説明

静電チャック用電源回路、及び静電チャック装置

【課題】本発明は、試料の吸着、或いは脱着の状態を適正に検出する静電チャック用電源回路、及び静電チャック装置の提供を目的とする。
【解決手段】上記目的を達成するために、試料を支持する支持部材内に、正電極、及び負電極が設置される静電チャックに、電圧を印加する静電チャック用電源回路において、正電極に正の電圧を印加する第1の電源回路と、負電極に負の電圧を印加する第2の電源回路と、第1の電源回路と正電極の間、及び第2の電源回路と負電極との間に、それぞれに接続される抵抗と、正電極、又は負電極の電圧を検出する電圧検出器を備え、電圧検出器が接続される電極と、電源回路との間に接続される抵抗は、他の電源回路と電極との間に配置される抵抗より高い抵抗値を有する静電チャック用電源回路を提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャックに用いられる静電チャック用電源回路に係り、特に、試料の接触,非接触の状態を的確に把握する機能を備えた静電チャック用電源回路、及び静電チャック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
静電チャックとはコンデンサの原理を応用し、対象物を吸着する装置である。コンデンサは誘電体を二枚の電極で挟み込む構造をしており、それぞれの電極に電位差を加えると誘電体内で誘電分極が発生し、これが電荷を蓄積する。
【0003】
このようなコンデンサの基本原理に基づいて、静電チャックの原理を考えると、静電吸着の対象となる試料は、コンデンサの一方の電極と等価であり、対象物と誘電体の接するそれぞれの表面で分極が生じるため、両者は互いに引き合い、吸着される。
【0004】
半導体製造,検査,測定等を行う装置では、その対象試料を保持するために、静電チャック方式による試料保持が行われている。これら装置は、連続的に導入される試料に対応すべく、自動化が進められており、静電チャック方式による試料保持装置についても、試料が適正に吸着されているか、そのモニタを自動的に行う手法が提案されている。特許文献1には、基板の静電吸着状態の良否を判断する手法が説明されている。具体的には、基板が適正に静電吸着されているときに、静電チャック回路に流通する電流を参照値として、当該参照値より電流が小さい場合に、異常(正常に試料が配置されていない)と判断する方法が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−330220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、静電チャック装置は、半導体検査,測定装置等の中で、試料を保持しつつ、試料を移動させるために用いられるが、その際に生じる外部部材と、試料との間の静電容量の変化に伴い、試料の吸着,脱着とは関係のない過度電流を検出する可能性がある。このような過度電流は、試料が適正に吸着されていても、検出されてしまう可能性があり、誤検出の要因となる場合がある。
【0007】
以下に、試料の吸着、或いは脱着の状態を適正に検出することを目的とした静電チャック用電源回路、及び静電チャック装置について説明する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、試料を支持する支持部材内に、正電極、及び負電極が設置される静電チャックに、電圧を印加する静電チャック用電源回路において、前記正電極に正の電圧を印加する第1の電源回路と、前記負電極に負の電圧を印加する第2の電源回路と、前記第1の電源回路と前記正電極との間、及び前記第2の電源回路と前記負電極との間のそれぞれに接続される抵抗と、前記正電極、又は負電極の電圧を検出する電圧検出器を備え、当該電圧検出器が接続される電極と、前記電源回路との間に接続される抵抗は、他の電源回路と電極との間に配置される抵抗より高い抵抗値を有する静電チャック用電源回路を提案する。
【0009】
また、複数種の電圧変化をモニタすることによって、静電チャック上の種々の現象を特定する静電チャック電源回路を提案する。
【発明の効果】
【0010】
