説明

電解質材料、電解質膜、触媒ペースト、膜電極接合体及び燃料電池

【課題】耐酸化性に優れると共に、高い性能を発揮できる電解質材料を提供すること。
【解決手段】一般式:(XSiO1.5n…(1):{nは6以上の整数;Xはアルキル基、スルホ基、フェニル基、カルボキシ基、アルコキシ基、−(OCm2mp−OCm2m+1(mは自然数、Pは0以上の整数)並びにこれら置換基の一部水素がイオン交換基で置換された置換基から任意に選択される;Xは互いに独立して選択可能であり、少なくとも分子全体で一以上のイオン交換基を含む}で表される構造をもつポリシロキサン化合物を含有することを特徴とする。シルセスキオキサン骨格をもつ有機−無機のハイブリッド型の化合物は高い耐酸化性を示すことが判明し本発明を完成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質材料並びにその電解質材料を採用した電解質膜、触媒ペースト、膜電極接合体及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池に好適な電解質材料としてはパーフルオロ系電解質材料がある。パーフルオロ系電解質材料はナフィオン(商標)に代表され、燃料電池に一般的に採用される材料であり、耐酸化性に優れる材料である。燃料電池はその電極反応過程において、アノードで生成したプロトンが電解質膜を通してカソードに達したときに、カソード側に供給される酸素により酸化されて水を生成しているが、副反応としてヒドロキシラジカルを生成することが考えられ、そのヒドロキシラジカルは拡散して燃料電池の構成要素を分解するおそれがある。
【0003】
また、その樹脂骨格の性質上、撥水性構造をもつセグメントと親水性構造をもつセグメントとが混在しており撥水層と親水層とが相分離構造を採っている。このために、保水性及びガスの拡散性の機能をバランスよくもつ構造になっている。
【特許文献1】特開2002−298855号公報
【特許文献2】特開2002−164055号公報
【特許文献3】特開2004−123794号公報
【特許文献4】特開2003−292608号公報
【特許文献5】特開2004−119242号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、パーフルオロ系電解質材料は燃料電池に適用した場合の性能は高いものの、複雑なプロセスを経て合成される材料であること及びフッ素含有量が高いことから非常にコストが高くなっており、燃料電池普及の障害になっている。
【0005】
本発明は上記実状に鑑み為されたものであり、耐酸化性に優れると共に、高い性能を発揮できる電解質材料を提供することを解決すべき課題とする。また、その電解質材料を採用した電解質膜、触媒ペースト、膜電極接合体及び燃料電池を提供することも解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する目的で本発明者らは鋭意検討を行った結果、以下の発明を完成した。すなわち、本発明の電解質材料は、一般式:(XSiO1.5n…(1):{nは6以上の整数;Xはアルキル基、スルホ基、フェニル基、カルボキシ基、アルコキシ基、−(OCm2mp−OCm2m+1(mは自然数、Pは0以上の整数)並びにこれら置換基の一部水素がイオン交換基で置換された置換基から任意に選択される;Xは互いに独立して選択可能であり、少なくとも分子全体で一以上のイオン交換基を含む}で表される構造をもつポリシロキサン化合物を含有することを特徴とする。なお、前記nが8、Xがフェニル基又はスルホ化されたフェニル基であって、イオン交換容量が6.14meq/g未満であることが望ましい。
【0007】
また、上記課題を解決する本発明のその他の電解質材料は、一般式:(YSiO1.5n…(2):{nは6以上の整数;Yはアルキル基、スルホ基、フェニル基、カルボキシ基、アルコキシ基、−(OCm2mp−OCm2m+1(mは自然数、Pは0以上の整数)並びにこれら置換基の一部水素がイオン交換基で置換された置換基から任意に選択される;Yは互いに独立して選択可能であり、一以上のイオン交換基を含み且つ一以上の重合性基を分子全体で含む}で表される構造をもつポリシロキサン単量体と、該ポリシロキサン単量体が備える該重合性基と重合しうる重合性基をもち任意に添加される一種以上の添加単量体と、を共重合させることで合成し得る重合体材料を含有することを特徴とする。ここで、添加単量体の添加は任意である。
【0008】
