説明

電解放出装置およびそのような装置の製作方法

電解放出装置(1)は、例えば電解放出型ディスプレイ(FED)において電子放出の際に利用される。電解放出先端部(40)は、電解放出装置(1)の電子放出に用いられる。電解放出装置(1)の作動中、電解放出先端部(40)に電気的に接続された第1の電極(4)と、第2の電極(34)の間に電圧が印加されると、電解放出先端部(40)は、電子を放出する。電解放出先端部(40)を構成するため、第1の電極(4)が提供された基板(2)には、液体材料の層が設置される。液体材料の層は、パターン化されたスタンプによってエンボス加工された後に硬化処理され、電解放出先端構造部(20)が形成される。電解放出先端構造部(20)上には、導電性薄膜(38)が設置され、第1の電極(4)と電気的に接続された電解放出先端部(40)が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解放出装置を製作する方法に関する。
【0002】
また本発明は、電解放出装置に関する。
【背景技術】
【0003】
電解放出装置は、フラットパネル型ディスプレイ、すなわち電解放出型ディスプレイ(FED)と称される真空電子機器の電子源として使用することができる。
【0004】
電解放出とは、印加電場の影響により、適当なエミッタ材料の外表面で電子が電位障壁をトンネルする量子力学的現象である。電場の存在によって、前記外表面での電位障壁の幅が有限となり、電子は、この電位障壁を通過することが可能となる。これにより、電子が電解放出材料から放出される。電解放出装置には、通常ゲート構造(トライオード構造ともいう)が用いられる。ゲート構造は、電解放出材料および2つの電極、すなわちカソード電極とゲート電極を有する。作動中にこれらの電極間には電場が形成され、一般にはカソード電極に隣接して設置される、電解放出材料からの電子放出が可能となる。
【0005】
電解放出型ディスプレイでは、電解放出装置に2組の電極組、すなわち1組のカソード電極と1組のゲート電極が使用される。通常、電極組は、行と列からなるパッシブマトリクス構造を定形する。これにより、電解放出型ディスプレイの表示スクリーン上の各画素に対して、電場さらには電子放出電流を独立に調整することができる。一般に、電解放出材料全体にわたり十分に高強度の電場を得るには、カソードおよびゲート電極は、相互に接近させる必要がある。これを実現するため、電極組の間には誘電体層が提供される。
【0006】
米国特許第6,045,425号明細書には、電解放出先端部の製作方法が示されており、この電解放出先端部は、電解放出装置での電子放出に使用される。電解放出先端部は、時々スピント型(Spindt)エミッタと称され、各々が一つのカソード電極と電気的に接続するように多数の対として形成され、その特定の対に対応するカソード電極とゲート電極に電圧が印加された際に、電子が放出される。米国特許第6,045,425号に示されている電解放出先端部は、高密度プラズマ化学蒸着によって、カソード上に設置された絶縁層に設けられた開口内に形成される。余分な設置材料、すなわち絶縁層上部に形成したいわゆるリフトオフ層は、後続のステップのエッチング処理によって除去される。さらにゲート電極を形成するには、別のステップが必要となる。米国特許第6,045,425号に示されている方法では、多くのステップが必要なため、時間がかかり高コストである。また蒸着時に、電解放出装置の全ての電解放出先端部を同じ寸法で形成することは困難である。従って電解放出装置の領域全体にわたって、不均一な電子放出が生じるという問題がある。
【特許文献1】米国特許第6,045,425号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、電解放出装置を形成する方法を提供することであり、当該方法は、従来の方法に比べて製作工程が短く安価である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は、最初に導入部で示した電解放出装置を製作する方法によって解決することができ、当該方法は、
基板上に導電層を設置するステップと、
前記導電層上に液体材料の層を設置するステップと、
パターン化されたスタンプを液体材料の前記層に押し合わせて、液体材料の前記層をエンボス加工するステップであって、液体材料の前記層には、少なくとも一つの電解放出先端構造部が形成されるステップと、
液体材料の前記層を硬化させるステップであって、これにより、固体化されパターン化された誘電体層であって、少なくとも一つの固体化された電解放出先端構造部を有する誘電体層が形成されるステップと、
