説明

電解質、電極組成物、及びこれらから製造される電気化学電池

ビニレンカーボネート又はハロゲン化エチレンカーボネートを含む電解質、複合電極、及び結合剤からなる電極を含む電気化学電池が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、米国特許出願第11/679,591号(2007年2月27日出願)、同第11/776,812号(2007年7月12日出願)、及び同第11/843,027号(2007年8月22日出願)に対する優先権を主張し、これら全ては、その全体が本明細書に参考として組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、電気化学電池にて使用するための新規電解質処方及び電極組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
充電式リチウムイオン電池は、各種電子デバイスに含まれる。ほとんどの市販のリチウムイオン電池は、充電中のインターカレーション機構により、リチウムを組み込むことが可能なグラファイトなどの物質を含有する負極を有する。このような層間挿入型電極は一般に、良好なサイクル寿命及びクーロン効率を示す。しかし、層間挿入型材料の単位質量当たりに組み込み可能なリチウム量は、比較的少ない。
【0004】
負極材料の第2の部類は、充電中のアロイング機構によりリチウムを組み込むことが知られている。これらの合金型材料は多くの場合、層間挿入型材料よりも、単位質量当たり、より多量のリチウムを取り込むことができるが、リチウムを合金に加えることは通常、大きな体積変化を伴う。幾つかの合金型負極は、相対的に貧弱なサイクル寿命及び低エネルギー密度を示す。これらの合金型電極の貧弱な性能は、電極組成物がリチウム化、そして次に脱リチウム化した際のその大きな体積変化によって生じ得る。リチウムの組み込みに伴う大きな体積変化は、合金と、導電性希釈剤(例えば、炭素粉末)と、結合剤と、典型的にはアノードを形成する電流コレクタと、の間の電気的接触の劣化をもたらすことがある。電気的接触の劣化は、次に電極のサイクル寿命にわたって、容量減少をもたらし得る。合金型材料を用いて製造した電極複合材料は、典型的には、高い多孔性、特にリチウム化した際に、しばしば複合材料の体積の50%超という多孔性を有する場合がある。これは、これらのタイプの材料を含有するこれらの電極を用いて作製した電気化学電池のエネルギー密度の減少をもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したことを考慮すると、本願発明者らは、サイクル寿命が向上し、高エネルギー密度である負極を含む電気化学電池が必要とされていると考える。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様においては、次の構造を有するビニレンカーボネート添加剤を含む電解質、
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、RはH又はC〜Cのアルキル若しくはアルケニル基である)と、(i)式、SiSnを有する材料を含む組成物であって、式中、q、x、y、及びzは、モル百分率を表し、各モル百分率(mol%)は、組成物中のLi以外の全ての元素のモル数に基づいており、(q+x)>2y+zであり、q及びzは0以上であり、Mは、遷移金属、Y、又はこれらの組み合わせから選択され、Si、Sn、M、及びC元素は、Siを含む非晶相、金属シリサイドを含むナノ結晶相、Snを含む非晶相(q>0の場合)、及び炭化ケイ素を含む相(z>0の場合)からなる多相ミクロ構造の形態で配置されている組成物;(ii)式、SiAlSnInを有する材料を含む組成物であって、式中、a、b、c、d、e、及びpはモル百分率を表し、各モル百分率は、組成物中のLi以外の全ての元素のモル数に基づいており、Mは遷移金属又は遷移金属の組み合わせから選択され、EはY、ランタニド、アクチニド、又はこれらの組み合わせを含み、35≦a≦70、1≦b≦45、5≦c≦25、1≦d≦15、2≦e≦15、及び0≦p≦15であり、合金組成物がSiを含む非晶相及びE及びSnを含む(pが0の場合)又はE、Sn、及びInを含む(p>0の場合)ナノ結晶相の混合物である組成物;(iii)式、Snを有する材料を含む組成物であって、式中、f、g、h、i、及びjはモル百分率を表し、各モル百分率は、組成物中のLi以外の全ての元素のモル数に基づいており、1≦f≦50、20≦g≦95、h≧3、i=0、又は3≦i≦50、0≦j≦1であり、EはSi、Al、又はこれらの組み合わせを含み;Eは、Y、ランタニド、アクチニド、又はこれらの組み合わせを含み、「A」は、アルカリ土類元素を含み;Mは、Fe、Mg、Si、Mo、Zn、Ca、Cu、Cr、Pb、Ti、Mn、C、S、P、又はこれらの組み合わせから選択される元素を含む組成物;又は(iv)式、SiCuAgを有する材料を含む組成物であり、式中、k、m、及びnはモル百分率を表し、各モル百分率は、組成物中のLi以外の全ての元素のモル数に基づいており、k≧10、m≧3、及び1≦n≦50である組成物;のうちの少なくとも1つを含むアノード組成物と、を有する、リチウムイオン電気化学電池が提供される。
【0009】
別の態様では、次の構造を持つエチレンカーボネート添加剤を含む電解質、
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、Xは、H、F、又はClであり;かつQは、F若しくはCl又はC〜Cのアルキル又はアルケニル基である)と、(i)式、SiAlSnInを有する材料を含む組成物であって、式中、a、b、c、d、e、及びpはモル百分率を表し、各モル百分率は、組成物中のLi以外の全ての元素のモル数に基づいており、Mは遷移金属又は遷移金属の組み合わせから選択され、EはY、ランタニド、アクチニド、又はこれらの組み合わせを含み、35≦a≦70、1≦b≦45、5≦c≦25、1≦d≦15、2≦e≦15、及び0≦p≦15であり、合金組成物がSiを含む非晶相及びE及びSnを含む(pが0の場合)又はE、Sn、及びInを含む(p>0の場合)ナノ結晶相の混合物である組成物;(ii)式、Snを有する材料を含む組成物であって、式中、f、g、h、i、及びjはモル百分率を表し、各モル百分率は、組成物中のLi以外の全ての元素のモル数に基づいており、1≦f≦50、20≦g≦95、h≧3、i=0、又は3≦i≦50、及び0≦j≦1であり、EはSi、Al、又はこれらの組み合わせを含み;Eは、Y、ランタニド、アクチニド、又はこれらの組み合わせを含み、「A」は、アルカリ土類元素を含み;Mは、Fe、Mg、Si、Mo、Zn、Ca、Cu、Cr、Pb、Ti、Mn、C、S、P、又はこれらの組み合わせから選択される元素を含む組成物;又は(iii)式、SiCuAgを有する材料を含む組成物であり、式中、k、m、及びnはモル百分率を表し、各モル百分率は、組成物中のLi以外の全ての元素のモル数に基づいており、k≧10、m≧3、及び1≦n≦50である組成物;のうちの少なくとも1つを含むアノード組成物と、を有する、リチウムイオン電気化学電池が提供される。
【0012】
更に別の態様では、(a)次の構造を有するビニレンカーボネート添加剤、
【0013】
【化3】

【0014】
又は(b)次の構造を有するエチレンカーボネート添加剤であって、
【0015】
【化4】

【0016】
式中、RはH又はC〜Cのアルキル若しくはアルケニル基であり;Xは、H、F、又はClであり;Qは、F若しくはCl又はC〜Cのアルキル若しくはアルケニル基であり;電極組成物は、約1μm〜約50μmの範囲の平均粒径を有する粒子を有し、粒子が、少なくとも1つの共通の相境界を共有する、電気化学的活性相と電気化学的不活性相とを含み、電気化学的不活性相が、金属間化合物、固溶体、又はこれらの組み合わせの形態にある少なくとも2つの金属元素を含み、(i)各相は、サイクリング前には100nm超の微結晶を有せず、(ii)電気化学的活性相が、リチウムイオン電池において、電極が1回の完全な充電−放電サイクルを経てサイクルした後、非晶質であるエチレンカーボネート添加剤;のうちの少なくとも1つを含む電解質を有する、電気化学電池が提供される。
【0017】
本開示において、
冠詞「a」、「an」、及び「the」は、「少なくとも1つの」と同じ意味で用いられ、記載された要素の1以上を意味する。
【0018】
用語「合金」とは、2種又はそれ以上の金属の均質混合物又は固溶体を意味する。
【0019】
用語「充電する」及び「充電」とは、電気化学的エネルギーを電池に提供するプロセスを意味する。
【0020】
用語「放電する」及び「放電」とは、例えば、所望の動作を実施するために電池を使用する際に、電池から電気化学的エネルギーを除去するプロセスを意味する。
【0021】
用語「電気化学的に活性」とは、可逆的にリチウムを取り込むことができる複合材料を意味する。
【0022】
用語「電気化学的に不活性」とは、その形態構造内へとリチウムを可逆的に取り込むことができない複合材料を意味する。
【0023】
用語「リチウム化する」及び「リチウム化」とは、リチウムを電極材料に加えるプロセスを意味する。
【0024】
用語「リチウム化」とは、負極に関して述べる場合、電極がリチウムイオンを電極材料の総重量の10重量%(wt%)超の量で取り込むことを意味する。
