説明

静圧気体軸受スピンドル

【課題】 スピンドルの駆動モータやスピンドル軸受部等から発生した熱を効率よく冷却し、外部の真空環境に対しアウトガス等の発生を抑えて真空環境を所望の清浄度に保つと共に、シール部材の劣化を防止し得る冷却構造を備えた静圧気体軸受スピンドルを提供する。
【解決手段】 静圧気体軸受スピンドルは、回転軸2と、回転軸2を支持しこの軸心回りに回転自在に支持する静圧気体軸受3と、モータ4とを備える。ハウジング本体1A,1Bの表面と、同ハウジング本体の表面に重ねられる閉塞部材32,34との間に冷却液が循環する流路33,35を設け、両者の重なり面に介在して流路33,35を密封するシール部材42a,42b、50a,50bを流路33,35に対して内外に並ぶ2重構造に設ける。2つのシール部材42a,42b、50a,50bを互いに材質の異なるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、磁気ディスクや光ディスク等の製造工程、検査工程等に使用される高精度な静圧気体軸受スピンドルに関する。
【背景技術】
【0002】
静圧気体軸受スピンドルは、回転軸を静圧気体軸受により非接触で支持するため、回転精度が高く、精密加工機や精密検査装置のワークスピンドルまたは工具スピンドル等に使用される。このようなスピンドルでは、外乱の侵入を防ぎ制御性を高めるために、ベルト等を使用せず回転軸にモータのロータを直接取付けて駆動する場合が多い。
特に、磁気ディスクや光ディスク等の製造工程、検査工程等のような用途では、ディスクの記録密度を向上させるため、データ信号を高密度に書き込む必要があり、ディスクと記録ユニットまたは再生ヘッド等との高い位置決め精度や、スピンドルの高い回転精度が要求される。そして電子ビームを利用した記録装置では、書き込み用の電子線が空気分子により曲げられるのを防止するために、ディスク原盤を高真空中に設置する場合もある。
【0003】
このような用途に使用される静圧気体軸受スピンドルは、モータロータに永久磁石を使用した同期型ACサーボモータとロータリーエンコーダを回転軸に直接取り付けてフィードバック制御を行うことが多い。従来、静圧気体軸受スピンドルに使用されるACサーボモータとして、コア付きサーボモータと、コアレスサーボモータを利用した構造例が示されている(特許文献1)。また、主な熱の発生源である駆動モータの冷却についてその構造例が示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−084279号公報
【特許文献2】特開平8−251872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記静圧気体軸受スピンドルが使用されるディスク原盤製造装置においては、スピンドルの回転軸上端に取り付けた回転テーブル上にディスク原盤を搭載する。この原盤を回転させた状態で、原盤表面に塗布されたレジストに、収束された電子ビームまたは集光されたレーザービームを照射しつつ、記録ユニットまたは再生ヘッドを回転テーブルの主面に平行に相対移動させ、記録情報を露光または描画している。
【0006】
本装置においては、スピンドルの駆動モータやスピンドル軸受部等で発生した熱が、回転軸を通じてディスク原盤に伝わると、前記レジストの反応速度の不安定や反応むらの原因となる。また、熱によって回転軸が熱膨張すると、ビーム照射部と原盤表面との相対的な位置変化を発生し、高精度な情報の記録が阻害される。このため、本装置に使用されるスピンドルには、高い回転精度に加えて、発生した熱を効率的に冷却する機構が求められている。
【0007】
この発明の目的は、スピンドルの駆動モータやスピンドル軸受部等から発生した熱を効率よく冷却し、外部の真空環境に対しアウトガス等の発生を抑えて前記真空環境を所望の清浄度に保つと共に、シール部材の劣化を防止することができる冷却構造を備えた静圧気体軸受スピンドルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の静圧気体軸受スピンドルは、ハウジングと、回転軸と、前記ハウジング内に設置されて前記回転軸を支持し同回転軸の軸心回りに回転自在に支持する静圧気体軸受と、前記回転軸を回転駆動するモータとを備えた静圧気体軸受スピンドルにおいて、前記ハウジングのハウジング本体の表面と、このハウジング本体の表面に重ねられる閉塞部材との間に冷却液が循環する流路を形成し、前記閉塞部材とハウジング本体の重なり面に介在して前記流路を外部から密封するシール部材を、前記流路に対して内外に並ぶ2重構造にして設け、これら2つのシール部材を互いに材質の異なるものとしたことを特徴とする。
