説明

静圧気体軸受スピンドル

【課題】 運転が終了した後においても静圧気体軸受への加工液などの異物の侵入を防止可能な静圧気体軸受スピンドルを提供する。
【解決手段】 静圧気体軸受スピンドル1は、静圧気体ジャーナル軸受31および静圧気体スラスト軸受32と静圧気体軸受スピンドル1の外部とを連通する連通路70と、静圧気体ジャーナル軸受31および静圧気体スラスト軸受32への異物の流入を防止するために連通路70にシール用気体を供給するためのシール用気体供給部50と、連通路70とシール用気体供給部50とを繋ぐシール用気体流路51とを含んでいる。連通路70には、シール用気体流路51との連結部である第1の連結部と連通路70における静圧気体軸受スピンドル1の外部への開口である連通路開口との間に液溜め部が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は静圧気体軸受スピンドルに関し、より特定的には、静圧気体軸受への異物の流入を防止するためのシール用気体供給部を備えた静圧気体軸受スピンドルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
工作機械などの加工機に使用される静圧気体軸受スピンドルは、研削液や切削液など(以下、加工液)の飛沫が飛散する環境で使用される場合が多い。このような場合、加工機の運転中に被加工物の切り屑を含んだ加工液が静圧気体軸受の軸受すき間に侵入し、静圧気体軸受の焼付き等の不具合が生じるおそれがある。
【0003】
これに対し、圧縮空気を用いたシール機構を設けた静圧気体軸受スピンドルが提案されている。これにより、静圧気体軸受スピンドルの運転中、すなわちシール機構および静圧気体軸受に圧縮空気が供給されている間においては、加工液の静圧気体軸受への侵入は防止される(たとえば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−46054号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、静圧気体軸受スピンドルの運転が終了し、シール機構および静圧気体軸受への圧縮空気の供給が停止した場合、静圧気体軸受スピンドルに付着した加工液が毛細管現象により静圧気体軸受に侵入するおそれがある。さらに、静圧気体軸受スピンドルの運転により温度が上昇したスピンドル内部の気体が、運転停止後に冷却されることにより収縮して、スピンドル内部はスピンドル外部に対して負圧となる。そのため、静圧気体軸受スピンドルに付着した加工液が空気とともにスピンドル内部の静圧気体軸受に浸入するおそれもある。このようにして加工液が静圧気体軸受に侵入した場合、静圧気体軸受スピンドルの運転を再開すると、静圧気体軸受の焼付き等の不具合が生じるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、運転が終了した後においても静圧気体軸受への加工液などの異物の侵入を防止可能な静圧気体軸受スピンドルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に従った静圧気体軸受スピンドルは、静圧気体軸受を備えた静圧気体軸受スピンドルであって、静圧気体軸受と静圧気体軸受スピンドルの外部とを連通する連通路と、静圧気体軸受への異物の流入を防止するために連通路にシール用気体を供給するためのシール用気体供給部と、連通路とシール用気体供給部とを繋ぐシール用気体流路とを含んでいる。連通路には、シール用気体流路との連結部である第1の連結部と連通路における静圧気体軸受スピンドルの外部への開口である連通路開口との間に液溜め部が形成されている。
【0007】
