱調理器用容器。
【請求項5】
前記セラミックス外層体またはセラミックス内層体が、無機質の繊維状物質を含有してなることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の電磁誘導加熱調理器用容器。
【請求項6】
前記セラミックス外層体またはセラミックス内層体が、無機質の繊維状物質からなる不織布にセラミックスを含浸させて積層した後、固化させたものであることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の電磁誘導加熱調理器用容器。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載の電磁誘導加熱調理器用容器と、該電磁誘導加熱調理器用容器を発熱させる高周波磁場発生手段と、を有する電磁誘導加熱調理器。
【請求項8】
本体と、該本体に収納される鍋と、該鍋を開閉自在に覆う蓋と、前記鍋を発熱させる誘導加熱コイルと、該誘導加熱コイルに高周波電流を供給するインバータ回路と、該インバータ回路を制御する制御部とを備えた電磁誘導加熱炊飯器であって、
前記鍋が請求項1乃至6の何れかに記載の電磁誘導加熱調理器用容器であることを特徴とする電磁誘導加熱炊飯器。
【請求項9】
カーボンが主体の粉粒とバインダとを混練して押し出して押出体を製造する工程と、
該押出体を焼結して焼結体を製造する工程と、
該焼結体を所定形状に加工して容器本体を製造する工程と、
該容器本体の外層部分にセラミックス外層体を貼り付けて、これを乾燥・焼結する工程と、を有する電磁誘導加熱調理器用容器の製造方法。
【請求項10】
前記乾燥・焼結する工程において、前記セラミックス外層体の収縮率が、前記容器本体の収縮率よりも大きいことを特徴とする請求項8記載の電磁誘導加熱調理器用容器の製造方法。
【請求項11】
カーボンが主体の粉粒とバインダとを混練して押し出して押出体を製造する工程と、
該押出体を所定形状に加工して容器本体を製造する工程と、
該容器本体の内層部分にセラミックス内層体を貼り付けて、これを乾燥・焼結する工程と、を有する電磁誘導加熱調理器用容器の製造方法。
【請求項12】
前記乾燥・焼結する工程において、前記容器本体の収縮率が、前記セラミックス内層体の収縮率よりも大きいことを特徴とする請求項11記載の電磁誘導加熱調理器用容器の製造方法。
【請求項13】
前記セラミックス外層体またはセラミックス内層体が、無機質の繊維状物質を含有してなることを特徴とする請求項9乃至12の何れかに記載の電磁誘導加熱調理器用容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−44255(P2007−44255A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−231780(P2005−231780)
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】