説明

静電チャックおよびその製造方法

【課題】
ポストファイヤー型の静電チャックには、電極がチャンバー内雰囲気に露出するため、チャンバー内雰囲気と気密隔離することが困難であるという問題と、電極が双極の場合、電極間が空隙になるために電極間で放電がおこり易くなるという問題がある。
【解決方法】
セラミックスからなる二枚の絶縁層の間に内部電極層を挟んで接着した構造の静電チャックの製造方法であって、二枚の絶縁層の間に内部電極層を挟んで二枚の絶縁層を接着する際に、二枚の絶縁層に挟まれた空間の中の、内部電極層の存在しない空間部分に、少なくとも上下の面が接着性材料からなる電気絶縁性接合材を同時に挟んで、二枚の絶縁層の各々に、内部電極層および電気絶縁性接合材を同時に接着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、後焼結型(ポストファイヤー型)の静電チャックおよびその製造方法に関し、さらに詳しくは、後焼結型の静電チャックの電極層とチャンバー内雰囲気との気密隔離性、電極層間の耐絶縁破壊性および吸着面の温度分布特性に優れた新しい静電チャックおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウエハー等の吸着、固定に使用する静電チャックには、同時焼結型(コファイヤー型)の静電チャックが多く使用されている。
同時焼結型の静電チャックは、電圧を印加する電極が誘電体セラミックスの中に包み込まれて外部雰囲気からシールされた構造からなり、誘電体セラミックスを焼成するときに電極も同時に一体焼成されるものである。
【0003】
したがって、同時焼結型の静電チャックは、電極以外が誘電体セラミックス材料からなるために、底面から静電チャックを冷却した時、吸着面をムラ無く均一に冷却できる利点がある。また、電極がチャンバー内雰囲気から完全にシールできる点でもきわめて優れた構造である。
【0004】
しかし、同時焼結型の静電チャックは、同時焼成時にセラミックスが変形(反り)、収縮するために、中央部と中心部で、表面から電極までの距離に違いが発生するという問題がある。このように、表面から電極までの距離に違いが発生すると、静電チャックの吸着力にバラツキが発生し、吸着、保持して処理する製品の品質に問題が発生する。
また、変形(反り)、収縮は、大径になるほど大きくなるので、大径の同時焼結型の静電チャックでは、吸着力のバラツキがより大きくなり、処理する製品品質に重大な影響を及ぼすことになる。
【0005】
このような同時焼成型の静電チャックの欠点を改良するため、予め焼成された二枚のセラミックス(誘電体)の間に電極膜を挟んだ構造の静電チャックが試みられている。
これは、後焼結型(ポストファイヤー型)と呼ばれる構造である(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0006】
特許文献1には、「誘電体セラミックの板と電気絶縁性の台座の間に電極金属層が挟まれて接着一体化された構造の静電チャック」が開示されている。
また、特許文献2には、「誘電体セラミックの裏面に電極膜が形成され、電極面も含む裏面全面を電気絶縁性接着剤あるいはガラスで電気絶縁性の台座に貼り付けた構造の静電チャック」が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開平08−279550号公報
【特許文献2】特開平04−300136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1および特許文献2に記載された後焼結型静電チャックでは、吸着面から電極までの距離が一定になり、全面均一な吸着力が得られる反面、下記の問題を有する。
【0009】
すなわち、特許文献1に記載された後焼結型静電チャックでは、双極、単極を問わず、電極とセラミックス外周部および穴部(He穴、リフトピン穴等)内面で、電極膜厚に相当する隙間が発生して、電極がチャンバー内雰囲気に露出するという問題がある。かかる電極の露出は、電極材料のチャンバー内雰囲気汚染、あるいはプラズマの回り込み等の問題を引き起こす。