上記構成によれば、電源回路に過度電流が流れることに基づく、試料の吸着,脱着の誤検出を抑制することが可能となる。また、上記他の構成によれば、単に吸着,脱着だけではなく、その他の現象をも特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】静電チャック機構と静電チャック電源回路の概要を説明する図。
【図2】静電チャック電源回路の具体的な構成を説明する図。
【図3】静電チャックの電極の出力電圧値波形を説明する図。
【図4】電流検出方式の静電チャック電源回路の構成例を説明する図。
【図5】静電チャック電源回路の他の構成例を説明する図。
【図6】静電チャック電源回路の更に他の構成例を説明する図。
【図7】静電チャック電源回路の更に他の構成例を説明する図。
【図8】吸着状態の良否を判断する論理回路の一例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
静電チャックの吸着方式は、誘電体の抵抗率,吸着圧力,吸着対象物等の違いに基づいて、Johnson-Rahbek方式,Column(クーロン)方式,Gradient方式などに類別される。
【0013】
半導体デバイスの測定や検査を行う試料ステージに設けられる静電チャックとしては、電子ビーム等の照射位置付近の安定性を考慮すると、吸着圧力はJohnson-Rahbek方式よりも小さくなるものの、誘電体の抵抗率が高いクーロン方式が適している。
【0014】
また、静電チャックの様式は、静電チャック内に配置される電極一つで対象物を吸着させるものがモノポール型,電極を二つ用意して対象物を吸着させるものがダイポール型と呼ばれる。ダイポール型の静電チャックは対象物に電圧を加えることなく、電極それぞれに逆極性の電圧を加えることで吸着力を発生させる。
【0015】
半導体パターンの寸法測定を行う測長用走査電子顕微鏡(Critical Dimension-Scanning Electron Microscope:CD−SEM)を一例とする測定,検査装置は、自動的な制御が求められる。一方で、意図しない現象が発生した場合に、速やかな対処が可能なように、診断機能を設ける必要がある。更に、理想的には、単に吸着,脱着の状態をモニタするだけではなく、吸着状態の良否判定を設けることが望ましい。
【0016】
上記のような診断を行う一手法として、圧力センサを利用した直接的な状態観察、メカ的に対象物の吸着面を押し返したり、ガスを噴出させたり、また精度が追いつけば位置センサを利用するなども考えられるが、半導体デバイスに対し、物理的な影響を与える手法や真空室内にてガスを噴出する手法等は選択すべきではない。また、静電チャック機構の簡素化も求められる。
【0017】
クーロン方式、ダイポール型の静電チャックのメカニズムを詳しく見ると、正負電極それぞれに正負電源電圧を加えた瞬間、前述した通り静電チャックホルダ表面と吸着対象物(半導体ウェハ)裏面で誘電分極が発生する。これは即ち、正負電極−半導体ウェハ間にコンデンサが形成されたことと同義である。コンデンサは正負電極相互間にも勿論形成されているが、半導体ウェハとの間のコンデンサよりも容量は小さい。誘電分極の発生と吸着による半導体ウェハの接近は同時に正負電極−半導体ウェハ間に過度電流を発生させる。前述した過度電流(ピーク)の大きさはコンデンサ容量に比例するため、半導体ウェハの有無と吸着したかどうかを判別できる。
【0018】
図4に示す静電チャック電源回路は、過度電流を検出することによって、静電チャックホルダ上に半導体ウェハがあるかどうか、或いは静電チャックホルダ上に半導体ウェハがある場合には吸着したかどうかを判定できる。図4に例示する静電チャック電源回路は、ダイポール型静電チャックホルダ40の一方の電極に、電流検出抵抗31を介して、正極高電圧回路10の正極出力電圧11を印加し、前述した検出抵抗の流れる電流を正極側吸着良否判定回路70の電流検出絶縁アンプ74、及び正極側各種ピーク検出回路71によって検出する構成となっている。
【0019】
半導体デバイスやフォトマスク等に対し、荷電粒子ビームを照射することによって、測定,検査する装置では、静電チャックホルダ40と半導体ウェハ44は真空チャンバ45内に配置され、当該真空チャンバ45内で試料ステージや、試料搬送機構等の移動機構によって移動する。このときウェハ−チャンバ天板間容量46,チャック電極−チャンバ内壁間容量47の変化に伴い、吸脱着現象とは関係のない過度電流を検出する可能性がある。
