説明

静電チャックおよびその製造方法。

【課題】
給電端子付近での電極および誘電層におけるクラック発生がない静電チャックの給電端子形成方法を提供する。
【解決手段】
金属層からなる電極が板状の絶縁材料の中に埋設され、その一表面は吸着面であり、その裏面には前記電極に達する端子を挿入するための端子孔が形成されており、前記端子孔には前記電極に接する給電端子Aと、給電端子Aと空間部を設けて位置する給電端子Bが配置されており、給電端子AおよびBの外周面を一体の導電性ペーストで囲繞し端子孔との間を満たしており、給電端子Bの給電端子Aと対向しない側の面の面積が、給電端子Aの給電端子Bに対向した側の面積よりも大きい静電チャック。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、半導体製造装置において各種電気絶縁性基板を静電吸着する用途に用いられる静電チャックとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置用のパターニング用マスクやLEDなどの絶縁材料を加工するプロセスにおいて、これら絶縁材料を固定する方法として、例えば、静電チャックの吸着面上に対して、不均一な電界を形成させることにより発生するグラディエント(Gradient)力を利用する方法がある。
【0003】
この静電チャックの基本的な構造は、土台となる基材部と、その上に吸着力を発生させる電極と、さらにその上に吸着物を保持する誘電体層とからなる。このうち、電極に電流を印加するため、基材部に孔を開け、給電用の金属等の端子を挿入して、電極に印加する給電端子部の構造として、いくつかの方法がある。
【0004】
例えば、特許文献1には、内部電極が埋設されているセラミック部品において、熱サイクルに曝露される環境下でも、給電端子の脱落や内部電極との導通不良が発生しないセラミック部品用の給電端子の接合構造として、給電端子が表面にニッケル被覆膜を備えたモリブデンまたはタングステンからなり、かつ、給電端子が内部電極に対してロウ付けにより接合されているという技術が開示されている。
【0005】
特許文献2には、下部絶縁層、電極層及び表面絶縁誘電層にひび割れが発生し難い静電チャックの給電構造として、金属基盤の上下面間を貫通する貫通孔と、この貫通孔内に配設され金属基盤の下面側から供給された電圧を上面側に積層された電極層に供給する給電端子と、電気絶縁性材料で形成され上記貫通孔の内壁と給電端子との間を絶縁すると共に、上記給電端子を保持する絶縁保持部材と、から構成され、この給電端子が、金属基盤の上面側に突出する給電側端部を有し、この給電側端部の先端が上記電極層と下部絶縁層との界面より電極層側で上記電極層と表面絶縁誘電層との界面以下に位置する、という技術が開示されている。
【0006】
特許文献3には、表裏を有する板状ガラスの内部に金属層が埋設され、金属層が電極であり、金属層からガラス表面までの距離が短い側が誘電層、金属層からガラス表面までの距離が長い側が基材層であり、誘電層の厚さが40μm以上300μm以下であるガラス製静電チャックにおいて、少なくとも誘電層がシリカガラスからなる基材に加工した給電端子用穴内に、導電ペーストを用いて、金属層に導線を固定するという給電方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−19480号公報
【特許文献2】WO2008/035395号公報
【特許文献3】特開2009−32718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の技術は、電極と端子の接合にロウ付けを用いているが、この方法では、ロウ付け時800℃から1000℃に加熱、その後冷却するので、異なる基材の熱膨張係数の差で基材内部に応力が残留し、電極と端子の接合部付近にクラックが発生するという不具合があった。
【0009】
特許文献2の技術は、給電端子の給電側端部を、先端に所定の面積を持つ頂面を有すると共に、先端に向かって漸次縮径する突起状に形成することで、下部絶縁層にかかる応力の分散が可能になる。そのため、給電構造の熱勾配による熱負荷や、熱サイクルによる熱負荷による表面絶縁誘電層、電極層及び下部絶縁層でのひび割れが抑制できる。よって、静電チャックの温度特性の局部的劣化やパーティクルの発生等の問題を、可及的に回避できる点が特徴であるといえる。しかしながら、特許文献2では、溶射という方法を用いているので、製造の難易度が高く、また製造コストも増加するという問題があった。
