説明

電縫溶接部の成形性、低温靭性および耐疲労特性に優れた電縫鋼管およびその製造方法

【課題】電縫溶接部の成形性、低温靭性、耐疲労特性に優れた、引張強さTS:434MPa以上である電縫鋼管を提供する。
【解決手段】電縫溶接部に存在する介在物のうち、円相当径で2μm以上の介在物に含まれる、Si、Mn、Al、Ca、Crの合計量が、質量%で、99ppm以下とする。電縫溶接部は、雰囲気中の酸素濃度を(1000/foxy)ppm以下に調整した雰囲気中で電縫溶接を行うことにより達成できる。電縫溶接後に、肉厚方向平均温度で720〜1020℃の範囲の温度に加熱する電縫溶接部熱処理や、電縫溶接後に、肉厚方向平均温度で720〜1020℃の範囲の温度に加熱して、縮径圧延を行ってもよい。電縫鋼管は、C:0.03〜0.59%、Si:0.10〜1.50%、Mn:0.40〜2.10%、Al:0.01〜0.35%を含有し、あるいはさらに、Ca、Crを含有してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車構造部材用として、また、液体の導管として好適な、引張強さTS:434MPa以上を有する電縫鋼管に係り、とくに電縫溶接部の成形性、低温靭性および耐疲労特性の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
電縫鋼管は、自動車構造部材、あるいは液体の導管として、広く使用されている。しかし、電縫鋼管は、電縫溶接部を有するために、溶接部の信頼性という観点から、電縫鋼管の成形性、低温靭性および耐疲労特性等に問題を残していた。そのため、その用途は、成形性、低温靭性および耐疲労特性の要求が厳しくない用途に限定されていた。しかし、最近では、製造コストの低減要求に伴い、安価で寸法精度に優れた電縫鋼管の用途が拡大される傾向にあるが、電縫溶接部の信頼性向上が大切であり、電縫溶接部の成形性、低温靭性および耐疲労特性の向上が要望されている。
【0003】
このような要望に対し、例えば、特許文献1特開2009−203492号公報には、優れた低温靭性、成形性と耐ねじり疲労特性を兼備する高張力溶接鋼管の製造方法が記載されている。特許文献1に記載された技術では、C,Si,Alを適正範囲とし、Mn:1.01〜1.99%、Nb:0.001〜0.15%を含有し、P,S,N,Oを所定値以下に調整した組成の鋼素材に、加熱し、仕上圧延圧下率:80〜97%、仕上圧延終了温度:980〜760℃とする仕上げ圧延を行う熱間圧延と、熱間圧延終了後、750〜650℃の温度範囲で2s以上の徐冷を行う徐冷処理とを施し、巻取り温度:660〜510℃で巻き取る熱延工程を施して、熱延鋼帯とし、該熱延鋼帯を鋼管素材として、該鋼管素材に、幅絞り率:10%以下とする電縫造管工程を施して溶接鋼管とする。これにより、管最外表面および管最内表面から肉厚方向に50μmまでの領域が、平均結晶粒径が2.0〜14μmで、1.5〜60nmのNb炭化物が析出したフェライト相が60体積%以上と、それ以外の第二相とからなる組織を有し、管最外表面または管最内表面から肉厚方向に50〜200μmの範囲の硬さのばらつきが、所定値の範囲に調整され、優れた低温靭性、成形性と耐ねじり疲労特性を兼備する高張力溶接鋼管が得られるとしている。
【0004】
また、特許文献2特開2008−208417号公報には、熱処理用電縫溶接鋼管が記載されている。特許文献2に記載された技術では、C:0.15〜0.40%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.30〜2.00%、Al:0.01〜0.10%、Ti:0.001〜0.04%、B:0.0005〜0.0050%、N:0.0010〜0.0100%を含み、かつTiおよびNが、N/14 <(Ti/47.9)を満足する組成を有する鋼板を鋼管素材とし、該鋼管素材を成形し略円筒状のオープン管とし、該オープン管の端部同士を突き合わせて、高周波抵抗溶接で電縫溶接部のボンド幅が、25μm以下となるように溶接する偏平性に優れた、熱処理用電縫溶接鋼管の製造方法が記載されている。特許文献2に記載された技術によれば、耐久性に優れるとともに、電縫溶接部の減炭幅が小さくなり、急速加熱焼入れ処理を施しても、電縫溶接部の硬さが低下することはないとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−203492号公報
【特許文献2】特開2008−208417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、母材部の硬さばらつきは小さく調整できるが、電縫溶接部での硬さばらつきを少なく調整できるまでに至っておらず、電縫鋼管の母材部はもちろん、電縫溶接部の低温靭性、成形性、耐ねじり疲労特性に優れた電縫鋼管を製造できるまでに至っていないという問題がある。
また、特許文献2に記載された技術では、電縫溶接部に存在する介在物についての配慮がなく、そのため、電縫溶接部の靭性低下が著しく、また、疲労強度が280MPa以下と耐疲労特性の低下が著しいという問題がある。
【0007】
本発明は、上記した従来技術の問題を解決し、引張強さTS:434MPa以上を有し、電縫溶接部における成形性、低温靭性、および耐疲労特性に優れた電縫鋼管およびその製造方法を提供することを目的とする。