前記2つのシール部材は、それぞれ環状の弾性体から成るものであっても良い。
前記2つのシール部材のうち、流路に対し内側に設けられるシール部材は、冷却液に侵されない材質から成り、前記流路に対し外側に設けられるシール部材は、ニトリルゴムよりもアウトガスの発生が少ない材質から成るものであっても良い。この場合に、前記内側に設けられるシール部材は、ニトリルゴムから成り、前記外側に設けられるシール部材は、フッ素ゴムから成るものであっても良い。
【0009】
この構成によると、ハウジング本体の表面と閉塞部材との間に形成される流路に、冷却液が供給され、モータや静圧気体軸受で発生した熱を冷却する。閉塞部材とハウジング本体との重なり面に介在するシール部材は、前記流路を、例えば高真空に保たれた外部から隔てる。このシール部材を、前記流路に対して内外に並ぶ2重構造にして設け、これら2つのシール部材を互いに材質の異なるものとした。このため、流路に対し内部側(冷却液側)のシール部材は、冷却液に侵されない材質からなるシール部材を適用し、高真空側のシール部材を、アウトガスの発生が少ない材質からなるシール部材を適用し得る。
シール部材の材質がニトリルゴムの場合、アウトガスの発生が多く、高真空に悪影響を及ぼしてしまうため、フッ素ゴム等のアウトガスの発生が少ない材質を使用するのが望ましい。しかし、冷却用の冷却液に、フッ素化された液体、例えば、ガルデンやフロリナートを使用する場合は、フッ素ゴムが侵されてしまう場合がある。
【0010】
そこで、この発明ではシール部材を前記流路に対して内外に並ぶ2重構造にして設け、例えば、高真空側のシール部材としてフッ素ゴム、冷却液側のシール部材としてニトリルゴムからなるシール部材を適用する。これにより、外部の高真空環境、冷却液側双方への悪影響を防止しつつ確実なシールを実現することができる。したがって、モータや静圧気体軸受で発生した熱は、流路を循環する冷却液によって冷却され、回転軸への熱伝導を抑制することができる。ディスク原盤製造装置にこの静圧気体軸受スピンドルを使用する場合、熱が回転軸を介してディスク原盤に伝わらないようにし得るため、レジストの反応速度の不安定化や反応むらを未然に防止することが可能となる。熱による回転軸の熱膨張を抑え、ビーム照射部と原盤表面との相対的な位置決め精度を高精度に維持することができるため、ディスク原盤に情報を高精度に記録することができる。
【0011】
前記ハウジング本体の表面に形成された溝と、この溝の開口を塞ぐ前記閉塞部材とで、前記流路を形成しても良い。この場合、溝を例えば旋削等により容易に加工することができる。
前記閉塞部材の内面に溝を形成し、この閉塞部材の内面をハウジング本体の表面に重ねて前記溝の開口を塞ぐことで、前記流路を形成しても良い。この場合、閉塞部材のみを変更することで、流路を容易に設計変形し得る。
【0012】
前記ハウジング本体の表面に形成された溝と、この溝の開口を塞ぐ前記閉塞部材とで、前記流路を形成する場合に、前記溝の底部に複数の孔を形成しても良い。この場合、各孔が静圧気体軸受近傍に達するため、冷却液が循環する流路以外の管路を避けながら、またハウジング本体の強度を損なうことなく、冷却液を複数の孔を通して静圧気体軸受近傍に導き、冷却効率を高めることができる。
【0013】
前記孔に雌ねじ加工を施しても良い。この場合、冷却液を孔の雌ねじ部まで導くことができる。このため冷却液との接触面積が増し、冷却効率をより高めることができる。
前記溝に設けた孔に、前記ハウジングよりも熱伝導率の高い材質からなる部材を埋め込んでも良い。熱伝導率が「高い」とは、熱伝導率が「大きい」または熱伝導率が「良い」とも言う。なお、ハウジングとの比較によらず、単に、熱伝導率の高い材質であっても良い。この明細書において、熱伝導率の高い材質とは、熱伝導率が200W/m・K以上の材質を言う。熱伝導率の高い材質として、例えば、銅等を適用する。このような部材を孔に埋め込むことで、冷却効率を高めながら、冷却液が孔に溜まるいわゆる冷却液溜まりを無くすように改善できると共に、ハウジング本体の強度の補強も兼ねることができる。冷却液溜まりを無くすことで、冷却液を流路に沿って円滑に循環させることができる。
【0014】
前記溝に、複数の細溝をさらに形成しても良い。これら細溝により冷却液との接触面積が増し、冷却効率を高めることができる。