前記少なくとも一つの固体化された電解放出先端構造部上に、導電性薄膜を形成するステップであって、前記少なくとも一つの固体化された電解放出先端構造部は、前記導電層と電気的に接続されるステップと、
を有する。
【0009】
本発明の方法では、高品質電解放出先端部の製作に必要なステップの数を減らすことができる。また電解放出先端部の物理形状の制御性が改善される。さらにパターン化スタンプの使用により、電解放出装置の量産が可能となるという利点がある。
【0010】
請求項2に記載の手段には、相互に配置が揃えられた電解放出先端部構造部と電極構造部とを有する電解放出装置の製作が容易になるという利点がある。これらの構造部は、同じパターン化スタンプによって同時に形成されるからである。適切な整列配置の結果として、適正に設定された放出特性が得られる。この特性は、電解放出型ディスプレイのようなディスプレイにおいて、広範囲にわたって均一な放出を得る際に重要となる。別の利点は、電解放出先端構造部および電極構造部は、一つのステップだけで形成されるため、電解放出装置の製作に必要なステップの数を減らすことができることである。
【0011】
請求項3に記載の手段には、電解放出先端構造部、および存在する場合、電極構造部のような、導電性を有する構造部を製作する有効な方法が提供されるという利点がある。蒸着導電性材料は、極めて微細な電解放出先端構造部を前記導電層と電気的に接触させることに適しており、電解放出先端構造部の先端を尖った形状のまま維持することができる。タングステンやモリブデンの膜のような金属膜は、電子放出に極めて適しており、蒸着のような方法によって効率的に設置させることができる。
【0012】
請求項4に記載の手段には、前記導電層を覆う余分な誘電体層を除去することにより、電解放出先端構造部と導電層との電気的接続が、極めて容易に行えるという利点がある。エッチングは簡単な処理であり、形成された微細な構造部同士をつなげ、余分な誘電体材料を除去するには好適である。
【0013】
請求項5に記載の手段には、後続のエッチング処理ステップにおいて、コーティングが、電解放出先端構造部、および存在する場合、電極構造部がエッチングされないように保護するという利点がある。
【0014】
請求項6に記載の手段には、コーティングの施工によって、電極構造部にゲート電極が提供されるという利点がある。また電解放出先端構造部の先端の導電率が向上する。
【0015】
請求項7に記載の手段には、電解放出先端構造部、および存在する場合、電極構造部が有効に保護され、後続のステップにおいて、これらの構造部のエッチングが回避されるという利点がある。撥水性コーティングは、エッチングステップの後に除去され、以降、例えば導電性薄膜を設置することが可能となる。
【0016】
本発明の別の課題は、従来の電解放出装置よりも低コストで製作が容易な電解放出装置であって、高品質で設計通りの品質を有する電解放出装置を提供することである。
【0017】
この課題は、最初に導入部で示した電解放出装置によって解決することができ、当該装置は、
第1の電極が形成される導電層が設置された基板と、
前記第1の電極上に設置された液体材料の層を、パターン化されたスタンプでエンボス加工して、電解放出先端構造部を形成した後、液体材料の前記層の硬化処理を行うことにより形成される電解放出先端部であって、当該電解放出先端部を実質的に覆うように導電性薄膜が形成され、該導電性薄膜は、前記第1の電極と電気的に接続される、電解放出先端部と、
前記第1の電極とともに、前記電解放出先端部全体に電場を印加する第2の電極と、
を有する。
【0018】
本電解放出装置には、低コストで製作することができ、電解放出型ディスプレイ(FED)の量産ができるという利点がある。本発明による電解放出装置の別の利点は、電解放出先端部が、高品質で予測可能な物理的寸法と、例えばFEDに設置されたスクリーンの全領域にわたって、均一な電子放出が可能となる電子放出特性を有することである。
【0019】
請求項9に記載の手段には、電解放出先端部と、例えばゲート電極のような第2の電極が、相互に位置が揃うように配置されるという利点がある。適正な整列配置は、電解放出装置の品質上、極めて重要であるが、従来技術では量産化することは難しい。電解放出先端構造部と電極構造部を、両方のパターンを有するスタンプを用いて同時形成することによって、そのようなスタンプを用いて製作された全ての電解放出装置において、良好な整列配置が確保される。
【0020】
請求項10に記載の手段には、ゲート電極および電解放出先端部、特に電解放出先端部の先端の両方において、十分な導電率が提供されるという利点がある。スタンプによるコーティングの適用によって、製作コストが下がるとともに、広範囲にわたって均一な放出を行うことが可能となる。
