説明

静圧軸受を用いた移動案内装置

【課題】静圧軸受を含む軸受構造、及び静圧軸受へのオイルの供給構造を簡略化することができて、装置全体を小型に構成することができる静圧軸受を用いた移動案内装置を提供する。
【解決手段】案内体12上に静圧ポケット14A,14Bを介して移動体13を支持するとともに、駆動手段により移動体13を移動させるように構成する。駆動手段としてリニアモータ15を用いる。リニアモータ15の固定子15aと移動子15bとの間の吸引力あるいは反発力を静圧ポケット14Aの部分における案内体12と移動体13との接近方向への力として作用させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば工作機械において加工テーブルを移動案内する場合に適用される静圧軸受を用いた移動案内装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の静圧軸受を用いた移動案内装置としては、例えば特許文献1に開示されるような構成が提案されている。この従来構成においては、一軸線に沿って延びる断面ほぼ四角形状のスライド軸上に、断面ほぼ四角枠状のスライダが静圧軸受を介して非接触状態で移動可能に支持されている。スライド軸の両側面とスライダの両側内面との間には、スライダを移動させるためのコイル及びマグネットよりなる一対のリニアモータが設けられている。前記静圧軸受は、スライド軸の上下両外面とスライダの上下両内面との間、及びリニアモータの上下位置におけるスライド軸の両側面とスライダの両側内面との間にそれぞれ設けられている。そして、リニアモータにより、スライダがスライド軸に沿って軸線方向に移動されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−283835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、この従来構成においては、前記のようにスライド軸とスライダとの間の上下及び左右両側の各対向面間にそれぞれ静圧軸受が設けられている。このため、静圧軸受を用いた軸受構造が複雑になるとともに、及び静圧軸受へのオイルの供給構造も煩雑になって、装置全体が大型化するという問題があった。
【0005】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、静圧軸受を含む軸受構造、及び静圧軸受へのオイル等の潤滑流体の供給構造を簡略化することができて、装置全体を小型に構成することができる静圧軸受を用いた移動案内装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、この発明は、案内体上に静圧軸受を介して移動体を支持するとともに、駆動手段により前記移動体を移動させるようにした移動案内装置において、前記駆動手段としてリニアモータを用い、そのリニアモータの固定子と移動子との間の吸引力あるいは反発力を前記静圧軸受の部分における案内体と移動体との接近方向への力として作用させたことを特徴としている。
【0007】
従って、この発明の移動案内装置において、リニアモータの固定子と移動子との間の吸引力が、静圧軸受部分における案内体と移動体との接近方向への力として作用するように構成した場合には、リニアモータの設置位置と反対側における案内体と移動体との間の静圧軸受を省略することかできる。また、固定子と移動子との間の反発力が静圧軸受部分における案内体と移動体との接近方向への力として作用するように構成した場合には、リニアモータの設置位置側における案内体と移動体との間の静圧軸受を省略することかできる。よって、静圧軸受を含む軸受構造、及びその静圧軸受への潤滑流体の供給構造を簡略化することができて、装置全体を小型に構成することができる。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、この発明によれば、静圧軸受への潤滑流体の供給構造を簡略化することができて、装置全体を小型に構成することができるという効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1実施形態の静圧軸受を用いた移動案内装置を示す断面図。
【図2】第2実施形態の静圧軸受を用いた移動案内装置を示す断面図。
【図3】第3実施形態の静圧軸受を用いた移動案内装置を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下に、この発明を工作機械の加工テーブルの移動案内装置に具体化した第1実施形態を、図1に従って説明する。
【0011】