【0025】
用語「モル%」は、本明細書で記載される組成物成分に関する場合、リチウムを除く、組成物中の全元素の総モル数に基づいて計算される。例えば、シリコン、アルミニウム、遷移金属、スズ、及び第5要素を含有する組成物中のシリコン・モル%は、シリコンのモル数に100を乗じ、この結果を、リチウムを除く、組成物中の全ての元素(存在する場合)の総モルで除することによって計算する。
【0026】
用語「脱リチウム化する」及び「脱リチウム化」とは、電極材料からリチウムを除去するプロセスを意味する。
【0027】
語句「負極」とは、放電プロセス中に電気化学的酸化及び脱リチウム化が発生する電極(多くの場合、アノードと呼ばれる)を意味する。そして、
語句「正極」とは、放電プロセス中に電気化学的還元及びリチウム化が発生する電極(多くの場合、カソードと呼ばれる)を意味する。
【0028】
文脈上明白に他の意味に解すべき場合を除き、用語「脂肪族」、「脂環式」、及び「芳香族」としては、炭素及び水素のみを含有する置換及び非置換部分、炭素、水素、及びその他の原子を含有する部分(例えば、窒素又は酸素環原子)、並びに原子、又は炭素、水素若しくはその他の原子を含有することができる基で置換された部分(例えば、ハロゲン原子、アルキル基、エステル基、エーテル基、アミド基、ヒドロキシル基、又はアミン基)が挙げられる。「アルキル」とは、飽和炭化水素ラジカルを意味し、「アルケニル」とは、不飽和水素ラジカルを意味する。
【0029】
向上したサイクル寿命及び高エネルギー密度を有する負極を含む電気化学電池を提供することは、本発明の各種実施形態の利点である。これらの電池は、ビニレンカーボネート添加剤、エチレンカーボネート添加剤、又はこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを電解質中に取り込む。カーボネート添加剤は、電池のサイクル寿命を大幅に延ばし、これにより、広範囲の用途及び電池寿命を通しての高エネルギー密度の維持能力を得る。
【発明を実施するための形態】
【0030】
数字範囲の詳細説明には、その範囲内に含まれる全ての数が包含される(例えば、1〜5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、及び5を含む)。本明細書の全ての数値は、「約」という用語を付記する修正がなされるものとする。
【0031】
本開示の電気化学電池は、少なくとも1つの正極、少なくとも1つの負極、少なくとも1つのセパレータ、結合剤、及び電解質を含む。正極若しくは負極又はその両電極は、複合材料及び結合剤を含むことができる。開示されたリチウムイオン電池内で、種々の電解質を用いることができる。代表的な電解質は、1種以上のリチウム塩類を含有することができ、電解質は固体、液体、又はゲルの形態であることができる。あるいは、電解質は「電荷担持媒体」と称される場合もある。
【0032】
代表的なリチウム塩類としては、LiPF、LiBF、LiClO、リチウムビス(オキサラト)ボレート、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiAsF、LiC(CFSO、及びこれらの組み合わせが挙げられる。代表的な電解質は、電極が稼動可能な温度範囲内において、凍結又は沸騰することなく安定しており、好適な量の電荷が正極から負極へ運搬されることが可能なだけの十分な量のリチウム塩を溶解し、選択したリチウムイオン電池内で良好に機能することができる。
【0033】
代表的な固体電解質としては、高分子媒体例えば、ポリエチレンオキシド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ素含有コポリマー類、ポリアクリロニトリル、これらの組み合わせ、及び当業者によく知られているその他の固体媒体を挙げることができる。代表的な液体電解質としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン(butylrolactone)、メチルジフルオロアセタート、エチルジフルオロアセタート、ジメトキシエタン、ジグリム(ビス(2−メトキシエチル)エーテル)、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、及びこれらの組み合わせを挙げることができる。代表的な電解質ゲルとしては、米国特許第6,387,570号明細書(ナカムラ(Nakamura)ら)及び同第6,780,544号明細書(ノー(Noh))に記載されるものが挙げられる。電解質の可溶化力は、好適な共溶媒の添加によって向上させることができる。代表的な共溶媒としては、選択した電解質を含有するリチウムイオン電池と相溶性のある芳香性物質を挙げることができる。代表的な共溶媒としては、トルエン、スルホラン、ジメトキシエタン、これらの組み合わせ、及び当業者によく知られているその他の共溶媒を挙げることができる。
【0034】
電解質としては、当業者によく知られているその他の添加剤を含むことができる。例えば、電解質は、米国特許第5,709,968号明細書(シミズ(Shimizu))、同第5,763,119号明細書(アダチ(Adachi))、同第5,536,599号明細書(アラムギール(Alamgir)ら)、同第5,858,573号明細書(アブラハム(Abraham)ら)、同第5,882,812号明細書(ヴィスコ(Visco)ら)、同第6,004,698号明細書(リチャードソン(Richardson)ら)、同第6,045,952号明細書(カー(Kerr)ら)、及び同第6,387,571号明細書(レイン(Lain)ら)、並びに米国特許出願公開第2005/0221168号、同第2005/0221196号、同第2006/0263696号、及び同第2006/0263697号(全て、ダーン(Dahn)ら)に記載されるもののような酸化還元を繰返す化学物質(a redox chemical shuttle)を含有することができる。
【0035】
本開示の電解質としては、構造(I)(ここで、RはH又はC〜Cのアルキル若しくはアルケニル基である)を有するビニレンカーボネート類などの添加剤を挙げることができる。
【0036】
【化5】

【0037】
本発明の各種実施形態にて有用であり得る構造(I)の代表的な添加剤としては、例えば、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、プロピルビニレンカーボネート、イソプロピルビニレンカーボネート、ブチルビニレンカーボネート、イソブチルビニレン(isobuylvinylene)カーボネート等が挙げられる。あるいは又は更に、本開示の電解質としては、構造体(II)(ここで、Xは水素、フッ素、又は塩素)を有するエチレンカーボネートを挙げることができ、Qは、フッ素若しくは塩素又はC〜Cのアルキル若しくはアルケニル基である。
【0038】
【化6】

【0039】
本発明の各種実施形態にて有用であり得る構造(II)の代表的な添加剤としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、1,2−ジフルオロエチレンカーボネート、1−フルオロ−2−メチルエチレンカーボネート、1−クロロ−2−メチルエチレン(methyethylene)カーボネート、ビニルエチレンカーボネート等が挙げられる。構造(I)及び(II)にて例示されるような添加剤は、電解質の総重量の、約0.5重量%超、約1.0重量%超、約5重量%超、約10重量%超、約20重量%超、約50重量%超、又はそれより多い量で、電解質に加えることができる。
【0040】
本発明の電気化学電池、電池、又は電池パックの正極は、リチウムを含む。電極は、複合材料の形態であることができる。正極において有用な材料の例としては、LiV、LiV、LiCo0.2Ni0.8、LiNi0.33Mn0.33Co0.33、LiNi0.5Mn0.3Co0.2、LiNiO、LiFePO、LiMnPO、LiCoPO、LiMn、及びLiCoO;米国特許第6,964,828号明細書、同第7,078,128号明細書(共に、ルゥ(Lu)ら)及び同第6,660,432号明細書(ポールセン(Paulsen)ら)に記載されているようなコバルト、マンガン、及びニッケルの混合金属酸化物を含む正極材料;並びに米国特許第6,680,145号明細書(オブロヴァック(Obrovac)ら)に記載されているようなナノコンポジット正極材料が挙げられる。
【0041】