【0021】
請求項11に記載の手段には、電解放出先端構造部に尖った先端が提供されるという利点がある。そのような尖った先端は、電解放出先端部から効率的に電子放出ができる点で有意である。
【0022】
電解放出先端部に設置される導電性薄膜は、2乃至50nmの厚さであることが好ましく、5乃至15nmの厚さであることがより好ましい。導電性薄膜が薄い場合、膜厚が電解放出先端構造部の物理的寸法に、実質的に影響されないという利点がある。従って電解放出先端構造部の物理的寸法は、より好適な寸法制御が可能となるようにパターン化されたスタンプによってのみ定めることができる。さらに電解放出先端部の先端の鋭さが、導電性薄膜によって実質的に低下しないという利点もある。尖った先端は、電子放出特性の点で有意である。導電性薄膜は、金属膜であることが好ましい。金属膜は、薄膜であっても高い導電性を示すからである。
【0023】
本発明のこれらのおよび他の態様は、以降に示す実施例を参照することで明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明を、添付図面を参照して以下に詳細に説明する。
【0025】
図には、スケールは示されていない。図の目的は、ミクロンスケール構造の正確な描写ではなく、多くの処理ステップを表現することにある。全般に対応する構成物には、同じ参照符号が付されている。
【0026】
電解放出装置のゲート構造(トライオード構造)は、本発明による方法の実施例を用いて製作される。図1には、トライオード構造を有する電解放出装置1の製作ステップを示す。
【0027】
基板2は例えばガラス板であって、最初に基板には、パターン化されたカソード電極4の形態の導電層が提供される。カソード電極4は、トライオード構造の第1の電極を構成する。液体材料の層6は、図1Aに示すように基板2とカソード電極4の上に設置される。層6は、1から10μmの範囲の厚さであることが好ましく、例えばスピン処理法、スクリーン印刷法または浸漬コーティング処理法によって、基板2の上部に設置される。液体材料は、コロイダルシリカ(ルドックス(Ludox)TM50)およびメチルトリメトキシシラン(MTMS)のサスペンションのようなゾルゲルタイプのものが好ましい。あるいは、液体材料は、感光性化合物を含むポリイミドを有しても良い。この場合、以下に示すエンボス加工ステップと同様のエンボス加工ステップの後に、ポリイミドはUV線で露光され硬化される。
【0028】
エラストマー系のスタンプ8は、例えばシリコンゴムの一種であるPDMS(ポリジメチルシロキサン)からなり、その表面12にはパターン10が形成されている。パターン10は、円錐状の窪み14と、好ましくは円柱状の窪み16とを有する。窪み14、16は、突起部18に取り囲まれている。円錐状の窪み14は、円柱状の窪み16と位置調整されている。
【0029】
図1Bに示すように、押し合わせステップにおいて、スタンプ8の表面12は、液体材料の層6と接するように動かされ、前記液体材料の層6がエンボス加工され、スタンプ8の表面12上のパターン10が液体材料の層6に転写される。従って、層6のエンボス化処理中は、突起部18によって液体材料が押し出されるが、窪み14、16内の液体材料はそこに留まる。これにより、液体材料の層6には、エンボス化パターンが付与され、このパターンは、スタンプ8の窪み14、16および突起部18のパターンと適合する。この処理工程は、「ソフトリソグラフィー」または「液体エンボス加工処理」と呼ばれる。
【0030】
第1の硬化処理ステップでは、層6が70℃まで昇温され、2乃至10分間加熱される。これにより、その後の層6からスタンプ8を取り外すステップにおいて、層6がそのパターンを維持することが可能となる。
【0031】
図1Cには、層6からスタンプ8が取り外された状態を示す。この図からわかるように、円錐状窪み14に対応した層6上の位置には、円錐状電解放出先端構造部20が突出している。円筒状電極構造部22は、円筒状窪み16に対応した層6上の位置に突出している。構造部20、22は、カソード層4から通常1乃至10μmだけ突出し、この高さは、層6の元の高さおよびスタンプ8のパターンの高さに依存する。構造部20、22は、表面12に円筒状窪み16と円錐状窪み14の両方を有するスタンプ8を用いて同時に構成されるため、電極構造部22は、電解放出先端構造部20と位置が揃えられる。
【0032】
スタンプ8を取り外した後、第2の硬化処理ステップが実施され、層6は、好ましくは約350℃まで昇温され、30分間加熱される。第2の硬化処理ステップの間に、層6の液体材料は、固体化誘電体層6に変化する。液体材料の層が上記のゾルゲルタイプのサスペンションを有する場合、固体化誘電体材料は、二酸化珪素および有機的に改質された二酸化珪素を有し、固体化層6の誘電率は、3から4の範囲となる。