【0010】
また、特許文献1に記載された後焼結型静電チャックでは、電極が双極の場合、電極間に空隙が発生するという問題がある。かかる電極間の空隙の発生は、電極間の絶縁破壊等の原因になる。また、チャンバー内雰囲気と電極端子部の気密隔離が難しいという問題もある。
【0011】
特許文献2に記載された後焼結型静電チャックでは、電極間の隙間を無くすことができる。しかし、電極面が電気絶縁性の台座に電気絶縁性接着剤あるいはガラスで接着されているために、台座に冷却ジャケットを接着して冷却する構造の静電チャックでは、この接着層の部分が熱抵抗になって、十分な冷却が行われず、静電チャック吸着面の温度分布が不均一になる欠点がある。
以上、前記した問題を如何に解決するかが、後焼結型の静電チャックの解決すべき課題であるといえる。
【0012】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであり、後焼結型の静電チャックであって、電極間の隙間を埋めてチャンバー内雰囲気から気密隔離、電極間の絶縁破壊防止ができ、あわせて底面を冷却した時、吸着面の均一な温度分布が得られる新規な静電チャックおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題に関して鋭意研究を行った結果、下記の静電チャックおよびその製造方法によって前記した問題を解決することができることを見出した。
【0014】
(第1発明)
第1発明に係る静電チャックの製造方法は、セラミックスからなる二枚の絶縁層の間に内部電極層を挟んで二枚の絶縁層を接着する際に、この二枚の絶縁層に挟まれた空間であって内部電極層の存在しない部分に、少なくとも上下の面が接着性材料を有する電気絶縁性接合材を同時に挟んで、二枚の絶縁層の各々に、内部電極層および電気絶縁性接合材を同時に接着するものである。
【0015】
かかる製法により、内部電極層間の隙間が電気絶縁性接合材で埋められた構造の静電チャックが得られるので、内部電極層間の隙間を埋めてチャンバー内雰囲気から気密隔離、内部電極層間の絶縁破壊防止ができ、あわせて底面を冷却した時、吸着面の均一な温度分布が得ることができる。
【0016】
(第2発明)
第2発明に係る静電チャックの製造方法は、第1発明において、内部電極層が、二枚の絶縁層と同一またはそれ以上の熱伝導度を有するものである。
【0017】
かかる製法により、静電チャックに冷却ジャケットを接着して冷却したとき、前記した第1発明と同様の効果が得られるのみならず、内部電極層の熱伝導率が絶縁層の熱伝導率と同一またはそれ以上のとき、吸着面の温度分布は同時焼結型の静電チャックと同等程度に均一にすることができる。
【0018】
(第3発明)
第3発明に係る静電チャックの製造方法は、第2発明において、内部電極層を有機系接着剤に導電性フィラーを混ぜた複合材料としたものである。
【0019】
(第4発明)
また、第4発明に係る静電チャックの製造方法は、第3発明において、有機系接着剤を無機−有機ハイブリッド材料としたものである。
【0020】
(第5発明)
さらに、第5発明に係る静電チャックの製造方法は、第4発明において、無機−有機ハイブリッド材料は珪酸ポリマーを含有するものとしたものである。
これら第3乃至第5発明においても、前記した第2発明の効果と同様の効果を得ることができる。
【0021】
(第6発明)
また、第6発明に係る静電チャックは、セラミックスからなる二枚の絶縁層と、この二枚の絶縁層の間に挟まれて接着された内部電極層と、この内部電極層の存在しない二枚の絶縁層に挟まれた空間部分に設けられ、少なくとも上下の面に接着性材料を有する電気絶縁性接合材と、を備えたものである。