前記溝は複数の円周溝から成り、各円周溝を連通路で接続したものであっても良い。複数段ある円周溝を、各段交互に円周方向に例えば、180度または180度に近い角度でずらして設けた連通路により連通する。これにより供給された冷却液が各段毎に円周方向に沿って進み、各円周溝の全周に行き渡り易くなる。したがって、冷却効率を高めることができる。
前記溝は螺旋溝から成るものであっても良い。
【0015】
前記静圧気体軸受は、ラジアル軸受とスラスト軸受とを有し、前記ラジアル軸受が設置されるハウジング本体および閉塞部材のいずれか一方は、これらハウジング本体および閉塞部材により形成される流路の下部から冷却液を供給する冷却液供給通路を有し、且つ、前記流路の上部から流路内の冷却液を排出する冷却液排出通路を有するものであっても良い。この場合、冷却液を所定圧力で流路の下部にある冷却液供給通路から供給することで、冷却液が重力の作用で流路に沿ってむらなく万遍なく行き渡るようになる。したがって、冷却効率を高めることができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明の静圧気体軸受スピンドルは、ハウジングと、回転軸と、前記ハウジング内に設置されて前記回転軸を支持し同回転軸の軸心回りに回転自在に支持する静圧気体軸受と、前記回転軸を回転駆動するモータとを備えた静圧気体軸受スピンドルにおいて、前記ハウジングのハウジング本体の表面と、このハウジング本体の表面に重ねられる閉塞部材との間に冷却液が循環する流路を形成し、前記閉塞部材とハウジング本体の重なり面に介在して前記流路を外部から密封するシール部材を、前記流路に対して内外に並ぶ2重構造にして設け、これら2つのシール部材を互いに材質の異なるものとしたため、スピンドルの駆動モータやスピンドル軸受部等から発生した熱を効率よく冷却し、外部の真空環境に対しアウトガス等の発生を抑えて前記真空環境を所望の清浄度に保つと共に、シール部材の劣化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の第1の実施形態に係る静圧気体軸受スピンドルの断面図である。
【図2】真空チャンバを設けた同静圧気体軸受スピンドルを別の切断面で切断して見た断面図である。
【図3】同静圧気体軸受スピンドルの要部の斜視図である。
【図4】同静圧気体軸受スピンドルの端面冷却溝等を示す断面図である。
【図5】(A)は同静圧気体軸受スピンドルの外周面冷却溝を示す斜視図、(B)は同外周面冷却溝を別の角度から示す斜視図である。
【図6】同静圧気体軸受スピンドルの要部を拡大して示す断面図である。
【図7】同静圧気体軸受スピンドルの別の要部を拡大して示す断面図である。
【図8】この発明の他の実施形態に係る静圧気体軸受スピンドルを組み立てる段階の断面図である。
【図9】同静圧気体軸受スピンドルの要部を組み立てた段階の断面図である。
【図10】この発明のさらに他の実施形態に係る静圧気体軸受スピンドルを組み立てる段階の要部の断面図である。
【図11】同静圧気体軸受スピンドルの要部を組み立てた段階の断面図である。
【図12】この発明のさらに他の実施形態に係る静圧気体軸受スピンドルの要部の断面図である。
【図13】(A)〜(F)は、この発明のさらに他の実施形態に係る静圧気体軸受スピンドルの要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明の第1の実施形態を図1ないし図7と共に説明する。
図1、図2に示すように、この実施形態に係る静圧気体軸受スピンドルは、主に、ハウジング1と、回転軸2と、静圧気体軸受3と、モータ4とを有し、ハウジング1内において、回転軸2を静圧気体軸受3により非接触で支持し、回転軸2の下方端に設けたモータ4によって回転軸2を回転駆動するものである。ハウジング1は、上端にフランジ5が設けられた略円筒状のハウジング本体1Aと、このハウジング本体1Aのフランジ5の上端面に、スペーサ6を介して固定されたハウジング本体1Bと、ハウジング本体1Aの下端面にスペーサ7を介して固定されたモータカバー8と、エンコーダカバー9とを有する。ハウジング本体1Aは、このハウジング本体1Aの内周部を構成する軸受スリーブ1Aaを含み、ハウジング本体1Bは、このハウジング本体1Bの下端側の内周部を構成する軸受スリーブ1Baを含む。
【0019】
軸受について説明する。