本開示の負極内に、種々の材料を用いることができる。材料は、単一化学元素又は複合材料の形態であることができる。本開示の負極で使用する複合材料を製造するのに有用な材料の例としては、式、SiSn(式中、q、x、y、及びzは、原子百分率値を表し、(a)(q+x)>2y+zであり;(b)q≧0、(c)z≧0であり;(d)Mは、遷移金属、Y、又はこれらの組み合わせから選択される)合金組成物が挙げられる。遷移金属としては、マンガン、モリブデン、ニオビウム、タングステン、タンタル、鉄、銅、チタン、バナジウム、クロム、ニッケル、コバルト、ジルコニウム、イットリウム、又はこれらの組み合わせから選択される1種以上の金属が挙げられる。Si、Sn、M、及びC元素は、(a)シリコンを含む非晶相(つまり、x>0);(b)金属シリサイドを含むナノ結晶相;及び(c)炭化ケイ素(z>0)を含む相;及び(d)Sn(q>0)を含む非晶相を含む多相ミクロ構造の形態で配置される。これらの電極組成物は、例えば、米国特許出願公開第2007/0148544号(リー(Le)、2007年6月28日公開)に開示されている。好ましくは、電極組成物は、シリコン、その他の金属(類)、及び炭素を使用する実施形態においては炭素源(例えば、グラファイト)を、高剪断下かつ高衝撃下にて、適切な期間、ボールミル粉砕することにより調製される。ボールミル、例えば、垂直型ボールミル(アトリトール(ATTRITOR)、ユニオン・プロセス社(Union Process Inc.)(オハイオ州、アクロン))、スペックスミル(SPEXMILL)(スペックス・サーティプレップ(Spex CertiPrep)(ニュージャージー州メタチェン))、水平型ロータリー・ボールミル(シモロイアー社(SIMOLOYER, Zoz GmbH)(ドイツ、ヴェルデン))、又はその他の当該技術分野において既知のボールミルもまた使用できる。
【0042】
本開示の電気化学電池の負極にて使用される複合材料を製造するために有用な組成物の別の例としては、式、SiAlSnInを有する合金組成物が挙げられ、式中、a、b、c、d、e、及びpはモル百分率を表し、各モル百分率は、組成物中のLi以外の全ての元素のモル数に基づいており、Mは遷移金属又は遷移金属の組み合わせから選択され、EはY、ランタニド、アクチニド、又はこれらの組み合わせを含み、35≦a≦70、1≦b≦45、5≦c≦25、1≦d≦15、2≦e≦15、及び0≦p≦15であり、合金組成物は、Siを含む非晶相、及びE及びSnを含む(pが0の場合)又はE、Sn、及びInを含む(p>0の場合)ナノ結晶相の混合物である。Mは、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ジルコニウム、ニオビウム、モリブデン(molybdynum)、タングステン、又はこれらの組み合わせから選択され得る。これらの電極組成物は、米国特許出願公開第2007/0020521号及び同第2007/0020522号(共に、オブロヴァック(Obrovac)ら、共に2007年1月25日公開)に記載されている。
【0043】
上記合金組成物SiAlSnIn中では、非晶相はシリコンを含有するが、ナノ結晶相はシリコンを実質的に含まない。本明細書で使用するとき、用語「本質的に含まない」とは、ナノ結晶相に関する場合、物質(例えば、元素状シリコン、元素状スズ、元素状インジウム、又はインジウム・スズ2元金属間化合物)が、既知のX線回折技術を使用して検出できないことを意味する。ナノ結晶相は、スズ及びインジウムを含む(それが存在する場合)金属間化合物を含有する。合金組成物の非晶質性は、X線回折パターンにおける鋭いピークの不存在により特徴づけることができる。X線回折パターンは、銅ターゲット(即ち、銅Kα1線、銅Kα2線、又はこれらの組み合わせ)を使用して、少なくとも5度(2θ)、少なくとも10度(2θ)、又は少なくとも15度(2θ)に対応する最大ピーク高さの半分でのピーク幅を有するピークのような幅広いピークを有することができる。
【0044】
ナノ結晶性物質は、典型的には、約5nm〜約50nmの最大結晶子寸法を有する。結晶寸法(crystalline size)は、シェラー(Sherrer)方程式を使用してX線回折ピークの幅から決定することができる。狭いX線回折ピークは、大きな結晶寸法(crystal sizes)に相当する。ナノ結晶性物質のX線回折ピークは、典型的には、銅ターゲット(即ち、銅Kα1線、銅Kα2線、又はこれらの組み合わせ)を使用して、5度未満(2θ)、4度未満(2θ)、3度未満(2θ)、2度未満(2θ)、又は1度未満(2θ)に対応する最大ピーク高さの半分でのピーク幅を有する。
【0045】
一般に、リチウム化速度はナノ結晶性物質の方が非晶質物質より大きいために、合金組成物中にはナノ結晶性物質がいくらか包含されることが望ましい。しかし、幾つかの実施形態では、結晶相内での元素状シリコンの存在は、金属質のLi/Liイオン参照電極に対してアノード電圧が約50mV未満に降下した際に、結晶性のLi15Siがサイクル中に形成されることになる。リチウム化中の結晶性のLi15Siの形成は、アノードのサイクル寿命に悪影響を及ぼすことになる(即ち、リチウム化及び脱リチウム化のサイクル毎に容量が減少する傾向がある)。Li15Si結晶の形成を最少化又は防止するためには、シリコンが非晶相内に存在し、リチウム化及び脱リチウム化の反復サイクル後に、非晶相内にシリコンがとどまるのが有利である。遷移金属の追加は、非晶質シリコン含有相の形成を促進し、結晶性シリコン含有層(例えば、結晶性元素状シリコン又は結晶性シリコン含有化合物類)の形成を最少化又は防止することができる。
【0046】
本発明の本実施形態では、合金組成物SiAlSnInのナノ結晶相は、別の電気化学的活性物質であるスズを含む。しかし、結晶性元素状スズの存在は、アノードをリチウム化及び脱リチウム化の反復サイクルにさらした際に、容量に対して有害となり得る。本明細書で使用するとき、用語「元素状」とは、別の元素と金属間化合物などの化合物の形態にて組み合わされるのではなく、むしろ純元素として存在する周期表の元素(例えば、スズ、シリコン、インジウム等)を意味する。
【0047】
結晶性元素状スズの形成を最小化するために、(1)スズ、(2)インジウム(存在する場合)、及び(3)イットリウム、ランタニド元素、アクチニド元素、又はこれらの組み合わせを含有する要素を含有する金属間化合物を形成することができる。金属間化合物は、例えば、式[Sn(1−p)Inであることができ、式中、Eは、イットリウム、ランタニド元素、アクチニド元素、又はこれらの組み合わせを含有する要素であると共に、0<p<1である。インジウムが存在しない場合、幾つかの形成プロセスを使用して結晶サイズを制御することが困難な場合がある。例えば、インジウムをまったく使用することなく、溶融紡糸技術を使用して合金を形成した場合、元素状スズの比較的大きな結晶が形成される。インジウムは、結晶性元素状スズの形成を阻害し、合金組成物の容量を増大させる傾向がある。更に、インジウムの追加は、合金組成物を形成し、巨大結晶相ではなくむしろ非晶相が形成される可能性を増大させる溶融紡糸などの溶融加工技術の使用を促進する傾向がある。
【0048】
本発明の別の実施形態では、合金組成物SiAlSnInは、ほぼ全てのシリコンを含む非晶相を含む。シリコンは、合金組成物中に、リチウムを除く合金組成物中の全元素の総モル数を基準にして、35〜70モル%の量で存在する。シリコンの量が少なすぎる場合、容量は受け入れ難いほど小さくなる。しかし、シリコンの量が多すぎる場合、シリコン含有結晶が形成されやすい。シリコン含有結晶の存在は、少なくとも幾つかの実施形態では、金属質のLi/Liイオン参照電極に対して、アノード電圧が約50mV未満に降下した際に、Li15Siがサイクル中に形成されることになる。結晶性のLi15Siは、リチウムイオン電池のサイクル寿命に悪影響を与えることがある。合金組成物は、少なくとも35モル%、少なくとも45モル%、少なくとも50モル%、少なくとも55モル%、又は少なくとも60モル%のシリコンを含有する。合金組成物は、約70モル%未満、約65モル%未満、又は約60モル%未満のシリコンを含有することができる。例えば、合金組成物SiAlSnInは、40〜70モル%、50〜70モル%、55〜70モル%、又は55〜65モル%のシリコンを含有することができる。非晶相は、典型的には、本実施形態では、アルミニウムの全て又は部分及び遷移金属の全て又は部分を含む。
【0049】
本開示の電気化学電池の負極にて使用される複合材料を製造するために有用な組成物の別の例は、式、SnhAを有する合金組成物を含み、式中、f、g、h、i、及びjはモル%を表し、1≦f≦50、20≦g≦95、h≧3、i=0、又は3≦i≦50、及び0≦j≦1であり、EはSi、Al、又はこれらの組み合わせを含み;Eは、Y、ランタニド、アクチニド、又はこれらの組み合わせを含み、「A」は、アルカリ土類元素を含み;Mは、Fe、Mg、Si、Mo、Zn、Ca、Cu、Cr、Pb、Ti、Mn、C、S、P、又はこれらの組み合わせから選択される元素を含む。これらの合金組成物は、例えば、米国特許出願公開第2007/0020528号(オブロヴァック(Obrovac)ら、2007年1月25日公開)に開示されている。合金組成物Sn全体が、典型的には、非晶質である。合金組成物Snは、周囲温度、例えば、10℃〜50℃の範囲の温度にて非晶質である。本合金組成物は、リチウムイオン電池中に組み込まれた場合、リチウム化及び脱リチウム化のサイクル実施前は非晶質であり、リチウム化及び脱リチウム化の少なくとも10サイクル後において非晶質のままである。幾つかの合金組成物は、リチウム化及び脱リチウム化の少なくとも100サイクル、少なくとも500サイクル、又は少なくとも1000サイクル後において、非晶質のままである。
【0050】