かかる構成により、前記した第1発明の効果と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、内部電極層間の隙間が電気絶縁性接合材で埋められた構造の静電チャックが得られるので、内部電極層間の隙間を埋めてチャンバー内雰囲気から気密隔離、内部電極層間の絶縁破壊防止およびプラズマの回りこみを防止できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明におけるセラミックスからなる絶縁層とは、10Ωcm以上の体積固有抵抗値を持つ酸化物セラミックス、窒化物セラミックス、炭化物セラミックス、若しくはこれらの複合セラミックス、又はその他のセラミックスからなる絶縁体セラミックスをいう。
【0024】
体積固有抵抗値が10Ωcm未満のセラミックスからなる絶縁層を用いた静電チャックは、リーク電流による被処理物の絶縁破壊を防止する観点から、通常使用されていない。
【0025】
また、絶縁層は、焼結されたセラミックスのみに限定されるものではなく、溶射によって形成されたセラミックスを用いることができる。
例えば、静電チャックにアルミニウム等の金属製冷却ジャケットを接着して冷却する静電チャックでは、冷却ジャケットの表面にアルミナ等のセラミックスを溶射して絶縁層を形成するが、本発明における静電チャックの絶縁層の一方は、冷却ジャケットに溶射したセラミックス溶射層であっても良い。
【0026】
絶縁層の上下面(図1の上面10と吸着面11)は平坦面である。つまり、二枚の絶縁層を絶縁層1(台座側)、絶縁層2(吸着側)とすると、絶縁層1の上面10および絶縁層2の下面(吸着面11)は平坦面である。
【0027】
しかし、絶縁層における内部電極層および電気絶縁性接合材が接着する面は、必ずしも平坦面でなくても良い。つまり、絶縁層1の下面8および絶縁層2の上面9は平坦面でなくても良い。このため、絶縁層1の下面8または絶縁層2の上面9は、内部電極層または電気絶縁性接合材を埋め込んで接着できるように、凹溝加工しても良い。絶縁層1の下面8および絶縁層2の上面9の一方の面に凹加工、他方の面を凸加工して、凹面に一方の絶縁層の凸面を嵌め込んで接着しても良い。
【0028】
内部電極層は導電性であって、なおかつ二枚の絶縁層の両方に接着させる必要があるので、導電性フィラーを混ぜて高熱伝導化、導電化した有機系接着剤が好ましい。
【0029】
内部電極層の熱伝導率は、絶縁層の熱伝導率と同等以上であることが望ましい。通常、二枚の絶縁層は同じ材料が使用されるが、例えば一方が溶射層のような場合、熱伝導率が高い方の絶縁層の熱伝導率と同等以上にすることが望ましい。
【0030】
なぜならば、内部電極層の熱伝導率が絶縁層の熱伝導率と同等以上の場合、冷却ジャケットで絶縁層の底面を冷却した時、吸着面の温度分布が同時焼結型の静電チャックと同等の温度分布の均一性が得られるが、内部電極層の熱伝導率が絶縁層の熱伝導率未満の場合、冷却ジャケットで絶縁層底面を冷却した時、吸着面の温度分布が同時焼結型の静電チャックと同等程度の温度分布の均一性が得られないからである。
【0031】
本発明に係る静電チャックが単極構造の場合、電極間の隙間は存在しないので、同時焼結型の静電チャックと実質的に同じ構造となる。
したがって、熱伝導率を絶縁層の熱伝導率と同等以上(同一またはそれ以上)にすることにより、同時焼結型と同等以上の温度分布の均一性が得られることになる。
【0032】
また、本発明に係る静電チャックが双極構造の場合、電極間の隙間に熱伝導の悪い電気絶縁性材料が存在しても、隙間は数mm程度と狭く、しかも吸着面に占める面積率も数%〜十数%程度で、一箇所に集中することなく全体に均等に分散する。このため、電極間の隙間の存在は無視できる程度に軽減され、内部電極層の熱伝導率を絶縁層の熱伝導率以上にすることにより、同時焼結型の静電チャックとほぼ同等程度の温度分布の均一性が得られるものと推察される。
【0033】