図1に示すように、静圧気体軸受3は、ラジアル軸受10とスラスト軸受11とで構成される。ラジアル軸受10は軸受スリーブ1Aaに設けられ、スラスト軸受11は、軸受スリーブ1Baおよび軸受スリーブ1Aaの上端のフランジ部12に設けられている。ラジアル軸受10は、軸受スリーブ1Aaと回転軸2の外周面との間の半径方向の軸受隙間に、軸受スリーブ1Aa内のノズル13から圧縮空気を噴出する。スラスト軸受11は、軸受スリーブ1Baと回転軸2のフランジ上面2aとの間の軸方向の軸受隙間に、軸受スリーブ1Ba内のノズル13から圧縮空気を噴出する。これと共に、軸受スリーブ1Aaのフランジ部12と回転軸2のフランジ下面2bとの間の軸方向の軸受隙間に、軸受スリーブ1Aa内のノズル13から圧縮空気を噴出することで、各軸受隙間の静圧によって、静圧気体軸受3は非接触で回転軸2を支持する。
【0020】
圧縮空気の給排構造について説明する。
図1に示すように、ハウジング本体1Aのフランジ5には、軸受スリーブ1Aa側、軸受スリーブ1Ba側に分岐する軸受空気供給通路14,15が形成され、この軸受空気供給通路14,15が、図示外の圧縮空気供給源に配管接続されている。一方の軸受空気供給通路14は、軸受スリーブ1Aaに形成された空気路16に連通され、この空気路16が複数のノズル13にそれぞれ連通している。他方の軸受空気供給経路15は、順次、スペーサ6に形成された空気路17、ハウジング本体1Bに形成された空気路18を介して、軸受スリーブ1Baに形成された空気路19に連通され、この空気路19がノズル13に連通している。
【0021】
回転軸2の外周面に環状溝20が形成され、この環状溝20に対向する軸受スリーブ1Aaの内周面に、環状溝21が形成されている。互いに対向するこれら環状溝20,21は、前記半径方向の軸受隙間に噴出された圧縮空気、および軸受スリーブ1Aaと回転軸2のフランジ下面2bとの間の軸方向の軸受隙間に噴出された圧縮空気を排出するために形成されている。また、環状溝20,21は、回転軸2における一方のノズル13と他方のノズル13との中間付近に配設されている。スリーブ1Aaに、前記環状溝20,21に連通する空気路22が形成され、ハウジング本体1Aのフランジ5に、同空気路22に連通する排気通路23が形成されている。
【0022】
軸受スリーブ1Baの内周面と、回転軸2における上端の小径端部2cの外周面との間には、環状溝24が形成され、この環状溝24は、軸受スリーブ1Baと回転軸2のフランジ上面2aとの間の軸方向の軸受隙間に噴出された圧縮空気を排出するために形成されている。回転軸2のフランジ25に、前記環状溝24に連通する空気路26が形成され、スペーサ6に同空気路26に連通する排気通路27が形成されている。排気通路23,27は、図示外の管路に配管接続されている。なお、ハウジング本体1Bの内周面には、同内周面と回転軸2の小径端部2cの外周面との間を密封するシール機構28が設けられている。このシール機構28により、フランジ上面2aとの軸受隙間に噴出された圧縮空気が、真空室29内の真空チャンバ30に漏れることなく、順次、環状溝24、空気路26、排気通路27を介して排気されるようになっている。
【0023】
モータ、エンコーダ等について説明する。
モータ4は、回転軸2の下端に設けられた永久磁石から成るロータ4aと、モータカバー8における前記ロータ4aに対向する位置に設けられたステータ4bとで構成された同期型ACモータとされている。ステータ4bは、コイルとコアとで構成され、またはコイルのみで構成される。
エンコーダ31はロータリーエンコーダから成り、このロータリーエンコーダのパルス円板31aは、回転軸2の最下端に設けられている。パルス円板31aに対面する図示外の検出ヘッドは、エンコーダカバー9に設けられている。このロータリーエンコーダの出力信号は、回転軸2の回転制御用に使用される。
【0024】
冷却構造について説明する。
図2に示すように、ハウジング本体1Aの表面つまり外周面と、このハウジング本体1Aの外周面に重ねられる閉塞部材32とで冷却液が循環する流路33を形成している。また、ハウジング本体1Bの表面つまり上端面と、このハウジング本体1Bの上端面に重ねられる閉塞部材34とで冷却液が循環する流路35を形成している。
【0025】