合金組成物Snは非晶質であり、リチウム化及び脱リチウム化の反復サイクルの後であっても非晶質のままである。即ち、それは、既知のX線回折技術を使用して検出可能な結晶相を含有しない。合金組成物の非晶質性は、X線回折パターンにおける鋭いピーク(結晶性物質に特徴的なものである)の不存在により特徴づけることができる。合金組成物は、(a)スズ、(b)シリコン、アルミニウム、又はこれらの組み合わせを含むE(第2元素)、(c)イットリウム、ランタニド元素、アクチニド元素、又はこれらの組み合わせ、「A」(任意のアルカリ土類元素)を含むE(第3元素)、及び(d)M(任意の遷移金属)を含有する。合金組成物は、周囲温度、例えば、10℃〜50℃の範囲の温度にて非晶質である。合金組成物は、リチウム化及び脱リチウム化のサイクル実施前において非晶質であり、リチウム化及び脱リチウム化の少なくとも10サイクル後において非晶質のままである。幾つかの合金組成物は、リチウム化及び脱リチウム化の少なくとも100サイクル、少なくとも500サイクル、又は少なくとも1000サイクル後において、非晶質のままである。
【0051】
組成物Sn中には、スズが、リチウムを除く合金組成物中の全元素の総モル数を基準にして、1〜50モル%の量で存在する。スズは、リチウム化が可能な電気化学的活性元素である。スズの量は、容量と同様に、リチウム化の反応速度論に影響を及ぼす。より高濃度のスズは、リチウム化速度及び容量を増加させる傾向がある。増加したリチウム化速度により、電池の充電に必要な時間を短縮することができる。しかし、スズの量が増えすぎると、スズ(例えば、元素状スズ)を含有する結晶相が合金組成物中に形成され得る。少なくとも幾つかの実施形態では、アノードがリチウム化及び脱リチウム化の反復サイクルにさらされた際に、結晶相の存在が、容量に対して悪影響を及ぼし得る。容量減少により、再充電が必要となるまで電池が所定の放電率にて使用可能な時間が短くなる。
【0052】
合金組成物Snは、少なくとも1モル%、少なくとも5モル%、少なくとも10モル%、又は少なくとも15モル%のスズを含むことができる。合金組成物は、約50モル%未満、約45モル%未満、約40モル%未満、約35モル%未満、約30モル%未満、約25モル%未満、約20モル%未満のスズを含むことができる。例えば、合金組成物は、1〜40モル%、1〜30モル%、1〜20モル%、10〜40モル%、10〜30モル%、10〜25モル%、15〜30モル%、又は15〜25モル%のスズを含有することができる。
【0053】
合金組成物Snは、シリコン、アルミニウム、又はこれらの組み合わせを含む第2元素(E)を含有することができ、リチウムを除く合金組成物中の全元素の総モル数を基準にして、約20〜約95モル%の量で存在する。第2元素の少なくとも幾つかは、電気化学的に活性である。合金組成物中の第2元素の量が少なすぎる場合、容量は、受け入れ難いほど小さいものとなり得る。
【0054】
幾つかの合金組成物では、第2元素(E)の全てが、電気化学的に活性であり得る。その他の合金組成物では、第2元素の一部が電気化学的に活性であり得、第2元素の一部が電気化学的に不活性であり得る。電気化学的に不活性な第2元素のあらゆる部分は、リチウムイオン電池の充放電中にリチウム化又は脱リチウム化を生じない。
【0055】
幾つかの合金組成物では、第2元素(E)は、約20〜約90モル%、約20〜約80モル%、約20〜約70モル%、約20〜約60モル%、約20〜約50モル%、約20〜約40モル%、約30〜約90モル%、約40〜約90モル%、約50〜約90モル%、約60〜約90モル%、約70〜約90モル%、約30〜約80モル%、約40〜約80モル%、約30〜約70モル%、又は更に約40〜約70モル%の量で存在する。
【0056】
幾つかの代表的な合金組成物では、第2元素(E)は、シリコンであることができ、シリコンは、少なくとも40モル%、少なくとも45モル%、少なくとも50モル%、又は少なくとも55モル%の量で存在する。シリコンは、約90モル%未満、約85モル%未満、又は約80モル%未満の量で存在することができる。例えば、合金組成物は、約40〜約90モル%、約45〜約90モル%、約50〜約90モル%、約55〜約90モル%、約40〜約80モル%、約50〜約80モル%、又は約55〜約80モル%のシリコンを含有することができる。
【0057】
その他の代表的な合金組成物では、第2元素(E)は、アルミニウムであることができ、アルミニウムは少なくとも40モル%、少なくとも45モル%、少なくとも50モル%、又は少なくとも55モル%の量で存在することができる。アルミニウムは、約90モル%未満、約80モル%未満、約70モル%未満、約65モル%未満、又は約60モル%未満の量で存在することができる。例えば、合金組成物は、約40〜約90モル%、約50〜約90モル%、約55〜約90モル%、約50〜約80モル%、約55〜約80モル%、約50〜約70モル%、約55〜約70モル%、約50〜約65モル%、又は約55〜約65モル%のアルミニウムを含有することができる。
【0058】
更にその他の代表的な合金組成物においては、第2元素(E)は、シリコン及びアルミニウムの混合物であることができる。シリコンの量は、合金組成物中のアルミニウムの量より多く、より少なく、又はそれに等しくてもよい。より高濃度のシリコンは、合金組成物の容量を増加させる傾向がある。より高濃度のアルミニウムは、合金組成物の融点を下げることができ、それは溶融加工技術(例えば、溶融スピニング)などのより多くの加工技術の使用を促進する。幾つかの合金組成物では、アルミニウムは、約50〜約70モル%の量で存在し、シリコンは約20モル%未満の量で存在する。例えば、合金組成物は、約50〜約70モル%のアルミニウム、約1〜約15モル%のシリコン、又は約55〜約65モル%アルミニウム、及び約1〜約10モル%のシリコンを含有することができる。
【0059】
合金組成物Snは、リチウムを除く合金組成物中の全ての元素の総モルを基準として、3〜50モル%の第3元素(E)を含有することができる。第3元素としては、イットリウム、ランタニド元素、アクチニド元素、又はこれらの組み合わせを挙げることができ、「A」(任意のアルカリ土類元素)を更に含むことができる。第3元素は、第2元素よりもスズとより速やかに反応することができ、スズの非晶相中への導入を促進することができる。合金組成物中に第3元素が過剰に含まれる場合、得られた合金組成物は多くの場合、シリコンと第3元素との間に電気化学的に不活性な金属間化合物が形成されるために、空気に対して不安定であると共に、容量が小さすぎる傾向にある。しかし、合金組成物中に含まれる第3元素が少なすぎる場合、結晶性スズ(例えば、元素状スズ)が、合金組成物中に存在することができる。少なくとも幾つかの実施形態では、結晶性スズの存在が、リチウム化及び脱リチウム化の各繰返しサイクルによって、不都合なほどに容量を減少させる場合がある。
【0060】
通常、第3元素(E)は、第2元素(E)からのシリコンと結合せず、シリサイドなどの化学量論的化合物を形成しない。第3元素としては、イットリウム、ランタニド元素、アクチニド元素、又はこれらの組み合わせを挙げることができる。好適なランタニド元素としては、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、及びルテチウムが挙げられる。好適なアクチニド元素としては、トリウム、アクチニウム、及びプロトアクチニウムが挙げられる。幾つかの合金組成物は、例えばセリウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、又はこれらの組み合わせから選択されるランタニド元素を含有する。
【0061】
第3要素は、ミッシュメタル(Mischmetal)であることができ、これは各種ランタニドの合金である。幾つかのミッシュメタルは、例えば、約45〜約60重量%のセリウム、約20〜約45重量%のランタン、約1〜約10重量%のプラセオジム、及び約1〜約25重量%のネオジムを含有する。その他の代表的なミッシュメタルは、約30〜約40重量%のランタン、約60〜約70重量%のセリウム、約1重量%未満のプラセオジム、及び約1重量%未満のネオジムを含有する。更にその他の代表的なミッシュメタルは、約40〜約60重量%のセリウム、及び約40〜約60重量%のランタンを含有する。ミッシュメタルは、多くの場合、少量の不純物(例えば、約3重量%以下、約2重量%以下、約1重量%以下、約0.5重量%以下、又は約0.1重量%以下)、例えば、鉄、マグネシウム、シリコン、モリブデン、亜鉛、カルシウム、銅、クロム、鉛、チタン、マンガン、炭素、イオウ、リン、などを含む。ミッシュメタルは多くの場合、少なくとも約97重量%、少なくとも約98重量%、又は少なくとも約99重量%のランタニド含有量を有する。1種の代表的ミッシュメタル(99.9%の純度、アルファ・エイサー(Alfa Aesar)(マサチューセッツ州ワードヒル)から入手可能)は、約50重量%のセリウム、18重量%のネオジム、6重量%のプラセオジム、22重量%のランタン、及び3重量%のその他希土類を含有する。
【0062】
合金組成物Snは、アルカリ土類元素(「A」)を任意に含むことができる。「A」としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、又はこれらの組み合わせなどのアルカリ土類元素を挙げることができる。幾つかの合金組成物では、アルカリ土類元素はカルシウムである。カルシウム量は、約25モル%未満の任意の量で存在することができる。幾つかの合金組成物は、アルカリ土類元素を、約25モル%未満、約15モル%未満、約10モル%未満、約5モル%未満、又は約3モル%未満の量で含有する。
【0063】
