説明

静電チャック

【課題】セラミック誘電体基板の内部の電極への導通を確実に確保するとともに、穿孔によるセラミック誘電体基板の強度的強度の低下、電気的絶縁の信頼性低下を最小限にすることができる静電チャックを提供することを目的とする。
【解決手段】被吸着物を載置する第1主面と、前記第1主面とは反対側の第2主面と、を有するセラミック誘電体基板と、前記セラミック誘電体基板の前記第1主面と前記第2主面とのあいだに介設された電極と、前記セラミック誘電体基板の前記第2主面に形成された凹部の中に設けられた導電性部材と、を備え、前記凹部の先端は、曲面を有し、前記電極は、前記曲面において露出する露出部分を有し、前記導電性部材は、前記露出部分において前記電極と接触していることを特徴とする静電チャックが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の態様は、静電チャックに関し、セラミック誘電体基板の内部の電極への導通を確実に確保するとともに、セラミック誘電体基板への穿孔による強度低下及び信頼性低下を最小限にすることができる静電チャックに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナ等のセラミック基材のあいだに電極を挟み込み、焼成処理することで作成される焼結セラミック製の静電チャックは、内蔵する電極に静電吸着用電力を印加し、シリコンウェーハ等の基板を静電力によって吸着するものである。このような静電チャックにおいては、内部の電極に静電吸着用電力を供給するため、電極と導通する導体の一部がセラミック基材の静電吸着面とは反対側の面から露出するものや、電極に電力供給用のコネクタを接合しているものなどが実用化されている。
【0003】
特許文献1では、セラミックの基材に内蔵された電極と、静電吸着用電力を供給するための外部の配線と、を接続する部分について、基材に電極の形成面と同一面の底面を有する穴を形成し、この穴の底面から露出した電極に底面部接合材を接合している。
【0004】
この特許文献1では、セラミックの基材の間に電極を挟み、焼成処理することで作成される焼結セラミック製の静電チャックにおいて、HIP(Hot Isostatic Press)処理を含むセラミック焼結工程のあとに、基材に開口を設け、この開口において電極と底面部接合材とを接合する技術が開示されている。基材に開口を設ける方法としては、ダイヤモンド工具を用いた切削や研磨、レーザ加工、超音波加工、サンドブラスト加工などを用いている。
【0005】
また、特許文献2では、焼成後のセラミック基体に内部電極を貫通する固定孔を設け、その内壁にメタライズ層を形成する技術が開示されている。
【0006】
ここで、内蔵する電極の厚さは、一般的に20マイクロメートル(μm)以下である。一方で、ダイヤモンド工具を用いた切削加工の加工位置の精度は10μm以上である。このため、切削加工で開口した孔の底が内部電極に至らない場合や、必要以上に内部電極を突き抜けて孔が開いてしまう場合もある。特に、内部電極を突き抜けて孔を開けた場合、内部電極を突き抜けた孔の底面と被吸着物とのあいだの絶縁層が薄くなるため、機械的強度や電気的絶縁の信頼性の低下を招くおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−273736号公報
【特許文献2】特開平10−189696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる課題の認識に基づいてなされたものであり、セラミック誘電体基板の内部の電極への導通を確実に確保するとともに、穿孔によるセラミック誘電体基板の機械的強度の低下、電気的絶縁の信頼性低下を最小限にすることができる静電チャックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、被吸着物を載置する第1主面と、前記第1主面とは反対側の第2主面と、を有するセラミック誘電体基板と、前記セラミック誘電体基板の前記第1主面と前記第2主面とのあいだに介設された電極と、前記セラミック誘電体基板の前記第2主面に形成された凹部の中に設けられた導電性部材と、を備え、前記凹部の先端は、曲面を有し、前記電極は、前記曲面において露出する露出部分を有し、前記導電性部材は、前記露出部分において前記電極と接触していることを特徴とする静電チャックである。
【0010】
この静電チャックによれば、電極と導電性部材との確実な電気的導通を確保できるとともに、凹部を第1主面の側に深堀りし過ぎないので、セラミック誘電体基板への過度な穿孔を防止でき、セラミック誘電体基板の機械的強度及び電気的絶縁の信頼性を十分に確保することができるようになる。
【0011】
また、第2の発明は、第1の発明において、前記曲面は、球面状であり、前記第2主面から前記第1主面に向かう第1方向にみたときの前記露出部分の径をL、前記曲面の曲率半径をRとしたとき、L≦2Rであることを特徴とする静電チャックである。
【0012】
この静電チャックによれば、凹部が露出部分から第1主面の側に曲率半径Rを超えて突出することがなく、セラミック誘電体基板の機械的強度及び電気的絶縁の信頼性を十分に確保することができるようになる。
【0013】
また、第3の発明は、第1の発明において、前記第2主面から前記第1主面に向かう第1方向にみたときの前記露出部分の径をLとし、前記第1方向における前記露出部分の前記第2主面側と前記凹部の先端との間隔をD3としたとき、D3≦L/2であることを特徴とする静電チャックである。
【0014】
この静電チャックによれば、凹部が露出部分から第1主面の側にL/2を超えて突出することがなく、セラミック誘電体基板の機械的強度及び電気的絶縁の信頼性を十分に確保することができるようになる。
【0015】
また、第4の発明は、第1の発明において、前記曲面は、球面状であり、前記曲面の曲率半径をRとし、前記第2主面から前記第1主面に向かう第1方向における前記露出部分の前記第2主面側と前記凹部の先端との間隔をD3としたとき、D3≦R−(R/√2)であることを特徴とする静電チャックである。
