説明

青色色素、青色のコラーゲンまたはゼラチンおよびそれらの製造方法

【課題】安定性が良好で、従来の天然の青色色素では使用することができなかった酸性条件下でも、食品への利用が可能な新しい青色色素と、脱灰工程を経ることなく製造可能な青色を有するコラーゲンまたはゼラチンを提供する。
【解決手段】青色色素が青背魚類の鱗、皮、表層粘液およびひれのうちの1種または2種以上を原料とし、アミノカーボネート系の金属キレート剤を含有する溶液または酸性溶液によって抽出される。青色のコラーゲンまたはゼラチンが青背魚類の鱗、皮、表層粘液およびひれのうちの1種または2種以上を原料とし、酸性溶液によって抽出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品等へ使用することが可能な天然の青色色素、その青色色素の製造方法、青色のコラーゲンまたはゼラチン、青色のコラーゲンまたはゼラチンの製造方法、ならびに食品・内服薬・食品添加物その他の経口物、入浴剤、化粧品、おもちゃまたは衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
天然に存在する青色色素としては、従来、ツユクサや紫陽花の花の色素である植物由来のアントシアン系色素が利用されてきた。しかし、アントシアン系色素は、酸性条件下では赤色に変化し、安定性が著しく悪いため、食品などへの利用は難しかった。そのため、従来、数々の天然の青色色素が研究されてきたが、天然の青色色素の利用については、クチナシやスピルナの青色色素が市販されているに過ぎず、また、ニンニク以外のアリウム属由来の青色色素の製造方法が開示されているに過ぎない(例えば、特許文献1,2参照)。これらの天然の青色色素は、価格も高く、特性的にもpH4以下の酸性条件下では色調の変化や沈殿が見られ、特に食品への利用には制限があり、これらの青色色素が利用できる食品分野は決して広いものではなかった。
【0003】
ところで従来、サンマの体表に青色液が浸出してくる現象が知られており、その成分は胆汁色素であるビルベリジンのタンパク質結合体によるものであることが推測されている。しかしながら、魚類由来の該色素がビルベリジンタンパク質結合体であることを直接的に証明した例はなく、さらに該色素を効率的に抽出する方法について検討されてはいない。したがって、この青色液を色素として利用しようとする試みは行われることがなく、色素としての抽出の効率化に関する検討は行われていなかった。このため、その青色色素は産業的にはまったく注目されていなかった。
【0004】
また、コラーゲンまたはゼラチンについて、様々な生物を原料とした製造方法が提案されている。特に水産物由来のコラーゲンの製造方法が知られている(例えば、特許文献3,4,5,6参照)。しかしながら、それらの製造方法で、コラーゲン素材として有効な品質を得るためには、混在する陽イオン分を主成分とする夾雑成分を除去する脱灰工程が必須であった。このため、コラーゲン製造には大量のキレート剤とともに撹拌処理を行う必要があり、それが工程を複雑にする要因となっていた。
【0005】
また、抽出後、着色することなく青色を有するコラーゲンまたはゼラチンはこれまでに例がなかった。コラーゲンまたはゼラチンを食品素材として利用しようとする場合には、改めて着色料を加える必要があり、着色料との混合比によっては、安定性や着色の効果に問題を生じる場合があった。
【0006】
【特許文献1】特開平10−057011号公報
【特許文献2】特開平08−231871号公報
【特許文献3】特開2003−92997号公報
【特許文献4】特開2004−91418号公報
【特許文献5】特許第3616046号公報
【特許文献6】特開平05−93000号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような問題に着目してなされたもので、安定性が良好で、従来の天然の青色色素では使用することができなかった酸性条件下でも、食品への利用が可能な新しい青色色素、その青色色素の効率的な製造方法、およびその青色色素を用いた食品・内服薬・食品添加物その他の経口物、入浴剤、化粧品、おもちゃまたは衣類を提供することを目的とするものである。
【0008】