内部電極層は、導電性フィラーを混合するだけで導電化することができ、静電チャックの電極として使用することができるが、必要に応じて、補助的に吸着面の裏面(絶縁層2の上面)に金属皮膜を被覆しても良い。例えば、メッキ、スパッタリング、厚膜印刷皮膜等々、既存のメタライズの手法を併用しても良い。
【0034】
内部電極層の電極端子は、台座側の絶縁層1に電極孔をあけ、そこから金属電極を差し込んで、内部電極層と電気的に接続すれば良い。
内部電極層の熱伝導率を絶縁層の熱伝導率以上に調整するためには、混合するフィラーの材質、配合率を調整すれば良い。
【0035】
絶縁層の熱伝導率が10〜30W/m・Kのアルミナの場合、熱伝導フィラーとしてはカーボンファイバ(炭素繊維)、膨張黒鉛、カーボン粒子、金属微粒子等を、補強剤としては窒化アルミニウム、窒化硼素を用いて、有機接着剤に50〜800質量%配合すればよい。
【0036】
有機接着剤は、通常市販されている有機接着剤であればすべて使用できる。
例えば、シリコーン接着剤、変性シリコーン接着剤、エポキシ接着剤、変性エポキシ接着剤、ホットメルト系樹脂接着剤、例えばPES(ポリエーテルサルホン)等の熱可塑性耐熱樹脂を主成分にしたホットメルト系樹脂接着剤等である。また、新素材である有機−無機ハイブリッド材料を主成分とする接着剤等を用いることができる。この有機−無機ハイブリッド材料を主成分とする接着剤は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)とテトラエトキシシラン(TEOS)からなるハイブリッド材料等が好適に使用できる。本発明において最も好ましいのは、有機−無機ハイブリッド材料を主成分とする有機接着剤である。
【0037】
ここで、有機−無機ハイブリッド材料とは、有機物であるポリマーと金属アルコキシド類から合成されるものをいう。
ポリマーに珪酸ポリマーのような耐熱性ポリマーを用いることにより、柔軟性と耐熱性を兼ね備えた新素材を提供することができる。特に、PDMS系有機−無機ハイブリッド材料は、耐熱性、柔軟性、接着性、耐候性に優れた特徴を示す。
また、ポリマー骨格にポリアミドなどの耐熱ポリマーを有する有機−無機ハイブリッド材料は、300℃以上の耐熱性と基材との接着性を示す新素材として知られている。
【0038】
一般に、有機−無機ハイブリッド材料の多くは、有機物と無機物の相溶性を上げることを目的に、特殊な溶剤を多量に含んでいる。このようなハイブリッド液を接着剤として利用する場合、接着層に沸きや亀裂が入り、接着強度が低下するなどの問題が発生する。このため、有機−無機ハイブリッド材料の中でも接着剤として使用できるのは、珪酸ポリマー系のハイブリッド材料に限られる。有機−無機ハイブリッド材料として珪酸ポリマーを含有するものは、無機成分との相溶性も良く溶剤含有量が少ない。また、耐熱性も高く、本発明には特に好ましい。
【0039】
本発明の電気絶縁性接合材には、内部電極層と同じ有機接着剤あるいは必要に応じて無機接着剤も使用できる。
無機接着剤は、バインダーに珪酸アルカリ、燐酸塩、乳酸塩、各種ゾル類を使用する通常使用されている全ての無機接着剤を適宜使用できる。
【0040】
有機接着剤は、電気絶縁性有機接着剤はすべて使用できる。例えば、シリコーン接着剤、変性シリコーン接着剤、エポキシ接着剤、変性エポキシ接着剤、ホットメルト系樹脂接着剤、例えばPES(ポリエーテルサルホン)等の熱可塑性耐熱樹脂を主成分にしたホットメルト系樹脂接着剤等、あるいは有機−無機ハイブリッド接着剤にあっては、ポリジメチルシロキサン(PDMS)とテトラエトキシシラン(TEOS)からなるハイブリッド材料等が好適に使用できる。最も好ましいのは、内部電極層と同じ有機−無機ハイブリッド材料である。
【0041】
本発明の電気絶縁性接合材には必要に応じて電気絶縁性熱伝導性フィラーを混合しても良い。すなわち、電気絶縁性接合材にアルミナ、シリカ、AlN、BN等の粒子、繊維等からなるセラミックスフィラーを混合すると熱伝導性が大幅に改善できる。
【0042】