本発明者らは耐酸化性の高い材料を探索した結果、シルセスキオキサン骨格をもつ有機−無機のハイブリッド型の化合物に着目した。シルセスキオキサン骨格をもつ有機−無機のハイブリッド型の化合物は高い耐酸化性を示すことが判明した。なお、本明細書中、「イオン交換基」とは酸性基であり、本発明のイオン伝導性材料の使用条件においてイオン交換能を発揮できる官能基である。特に強酸性基が好ましい。
【0009】
そして、上記課題を解決する本発明の電解質膜は前述した本発明の電解質材料と、その電解質材料を含浸する多孔質膜とを有することを特徴とする。前述の電解質材料は多孔質膜中に含浸されることで充分な機械的強度が与えられる。多孔質膜としてはポリイミドから構成されることが好ましい。また、上記課題を解決する本発明の触媒ペーストは前述した本発明の電解質材料と、触媒とを有することを特徴とする。
【0010】
更に、上記課題を解決する本発明の膜電極接合体は、電解質膜と、該電解質膜の両面に積層される触媒層と、該触媒層の該電解質膜の反対側に積層される拡散層とを有する燃料電池用の膜電極接合体であって、前記電解質膜が前述した本発明の電解質膜であること及び/又は前記触媒層が前述した本発明の触媒ペーストから形成される層であることを特徴とする。そして、上記課題を解決する本発明の燃料電池は、この本発明の膜電極接合体を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電解質材料及び触媒ペーストは、耐酸化性とプロトン伝導性とを両立することができる。本発明の電解質膜及び膜電極接合体は、耐酸化性とプロトン伝導性とを両立できると共に充分な強度を付与することができる。本発明の燃料電池は高い耐久性と性能とを両立できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(電解質材料)
(第1実施形態)
本実施形態の電解質材料はポリシロキサン化合物とその他必要に応じて混合される材料とを含有することを特徴とする。
【0013】
ポリシロキサン化合物は前記一般式(1)で表される構造をもつ化合物である。一般式(1)で表されるポリシロキサン化合物は(XSiO1.5)で表される繰り返し単位がn個結合した化合物である。つまり、理想的な化学構造としては、ケイ素原子がもつ4つの共有結合のうち、3つが酸素原子を介して他のケイ素原子と結合し、残りの一つにXで表される官能基が結合した化合物であり、ケイ素原子間の結合様式によっては種々の構造を採りうる。
【0014】
一般式(1)で表されるポリシロキサン化合物の骨格としては、ケイ素原子間の結合に明確な規則性を示さないランダム構造、下記一般式(3)で表される化合物にて代表できるラダー構造、一般式(4)で表される化合物(T38)にて代表できる完全縮合ケージ構造、不完全縮合ケージ構造が挙げられる。不完全縮合ケージ構造としては完全縮合ケージ構造における一部のケイ素原子間の結合が加水分解されている構造(一般式(4):T3622)や、一部のケイ素原子が欠損している構造(一般式(5):T3423)が例示できる。
【0015】
不完全縮合ケージ構造は一般式(1)で表されるポリシロキサン化合物には厳密には当てはまらないとも考えられるが、この程度の構造欠陥は想定内である。つまり、一般式(1)は、前述したように、それぞれのケイ素原子の4つの共有結合のうちの3つで酸素原子を介して他のケイ素原子に結合するとともに残りの1つでXと結合している繰り返し構造をもつことを規定しているが、一般的に重合体の末端部などの境界部分の構造は一般式で表される化学構造がそのまま妥当しないことが多いからである。このことは、後述する一般式(2)で表されるポリシロキサン単量体についても妥当する。
【0016】
【化1】

【0017】
【化2】

【0018】
【化3】

【0019】
Xはアルキル基、スルホ基、フェニル基、カルボキシ基、アルコキシ基、−(OCm2mp−OCm2m+1(mは自然数、Pは0以上の整数)並びにこれら置換基の一部水素がイオン交換基で置換された置換基から任意に選択される。そして、Xは互いに独立して選択可能であり、少なくとも分子全体で一以上のイオン交換基を含んでいる。イオン交換基としてはスルホ基、カルボキシ基、リン酸基などが例示でき、特に強酸性のスルホ基が好ましい。イオン交換基の導入量はプロトン伝導性向上の観点からは多いことが好ましく、電解質材料の安定性(水への溶解性など)の観点からは少ないことが好ましい。例えば、イオン交換基がスルホ基の場合に、イオン交換基の導入量の平均値として、ケイ素原子1つあたり0.125〜1.625程度が好ましい。
【0020】