【0020】
以下に説明する静電チャックの電源回路は、チャック電極に加えるための所望の値と極性の電圧を出力可能とすると共に、種々のチャック状態の判定を可能とする機能が設けられている。具体的には、吸着の状態判定、チャック電極に所定の電圧を印加した状態で適正に半導体ウェハが吸着されているかの判定、チャック電極に所定電圧を印加した状態で、脱着が発生したかの判定、チャック電極への電圧印加を停止したときに、適正に吸着が解除されたかの判定、吸着を維持できない状態かどうかの判定、チャック電極に印加する電圧が制御に依らず低下した状態の判定を行う機能が備えられている。
【0021】
本実施例装置では、上述のような判定を電気回路によって実現する。半導体ウェハ等の試料は、傷や異物の発生を抑制する観点から、他部材との接触を極力避けることが望まれる。傷や異物の発生は、半導体デバイス等の歩留まりの低下につながるため、極力避けなければならない。また、上述したような過度電流に基づく誤検出を抑制するようなチャック機構の提供が望まれる。本実施例装置では、チャック電極に印加する電圧が高電圧であっても、絶縁アンプのような高価な装置を用いることなく、上述のような判定が可能となる。
【0022】
本実施例装置では、ダイポール型の静電チャックホルダに対して、各チャック電極と、正負電源出力電圧端子間に、アンバランサ抵抗となるどちらか一方を相対的に大きくした抵抗を接続し、このときのチャック電極電圧を検出することで吸着状態の良否を判定する。図4に例示した電流検出抵抗を用いた判定は、電流検出方式であるのに対し、本実施例装置は電圧検出方式を用いた判定であると言える。
【0023】
図1に静電チャック機構と静電チャック電源回路構成を例示する。図1はダイポール型の静電チャックホルダである。静電チャックホルダの上面は、試料を支持する支持部材として機能する。静電チャック正電極41と、正極高電圧回路10の正極出力電圧11端子との間、及び静電チャック負電極42と、負極高電圧回路20の負極出力電圧21端子との間には、アンバランサ抵抗30が接続されている。静電チャック正電極41には、正極側出力分圧回路50が接続され、静電チャック負電極42には、負極側出力分圧回路60が接続されている。
【0024】
正極側出力分圧回路50の分圧値は、正極側吸着良否判定回路70の正極側バッファ72に入力され、正極側各種ピーク検出回路71により吸着状態の良否を示す特徴的な電圧波形ピークを検出し、判定信号が出力される。負極側出力分圧回路60の分圧値も負極側吸着良否判定回路80の負極側バッファ82,負極側各種ピーク検出回路81に入力される。
【0025】
各吸着良否判定回路には各電極電圧における吸着状態の良否を示す特徴的な電圧波形ピークを抽出するために、各出力制御電圧や各判定に用いられる閾値が入力される。また各吸着良否判定回路の出力,判定信号には各電極電圧の分圧値そのものである出力電圧値,出力電圧の低下を指し示す電圧低下判定信号,半導体ウェハが吸着されたことを指し示す吸着判定信号,半導体ウェハの意図しない脱着と任意に吸着が解除されたことを指し示す吸着解除判定信号がある。
【0026】
上述のような構成を持つ静電チャック機構のチャック電極に出力電圧を加えると、各チャック電極−半導体ウェハ間にはコンデンサが形成され過度電流が流れる。図1に例示する静電チャック機構はダイポール型であり、静電チャック正電極41、及び静電チャック負電極42のそれぞれには、逆極性の電圧が印加されているため、過度電流は静電チャックされる試料の一種である半導体ウェハを介して各電源間を貫通して流れる。
【0027】
アンバランサ抵抗30は、過度電流の電流経路に接続されているため、抵抗値Rp,Rnに差を持たせるほどに、各チャック電極電圧の立ち上がりに時間差が発生する。接地電位基準でチャック電極電圧を見た場合、立ち上がりが遅れた側では、反対の極性の電圧が現れる。この反対極性の電圧が、半導体ウェハの吸着状態の良否を示す特徴的な電圧波形ピークを出現させる。
【0028】