以下に、図面によって本発明を説明する。
図1は双極型静電チャックの平面図、図2は図1のA−A断面図、図3は図1および図2に示した静電チャックの製造方法の一例の説明図である。
尚、図1において、双極型の内部電極層3(31および32)は二枚の絶縁層1および2によって挟まれており、外部から見ることができないので、説明を分かりやすくするために点線で示した。
また、内部電極層および電気絶縁性接合材の厚さは、数十μm〜数百μmであるが、説明を分かりやすくするために実際よりも厚く図示した。
【0043】
(静電チャック)
図1および図2に示すように、本発明に係る静電チャック6は、体積固有抵抗値が10Ωcm以上のセラミックスからなる絶縁層1および絶縁層2と、これら2枚の絶縁層の間に挟まれて接着された内部電極層3とを有する。
【0044】
そして、内部電極層3は2つに分割された双極であり(内部電極層31、32)、絶縁層1および絶縁層2に挟まれた空間であって、内部電極層31および32の存在しない部分は、少なくとも上下の面が有機−無機ハイブリッド材料を主成分とする接着性材料が塗られた電気絶縁性接合材5で満たされている。この電気絶縁性接合材5は、一層または二層以上の積層構造を有していても良い。
【0045】
二つの内部電極層31および32には、それぞれ電極端子4および7が接着されている。
電極端子4および7は、台座側の絶縁層1に孔をあけて、その孔から金属製の端子を差し込んで内部電極層31および32にそれぞれ電気的に接続される。
【0046】
隣り合う内部電極層31および32は、+極、−極の関係にあり、電極端子4および7を介して数百ボルト〜数千ボルトの高電圧が印加される。
【0047】
これらの内部電極層31および32は、二枚の絶縁層(絶縁層1および2)に接着されている。つまり、内部電極層31および32は、二枚の絶縁層を接着する接着層でもある。
尚、内部電極層31および32の形状は、前記したもののみに限定されるものではなく、他の全ての双極形状および単極電極にも適用することができる。
【0048】
内部電極層31および32の材料は、シリコーン接着剤、変性シリコーン接着剤、エポキシ接着剤、変性エポキシ接着剤、ホットメルト系樹脂接着剤等、例えばPES(ポリエーテルサルホン)等の熱可塑性耐熱樹脂を主成分にしたホットメルト系樹脂接着剤等の通常市販されている有機系接着剤、あるいは有機−無機ハイブリッド接着剤にあっては、ポリジメチルシロキサン(PDMS)とテトラエトキシシラン(TEOS)等に、導電性フィラーを混ぜて導電性、熱伝導性を付与した接着性の複合材料である。
【0049】
絶縁層1および絶縁層2の間に挟まれた空間であって、内部電極層31および32の存在しない部分、すなわち、内部電極層31および32の間の隙間、および内部電極層31および32の外周部に存する隙間には、電気絶縁性接合材5が満たされ、内部電極層31および32は、絶縁層1および2の内面に気密に接着(密着)されている。
【0050】
この電気絶縁性接合材5が存在しない場合、内部電極層31および32は、チャンバー内雰囲気と連通することになる。しかし、この電気絶縁性接合材5の存在により、内部電極層31および32の隙間と、チャンバー内雰囲気と連通する隙間が塞がれるので、内部電極層31および32は、気密にチャンバー内雰囲気から隔離されることになる。
【0051】
電気絶縁性接合材5は、少なくとも、絶縁層1および絶縁層2と接着される上下の面には接着性材料を有している。つまり、電気絶縁性接合材5は、接着性材料に電気絶縁性フィラーを混合して形成しても良いし、一層あるいは二層以上の積層構造からなっていて表面に接着性材料が塗られていても良い。
【0052】
(静電チャックの製造方法)
以下に本発明に係る静電チャック6の製造方法について説明する。
内部電極層3(内部電極層31および32)の厚さは、数十μm〜数百μm程度の厚さであるため、二枚の絶縁層(絶縁層1および絶縁層2)を最初に接着した後、内部電極層31と32間の隙間、および内部電極層31および32の外周部の隙間に、後から電気絶縁性接合材5を密に設ける(充填する)ことは不可能である。