また、イオン交換容量を基準にすると、 0.8meq/g以上、6.2meq/g以下が好ましい。特に一般式(1)におけるnが8、Xがフェニル基又はスルホ化されたフェニル基である場合には、イオン交換容量が6.14meq/g未満にすることが望ましい。一般式(1)におけるnが8、Xがフェニル基又はスルホ化されたフェニル基である場合のイオン交換容量の上限値としては、更に5.5meq/g以下、5.0meq/g以下、4.5meq/g以下、4.0meq/g以下、3.9meq/g以下などの値が好ましい値として採用できる。下限としては1.0meq/g以上、1.17meq/g超などの値が好ましい値として採用できる。なお、上限値及び下限値の組み合わせは任意である。
【0021】
具体的なポリシロキサン化合物としては、C484012Si8(一般式(1)及び(4)におけるXがすべてフェニル基であり、nが8である化合物)において、X(フェニル基)の一部をスルホ化した化合物や、C726018Si12(一般式(1)及び(4)におけるXがすべてフェニル基であり、nが12である化合物)において、X(フェニル基)の一部をスルホ化した化合物が例示できる。両者共に完全縮合ケージ構造をもつポリシロキサン化合物である。
【0022】
一般式(1)のポリシロキサン化合物の製造方法は特に限定しない。例えば、対応するXの官能基を有する3官能性シラン(SiX(OH)3)を混合して脱水反応を行うことにより合成できる。シランへのXの官能基の導入は常法が採用できる。
【0023】
更に本実施形態の電解質材料は一般式(1)で表されるポリシロキサン化合物のほか、その他必要に応じて混合される材料として、他の電解質材料を含有することができる。例えば、パーフルオロ系電解質材料(ナフィオンなど)、炭化水素系電解質材料(一部の水素原子がフッ素に置換されているものも含む。例.スルホ基が導入されたポリスチレン)及びその他の無機系電解質材料(ケイタングステン酸などのヘテロポリ酸など)などである。これらの他の電解質材料は一般式(1)で表されるポリシロキサン化合物と均一に分散・混合されていることが好ましい。
【0024】
(第2実施形態)
本実施形態の電解質材料は重合体材料とその他必要に応じて混合される材料とを含有することを特徴とする。
【0025】
重合体材料はポリシロキサン単量体と、そのポリシロキサン単量体が備える重合性基と重合しうる重合性基をもち任意に添加される一種以上の添加単量体と、を共重合させることで合成し得る重合体材料を含有する。
【0026】
ポリシロキサン単量体は一般式(2)で表される構造をもつ化合物である。一般式(2)で表されるポリシロキサン化合物は(YSiO1.5)で表される繰り返し単位がn個結合した化合物である。本構造は、Yがそのうちの少なくとも1つに重合性基を有する点が異なっている以外には、一般式(1)で表されるポリシロキサン化合物{(XSiO1.5n}と概略同一であるので更なる説明は省略する。重合体にした結果、水に対する安定性を一般式(2)におけるポリシロキサン骨格の部分のイオン交換基の導入量に拘わらず向上させることができる。特に後述する添加単量体などを選択することで3次元網目構造などを採用することで水に対する安定性を大きく向上できる。
【0027】
重合基としてはビニル基、カルボキシ基、OH基などの通常の官能基が選択できる。ビニル基を採用した場合にはラジカル重合などを行うことができ、カルボキシ基、OH基などではホスゲン、ジイソシアネートなどを添加することで重合させることができる。カルボキシ基、OH基などは一般式(2)で表されるポリシロキサン単量体単位が1つあたり2以上導入する。例えば本実施形態の電解質材料は一般式(7)で表されるような化学構造をもつ。
【0028】
【化4】

【0029】
添加単量体は、前述したように、本実施形態の電解質材料の水に対する安定性を調節したり、電解質材料の疎水性−親水性のバランスを調節したり、物理的特性を向上するなどの目的で選択されて添加される。添加単量体はポリシロキサン単量体がもつ重合性基に対応する重合性基が導入された化合物である。ポリシロキサン単量体がビニル基を有する場合にはスチレン、ジビニルベンゼンなどのビニル単量体が例示でき、重合性基がOH基やカルボキシ基の場合には、グリコールや二価のフェノール、ジカルボン酸などが挙げられる。添加単量体はランダム共重合、ブロック共重合などでポリシロキサン単量体とともに重合体を構成する。例えば添加単量体(CH2=CHZ)を含む場合の本実施形態の電解質材料は一般式(8)で表されるような化学構造をもつ。
【0030】
【化5】

【0031】
(電解質膜)
本実施形態の電解質膜は電解質材料と多孔質膜とを有する。電解質材料は前述した本実施形態の電解質材料をそのまま採用できるので、ここでの更なる説明は省略する。