本発明の静圧気体軸受スピンドルによれば、静圧気体軸受スピンドルの運転中においては、シール用気体供給部からシール用気体流路を通って連通路にシール用気体が供給されることにより、静圧気体軸受への異物の流入が防止される。一方、静圧気体軸受スピンドルの運転が終了し、連通路へのシール用気体の供給が停止された場合においては、毛細管現象、静圧気体軸受スピンドル内部の負圧などに起因して連通路開口から加工液などの異物が侵入するおそれがある。しかし、加工液などの異物が侵入した場合であっても、侵入した加工液などの異物は液溜め部に捕捉されて溜まる。そのため、液溜め部よりも静圧気体軸受側(シール用気体の排出方向における上流側)には加工液などの異物はほとんど侵入せず、わずかに侵入した場合でも表面張力により液溜め部付近に保持され、静圧気体軸受への侵入は抑制される。その結果、運転が終了した後においても静圧気体軸受への加工液などの異物の侵入を防止可能な静圧気体軸受スピンドルを提供することができる。
【0008】
ここで、連通路とはたとえば回転部と当該回転部を取り囲むように隣接するハウジングとを含む静圧気体軸受スピンドルにおいては、回転部とハウジングとの隙間であって、静圧気体軸受と静圧気体軸受スピンドルの外部とを連通する通路である。
【0009】
上記静圧気体軸受スピンドルにおいて好ましくは、液溜め部と静圧気体軸受スピンドルの外部とを繋ぐ液体排出路をさらに備えている。これにより、液溜め部に溜まった加工液などの異物は、静圧気体軸受スピンドルの運転が再開され、連通路にシール用気体の供給されることにより、液体排出路を通って静圧気体軸受スピンドルの外部へと排出される。その結果、液溜め部に溜まった加工液などの異物を取り除く作業を別途行なう必要がなくなり、静圧気体軸受スピンドルの保全が容易となる。
【0010】
上記静圧気体軸受スピンドルにおいて好ましくは、液体排出路の気体の流れに垂直な断面の断面積は、液溜め部よりも連通路開口側における連通路の気体の流れに垂直な断面の断面積よりも小さい。
【0011】
これにより、液体排出路を通って静圧気体軸受スピンドルの外部に排出されるシール用気体の量を抑制することができる。その結果、液体排出路を設けることによるシール性能への影響を小さくすることができる。
【0012】
上記静圧気体軸受スピンドルにおいて好ましくは、液溜め部には、連通路におけるシール用気体の排出方向での上流側に位置する連通路との接続部である上流側接続開口と、排出方向における下流側に位置する連通路との接続部である下流側接続開口とが形成されている。下流側接続開口は、上流側接続開口から液溜め部に供給されるシール用気体の供給方向に沿った方向から見て、上流側接続開口と平面的に重ならない位置に配置されている。
【0013】
これにより、下流側接続開口から液溜め部に侵入した加工液などの異物は上流側接続開口に直接侵入しにくくなるため、液溜め部に捕捉されやすくなる。その結果、液溜め部に侵入した加工液の静圧気体軸受への侵入は一層抑制される。
【0014】
上記静圧気体軸受スピンドルにおいて好ましくは、連通路において、静圧気体軸受と第1の連結部との間に連結され、連通路と外部とを繋ぐ圧力調整用排出路をさらに備えている。連通路と圧力調整用排出路との連結部である第2の連結部と第1の連結部との間における気体の流れに対する抵抗は、圧力調整用排出路における気体の流れに対する抵抗よりも大きくなるように、連通路および圧力調整用排出路が構成されている。
【0015】
連通路におけるシール用気体の圧力が上昇すると、静圧気体軸受の外周部の圧力が上がり、静圧気体軸受の軸受すき間の圧力分布に影響を与え、回転部の回転の定常位置の変化、剛性の低下(回転部の回転振れ精度の低下)などの不具合を生じるおそれがある。特に、シール性能を向上させる目的で、圧縮空気などのシール用気体の供給圧力を上昇させた場合、連通路の幅を小さくした場合などにおいてこのような不具合が生じやすい。これに対し、連通路および圧力調整用排出路が上述のように構成されることで、シール用気体の圧力を上げた場合でも、静圧気体軸受の周囲はスピンドル外部の圧力とほぼ等しい圧力に保たれる。その結果、シール用気体が静圧気体軸受の軸受すき間の圧力分布に影響を与えることによる不具合の発生を抑制することができる。
【0016】
上記静圧気体軸受スピンドルにおいて好ましくは、連通路と圧力調整用排出路との連結部である第2の連結部と第1の連結部との間における気体の流れに対する抵抗は、液溜め部と第1の連結部との間における気体の流れに対する抵抗よりも大きくなるように連通路が構成されている。
【0017】