また、本発明は、着色料を別途加えずに青色を有するコラーゲンまたはゼラチン、およびそのコラーゲンまたはゼラチンを、脱灰工程を経ることなく製造工程を簡素化して直接的に製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、サンマより得られる青色の色素の製造方法に関する詳細な検討を進めた結果、魚類の鱗、皮、表層粘液、ひれと、金属キレート剤を含む溶液とを一定割合で混合することにより、青色色素を効率的に抽出できることを見出した。
【0010】
また、サンマの鱗、皮、表層粘液、ひれを、酸性の溶液と一定割合で混合することにより、脱灰工程を経ることなく、青色を帯びたコラーゲンまたはゼラチンが得られることを見出した。同時に、その方法により、従来必要とされてきた脱灰工程を経ることなく、コラーゲンまたはゼラチンが得られることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明に係る青色色素は、青背魚類の鱗、皮、表層粘液およびひれのうちの1種または2種以上を原料とし、アミノカーボネート系の金属キレート剤を含有する溶液によって抽出されることを特徴とする。
他の本発明に係る青色色素は、青背魚類の鱗、皮、表層粘液およびひれのうちの1種または2種以上を原料とし、酸性溶液によって抽出されることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る青色色素の製造方法は、青背魚類の鱗、皮、表層粘液およびひれのうちの1種または2種以上を原料とし、アミノカーボネート系の金属キレート剤を含有する溶液によって青色色素を抽出することを特徴とする。
他の本発明に係る青色色素の製造方法は、青背魚類の鱗、皮、表層粘液およびひれのうちの1種または2種以上を原料とし、酸性溶液によって青色色素を抽出することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る青色のコラーゲンまたはゼラチンは、青背魚類の鱗、皮、表層粘液およびひれのうちの1種または2種以上を原料とし、酸性溶液によって抽出されることを特徴とする。
本発明に係る青色のコラーゲンまたはゼラチンの製造方法は、青背魚類の鱗、皮、表層粘液およびひれのうちの1種または2種以上を原料とし、酸性溶液によってコラーゲンまたはゼラチンを抽出することを特徴とする。
【0014】
本発明に係る食品・内服薬・食品添加物その他の経口物、入浴剤、化粧品、おもちゃまたは衣類は、本発明に係る青色色素を着色料として含むことを特徴とする。
【0015】
アミノカーボネート系の金属キレート剤を含有する溶液としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸(以下EDTAと略す)、ジエチレントリアミノ五酢酸(以下DTPAと略す)、ニトリロ三酢酸(以下NTAと略す)などを使用できる。青色色素の抽出は、原料とアミノカーボネート系の金属キレート剤を含む溶液または酸性溶液とを一定割合で混合する方法で行うことができる。
【0016】
本発明に係る青色のコラーゲンまたはゼラチンの製造方法で、コラーゲンまたはゼラチンの抽出は、原料と酸性溶液とを一定割合で混合する方法で行うことができる。
【0017】
以下、本発明に係る青色色素およびその製造方法について、説明する。
青色色素の製造に使用する青背魚類には、イワシ類、サバ類、コハダ、ホッケなどが利用可能であるが、サンマが最も望ましい。用いる部位は、鱗、皮、表層粘液およびひれのうちの1種または2種以上であるが、鱗が望ましい。本発明によって得られる青色色素は、サンマの胆汁酸色素として知られているビリベルジンのタンパク質結合体であることが想定される。青色色素は胆汁酸色素結合体の分泌によるものであると予想されることから、鱗のほか、皮、表層粘液、ひれなど、主に鱗や皮に近い部位を利用することが好ましい。
【0018】
上記の原料は、通常20倍量の10%食塩水中で、冷凍物であれば解凍、続いて洗浄し、浮遊物を除去したものを用いることが好ましいが、本操作は浮遊物が十分に少なければ省略してもよい。
【0019】
このようにして得られた原料から青色色素の抽出を行う。抽出は、原料を、EDTA、DTPA、NTAなどのアミノカーボネート系金属キレート剤を含む緩衝液中または酸性溶液に投じ、低温下で一定時間行うことが好ましい。以下、原料と金属キレート剤を含む緩衝液または酸性溶液の混液を抽出液と称する。