【0033】
図1Dには、第2のスタンプ24を示す。スタンプ24は、第1の表面28に薄いサスペンション26を担持する。サスペンション26は、銀または金の粒子のような金属粒子の、未硬化コロイド状サスペンションである。サスペンション26は、サスペンション浴へのスタンプの浸漬によってスタンプ24に塗布される。またサスペンション26を担持する第2の基板(図示されていない)にスタンプ24を接触させることにより、サスペンション26をスタンプ24に塗布することも可能である。サスペンション26は、スタンプ24上に均一層を形成することができ、あるいはより好ましくは、電解放出装置の電極構造に対応したパターンを形成することができる。
【0034】
図1Eには、第2のスタンプ24が固体化層6と接触して、サスペンション26の一部が電解放出先端構造部20および電極構造部22の突起部30上に塗布された状態を示す。これにより、これらの突起部30上にサスペンション26のコーティング32が形成される。塗布ステップの後、スタンプ24は、再度取り外される。次にコーティング32は、約300℃の温度で硬化され、導電性を示すようになる。銀粒子のコロイド状サスペンション26を塗布した場合は、バルクの銀の抵抗率の約1.5乃至2倍の抵抗率が得られる。
【0035】
図1Fには、コーティング32の硬化処理後の状態を示す。電極構造部22上の硬化したコーティングは、ゲート電極34用の第2の電極を形成する。電解放出先端構造部20上の硬化したコーティングは、キャップ36を形成し、それぞれのキャップは、対応する電解放出先端構造部20の尖った先端を保護する。
【0036】
図1Gには、図1FのIG領域の拡大図を示す。この場合、図1Gに示すようにカソード電極4を覆う余分な固体化液体材料7が存在する。余分な固体化液体材料7は、希釈(0.01N)HF溶液を含むエッチング液を用いて、短時間の湿式化学エッチング処理を実施することによりエッチング除去される。
【0037】
図1Hには、HF液でのエッチング後の状態を示す。余分な固体化液体材料が除去され、電解放出先端構造部20と電極構造部22の間には、カソード電極4が露出する。ある程度の等方的なバックエッチングは生じ得るものの、ゲート電極34は、電極構造部22をエッチング液から保護する。同様に、キャップ36は、電解放出先端構造部20の先端をエッチング液から保護する。
【0038】
後続のステップでは、ゲート電極34、キャップ36および電解放出先端構造部20上に、蒸着金属が成膜される。金属は高融点金属であることが好ましい。そのような金属は、電解放出装置を有する電解放出型ディスプレイにおいて生じ得るスパッタリング現象によって、簡単には除去されないからである。そのような金属の好適例は、タングステン(W)およびモリブデン(Mo)を有する。好適金属は、基板2と垂直な方向に蒸着され、電極構造部22の垂直な側壁には、全く材料が設置されないか、あるいはわずかしか設置されない。図1Iには、蒸着金属が成膜され、電解放出先端構造部20およびキャップ36上に導電性薄膜38が形成された後の電解放出装置1を示す。導電性薄膜38の厚さは、通常5乃至10nmである。導電性薄膜38、電解放出先端構造部20およびキャップ36は、ともに電解放先端部40を構成し、この電解放先端部40は、導電性薄膜38によってカソード電極4と電気的に接続され、カソード電極4とゲート電極34全体に電位が印加された際に、電子を放出する。電解放出先端部40の先端は尖っており、良好な電子放出特性が得られる。図1Iに示すように、一部の蒸着金属は、ゲート電極34の上部に成膜されてゲート電極コーティング42を形成し、ゲート電極34の導電率がさらに向上する。
【0039】
ゲート電極34の短絡リスクを防ぐため、金属エッチングを実施して、電極構造部22の垂直壁に設置されたあらゆる金属を除去することが可能である。これによりゲート電極34とカソード4の間には、直接的な電気接続は生じなくなる。この金属エッチングは、導電性薄膜38がタングステン製の場合、過酸化水素、アンモニアおよび水を含むエッチング液を用いて行うことができる。エッチング処理は、導電性薄膜38の平均約1nmがエッチング除去される程度に実施される。図1Jには、そのような金属エッチングの後の最終的な電解放出装置1を示す。図1Jからわかるように、金属薄膜は、電極構造部22の垂直壁から除去されている。短時間の金属エッチングでは、電解放出先端部40の導電層38は、ほとんど影響を受けない。
【0040】