図1に示すように、機台11上には断面ほぼ四角形状の案内体12が、一軸線に沿って図示紙面と直行する方向へ延びるように配置されている。案内体12上には加工テーブルを構成する移動体13が、その下面の凹部13aにおいて複数の静圧軸受のポケット14A,14Bから溢出される油膜を介して非接触状態で移動可能に支持されている。案内体12の上面と移動体13の下面との間には、移動体を移動させるための駆動手段としてのリニアモータ15が配置されている。このリニアモータ15は、案内体12側に設けられたコイルよりなる固定子15aと、移動体13側に設けられたマグネットよりなる移動子15bとから構成されている。
【0012】
前記複数の静圧ポケット14A,14Bのうちで一対の静圧ポケット14Aは、リニアモータ15の両側において、案内体12の上面と移動体13の下面との間に配置されている。また、残りの一対の静圧ポケット14Bは、案内体12の両側外面と移動体13の両側内面との間に配置されている。そして、前記リニアモータ15の固定子15aと移動子15bとの間の吸引力が、静圧ポケット14Aの部分における案内体12と移動体13との接近方向への力として作用するように構成されている。これにより、リニアモータ15の設置位置と反対側において、案内体12の下面と移動体13との間に静圧軸受を設けることが省略されている。
【0013】
前記リニアモータ15の固定子15aと一対の静圧ポケット14Aとの間において、案内体12の上面には一対のオイル排出溝16が形成されている。そして、静圧ポケット14Aから溢出するオイルがこのオイル排出溝16を通して排出される。これにより、リニアモータ15側へのオイルの浸入が抑制されるようになっている。
【0014】
以上のように構成された実施形態の工作機械は以下のように作用する。
すなわち、工作機械の作動時には、潤滑オイルが図示しない油圧供給源から静圧ポケット14A,14Bに供給されて、案内体12と移動体13との間に油膜が形成される。そして、リニアモータ15の作動にともない、固定子15aと移動子15bとの間の吸引力により、前記油膜が充分な薄さに形成される。従って、移動体13が静圧を介して低負荷で支持されて、スムーズかつ高精度で移動されるとともに、油膜が極めて薄く形成されることから、移動体13の位置精度を適切に確保できる。
【0015】
従って、この実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1) この移動案内装置においては、案内体12上に静圧ポケット14A,14Bを介して移動体13が支持されるとともに、駆動手段としてのリニアモータ15により移動体13が移動されるようになっている。そして、リニアモータ15の固定子15aと移動子15bとの間の吸引力あるいは反発力が、静圧ポケット14Aの部分における案内体12と移動体13との接近方向への力として作用するように構成されている。
【0016】
このため、リニアモータ15の固定子15aと移動子15bとの間の吸引力が、静圧ポケット14Aの部分における案内体12と移動体13との接近方向への力として作用するように構成した場合には、リニアモータ15の設置位置と反対側における案内体12と移動体13との間の静圧軸受を省略することかできる。また、固定子15aと移動子15bとの間の反発力が静圧軸受の部分における案内体12と移動体13との接近方向への力として作用するように構成した場合には、リニアモータ15の設置位置側における案内体12と移動体13との間の静圧軸受を省略することかできる。よって、静圧ポケット14A,14Bを含む軸受構造、及びその静圧ポケット14A,14Bへのオイルの供給構造を簡略化することができて、装置全体を小型に。
【0017】
なお、図1の静圧ポケット14Aと反対向きの静圧ポケットを設けることにより、リニアモータ15の吸引力を利用しないことも考えられる。しかし、このようにすれば、静圧ポケットの数が増えるとともに、その静圧ポケットの周囲に油膜を形成する部分が必要になり、構造が複雑になるとともに、大型化する。
【0018】
(2) この移動案内装置においては、油膜が極めて薄く形成されることから、移動体13の位置精度を適切に確保でき、ワークに対する高精度加工が可能になる。
(3) この移動案内装置においては、リニアモータ15の固定子15aと静圧ポケット14Aとの間にはオイル排出溝16が形成され、静圧ポケット14Aから溢出するオイルがこのオイル排出溝16を通して排出される。従って、リニアモータ15側へのオイルの浸入が抑制され、リニアモータ15の機能に問題が生じることが抑制される。
【0019】
(第2実施形態)
次に、この発明を具体化した静圧軸受を用いた移動案内装置の第2実施形態を、前記第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0020】