なお、ここでいう電縫溶接部における「成形性に優れた」とは、JIS G 3445の規定に準拠した偏平試験で得られる偏平高さHと管の外径Dとの比H/Dが、0.05×TS(MPa)以上である場合をいうものとする。また、ここでいう「偏平高さH」は、JIS G 3445に規定された偏平試験に準拠して、電縫部を圧縮方向に直角に置いた電縫鋼管を二枚の平板間に挟み、圧縮して、管の壁に亀裂が発生する限界の高さHであり、本発明では、偏平高さHと電縫鋼管の外径Dとの比、H/D×100(%)を、電縫溶接部の成形性の指標として用いる。なお、引張強さTSに対応した成形性を評価するために、H/D/TSで評価し、H/D/TSが0.05以上である場合を、成形性に優れた電縫鋼管という。
【0008】
また電縫溶接部における「低温靭性に優れた」とは、引張強さに応じて決定される評価基準温度で、シャルピー衝撃試験を実施し、得られた吸収エネルギーが120(J/cm)以上である場合をいうものとする。なお、引張強さTSに応じて決定される評価基準温度(T(℃))は、(TS(MPa)−1000)×0.1)で算出される温度である。また、使用する衝撃試験片は、ノッチ位置が電縫溶接部中心となるように、管周方向に採取したVノッチ試験片とし、試験片厚さは、管肉厚のままとする。そのため、得られた吸収エネルギーを、使用した衝撃試験片の断面積で徐した値(単位断面積あたりの吸収エネルギー値)(J/cm)を用いて、靭性を評価するものとする。
【0009】
また、電縫溶接部における「耐疲労特性に優れた」とは、σ/TSが0.45以上である場合をいうものとする。ここでσは、電縫溶接部を中心として管周方向に曲げ疲れ試験片(JIS1号試験片)を採取し、JIS Z 2275の規定に準拠して、完全両振りで平面曲げ疲れ試験を実施し、10サイクル後に未破断である応力のうち最高応力をσとして求め、σと引張強さTSとの比、σ/TSを耐疲労特性の指標として、耐疲労特性を評価する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記した目的を達成するため、電縫溶接部に存在する介在物に着目し、電縫溶接部の成形性、低温靭性、耐疲労特性に及ぼす介在物の影響について鋭意検討した。
その結果、電縫溶接部中の介在物の大きさと、その介在物中に含まれる合金元素、とくにSi、Mn、Al、さらにはCa、Crの合計含有量が、成形性、低温靭性、耐疲労特性に大きな影響を及ぼすことを見出した。
【0011】
そして更なる検討の結果、電縫溶接部に存在する、円相当径で2μm以上の介在物に含まれるSi、Mn、Al、Ca、Crの合計量を、地鉄を含む電縫溶接部全量に対する質量%で99ppm以下に調整することにより、成形性、低温靭性、耐疲労特性が顕著に向上することを見出した。なお、ここで「円相当径2μm以上の介在物」とは、電解抽出物(介在物)を穴径2μmのフィルターメッシュを用いて濾過して、得られた電解抽出物(介在物)をいう。
【0012】
まず、本発明の基礎となった実験結果について説明する。
Si、Mn、Al、あるいはさらにCa、Crを含む種々の鋼帯を素材として、該素材に、連続的にロール成形を施し、略円筒状のオープン管としたのち、該オープン管の端部同士を押圧し、雰囲気中の酸素濃度を種々変化させて電縫溶接し、電縫鋼管とした。
得られた電縫鋼管から、JIS Z 2242の規定に準拠して、電縫溶接部を中心として管円周方向に、シャルピー衝撃試験片(Vノッチ試験片:管肉厚のサブサイズ試験片)を採取した。なお、ノッチ位置は電縫溶接部中心とした。得られたシャルピー衝撃試験片(Vノッチ試験片)を用いて、衝撃試験を実施し、吸収エネルギーを求めた。試験温度は、引張強さに応じて決定される評価基準温度とした。なお、評価基準温度T(℃)は、次式
T(℃)=(TS(MPa)−1000)×0.1)
で算出される温度とした。上記した試験温度で、各3本試験し、その算術平均値を、各電縫鋼管の電縫溶接部の吸収エネルギーとした。なお、得られた吸収エネルギーは、使用した衝撃試験片の断面積で徐した値(単位断面積当たりの吸収エネルギー値)(J/cm)を用いた。
【0013】
また、得られた電縫鋼管から、JIS G 3445の規定に準拠した偏平試験片(管形状)を採取し、JIS G 3445の規定に準拠して偏平試験を実施し、偏平高さHを求めた。得られた偏平高さHと電縫鋼管外径Dとの比H/Dを、成形性の指標とした。
また、得られた電縫鋼管から、電縫溶接部を中心として管周方向に、曲げ疲れ試験片(JIS1号試験片)を採取し、JIS Z 2275の規定に準拠して、完全両振りで平面曲げ疲れ試験を実施し、疲れ強度を求めた。10サイクル後に未破断である応力のうち最高応力を疲れ強度σとした。得られた疲れ強度σと引張強さTSとの比、σ/TSを耐疲労特性の指標として、耐疲労特性を評価した。
【0014】
また、得られた電縫鋼管から、電縫溶接部を中心として、電解抽出用板状試験片(大きさ:厚さ管肉厚×幅2mm×長さ20mm)を採取した。これら試験片を用いて、電解液を10%AA液として介在物を電解抽出し、穴径2μmのフィルターメッシュを用いて、濾過した。濾過された電解抽出物(円相当径2μm以上の介在物)を、さらに、アルカリ融解し、ICP(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometer)分析を実施して、介在物中に含まれるSi、Mn、Al、Ca、Crを分析し、円相当径2μm以上の介在物中のSi、Mn、Al、Ca、Crの合計含有量(地鉄を含む電縫溶接部全量に対する質量%)を求めた。
【0015】
得られた結果を、評価基準温度T(℃)での電縫溶接部の吸収エネルギー(J/cm)、σ/TS、およびH/D/TSと、円相当径2μm以上の介在物中のSi、Mn、Al、Ca、Crの合計含有量(質量ppm)との関係で図1に示す。
図1から、円相当径2μm以上の介在物中のSi、Mn、Al、Ca、Crの合計含有量が、99質量ppm以下であれば、TSに応じた評価基準温度での電縫溶接部の吸収エネルギーが120(J/cm)以上を確保でき、低温靭性に優れた電縫溶接部となることを知見した。