【0010】
特許文献3の技術は、石英製の静電チャックにおける電極と給電端子の接合方法として、導電ペーストを用いて金属層に導線を固定するものである。しかしこの方法では、給電端子用の孔を開けた基材層に電極と誘電層を形成したのち、誘電層を所定の厚さである40μmまで研削する工程において、電極が孔に面している箇所に局所的に応力が集中し、クラックが発生するという問題があった。これは、誘電層が薄いことにより起こる問題である。
【0011】
吸着力向上の要求に伴い、静電チャックの誘電層の厚さは、さらに薄くすることが求められている。しかし、特にシリカガラスのような非常に脆い材料の静電チャックにおいて、誘電層を薄くした静電チャックを製造することが、従来は困難であった。
【0012】
本発明は、かかる課題を鑑みてなされたもので、特に誘電層の厚さが薄い静電チャックにおいて、静電チャックの給電端子付近の電極や誘電層において、応力や負荷が軽減されてクラックの発生が抑えられた、高品質の静電チャックとその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る静電チャックは、金属層からなる電極が板状の絶縁材料の中に埋設された静電チャックであって、一表面は吸着面であり、その裏面には前記電極に達する端子を挿入するための端子孔が形成されており、前記端子孔には前記電極に接する給電端子Aと、前記給電端子Aと空間部を設けて位置する給電端子Bが配置されており、給電端子Aおよび給電端子Bの外周面を一体の導電性ペーストで囲繞し前記端子孔との間を満たしており、給電端子Bの給電端子Aと対向しない側の面の面積が、給電端子Aの給電端子Bに対向した側の面積よりも大きいことを特徴とする。このような構成をとることで、誘電層の厚さが薄い静電チャックにおいて、給電端子とその付近の誘電層にかかる応力や負荷を低減することが可能となる。
【0014】
また、本発明に係る静電チャックは、前記吸着面に対して鉛直方向における前記空間部の間隔は、10μm以上1000μm以下であることが好ましい。このような構成をとることで、誘電層の厚さが薄い静電チャックにおいて給電端子とその付近の誘電層にかかる応力や負荷に対する強度を、より効果的に高めることが可能となる。
【0015】
本発明に係る静電チャックは、前記誘電層および前記基材層が、いずれもシリカガラスからなることが好ましい。このような構成をとることで、特に半導体製造装置に好適に用いることが可能なシリカガラスを適用する場合においても、誘電層の厚さが薄い静電チャックの製造時において、給電端子付近の誘電層にかかる応力や負荷を低減することが可能となる。
【0016】
そして、本発明に係る静電チャックの製造方法は、誘電層を形成する板状の絶縁材料の一面または基材部を形成する他の板状の絶縁材料の一面のいずれかに金属材料による電極パターンを形成して誘電層を作製する工程と、前記他の板状の絶縁材料に対して端子孔を形成して前記基材部を作製する工程と、前記誘電層と前記基材部を貼り合わせて静電チャック本体を作製する工程と、前記静電チャック本体の前記端子孔に導電性ペーストと給電端子を挿入し前記給電端子を固定する工程と、からなることを特徴とする。このような構成をとることで、特に半導体製造装置に好適に用いることができるシリカガラスからなる静電チャックを、効率よく製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、誘電層の厚さが薄い静電チャック、好適にはシリカガラスからなる誘電層の厚さが10μmから200μmの静電チャックにおいて、給電端子とその付近の誘電層にかかる応力や負荷を低減できる、静電チャックとその製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面をもとに本発明の詳細な内容を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る、静電チャックの給電端子部とその周辺の形状を断面方向から示す概念図である。なお、図1は、本発明の各構成要件を説明する為の概念図であるので、実際の静電チャックにおける寸法比とは異なる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る、静電チャックの給電端子部とその周辺の形状を断面からみた概念図。