【0053】
このため、二枚の絶縁層1および2の間に挟まれた空間であって、内部電極層31および32の存在しない部分への電気絶縁性接合材5の充填は、二枚の絶縁層1および2と、内部電極層31および32とを接着する前に行わなければならない。
【0054】
すなわち、二枚の絶縁層1および2の間に内部電極層31および32を挟んで、二枚の絶縁層1および2を接着する際に、二枚の絶縁層1および2に挟まれ内部電極層31および32の存在しない空間部分に、少なくとも上下の面が接着性材料からなる電気絶縁性接合材5を同時に挟み込む必要がある。
【0055】
言い換えれば、電気絶縁性接合材5は一種の接着材料であり、二枚の絶縁層1および2に対して内部電極層31および32と、電気絶縁性接合材5を同時に接着しなければならない。
【0056】
以下に、静電チャック6の製造方法について、図3を用いてより具体的に説明する。
まず、図3に示すように、台座側の絶縁層1の下面8に内部電極層31および32の接着剤のペーストを印刷し、絶縁層2の上面9に電気絶縁性接合材5のペーストを印刷する。
【0057】
次に、絶縁層1および絶縁層2を位置決めして重ね合わせ、内部電極層31および32のペーストを絶縁層2の上面9に、電気絶縁性接合材5のペーストを絶縁層1の下面8に密着させる。
そして、内部電極層31および32のペーストと、電気絶縁性接合材5のペーストを同時に硬化させて、絶縁層1、絶縁層2、内部電極層3(31および32)および電気絶縁性接合材5を同時に接着させる。
【0058】
電極端子4は、絶縁層1に事前にあけた穴から金属端子を差込み、絶縁層1および2の接着時に、同時に内部電極層3に接着しても良いし、絶縁層接着後に内部電極層3に接着しても良い。
【0059】
以上の工程で図1、図2の構造の静電チャック6を製造することができる。
尚、接着剤はペースト状のものに限定されるものではなく、必要に応じて固形状のものを使用して、加熱溶融して接着させるものでも良い。
【実施例1】
【0060】
実施例によって本発明を詳細に説明する。
〔静電チャック〕
図1および図2に示した静電チャックは、以下に示すものにより構成されている。
(絶縁層)
絶縁層1および2の材質は、体積固有抵抗が1011Ω・cmであり、熱伝導率が15W/m・Kのアルミナ(Al=91%、SiO=3.9%、TiO=1.9%、その他=3.2%)である。
また、絶縁層2(吸着側)の寸法は縦100mm×横100mm×厚さ1mmであり、絶縁層1(台座側)の寸法は縦100mm×横100mm×厚さ5mmである。
【0061】
(電極端子)
電極端子4はコパール製であり、絶縁層1に端子孔を2個あけて、そこから2本の電極端子を差込み、内部電極層3と接着した。
【0062】
(内部電極層)
内部電極層3の接着剤成分はPDMS系ハイブリッド材料(エチルシリケート(多摩化学製エチルシリケート45)1mol+変性PDMS(荒川化学製HBS1L039)1mol)である。また、内部電極層3の導電性フィラーは、カーボンファイバである。そして、補強を目的として窒化アルミニウム(古河電子製f50)および窒化硼素(電気化学工業製SP−2)を用いている(補強剤)。
これらの配合割合は、PDMS系ハイブリッド材料100質量部に対して、カーボンファイバ50質量部、窒化アルミニウム400質量部、窒化硼素20質量部である。この内部電極層の熱伝導率は15W/m・Kであり、内部電極層の電気抵抗は1010Ωである。
【0063】
また、内部電極層31および32の寸法は縦94mm×横47mm、内部電極層31および32間の隙間は2mm、内部電極層31および32と絶縁層1および2の外周部までの隙間は4面共2mmである。
【0064】
(電気絶縁性接合材)