【0016】
また、図1から、円相当径2μm以上の介在物中のSi、Mn、Al、Ca、Crの合計含有量が、99質量ppm以下であれば、σ/TSが0.45以上を容易に確保でき、耐疲労特性に優れた電縫溶接部となることを知見した。
また、図1から、円相当径2μm以上の介在物中のSi、Mn、Al、Ca、Crの合計含有量が、99質量ppm以下であれば、H/D/TSが0.05以下となり、電縫溶接部の成形性が向上した電縫溶接部となることを見出した。
【0017】
また、本発明者らは、電縫溶接時の雰囲気中の酸素濃度を、体積%で、(1000/foxy) ppm以下に調整することにより、電縫溶接部に存在する、円相当径2μm以上の介在物中のSi、Mn、Al、Ca、Crの合計含有量が、99質量ppm以下となることを見出した。なお、foxyは、次(1)式
foxy=Mn+10(Si+Cr)+100Al+1000Ca‥‥(1)
(ここで、Mn、Si、Cr、Al、Ca:素材である鋼帯中の各元素の含有量(質量%))
で定義される易酸化度foxyである。電縫溶接部に存在する、円相当径2μm以上の介在物中のSi、Mn、Al、Ca、Crの合計含有量と、(1000/foxy)/(電縫溶接雰囲気中の酸素濃度(ppm))との関係を図2に示す。
【0018】
図2から、(1000/foxy)/(電縫溶接雰囲気中の酸素濃度(ppm))を1.0以上とすることにより、すなわち、電縫溶接雰囲気中の酸素濃度(ppm)を(1000/foxy)以下にすることにより、電縫溶接部に存在する、円相当径2μm以上の介在物中のSi、Mn、Al、Ca、Crの合計含有量が、99質量ppm以下となることがわかる。
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。
【0019】
すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)電縫鋼管の電縫溶接部に存在する介在物のうち、円相当径で2μm以上の介在物に含まれる、Si、Mn、Al、Ca、Crの合計量が、地鉄を含む電縫溶接部全量に対する質量%で、99ppm以下であることを特徴とする、引張強さTS:434MPa以上を有し、電縫溶接部の成形性、低温靭性および耐疲労特性に優れた電縫鋼管。
(2)(1)において、前記電縫鋼管が、質量%で、C:0.03〜0.59%、Si:0.10〜1.50%、Mn:0.40〜2.10%、Al:0.01〜0.35%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する電縫鋼管であることを特徴とする電縫鋼管。
(3)(2)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0001〜0.0040%を含有することを特徴とする電縫鋼管。
(4)(2)または(3)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cr:0.01〜1.09%を含有することを特徴とする電縫鋼管。
(5)(2)ないし(4)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.01〜0.35%、Mo:0.01〜0.25%、Ni:0.01〜0.20%、B:0.001〜0.0030%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする電縫鋼管。
(6)(2)ないし(5)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb:0.001〜0.06%、V:0.001〜0.06%、Ti:0.001〜0.08%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする電縫鋼管。
(7)鋼帯に、連続してロール成形を施し略円筒形状のオープン管とする成形工程と、該オープン管の端部同士をスクイズロールで押圧しながら電縫溶接し電縫鋼管とする電縫溶接工程と、を順次施す電縫鋼管の製造方法において、前記電縫溶接が、次(1)式
foxy=Mn+10(Si+Cr)+100Al+1000Ca‥‥(1)
(ここで、Mn、Si、Cr、Al、Ca:素材である鋼帯中の各元素の含有量(質量%))
で定義される易酸化度foxyに関連し、酸素濃度を体積%で(1000/foxy) ppm以下に調整した雰囲気中で行う電縫溶接であることを特徴とする、引張強さTS:434MPa以上を有し、電縫溶接部の成形性、低温靭性および耐疲労特性に優れた電縫鋼管の製造方法。
(8)鋼帯に、連続してロール成形を施し略円筒形状のオープン管とする成形工程と、該オープン管の端部同士をスクイズロールで押圧しながら電縫溶接し電縫鋼管とする電縫溶接工程と、該電縫鋼管に縮径圧延を施す縮径圧延工程と、を順次施す電縫鋼管の製造方法において、前記縮径圧延工程が、前記電縫鋼管を高周波誘導加熱により肉厚方向平均温度で720〜1020℃の範囲の温度に加熱し、ストレッチレデューサで縮径圧延を施し、該縮径圧延後、空冷または水冷する工程であることを特徴とする、引張強さTS:434MPa以上を有し、電縫溶接部の成形性、低温靭性および耐疲労特性に優れた電縫鋼管の製造方法。
(9)鋼帯に、連続してロール成形を施し略円筒形状のオープン管とする成形工程と、該オープン管の端部同士をスクイズロールで押圧しながら電縫溶接して電縫鋼管とする電縫溶接工程と、を順次施す電縫鋼管の製造方法において、前記電縫溶接が、前記(1)式で定義される易酸化度foxyに関連し、酸素濃度を体積%で(1000/foxy) ppm以下に調整した雰囲気中で行う電縫溶接であり、前記電縫溶接工程後に、該電縫鋼管に、高周波誘導加熱により肉厚方向平均温度で720〜1020℃の範囲の温度に加熱し、ストレッチレデューサで縮径圧延を施し、ついで空冷または水冷する縮径圧延工程を行うことを特徴とする、引張強さTS:434MPa以上を有し、電縫溶接部の耐HIC性と低温靭性に優れた電縫鋼管の製造方法。