【図2】本発明の一実施形態に係る、静電チャックの給電端子部にかかる応力が基材部に伝播される状態を模式的に示した概念図。
【図3】本発明の他の実施形態に係る、静電チャックの給電端子部とその周辺の形状を断面からみた概念図。
【図4】本発明の一実施形態に係る、静電チャックの電極パターンを上面からみた概念図。
【0020】
本発明に係る静電チャックは、金属層からなる電極3が板状の絶縁材料の中に埋設された静電チャックであって、一表面は吸着面21であり、その裏面22には前記電極3に達する端子を挿入するための端子孔4が形成されており、端子孔4には電極3に接する給電端子A(図1では51)と、給電端子Aと空間部7を設けて位置する給電端子B(図1では52)が配置されており、給電端子Aおよび給電端子Bの外周面を一体の導電性ペースト6で囲繞して端子孔4との間を満たしており、給電端子Bの給電端子Aと対向しない側の面の面積が、給電端子Aの給電端子Bに対向した側の面積よりも大きい。
【0021】
本発明に係る静電チャックを、図1に示すように断面から見ると、静電チャック本体1が、絶縁材料からなる誘電層11と、この誘電層を支持するために設けられ絶縁材料からなる基材層12とから構成されている。ここで、誘電層側の主面が吸着面21、基材層側の主面が裏面22である。そして、誘電層11と基材層12の間に形成され、電気を印加することで吸着面に吸引力を発生させる金属層の電極3が埋設されている。また、電極3に電気を供給する給電端子5と、この給電端子5を挿入するために基材部12に設けられた端子孔4が形成されている。
【0022】
誘電層11は、絶縁材料から構成され、静電チャックに用いることのできる各種公知の材料が適用できる。例えば、窒化アルミニウム、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、シリカガラスなどが挙げられる。使用環境等の要因で、高純度部材であることを要求される場合は、高純度のシリカガラスが好適に用いられる。
【0023】
基材層12は、同じく絶縁材料から構成され、静電チャックに用いることのできる各種公知の材料が適用できる。例えば、窒化アルミニウム、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素が挙げられ、好適には、高純度のシリカガラスが用いられる。また、通常は、基材層12と誘電層11には同じ材料を適用するが、異なる材料であっても差し支えない。特にシリカガラスを適用する場合は、各種添加物を適量添加してその物性を変化させ、誘電層11と基材層12のそれぞれの部位で要求される物性に応じた材料にしてもよい。
【0024】
電極3は、静電チャックに対して、吸着力としてクーロン力、ジョンソン・ラーベック力、もしくはグラディエント力を発生させるために形成されている。電極3は、吸着面21に対して所定の幅と、吸着面21の深さ方向に対して所定の厚さを有した帯状または箔状の金属材料からなる。そして、この電極3同士が平面方向に対して一定の間隔で配置された各種パターン形状となっており、広い面積で吸着物を強力に吸着保持できる。この電極3の幅、厚さ、間隔は、要求される静電チャックの仕様に応じて、適時設計することができる。なお、誘電層11の厚さとは、この電極3のパターン全体を包含する平面を仮想し、この平面の吸着面側の面から吸着面21までの平均間隔を示す。平均間隔は特に限定されないが、一例として、中心部と外周10mm内側4点からなる面内5点の平均値で示すことが出来る。
【0025】
電極3の材料には、静電チャックに適用が可能な公知の材料が用いられる。一例としてNi、Mo、W、PtおよびTiのうちの、いずれか一つからなる単一層、または、これらのうちの2種以上の合金からなる単一層があるが、さらには、2種以上の金属からなる多層構造でもよい。
【0026】