電気絶縁性接合材5の接着剤成分は内部電極層の接着剤成分と同じPDMS系ハイブリッド材料(エチルシリケート(多摩化学製エチルシリケート45)1mol+変性PDMS(荒川化学製HBS1L039)1mol)であり、電気絶縁性接合材5の電気絶縁性フィラーはアルミナ(マイクロン)および窒化硼素(電気化学工業製SP−2)である。そして、接着剤成分と電気絶縁性フィラーの配合割合は、PDMS系ハイブリッド材料100質量部に対して、マイクロン700質量部、窒化硼素100質量部である。この電気絶縁性接合材5の熱伝導率は、4.2W/m・Kである。
【0065】
〔静電チャックの製造方法〕
図4を用いて、本発明に係る静電チェック6の製造方法の一例を説明する。
前記したPDMS系ハイブリッドゾルに、前記したフィラーおよび補強剤を配合し、モーターグラインダー(FRITSCH製Pulverisette2)を用いて混練りを行った。得られた粘度状ハイブリッドをカレンダーロールを用いて延伸し、厚さ100μmの厚さのシートに加工した。そのシートを、前記した内部電極層の大きさに型抜きして内部電極層31および32を成形し、絶縁層1の裏面8の所定の電極層の位置に配置した。
【0066】
次に、同様にして前記したPDMS系ハイブリッドゾルに、前記したフィラーを配合し、得られた厚さ100μmの電気絶縁性シート(電気絶縁性接合材のシート)を、幅2mmの細帯状に加工し、同じく絶縁層1の裏面8に配置した電極層間の隙間および電極層と絶縁層1の外周部までの隙間に配置した。
【0067】
絶縁層1の裏面8に並べて配置した内部電極層31および32のシートと、電気絶縁性接合材5のシートの上に、絶縁層2を位置決めして重ね合わせ、その後、絶縁層1にあけた2個の端子孔から2本の電極端子4および7を差込み、静電チャック6を組み立てた。
【0068】
その静電チャック6を緩衝シートで挟んだ状態で加熱プレス機に入れ、真空中で200℃に加熱しながら、加圧圧着した。加圧プレス機は、北川精機製の高性能加熱プレス装置を用いた。
【0069】
その後、冷却し、加熱プレス機から取り出すことにより、図1および図2に示す静電チャック6を得た。
そして、実際に使用している静電チャックと同じ条件にするために、吸着面11(電極端子4および7の無い側の面)に、上下左右6mm間隔に、直径1.3mm、高さ25μmのディンプルをブラストで形成した。
【0070】
この静電チャックの性能を確認するため、以下に示す各種試験を行った。
〔接着部の超音波試験〕
吸着側の絶縁層2から接着部の接着状況を超音波で調べた。電極層31および32と、電気絶縁性接合材5は、絶縁層1の裏面8および絶縁層2の表面に完全に接着(溶着)しており、接着不良は認められなかった。また、ボイドも認められなかった。
【0071】
〔絶縁破壊試験〕
電極端子4、9間に直流3000Vを印加したが絶縁破壊はなかった。
【0072】
〔吸着試験〕
絶縁層2の吸着面11のディンプル表面にシリコンウエハーを載置した後、電極端子4、9間に直流1000Vを印加し、良好なシリコンウエハーの吸着力(全面で1kg)が得られた。
【0073】
〔吸着表面の温度分布の均一性の測定〕
(全体が同一材料からなる板の温度分布(同時焼結型の場合に相当))
本静電チャックと同じ成分、同じ寸法(縦100mm×横100mm×厚さ6mm)で、伝導度15W/m・Kのアルミナ板の片面に、本発明に係る静電チャック6と同じ前記したディンプルを形成した。
【0074】
そして、ディンプル面に縦100mm×横100mm×厚さ0.7mmのシリコンウエハーを載置し、アルミナ板の底面(吸着面)全面を、大気中で100℃±0.1℃に加熱した時、シリコンウエハー面の温度分布は、100℃±1℃であった。
【0075】
(本発明に係る静電チャックの温度分布)
一方、本発明に係る静電チャック6のディンプル面に縦100mm×横100mm×厚さ0.7mmのシリコンウエハーを載置し、絶縁層2の底面(吸着面11)を100℃±0.1℃に加熱した。この時のシリコンウエハー面の温度分布をは、100℃±1℃で、前記した全体が均一なアルミナ材料からなるアルミナ板の場合と同等の温度分布が得られることが確認できた。