これにより、シール性能の確保に必要なシール用気体が気体の流れに対する抵抗の小さい経路を通って連通路開口から噴出されるとともに、過剰なシール用気体が気体の流れに対する抵抗の大きい経路を通って静圧気体軸受スピンドルの外部へと排出される。その結果、圧力調整用排出路を設けることによるシール性能の低下を回避することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上の説明から明らかなように、本発明の静圧気体軸受スピンドルによれば、運転が終了した後においても静圧気体軸受への加工液などの異物の侵入を防止可能な静圧気体軸受スピンドルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0020】
(実施の形態1)
図1は、本発明の一実施の形態である実施の形態1の静圧気体軸受スピンドルの構成を示す概略断面図である。また、図2は、図1の領域II付近を拡大して示した概略部分断面図である。図1および図2を参照して、実施の形態1の静圧気体軸受スピンドルの構成について説明する。
【0021】
図1を参照して、実施の形態1の静圧気体軸受スピンドル1は、回転部10と、回転部10を取り囲むように形成されたハウジング部20とを備えている。回転部10とハウジング部20との間には、回転部10を軸に垂直な方向(ラジアル方向)に軸支する静圧気体ジャーナル軸受31と、回転部10を軸方向(アキシアル方向)に軸支する静圧気体スラスト軸受32とが配置されている。さらに、静圧気体軸受スピンドル1は軸受用気体供給部40を備えており、図示しないエアコンプレッサなどの軸受用気体供給源から軸受用気体供給部40に供給された空気などの軸受用気体が軸受用気体供給路33からジャーナル給気絞り31Aおよびスラスト給気絞り32Aを通じて静圧気体ジャーナル軸受31および静圧気体スラスト軸受32に供給される構成となっている。これにより、回転部10とハウジング部20との間の隙間において、供給された軸受用気体により気体膜が形成されて、回転部10はハウジング部20に対して回転自在に軸支されている。回転部10にはモータの回転子60が配置されており、回転部10はモータの動力により回転可能に構成されている。
【0022】
さらに、静圧気体軸受スピンドル1は静圧気体ジャーナル軸受31および静圧気体スラスト軸受32と静圧気体軸受スピンドル1の外部とを連通する連通路70と、静圧気体軸受部への異物の流入を防止するために連通路70にシール用気体を供給するためのシール用気体供給部50と、連通路70とシール用気体供給部50とを繋ぐシール用気体流路51とを含んでいる。
【0023】
図2を参照して、連通路70には、シール用気体流路51との連結部である第1の連結部71と連通路70における静圧気体軸受スピンドル1の外部への開口である連通路開口72との間に液溜め部73が形成されている。ここで、連通路70は、静圧気体軸受スピンドル1の外部から、連通路開口72、連通路開口72と液溜め部73とを繋ぐ第1のシール隙間77、液溜め部73、液溜め部73と第1の連結部71とを繋ぐ第2のシール隙間78、第1の連結部71、第1の連結部71と静圧気体軸受部とを繋ぐ第3のシール隙間79を経て静圧気体軸受部に至るように形成されている。また、回転部10の軸方向に垂直な断面は円形である。そして、連通路70および液溜め部73は回転部10に沿うように形成されており、軸方向に垂直な断面は円環状の形状となっている。
【0024】
さらに、静圧気体軸受スピンドル1は液溜め部73と静圧気体軸受スピンドル1の外部とを繋ぐ液体排出路90を備えている。そして、液体排出路90の気体の流れの方向に垂直な断面の断面積は、液溜め部73よりも連通路開口72側における連通路70(第1のシール隙間77)の気体の流れの方向に垂直な断面の断面積よりも小さい。さらに、液体排出路90と第1のシール隙間77の、気体の流れの方向に垂直な断面の断面積の和は、第2のシール隙間78の気体の流れの方向に垂直な断面の断面積よりも小さい。
【0025】