図2A乃至2Eには、本発明の別の実施例を示す。この別の実施例では、まず最初に、基板102およびカソード電極104上の液体材料の層106のエンボス加工によって、電解放出先端構造部120および電極構造部122が形成され、次に図1A乃至1Cを参照して示した前述の原理に従って、硬化処理が行われる。電解放出先端構造部120および電極構造部122の硬化処理後に、これらの構造部は、UVオゾン処理または酸素プラズマによって露光され、より親水性の、いわゆる反応性OH基末端表面を有する固体化材料の表面106が形成される。第2のスタンプ124を用いて、電解放出先端構造部120と電極構造部122の突起部130に、撥水性単分子層126(例えば有機改質シラン)が付与される。スタンプ124は、小さな弾性率であることが好ましく、撥水層126は、電解放出先端構造部120の尖った突起部と容易に良好な状態で接触する。図2Aには、突起部130に単分子層が塗布され、第2のスタンプ124が撤去された直後の状態を示す。これにより、突起部130は撥水性コーティング132で被覆される。
【0041】
図2Bには、図2Aの領域IIBの拡大図を示す。ある余分な固体化液体材料107が、カソード電極104を覆うように存在する場合、希釈(0.01N)HF溶液を用いて湿式化学エッチングが実施され、余分な固体化材料107が除去され、構造部120、122の間の領域にカソード電極104が露出される。エッチング処理中、電解放出先端構造部120および電極構造部122は、撥水性コーティング132で保護される。従って、電解放出先端構造部120の先端は、尖った状態のまま維持される。前記エッチングによって余分な固体化材料107が除去された後、撥水性コーティング132は目的を終え、短時間のUVオゾン処理または酸素プラズマ処理によって除去される。図2Cには、エッチング処理および後続の撥水性コーティングの除去後の構造部120、122の形状を示す。
【0042】
後続の処理ステップでは、電極構造部122および電解放出先端構造部120上に蒸着金属が成膜され、導電性薄膜138が形成される。蒸着金属は、基板102と垂直な方向に設置されることが好ましく、これにより電極構造部122の垂直な側壁に成膜される材料量を少なくすることができる。金属は高融点金属であることが好ましい。そのような金属は、電解放出装置を有する表示装置において生じ得るスパッタリング現象で、除去されにくいからである。そのような金属の好適例は、タングステン(W)およびモリブデン(Mo)を有する。図2Dには、蒸着によって厚さ約5乃至10nmの導電性薄膜138が成膜された後の構造部120、122を示す。図からわかるように、膜138は、電解放出先端構造部120とともに電解放出先端部140を形成し、この電解放出先端部140は、カソード電極104と電気的に接続される。電極構造部122上に成膜された金属は、ゲート電極134を形成する。図2Dに示すように、電極構造部122の垂直な側壁にも金属薄膜(1nm未満)が成膜されている。ゲート電極134とカソード電極104とのあらゆる短絡リスクを防ぐため、短時間の金属エッチング処理を行うことができる。この金属エッチングは、導電性薄膜38がタングステン製の場合、過酸化水素、アンモニアおよび水を含むエッチング液を用いて行うことができる。このエッチング液は等方性であって、これは、エッチングが全空間方向に対して一様に行われることを意味する。エッチング処理は、導電性薄膜138の平均約1nmがエッチング除去される程度で実施される。これにより、ゲート電極134とカソード電極104または電解放出先端部140間のいかなる電気的接触も回避することができる。
【0043】
ある場合には、ゲート電極134の導電率を向上させる必要が生じる。そのような場合、図1D乃至図1Fを参照して先に示したものと同様の原理によって、銀または金の粒子のような金属粒子の未硬化コロイド状サスペンションを有するサスペンションを、第3のスタンプ(図示されていない)によって塗布することができる。図2Eには、上記の金属エッチングを行い、さらにコロイド状サスペンションを塗布し、これを硬化させた後に得られる電解放出装置101を示す。そのようなコロイド状サスペンションの塗布および硬化後には、ゲート電極134は、金属粒子の硬化サスペンションからなる付加的な導電層142を有し、電解放出先端部140は、これと同じ材料のキャップ136を有する。図2Eから明らかなように、金属エッチングによって、電極構造部122の垂直な側壁に蒸着された金属の薄膜層が除去され、あらゆる短絡のリスクが回避される。
【0044】
金属粒子のコロイド状サスペンションを塗布する際に使用される第3のスタンプは、弾性率が小さい。従って、コロイド状サスペンションは、電解放出先端部140の突起部の先端を被覆し、前記キャップ136が形成される。付加的な導電層142およびキャップ136は、ゲート電極134および電解放出先端部140それぞれの導電率を向上させる。