本開示の電気化学電池の負極にて使用される複合材料を製造するために有用な組成物の別の例は、式、SiCuAgを有する合金組成物を含み、式中、k、m、及びnはモル百分率を表し、合金組成物のモルを基準にして、k≧10、m≧3、及び1≦n≦50である。これらの組成物は、例えば、米国特許出願公開第2006/0046144号(オブロヴァック(Obrovac)、2006年3月2日公開)に開示されている。
【0064】
式SiCuAgを構成する合金組成物は、少なくとも約10モル%、少なくとも約20モル%、少なくとも約30モル%、少なくとも約35モル%、又は少なくとも約40モル%のシリコンを含む。合金組成物は、約90モル%未満、約85モル%未満、約80モル%未満、約70モル%未満、又は約60モル%未満のシリコンを含むことができる。例えば、シリコン含有量は、合金組成物のモルを基準にして、約10〜約90モル%、約20〜約85モル%、約30〜約80モル%、約35〜約70モル%、又は約40〜約60モル%であることができる。
【0065】
合金組成物SiCuAgは、少なくとも約3モル%の銅を含むことができる。幾つかの合金組成物としては、少なくとも約10モル%、少なくとも約20モル%、少なくとも約30モル%、又は少なくとも約40モル%の銅を含む。より少量の銅を使用した場合、リチウム化中に、Li/Li参照電極に対する50mV未満の電位にて、結晶性のLi15Siの形成を適切に抑制することが困難な場合がある。即ち、銀又は銀合金と組み合わされた銅は、Li/Li参照電極に対する50mV未満の電位でリチウム化中に、結晶性のLi15Siの形成を抑制することができる。代表的合金組成物は、約3〜約60モル%、約10〜約60モル%、約20〜約60モル%、又は約30〜約60モル%の銅を含む。
【0066】
多くの場合、銅は、銅シリサイド(例えば、CuSi)の形態で存在する。銅シリサイド形態のシリコンは、電気化学的に活性となる傾向がある。アルミニウムが、マトリックス形成剤として存在する場合、確実に銅シリサイドを形成するために、高濃度の銅を使用することができる。即ち、銅は、シリコンとよりもアルミニウムとの方がより反応性が強い傾向にあり、幾らかの銅シリサイドを確実に存在させるために、アルミニウムの存在下に、高濃度の銅を使用することが可能である(即ち、アルミニウム及び銅を組み合わせて、電気化学的に不活性な合金を形成することができる)。
【0067】
銅と銀又は銀合金との組み合わせは、Li/Li参照電極に対して約50mV未満の電位でリチウム化中に、結晶性のLi15Siの形成を抑制する傾向がある。即ち、銀又は銀合金は、銅単体で引き起こされる抑制よりも、結晶性のLi15Siの抑制を促進する。好適な銀合金としては、例えば、スズ、ガリウム、インジウム、亜鉛、鉛、ゲルマニウム、ビスマス、アルミニウム、カドミウム、又はこれらの組み合わせなどの電気化学的に活性な金属の少なくとも1つと組み合わされた銀が挙げられる。幾つかの代表的合金組成物では、銀合金は、銀とスズとの混合物(例えば、AgSn)又は銀と亜鉛との混合物である。
【0068】
式SiCuAgからなる合金組成物は、少なくとも約1モル%、少なくとも約2モル%、少なくとも約3モル%、少なくとも約5モル%、少なくとも約10モル%、又は少なくとも約20モル%の銀若しくは銀合金を含む。合金組成物は、約50モル%未満、約40モル%未満、約30モル%未満、又は約20モル%未満の銀若しくは銀合金を含むことができる。例えば、合金組成物は、約1〜約50モル%、約2〜約50モル%、約2〜約40モル%、約2〜約30モル%、又は約2〜約20モル%の銀若しくは銀合金を含むことができる。幾つかの銀合金は、少なくとも約50モル%、少なくとも約60モル%、少なくとも約70モル%、少なくとも約80モル%、又は少なくとも約90モル%の銀を含有する。
【0069】
式SiCuAgからなる幾つかの代表的合金組成物は更に、アルミニウムを含む。アルミニウムは、電気化学的活物質、電気化学的不活性物質、又はこれらの組み合わせとして機能することができる。アルミニウムを銀との合金にする場合、アルミニウムは電気化学的活性形態である。しかし、アルミニウムをマトリックス形成剤との合金にした場合、又はシリコン及びマトリックス形成剤との組み合わせと合金にした場合、アルミニウムは電気化学的不活性形態にて存在する。合金組成物は、約60原子百分率未満、約50原子百分率未満、約40原子百分率未満、約30原子百分率未満、約20原子百分率未満、約10原子百分率未満、又は約5原子百分率未満のアルミニウムを含むことができる。
【0070】
本開示の各種実施形態の合金組成物はまた、マトリックス形成剤を含むことができる。マトリックス形成剤は、電気化学的に不活性なマトリックスを提供するために存在してよい幾らかのシリコン又はアルミニウムと組み合わせることができる。得られたマトリックスは、金属シリサイド、金属アルミナイド、3元金属−シリコン−アルミニウム合金、又はこれらの組み合わせを含む。マトリックス形成剤の添加は、合金構造を維持し、合金組成物がリチウム化及び脱リチウム化する際に生じる体積変化の低減を支援するピラーとして機能することができる。代表的マトリックス形成剤としては、例えば、遷移金属、希土類金属、又はこれらの組み合わせが挙げられる。好適なマトリックス形成剤としては、ニッケル、コバルト、鉄、マンガン、チタン、クロム、モリブデン、ニオビウム、タングステン、タンタル、ランタン、セリウム、ミッシュメタル(即ち、希土類金属の混合物)、又はこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。幾つかの合金組成物は、約86モル%未満、約80モル%未満、約60モル%未満、約40モル%未満、約20モル%未満、約10モル%未満、又は約5モル%未満のマトリックス形成剤を含む。
【0071】
別の実施形態では、本開示の電気化学電池にて使用される負極中にて有用な電極組成物は、約1μm〜約50μmの範囲の平均粒径を有する粒子を含み、少なくとも1つの共通の相境界を共有する、電気化学的活性相及び電気化学的不活性相を含む電極組成物を含み、当該電気化学的不活性相が、金属間化合物、固溶体、又はこれらの組み合わせの形態にある少なくとも2つの金属元素を含み、(a)各相は、サイクリング前には100nm超の微結晶を有さず、(b)電気化学的活性相は、リチウムイオン電池において、電極が1回の完全な充電−放電サイクルを経てサイクルした後、非晶質である。これらの電極組成物は、例えば、米国特許出願公開第2005/0031957号(クリステンセン(Christensen)ら)に開示されている。
【0072】
電気化学的活性相は、リチウムをそれらの格子構造に組み込むことが可能な金属又は合金を含むことができる。電気化学的に活性な金属又は合金としては、例えば、シリコン、スズ、アンチモン、マグネシウム、亜鉛、カドミウム、インジウム、アルミニウム、ビスマス、ゲルマニウム、鉛、これらの合金類、及びこれらの組み合わせを挙げることができる。電気化学的に活性な合金としては、シリコンを含有する合金;スズ;遷移金属、及び所望により炭素;シリコン、遷移金属、及びアルミニウムを含有する合金;シリコン、銅、及び銀を含有する合金;並びにスズ、シリコン若しくはアルミニウム、イットリウム、及びランタニド若しくはアクチニド、又はこれらの組み合わせを含有する合金が挙げられる。幾つかの実施形態では、電気化学的活性相は、シリコン(例えば、シリコン粉末)を含むことができるか、又は本質的にそれで構成されている。例えば、シリコン粒子の場合、シリコン粒子の量は、典型的には、約10〜約95重量%の範囲であり、より大きな重量百分率は、典型的には、高密度の電気化学的活性粒子のために使用される。
【0073】
電極組成物は、典型的には、粉末形態であり得る。粉末は、約100μm未満、約80μm未満、約60μm未満、約40μm未満、約20μm未満、約2μm未満、又はより小さい、一方向の最大長を有することができる。粉末材料は、例えば、サブミクロン、少なくとも約0.5μm、少なくとも約1μm、少なくとも約2μm、少なくとも約5μm、又は少なくとも約10μm、あるいはより大きい粒径を有することができる。例えば、好適な粉末は多くの場合、約0.5μm〜約100μm、約0.5μm〜約80μm、約0.5μm〜約60μm、約0.5μm〜約40μm、約0.5μm〜約2.0μm、約1.0μm〜約50μm、約10〜約60μm、約20〜約60μm、約40〜約60μm、約20〜約40μm、約10〜約40μm、約5〜約20μm、又は約10〜約20μmの寸法を有する。粉末材料は、任意のマトリックス形成剤を含有することができる。粒子内に元々(即ち、第1リチウム化前に)存在する各相は、粒子内で他の相と接触することができる。例えば、シリコン/銅/銀−合金をベースにした粒子内では、シリコン相は、銅シリサイド相及び銀相又は銀合金相の両方と接触することができる。粒子内の各相は、例えば、約50nm未満、約40nm未満、約30nm未満、約20nm未満、約15nm未満、又はより小さい、結晶粒度を有することができる。
【0074】