【0016】
この静電チャックによれば、凹部が露出部分から第1主面の側にR−(R/√2)を超えて突出することがなく、セラミック誘電体基板の機械的強度及び電気的絶縁の信頼性を十分に確保することができるようになる。また、凹部を形成する際、露出部分を第1方向にみたときの径Lの増加量に対して、距離D3の増加量が小さくなり、深掘りのし過ぎを抑制できる。
【0017】
また、第5の発明は、第1の発明において、前記第2主面から前記第1主面に向かう第1方向と直交する方向を第2方向とし、前記第1方向及び前記第2方向と直交する方向を第3方向として、前記凹部を前記第2方向にみたときの断面において、前記曲面の外形線と、前記露出部分と、の接点における前記曲面の接線の前記第3方向に対する角度をθとしたとき、θ<45°であることを特徴とする静電チャックである。
【0018】
この静電チャックによれば、凹部を形成する際、深掘りのし過ぎを抑制できる。特に、θ<45°の場合には、凹部を形成する際、露出部分を第1方向にみたときの径Lの増加量に対して、距離D3の増加量が小さくなり、これにより、セラミック誘電体基板への過度な穿孔を防止でき、セラミック誘電体基板の機械的強度及び電気的絶縁の信頼性を十分に確保することができるようになる。
【0019】
また、第6の発明は、第1〜第5のいずれか1つの発明において、前記凹部は、前記第2主面の側に設けられた第1部分と、前記第1部分と前記電極とのあいだに設けられ前記第1部分よりも開口が小なる第2部分と、を有することを特徴とする静電チャックである。
【0020】
この静電チャックによれば、電極との電気的導通を得るための第2部分と、外部との電気的導通を得るための第1部分と、を分けることで、電極との電気的導通を得るための第2部分において外部の配線を接触させる必要がなく、第2部分の損傷を抑制することができるようになる。
【0021】
また、第7の発明は、第6の発明において、前記凹部は、前記第1部分と前記電極とのあいだに複数の前記第2部分を有することを特徴とする静電チャックである。
【0022】
この静電チャックによれば、電極との電気的導通をより確実に行うことができるようになる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の態様によれば、セラミック誘電体基板の内部の電極への導通を確実に確保するとともに、穿孔によるセラミック誘電体基板の機械的強度の低下、電気的絶縁の信頼性低下を最小限にすることができる静電チャックが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態に係る静電チャックの構成を例示する模式的断面図である。
【図2】図1に示すA部の模式的拡大断面図である。
【図3】凹部及び電極の露出部分の状態を例示する模式図である。
【図4】凹部によって形成される電極及び各部の寸法を例示する模式図である。
【図5】径Lと距離D3との関係を例示する図である。
【図6】曲率半径の相違による電極との接触状態の相違について説明する模式図である。
【図7】凹部の先端位置に対する電極との露出面積及び強度の変化を例示する図である。
【図8】本実施形態と参考例との凹部の形状について例示した模式図である。
【図9】セラミック誘電体基板にかかる最大応力のシミュレーション結果を示す図である。
【図10】本実施形態に係る静電チャックの製造方法を工程順に説明する模式的断面図である。
【図11】本実施形態に係る静電チャックの製造方法を工程順に説明する模式的断面図である。
【図12】本実施形態に係る静電チャックの製造方法を工程順に説明する模式的断面図である。
【図13】凹部の深さとZ方向にみた開口の状態との関係を説明する模式図である。
【図14】凹部の深さとZ方向にみた開口の状態との関係を説明する模式図である。
【図15】凹部の深さとZ方向にみた開口の状態との関係を説明する模式図である。
【図16】凹部の深さとZ方向にみた開口の状態との関係を説明する模式図である。
【図17】凹部の深さとZ方向にみた開口の状態との関係を説明する模式図である。
【図18】凹部の深さとZ方向にみた開口の状態との関係を説明する模式図である。
【図19】凹部の状態を例示する図である。
【図20】凹部の他の形態を例示する模式的断面図である。
【図21】円錐形状の曲面を有する凹部を説明する模式図である。
【図22】円錐台形状の曲面を有する凹部を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0026】
図1は、本実施形態に係る静電チャックの構成を例示する模式的断面図である。
図2は、図1に示すA部の模式的拡大断面図である。
本実施形態に係る静電チャック110は、セラミック誘電体基板11と、電極12と、導電性部材20と、を備える。
すなわち、セラミック誘電体基板11は、例えば焼結セラミックによる平板状の基材であり、半導体基板等の被吸着物Wを載置する第1主面11aと、この第1主面11aとは反対側の第2主面11bと、を有する。電極12は、セラミック誘電体基板11の第1主面11aと、第2主面11bと、のあいだに介設されている。つまり、電極12は、セラミック誘電体基板11の中に挿入されるように形成されている。静電チャック110は、この電極12に吸着保持用電圧80を印加することによって、電極12の第1主面11a側に電荷を発生させ、静電力によって被吸着物Wを吸着保持する。
【0027】
電極12は、セラミック誘電体基板11の第1主面11a及び第2主面11bに沿って薄膜状に設けられている。電極12は、単極型でも双極型でもよい。図1に表した電極12は双極型であり、同一面上に2極の電極12が設けられている。
【0028】
セラミック誘電体基板11には、第2主面11bから第1主面11aに向かう方向に電極12まで達する凹部30が設けられている。