さらに、液溜め部73には、連通路70におけるシール用気体の排出方向での上流側に位置する連通路70との接続部である上流側接続開口74と、排出方向における下流側に位置する連通路70との接続部である下流側接続開口75とが形成されている。下流側接続開口75は、上流側接続開口74から液溜め部73に供給されるシール用気体の供給方向76に沿った方向から見て、上流側接続開口74と平面的に重ならない位置に配置されている。別の観点から説明すると、連通路70は液溜め部73において屈曲している。
【0026】
次に、図1および図2を参照して、実施の形態1の静圧気体軸受スピンドル1の動作について説明する。図1を参照して、モータの回転子60を有するモータに図示しない電源から電力が供給されることにより、回転駆動力が発生する。これにより、ハウジング部20に対して回転自在に軸支されている回転部10は、ハウジング部20に対して相対的に回転する。
【0027】
このとき、図示しないエアコンプレッサなどのシール用気体供給源からシール用気体がシール用気体供給部50に供給される。シール用気体供給部50に供給されたシール用気体はシール用気体流路51を通り、図2に示すように第1の連結部71において連通路70に到達する。そして、シール用気体は第2のシール隙間78、液溜め部73および第1のシール隙間77を通って連通路開口72から静圧気体軸受スピンドル1の外部に向けて噴出する。これにより、静圧気体軸受スピンドル1の運転中においては、加工液の飛沫が飛散する環境で使用される場合であっても、加工液の連通路70への侵入は防止される。
【0028】
一方、静圧気体軸受スピンドル1の運転が終了し、シール用気体の噴出が停止した状態においては、運転により温度が上昇していた静圧気体軸受スピンドル1の温度が低下することにより連通路70内部の気体の温度が低下して収縮し、静圧気体軸受スピンドル1の外部に対して連通路70の内部が負圧状態となる。その結果、連通路開口72の周辺に付着している切り屑を含んだ加工液が連通路70の内部に侵入するおそれがある。また、毛細管現象によっても、加工液が連通路70の内部に侵入するおそれがある。しかし、静圧気体軸受スピンドル1においては、連通路70において、第1の連結部71と連通路開口72との間に液溜め部73が形成されているため、連通路開口72から第1のシール隙間77を通って侵入した加工液は液溜め部73において捕捉される。そのため、加工液は第2のシール隙間78へはほとんど侵入しない。また、加工液が第2のシール隙間78にわずかに侵入した場合であっても、加工液は表面張力により第2のシール隙間78に保持される。以上の結果、静圧気体軸受スピンドル1においては、連通路70に侵入した加工液の静圧気体ジャーナル軸受31および静圧気体スラスト軸受32への侵入が抑制されている。
【0029】
さらに、前述のように実施の形態1の静圧気体軸受スピンドル1は、液溜め部73と静圧気体軸受スピンドル1の外部とを繋ぐ液体排出路90を備えている。そのため、静圧気体軸受スピンドル1の運転が再開され、シール用気体が連通路70に供給されると、液溜め部73に溜まった加工液は、液体排出路90を通って静圧気体軸受スピンドル1の外部へと排出される。その結果、液溜め部73に溜まった加工液を取り除く作業を別途行なう必要がなく、静圧気体軸受スピンドル1の保全(メンテナンス)が容易となっている。ここで、液体排出路90は少なくとも1個形成されていればよいが、加工液を効率よく排出するためには複数個形成されていることがより好ましい。また、複数個形成される場合においては、液体排出路90は、排出された液体が周囲に悪影響を生じず、かつ加工液の飛散液滴やミストが液体排出路90に侵入しにくい位置に配置されることが望ましい。さらに、加工液の侵入を防止するために、液体排出路90の出口付近(出口に隣接する位置)に焼結金属や多孔性樹脂などの多孔質部材を配置してもよい。
【0030】