図1に例示するような電圧検出方式を採用した静電チャック機構によれば、種々の試料の吸着状態の判定を容易に実現できる。また、静電チャック機構周囲の浮遊容量変化を、鋭敏に検知することがないため、吸着判定を高精度に実現可能であり、シンプルな回路構成にて上記判定を可能とする。
【0029】
図2に静電チャック電源回路の一態様を例示する。この回路構成例はアンバランサ抵抗の各抵抗値をRp<Rnとした場合のものであり、吸着状態の良否を示す特徴的な電圧波形ピークの大きさは、アンバランサ抵抗の大きい負電極側の方が大きく現れるため、吸着ピーク検出回路84,吸着解除ピーク検出回路85を負電極側に追加したものである。
【0030】
図3は、図2の静電チャック負電極42側の出力電圧値:Vnomの電圧波形例を説明する図である。図3に例示する吸着状態の良否を示す特徴的な電圧波形ピークは、吸着したことを示すピーク波形,電圧低下を示すピーク波形,吸着後の意図しない半導体ウェハの脱着を示すピーク波形、及び吸着解除を示すピーク波形の4種類である。出力電圧値:Vnomは負極高電圧出力制御電圧:Vncと同等となるように出力電圧を分圧,反転増幅した値である。
【0031】
吸着したことを示すピーク波形は吸着ピーク検出回路84を用いて検出する。その検出では吸着判定閾値:Vnoonlとの比較を行う。また、電圧低下を示すピーク波形は、負極出力電圧低下ピーク検出回路83を用いて検出する。この場合、まず負極側の出力電圧より、出力制御電圧:Vnc分を差し引いてから、当該差し引き後の電圧と、電圧低下判定閾値:Vnolとの比較に基づいて、ピーク波形を抽出する。意図しない半導体ウェハの脱着と吸着解除を示すピーク波形は、吸着解除ピーク検出回路85を用い、負極側の出力電圧より出力制御電圧:Vnc分を差し引いてから、吸着解除判定閾値:Vnooflとの比較に基づいて抽出される。
【0032】
また、抽出した判定信号の妥当性を確保し、一つの吸着解除ピーク検出回路を用いて、吸着後の意図しない脱着と、吸着解除を区別するために、上記判定に加え、高電圧回路電源と高電圧出力制御電圧を、上記判定に利用する。
【0033】
図8に、検出した各判定信号に加え、高電圧回路電源と高電圧出力制御電圧から吸着状態の良否を判断する論理回路を例示する。まず吸着,吸着解除の良否を判定する区間、吸着完了から吸着解除開始までの意図しない電圧低下、脱着を判定する区間があり、それぞれの区間で動作の完了と異常の発生を監視する。監視する対象の信号は、高電圧回路電源と高電圧出力制御電圧のHigh/Low、電圧低下判定信号のPositive edge/Negative edge、吸着判定信号と吸着解除判定信号のPositive edgeである。
【0034】
吸着の良否を判定する区間では、負極高電圧出力制御電圧:Vnc=Highと共に、電圧低下判定信号:Vnoo=Positive edgeが検知され、高電圧回路電源=Highの瞬間に、吸着判定信号:Vnoonが検知され、出力電圧値:Vnomが目標値に達すると電圧低下判定信号:Vnoo=Negative edgeが検知される。これを全てAND素子で捉え吸着完了を示す信号を出力する。
【0035】
吸着完了から吸着解除開始までの意図しない電圧低下、及び脱着を判定する区間では、高電圧回路電源と負極高電圧出力制御電圧:VncがHighである状態で、電圧低下判定信号:Vnoo=Positive edgeを検知した場合には、これらのANDを取って吸着時に意図しない電圧低下を検出したことを示す信号を出力する。また、吸着解除判定信号:Vnoof=Positive edgeを検知した場合には同じくANDを取って吸着時に意図しない脱着を検出したことを示す信号を出力する。
【0036】
吸着解除の良否を判定する区間では、高電圧回路電源=Lowと共に電圧低下判定信号:Vnoo=Positive edgeと吸着解除判定信号:Vnoof=Positive edgeを検知し、その後負極高電圧出力制御電圧:Vnc=Low、及び出力電圧値が完全に放電された状態を示す電圧低下判定信号:Vnoo=Negative edgeの検知に基づいて、吸着解除完了を示す信号を出力する。
【0037】