代表的シリコン含有電気化学的活物質は、シリコン合金を含み、活性物質は、約50〜約85モル%のシリコン、約5〜約12モル%の鉄、約5〜約12モル%のチタン、及び約5〜約12モル%の炭素を含む。更に、活性物質は、純粋シリコンであることができる。有用なシリコン合金の更なる例としては、米国特許出願公開第2006/0046144号(オブロヴァック(Obrovac)ら)に記載されているようなシリコン、銅、及び銀又は銀合金;米国特許出願公開第2005/0031957号(クリステンセン(Christensen)ら)に記載されているような多相シリコン含有電極;米国特許出願公開第2007/0020521号、同第2007/0020522号、及び同第2007/0020528号(全てオブロヴァック(Obrovac)ら)に記載されるもののような、スズ、インジウム及びランタニド、アクチニド元素又はイットリウムを含有するシリコン合金;米国特許出願公開第2007/0128517号(クリステンセン(Christensen)ら)に記載されているような高シリコン含有量の非晶質合金;米国特許出願公開第2007/069718号(クラウス(Krause)ら)、同第2007/0148544号(リー(Le)ら)、国際公開第2007/0382582号公報(クラウス(Krause)ら)、及び米国特許第6,203,944号明細書(ターナー(Turner))に記載されているような電極に使用されるその他の粉末材料;を含む組成物が挙げられる。本発明の各種実施形態において有用な追加の有用な電気化学的活物質は、米国特許第6,255,017号明細書(ターナー(Turner))、同第6,436,578号明細書(ターナー(Turner)ら)、及び同第6,699,336号明細書(ターナー(Turner)ら)記載されているもの、これらの組み合わせ、並びに当業者によく知られているその他の粉末材料である。
【0075】
本開示の電極は、結合剤を含む。代表的高分子結合剤としては、エチレン、プロピレン、又はブチレンモノマー類から調製したものなどのポリオレフィン類、フッ化ビニリデンモノマー類から調製したものなどのフッ素化ポリオレフィン類、ヘキサフルオロプロピレンモノマーから調製したものなどのペルフルオロ化ポリオレフィン類、ペルフルオロ化ポリ(アルキルビニルエーテル類)、ペルフルオロ化ポリ(アルコキシビニルエーテル類)、又はこれらの組み合わせが挙げられる。高分子結合剤の具体例としては、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、及びプロピレンのポリマー類又はコポリマー類;並びにフッ化ビニリデン及びヘキサフルオロプロピレンのコポリマー類が挙げられる。
【0076】
幾つかの電極では、結合剤が架橋している。架橋により、結合剤の機械的特性を向上させることができ、合金組成物と存在し得る任意の導電性希釈剤との間の接触を向上させることができる。その他のアノードでは、結合剤は、米国特許出願公開第2006/0099506号(クラウス(Krause)ら)に記載されている脂肪族又は脂環式ポリイミドなどのポリイミドである。このようなポリイミド結合剤は、式(III)の繰返し単位を有し、
【0077】
【化7】

【0078】
式中、Rは、脂肪族又は脂環式であり;Rは、芳香族、脂肪族、又は脂環式である。
【0079】
脂肪族又は脂環式ポリイミド結合剤は、例えば、ポリアミド酸を形成し、続いて化学的又は熱的環化によりポリイミドを形成する、脂肪族又は脂環式ポリ酸無水物(例えば、二酸無水物)と芳香族、脂肪族、又は脂環式ポリアミン(例えば、ジアミン又はトリアミン)との間の縮合反応を使用して形成することができる。ポリイミド結合剤はまた、更に芳香族ポリ酸無水物(例えば、芳香族二酸無水物)を含有する反応複合材料を使用して、又は芳香族ポリ酸無水物(例えば、芳香族二酸無水物)及び脂肪族若しくは脂環式ポリ酸無水物(例えば、脂肪族又は脂環式二酸無水物)から誘導されるコポリマー類を含有する反応複合材料から形成することができる。例えば、ポリイミド中の約10%〜約90%のイミド基が、脂肪族又は脂環式部分と結合することができ、約90%〜約10%のイミド基が、芳香族部分と結合することができる。代表的な芳香族ポリ酸無水物は、例えば米国特許第5,504,128号明細書(ミズタニら)に記載されている。
【0080】
本開示の結合剤は、米国特許出願第11/671,601号(2007年2月6日出願)に開示されているようなリチウムポリアクリレートを含有することができる。リチウムポリアクリレートは、水酸化リチウムにより中和されるポリ(アクリル酸)から調製することができる。米国特許出願第11/671,601号は、ポリ(アクリル酸)が、アクリル酸若しくはメタクリル酸又はこれらの誘導体類の任意のポリマー若しくはコポリマーを含み、少なくとも約50モル%、少なくとも約60モル%、少なくとも約70モル%、少なくとも約80モル%、又は少なくとも約90モル%のコポリマーが、アクリル酸若しくはメタクリル酸を使用して調製されていることについて開示している。これらのコポリマー類を形成するために使用可能な有用なモノマーとしては、例えば、1〜12個の炭素原子を持つアルキル基を有するアクリル酸又はメタクリル酸(分枝又は非分枝)のアルキルエステル、アクリロニトリル、アクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルアクリルアミド、ヒドロキシルアルキルアクリレートなどが挙げられる。特に興味深いのは、特に、中和又は部分的中和後において水溶性である、アクリル酸又はメタクリル酸のポリマー又はコポリマーである。水溶性は、典型的には、ポリマー若しくはコポリマーの分子量及び/又は組成物の関数である。ポリ(アクリル酸)は高度に水溶性であり、アクリル酸を大きなモル分率で含有するコポリマー類と一緒であることが好ましい。
【0081】
本開示にて有用なアクリル酸及びメタクリル酸のホモポリマー類及びコポリマー類は、約10,000グラム/モル超、約75,000グラム/モル超、又は約450,000グラム/モル超、更にはより大きい分子量(M)を有することができる。本開示にて有用なホモポリマー及びコポリマーは、約3,000,000グラム/モル未満、約500,000グラム/モル未満、約450,000グラム/モル未満、又はより小さい分子量(M)を有する。ポリマー類又はコポリマー類上のカルボン酸酸性基(Carboxylic acidic groups)は、当該ポリマー類又はコポリマー類を水又は別の好適な溶媒、例えば、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、又は水と混和性のその他の双極性非プロトン性溶媒の1種以上の中に溶解させることによって中和することができる。ポリマー類又はコポリマー類上のカルボン酸基(アクリル酸又はメタクリル酸)水酸化リチウム水溶液にて滴定することができる。例えば、ポリ(アクリル酸)34重量%水溶液は、水酸化リチウム20重量%水溶液による滴定によって中和することができる。典型的には、十分な水酸化リチウムを添加して、モル基準で、50パーセント以上、60パーセント以上、70パーセント以上、80パーセント以上、90パーセント以上、又は100パーセントのカルボン酸基を中和する。幾つかの実施形態では、過剰な水酸化リチウムを添加して、結合剤溶液が、カルボン酸基の量に基づいて、100パーセント超、103パーセント超、107パーセント超、又はそれ以上の当量の水酸化リチウムをモル基準で含有できるようにする。
【0082】
リチウムポリアクリレートは、その他の高分子材料とブレンドして、材料のブレンドを調製することができる。これは、例えば、接着性を向上させるために、伝導性を向上させるために、熱的特性を変化させるために、又は結合剤の他の物理的性質に影響を与えるために、実施することができる。リチウムポリアクリレートは、非エラストマー系である。非エラストマー系とは、結合剤が相当量の天然又は合成ゴムを含有しないことを意味する。合成ゴム類としては、スチレン−ブタジエンゴム及びスチレン−ブタジエンゴムのラテックスが挙げられる。例えば、リチウムポリアクリレート結合剤は、約20重量%未満、約10重量%未満、約5重量%未満、約2重量%未満、又はそれ未満の天然若しくは合成ゴムを含有することができる。
【0083】
合金は、材料を調製するために選択された技術に応じた形態である、薄膜又は粉末の形態で調製することができる。合金組成物の好適な調整方法としては、スパッタリング、化学的気相成長、真空蒸着、溶融スピニング、スプラット冷却法、スプレー噴霧、電気化学的付着、及びボールミル粉砕が挙げられるが、これらに限定されない。スパッタリングは、非晶質合金組成物を製造するための効果的な方法である。
【0084】
溶融加工は、非晶質合金組成物を製造するために使用することができる別の方法である。1つの代表的なプロセスによれば、合金組成物含有インゴットは、高周波電界中で溶融し、次に、ノズルを通して回転ホイール(例えば、銅ホイール)の表面上へ射出させることができる。回転ホイールの表面温度は、溶解物温度よりも大幅に低いため、回転ホイールの表面と接触すると、溶解物が急冷される。急速冷却は、結晶性物質の形成を最少化し、非晶質物質の形成を促進する。好適な溶融加工方法は、米国特許出願公開第2007/0020521号、同第2007/0020522号、及び同第2007/0020528号(全て、オブロヴァック(Obrovac)ら)にも記載されている。
【0085】
スパッタリングされた又は溶融処理された合金組成物は、更に処理されて粉末状活性材料を製造することができる。例えば、合金組成物のリボン又は薄膜を粉砕して、粉末を形成することができる。粉末状合金粒子は、導電性コーティングを含むことができる。例えば、シリコン、銅、及び銀又は銀合金を含有する粒子は、導電性材料の層でコーティングすることができる(例えば、粒子中心部に合金組成物を持ち、粒子殻に導電性材料を持つ)。導電性コーティングを用いる場合、それらは電解メッキ、化学的気相成長、真空蒸着、又はスパッタリングなどの技術を用いて形成することができる。好適な導電性材料としては、例えば、炭素、銅、銀、又はニッケルが挙げられる。