図2および図4に示すように、ハウジング本体1Aの外周面には、複数段(この例では3段)の円周溝36が軸方向一定間隔おきに形成され、各円周溝36は連通路37で接続されている。すなわち図5(A)および図5(B)に示すように、複数段ある円周溝36を、各段交互に180度または180度に近い角度でずらして設けた連通路37,37により連通している。このように連通することで、流路33は、複数周にわたる1本の連続したものとなる。これら円周溝36は、例えば旋削等により容易に加工し得る。ハウジング本体1Aの外周面に、複数段の円周溝36を塞ぐ円筒状の閉塞部材32が圧入嵌合されて設けられている。ハウジング本体1Aの外周面に形成された複数段の円周溝36と、これら円周溝36を塞ぐ閉塞部材32とで、前記流路33を形成している。
【0026】
図2に示すように、閉塞部材32は、ハウジング本体1Aおよび閉塞部材32により形成される流路33の下部から冷却液を供給する冷却液供給通路38を有する。つまりこの閉塞部材32の冷却液供給通路38は、最下段の円周溝36に連通し、且つ、同閉塞部材32の外周側に貫通するように形成される。この閉塞部材32の冷却液供給通路38に、図示外の冷却液供給源が配管接続されている。
さらに閉塞部材32は、前記流路33の上部から流路33内の冷却液を排出する冷却液排出通路39を有する。つまりこの閉塞部材32の冷却液排出通路39は、最上段の円周溝36に連通し、且つ、同閉塞部材32の外周側に貫通するように形成される。この閉塞部材32の冷却液排出通路39に図示外の管路が配管接続され、冷却に供された冷却液がタンク等(図示せず)に戻される。
【0027】
図2および図3に示すように、ハウジング本体1Bの上端面には、同心状に配設される複数(この例では3周分)の円周溝40が径方向一定間隔おきに形成され、各円周溝40は連通路41で接続されている。すなわち図3に示すように、複数設けられる円周溝40を、各周交互に180度または180度に近い角度でずらして設けた連通路41,41により連通している。このように連通することで、流路35は、複数周にわたる1本の連続したものとなる。これら円周溝40を例えば旋削等により容易に加工し得る。ハウジング本体1Bの上端面に、複数の円周溝40を塞ぐ環状の閉塞部材34が嵌め込まれて設けられている。なお閉塞部材32,34は「ウォータジャケット」とも称される。ハウジング本体1Bの上端面に形成された複数の円周溝40と、これら円周溝40を塞ぐ閉塞部材34とで、前記流路35を形成している。
【0028】
ハウジング本体1Aのフランジ5には、ハウジング本体1Bおよび閉塞部材34により形成される流路35に冷却液を供給する冷却液供給通路43が形成されている。ただし、この冷却液供給通路43は、前述の軸受空気供給通路14,15と干渉しないように、同軸受空気供給通路14,15とは異なる位相位置に配設されている。後述する冷却液排出通路44も、他の通路と干渉しない位相位置に配設されている。冷却液供給通路43に前記冷却液供給源が配管接続されている。このフランジ5の冷却液供給通路43は、スペーサ6に形成された通路45を介して、ハウジング本体1Bに形成された通路46に連通され、この通路46が最内周側の円周溝40に連通している。
【0029】
ハウジング本体1Aのフランジ5には、前記流路35内の冷却液を排出する冷却液排出通路44が形成されている。このフランジ5の冷却液排出通路44は、スペーサ6に形成された通路47を介して、ハウジング本体1Bに形成された通路48に連通され、この通路48が最外周側の円周溝40に連通している。フランジ5の冷却液排出通路44に図示外の管路が配管接続され、冷却に供された冷却液が前記タンク等に戻される。
【0030】
シール部材について説明する。
図1および図6に示すように、閉塞部材32には、シール部材42a,42bが設けられている。シール部材42a,42bは、閉塞部材32とハウジング本体1Aの重なり面49に介在して流路33を外部から密封する環状の弾性体から成る。この環状の弾性体として、この例ではOリングが用いられる。このシール部材42a,42bを、前記流路33に対して内外に並ぶ2重構造にして設けている。閉塞部材32の内周面における下部(軸方向下端部)に、2つの環状溝32a,32aが所定間隔をあけて形成されると共に、この閉塞部材32の内周面における上部にも、2つの環状溝32a,32aが所定間隔をあけて形成されている。上部の環状溝32a,32aは、最上段の円周溝36よりも上方に配設されるうえ、下部の環状溝32a,32aは、最下段の円周溝36よりも下方に配設される。各環状溝32aにそれぞれシール部材42a,42bが嵌め込まれた閉塞部材32を、ハウジング本体1Aの外周面に圧入嵌合することで、流路33の密封性が確保されるようになっている。
【0031】