図5に静電チャック電源回路の他の構成例を例示する。これは静電チャックホルダがダイポール型ではあるが、電極が4極の同心円状タイプのものである。静電チャックにより半導体ウェハを吸着した場合、半導体ウェハの表面電位は、正負電源電圧の絶対値が同じであり、半導体ウェハ直下にある正負電極の面積比も同じであれば、正負電源電圧の中間電圧、即ちゼロ[V]となる。4極同心円状タイプの電極構成であっても前述した原理に則り、電圧電圧,電極面積を制御すれば、半導体ウェハ表面電位をゼロにできる。
【0038】
電極数が2つよりも多い偶数であれば、2つの逆極性の電源からの電圧印加によって、静電チャックとして機能するが、本実施例では、1つの電源が故障した場合等にも静電チャックを可能とすべく、逆極性の電源を2セット設けた。
【0039】
図6に静電チャック電源回路の更に他の構成例を示す。SEMでは、電子ビームの試料への到達エネルギーの抑制、或いは試料から放出される二次電子の高効率収集を目的として、試料に負電圧(以下、リターディング電圧と称することもある)を印加することがある。
【0040】
試料に負電圧を印加する場合、上述の実施例にて例示した静電チャックでは、以下の2点の課題を考慮する必要がある。一つはアンバランサ抵抗による電圧検出方式の効果が失われる可能性があること、もう一つは半導体ウェハ印加電圧電源90を可変する場合の各電極−半導体ウェハ間の吸着力の変化である。
【0041】
1つ目の課題は、半導体ウェハ導通部−印加電圧間抵抗92の抵抗値に依存する。半導体ウェハにリターディング電圧を印加しない場合には、吸着の良否を判定するための電圧波形ピークを生じさせる過度電流は、各電源電圧間を貫通して流れていたが、半導体ウェハに前述した半導体ウェハ導通部−ウェハ印加電圧間抵抗92を介して電圧を印加すると、半導体ウェハ導通部−ウェハ印加電圧間抵抗92の抵抗値に依存して、過度電流は半導体ウェハ導通部−ウェハ印加電圧間抵抗92の方へ流れ、電圧波形ピークを生成することができない。
【0042】
2つ目の課題は、半導体ウェハに負の電圧を印加することによって、ダイポール型の静電チャックホルダであっても、各電極と半導体ウェハとの間にモノポール型の静電チャックと同じ原理で吸着力が発生する。
【0043】
このとき半導体ウェハ印加電圧90を変化すると、各電極と半導体ウェハとの電位差が、一方は小さくなり吸着力が弱まり、もう一方は大きくなって吸着力が強まるといった現象が発生する。このとき半導体ウェハ印加電圧90を変化する前に比べて、吸着力が低下する可能性がある。
【0044】
上述した2つの課題は、図6(b)に例示する静電チャック電源回路のように、正極出力電圧電源11と負極出力電圧電源21を、半導体ウェハ印加電圧電源90と、各電極との間に接続し、且つ半導体ウェハ導通部−ウェハ印加電圧間抵抗92の抵抗値を大きく取れば解決する。更にこのように構成された静電チャック電源回路は、以下に説明するような他の効果をも奏することができる。
【0045】
半導体ウェハの導通を取ることによって、半導体ウェハの表面電位を意図した通りに固定,維持することができる。このように試料の表面電界を制御は、測定装置の性能や再現性の向上に用いられる。このような半導体ウェハの導通をとる上での課題は、導通手段の導通部の寿命、及び安定性である。また半導体ウェハの中には絶縁膜に覆われる等の理由により、導通がとれないものがある。
【0046】
本実施例では、上述の課題に対し、電流検出方式と、電圧検出方式を併用することを提案する。2つの方式を併用した回路の電圧検出方式による検出回路部では、半導体ウェハの導通が取れなかったときの警報、或いは導通の取れない半導体ウェハ用の吸着状態の良否判定に選択的に適用する。
【0047】
図7に静電チャック電源回路の更に他の構成を例示する。他の回路構成と比較すると、回路を構成する部品数を削減することができる。図7に例示する回路構成では、アンバランサ抵抗の1つを削減すると共に、吸着状態の良否を示す電圧波形ピークを、微分回路33を用いて検出している。図7の構成によれば、吸着状態の良否判定を行う回路を簡単にできる。但し、アンバランサ抵抗の抵抗値は、微小な過度電流を識別するための電圧波形ピークに変換するために、メガオーム或いはそれ以上の抵抗値を必要とする。、このため微分回路33に使用するコンデンサをチャック電極部に接続することは、系全体の応答性を悪化させることに繋がる可能性がある。よって、要求される仕様等に沿った回路構成を選択することが望ましい。