(10)(7)ないし(9)のいずれかにおいて、前記電縫溶接工程が、前記電縫溶接して電縫溶接部を形成した後に、該電縫溶接部の肉厚方向平均温度で、720〜1020℃の範囲の温度に加熱したのち、500℃以下の温度域まで空冷または水冷する冷却を行う電縫溶接部熱処理を含む工程であることを特徴とする電縫鋼管の製造方法。
(11)(10)において、前記電縫溶接部への加熱が、高周波誘導加熱により行う加熱であることを特徴とする電縫鋼管の製造方法。
(12)(10)または(11)において、前記冷却のあとに、焼戻温度:650℃以下の焼戻処理を施すことを特徴とする電縫鋼管の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、厳しい腐食環境下においても電縫溶接部における成形性、低温靭性、および耐疲労特性に優れ、引張強さTS:434MPa以上を有する電縫鋼管を容易に、製造でき、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】電縫溶接部における成形性、低温靭性、および耐疲労特性に及ぼす、円相当径2μm以上の介在物中のSi、Mn、Al、Ca、Crの合計含有量の影響を示すグラフである。
【図2】電縫溶接部に存在する円相当径2μm以上の介在物中のSi、Mn、Al、Ca、Crの合計含有量と、易酸化度、電縫溶接時の雰囲気酸素濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
まず、本発明電縫鋼管の好ましい組成について説明する。以下、とくに断わらない限り質量%は単に%で記す。
C:0.03〜0.59%
Cは、鋼管の強度を増加させる元素であり、本発明では所望の強度(引張強さ434MPa以上)を確保するために0.03%以上含有することが好ましい。また、Cは、電縫溶接時に、融点の低下や、気相中のOとの反応によりCO形成を通じて、電縫溶接時の酸化物形成に影響を及ぼす元素である。一方、Cを0.59%を超えて含有すると、融点の低下に伴い、電縫溶接部の溶鋼の凝固温度が低下し、溶鋼の粘度が上昇するため、酸化物が排出されにくくなる。このようなことから、Cは0.03〜0.59%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.04〜0.49%である。
【0023】
Si:0.10〜1.50%
Siは、固溶強化により、鋼管の強度を増加させる作用を有する元素である。また、Siは、電縫溶接部ではFeよりもOとの親和力が強く、Mn酸化物とともに粘度の高い共晶酸化物を形成する。Siが0.10%未満では、電縫溶接部における共晶酸化物中のMn濃度が高くなり、酸化物の融点が溶鋼温度より高くなり酸化物として電縫溶接部に残存しやすくなる。このため、電縫溶接部に存在する円相当径2μm以上の介在物に含まれるSi等の合計が99ppmを超えて高くなりやすく、電縫溶接部の靭性、成形性、耐疲労特性が低下する。一方、1.50%を超える多量の含有は、電縫溶接部における共晶酸化物中のSi濃度が高くなり、酸化物の融点が溶鋼温度より高くなり酸化物として、その量が多くなるとともに電縫溶接部に残存しやすくなる。このため、電縫溶接部に存在する円相当径2μm以上の介在物に含まれるSi等の合計が99ppmを超えて高くなりやすく、電縫溶接部の靭性、成形性、耐疲労特性が低下する。このようなことから、Siは0.10〜1.50%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.15〜0.45%である。
【0024】
Mn:0.40〜2.10%
Mnは、固溶強化と変態強化により、鋼管の強度増加に寄与する元素である。また、Mnは、電縫溶接部ではFeよりもOとの親和力が強く、Si酸化物とともに粘度の高い共晶酸化物を形成する。Mnが、0.40%未満では、電縫溶接部における共晶酸化物中のSi濃度が高くなり、酸化物の融点が溶鋼温度より高くなり酸化物として電縫溶接部に残存しやすく、電縫溶接部に存在する円相当径2μm以上の介在物に含まれるSi等の合計が99ppmを超えて高くなりやすく、電縫溶接部の靭性、成形性、耐疲労特性が低下する。一方、2.10%を超えて多量に含有すると、電縫溶接部における共晶酸化物中のMn濃度が高くなり、酸化物の融点が溶鋼温度より高くなり酸化物として、その量が多くなるとともに電縫溶接部に残存しやすくなる。このため、電縫溶接部に存在する円相当径2μm以上の介在物に含まれるSi等の合計が99ppmを超えて高くなりやすく、電縫溶接部の靭性、成形性、耐疲労特性が低下する。このようなことから、Mnは0.40〜2.10%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.85〜1.65%である。
【0025】
Al:0.01〜0.35%
