説明

静電チャック及びその製造方法

【課題】 加工前のセッテイングに要する時間を短縮でき、かつエンボス高さのバラツキを抑制可能な技術を提供する。
【解決手段】 上面部にブラスト加工によって凹凸を形成された基材101と、基材101中に埋設された金属からなる電極102と、電極102と外部電源105とを接続する端子104とを備える静電チャック。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャック及びその製造方法に関し、特に、半導体製造装置におけるウエハを保持するためのサセプタとして使用可能な静電チャック及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体ウエハの搬送、露光、CVDなどの成膜プロセス、及び洗浄、エッチング、ダイシングなどの微細加工に代表される各工程において、半導体ウエハを吸着し、保持するために静電チャックが使用されている。
【0003】
例えば、静電チャックは、導体又は半導体製の支持板の上面に絶縁膜を備えており、導体又は半導体製の試料を絶縁膜に対向させ直流電源を用いて、試料と支持板との間に電位差を与えることで、試料と支持板との間に生じる静電力で、試料をチャッキングする。
【0004】
このような静電チャックの絶縁膜表面に回転砥石を用いてエンボスを形成することによって、絶縁膜と試料面との間の空間を大きくし、それによって絶縁膜と試料面との間の静電容量を小さくして、静電力の応答性を高くした静電チャックが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開昭63−95644号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のエンボス形成装置及び方法では、回転中の回転砥石を絶縁膜に押し当て、例えば、絶縁膜に凹部溝を縦横に形成することによって、凹凸部を形成するが、空間クーロン力が発現する高さ10μm以下の凹凸をこのような平面研削加工によって行うと、第1に、加工前に正確にセッテイングしないとエンボス高さにバラツキが出やすいため、慎重にセッテイングしなければならず、セッテイングに時間がかかり、第2に、空間クーロン力はエンボス高さの2乗に反比例するため、高さにバラツキが生じてしまうと、保持力などの特性に大きなバラツキが生じてしまう、などの問題が発生してしまう。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、加工前のセッテイングに要する時間を短縮でき、かつエンボス高さのバラツキを抑制可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その第1の特徴は、静電チャックであって、上面部にブラスト加工によって凹凸を形成された基材と、前記基材中に埋設された金属からなる電極と、前記電極と外部電源とを接続する端子とを備えることにある。
【0008】
ブラスト加工方法としては、サンドブラスト、スチールグリットブラスト、アルミナグリットブラストなどが採用しうる。サンドブラストは、珪砂などの研削材を圧縮空気などによって加工面に吹きつける方法であり、スチールグリットブラストは、研削材にグリットと呼ばれる先鋭なりょう角を持つ鋳鉄粒を用いる方法であり、アルミナグリットブラストは、研削材にグリットと呼ばれる先鋭なりょう角を持つ褐色アルミナまたはホワイトアルミナを用いる方法である。
【0009】
また、本発明の第2の特徴は、第1の特徴を有する静電チャックにおいて、基材の上面部をアルミナ砥粒を使用してブラスト加工することにある。
【0010】
また、本発明の第3の特徴は、第2の特徴を有する静電チャックにおいて、アルミナ砥粒としてホワイトアルミナ砥粒を使用することにある。
【0011】
さらに、本発明の第4の特徴は、静電チャック製造方法であって、基材原料を調整し、基材原料を粉末仮焼し、電極を埋設して基材を成形し、基材を焼結した後、電極に端子を設置し及び基材の上面にブラスト加工によって凹凸を形成することにある。
【0012】
基材焼結後の電極端子設置加工とブラスト加工の実施順序はいずれが先であっても良い。つまり、電極端子を設置してからブラスト加工しても良く、またブラスト加工してから電極端子を設置しても良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1及び第4の特徴によれば、ブラスト加工によって基材上面にエンボスを形成するため、加工前のセッテイングに時間をかけなくても、エンボス高さのバラツキを抑えることができ、その結果、空間クーロン力のバラツキを押させることが可能となる。
【0014】
本発明の第2及び第5の特徴によれば、アルミナ砥粒を用いてブラスト加工することによって、砥粒噴出口部材の磨耗を減少させることができ、その結果、基材表面の汚染(contamination)を減少させることが可能となる。
【0015】
本発明の第3及び第6の特徴によれば、ホワイトアルミナ砥粒を用いてブラスト加工することによって、白色系の基材表面に色調差を発生させることを抑制でき、その結果、色ムラなどの外観不良の発生を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態、実施例を説明するが、本発明はこれらの実施の形態、実施例に限定されるものではない。
【0017】
図1に、本発明の実施の形態に係る静電チャックを示す。図1に示すように、静電チャック100は、セラミック基材101内に電極102が埋設され、セラミック基材101の上面はブラスト加工によって凹凸が形成されている。電極102は端子104を介して直流電源105に接続されている。
【0018】
基材101は、窒化アルミニウム焼結体からなる略円盤形状である。電極102は、モリブデン等の金属からなり、メッシュ状の金網でもスクリーン印刷電極でも構わない。端子104の上面が電極102に接続されている。端子104の端面は、基材101の裏面に露出している。端子104は、金メッキが施されたモリブデン等からなる。
【0019】
次に、本発明の実施の形態に係る静電チャックの製造方法を、図2を用いて説明する。
【0020】
まず、基材の原料調整を行う(S201)。具体的には、静電チャックの基材の原料として、窒化アルミニウム粉に酸化物添加剤を添加する。酸化物添加剤としては、イットリアやセリア等が使用される。そして、窒化アルミニウム粉と酸化物添加剤を混合する。混合方法としては、工業的には、例えば、トロンメルと呼ばれる容器そのものが回転する大型のボールミル装置を用いて行う。トロンメルによる混合の時間は、例えば30分程度である。原料粉末に成形用バインダを添加し、造粒を行う。
【0021】
次に、粉末仮焼を行う(S202)。通常、仮焼は、成形処理の後に行われるが、モリブデン等の金属からなる電極を埋設する静電チャックを製造する場合は、電極が仮焼によって酸化するため、成形処理の前に仮焼を行う。
【0022】
次に、電極を埋設し、窒化アルミニウム粉の成形処理を行う(S203)。成形方法としては、金型成形法により得られる一軸成形体を等方圧の成形処理を施し、成形体密度の向上とむらをなくす冷間等方圧プレス(冷間静水圧プレス:Cold Isostatic Pressing ,CIP) 処理を用いても良い。金型成形せずに、直接、ゴム型に原料粉末を充填しCIP処理を行い、成形体を得ることも可能である。
【0023】
次に、成形後の窒化アルミニウム粉を焼結し、窒化アルミニウム焼結体を生成する(S204)。この焼結方法としては、常圧焼結法やホットプレス方式が使用可能である。ホットプレス方式は、カーボン治具内に原料粉末や成形体を充填、あるいは挿入し、10〜50MPaの一軸加圧下で焼成するもので、通常の常圧焼結では、緻密化が困難なセラミックス材料の焼成に適する。更に、CIPの原理を焼成に応用した熱間静水圧プレス( 熱間等方圧加圧焼結: Hot Iso staticPressing,HIP)方式も使用可能である。
【0024】
次に、窒化アルミニウム焼結体に、端子を設置するための加工を施す(S20 5)。具体的には、基材となる窒化アルミニウム焼結体に、端子を接合するための凹状の端子接合用穴を形成する。この加工処理としては、ダイヤモンド工具などを用いた切削や研磨が挙げられる。その他、レーザ加工、超音波加工、サンドブラスト加工などによるセラミックス加工も可能である。
【0025】
次に、基材上面をブラスト加工する(S206)。ブラスト加工方法としては、サンドブラスト、スチールグリットブラスト、アルミナグリットブラストなどが採用しうる。砥粒としては、珪砂、鋳鉄、褐色アルミナまたはホワイトアルミナを使用し得る。
【0026】
なお、SiC砥粒を使用した場合、SUS製の砥粒噴出口の磨耗が大きく、静電チャック基材表面への鉄汚染が多く発生してしまうが、アルミナ砥粒を使用した場合、このような問題を回避できるので、褐色又は白色アルミナ砥粒を用いるアルミナグリットブラストが好ましい。
【0027】
また、SiC砥粒等でブラスト加工した場合、基材が白色系の静電チャックでは色調差が発生しムラとなって外観不良が多発してしまうが、白色アルミナ砥粒を使用した場合、このような問題を回避できるので、白色アルミナ砥粒を用いるアルミナグリットブラストがさらに好ましい。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例について説明する。以下の実施例では、電極を内部に備える窒化アルミニウムからなる円盤状の基材(直径300mm)と、当該内蔵される電極へ給電を行う金メッキされたモリブデンからなる端子とを備える静電チャックを用いた。基材上面に形成されるエンボスの高さの目標値は7μmとした。電極はメッシュ状の金網であった。
【0029】
(実施例1)
図2に示す手順で静電チャックを製造した。砥粒は、600メッシュのSic砥粒を使用し、0.45MPaの圧縮空気を用いて基材の上面に吹きつけた。
【0030】
(実施例2)
砥粒は、600メッシュのホワイトアルミナ砥粒を使用し、0.45MPaの圧縮空気を用いて基材の上面に吹きつけた。使用した装置等は、以下のとおりである。
【0031】
サンドブラスト装置名:アルプスエンジニアリング製ブラスト機
型番:BSR‐4060L
サンドブラストした時間:1時間〜1.5時間