【0086】
開示された電極は、当業者によく知られている追加の構成成分を含有することができる。電極は、粉末複合材料から電流コレクタへの電子移動を促進するための導電性希釈剤を含むことができる。導電性希釈剤としては、炭素粉(例えば、負極用カーボンブラック及び正極用のカーボンブラック、一次黒鉛など)、金属、金属窒化物、金属炭化物、金属シリサイド、及び金属ホウ化物が挙げられる。代表的導電性炭素希釈剤としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、炭素繊維、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0087】
本発明の幾つかの実施形態では、負極は、粉末複合材料及び/又は導電性希釈剤の、結合剤への接着性を促進する接着促進剤を含むことができる。接着促進剤と結合剤との組み合わせは、リチウム化/脱リチウム化のサイクルの繰返し中に、粉末複合材料内に発生することがある体積変化に、電極組成物がより適切に適応するよう支援することができる。接着促進剤の例としては、米国特許出願公開第2004/0058240号(クリステンセン(Christensen))に記載されているようなシラン類、チタネート類、及びホスホネート類が挙げられる。
【0088】
負極を製造するためには、活性物質の複合材料、任意の選択された追加の構成成分、例えば、結合剤、導電性希釈剤、接着促進剤、カルボキシメチルセルロースなどのコーティング粘度調整のための増粘剤、及び当業者に周知のその他の添加剤を、水又はN−メチルピロリドン(NMP)などの好適なコーティング溶媒中で混合して、コーティング用分散体を形成することができる。分散体を完全に混合し、次に、当業者に既知の任意の適切な分散体コーティング技術により、フォイル集電体へと適用する。集電体は、典型的には、例えば、銅、ステンレス鋼、又はニッケルホイルなどの導電性金属類の薄いフォイルである。スラリーを電流コレクタホイル上へコーティングし、次に、空気中で乾燥させ、続いて通常は、典型的には、約80℃〜約300℃に設定した加熱オーブン内で約1時間乾燥させ、全ての溶剤を除去する。次に、電極は多数の方法のうち任意のものを使用して、圧迫又は圧縮する。例えば、電極はそれを2つのカレンダーローラ間にて圧延することにより、それを静圧縮の圧力下に置くことによって、又は任意の他の圧力適用手段によって圧縮して、当業者には周知の平坦表面にすることができる。典型的には、約100MPa超、約500MPa超、約1GPa超、又はそれより大きな圧力を使用して、乾燥させた電極を圧縮し、低空隙率の粉末材料を作製する。
【0089】
本開示の電気化学電池は、正極及び負極の各々の少なくとも1つを上述のように作製し、それらを電解質内に配置することによって製造することができる。典型的には、セルガード(Celgard)2400微多孔性材料(セルガード社(Celgard LLC)(ノースカロライナ州シャーロット)から入手可能)などの少なくとも1つの微多孔性セパレータを使用して、負極が正極と直接接触するのを防止する。
【0090】
本開示の電気化学電池は、携帯型コンピュータ類、携帯情報端末類、携帯電話類、モータ駆動装置類(例えば、個人用又は家事用装具類及び乗り物類)、機器類、照明装置類(例えば、懐中電灯類)、及び加熱装置を含む様々なデバイスに使用することができる。本開示の電気化学電池を1以上組み合わせて、電池パックを提供することができる。開示された電極を使用した充電式リチウムイオン電池及び電池パックの構成及び用途に関する更なる詳細は、当業者によく知られている。
【0091】
開示は、以下の実例となる実施例において更に説明され、全ての百分率は、他に指示されない限りは重量%による。
【実施例】
【0092】
準備的実施例1−Si60Al14FeTiSn(MM)10合金粉末−
アルミニウム、シリコン、鉄、チタン、及びスズは、高純度(99.8重量%以上)の元素形態にて、アルファ・エイサー(Alfa Aesar)(マサチューセッツ州ワードヒル)又はアルドリッチ(Aldrich)(ウィスコンシン州ミルウォーキー)から得た。希土類元素の混合物(ミッシュメタル(MM)としても周知)は、アルファ・エイサーから、50重量%のセリウム、18重量%のネオジム、6重量%のプラセオジム、22重量%のランタン、及び4重量%の他の希土類元素類を含有する希土類元素の含有量が最低99.0重量%のものとして入手した。
【0093】
合金組成物Si60Al14FeTiSn(MM)10は、アルミニウムショット7.89g、シリコンフレーク35.18g、鉄ショット9.34g、チタン顆粒物1.00g、スズショット17.35g、及びミッシュメタル(MM)29.26gの混合物を、アルゴンを充填したアーク炉(アドバンスト・バキューム・システムズ(Advanced Vacuum Systems)(マサチューセッツ州エーア)より市販されている)内で銅製ハースと共に融解させることにより調製し、インゴットとした。インゴットを、ダイヤモンドブレードの湿式のこぎりを使用して、細長い切れ端へと切断した。
【0094】
次に、インゴットを溶融紡糸により更に処理した。溶融紡糸装置は、回転冷却ホイール上に位置する0.35mmの開口部を備えた円筒形石英ガラスるつぼ(16mm内径×140mm長さ)を有する真空槽を収容した。回転冷却ホイール(10mm厚×203mm直径)は、ノンフェラス・プロダクツ(Nonferrous Products, Inc.)(インディアナ州フランクリン)から入手可能な銅合金(Ni−Si−Cr−Cu C18000合金、0.45重量%クロム、2.4重量%ニッケル、0.6重量%シリコン、残部は銅)から作製した。処理に先だって、冷却ホイールのエッジ面をラビング用化合物(3M(ミネソタ州セントポール)より、インペリアル・マイクロフィニッシング(IMPERIAL MICROFINISHING)として入手可能)を使用して研磨し、次に鉱油でふき取って薄膜を残した。
【0095】
20gのインゴットストリップをるつぼ内に配置した後、システムを10.6Paまで真空引きし、次にヘリウムガスで満たして26.6kPaとした。インゴットを、高周波誘導を利用して溶融した。温度が、1350℃に達した時点で、53.5kPaのヘリウム圧力が、溶融合金組成物表面へ加わり、合金組成物がノズルを通って回転(毎分5031回転)冷却ホイール上へと押し出される。1mmの幅及び10μmの厚さを有するリボンストリップが、形成された。リボンストリップを、200℃にて2.5時間、アルゴン雰囲気下にて環状炉内でアニールした。
【0096】
実施例1A及び1B並びに比較実施例1
Si60Al14FeTiSn(MM)10ボールミル粉砕合金粉末(平均粒径1μm、密度=3.76g/cm)92.0重量%、スーパーP導電性希釈剤2.2重量%、及びポリイミド結合剤5.8重量%の組成を持つ電極は、次のようにして調製された。
【0097】
Si60Al14FeTiSn(MM)10粉末1.84g及びスーパーPカーボンブラック0.044gを、45mLステンレス鋼容器内で、4個の直径1.3mmタングステンカーバイト製ボールと一緒にし、遊星マイクロミル(プルヴァリセッテ(PULVERISETTE)7型、フリッチュ社(Fritsch)(ドイツ)製)にて、速度設定7で、30分間混ぜ合わせた。次に、ポリイミド2555(デュポン社(Dupont)(デラウェア州ウィルミントン)から入手可能)の0.58g又は20%溶液及びNMP1.5mLを容器に加えた。更なる混合を、遊星マイクロミルにて、5〜30の速度で更に30分間実施した。125μmギャップを持つコーティング用バーを使用して、得られた混合物を12μm厚の電解質銅箔上へとコーティングした。コーティングを、80℃に設定したオーブン内で30分間乾燥させ、次に、120℃に設定したオーブン内で減圧下にて2時間乾燥させた。次に、コーティングを、300℃に設定したオーブンにて、アルゴン下で12時間、後硬化させた。
【0098】
全ての組成物を組立前に乾燥させ、電池製作は露点−70℃の乾燥室内で行った。2325コイン電池は、次の組成物から、次の順番にて、下から上へと組み立てた。銅箔/リチウム金属フィルム/セパレータ/電解質/セパレータ/合金複合電極/銅箔。電解液100μLを使用して、各電池を満たした。電池は、測定前にクリンプシールした。
【0099】
実施例1A、1B、及び比較実施例1の電解質は、エチレンカーボネート:ジエチレンカーボネートの容量比1:2溶液中に1M LiPFを含有した。10重量%フルオロエチレンカーボネートを実施例1Aに加え、10重量%ビニレンカーボネートを実施例1Bに加えた。比較実施例1は、添加剤を有さなかった。
【0100】
電池を、0.005〜0.9V、C/4の比率、室温にて、マッコール(Maccor)サイクラーを使用してサイクリングした。各サイクルにおいて、電池を最初はC/4の比率で、放電終了時、トリクル電流10mA/gにて、次に開回路にて15分間休止して、放電(合金のリチウム化)させた。次に、電池をC/4の比率で充電し、続いて開回路にて更に15分間休止させた。電池を多くのサイクルを通して稼動させ、完了したサイクル数の関数として、容量減退の程度を測定した。結果を表Iに示す。