本実施形態の説明において、第2主面11bから第1主面11aに向かう方向(第1方向)をZ方向、Z方向と直交する方向の1つ(第2方向)をY方向、Z方向及びY方向に直交する方向(第3方向)をX方向ということにする。
【0029】
この凹部30の先端には、曲面30aが設けられている。ここで、曲面30aとは、Z方向に延びる軸(Z軸)に対して傾斜を有する面であって、Z軸周りに湾曲する面のことをいう。図1及び図2に表した曲面30aは、凹部30の先端側(Z方向側)に設けられた球面状の部分である。
【0030】
セラミック誘電体基板11に内蔵された電極12は、この凹部30の曲面30aから露出する露出部分12aを有する。すなわち、凹部30の先端側に設けられた曲面30aの部分が電極12にまで達しており、この曲面30aから電極12の一部が露出する状態になる。
【0031】
導電性部材20は、凹部30の曲面30aにおいて電極12の露出部分12aと接する。これにより、導電性部材20は、電極12と電気的に導通することになる。このように曲面30aを有する凹部30を設けることで、電極12と導電性部材20との導通を得るためにセラミック誘電体基板11に設ける穿孔の深堀りを抑制して、機械的強度の低下及び電気的絶縁性の信頼性低下を防止する。
【0032】
図1に表したように、静電チャック110は、ベースプレート50の上に取り付けられている。ベースプレート50は、静電チャック110の取り付け基準になる。静電チャック110をベースプレート50に取り付けるには、シリコーン等の耐熱性樹脂、インジウム接合及びろう付など、使用温度帯やコスト等の観点から適宜選択される。
【0033】
ベースプレート50は、例えば、アルミニウム製の上部50aと下部50bとに分けられており、上部50aと下部50bとのあいだに連通路55が設けられている。連通路55は、一端側が入力路51に接続され、他端側が出力路52に接続される。
【0034】
ベースプレート50は、静電チャック110の温度調整を行う役目も果たす。例えば、静電チャック110を冷却する場合には、入力路51から冷却媒体を流入し、連通路55を通過させ、出力路52から流出させる。これにより、冷却媒体によってベースプレート50の熱を吸収し、その上に取り付けられた静電チャック110を冷却することができる。一方、静電チャック110を保温する場合には、連通路55内に保温媒体を入れることも可能である。または、静電チャック110やベースプレート50に発熱体を内蔵させることも可能である。このように、ベースプレート50を介して静電チャック110の温度が調整されると、静電チャック110で吸着保持される被吸着物Wの温度を調整することができる。
【0035】
また、セラミック誘電体基板11の第1主面11a側には、必要に応じてドット13が設けられており、ドット13の間に溝14が設けられている。この溝14は連通していて、静電チャック110に搭載された被吸着物Wの裏面と溝14とのあいだに空間が形成される。溝14には、ベースプレート50及びセラミック誘電体基板11を貫通する導入路53が接続されている。被吸着物Wを吸着保持した状態で導入路53からHe等の伝達ガスを導入すると、被吸着物Wと溝14との間に設けられた空間に伝達ガスが流れ、被吸着物Wを伝達ガスによって直接冷却することができるようになる。
【0036】
ここで、ドット13の高さ(溝14の深さ)、ドット13及び溝14の面積比率、形状等を適宜選択することで、被吸着物Wの温度や被吸着物Wに付着するパーティクルを好ましい状態にコントロールすることができる。
【0037】
次に、凹部30内の詳細について説明する。図2に表したように、凹部30は、例えば第1部分31と、第1部分よりも開口が小なる第2部分32と、を有する。第1部分31は、セラミック誘電体基板11の第2主面11bの側に設けられている。また、第2部分32は、第1部分31と電極12とのあいだに設けられている。
【0038】
第2部分32の先端側には、曲面30aが設けられている。曲面30aの部分は電極12まで達していて、曲面30aから電極12の一部が露出する(露出部分12a)。凹部30内には導電性部材20が形成され、電極12の露出部分12aと接触している。図2に表した導電性部材20は、凹部30の内壁の全体に形成されている。なお、導電性部材20は、必ずしも凹部30の内壁の全体に形成されている必要はなく、電極12と電気的に導通していれば内壁の一部に形成されていてもよい。
【0039】
電極12には、パラジウム等が用いられ、導電性部材20には、白金等が用いられる。凹部30内には、例えば導電性樹脂25が埋め込まれている。この導電性樹脂25は、凹部30の第2主面11b側に設けられたパッド21を接着する。これにより、パッド21は、凹部30内の導電性樹脂25及び導電性部材20を介して電極12と電気的に導通する状態になる。
【0040】
パッド21は、例えば第1部分31内に設けられており、セラミック誘電体基板11の第2主面11b側に露出する。凹部30が第1部分31と第2部分32とに分けられていることで、電極12との電気的導通を得るための第2部分32において後述するコンタクト電極61を接触させる必要がなく、第2部分32の損傷を抑制することができるようになる。
【0041】
パッド21の位置と対応するベースプレート50の上部50aにはコンタクト電極61が設けられている。ベースプレート50の上部50aには穴57が設けられ、この穴57に、絶縁材62で保持されたコンタクト電極61が取り付けられている。したがって、静電チャック110をベースプレート50の上部50aに取り付けると、コンタクト電極61がパッド21と接触し、これにより電気的な導通を得ることができるようになる。
【0042】
コンタクト電極61には、例えば可動式プローブが用いられている。これにより、コンタクト電極61とパッド21との確実な接触と、コンタクト電極61が接触することによるパッド21へのダメージを最小限に抑制している。なお、コンタクト電極61は、上記に限定されず、パッド21と単に接触するだけの構成や、パッド21と嵌合または螺合によって接続されるものなど、どのような形態であってもよい。