基材層12には、電極3に達する給電端子5を挿入する端子孔4が形成されている。端子孔4は、裏面22から電極3の一表面まで開口した状態のものであるが、ここで、開口するとは、基材層12の裏面側に孔が空けられ、基材層12の厚さ方向にほぼ垂直に開口部が形成されていることを示すものとする。端子孔4の形状は、後述する給電端子5の外形状にほぼ準じた内面形状を有している。また、やはり後述する導電ペースト6が、端子孔4の内面と給電端子5の外表面に満たされて、端子孔4と給電端子5が接着,固定された状態となっている。
【0027】
そして、端子孔4は、電極3と接する側と裏面22側とで吸着面21方向に対する断面積が異なるように設計された端子孔41と端子孔42とからなる。このとき、端子孔41は、平面方向に対して電極3の一表面で完全に覆われている、すなわち端子孔41の開口面積が、電極3との接触面積より小さいことが好ましい。端子孔41の開口面積が電極3の接触面積より大きいと、あらかじめ空けられた端子孔41と電極3とを圧着する際に、電極3の一部が剥離し、電極3と給電端子Aとの電気的導通が取れなくなるおそれがあるので、好ましくない。
【0028】
ここで、端子孔4を吸着面21の平面方向からみた形状は、加工のしやすさから、円形状が好適に用いられる。しかしながら、必ずしもいわゆる完全な円である必要はなく、例えば、楕円形状、もしくは角の取れた多角形でもよい。
【0029】
この端子孔4には、電極3に電気を供給する給電端子5が配置されており、その給電端子5は、給電端子A(図1では51)と空間部7を設けて位置する給電端子B(図1では52)から構成されている。そして、この給電端子5の外表面を一体の導電性ペースト6で囲繞し端子孔4との間を満たしている。このような構造をとることで、電極3の一表面と給電端子Aの一端面が接し、導電ペースト6と給電端子Bを介して、給電用導線8から電極3に電流が印加される。
【0030】
給電端子5の材料は、静電チャックに適用が可能な公知の材料が用いられ、Ni、Mo、W、PtおよびTiのうちの、いずれか一つ、または、これらのうちの2種以上の合金、さらには、2種以上の金属からなる複合構造でもよい。なお、給電端子Aと給電端子Bは、同じ材料である必要はなく、異なる材料であってもよい。
【0031】
さらに、給電端子Aと給電端子Bとの間には、空間部7が形成されている。すなわち、給電端子Aと給電端子Bの対向する端面とほぼ同じ形状、面積を有するとともに、吸着面21に対して鉛直方向においてほぼ一定の間隔をもった空間部7が形成されている。これは、給電端子Aと給電端子Bを一旦接した状態からわずかに離して、いわゆるギャップ、隙間が形成された、というイメージに近いものといえる。
【0032】
本発明におけるこの空間部7は、給電端子Bから吸着面21に対して鉛直方向に加えられた負荷が、給電端子Aへ伝播するのを防止する作用を有する。図2はその応力の伝播する様子を模式的に示した概念図である。図2に示すように、給電端子Bから吸着面21に対して鉛直方向に加えられた負荷101は、給電端子Aと給電端子Bが離れているので、給電端子Aには伝播しない。この負荷101により給電端子B内に発生する応力102は、基材部12にのみ伝播する。また、給電端子Bが押し上げられて若干上方に移動したとしても、この空間部7の存在により、給電端子Bと給電端子Aとが接触せず、応力102はやはり給電端子Aには伝播しない。
【0033】
そして、端子孔4と給電端子5との隙間には、導電性ペースト6が充填されている。導電性ペースト6は、給電端子5と電極3の間における通電の確保と、給電端子5と基材部12とを固定する機能をもつ。なお、給電端子Aと給電端子B間の通電も、導電ペースト6で確保されているので、給電端子Aと給電端子Bが直接接していなくても、この点で特に問題はない。
【0034】
導電性ペースト6には、例えば、樹脂に金属等の導電性材料を混合したものが挙げられるが、格別限定されるわけではなく、公知の材料を広く適用できる。
【0035】
給電端子Aと給電端子Bは、給電端子Bの給電端子Aと対向しない側の面の面積が、給電端子Aの給電端子Bに対向した側の面積よりも大きい。これにより、給電端子Bにかかる負荷による応力を、給電端子Aにではなく基材層12へ伝播させることができる。
【0036】