Alは、脱酸剤として作用する元素である。またAlは、AlNとして析出してオーステナイト粒の成長を抑制し、靭性の確保に寄与する。また、Alは、Si、MnよりもOとの親和力が強く、2MnO・SiO(Tephroite)などのMn-Si共晶酸化物に固溶する形で酸化物を形成する。Alが0.01%未満では、脱酸能が不足し、鋼の清浄度が低下し、電縫溶接部に存在する介在物(酸化物)が残存しやすくなり、電縫溶接部に存在する円相当径2μm以上の介在物に含まれるSi、Mn、Al等の合計が99ppmを超えて高くなりやすく、電縫溶接部の靭性、成形性、耐疲労特性が低下する。一方、Alが0.35%を超えて多量に含有すると、共晶酸化物中のAl濃度が高くなり、酸化物の融点が溶鋼温度より高くなり酸化物として電縫溶接部に残存しやすくなる。このため、電縫溶接部に存在する円相当径2μm以上の介在物に含まれるSi、Mn、Al等の合計が99ppmを超えて高くなりやすく、電縫溶接部の靭性、成形性、耐疲労特性が低下する。このようなことから、Alは0.01〜0.35%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.03〜0.08%である。
【0026】
上記した成分が基本の成分であるが、これら基本の成分に加えて、さらに、Ca:0.0001〜0.0040%、および/または、Cr:0.01〜1.09%、および/または、Cu:0.01〜0.35%、Mo:0.01〜0.25%、Ni:0.01〜0.20%、B:0.001〜0.0030%のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、Nb:0.001〜0.060%、V:0.001〜0.060%、Ti:0.001〜0.080%のうちから選ばれた1種または2種以上、を必要に応じて選択して含有できる。
【0027】
Ca:0.0001〜0.0040%
Caは、鋼中の硫化物を球状に形態制御する作用を有し、鋼管の電縫溶接部近傍の耐水素脆性、靭性を向上させる。このような効果は0.0001%以上の含有で認められるが、0.0040%を超える多量の含有は、CaとOとの親和力が強いため、酸化物中のCa濃度が増加し、酸化物の融点が溶鋼温度より高くなり酸化物として、その量が増加するとともに、電縫溶接部に残存しやすくなる。このため、電縫溶接部に存在する円相当径2μm以上の介在物に含まれるSi、Mn、Al、Ca等の合計が99ppmを超えて高くなりやすく、電縫溶接部の靭性、成形性、耐疲労特性が低下する。このようなことから、含有する場合は、Caは0.0001〜0.0040%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.0002〜0.0035%である。
【0028】
Cr:0.01〜1.09%
Crは、Mnと同様に、固溶強化と変態強化により、鋼管の強度増加に寄与する元素である。また、Crは、電縫溶接部ではFeよりもOとの親和力が強く、酸化物を形成する。このような効果は、Crを0.01%以上の含有で認められる。一方、1.09%を超えて含有すると、酸化物中のCr濃度が増加し、酸化物の融点が溶鋼温度より高くなり酸化物として、その量が増加するとともに、電縫溶接部に残存しやすくなる。このため、電縫溶接部に存在する円相当径2μm以上の介在物に含まれるSi、Mn、Al、Cr等の合計が99ppmを超えて高くなりやすく、電縫溶接部の靭性、成形性、耐疲労特性が低下する。このようなことから、含有する場合は、Crは0.01〜1.09%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.02〜0.99%である。
【0029】
Cu:0.01〜0.35%、Mo:0.01〜0.25%、Ni:0.01〜0.20%、B:0.001〜0.0030%のうちから選ばれた1種または2種以上
Cu、Mo、Ni、Bはいずれも、耐水素脆性の向上と、鋼管強度の増加を図るために含有する元素であり、必要に応じて選択して含有できる。このような効果は、Cu:0.01%以上、Mo:0.01%以上、Ni:0.01%以上、B:0.001%以上の含有で顕著となる。一方、Cu:0.35%、Mo:0.25%、Ni:0.20%、B:0.0030%を超えて含有しても、効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなり、経済的に不利となる。このようなことから、含有する場合には、Cu:0.01〜0.35%、Mo:0.01〜0.25%、Ni:0.01〜0.20%、B:0.001〜0.0030%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは、Cu:0.05〜0.29%、Mo:0.05〜0.21%、Ni:0.02〜0.16%、B:0.005〜0.0020%である。
【0030】
Nb:0.001〜0.060%、V:0.001〜0.060%、Ti:0.001〜0.080%のうちから選ばれた1種または2種以上
Nb、V、Tiは、いずれも、主として炭化物を形成し、析出強化により鋼管の強度を増加させる元素であり、必要に応じて選択して含有できる。このような効果は、Nb:0.001%、V:0.001%、Ti:0.001%、それぞれ以上の含有で顕著となるが、Nb:0.060%、V:0.060%、Ti:0.080%をそれぞれ超える含有は、未固溶の大型炭窒化物が電縫溶接部に残存し、電縫溶接部の靭性を低下させる。このため、含有する場合には、それぞれ、Nb:0.001〜0.060%、V:0.001〜0.060%、Ti:0.001〜0.080%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくはNb:0.005〜0.050%、V:0.005〜0.050%、Ti:0.005〜0.040%である。
【0031】
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。不可避的不純物としては、P:0.020%以下、S:0.005%以下、N:0.005%以下、O:0.003%以下が許容させる。