【0076】
本発明に係る静電チャック6は、温度分布の均一性が極めて優れていることが確認できた。
【0077】
前記した実施例は、説明のために例示したものであって、本発明としてはそれに限定されるものではなく、特許請求の範囲および明細書の記載から当業者が認識することができる本発明の技術的思想に反しない限り、変更、削除および付加が可能である。
【0078】
例えば、前記した実施例1においては、はじめに電極端子4および9を絶縁層1に取り付けた構成を示したが、はじめに電極端子4および9を絶縁層2に取り付けても良い。
【0079】
また、図5に示す様に、絶縁層2の上面9に内部電極層31、32および電気絶縁性接合材5を載せた後、これら内部電極層31、32および電気絶縁性接合材5の上に絶縁層1を載せて、絶縁層1および絶縁層2の間に内部電極層31、32および電気絶縁性接合材5を挟んで接着しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、シリコンウエハー、液晶ガラス基板等のワークを、エッチング、成膜処理する場合、当該ワークの位置決め等に使用する静電チャックに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】双極型静電チャックの平面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図1および図2に示した静電チャックの製造方法の一例の説明図である。
【図4】図1および図2に示した静電チャックの製造方法の一例の説明図である。
【図5】図1および図2に示した静電チャックの製造方法の一例の説明図である。
【符号の説明】
【0082】
1 絶縁層
2 絶縁層
3 内部電極層
5 電気絶縁性接合材
6 静電チャック
31 内部電極層
32 内部電極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックスからなる二枚の絶縁層の間に内部電極層を挟んで接着する静電チャックの製造方法であって、
該二枚の絶縁層の間に該内部電極層を挟む際に、該二枚の絶縁層の間に形成される空間における該内部電極層の存在しない部分に、少なくとも上下の面に接着性材料を有する電気絶縁性接合材を同時に挟んだ後、
該二枚の絶縁層の各々に、該内部電極層および該電気絶縁性接合材を同時に接着することを特徴とする静電チャックの製造方法
【請求項2】
前記内部電極層が、前記二枚の絶縁層と同一またはそれ以上の熱伝導度を有する請求項1に記載の静電チャックの製造方法
【請求項3】
前記内部電極層が、有機系接着剤に導電性フィラーを混ぜた複合材料からなる請求項2に記載の静電チャックの製造方法
【請求項4】
前記有機系接着剤が、無機−有機ハイブリッド材料である請求項3に記載の静電チャックの製造方法
【請求項5】
無機−有機ハイブリッド材料が、珪酸ポリマーを含有する請求項4に記載の静電チャックの製造方法
【請求項6】
セラミックスからなる二枚の絶縁層と、
該二枚の絶縁層の間に挟まれて接着された内部電極層と、
該内部電極層の存在しない該二枚の絶縁層に挟まれた空間部分に設けられ、少なくとも上下の面に接着性材料を有する電気絶縁性接合材と、
を備えた静電チャック

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−176928(P2009−176928A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−13719(P2008−13719)
【出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(000251288)鈴鹿富士ゼロックス株式会社 (156)
【出願人】(398074038)株式会社材研 (8)
【Fターム(参考)】