【0045】
図3には、電解放出装置を形成する最終ステップが図2Eとは異なる実施例を示す。この代替実施例では、弾性率の大きい第3のスタンプ(図示されていない)を援用することによって、金属粒子のコロイド状サスペンションが設置される。図3に示す電解放出装置201は、基板202と、カソード204と、電極構造部222とを有し、この電極構造部222は、蒸着金属が成膜されたゲート電極234を有し、ゲート電極234は、硬化した金属粒子のコロイド状サスペンションの層242によって被覆される。さらに電解放出装置201は、電解放出先端部240を有し、この電解放出先端部240は、金属蒸着された導電性薄膜238によって被覆された電解放出先端構造部220を有する。第3のスタンプは高弾性率であるため、電解放出先端部240の先端には、硬化コロイド状サスペンションのいかなるキャップも設置されず、これにより極めて尖った先端部が得られる。
【0046】
特許請求の範囲に記載の範囲内で、上述の実施例の多くの変形が可能であることが理解されよう。
【0047】
従って例えば、まずαスタンプで電解放出先端構造部を形成し、次にパターン化されたβスタンプで、あるいは別の方法で電極構造部を形成することも可能である。ただし、前述のように、両方のパターンが提供されるようにパターン化されたスタンプを用いて、電解放出先端構造部と電極構造部を同時に形成することが好ましいことは明らかであろう。電解放出先端構造部と電極構造部の位置合わせが容易となり、多くのステップが省略できるからである。
【0048】
エンボス加工処理後に液体材料の層を硬化させる際の時間および温度は、対象材料に適合されることは明らかであろう。いくつかの材料では、周囲温度で硬化処理を行うことが適している場合があり、別の材料では高温で硬化処理を行うことが必要な場合もある。
【0049】
前述のように、パターン化されたスタンプでのエンボス加工処理によって、1箇所のみまたは数箇所の電解放出先端構造部、および存在する場合、電極構造部を形成することが可能である。ただし、1回のエンボス加工操作によって、いくつかの電解放出先端構造部、および存在する場合、電極構造部を形成することが好ましいことは明らかであろう。一つの電解放出装置に必要な、例えば全FEDに使用される、全ての電解放出先端構造部と電極構造部を、1回のエンボス加工操作によって形成することがより好ましい。この場合、全ての電解放出先端部を相互に、およびそれぞれの電極構造部と揃えることができるからである。
【0050】
要約すると、電解放出装置は、例えば電解放出型ディスプレイ(FED)の電子放出に用いられる。電解放出先端部は、電解放出装置において電子放出に用いられる。電解放出装置の作動中、電解放出先端部に電気的に接続された第1の電極と、第2の電極間に電圧が印加され、電解放出先端部が電子を放出する。電解放出先端部を形成するため、液体材料の層が、第1の電極が設置された基板に付与される。液体材料の層は、パターン化スタンプによってエンボス加工され、次工程の硬化処理によって、電解放出先端構造部が形成される。電解放出先端構造部には、導電性薄膜が付与され、第1の電極と電気的に接続された電解放出先端部が形成される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1A】電解放出装置の製作方法を示す断面図である。
【図1B】電解放出装置の製作方法を示す断面図である。
【図1C】電解放出装置の製作方法を示す断面図である。
【図1D】電解放出装置の製作方法を示す断面図である。
【図1E】電解放出装置の製作方法を示す断面図である。
【図1F】電解放出装置の製作方法を示す断面図である。
【図1G】電解放出装置の製作方法を示す断面図である。
【図1H】電解放出装置の製作方法を示す断面図である。
【図1I】電解放出装置の製作方法を示す断面図である。
【図1J】電解放出装置の製作方法を示す断面図である。
【図2A】電解放出装置の別の製作方法を示す断面図である。
【図2B】電解放出装置の別の製作方法を示す断面図である。
【図2C】電解放出装置の別の製作方法を示す断面図である。
【図2D】電解放出装置の別の製作方法を示す断面図である。
【図2E】電解放出装置の別の製作方法を示す断面図である。
【図3】電解放出装置のさらに別の製作方法を示す断面図である。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解放出装置を製作する方法であって、
基板上に導電層を設置するステップと、
前記導電層上に液体材料の層を設置するステップと、