さらに、前述のように液体排出路90の気体の流れに垂直な断面の断面積は、第1のシール隙間77の気体の流れの方向に垂直な断面の断面積よりも小さい。そのため、液体排出路90を通って静圧気体軸受スピンドル1の外部に排出されるシール用気体の量が抑制されている。その結果、液体排出路90を設けることによるシール性能への影響は小さくなっている。また、液体排出路90と第1のシール隙間77の、気体の流れの方向に垂直な断面の断面積の和は、第2のシール隙間78の気体の流れの方向に垂直な断面の断面積よりも小さい。そのため、第2のシール隙間78の気体の流れに対する抵抗は、第2のシール隙間78よりも下流部分の抵抗より小さくなり、液溜め部73のシール用気体の圧力は比較的高く維持される。その結果、シール用気体は第1のシール隙間77から高速で噴出して、さらに良好なシール性能を実現できる。
【0031】
なお、液体排出路90における気体の流れに対する抵抗が、第1のシール隙間77における気体の流れに対する抵抗よりも大きくなるように連通路70および液体排出路90を構成してもよい。これにより、液体排出路90を通って静圧気体軸受スピンドル1の外部に排出されるシール用気体の量が抑制される。その結果、液体排出路90を設けることによるシール性能への影響は小さくなる。ここで、液体排出路90における気体の流れに対する抵抗を第1のシール隙間77における気体の流れに対する抵抗よりも大きくするためには、たとえば液体排出路90の気体の流れの方向に垂直な断面の断面積を第1のシール隙間77の気体の流れの方向に垂直な断面の断面積よりも小さくする、液体排出路90の長さを第1のシール隙間77の気体の流れの方向における長さよりも長くする、などの対策を採用することができる。
【0032】
さらに、前述のように下流側接続開口75は、シール用気体の供給方向76に沿った方向から見て、上流側接続開口74と平面的に重ならない位置に配置されている。別の観点から説明すると、連通路70は液溜め部73において屈曲している。そのため、下流側接続開口75から液溜め部73に侵入した加工液は上流側接続開口74に直接侵入しにくくなっており、液溜め部73に捕捉されやすくなっている。その結果、連通路70に侵入した加工液の静圧気体ジャーナル軸受31および静圧気体スラスト軸受32への侵入は一層抑制されている。
【0033】
なお、図2に示すように静圧気体軸受スピンドル1において、ハウジング部20が複数の部材から構成されており、当該部材同士の隙間を含む間隙によって液溜め部73と静圧気体ジャーナル軸受31または/および静圧気体スラスト軸受32とが連通している場合、当該隙間の少なくとも一箇所にOリング100を配置することが好ましい。これにより、加工液が当該間隙を通じて液溜め部73から静圧気体ジャーナル軸受31または/および静圧気体スラスト軸受32へと侵入することを防止することができる。
【0034】
(実施の形態2)
図3は、本発明の一実施の形態である実施の形態2の静圧気体軸受スピンドルの構成を説明するための概略部分断面図である。図1および図3を参照して、本発明の実施の形態2の静圧気体軸受スピンドルの構成を説明する。
【0035】
実施の形態2の静圧気体軸受スピンドル1と、上述した実施の形態1の静圧気体軸受スピンドル1とは基本的に同様の構成を有している。しかし、実施の形態2では、図1の領域IIIの部分において、図3に示すような構成を有している点で実施の形態1とは異なっている。
【0036】
具体的には、図3を参照して実施の形態2の静圧気体軸受スピンドル1は、連通路70において、静圧気体ジャーナル軸受31および静圧気体スラスト軸受32と第1の連結部71とを繋ぐ第3のシール隙間79に連結され、連通路70と静圧気体軸受スピンドル1の外部とを繋ぐ圧力調整用排出路80をさらに備えている点で、実施の形態1の静圧気体軸受スピンドル1とは異なっている。すなわち、圧力調整用排出路80は排出通路81を有しており、排出通路81の一端は第2の連結部82において連通路70の第3のシール隙間79に連結されている。さらに、排出通路81の他端は静圧気体軸受スピンドル1の外部への開口83を有する排気通路84に連結されている。
【0037】
さらに、連通路70と圧力調整用排出路80との連結部である第2の連結部82と第1の連結部71との間の第3のシール隙間79における気体の流れに対する抵抗は、液溜め部73と第1の連結部71とを繋ぐ第2のシール隙間78における気体の流れに対する抵抗よりも大きくなるように連通路70が構成されている。
【0038】