図2において、吸着面21に対して鉛直方向の力101が、給電端子Bに加えられると、給電端子B内を応力102が伝播し、端子孔41と端子孔42の吸着面の平面方向における境界面103において、給電端子Bが押し上げられて、基材層12の端子孔41より広い箇所と接するので、応力102は基材層12へのみ伝播される。すなわち、給電端子Bの給電端子Aと対向しない側の面の面積が、給電端子Aの給電端子Bに対向した側の面積よりも大きいという構成は、面積の大小関係を規定することで、このように応力が伝播する状態を作り出すものである。
【0037】
これにより、給電端子Aにかかる負荷が原因で発生していた、電極3の破損、さらには電極3から伝播される応力による誘電層11への亀裂発生が回避される。特に、誘電層11が非常に薄い場合は、電極3と誘電層11との界面に発生する応力の影響が非常に大きいので、本発明により、この応力の発生を極めて効果的に抑制できる。
【0038】
なお、給電端子Aと給電端子Bの端面の面積の比を、図1で示す51a:52aでみたとき、1:5〜1:225の範囲が好ましく、1:5〜1:150がさらに好ましい。この比が小さすぎると、給電端子Bと基材層12との接触面積が少なくなり、この部位における単位面積当たりの応力が高くなり、過大な負荷が印加されたとき基材部12に損傷が発生する懸念がある。しかし、この比が大きすぎると、本発明の効果にほとんど寄与しない一方で、コスト高や静電チャックの設計自由度の制限が厳しくなる、あるいは設計難易度が上がることが懸念されるので、こちらも好ましくない。
【0039】
本発明に係る端子孔4と給電端子5の形態は、その一態様として図1に示すような、断面形状が1つの段差からなる形状を例示したが、特にその形状は限定されない。例えば、図3(1)に示すような多段形状、図3(2)に示すような連続した曲面で形成された形状、図3(3)に示すような直線形状でもよい。また、給電端子Aの断面形状も、特に限定されるものではなく、例えば、図3(4)に示すような、給電端子Aの上下の端面の面積が異なっていてもよい。もちろん、給電端子Aの断面形状が給電端子Bの他の例で明示したような、曲線形状であってもよい。
【0040】
なお、給電端子Bには、空間部7と裏面22側が開空間になるように、貫通孔9を設けることもできる。この貫通孔9は、電極3付近に残る隙間に溜っているガスを静電チャック1の外部に逃がす役割をもつ。ガスが溜ると、特に真空下で静電チャックを使用した場合において、静電チャック1の外部との圧力差が発生して、滞留ガスが膨張して基材層12への亀裂発生や電極3の剥離の原因になるので、好ましいものではない。
【0041】
また、本発明に係る静電チャックにおいて、前記吸着面21に対して鉛直方向における前記空間部7の間隔は、10μm以上1000μm以下であることが好ましい。10μm未満では、導電ペースト6が介在して応力が伝播される影響が懸念されるほどに間隔が狭く、必ずしも好ましいものとはいえない。しかし、1000μmを越えると、本発明の効果には影響ない一方で、空間部7の側壁に塗布した導電性ペースト6を介して給電端子Aと給電端子Bとの電気的導通が損なわれるおそれがあり、これも好ましくない。
【0042】
また、本発明に係る静電チャックは、前記誘電層11および前記基材層12が、いずれもシリカガラスからなることが好ましい。シリカガラスは高純度のものが作製でき、加工性にも優れているので、特に半導体製造装置への適用により好適である。あるいは、使用目的に応じて、シリカガラスに各種金属元素を適時添加したものを用いてもよい。
【0043】
本発明に係る静電チャックの製造方法の一形態は、誘電層を形成する板状の絶縁材料の一面または基材部を形成する他の板状の絶縁材料の一面のいずれかに金属材料による電極パターンを形成して誘電層を作製する工程と、前記他の板状の絶縁材料に対して端子孔を形成して前記基材部を作製する工程と、前記誘電層と前記基材部を貼り合わせて静電チャック本体を作製する工程と、前記静電チャック本体の前記端子孔に導電性ペーストと給電端子を挿入し前記給電端子を固定する工程と、からなる。なお、これらの各工程は、格別特殊な方法を必要とするものではなく、使用する材料や使用目的に応じて、広く公知の方法が適用できる。
【0044】