【0020】
緩衝液の種類および濃度は、pH4〜10の範囲であれば任意でよいが、望ましくは0.01〜0.5モル/リットルのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液(以下、トリス緩衝液と略す)(pH7〜10)、または0.01〜0.5モル/リットルのリン酸ナトリウム緩衝液(以下、リン酸緩衝液と略す)(pH4〜8)などが選択され、例えば0.05モル/リットルリン酸緩衝液(pH7.5)を用いることができる。
【0021】
酸性溶液は、有機酸、鉱酸のいずれでもよく、例えば酢酸、塩酸が選択される。酸性溶液は、pH1.0〜4.0に調整したものが望ましい。pHが上記範囲より低いときにはゼラチン化し、上記範囲より高い場合には収量低下を生ずるので望ましくない。
【0022】
抽出液中の原料と緩衝液の比率は任意で良いが、望ましくは原料の1重量単位に対し2〜100倍量重量、さらに望ましくは原料の1重量単位に対し10〜30倍量重量で混和する。これ未満の比率では抽出効率が著しく低下し、これ以上の比率では抽出後の目的物質の濃度が薄くなり、その後の処理時の操作性が著しく低下する。
【0023】
アミノカーボネート系の金属キレート剤を含む場合には、あらかじめ緩衝液中に溶解されていることが望ましい。金属キレート剤の種類はアミノカーボネート系の金属キレート剤であれば、目的物質との錯体形成メカニズムが同様であるため特に限定されるものではないが、EDTA、DTPA、NTAが好適に用いられる。最適濃度は金属キレート剤の種類により異なるが、EDTA、DTPA、NTAであれば0.01モル/リットルよりも高く、飽和濃度以下であることが望ましく、さらに望ましくは0.05〜0.5モル/リットルの範囲で用いることが望ましい。これ未満の濃度であれば目的成分の抽出効率が著しく劣り、飽和濃度以上では抽出に及ぼす効果に意味が無く、金属キレート剤の使用量が増える。
【0024】
抽出液は低温下で、一定時間、望ましくは撹拌しながら放置する。抽出時の温度は、抽出液の凍結温度以上70℃以下であれば任意でよいが、望ましくは0〜40℃、さらに望ましくは3〜20℃であることが望ましい。これ以下であれば抽出液が凍結する可能性があり、これ以上では目的成分の熱変化が起こる可能性がある。また、抽出に要する時間は任意で良いが、望ましくは3〜72時間、さらに望ましくは8〜24時間である。
【0025】
抽出時間経過後の抽出液から、ろ過または遠心分離等の手段により不溶物を除去することにより、青色色素溶液を得ることができる。その溶液に凍結乾燥、噴霧乾燥その他の乾燥手段を用いることにより、青色色素の粉末を得ることもできる。本発明に係る青色色素は、水溶性の色素である。本発明に係る青色色素は、他の色素と混ぜて使用してもよい。
本発明に係る青色色素の色をマンセル記号で表すと、一例で、6.84BG 9.91/0.97である。
【0026】
このように、本発明に係る青色色素の製造方法により、青背魚類から青色色素を効率的に抽出することができる。得られた青色色素は、安全で、食品・内服薬・食品添加物その他の経口物の色素、入浴剤色素、化粧品色素、おもちゃ用色素、衣類用色素などに利用することができる。
【0027】
本発明に係る青色色素の特性は、以下のとおりである。
(1)限外濾過膜による分子量分画では、分子量5〜10万の範囲にある物質に由来する。
(2)サンマ等の魚類から得られる青色はビリベルジンに由来するものと言われているが、ビルベリジンは分子量655.28である低分子化合物であり、本発明に係る青色色素はビルベリジンがタンパク質と結合した高分子の状態で抽出されていると予想される。
【0028】
(3)極大吸収に380nmと640nmの2つを持つ、淡青状の溶液、および固形物として得られる。
(4)pH4以下の酸性条件下でも沈澱、退色をすることがなく、酸性条件下で高い安定性を有する。少なくともpH9以下であれば色調は維持される。
(5)0.5モル/リットルのEDTAを含む0.05モル/リットルリン酸緩衝液(pH7.5)中では、常温、遮光しない室内で、少なくとも2ヶ月間安定である。
(6)65℃の加熱では、少なくとも30分以上色調は維持されるが、75℃以上かつ5分以上の加熱条件では黄色に変化する。