さらに本発明電縫鋼管は、上記した組成を有し、引張強さTS:434MPa以上を有し、かつ、電縫溶接部に存在する介在物のうち、円相当径で2μm以上の介在物に含まれる、Si、Mn、Al、Ca、Crの合計量が、地鉄を含む電縫溶接部全量に対する質量%で、99ppm以下である、電縫溶接部を有する。
【0032】
本発明電縫鋼管の電縫溶接部では、該電縫溶接部に存在する、円相当径で2μm以上の介在物に含まれる、Si、Mn、Al、Ca、Crの合計量が、99ppm以下とする。円相当径で2μm以上の介在物に含まれる、Si、Mn、Al、Ca、Crの合計量が、99ppmを超えて多くなると、電縫溶接部の靭性、成形性、耐疲労特性が低下する。
なお、電縫溶接部に存在する、円相当径で2μm以上の介在物に含まれる、Si、Mn、Al、Ca、Crの合計量は、次のようにして求められた値を用いるものとする。当該電縫鋼管から、電縫溶接部を中心として、幅2mmの電解抽出用板状試験片を採取し、電解液を10%AA液として介在物を電解抽出し、得られた電解抽出物(介在物)を、穴径2μmのフィルターメッシュを用いて、濾過し、ついで、濾過された電解抽出物(円相当径2μm以上の介在物)を、さらに、アルカリ融解し、ICP分析を実施して、介在物中に含まれるSi、Mn、Al、Ca、Crを分析し、円相当径2μm以上の介在物中のSi、Mn、Al、Ca、Crの合計含有量を求め、地鉄を含む電縫溶接部全量に対する質量%で表示した。なお、電縫鋼管に含まれない元素は零として扱うものとする。
【0033】
次に、上記したような介在物を調整された電縫溶接部を有する電縫鋼管の好ましい製造方法について説明する。
上記した組成を有する鋼素材(スラブ)を加熱し、熱間圧延して所定の厚さの鋼帯(熱延鋼帯)とする。得られた鋼帯を所定の幅にスリッティングしたのち、本発明では、該鋼帯に、通常公知の造管方法で、連続してロール成形を施し略円筒形状のオープン管とする成形工程と、該オープン管の端部同士をスクイズロールで押圧しながら電縫溶接する電縫溶接工程と、を順次施し、電縫鋼管を得る。
【0034】
なお、造管における成形工程では、ケージロール方式によるロール成形とすることが好ましいが、ブレークダウン方式による成形としてもよい。ケージロール方式によるロール成形では、ケージロールと呼ばれる小型ロールを、管外面となる側に並べて、滑らかに成形する方式のロール成形をいう。なお、ケージロール方式によるロール成形のなかでも、CBR方式のロール成形とすることが好ましい。この方式による成形では、成形時に帯板(鋼帯)に付加される歪を最小限に抑えることができ、加工硬化による材料特性の劣化を抑制できる。
【0035】
CBR方式のロール成形は、鋼帯の両エッジ部をエッジベンドロールにより予め成形したのち、センターベンドロールとケージロールとにより、鋼帯中央部を曲げ成形し、縦長の小判形の素管をつくり、ついで、フィンパスロールにより、管円周方向の4箇所を一旦オーバーベンドしたのち、縮径圧延することにより、管サイド部の張出し成形とオーバーベンド部の曲げ戻し成形を行い円形素管とする成形方法である。(川崎製鉄技報、vol.32(2000)、pp49〜53参照)
本発明では、鋼帯に、連続してロール成形を施し略円筒形状のオープン管とする成形工程後に、該オープン管の端部同士をスクイズロールで押圧しながら電縫溶接する電縫溶接工程を施し、電縫鋼管を得る。
【0036】
電縫溶接工程における電縫溶接は、次(1)式
foxy=Mn+10(Si+Cr)+100Al+1000Ca‥‥(1)
(ここで、Mn、Si、Cr、Al、Ca:素材である鋼帯中の各元素の含有量(質量%))
で定義される易酸化度foxyに関連し、酸素濃度が体積%で(1000/foxy) ppm以下に調整した雰囲気中で行う。電縫溶接の雰囲気中の酸素濃度を低減する方法は、とくに限定されないが、例えば、電縫溶接部を箱型構造でシーリングし、非酸化性ガスを供給する方法が考えられる。なお、非酸化性ガスの供給を、3層などの多層構造のノズルで行い、ガスが層流となるようにすることが、雰囲気酸素濃度を低く保つために、重要となる。酸素濃度の測定は、酸素濃度計を用いて、電縫溶接部近傍で行うことが好ましい。電縫溶接時の雰囲気中の酸素濃度が、体積%で(1000/foxy) ppmを超えて高くなると、電縫溶接部に存在する、円相当径2μm以上の介在物中のSi、Mn、Al、Ca、Crの合計含有量が、99質量ppmを超えて多くなり、電縫溶接部の耐疲労特性、低温靭性および成形性が低下する。このため、電縫溶接時の雰囲気酸素濃度を、体積%で(1000/foxy) ppm以下に調整することが好ましい。
【0037】
また、本発明では、電縫溶接後に、電縫溶接部に電縫溶接部熱処理(焼鈍処理(シームアニール))を施すことが好ましい。電縫溶接部熱処理としては、好ましくは高周波誘導加熱により、電縫溶接部の肉厚方向平均温度で、720〜1020℃の範囲の温度に加熱したのち、500℃以下の温度域まで、空冷または水冷する冷却を施す処理とすることが好ましい。これにより、電縫溶接部の靭性が顕著に向上する。なお好ましくは、上記した水冷後に、電縫溶接部の靭性確保の観点から、650℃以下の温度に焼戻す処理を施してもよい。
また、本発明では、上記した電縫溶接工程後に、さらに電縫鋼管に、縮径圧延を施す縮径圧延工程を施してもよい。電縫鋼管に、縮径圧延を施すことにより、電縫溶接部のマトリックの靭性が向上する。
【0038】
縮径圧延工程における縮径圧延は、電縫鋼管に、高周波誘導加熱により肉厚方向平均温度で720〜1020℃の範囲の温度に加熱したのち、ストレッチレデューサで外径、肉厚を調整する圧延とする。縮径圧延の加熱温度が、720℃未満という低温では、所望の縮径加工を行うことが困難となる。一方、1020℃を超える高温では、結晶粒の粗大化を招き、かえって靭性が低下する。なお、より好ましくは770〜970℃である。