この第2実施形態においては、図2に示すように、機台11上に断面ほぼ逆L字状をなす一対の案内体12が間隔をおいて延長配置されている。移動体13の下面には、各案内体12に係合可能な断面ほぼ逆L字状をなす一対の溝部13bが形成されている。各案内体12の上下両面と移動体13における各溝部13bの対向内面との間には、静圧ポケット14Aが配置されている。一方の案内体12の側面と移動体13における一方の溝部13bの内側面との間には、静圧ポケット14Bが配置されている。
【0021】
前記静圧ポケット14Bと反対側において、他方の案内体12の側面と移動体13における他方の溝部13bの内側面との間には、固定子15a及び移動子15bよりなるリニアモータ15が配置されている。そして、このリニアモータ15の固定子15aと移動子15bとの間の反発力が、静圧ポケット14Bの部分における案内体12と移動体13との接近方向への力として作用するように構成されている。これにより、リニアモータ15の設置位置側において、案内体12の側面と移動体13の溝部13bの内面との間に静圧軸受を設けるのが省略されている。
【0022】
従って、この第2実施形態においても、前記第1実施形態における(1)及び(2)に記載の効果とほぼ同様の効果を得ることができる。
(第3実施形態)
次に、この発明を具体化した静圧軸受を用いた移動案内装置の第3実施形態を、前記第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0023】
この第3実施形態においては、図3に示すように、機台11上に円筒状の第1案内体12Aと円柱状の第2案内体12Bとが同心上に配置されている。第1案内体12A上において第2案内体12Bには、回転テーブルを構成する円板状の移動体13が下面のボス部13cにおいて軸線の周りで回転可能に嵌挿支持されている。第1案内体12Aの上面と移動体13の下面との間には、静圧ポケット14Aが円環状に配置されている。第2案内体12Bの外周面と移動体13のボス部13cの内周面との間には、円環状の静圧ポケット14Bが配置されている。
【0024】
前記静圧ポケット14Aの内側において、第1案内体12Aの上面と移動体13の下面との間には、固定子15a及び移動子15bよりなるリニアモータ15が円環状に配置されている。そして、このリニアモータ15の固定子15aと移動子15bとの間の吸引力が、静圧ポケット14Aの部分における案内体12と移動体13との接近方向への力として作用するように構成されている。これにより、リニアモータ15の設置位置と反対側において、第1案内体12Aの下面と移動体13との間に静圧軸受を設けるのが省略されている。
【0025】
従って、この第3実施形態においても、前記第1実施形態における(1)に記載の効果とほぼ同様の効果を得ることができる。
(変更例)
なお、この実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
【0026】
・ 前記各実施形態において、案内体12,12A,12B及び移動体13の形状構成を任意に変更すること。
・ 前記各実施形態の構成を、工作機械の加工用テーブルとは異なった移動体の移動案内装置に適用すること。
【0027】
・ 潤滑を付与する媒体として、オイルに代えてエアを用いること。
【符号の説明】
【0028】
12…案内体、12A…第1案内体、12B…第2案内体、13…移動体、14A,14B…静圧軸受、15…駆動手段としてのリニアモータ、15a…固定子、15b…移動子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
案内体上に静圧軸受を介して移動体を支持するとともに、駆動手段により前記移動体を移動させるようにした移動案内装置において、
前記駆動手段としてリニアモータを用い、そのリニアモータの固定子と移動子との間の吸引力あるいは反発力を前記静圧軸受の部分における案内体と移動体との接近方向への力として作用させたことを特徴とする静圧軸受を用いた移動案内装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−50154(P2013−50154A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187819(P2011−187819)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000150604)株式会社ナガセインテグレックス (35)
【Fターム(参考)】