【0043】
次に、凹部30と露出部分12aとの関係について説明する。
図3は、凹部及び電極の露出部分の状態を例示する模式図である。
図3(a)は模式的断面図、図3(b)は図3(a)において第2主面からZ方向にみた模式的平面図である。
【0044】
凹部30は、Z方向に向けて円筒形状に設けられており、先端側に曲面30aが設けられている。図3に表した凹部30では、先端側に球面状の曲面30aが設けられている。ここで、球面状の曲面30aをY方向にみた断面での曲率半径をRとすると、凹部30の直径は2Rになる。
【0045】
凹部30の曲面30aの部分が電極12に達すると、電極12の一部が除去される。この曲面30aから露出する電極12の露出部分12aは、曲面30aに沿って現れることになる。図3(b)に表したように、凹部30の内側を第2主面11bからZ方向にみると、曲面30aに沿って現れる露出部分12aが円形状に見える状態となる。ここで、凹部30の先端が電極12を突き抜けていた場合、突き抜けた部分についてはセラミック誘電体基板11が露出する。この場合には、図3(b)に表したように、円形状に見える露出部分12aの中心部分にセラミック誘電体基板11が見える状態になる。つまり、露出部分12aはリング状に見える状態になる。
【0046】
本実施形態では、凹部30の曲面30aから露出する電極12について、最も第2主面11b側の位置121での径をL、第1主面11a側の位置122での径をMとする。また、電極12の第2主面11b側からZ方向に向けた凹部30の先端30pまでの距離をD3とする。距離D3は、凹部30を穿孔する際の深さの基準になる。
【0047】
図4は、凹部によって形成される電極及び各部の寸法を例示する模式図である。
前述した曲率半径R、露出部分12aの径L、M及び距離D3のほか、電極12の厚さをt、セラミック誘電体基板11の厚さのうち、電極12から第1主面側をD1、第2主面側をD2とする。また、曲面30aをY方向にみた断面形状について、露出部分12aの最も第2主面11b側の位置121での接線130と、電極12の第2主面11b側と、のなす角度をθとする。
【0048】
このような寸法において、本実施形態では、(1)L≦2R、(2)D3≦L/2、(3)D3≦R−(R/√2)、(4)θ<45°、の少なくとも1つを満たすように凹部30を形成する。これにより、凹部30を穿孔する際の深堀りを防止することができる。
【0049】
上記(1)の条件を満たすと、凹部30が露出部分12aの位置121から第1主面11aの側に曲率半径Rを超えて突出することがなく、セラミック誘電体基板11の機械的強度及び電気的絶縁の信頼性を十分に確保することができるようになる。
【0050】
上記(2)の条件を満たすと、凹部30が露出部分12aの位置121から第1主面11aの側にL/2を超えて突出することがなく、セラミック誘電体基板11の機械的強度及び電気的絶縁の信頼性を十分に確保することができるようになる。
【0051】
上記(3)の条件を満たすと、凹部30が露出部分12aの位置121から第1主面11aの側にR−(R/√2)を超えて突出することがなく、セラミック誘電体基板11の機械的強度及び電気的絶縁の信頼性を十分に確保することができるようになる。また、凹部30を形成する際、径Lの増加量に対して、距離D3の増加量が小さくなり、径Lによって距離D3を管理しやすくなって、深掘りのし過ぎを効果的に抑制できるようになる。
【0052】
上記(4)の条件を満たすと、凹部30を形成する際、深掘りのし過ぎを抑制できる。これにより、セラミック誘電体基板11への過度な穿孔を防止でき、セラミック誘電体基板11の機械的強度及び電気的絶縁の信頼性を十分に確保することができるようになる。
【0053】
特に、θ<45°であると、凹部30を形成する際、径Lの増加量に対して、距離D3の増加量が小さくなり、径Lによって距離D3を管理しやすくなって、凹部30の深掘りのし過ぎを効果的に抑制できるようになる。θの好ましい値は30°以下、より好ましくは20°以下、さらに好ましくは15°以下である。
【0054】
寸法の一例として、厚さD1は、例えば0.05ミリメートル(mm)〜0.5mm、厚さD2は厚さD1よりも厚く、例えば0.7mmである。また、距離D3は、厚さD1の例えば1/5以下、より好ましくは1/10以下、さらに好ましくは1/20以下である。また、厚さtは、0.001mm〜0.02mm、曲率半径Rは、例えば0.25mm〜1mm、好ましくは0.45mmである。
【0055】
ここで、電極12の露出部分12aの径Lは、凹部30の深さの基準である距離D3に対して一定の関係で変化する。
例えば、上記の寸法において、厚さtが十分薄い場合、次のような数式1が成り立つ。

D3=R−1/2×√(4×R−L) …(数式1)
【0056】
図5は、Rを0.45mmとした場合の、径Lと距離D3との関係を例示する図である。
図5に表した径Lと距離D3との関係は、上記(3)の条件を満たす場合の関係を示している。このように、径Lと距離D3とは数式1の関係に従う。したがって、凹部30を穿孔する際、径Lによって距離D3を管理することができる。
さらに、上記(3)の条件を満たしていると、径Lの変化量に対して距離D3の変化量を小さくすることができる。これにより、径Lの変化を管理すれば、距離D3を精細に管理することができ、微小な距離D3の管理が容易になる。
【0057】
図6は、曲率半径の相違による電極との接触状態の相違について説明する模式図である。
図6では、本実施形態に係る静電チャック110での凹部30と、参考例に係る静電チャック190での凹部39と、を並列に表している。図6(a)〜(d)にかけて凹部30及び39がそれぞれ深く設けられている。図6(a)〜(d)にかけて、凹部30及び39の先端の位置が、P1〜P4のように変化している。凹部30の曲面は球面状に形成されているのに対し、凹部39にはほとんど曲面が形成されていない。