【0039】
なお、縮径圧延の縮径率は20〜85%とすることが、細粒化による靭性向上の観点から好ましい。縮径率が20%未満では電縫溶接部の所望の靭性向上が期待できない。一方、85%を超える縮径は、縮径率が大きすぎて、大きな能力のストレッチレデューサを必要とし、製造コストの増大を招く。
なお、縮径圧延後は、空冷または水冷で、500℃以下の温度域まで、冷却することが好ましい。なお、上記した水冷後に、電縫溶接部の靭性確保の観点から、650℃以下の温度に焼戻す処理を施してもよい。
【0040】
以下、実施例に基づいてさらに本発明を説明する。
【実施例】
【0041】
表1に示す組成の鋼素材(スラブ:肉厚250mm)に、1260℃に加熱し、90min均熱したのち、粗圧延を施し、仕上圧延終了温度:850℃で、巻取温度:580℃とする仕上圧延を施し、熱延鋼帯(板厚2.5mm)を得た。
これら熱延鋼帯を所定の幅にスリティングし、表2に示す条件で連続してロール成形を施し略円筒形状のオープン管とする成形工程と、該オープン管の端部同士をスクイズロールで押圧しながら、表2に示す条件で電縫溶接する電縫溶接工程と、を順次施し、電縫鋼管(外径:101.6mmφ)とした。
【0042】
なお、電縫溶接工程では、Nガスをノズル数3のノズルを用いて吹きつけ、雰囲気酸素分圧を30〜65ppmまで低減する、雰囲気調整を行って電縫溶接した。なお、一部の電縫鋼管では大気中雰囲気のままとした。
なお、一部の電縫鋼管では、電縫溶接後の電縫溶接部に、表2に示す条件の電縫溶接部熱処理を施した。
【0043】
また、一部の電縫鋼管では、電縫溶接工程後の電縫鋼管に、表2に示す条件の縮径圧延工程を施した。
得られた電縫鋼管について、まず電縫溶接部に含まれる円相当径2μm以上の介在物に含まれるSi、Mn、Al、Ca、Crの合計量を測定した。また、得られた電縫鋼管から、引張試験片を採取し、引張試験を実施して、引張強さTSを求めた。また、得られた電縫鋼管から試験片(管状)を採取して、低温靭性、成形性、耐疲労特性をそれぞれ評価した。試験方法はつぎのとおりとした。
(1)電縫溶接部に含まれる円相当径2μm以上の介在物中に含まれるSi、Mn、Al、Ca、Crの合計量の測定
得られた電縫鋼管から、電縫溶接部を中心として、幅2mmの電解抽出用板状試験片を採取した。これら板状試験片を、10%AA液中で電解処理し、介在物を電解抽出した。得られた電解抽出物(介在物)を、穴径2μmのフィルターメッシュを用いて、濾過し、ついで、濾過された電解抽出物(円相当径2μm以上の介在物)を、さらに、アルカリ融解し、ICP分析を実施して、介在物中に含まれるSi、Mn、Al、Ca、Crを分析し、それら元素の合計量を、円相当径2μm以上の介在物中のSi、Mn、Al、Ca、Crの合計含有量とし、地鉄を含む電縫溶接部全量に対する質量%で表示した。なお、電縫鋼管に含まれない元素は零として扱うものとする。
(2)引張試験
得られた電縫鋼管から、管軸方向が引張方向となるように、JIS Z 2201の規定に準拠したJIS 12C号弧状引張試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を実施し、引張特性(降伏強さYS、引張強さTS)を求めた。
(3)シャルピー衝撃試験
得られた電縫鋼管から、JIS Z 2242の規定に準拠して、電縫溶接部を中心として管円周方向に、シャルピー衝撃試験片(Vノッチ試験片:管肉厚のサブサイズ試験片)を採取した。なお、ノッチ位置は電縫溶接部中心とした。得られたシャルピー衝撃試験片(Vノッチ試験片)を用いて、衝撃試験を実施し、吸収エネルギーを求めた。試験温度は、評価基準温度とした。評価基準温度Tは、次式
T(℃)=(TS(MPa)−1000)×0.1)
で算出される温度とした。上記した試験温度で、各3本試験し、その算術平均値を、各電縫鋼管の電縫溶接部の吸収エネルギーvETとした。なお、得られた吸収エネルギーvETは、使用した衝撃試験片の断面積で徐した値(J/cm)を用いた。
(4)偏平試験(成形性試験)
得られた電縫鋼管から、JIS G 3445の規定に準拠した偏平試験片(管形状)を採取し、JIS G 3445の規定に準拠して偏平試験を実施し、偏平高さHを求めた。得られた偏平高さHと電縫鋼管外径Dとの比H/Dを、成形性の指標とした。
(5)疲労試験
得られた電縫鋼管から、電縫溶接部を中心として管周方向に、曲げ疲れ試験片(JIS1号試験片)を採取し、展開試験片として、JIS Z 2275の規定に準拠して、完全両振りで平面曲げ疲れ試験を実施し、疲れ強度を求めた。10サイクル後に未破断である応力のうち最高応力を疲れ強度σとした。得られた疲れ強度σと引張強さTSとの比、σ/TSを耐疲労特性の指標として、耐疲労特性を評価した。
【0044】
得られた結果を、表3に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
【表5】

【0050】
本発明例はいずれも、電縫溶接部に存在する円相当径2μm以上の介在物に含まれるSi、Mn、Al、Ca、Crの合計量が、地鉄を含む電縫溶接部全量に対する質量%で、99ppm以下となり、引張強さTSが434MPa以上を有し、かつH/Dが0.05TS以下、評価基準温度Tで吸収エネルギーvETが120J/cm以上、σ/TSが0.45以上、をそれぞれ満足し、優れた成形性、優れた低温靭性および優れた耐疲労特性を兼備する電縫溶接部を有する電縫鋼管となっている。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、引張強さTSが434MPa未満であるか、電縫溶接部の、H/Dが0.05TS超で成形性が低下しているか、vETが120J/cm未満で低温靭性が低下しているか、あるいはσ/TSが0.45未満で耐疲労特性が低下しているか、あるいは全てが低下した電縫鋼管である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電縫鋼管の電縫溶接部に存在する介在物のうち、円相当径で2μm以上の介在物に含まれる、Si、Mn、Al、Ca、Crの合計量が、地鉄を含む電縫溶接部全量に対する質量%で、99ppm以下であることを特徴とする、引張強さTS:434MPa以上を有し、電縫溶接部の成形性、低温靭性および耐疲労特性に優れた電縫鋼管。