パターン化されたスタンプを液体材料の前記層に押し合わせて、液体材料の前記層をエンボス加工するステップであって、液体材料の前記層には、少なくとも一つの電解放出先端構造部が形成されるステップと、
液体材料の前記層を硬化させるステップであって、これにより、固体化されパターン化された誘電体層であって、少なくとも一つの固体化された電解放出先端構造部を有する誘電体層が形成されるステップと、
前記少なくとも一つの固体化された電解放出先端構造部上に、導電性薄膜を形成するステップであって、前記少なくとも一つの固体化された電解放出先端構造部は、前記導電層と電気的に接続されるステップと、
を有する方法。
【請求項2】
前記パターン化されたスタンプは、少なくとも一つの電解放出先端構造部と、該先端構造部と位置が揃えられた、少なくとも一つの電極構造部とを形成するパターンを有し、前記エンボス加工するステップにより、液体材料の前記層に、少なくとも一つの電解放出先端構造部と、少なくとも一つの電極構造部とが、位置が揃えられた状態で同時に形成されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記導電性薄膜を形成する前記ステップは、前記固体化されパターン化された誘電体層上に、導電性材料を蒸着させるステップを有することを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記導電性薄膜を形成する前記ステップの前に、前記導電層から余分な誘電体材料を除去するエッチング処理ステップが実施されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
液体材料の前記層を硬化させる前記ステップの後に、前記固体化されパターン化された誘電体層の突起部に、コーティングを設置するステップが実施されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
前記コーティングは、導電性のコーティングであることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記コーティングは、撥水性コーティングであることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項8】
第1の電極が形成される導電層が設置された基板と、
前記第1の電極上に設置された液体材料の層を、パターン化されたスタンプでエンボス加工して、電解放出先端構造部を形成した後、液体材料の前記層の硬化処理を行うことにより形成される電解放出先端部であって、当該電解放出先端部を実質的に覆うように導電性薄膜が形成され、該導電性薄膜は、前記第1の電極と電気的に接続される、電解放出先端部と、
前記第1の電極とともに、前記電解放出先端部全体に電場を印加する第2の電極と、
を有する電解放出装置。
【請求項9】
前記電解放出先端部の前記電解放出先端構造部と、電極構造部は、前記電解放出先端構造部および前記電極構造部を形成するパターンを有するパターン化スタンプを用いた、液体材料の前記層のエンボス加工によって、位置が揃えられた状態で同時に形成され、前記電極構造部は、前記第2の電極を支持し、該第2の電極を前記第1の電極と電気的に絶縁することを特徴とする請求項8に記載の電解放出装置。
【請求項10】
第2のスタンプによって、前記電解放出先端構造部と前記電極構造部の両方の突起部に、導電性コーティングが設置されることを特徴とする請求項9に記載の電解放出装置。
【請求項11】
前記電解放出先端部は、ピラミッド状または円錐形状であることを特徴とする請求項8乃至10のいずれか一つに記載の電解放出装置。
【請求項12】
前記導電性薄膜は、蒸着金属の成膜によって形成され、前記導電性薄膜の厚さは、2乃至50nmであることを特徴とする請求項8乃至11のいずれか一つに記載の電解放出装置。

【図3】
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【公表番号】特表2006−524895(P2006−524895A)
【公表日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−506894(P2006−506894)
【出願日】平成16年4月26日(2004.4.26)
【国際出願番号】PCT/IB2004/050508
【国際公開番号】WO2004/097884
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips Electronics N.V.
【住所又は居所原語表記】Groenewoudseweg 1,5621 BA Eindhoven, The Netherlands
【Fターム(参考)】