流路33に対して内外に並ぶ2重のシール部材42a,42bは、互いに材質の異なるものとしている。流路33に対し内部側(冷却液側)のシール部材42aは、冷却液に侵されない材質、具体的には、例えばニトリルゴムから成るものとし、流路33に対し外部側すなわち高真空側のシール部材42bは、ニトリルゴムよりもアウトガスの発生が少ない材質、具体的には、例えばフッ素ゴムから成るものとしている。これにより、外部の高真空環境、冷却液側双方への悪影響を防止しつつ確実なシールを実現することができる。
【0032】
図7に示すように、閉塞部材34には、シール部材50a,50bが設けられている。シール部材50a,50bは、閉塞部材34とハウジング本体1Bとの重なり面51に介在して流路35を外部から密封するOリングから成る。このシール部材50a,50bを、前記流路35に対して内外に並ぶ2重構造にして設けている。閉塞部材34の内周面に、2つの環状溝34a,34aが所定間隔をあけて形成されると共に、閉塞部材34の外周面に、2つの環状溝34a,34aが所定間隔をあけて形成されている。各環状溝34aにそれぞれシール部材50a,50bが嵌め込まれた閉塞部材34を、ハウジング本体1Bの上端面に嵌め込むことで、流路35の密封性が確保されるようになっている。
流路35に対して内外に並ぶ2重のシール部材50a,50bも、前記と同様に、互いに材質の異なるものとしている。すなわち、流路35に対する内部側のシール部材50aは、冷却液に侵されない材質、具体的には、例えばニトリルゴムから成るものとし、流路35に対する外部側すなわち高真空側のシール部材50bは、ニトリルゴムよりもアウトガスの発生が少ない材質、具体的には、例えばフッ素ゴムから成るものとしている。これにより、外部の高真空環境、冷却液側双方への悪影響を防止しつつ確実なシールを実現することができる。
【0033】
以上説明した静圧気体軸受スピンドルによると、流路33,35に冷却液が供給され、モータ4や静圧気体軸受3で発生した熱を冷却する。シール部材42a,42bおよびシール部材50a,50bは、流路を、例えば高真空に保たれた外部から隔てる。シール部材42a,42b、(50a,50b)を、それぞれ流路33、(35)に対して内外に並ぶ2重構造にして設け、2重のシール部材42a,42b、(50a,50b)は、互いに材質の異なるものとしている。流路33、(35)に対し内部側(冷却液側)のシール部材42a、(50a)は、冷却液に侵されない材質から成るものとし、流路33、(35)に対し外部側すなわち高真空側のシール部材42b、(50b)は、アウトガスの発生が少ない材質から成るものとしたことにより、外部の高真空環境、冷却液側双方への悪影響を防止しつつ確実なシールを実現することができる。
したがって、モータ4や静圧気体軸受3で発生した熱は、流路33、35を循環する冷却液によって冷却され、回転軸2への熱伝導を抑制することができる。ディスク原盤製造装置にこの静圧気体軸受スピンドルを使用する場合、熱が回転軸2を介してディスク原盤に伝わらないようにし得るため、レジストの反応速度の不安定化や反応むらを未然に防止することが可能となる。熱による回転軸2の熱膨張を抑え、ビーム照射部と原盤表面との相対的な位置決め精度を高精度に維持することができるため、ディスク原盤に情報を高精度に記録することができる。
【0034】
流路33、(35)における複数の円周溝36、(40)を、各周交互に円周方向に例えば、180度または180度に近い角度でずらして設けた連通路37、(41)により連通しているため、供給された冷却液が各周毎に円周方向に沿って進み、各円周溝36、(40)の全周に行き渡り易くなる。したがって、冷却効率を高めることができる。
閉塞部材32は、ハウジング本体1Aおよび閉塞部材32により形成される流路33の下部から冷却液を供給する冷却液供給通路38を有し、且つ、流路33の上部から流路33内の冷却液を排出する冷却液排出通路39を有する。このため、冷却液を所定圧力で流路33の下部にある冷却液供給通路38から供給することで、冷却液が重力の作用で流路33に沿ってむらなく万遍なく行き渡るようになる。したがって、冷却効率を高めることができる。
【0035】
以下、本発明の他の実施形態について図8〜図13と共に説明する。以下の説明においては、各形態で先行する形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0036】