【請求項2】
前記電縫鋼管が、質量%で、C:0.03〜0.59%、Si:0.10〜1.50%、Mn:0.40〜2.10%、Al:0.01〜0.35%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する電縫鋼管であることを特徴とする請求項1に記載の電縫鋼管。
【請求項3】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0001〜0.0040%を含有することを特徴とする請求項2に記載の電縫鋼管。
【請求項4】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Cr:0.01〜1.09%を含有することを特徴とする請求項2または3に記載の電縫鋼管。
【請求項5】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.01〜0.35%、Mo:0.01〜0.25%、Ni:0.01〜0.20%、B:0.001〜0.0030%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載の電縫鋼管。
【請求項6】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb:0.001〜0.06%、V:0.001〜0.06%、Ti:0.001〜0.08%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項2ないし5のいずれかに記載の電縫鋼管。
【請求項7】
鋼帯に、連続してロール成形を施し略円筒形状のオープン管とする成形工程と、該オープン管の端部同士をスクイズロールで押圧しながら電縫溶接し電縫鋼管とする電縫溶接工程と、を順次施す電縫鋼管の製造方法において、
前記電縫溶接が、下記(1)式で定義される易酸化度foxyに関連し、酸素濃度を体積%で(1000/foxy) ppm以下に調整した雰囲気中で行う電縫溶接であることを特徴とする、引張強さTS:434MPa以上を有し、電縫溶接部の成形性、低温靭性および耐疲労特性に優れた電縫鋼管の製造方法。

foxy=Mn+10(Si+Cr)+100Al+1000Ca‥‥(1)
ここで、Mn、Si、Cr、Al、Ca:素材である鋼帯中の各元素の含有量(質量%)
【請求項8】
鋼帯に、連続してロール成形を施し略円筒形状のオープン管とする成形工程と、該オープン管の端部同士をスクイズロールで押圧しながら電縫溶接し電縫鋼管とする電縫溶接工程と、を順次施す電縫鋼管の製造方法において、
前記電縫溶接工程後に、前記電縫鋼管を高周波誘導加熱により肉厚方向平均温度で720〜1020℃の範囲の温度に加熱し、ストレッチレデューサで縮径圧延を施し、ついで空冷または水冷する縮径圧延工程を施すことを特徴とする、引張強さTS:434MPa以上を有し、電縫溶接部の成形性、低温靭性および耐疲労特性に優れた電縫鋼管の製造方法。
【請求項9】
鋼帯に、連続してロール成形を施し略円筒形状のオープン管とする成形工程と、該オープン管の端部同士をスクイズロールで押圧しながら電縫溶接して電縫鋼管とする電縫溶接工程と、を順次施す電縫鋼管の製造方法において、
前記電縫溶接が、下記(1)式で定義される易酸化度foxyに関連し、酸素濃度を体積%で(1000/foxy) ppm以下に調整した雰囲気中で行う電縫溶接であり、
前記電縫溶接工程後に、前記電縫鋼管に、高周波誘導加熱により肉厚方向平均温度で720〜1020℃の範囲の温度に加熱し、ストレッチレデューサで縮径圧延を施し、ついで、空冷または水冷する縮径圧延工程を行うことを特徴とする、引張強さTS:434MPa以上を有し、電縫溶接部の成形性、低温靭性および耐疲労特性に優れた電縫鋼管の製造方法。

foxy=Mn+10(Si+Cr)+100Al+1000Ca‥‥(1)
ここで、Mn、Si、Cr、Al、Ca:素材である鋼帯中の各元素の含有量(質量%)
【請求項10】
前記電縫溶接工程が、前記電縫溶接して電縫溶接部を形成した後に、該電縫溶接部の肉厚方向平均温度で、720〜1020℃の範囲の温度に加熱したのち、500℃以下の温度域まで空冷または水冷する冷却を行う電縫溶接部熱処理を含む工程であることを特徴とする請求項7ないし9のいずれかに記載の電縫鋼管の製造方法。
【請求項11】
前記電縫溶接部への加熱が、高周波誘導加熱により行う加熱であることを特徴とする請求項10に記載の電縫鋼管の製造方法。
【請求項12】
前記冷却のあとに、焼戻温度:650℃以下の焼戻処理を施すことを特徴とする請求項10または11に記載の電縫鋼管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−246550(P2012−246550A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120609(P2011−120609)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】