以上のとおり、本発明に係る静電チャックは、給電端子とその付近の誘電層にかかる応力や負荷が軽減されることで、誘電層から基材層へ伝わる負荷を抑えることができる。これにより、基材層のクラック発生も低減される。また、特に誘電層の厚さが薄い場合において、クラックや亀裂の発生が抑制された静電チャックを提供することが可能となる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の好ましい実施形態を、図1を用いて説明するが、本発明はこの実施例により限定されるものではない。
(実験1)
【0046】
誘電層11として、直径150mm、平均厚さ5mmのシリカガラス板を用意し、この上面の直径148mmの範囲に対して、Mo金属膜を用い、円形状のくし型パターンの双極型の電極3を真空蒸着法により形成した。電極3のパターンを上面から見た図を図4に示す。電極3の膜厚は、平均で0.3μm、電極3の幅は平均で2mm、電極3間の間隔は平均で0.5mmである。次に、基材層12として、直径150mm、平均厚さ5mmのシリカガラス板を用意した。電極パターンの最外部の電極部に相当する2箇所に、真円の端子孔4を形成した。そして、裏面22に直径5.1mmの端子孔42と、裏面22から鉛直方向4mmの位置において、直径1.1mmの端子孔41からなる端子孔4のサンプル(実施例1)と、裏面22側から鉛直方向の全域において、直径5.1mmの端子孔4のみからなるサンプル(比較例1)を、それぞれ作製した。
【0047】
次に、電極パターンを形成した誘電層11と基材層12を重ね合わせ、10Paの減圧下で、1300℃、20MPaの加圧融着を実施し、一体化させることで電極が埋設された静電チャックの母体を得た。そして、この静電チャックの母体の誘電層11の平均厚さが150μmになるように研削、研磨を行った。そして、端子孔4の形状に合わせて加工された直径1mm、長さ0.95mmのMo製の円柱状の給電端子Aと、中心に直径1mmの貫通孔を付した直径5mm、長さ5mmのMo製の給電端子Bをそれぞれ準備し、端子孔4の内壁面と端子孔4に露出した電極3の一面に対して、ドータイト D-753(藤倉化成)の導電ペーストを塗布してから、空間部7の間隔が10μmとなるように、給電端子Aと給電端子Bを続けて挿入し、固定した。このようにして実施例1の静電チャックを得た。また、中心に直径1mmの貫通孔を付した端子孔の形状に合わせて加工された直径5mm、長さ6mmのMo製の円柱状の給電端子を準備し、これ以外の条件、方法は実施例1と同じにして、比較例1の静電チャックを得た。
【0048】
評価方法は、裏面22からはみ出した各サンプルの給電端子Bに対して、裏面22の鉛直方向に0.53kg/mmの負荷を印加した。具体的には、給電端子Bに板を介して10kgの重しを載せた。その後、各サンプルの給電端子5とその近辺(約5mm径の範囲)について、暗視野スポット灯下にて、上面、および下面から目視で観察し、誘電層11または基材層12へのクラック発生の有無、および電極3への亀裂発生の有無を確認した。
【0049】
評価の結果、実施例1では、誘電層、基材層へのクラック発生、亀裂発生のいずれも見られなかったが、比較例1では、クラック発生、亀裂発生の両方が確認された。
(実験2)
【0050】
実施例1と同様にして誘電層11を作製した。次に、基材層12として、実施例1と同様のものを準備し、裏面22から鉛直方向4mmの位置において、直径1.1mmの端子孔41からなる端子孔4と直径1mmの給電端子Aという条件は固定し、裏面22に位置する端子孔42と、給電端子Bの直径を数種類振ったサンプルを作製した。その内容を表1に示す。なお、表1に示した条件以外の製造条件、および評価方法は、すべて実施例1に準拠した。
【0051】
【表1】

【0052】
表1の結果から、本発明の実施範囲においては、一部を除いて、誘電層、基材層へのクラック発生、電極への亀裂発生のいずれも見られず、実施例1と同等の結果が得られた。しかしながら、給電端子の端面の面積比1:5を外れた場合、すなわち1:2の場合は、実施例1に比べると、軽微ながら誘電層へのクラック発生が確認された。また、面積比1:225を外れた場合、すなわち1:300と1:500のものは、誘電層、基材層へのクラック発生、電極への亀裂発生のいずれも見られなかったものの、電極の設計が困難である点が懸念された。従って、本発明のより好ましい実施範囲のものに比べると、これらはやや見劣りするものであった。