【0029】
以下、本発明に係る青色のコラーゲンまたはゼラチンおよびそれらの製造方法について、説明する。
【0030】
青色のコラーゲンまたはゼラチンの製造に使用する青背魚類には、イワシ類、サバ類、コハダ、ホッケなどが利用可能であるが、サンマが最も望ましい。用いる部位は、鱗、皮、表層粘液およびひれのうちの1種または2種以上であるが、特に鱗が望ましい。
【0031】
上述の本発明に係る青色色素およびその製造方法と同様に、上記の原料は、通常20倍量の10%食塩水中で、冷凍物であれば解凍、続いて洗浄し、浮遊物を除去したものを用いることが好ましいが、本操作は浮遊物が十分に少なければ省略してもよい。
【0032】
このようにして得られた原料から青色のコラーゲンまたはゼラチンの抽出を行う。抽出は、コラーゲンの抽出の際に通常行われる脱灰工程(特許文献1乃至4参照)を行うことなく、酸性溶液中で行う。
抽出に用いられる酸性溶液は、有機酸、鉱酸のいずれでもよいが、後工程の乾燥工程に、抽出工程の後に直接供することができるよう、揮発性の酢酸、塩酸であることが望ましい。酸性溶液は、pH1.0〜4.0に調整したものが望ましいが、他の酸性条件であってもよい。pHが上記範囲より低いときにはゼラチン化し、上記範囲より高い場合には収量低下を生ずるので望ましくない。
【0033】
原料の1重量単位に対して、酸性溶液を重量/容積比で1:5から1:100、望ましくは1:5から1:50の範囲で好ましく用いることができる。これ未満の比率では抽出効率が著しく低下し、これ以上の比率では抽出後の目的物質の濃度が薄くなり、その後の処理時の操作性が著しく低下する。
抽出温度は0〜30℃が望ましく、0〜5℃が特に望ましい。抽出工程では、24〜48時間、望ましくは36〜48時間浸漬して、酸可溶性コラーゲンを抽出することが好ましい。抽出は攪拌しながら行うことが望ましい。酸可溶性の青色コラーゲン溶液は、上記の抽出混合液から、ろ過または遠心分離等の手段により不溶物を除去することにより、得ることができる。
【0034】
抽出に用いた酸が、揮発性の塩酸または酢酸である場合には、そのまま溶液を凍結し、乾燥工程に供することも可能であるが、通常、抽出溶液の濃縮を行うことが好ましい。
【0035】
濃縮工程には、塩析沈殿物または有機溶媒沈殿物を回収する方法や、限外濾過による方法などを採用可能である。例として、限外濾過の場合には、酸可溶性青色コラーゲン溶液を透過分子量100,000以下の膜、望ましくは透過分子量10,000〜30,000の限外濾過膜を用いて限外濾過操作を行うことにより、約10分の1の容量まで濃縮することができる。
【0036】
酸可溶性青色コラーゲン溶液の濃縮物から、抽出に用いた酸が、揮発性の塩酸、酢酸である場合にはそのまま、不揮発性の酸の場合にはアルカリによる中和および脱塩の後、凍結乾燥、噴霧乾燥その他の乾燥手段を用いることにより、乾燥青色コラーゲン粉末を得ることができる。本発明に係る青色のコラーゲンまたはゼラチンは、着色料を添加して使用してもよい。本発明に係る青色のコラーゲンまたはゼラチンは、食用ゼラチンに適している。
本発明に係る青色のコラーゲンまたはゼラチンの色をマンセル記号で表すと、一例で、1.27B 8.88/1.56である。
【0037】
このように、本発明に係る青色のコラーゲンまたはゼラチンの製造方法により、脱灰工程を必要とせずに、青色のコラーゲンまたはゼラチンを製造することができる。青色のコラーゲンまたはゼラチンは、食品・内服薬・食品添加物その他の経口物、入浴剤、化粧品などに利用することができる。
サンマを水揚げしたときや、工場でサンマを加工したときには、大量の鱗の廃棄物が発生する。本発明によれば、従来、廃棄物として処理されていた鱗を資源として有効活用することができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、安定性が良好で、従来の天然の青色色素では使用することができなかった酸性条件下でも、食品への利用が可能な新しい青色色素、その青色色素の効率的な製造方法、およびその青色色素を用いた食品・内服薬・食品添加物その他の経口物、入浴剤、化粧品、おもちゃまたは衣類を提供することができる。
【0039】