【0058】
図6(a)に表した位置P1では、凹部30及び39の先端が電極12に達していない。図6(b)に表した位置P2では、凹部30及び39の先端が電極12内に達している。図6(c)に表した位置P3では、凹部30及び39の先端が電極12からわずかに突き抜けている。図6(d)に表した位置P4では、凹部30及び39の先端が電極12から完全に突き抜けている。
【0059】
図7は、凹部の先端位置に対する電極との露出面積及び強度の変化を例示する図である。
図7では、本実施形態に係る静電チャック110及び参考例に係る静電チャック190について示している。図7(a)は、凹部の先端位置Pに対する電極との露出面積Sの変化、図7(b)は、凹部の先端位置Pに対するセラミック誘電体基板の強度Iの変化を示している。図7に示されるP1〜P4は、図6(a)〜(d)に示される凹部の先端位置に対応している。
【0060】
先ず、図7(a)に基づき露出面積Sの変化について説明する。凹部30及び39の先端位置がP1の場合、凹部30及び39はそれぞれ電極12に到達していないため、露出面積Sは0である。凹部30及び39の先端位置がP2以降の場合、電極12との接触が発生する。ここで、凹部30及び39の先端位置が電極12の厚さの範囲内において、参考例に係る凹部39では、露出面積Sが急激に増加する。一方、本実施形態に係る凹部30では、先端側に曲面30aが形成されているため、露出面積Sは徐々に増加する。
【0061】
さらに凹部30及び39が深くなり、先端位置が電極12を貫通したあと(先端位置P3以降)は、ほぼ一定の露出面積Sになる。このように、凹部30の先端側に曲面30aが設けられた本実施形態では、凹部30が電極12に到達してから貫通するまで露出面積Sが徐々に増加するため、凹部30の調整が容易になる。
【0062】
次に、図7(b)に基づきセラミック誘電体基板の強度の変化について説明する。凹部30及び39の先端位置がP1〜P4へ進むにしたがい、セラミック誘電体基板の強度は低下していく。すなわち、凹部30及び39が深くなるほど、残りにセラミック誘電体基板の厚さが薄くなり、強度は低下していく。しかし、参考例に係る静電チャック190に比べ、本実施形態に係る静電チャック110では、同じ凹部の先端位置であってもセラミック誘電体基板の強度が高い。これは、凹部30の先端側に球面状の曲面30aが設けられているためである。
【0063】
ここで、静電チャックには、クーロン型とジョンセンラーベック型とがある。クーロン型の静電チャックは、広い温度範囲において被吸着物の着脱応答性に優れている。また、ジョンセンラーベック型の静電チャックは、クーロン型に比べて被吸着物の吸着力が強いという特徴を有する。本実施形態に係る静電チャック110は、クーロン型及びジョンセンラーベック型のいずれにも適用可能であるが、特にクーロン型に適している。すなわち、クーロン型の静電チャックにおいて吸着力を高めるためには電極12から第1主面11a側のセラミック誘電体基板11を薄くし、さらに電極12に印加する吸着保持用電圧80を高める必要がある。本実施形態に係る静電チャック110は、上記のような凹部30の形状によって穿孔による強度低下を抑制できるため、セラミック誘電体基板11を薄くする必要があるクーロン型であっても、セラミック誘電体基板11の十分な機械的強度を得ることが可能になる。
【0064】
図8及び図9は、凹部の曲率による強度の違いを説明する図である。
図8は、本実施形態と参考例との凹部の形状について例示した模式図、図9は、セラミック誘電体基板にかかる最大応力のシミュレーション結果である。
【0065】
図8(a)に表したように、本実施形態に係る静電チャック110では、セラミック誘電体基板11に設けた凹部30の直径が1mm、曲面30aの曲率半径が0.5mm、厚さD1が0.3mmとなっている。
【0066】
図8(b)に表したように、参考例に係る静電チャック190では、セラミック誘電体基板11に設けた凹部39の径が1mmφ、曲面39aの曲率半径が0.2mm、厚さD1が0.3mmとなっている。
【0067】
図9では、本実施形態に係る静電チャック110及び参考例に係る静電チャック190において、距離D3による最大応力のシミュレーション結果を示している。ここでは、凹部30及び39の中心を軸Oとして回転させた直径4mmのセラミック誘電体基板11を想定し、セラミック誘電体基板のヤング率を400GPa、ポアソン比を0.24として、凹部30及び39に1気圧を加えた場合のセラミック誘電体基板に生じる応力を計算している。このシミュレーション結果から、本実施形態に係る静電チャック110では、参考例に係る静電チャック190に比べて、最大応力は2.8分の1〜3.6分の1になることが分かった。つまり、凹部30の先端側に設けられた曲面30aによって、同じ深さであっても参考例に比べて強度を高くできることになる。
【0068】
次に、本実施形態に係る静電チャック110の製造方法について説明する。
図10〜図12は、本実施形態に係る静電チャックの製造方法を工程順に説明する模式的断面図である。
なお、図10〜図12では、凹部30を中心とした模式的拡大断面図を示している。
【0069】
先ず、図10(a)に表したように、セラミック誘電体基板11の第1主面11aと第2主面11bとのあいだに電極12を設けた積層構造体10を形成する。
積層構造体10を形成するには、先ず、セラミック誘電体基板のグリーンシートを形成する。例えばアルミナ粉末にバインダを加え、ボールミルで混合粉砕したのち、混合、脱泡を経て、グリーンシートを形成する。アルミナ粉末としては、例えば平均粒子径0.5μm以下、純度99.99パーセント(%)以上のものを用いる。アルミナ以外の助剤等を添加してもよい。グリーンシートの厚さは、例えば0.4mm以上1.0mm以下である。
【0070】