【0032】
多孔質膜は膜の表裏面を連通する多数の孔をもつ薄膜である。この孔内に電解質材料が含浸されている。多孔質膜の空孔率はプロトン伝導性の観点からは高いことが好ましい。また、膜の強度の観点からはある程度以下の値に制限することが好ましい。例えば、多孔質膜の空孔率は20%〜90%程度にすることが好ましく、40%〜70%程度にすることがより好ましい。
【0033】
多孔質膜は有機、無機を問わず高分子材料から構成されることが好ましい。高分子材料としては燃料電池内の環境下で化学的及び物理的安定性の高い材料が望ましい。例えばエンジニアリングプラスチック(ポリイミド、フッ素樹脂など)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)などの有機高分子材料、炭素材料(カーボンペーパー、多孔質カーボンなど)、セラミクス材料(ガラス、アルミナなど)を採用することができる。特に膜の強度に優れ且つ可撓性の高い有機高分子材料(ポリイミドなど)を採用することが好ましい。
【0034】
これらの材料に孔を形成する方法としては常法が採用できる。例えば、孔のない膜を延伸する方法(高分子材料など)、繊維状にした後に不織布若しくは織布にする方法(高分子材料、炭素材料、セラミクス材料など)、溶解除去できる微粉末を混練などして分散させた後に製膜し微粉末を溶解除去する方法(高分子材料、炭素材料、セラミクス材料など)、機械的方法などが例示できる。
【0035】
電解質材料は固体状の材料を採用することが好ましい。固体状の電解質材料を加熱により溶融した状態乃至は溶媒により溶解した状態にて多孔質膜中に浸透乃至は圧入することで孔内に含浸させ、その後、液状にした電解質材料は冷却乃至は乾燥により固体状に戻すことで安定した膜が形成できる。
【0036】
(触媒ペースト及び膜電極接合体)
本実施形態の触媒ペーストは電解質材料と触媒とを有する。触媒ペーストは適正な溶媒などを含有させることが好ましい。本触媒ペーストを電解質膜や拡散層に塗布することで触媒層を形成できる。電解質材料は前述した本実施形態の電解質材料をそのまま採用できるので、ここでの更なる説明は省略する。触媒は、一般的に担持粉末に触媒を担持させた触媒担持粉末として使用される。触媒としては白金や白金に他の元素(ルテニウム、パラジウムなど)を合金化させた貴金属触媒などが使用される。担持粉末としてはカーボン粉末などが使用される。担持粉末としてカーボン粉末、触媒として白金を使用した白金担持カーボンが汎用される。白金担持カーボンの白金は他の元素と合金化されていても良く、また、他の元素と混合して用いることもできる。触媒は、担持粉末を使用せずに、触媒自身を粉末として使用しても良い。
【0037】
本実施形態の膜電極接合体は電解質膜と触媒層と拡散層とを有する。ここで、電解質膜は主に膜厚方向でのプロトン伝導性を示す部材であり、触媒層は酸化還元反応を触媒する部材であり、そして拡散層は燃料ガスや空気などの気体及び水分の透過性に優れ、電気及び熱の伝導性をも発揮できる部材である。拡散層は表面処理したカーボンペーパーなどから構成されるものが知られている。触媒層は電解質膜及び/又は拡散層の表面に触媒ペーストを塗布することで形成することができる。本膜電極接合体は、電解質膜に対して本実施形態の電解質膜を採用するか、及び/又は触媒層に対して本実施形態の触媒ペーストから形成される層を採用している。
【0038】
(燃料電池)
本実施形態の燃料電池は固体高分子電解質型燃料電池である。本実施形態の燃料電池としては燃料電池セルを単独で用いているか又は複数積層したスタックを形成しているものである。燃料電池セルは、前述の本実施形態の膜電極接合体を有し、その膜電極接合体をセパレータで狭持している。
【0039】
セパレータは一般的に使用されている材質、形態のものが使用できる。セパレータには燃料ガス又は酸化剤ガスが流れる流路が形成され、ガス供給装置が接続される。
【実施例】
【0040】
(合成例1〜5)
484012Si8:(C65SiO1.58(オクタフェニルPOSS(オリゴシルセスキオキサン;poly oligomeric silsesquioxane)、アルドリッチ製、品番52,682-7)7g(合成例1、2、4及び5)又はC726018Si12:(C65SiO1.512(ドデカフェニルPOSS、アルドリッチ製、品番54,420-5)7g(合成例3)を1,2−ジクロロエタン150mLで分散懸濁した溶液を撹拌しながら60℃に加温し、表1に示す量のクロロスルホン酸を添加した後、60℃で2時間加温した。
【0041】