【符号の説明】
【0048】
10 正極高電圧回路
11 正極出力電圧:Vpo=Ap×Vpc
20 負極高電圧回路
21 負極出力電圧:Vno=−An×Vnc
30 アンバランサ抵抗
31 電流検出抵抗
32 負極側電圧検出抵抗
33 微分回路
40 静電チャックホルダ
41 静電チャック正電極
42 静電チャック負電極
43 誘電体
44 半導体ウェハ
45 真空チャンバ
46 ウェハ−チャンバ天板間容量
47 チャック電極−真空チャンバ内壁間容量
50 正極側出力分圧回路:分圧値=Vpo/Ap
60 負極側出力分圧回路:分圧値=−Vno/An
70 正極側吸着良否判定回路
71 正極側各種ピーク検出回路
72 正極側バッファ
74 電流検出絶縁アンプ
80 負極側吸着良否判定回路
81 負極側各種ピーク検出回路
82 負極側バッファ
83 負極出力電圧低下ピーク検出回路
84 吸着ピーク検出回路
85 吸着解除ピーク検出回路
90 半導体ウェハ印加電圧電源
91 半導体ウェハ導通部
92 半導体ウェハ導通部−ウェハ印加電圧間抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を支持する支持部材内に、正電極、及び負電極が設置される静電チャックに、電圧を印加する静電チャック用電源回路において、
前記正電極に正の電圧を印加する第1の電源回路と、前記負電極に負の電圧を印加する第2の電源回路と、前記第1の電源回路と前記正電極との間、及び前記第2の電源回路と前記負電極との間のそれぞれに接続される抵抗と、前記正電極、又は負電極の電圧を検出する電圧検出器を備え、当該電圧検出器が接続される電極と、前記電源回路との間に接続される抵抗は、他の電源回路と電極との間に配置される抵抗より高い抵抗値を有することを特徴とする静電チャック用電源回路。
【請求項2】
請求項1において、
前記電圧検出器は、前記電極の電圧変化を示すピーク波形を検出することを特徴とする静電チャック用電源回路。
【請求項3】
請求項2において、
前記電圧検出器は、所定の閾値との比較に基づいて、前記ピーク波形を検出することを特徴とする静電チャック用電源回路。
【請求項4】
請求項1において、
前記電圧検出器は、前記試料が吸着したことを示すピーク波形を検出する回路を含んでいることを特徴とする静電チャック用電源回路。
【請求項5】
請求項1において、
前記電圧検出器は、前記電源回路から印加される電圧の低下を示すピーク波形を検出する回路を含んでいることを特徴とする静電チャック用電源回路。
【請求項6】
請求項1において、
前記電圧検出器は、前記電源から前記電極に電圧を印加している状態にて、前記試料の脱着を示すピーク波形を検出する回路を含んでいることを特徴とする静電チャック用電源回路。
【請求項7】
請求項1において、
前記電圧検出器は、前記試料の吸着解除を示すピーク波形を検出する回路を含んでいることを特徴とする静電チャック用電源回路。
【請求項8】
試料を支持する支持部材内に、正電極、及び負電極が設置される静電チャック部と、前記正電極、及び負電極に電圧を印加する静電チャック用電源回路を備えた静電チャック装置において、
前記正電極に正の電圧を印加する第1の電源回路と、前記負電極に負の電圧を印加する第2の電源回路と、前記第1の電源回路と前記正電極の間、及び前記第2の電源回路と前記負電極との間に、それぞれに接続される抵抗と、前記正電極、又は負電極の電圧を検出する電圧検出器を備え、当該電圧検出器が接続される電極と、前記電源回路との間に接続される抵抗は、他の電源回路と電極との間に配置される抵抗より高い抵抗値を有することを特徴とする静電チャック装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−155162(P2011−155162A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16136(P2010−16136)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】