次に、電極12を形成するためのメタライズペーストを形成する。メタライズペーストは、アルミナ粉末に、所定量のパラジウム粉末を混ぜ、バインダ等を加え、混合してスラリー状のパラジウムペーストにする。ここで、焼結時のメタライズペーストの密着性向上のため、パラジウム粉末にアルミナ粉末を混ぜてもよい。
【0071】
次に、グリーンシートの上にメタライズペーストをスクリーン印刷法により印刷して、電極12のパターンを形成する。次いで、電極12のパターンを形成したグリーンシートの上下に別のグリーンシートを位置合わせしつつ、焼成後の寸法に必要な枚数を積層し、熱圧着し、積層シートを形成する。
【0072】
次に、積層シートを所定の形状(例えば、円板形状)に切断した後、1350℃以上1600℃以下にて焼成し、電極12も同時に焼成する。焼成は、大気雰囲気、還元雰囲気のどちらで行ってもよい。また、焼成後、さらにHIP処理を追加してもよい。
これにより、セラミック誘電体基板11の第1主面11aと第2主面11bとのあいだに電極12を設けた積層構造体10が完成する。
【0073】
次に、図10(b)に表したように、セラミック誘電体基板11の第2主面11bにドリル等によって座ぐり穴を形成する。座ぐり穴としては、第1部分31と、第1部分31の底部に第1部分31よりも開口の狭い第2部分32と、を形成する。なお、座ぐり穴は第2部分32の1つだけでもよい。第2部分32は、セラミック誘電体基板11の第2主面11bから電極12の手前まで形成される。
【0074】
次に、図11(a)〜(b)に表したように、第2部分32の底部を彫り込み、曲面30aを有する凹部30を形成する。彫り込みを行うには、先端に球状のビットTLBが設けられた回転式の切削ツールTLを用いる。球状のビットTLBを用いた切削によって、凹部30の先端には球状の曲面30aが形成される。ここで、切削ツールTLのビットTLBの回転軸は、凹部30を彫り込む方向(Z方向)の軸(Z軸)に対して傾斜させるとよい。これにより、凹部30の先端を回転するビットTLBで効率良く形成することができる。
【0075】
そして、切削ツールTLによる彫り込みを、凹部30の曲面30aが電極12に達するまで行う。これにより、図11(b)に表したように、凹部30の曲面30aに電極12の一部が露出することになる(露出部分12a)。
【0076】
次に、図12(a)に表したように、凹部30の内壁に導電性部材20を形成する。導電性部材20には、例えば白金ペーストが用いられる。すなわち、凹部30の内壁の少なくとも一部であって、曲面30aの露出部分12aに接触するよう例えば白金ペーストを塗布する。その後、900℃程度の温度で焼成することで、露出部分12aと接続された導電性部材20が形成される。
なお、導電性部材20は、白金ペーストのほか、めっき、CVD(Chemical Vapor Deposition)、導電性粒子入りの有機系樹脂等でもよい。
【0077】
次に、図12(b)に表したように、凹部30に例えば導電性樹脂25を埋め込み、この導電性樹脂25を介して凹部30の第1部分31にパッド21を取り付ける。なお、ここでは凹部30内に導電性樹脂25を埋め込み、パッド21を取り付けているが、電極12との導通の形態に応じて、これらのうち必要な構成を設けるようにすればよい。また、導電性樹脂25の代わりに、ろう付や半田を用いてもよい。
これにより、本実施形態の静電チャック110が完成する。
【0078】
ここで、凹部30の形成について説明する。
図13〜図18は、凹部の深さとZ方向にみた開口の状態との関係を説明する模式図である。
各図において、(a)は凹部をZ方向にみたときの平面図、(b)は凹部の断面図である。凹部は、図13〜図18にかけて深くなっている。
【0079】
先ず、図13に表したように、凹部30が電極12にまで達していない場合、凹部30をZ方向にみたとき、凹部30の直径2Rの内側にはセラミック誘電体基板11のみが現れる状態になる。
【0080】
次に、図14に表したように、凹部30が電極12まで達し、凹部30の先端が電極12内にある場合(距離D3(1))、凹部30をZ方向にみると、凹部30の直径2Rの内側に、電極12の露出部分12aが円形状に現れる状態になる。凹部30の距離D3(1)の場合、露出部分12aの円形状の径はL(1)である。
【0081】
次に、図15に表したように、凹部30の先端が電極12内において図14(b)に示す深さよりもさらに深くなった場合(距離D3(2))、凹部30をZ方向にみると、凹部30の直径2Rの内側に現れていた露出部分12aの円形状の径L(2)は、図14(a)に示された径L(1)よりも大きく現れることになる。
【0082】
次に、図16に表したように、凹部30の先端が電極12から僅かに突き抜けた場合(距離D3(3))、凹部30をZ方向にみると、凹部30の直径2Rの内側に現れていた露出部分12aの円形状の径L(3)は、図15(a)に示された径L(2)よりも大きく現れる。さらに、電極12から突き抜けた凹部30の先端部分に対応して、露出部分12aの中央部分にセラミック誘電体基板11が円形状(径M(1))に現れる状態になる。つまり、露出部分12aは、Z方向にみるとリング状に現れることになる。
【0083】
次に、図17に表したように、凹部30の先端が図16(b)に示す深さよりもさらに深くなった場合(距離D3(4))、凹部30をZ方向にみると、凹部30の直径2Rの内側に現れていた露出部分12aの円形状の径L(4)は、図16(a)に示された径L(3)よりも大きく現れることになる。さらに、露出部分12aの中央部分に現れていたセラミック誘電体基板11の円形状の径M(2)も、図16(a)に示されていた径M(1)よりも大きく現れることになる。
【0084】
次に、図18に表したように、凹部30の先端が電極12を完全に突き抜けた場合、すなわち、曲面30aの位置が電極12を超えた場合、凹部30をZ方向にみると、直径2Rの凹部30が現れる状態になる。
【0085】