図1のハウジング本体1Aに円周溝36を形成する形態に代えて、図8および図9に示すように、複数の円周溝36を閉塞部材32に設けても良い。図8は、この発明の他の実施形態に係る静圧気体軸受スピンドルを組み立てる段階の断面図、図9は、同静圧気体軸受スピンドルの要部を組み立てた段階の断面図である。すなわち、閉塞部材32の内周面に複数段の円周溝36を設け、この閉塞部材32の内周面をハウジング本体1Aの外周面に重ねてこれら円周溝36を塞ぐことで、流路33を形成する。複数ある円周溝36を、各周毎交互に180度または180度に近い角度でずらして設けた連通路37により連通している。したがって、供給された冷却液が各周毎に円周方向に沿って進み、各円周溝36の全周に行き渡り易くなる。
【0037】
また、図1のハウジング本体1Bに円周溝40を形成する形態に代えて、図10および図11に示すように、複数の円周溝40を閉塞部材34に設けても良い。図10は、この発明のさらに他の実施形態に係る静圧気体軸受スピンドルを組み立てる段階の要部の断面図、図11は、同静圧気体軸受スピンドルの要部を組み立てた段階の断面図である。すなわち、閉塞部材34の内面に複数の円周溝40を設け、この閉塞部材34の内面をハウジング本体1Bの上端面に重ねてこれら円周溝40を塞ぐことで、流路35を形成している。この場合も、複数ある円周溝40を、各周毎交互に180度または180度に近い角度でずらして設けた連通路41により連通している。したがって、供給された冷却液が各周毎に円周方向に沿って進み、各円周溝40の全周に行き渡り易くなる。
これらの構成によると、閉塞部材32および閉塞部材34のいずれか一方または両方を変更することで、流路を容易に設計変更し得る。したがって、冷却効率をより高め得る流路を低コストで設けることが可能となる。
【0038】
図12に示すように、第1の実施形態における流路33、35の円周溝36、40の底部に、複数の孔52を形成し、流路35の円周溝40の底部に、複数の孔52を形成しても良い。流路35の各孔52は、いずれもラジアル軸受近傍に達する、換言すれば、軸受スリーブ1Aa付近まで延びる、非貫通孔とされている。流路35の各孔52は、いずれもスラスト軸受近傍に達する、換言すれば、軸受スリーブ1Ba付近まで延びる、非貫通孔とされている。
円周溝36、40は、熱の発生源であるラジアル軸受10、スラスト軸受11にできるだけ近付けることが望ましいが、ハウジング本体1A、1Bには冷却用の流路以外の管路が通っていたり、円周溝36、40を軸受に近付けることにより、ハウジング本体1A、1Bの肉厚が薄くなり、強度に悪影響を及ぼしてしまうため、適度な距離が必要になる。そこで、図12に示すように、円周溝36、40の底部に、軸受近傍に達する複数の孔52を設ける。これにより、冷却用の流路以外の管路を避けながら、また、ハウジング本体の強度を損なうことなく、冷却液をラジアル軸受近傍、スラスト軸受近傍に導き、冷却効率をさらに高めることができる。
【0039】
図13(A)に示すように、流路35の各孔52に雌ねじ加工を施しても良い。この流路35の雌ねじ加工に代えて、またはこの雌ねじ加工と共に、流路33の各孔52に雌ねじ加工を施しても良い。この場合、冷却液を孔52の雌ねじ部52aまで導くことができる。このため冷却液との接触面積が増し、冷却効率をより高めることができる。
図13(B)に示すように、円周溝40の底部に複数の孔52を形成し、これら孔52の少なくともいずれか1つに、例えば、銅等の熱伝導率の高い材質からなる冷却用ピン53を埋め込んでも良い。このような冷却用ピン53を孔52に埋め込むことで、冷却効率を高めながら、冷却液が孔52に溜まるいわゆる冷却液溜まりを無くすように改善できると共に、ハウジング本体1Bの強度の補強も兼ねることができる。冷却液溜まりを無くすことで、冷却液を流路35に沿って円滑に循環させることができる。
【0040】
図13(C)に示すように、各孔52の少なくともいずれか1つの雌ねじ部52aに、雄ねじから成る冷却用ねじピン54を螺合しても良い。この場合、雌ねじ部52aと、冷却用ねじピン54の雄ねじ部との接触面積が増し、冷却効率をより高めることができる。
図13(D)に示すように、各円周溝40の底部に、さらに複数段の冷却用の細溝55を設けても良い。これら細溝55により冷却液との接触面積が増し、冷却効率を高めることができる。
図13(E)に示すように、前記細溝55、孔52、雌ねじ部52aを選択的に組み合わせて設けても良いし、図13(F)に示すように、前記細溝55、孔52、雌ねじ部52a、冷却用ねじピン54を選択的に組み合わせて設けても良い。これらの場合にも、冷却液との接触面積が増し、冷却効率をより高めることができる。