その後、室温になるまで放置冷却して生成した沈殿をろ取後、1,2−ジクロロエタンにて洗浄して真空乾燥させることで一般式(1)で表されるポリシロキサン化合物(Xがフェニル(一部スルホ化されている);nは合成例1、2、3及び5が8、合成例3が12)を得た。この生成物のイオン交換容量は合成例1:3.88meq/g、合成例2:2.11meq/g、合成例3:.75meq/g、合成例4:6.14meq/g及び合成例5:1.17meq/gであった。
【0042】
イオン交換容量の測定は、以下の方法で行った。まず、試験試料についてイオン交換基をH型に置換した後、100mlビーカーに、評価試料を0.05gを精密天秤で秤量し、20mLのエタノールに溶解した。
【0043】
指示薬としてフェノールフタレインを1滴を溶解液中に滴下して0.05mol/L水酸化ナトリウム水溶液にて滴定を行った。滴定の終点は溶解液が赤く変色した状態が数秒間保持した時点とした。水酸化ナトリウム水溶液の滴定量から下式にてイオン交換容量を算出した。
【0044】
(イオン交換容量)(meq/g)=(0.05×滴定量(ml))/(溶解させた試験試料の乾燥質量(g))
【0045】
【表1】

【0046】
(合成例6)
窒素雰囲気下、過酸化ベンゾイル0.2gを200mLのスチレンに溶解した溶液を90℃に加熱したキシレン200mL中に3時間要して撹拌しながら滴下した。滴下終了後、更に1時間90℃で保持した。次に、室温まで冷却させ、この溶液を大量のメタノール中に滴下し、生成した沈殿物をろ過精製後、110℃で3時間乾燥して、乾燥した粉末状の炭化水素系重合体(スチレン重合体)を得た。
【0047】
このスチレン重合体の分子量をGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)にて測定したところ、Mw115000であった。このスチレン重合体150gを1,2−ジクロロエタン500mL中に溶解させた溶液を60℃で加熱攪拌しながら、クロロスルホン酸30mLを滴下した後、更に60℃で1時間保持した。ここで得られたクロロスルホン化されたスチレン重合体を1,2−ジクロロエタン及びイオン交換水で洗浄した後、室温で1時間イオン交換水に浸漬しスルホ基を水素化した。その後、真空凍結乾燥により粉末状のスルホン化したスチレン重合体を得た。イオン交換容量は3.92meq/gであった。
【0048】
(電解質膜の製造)
合成例1〜6のポリシロキサン化合物をジメチルホルムアミドに10質量%の濃度で溶解させた溶液を膜厚40μm、空孔率60%の多孔質ポリイミド膜に含浸させ、90℃で1時間加熱乾燥した膜を真空乾燥することで乾燥した電解質膜である各試験例の試験試料を得た。乾燥後の膜厚及び電解質材料の含浸量を表2に併せて示す。なお、膜厚は乾燥状態で50μm程度、含浸量は多孔質ポリイミド膜に対して乾燥質量で100%程度になるように調製した。得られた電解質膜の性状を表2に併せて示す。プロトン伝導性は交流インピーダンス法にて測定した。
【0049】
【表2】

【0050】
(耐酸化性の評価)
各試験例の電解質膜について、フェントン試験により耐酸化性を評価した。フェントン試験は、2ppmのFe2+及び3%の過酸化水素を含む水溶液を60℃に保持し、その中に電解質膜を浸漬した場合の質量変化を測定することで行った。ここで、耐酸化性が高い材料ほど、フェントン試験における質量変化が小さくなる。
【0051】
結果を図1に示す。図1より明らかなように、電解質膜の耐酸化性は含浸させた電解質材料のイオン交換容量の低下に従って向上していることが判った。これはイオン交換基がラジカル攻撃の起点になりうると予想されること、及びイオン交換容量の増加が水溶性の増加につながって形態安定性が充分でなくなったことなどが原因であると予想される。
【0052】
(触媒ペーストの製造)
合成例1〜6の電解質材料の10質量%溶液を50gに対して触媒としての白金を含む白金担持カーボン(白金担持量50質量%)20gを加えてスラリー状にした。その後、イオン交換水60g及びエタノール60gを加えて白金担持カーボンの粒径が1.0μm以下になるまで混合分散した。最終的な混合分散は高速ホモジナイザーにて行い、各試験例の触媒ペーストを得た。
【0053】
(膜電極接合体の製造)
各試験例の触媒ペーストを、ガス拡散基材(拡散層)になる撥水処理したカーボンペーパー(厚み180μm、気孔率65%)に白金担持量が1mg/cm2になるようにバーコータにより塗工した。塗工後、80℃で30分間加熱乾燥を行い触媒層を形成した電極膜を得た。対応する各試験例の電解質膜を触媒層側で接する向きにそれぞれ配した2枚の電極膜にて挟持した後、170℃、8MPaで3分間ホットプレスして接合し、各試験例の膜電極接合体を得た。