このように、図13〜図18に表した凹部30の深さ(距離D3)に応じて、凹部30をZ方向にみた際の状態が変わることになる。したがって、凹部30を形成する際には、この凹部30をZ方向にみた際の状態、すなわち、径Lや径Mを管理することで、距離D3を正確に設定することが可能になる。
【0086】
例えば、凹部30の内側を顕微鏡で観察して状態を確認しながら凹部30を徐々に深くしていく。凹部30の内側を観察した際、図13(a)に表したように、凹部30の内側全体がセラミック誘電体基板11である場合には、凹部30の先端は未だ電極12に達していないと判断することができる。
【0087】
そして、図14(a)に表したように、凹部30の内側に円形状に露出部分12aが現れた場合には、凹部30の先端が電極12に達したと判断することができる。この際、露出部分12aの円形状の径Lを測定すると、凹部30の先端の深さ(距離D3)を上記(数1)によって算出することができる。
【0088】
図16(a)に表したように、凹部30の内側に露出部分12aが円形状に現れ、さらに露出部分12aの中央部分にセラミック誘電体基板11が円形状に現れた場合、凹部30の先端が電極12を突き抜けたと判断することができる。凹部30の先端が電極12を突き抜けても、露出部分12aがリング状に現れているあいだは曲面30aと電極12とが交差している状態である。露出部分12aがリング状に現れた場合には、露出部分12aの径Lで距離D3を算出できるほか、露出部分12aの中心部分に現れたセラミック誘電体基板11の径Mでも、例えば次のような数式2によって距離D3を算出することができる。

D3=t+R−1/2×√(4×R−M) …(数式2)
【0089】
本実施形態では、凹部30の内側に露出部分12aが円形状に現れてから(図13(a)参照)、リング状に現れた露出部分12aのリング状がなくなる直前の状態(図16(a)〜図17(a)参照)までのあいだになるよう凹部30を彫り込んでいく。これにより、凹部30の深掘りを抑制し、曲面30aに電極12を確実に露出させることができる。
【0090】
図19は、凹部の状態を例示する図である。
図19(a)は、凹部30の内側の状態を例示した光学顕微鏡写真である。また、図19(b)は、凹部30の断面を例示した電子顕微鏡写真である。図19(a)及び(b)ではそれぞれ表示倍率は異なるが、凹部30の深さは同じである。
図19(a)に表したように、凹部30の内側にリング状に例えば白く現れた部分が電極12の露出部分12aである。この際、露出部分12aの径Lを測定すれば、凹部30の深さに相当する距離D3をコントロールすることができる。
【0091】
図19(b)に表した凹部30では、第1部分31の底部に第2部分32が設けられている。この凹部30において、第2部分32に設けられた先端の曲面30aは、電極12に接している。このように、露出部分12aの径Lを管理すれば、凹部30の深掘りを抑制しつつ、凹部30の曲面30aから電極12を露出させ(露出部分12a)、導電性部材20との確実な電気的導通を得られることになる。
【0092】
また、上記(3)の条件を満たすことで、露出部分12aの径Lの変化に対して凹部30の距離D3の変化を小さくすることができる。すなわち、凹部30を彫り込む場合、凹部30の距離D3の増加量に比べて、露出部分12aの径Lの増加量が少ないため、径Lを参照しながら凹部30の微小な距離D3の調整を精度良く行うことが可能になる。
【0093】
次に、凹部30の他の形態について説明する。
図20は、凹部の他の形態を例示する模式的断面図である。
図20(a)及び(b)に表した形態は、凹部30に金属部材35が挿入されたものである。金属部材35には、セラミック誘電体基板11と線膨張係数が近い、例えばモリブデン、コバール、及び各種の合金が用いられる。金属部材35は、凹部30内の導電性部材20を介して挿入されている。これにより、金属部材35にコンタクト電極61を接触させることによって、外部と電極12との電気的導通を得られるようになる。
【0094】
図20(c)及び(d)に表した形態は、1つのパッド21に対して複数の凹部30が形成されたものである。1つのパッド21は、複数の凹部30に跨って形成されている。図20(c)及び(d)に例示した形態では、1つのパッド21に2つの凹部30が形成されている。これにより、パッド21にコンタクト電極61を接触させた際、複数の凹部30にそれぞれ設けられた導電性部材20を介して、電極12と確実に電気的導通を得ることができるようになる。
【0095】
図20(e)及び(f)に表した形態は、1つの第1部分31に対して複数の第2部分32が形成されたものである。すなわち、第1部分31の底部に複数の第2部分32が形成されている。図20(e)及び(f)に例示した形態では、1つの第1部分31に2つの第2部分32が形成されている。導電性部材20は、各第2部分32の内壁から第1部分31の底部にまで延在している。コンタクト電極61は、この導電性部材20が延在している第1部分31の底部において接触し、電極12との電気的導通を得ている。
【0096】
図20(g)及び(h)に表した形態は、セラミック誘電体基板11の第2主面にパッドが形成され、このパッド21と凹部30に設けられた導電性部材20とが接触しているものである。これにより、パッド21にコンタクト電極61を接触させると、電極12との電気的導通を得ることができる。
【0097】
次に、凹部の曲面の他の例を説明する。
図21は、円錐形状の曲面を有する凹部を説明する模式図である。先に説明した凹部30の曲面30aは球面状であるが、図21に表した凹部70の曲面70aは、円錐形状になっている。このような凹部70を形成するには、図11に例示した切削ツールTLの先端に設けるビットTLBとして円錐形状のものを使用し、切削ツールTLをZ方向に向けて進めていく。これにより、凹部70の先端に円錐形状の曲面70aの部分が形成される。
【0098】
本実施形態では、円錐形状の曲面70aから電極12を露出させる。図21(b)に表した凹部70の内側の状態は、凹部70の深さである距離D3によって変化する。この状態の変化は、図13〜図18に表した例と同様である。