ブラスト加工後に、図3に示す各測定位置のエンボス高さを測定し、結果を表1に示す。表1に示すように、実施例1の標準偏差は0.79、実施例2の標準偏差は0.45と、いずれも小さい。つまり、エンボス高さのバラツキが小さい。
【表1】

【0032】
表2に、エンボス高さと吸着力との関係を示す。表2に示すように、エンボス高さ9μmの場合と、エンボス高さ5μmの場合とでは約3倍の吸着力差が生じる。表2から、エンボス高さのバラツキを抑制することが、吸着力のバラツキを
抑制するために重要であることがわかる。
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態に係る静電チャックを示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る静電チャックの製造方法の流れを示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施例におけるエンボス高さ測定点を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
100…静電チャック装置
101…基材
102…電極
104…端子
105…直流電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面部にブラスト加工によって凹凸を形成された基材と、
前記基材中に埋設された金属からなる電極と、
前記電極と外部電源とを接続する端子とを備える静電チャック。
【請求項2】
前記基材の前記上面部をアルミナ砥粒を使用してブラスト加工した請求項1記載の静電チャック。
【請求項3】
前記アルミナ砥粒がホワイトアルミナ砥粒である請求項2記載の静電チャック。
【請求項4】
基材原料を調整し、前記基材原料を粉末仮焼し、電極を埋設して基材を成形し、前記基材を焼結した後、前記電極に端子を設置し及び前記基材の上面にブラスト加工によって凹凸を形成する静電チャック製造方法。
【請求項5】
アルミナ砥粒を使用して前記ブラスト加工を行う請求項4記載の静電チャック製造方法。
【請求項6】
前記アルミナ砥粒がホワイトアルミナ砥粒である請求項5記載の静電チャック製造方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−147724(P2006−147724A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−333644(P2004−333644)
【出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】