【0054】
(電池性能の評価)
各試験例の膜電極接合体を燃料電池評価用単セルに組み込んで評価した。評価は電流密度変化させた場合の出力電圧の変化を測定した。燃料電池評価用単セルの評価(運転)条件は電極面積9cm2、セル内温度75℃、供給するガスは、アノード側が90%の利用率に相当する純水素、カソード側が40%の利用率に相当する空気とした。ガスに対する加湿量はそれぞれのガス1モルに対するモル比で0.2molの水を用いた。
【0055】
結果を図2に示す。図2より明らかなように、電池性能は電解質膜のプロトン伝導性の増加に伴い向上していることが判った。
【0056】
また、試験例1及び3の結果を比較すると、両者の間に大きな差異は認められなかった。前述の耐酸化性の値についても大差なかったことから、一般式(1)におけるnの値の変動は、少なくとも8〜12程度においては電池性能(出力特性、耐酸化性)に大きな影響を与えないことが判った。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施例における各試験試料の耐酸化性を示したグラフである。
【図2】実施例における各試験試料を用いたの燃料電池のI−V特性を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:(XSiO1.5n…(1)
{nは6以上の整数;Xはアルキル基、スルホ基、フェニル基、カルボキシ基、アルコキシ基、−(OCm2mp−OCm2m+1(mは自然数、Pは0以上の整数)並びにこれら置換基の一部水素がイオン交換基で置換された置換基から任意に選択される;Xは互いに独立して選択可能であり、少なくとも分子全体で一以上のイオン交換基を含む}
で表される構造をもつポリシロキサン化合物を含有することを特徴とする電解質材料。
【請求項2】
前記nが8、Xがフェニル基又はスルホ化されたフェニル基であって、イオン交換容量が6.14meq/g未満である請求項1に記載の電解質材料。
【請求項3】
一般式:(YSiO1.5n…(2)
{nは6以上の整数;Yはアルキル基、スルホ基、フェニル基、カルボキシ基、アルコキシ基、−(OCm2mp−OCm2m+1(mは自然数、Pは0以上の整数)並びにこれら置換基の一部水素がイオン交換基で置換された置換基から任意に選択される;Yは互いに独立して選択可能であり、一以上のイオン交換基を含み且つ一以上の重合性基を分子全体で含む}
で表される構造をもつポリシロキサン単量体と、
該ポリシロキサン単量体が備える該重合性基と重合しうる重合性基をもち任意に添加される一種以上の添加単量体と、を共重合させることで合成し得る重合体材料を含有することを特徴とする電解質材料。
【請求項4】
前記一般式(1)又は(2)で表される化合物のポリシロキサン骨格は完全縮合ケージ構造又は不完全縮合ケージ構造である請求項1〜3のいずれかに記載の電解質材料。
【請求項5】
前記イオン交換基はスルホ基である請求項1〜4のいずれかに記載の電解質材料。
【請求項6】
他種の電解質材料と分散・混合されている請求項1〜5のいずれかに記載の電解質材料。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の電解質材料と、
前記電解質材料を含浸する多孔質膜とを有することを特徴とする電解質膜。
【請求項8】
前記多孔質膜はポリイミドから構成される請求項7に記載の電解質膜。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の電解質材料と、触媒とを有することを特徴とする触媒ペースト。
【請求項10】
電解質膜と、該電解質膜の両面に積層される触媒層と、該触媒層の該電解質膜の反対側に積層される拡散層とを有する燃料電池用の膜電極接合体であって、
前記電解質膜が請求項7又は8に記載の電解質膜であること及び/又は前記触媒層が請求項9の触媒ペーストから形成される層であることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項11】
請求項10に記載の膜電極接合体を有することを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−92810(P2006−92810A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−274084(P2004−274084)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】