次に、図1および図3を参照して、実施の形態2の静圧気体軸受スピンドル1の動作について説明する。実施の形態2の静圧気体軸受スピンドル1は実施の形態1の静圧気体軸受スピンドル1と同様に動作し、かつシール用気体の噴出により加工液の連通路70への侵入も同様に防止されている。さらに、静圧気体軸受スピンドル1の運転停止後における加工液の連通路70への侵入防止についても同様である。
【0039】
ここで、前述のように実施の形態2の静圧気体軸受スピンドル1は、連通路70において、第3のシール隙間79に連結され、連通路70と静圧気体軸受スピンドル1の外部とを繋ぐ圧力調整用排出路80をさらに備えている。そして、第2の連結部82と第1の連結部71との間の第3のシール隙間79における気体の流れに対する抵抗は、圧力調整用排出路80における気体の流れに対する抵抗よりも大きくなるように、連通路70および圧力調整用排出路80が構成されている。そのため、連通路70に供給されたシール用気体は、第3のシール隙間79によって静圧気体軸受側への流出を制限され、流出したシール用気体は圧力調整用排出路80を通じて外部に放出されるため、静圧気体軸受の軸受すき間周辺の圧力は、ほぼスピンドル外部の大気圧に維持される。その結果、シール用気体が静圧気体ジャーナル軸受31および静圧気体スラスト軸受32の軸受すき間の圧力分布に影響を与えることによる不具合の発生を抑制することができる。
【0040】
さらに、前述のように第3のシール隙間79における気体の流れに対する抵抗は、第2のシール隙間78における気体の流れに対する抵抗よりも大きくなるように連通路70が構成されている。そのため、シール性能の確保に必要なシール用気体が気体の流れに対する抵抗の小さい第2のシール隙間78を通じて連通路開口72から静圧気体軸受スピンドル1の外部に噴出するとともに、過剰なシール用気体が気体の流れに対する抵抗の大きい第3のシール隙間79を通じて圧力調整用排出路80に至り、外部への開口83から静圧気体軸受スピンドル1の外部へと排出される。その結果、圧力調整用排出路80を設けることによるシール性能の低下を回避することができる。
【0041】
ここで、第3のシール隙間79における気体の流れに対する抵抗が大きいほど、静圧気体軸受の性能への影響による不具合の発生を抑制し、かつシール性能を向上させることが可能になる。そのため、回転部10との接触が生じない範囲で、第3のシール隙間79における気体の流れに対する抵抗が最も大きくなるように、連通路70の構成を決定することができる。第3のシール隙間79における気体の流れに対する抵抗を第2のシール隙間78における気体の流れに対する抵抗よりも大きくするためには、たとえば第3のシール隙間79の気体の流れに垂直な断面の断面積を第2のシール隙間78の気体の流れに垂直な断面の断面積よりも小さくする、第3のシール隙間79気体の流れの長さを第2のシール隙間78の気体の流れにおける長さよりも長くする、などの対策を採用することができる。
【0042】
また、連通路70と圧力調整用排出路80との連結部である第2の連結部82と第1の連結部71との間における連通路70(第3のシール隙間79)の気体の流れに垂直な断面の断面積は、液溜め部73と第1の連結部71との間における連通路70(第2のシール隙間78)の気体の流れの方向に垂直な断面の断面積よりも小さくなるように、連通路70を構成してもよい。
【0043】
通常、第3のシール隙間79および第2のシール隙間78においては、気体の流れの方向の長さなどの他の要素に比べて、気体の流れの方向に垂直な断面の断面積は気体の流れに対する抵抗に及ぼす影響が大きい。そのため、上述のような連通路70の構成により、第3のシール隙間79における気体の流れに対する抵抗を、第2のシール隙間78における気体の流れに対する抵抗よりも大きくなるように連通路70を構成することができる。その結果、圧力調整用排出路80を設けることによるシール性能の低下を回避することができる。