図2では、冷却液供給通路および冷却液排出通路を、閉塞部材に設けたが、これら冷却液供給通路および冷却液排出通路のいずれか一方または両方をハウジング本体に設けても良い。
各実施形態の流路の円周溝に代えて、螺旋溝にしても良い。
【符号の説明】
【0041】
1…ハウジング
1A,1B…ハウジング本体
2…回転軸
3…静圧気体軸受
4…モータ
10…ラジアル軸受
11…スラスト軸受
32,34…閉塞部材
33,35…流路
36,40…円周溝
37,41…連通路
38…冷却液供給通路
39…冷却液排出通路
42a,42b,50a,50b…シール部材
52…孔
52a…雌ねじ部
53…冷却用ピン
54…冷却用ねじピン
55…細溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、回転軸と、前記ハウジング内に設置されて前記回転軸を支持し同回転軸の軸心回りに回転自在に支持する静圧気体軸受と、前記回転軸を回転駆動するモータとを備えた静圧気体軸受スピンドルにおいて、
前記ハウジングのハウジング本体の表面と、このハウジング本体の表面に重ねられる閉塞部材との間に冷却液が循環する流路を形成し、前記閉塞部材とハウジング本体の重なり面に介在して前記流路を外部から密封するシール部材を、前記流路に対して内外に並ぶ2重構造にして設け、これら2つのシール部材を互いに材質の異なるものとしたことを特徴とする静圧気体軸受スピンドル。
【請求項2】
請求項1において、前記2つのシール部材は、それぞれ環状の弾性体から成る静圧気体軸受スピンドル。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記2つのシール部材のうち、流路に対し内側に設けられるシール部材は、冷却液に侵されない材質から成り、前記流路に対し外側に設けられるシール部材は、ニトリルゴムよりもアウトガスの発生が少ない材質から成る静圧気体軸受スピンドル。
【請求項4】
請求項3において、前記流路に対し内側に設けられるシール部材は、ニトリルゴムから成り、前記流路に対し外側に設けられるシール部材は、フッ素ゴムから成る静圧気体軸受スピンドル。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記ハウジング本体の表面に形成された溝と、この溝の開口を塞ぐ前記閉塞部材とで、前記流路を形成した静圧気体軸受スピンドル。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記閉塞部材の内面に溝を形成し、この閉塞部材の内面をハウジング本体の表面に重ねて前記溝の開口を塞ぐことで、前記流路を形成した静圧気体軸受スピンドル。
【請求項7】
請求項5において、前記溝の底部に複数の孔を形成した静圧気体軸受スピンドル。
【請求項8】
請求項7において、前記孔に雌ねじ加工を施した静圧気体軸受スピンドル。
【請求項9】
請求項7または請求項8において、前記溝に設けた孔に、前記ハウジングよりも熱伝導率の高い材質からなる部材を埋め込んだ静圧気体軸受スピンドル。
【請求項10】
請求項6ないし請求項9のいずれか1項において、前記溝に、複数の細溝をさらに形成した静圧気体軸受スピンドル。
【請求項11】
請求項6ないし請求項10のいずれか1項において、前記溝は複数の円周溝から成り、各円周溝を連通路で接続した静圧気体軸受スピンドル。
【請求項12】
請求項6ないし請求項10のいずれか1項において、前記溝は螺旋溝から成る静圧気体軸受スピンドル。
【請求項13】
請求項1ないし請求項12のいずれか1項において、前記静圧気体軸受は、ラジアル軸受とスラスト軸受とを有し、前記ラジアル軸受が設置されるハウジング本体および閉塞部材のいずれか一方は、これらハウジング本体および閉塞部材により形成される流路の下部から冷却液を供給する冷却液供給通路を有し、且つ、前記流路の上部から流路内の冷却液を排出する冷却液排出通路を有する静圧気体軸受スピンドル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2012−37014(P2012−37014A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179981(P2010−179981)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】