また、本発明によれば、着色料を別途加えずに青色を有するコラーゲンまたはゼラチン、およびそのコラーゲンまたはゼラチンを、脱灰工程を経ることなく製造工程を簡素化して直接的に製造する方法を提供することができる。
【実施例】
【0040】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は該実施例によって何ら限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
サンマ鱗を原料として、アミノカーボネート系金属キレート剤を含む緩衝液によって抽出される青色色素の製造方法を以下に記載する。
新鮮なサンマの鱗8g(湿重量)を、160ミリリットルの10%食塩水中に投じ、攪拌、沈殿、上清除去の工程を3回繰り返し、洗浄を行った。最終的には、JIS第2種のろ紙上で鱗を回収した。洗浄後の鱗には、200ミリリットルの0.5モル/リットルのエチレンジアミン四酢酸(以下EDTAと略す)を含む0.05モル/リットルリン酸緩衝液(pH7.5)を加え、5℃で一晩抽出を行った。抽出液をJIS第2種のろ紙上でろ過して不溶物を除去し、約200ミリリットルの青色色素溶液を得た。
200ミリリットルの青色色素溶液を−20℃で凍結し、凍結乾燥に供して、青色色素粉末20gを得た。
【0042】
[実施例2]
サンマ鱗を原料として、酸性溶液によって抽出される青色色素の製造方法を以下に記載する。
サンマ鱗8g(湿重量)の洗浄ならびに回収を、実施例1に記載した方法と同様に行った。洗浄後の鱗には、200ミリリットル0.5モル/リットルの酢酸溶液を加え、4〜5℃の温度条件下で24時間振盪し、上澄み液を濾過操作により分離除去し、約200ミリリットルの青色色素溶液を得た。
得られた溶液を−20℃で凍結し、凍結乾燥に供して、青色色素粉末1.5gを得た。
【0043】
[実施例3]
サンマ鱗を原料とした、酸可溶性の青色コラーゲンの製造方法を下記に記載する。
サンマ鱗100gを約5℃の水で水洗し夾雑物を除いた後、10%塩化ナトリウム水溶液2リットルに入れ、4〜5℃の温度条件下で24時間振盪し、上澄み液を濾過操作により分離除去した。このようにして得られた洗浄魚鱗に、0.5モルの酢酸水溶液600ミリリットルを加え、4〜5℃の温度条件下で48時間振盪抽出し、上澄み液を濾過操作により分離して、酸可溶性青色魚鱗コラーゲンの溶液約1.5リットルを得た。
【0044】
酸可溶性青色魚鱗コラーゲン溶液を透過分子量30,000の限外濾過膜により限外濾過操作を行い、約200ミリリットルまで濃縮した後、溶液を−20℃にて冷凍し、凍結乾燥操作によって乾燥青色魚鱗コラーゲン1.5グラムを得た。ただし本収量は、混在する試薬類を除去した精製物のものではない。
【0045】
[実施例4]
実施例1に記載された製造方法によって得られた青色色素の特性について、以下のとおり調べた。
【0046】
(1)分子量特性
青色色素溶液を表1に示した限外ろ過膜に高分子量側から順次通し、色素が通過しなくなる膜の分画分子量から分子量範囲を推測した。この結果、青色色素は、分子量10万は通過するが5万は通過せず、分子量5万〜10万の高分子物質であることが推測された。想定原因物質であるビリベルジンは、魚体中では蛋白結合体として存在していると言われている。実施例1で得られた青色色素も、蛋白結合体として抽出されていることが予想された。表1に、本試験によって得られた結果を示した。
【0047】
【表1】

【0048】
(2)極大吸収特性
青色色素溶液の波長吸収特性を分光光度計により測定した結果、380nmおよび640nm付近に2つの極大吸収を持っていた。
【0049】
(3)抽出時の緩衝液のpH、ならびに金属キレート剤種の特性
抽出時の緩衝液のpH、および金属キレート剤種の特性の濃度と抽出液の呈色について検討した。すなわち、上記に記載された製造方法において、0.5モル/リットルのエチレンジアミン四酢酸を含む0.05モル/リットルリン酸緩衝液(pH7.5)の代わりに表2に示す溶液を用いて抽出を行ったときの呈色度の色調を判定した。その結果を表2に示す。この結果、青色色素は、少なくともpH6.0以上の条件では、EDTA、DTA、NTAといったアミノカーボネート系の色素を望ましくは0.05モル/リットル以上の濃度で含むことを必須とする。しかしpH3以下の酸性条件では金属キレート剤を必ずしも必要としないことが示された。表2に、抽出時の緩衝液のpH、ならびに金属キレート剤種による特性を示した。