【0044】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の静圧気体軸受スピンドルは、静圧気体軸受への異物の流入を防止するためのシール用気体供給部を備えた静圧気体軸受スピンドルに特に有利に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施の形態1の静圧気体軸受スピンドルの構成を示す概略断面図である。
【図2】図1の領域II付近を拡大して示した概略部分断面図である。
【図3】実施の形態2の静圧気体軸受スピンドルの構成を説明するための概略部分断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1 静圧気体軸受スピンドル、10 回転部、20 ハウジング部、31 静圧気体ジャーナル軸受、32 静圧気体スラスト軸受、33 軸受用気体供給路、40 軸受用気体供給部、50 シール用気体供給部、51 シール用気体流路、60 モータの回転子、70 連通路、71 第1の連結部、72 連通路開口、73 液溜め部、74 上流側接続開口、75 下流側接続開口、76 シール用気体の供給方向、77 第1のシール隙間、78 第2のシール隙間、79 第3のシール隙間、80 圧力調整用排出路、81 排出通路、82 第2の連結部、83 外部への開口、84 排気通路、90 液体排出路、100 Oリング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静圧気体軸受を備えた静圧気体軸受スピンドルであって、
前記静圧気体軸受と前記静圧気体軸受スピンドルの外部とを連通する連通路と、
前記静圧気体軸受への異物の流入を防止するために前記連通路にシール用気体を供給するためのシール用気体供給部と、
前記連通路と前記シール用気体供給部とを繋ぐシール用気体流路とを含み、
前記連通路には、前記シール用気体流路との連結部である第1の連結部と前記連通路における前記静圧気体軸受スピンドルの外部への開口である連通路開口との間に液溜め部が形成されている、静圧気体軸受スピンドル。
【請求項2】
前記液溜め部と前記静圧気体軸受スピンドルの外部とを繋ぐ液体排出路をさらに備えた、請求項1に記載の静圧気体軸受スピンドル。
【請求項3】
前記液体排出路の気体の流れに垂直な断面の断面積は、前記液溜め部よりも前記連通路開口側における前記連通路の気体の流れに垂直な断面の断面積よりも小さい、請求項1または2に記載の静圧気体軸受スピンドル。
【請求項4】
前記液溜め部には、
前記連通路における前記シール用気体の排出方向での上流側に位置する前記連通路との接続部である上流側接続開口と、
前記排出方向における下流側に位置する前記連通路との接続部である下流側接続開口とが形成され、
前記下流側接続開口は、前記上流側接続開口から前記液溜め部に供給される前記シール用気体の供給方向に沿った方向から見て、前記上流側接続開口と平面的に重ならない位置に配置されている、請求項1〜3のいずれかに記載の静圧気体軸受スピンドル。
【請求項5】
前記連通路において、前記静圧気体軸受と前記第1の連結部との間に連結され、前記連通路と外部とを繋ぐ圧力調整用排出路をさらに備え、
前記連通路と前記圧力調整用排出路との連結部である第2の連結部と前記第1の連結部との間における気体の流れに対する抵抗は、前記圧力調整用排出路における気体の流れに対する抵抗よりも大きくなるように、前記連通路および前記圧力調整用排出路が構成されている、請求項1〜4のいずれかに記載の静圧気体軸受スピンドル。
【請求項6】
前記第2の連結部と前記第1の連結部との間における気体の流れに対する抵抗は、前記液溜め部と前記第1の連結部との間における気体の流れに対する抵抗よりも大きくなるように前記連通路が構成されている、請求項5に記載の静圧気体軸受スピンドル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−336826(P2006−336826A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−165614(P2005−165614)
【出願日】平成17年6月6日(2005.6.6)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】