(実験3)
【0053】
実施例1のサンプルの作製条件を用いて、給電端子Aの長さを変更することで、空間部7の間隔を表2の内容で変更したサンプルを作製し、実験1と同様にして、静電チャックの製造と評価を行った。
【0054】
【表2】

【0055】
表2の結果から、本発明の好ましい実施範囲では、実施例1と同等の結果が得られた。しかしながら、空間部7の間隔が10μmを下回るもの、すなわち5μmのものでは、電極3に程度の軽い亀裂がみられた。また、空間部7の間隔が1000μmを超えるもの、すなわち2000μmのものでは、空間の側壁に塗布した導電性ペーストを介して給電端子Aと給電端子Bとの電気的導通を損なうおそれがあった。これらは、本発明のより好ましい実施範囲と比較すると、やや見劣りするものであった。
【0056】
以上、本発明にかかる静電チャックにおいては、特に誘電層の厚さが薄い静電チャックにおいて、給電端子とその付近の誘電層にかかる応力や負荷を効率的に分散させることでき、薄い誘電層を安定して得られる静電チャックとその製造方法を提供することが可能なる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係る静電チャックは、例えば半導体製造装置において、各種電気絶縁性基板を静電吸着する用途に好適に用いられる。また、本発明に係る静電チャックの給電端子部の構造は、絶縁物の内部に電気を供給するための給電部を設ける構造のもの、例えばヒーター、センサーなどにも、好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0058】
1…静電チャック本体、11…誘電層、12…基材層、21…吸着面、22…裏面、3…電極、4…端子孔、41…端子孔1、42…端子孔2、5…給電端子、51…給電端子A、52…給電端子B、51a…給電端子Aの給電端子Bと対向した側の端面部、52a…給電端子Bの給電端子Aと対向しない側の端面部、6…導電性ペースト、7…空間部、8…給電用導線、9…貫通孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属層からなる電極が板状の絶縁材料の中に埋設された静電チャックであって、一表面は吸着面であり、その裏面には前記電極に達する端子を挿入するための端子孔が形成されており、前記端子孔には前記電極に接する給電端子Aと、前記給電端子Aと空間部を設けて位置する給電端子Bが配置されており、給電端子Aおよび給電端子Bの外周面を一体の導電性ペーストで囲繞し前記端子孔との間を満たしており、給電端子Bの給電端子Aと対向しない側の面の面積が、給電端子Aの給電端子Bに対向した側の面積よりも大きいことを特徴とする静電チャック。
【請求項2】
前記吸着面に対して鉛直方向における前記空間部の間隔は、10μm以上1000μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の静電チャック。
【請求項3】
前記誘電層および前記基材層が、いずれもシリカガラスからなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の静電チャック。
【請求項4】
誘電層を形成する板状の絶縁材料の一面または基材部を形成する他の板状の絶縁材料の一面のいずれかに金属材料による電極パターンを形成して誘電層を作製する工程と、前記他の板状の絶縁材料に対して端子孔を形成して前記基材部を作製する工程と、前記誘電層と前記基材部を貼り合わせて静電チャック本体を作製する工程と、前記静電チャック本体の前記端子孔に導電性ペーストと給電端子を挿入し前記給電端子を固定する工程と、からなることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の静電チャックの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−39011(P2012−39011A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179685(P2010−179685)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】