【0101】
【表1】

【0102】
表1のデータは、フルオロエチレンカーボネート及びビニレンカーボネート添加剤の本開示の電気化学電池への明白な効果を示す。
【0103】
本発明の範囲及び趣旨から逸脱しない本発明の様々な変更や改変は、当業者には明らかとなるであろう。本発明は、本明細書で述べる例示的な実施形態及び実施例によって不当に限定されることを意図するものではないこと、また、こうした実施例及び実施形態は、本明細書において以下に記述する特許請求の範囲によってのみ限定されることを意図する本発明の範囲に関する例示のためにのみ提示されることを理解すべきである。引用した参照文献は全て、それらの全体が本明細書に参考として組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の構造を有するビニレンカーボネート添加剤を含む電解質、
【化1】

(式中、RはH又はC〜Cのアルキル若しくはアルケニル基である)と、
(i)式、SiSnを有する材料を含む組成物であって、式中、q、x、y、及びzは、モル百分率を表し、各モル百分率は、組成物中のLi以外の全ての元素のモル数に基づいており、
(q+x)>2y+zであり、q及びzは0以上であり、Mは、遷移金属、Y、又はこれらの組み合わせから選択され、Si、Sn、M、及びC元素は、Siを含む非晶相、金属シリサイドを含むナノ結晶相、Snを含む非晶相(q>0の場合)、及び炭化ケイ素を含む相(z>0の場合)からなる多相ミクロ構造の形態で配置されている組成物;
(ii)式、SiAlSnInを有する材料を含む組成物であって、式中、a、b、c、d、e、及びpはモル百分率を表し、各モル百分率は、組成物中のLi以外の全ての元素のモル数に基づいており、Mは遷移金属又は遷移金属の組み合わせから選択され、EはY、ランタニド、アクチニド、又はこれらの組み合わせを含み、35≦a≦70、1≦b≦45、5≦c≦25、1≦d≦15、2≦e≦15、及び0≦p≦15であり、合金組成物がSiを含む非晶相及びE及びSnを含む(pが0の場合)又はE、Sn、及びInを含む(p>0の場合)ナノ結晶相の混合物である組成物;
(iii)式、Snを有する材料を含む組成物であって、式中、f、g、h、i、及びjはモル百分率を表し、各モル百分率は、組成物中のLi以外の全ての元素のモル数に基づいており、1≦f≦50、20≦g≦95、h≧3、i=0、又は3≦i≦50及び0≦j≦1であり、EはSi、Al、又はこれらの組み合わせを含み;Eは、Y、ランタニド、アクチニド、又はこれらの組み合わせを含み、「A」は、アルカリ土類元素を含み;Mは、Fe、Mg、Si、Mo、Zn、Ca、Cu、Cr、Pb、Ti、Mn、C、S、P、又はこれらの組み合わせから選択される元素を含む組成物;
(iv)式、SiCuAgを有する材料を含む組成物であり、式中、k、m、及びnはモル百分率を表し、各モル百分率は、組成物中のLi以外の全ての元素のモル数に基づいており、k≧10、m≧3、
及び1≦n≦50である組成物;のうちの少なくとも1つを含むアノード組成物と、を含むリチウムイオン電気化学電池。
【請求項2】
RがHである、請求項1に記載の電気化学電池。
【請求項3】
RがC〜Cのアルキル又はアルケニル基を含む、請求項1に記載の電気化学電池。
【請求項4】
が、Mn、Mo、Nb、W、Ta、Fe、Cu、Ti、V、Cr、Ni、Co、Zr、Y、又はこれらの組み合わせから選択され、Mが、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、W、又はこれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載の電気化学電池。
【請求項5】
前記アノード組成物がリチウムを更に含む、請求項1に記載の電気化学電池。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の電気化学電池を1つ以上含む、電池パック。
【請求項7】
次の構造を有するエチレンカーボネートを含む電解質添加剤、
【化2】

(式中、Xは、H、F、又はClであり;かつQは、F若しくはCl又はC〜Cのアルキル若しくはアルケニル基である)と、
(i)式、SiAlSnInを有する材料を含む組成物であって、式中、a、b、c、d、e、及びpはモル百分率を表し、各モル百分率は、組成物中のLi以外の全ての元素のモル数に基づいており、Mは遷移金属又は遷移金属の組み合わせから選択され、EはY、ランタニド、アクチニド、又はこれらの組み合わせを含み、35≦a≦70、1≦b≦45、5≦c≦25、1≦d≦15、2≦e≦15、及び0≦p≦15であり、合金組成物がSiを含む非晶相及びE及びSnを含む(pが0の場合)又はE、Sn、及びInを含む(p>0の場合)ナノ結晶相の混合物である組成物;
(ii)式、Snを有する材料を含む組成物であって、式中、f、g、h、i、及びjはモル百分率を表し、各モル百分率は、組成物中のLi以外の全ての元素のモル数に基づいており、1≦f≦50、20≦g≦95、h≧3、i=0、又は3≦i≦50、及び0≦j≦1であり、EはSi、Al、又はこれらの組み合わせを含み;Eは、Y、ランタニド、アクチニド、又はこれらの組み合わせを含み、「A」は、アルカリ土類元素を含み;Mは、Fe、Mg、Si、Mo、Zn、Ca、Cu、Cr、Pb、Ti、Mn、C、S、P、又はこれらの組み合わせから選択される元素を含む組成物;又は
(iii)式、SiCuAgを有する材料を含む組成物であり、式中、k、m、及びnはモル百分率を表し、各モル百分率は、組成物中のLi以外の全ての元素のモル数に基づいており、k≧10、m≧3、及び1≦n≦50である組成物;のうちの少なくとも1つを含むアノード組成物と、を含むリチウムイオン電気化学電池。
【請求項8】
Xが水素であり、Qがフッ素である、請求項7に記載の電気化学電池。
【請求項9】
Xがフッ素であり、Qがフッ素である、請求項7に記載の電気化学電池。
【請求項10】
Xが水素であり、Qが−CH=CHである、請求項7に記載の電気化学電池。
【請求項11】
が、Mn、Mo、Nb、W、Ta、Fe、Cu、Ti、V、Cr、Ni、Co、Zr、Y、又はこれらの組み合わせから選択され、Mが、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、W、又はこれらの組み合わせから選択される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の電気化学電池。
【請求項12】
前記アノード組成物がリチウムを更に含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の電気化学電池。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の電気化学電池を1つ以上含む、電池パック。
【請求項14】
(a)次の構造を有するビニレンカーボネート、
【化3】

又は
b)次の構造を有するエチレンカーボネートであって、
【化4】

式中、RはH又はC〜Cのアルキル若しくはアルケニル基であり;Xは、H、F、又はClであり;Qは、F若しくはCl又はC〜Cのアルキル若しくはアルケニル基であり;
電極組成物は、約1μm〜約50μmの範囲の平均粒径を有する粒子を有し、
前記粒子が、少なくとも1つの共通の相境界を共有する、電気化学的活性相と電気化学的不活性相とを含み、
前記電気化学的不活性相が、金属間化合物、固溶体、又はこれらの組み合わせの形態にある少なくとも2つの金属元素を含み、
(i)各相は、サイクリング前には100nm超の微結晶を有せず、
(ii)前記電気化学的活性相が、リチウムイオン電池において、前記電極が1回の完全な充電−放電サイクルを経てサイクルした後、非晶質であるエチレンカーボネート;のうちの少なくとも1つを含む電解質添加剤を含む、電気化学電池。
【請求項15】
前記電気化学的活性相がシリコンを含む、請求項14に記載の電池。
【請求項16】
前記電気化学的不活性相が、鉄、ニッケル、マンガン、コバルト、銅、チタン、又はクロムから選択される少なくとも2種の金属元素を含む、請求項14に記載の電池。
【請求項17】
前記電気化学的不活性相がシリコンを更に含む、請求項15〜16のいずれか一項に記載の電池。
【請求項18】
前記電解質がビニレンカーボネートを含む、請求項15〜17のいずれか一項に記載の電池。
【請求項19】
前記電解質がフルオロエチレンカーボネートを含む、請求項15〜17のいずれか一項に記載の電池。
【請求項20】
前記アノード組成物がリチウムを更に含む、請求項14〜19のいずれか一項に記載の電気化学電池。

【公表番号】特表2010−519718(P2010−519718A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−551775(P2009−551775)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【国際出願番号】PCT/US2008/053015
【国際公開番号】WO2008/106280
【国際公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】