【0099】
ここで、曲面70aをY方向にみた断面形状について、電極12の露出部分12aの最も第2主面11b側の位置121での接線130と、電極12の第2主面11b側と、のなす角度θは、45°未満にすることが望ましい。これにより、露出部分12aの径Lの変化に対して凹部30の距離D3の変化を小さくすることができる。すなわち、凹部30を彫り込む場合、凹部30の距離D3の増加量に比べて、露出部分12aの径Lの増加量を少なくでき、径Lを参照しながら凹部30の微小な距離D3の調整を精度良く行うことが可能になる。
【0100】
図22は、円錐台形状の曲面を有する凹部を説明する模式図である。図22に表した凹部71の曲面71aは、円錐台形状になっている。このような凹部71を形成するには、図11に例示した切削ツールTLの先端に設けるビットTLBとして円錐台形状のものを使用し、切削ツールTLをZ方向に向けて進めていく。これにより、凹部71の先端に円錐台形状の曲面71aの部分が形成される。
【0101】
本実施形態では、円錐台形状の曲面71aから電極12を露出させる。図22(b)に表した凹部71の内側の状態は、凹部71の深さである距離D3によって変化する。この状態の変化は、図13〜図18に表した例と同様である。
【0102】
ここで、曲面71aをY方向にみた断面形状について、電極12の露出部分12aの最も第2主面11b側の位置121での接線130と、電極12の第2主面11b側と、のなす角度θは、45°未満にすることが望ましい。これにより、露出部分12aの径Lの変化に対して凹部30の距離D3の変化を小さくすることができる。すなわち、凹部30を彫り込む場合、凹部30の距離D3の増加量に比べて、露出部分12aの径Lの増加量を少なくでき、径Lを参照しながら凹部30の微小な距離D3の調整を精度良く行うことが可能になる。
【0103】
以上説明したように、本実施形態によれば、セラミック誘電体基板11の内部の電極12への導通を確実に確保するとともに、凹部30の穿孔によるセラミック誘電体基板11の機械的強度の低下、セラミック誘電体基板11の電気的絶縁の信頼性低下を最小限にすることができるようになる。
【0104】
以上、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0105】
10…積層構造体、11…セラミック誘電体基板、11a…第1主面、11b…第2主面、12…電極、12a…露出部分、13…ドット、14…溝、20…導電性部材、21…パッド、25…導電性樹脂、30…凹部、30a…曲面、30p…先端、31…第1部分、32…第2部分、35…金属部材、50…ベースプレート、50a…上部、50b…下部、51…入力路、52…出力路、53…導入路、55…連通路、57…穴、61…コンタクト電極、62…絶縁材、70…凹部m70a…曲面、71…凹部、71a…曲面、80…吸着保持用電圧、θ…角度、110,190…静電チャック、121,122…位置、130…接線、D1,D2,t…厚さ、D3…距離、L,M…径、R…曲率半径、S…露出面積、TL…切削ツール、TLB…ビット、W…被吸着物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被吸着物を載置する第1主面と、前記第1主面とは反対側の第2主面と、を有するセラミック誘電体基板と、
前記セラミック誘電体基板の前記第1主面と前記第2主面とのあいだに介設された電極と、
前記セラミック誘電体基板の前記第2主面に形成された凹部の中に設けられた導電性部材と、
を備え、
前記凹部の先端は、曲面を有し、
前記電極は、前記曲面において露出する露出部分を有し、
前記導電性部材は、前記露出部分において前記電極と接触していることを特徴とする静電チャック。
【請求項2】
前記曲面は、球面状であり、
前記第2主面から前記第1主面に向かう第1方向にみたときの前記露出部分の径をL、前記曲面の曲率半径をRとしたとき、L≦2Rであることを特徴とする請求項1記載の静電チャック。
【請求項3】
前記第2主面から前記第1主面に向かう第1方向にみたときの前記露出部分の径をLとし、前記第1方向における前記露出部分の前記第2主面側と前記凹部の先端との間隔をD3としたとき、D3≦L/2であることを特徴とする請求項1記載の静電チャック。
【請求項4】
前記曲面は、球面状であり、
前記曲面の曲率半径をRとし、前記第2主面から前記第1主面に向かう第1方向における前記露出部分の前記第2主面側と前記凹部の先端との間隔をD3としたとき、D3≦R−(R/√2)であることを特徴とする請求項1記載の静電チャック。
【請求項5】
前記第2主面から前記第1主面に向かう第1方向と直交する方向を第2方向とし、前記第1方向及び前記第2方向と直交する方向を第3方向として、前記凹部を前記第2方向にみたときの断面において、前記曲面の外形線と、前記露出部分と、の接点における前記曲面の接線の前記第3方向に対する角度をθとしたとき、θ<45°であることを特徴とする請求項1記載の静電チャック。
【請求項6】
前記凹部は、前記第2主面の側に設けられた第1部分と、前記第1部分と前記電極とのあいだに設けられ前記第1部分よりも開口が小なる第2部分と、を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の静電チャック。
【請求項7】
前記凹部は、前記第1部分と前記電極とのあいだに複数の前記第2部分を有することを特徴とする請求項6記載の静電チャック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−212735(P2012−212735A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76775(P2011−76775)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】