【0050】
【表2】

【0051】
(4)青色色素溶液の保存安定特性
各種の抽出溶液にて抽出された青色色素溶液を、室温下で遮光することのない室内に1ヶ月放置し、青色の呈色程度を観察した。その結果を表3に示す。青色の呈色は、少なくともEDTAを0.5モル/リットル含むpH6.0以上の緩衝液で抽出、保存した場合に安定であった。表3に、青色色素溶液の保存安定特性を示す。
【0052】
【表3】

【0053】
(5)青色色素溶液の熱安定特性
実施例1に記載の方法で、0.5モル/リットルのEDTAを含む0.05モル/リットルリン酸緩衝液(pH7.5)の代わりに、0.5モル/リットルのエチレンジアミン4酢酸4ナトリウムを含む0.05モル/リットルトリス(pH7.5)を用いて製造した青色色素溶液について、加熱安定性を検討した。
【0054】
一般に、加熱には不安定であったが、沸騰水浴中で10分以上加熱しても青みは完全には消失しなかった。85℃、5分の処理でも青色の消失は見られるが、それ以上加熱してもそれ以上の消失は見られなかった。65℃、30分の加熱では、色の消失は見られるものの、85℃の処理ほど消失の割合は大きくなく、抽出時の色調はほぼ維持されていた。温度を室温から徐々に上げていく試験の結果から、55℃付近から徐々に色が消失していくことが示された。
【0055】
(6)青色色素溶液のpH安定特性
実施例1に記載の方法で、0.5モル/リットルのEDTAを含む0.05モル/リットルリン酸緩衝液(pH7.5)の代わりに、0.5モル/リットルのエチレンジアミン4酢酸4ナトリウムを含む0.05モル/リットルトリス(pH7.5)を用いて製造した青色色素溶液について、pH安定性を検討した。
【0056】
塩酸によって徐々にpHを下げていくと、pH4付近から色調が薄くなった。一般に青色色素は、pH4以下で非常に安定性が悪い。特許文献2に示されているアリウム属色素もpH4以下では色調を失う。また、アリウム属色素はpH5.3〜6強の比較的狭い弱酸性領域でしか安定でないことが示されている。本実施例により得られた青色色素は、pH9付近でも安定であることから、アリウム属由来のものよりも安定pH範囲が広いことがわかる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
青背魚類の鱗、皮、表層粘液およびひれのうちの1種または2種以上を原料とし、アミノカーボネート系の金属キレート剤を含有する溶液によって抽出されることを特徴とする青色色素。
【請求項2】
青背魚類の鱗、皮、表層粘液およびひれのうちの1種または2種以上を原料とし、酸性溶液によって抽出されることを特徴とする青色色素。
【請求項3】
青背魚類の鱗、皮、表層粘液およびひれのうちの1種または2種以上を原料とし、アミノカーボネート系の金属キレート剤を含有する溶液によって青色色素を抽出することを特徴とする青色色素の製造方法。
【請求項4】
青背魚類の鱗、皮、表層粘液およびひれのうちの1種または2種以上を原料とし、酸性溶液によって青色色素を抽出することを特徴とする青色色素の製造方法。
【請求項5】
青背魚類の鱗、皮、表層粘液およびひれのうちの1種または2種以上を原料とし、酸性溶液によって抽出されることを特徴とする青色のコラーゲンまたはゼラチン。
【請求項6】
青背魚類の鱗、皮、表層粘液およびひれのうちの1種または2種以上を原料とし、酸性溶液によってコラーゲンまたはゼラチンを抽出することを特徴とする青色のコラーゲンまたはゼラチンの製造方法。
【請求項7】
請求項1または2記載の青色色素を着色料として含むことを特徴とする食品・内服薬・食品添加物その他の経口物、入浴剤、化粧品、おもちゃまたは衣類。



【公開番号】特開2007−211053(P2007−211053A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−29872(P2006−29872)
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【出願人】(591074736)宮城県 (60)
【出願人】(503107727)株式会社阿部長商店 (1)
【Fターム(参考)】