説明

静電吸引型インクジェットヘッド

【課題】 低電圧の駆動回路を実現し、高解像度の印字特性を得ることができ、また高密度実装や低コスト化を図ることができる静電吸引型インクジェットヘッドを得る。
【解決手段】 熱毛細管現象を利用してインク液面をインク流路2の先端まで移動させることにより液面と対向電極10の距離を接近させ、距離の2乗に反比例して増大するクーロン力によってインクを飛翔させる。インク供給部1のインク流路2を画素ごとの微細幅流路にすることにより、画像情報に応じて選択的にインク滴を飛翔させて印字を行うように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱毛細管現象によりインクを選択的に流路先端に移動させ、対向電極との間の静電力を増大させ、インク滴を飛翔させて印字する静電吸引型インクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、帯電したインク滴又は帯電した顔料を含む溶媒滴を静電力により吸引して、被記録媒体上に着弾させて印字を行う方式が提案されている。
【0003】
たとえば特許文献1には、インク液を帯電させて導電性インクを静電吸引する静電吸引方式インクジェット装置が記載されている。この装置では、インクは毛細管現象によりインク供給路を伝わってノズルまで移送される。このインクは、対向電極部に印加された数千Vのバイアス電圧によって凸状のインクメニスカスが形成される。そして、静電界印加用電極部に数百Vの高圧電源部から信号電圧を印加することで、バイアス電圧との重畳電界によってインクが被記録媒体に吐出され、印字画像が形成される。
【0004】
また、特許文献2には、帯電顔料を含む溶媒滴(絶縁性インク)を静電吸引する装置が記載されている。この装置では、帯電した顔料を含む溶媒に電場を加えると、帯電顔料が電気泳動により、電界の集中したインク吐出部に集中する。この帯電顔料の集中に合せて、インクジェット起動電極に高電圧を印加すると、帯電顔料が周囲の溶媒を引き連れて飛翔し、被記録媒体上に着弾し、印字画像が形成される。
【0005】
【特許文献1】特開平8−238774号公報
【特許文献2】特開平8−174815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した従来のインクジェット装置では、バイアス電圧として、「kV」オーダーの電圧を用いても、さらに信号電圧として、数百V程度の高電圧が必要になる。
【0007】
さらに、この高電圧は画素に対応した個別電極にそれぞれ印加される必要があり、画像情報に応じてこの高電圧をON/OFFするスイッチング素子が個別電極数分必要になり、低コスト化の障害となっている
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、低電圧の駆動回路を実現し、さらに高解像度の印字特性を得て、また高密度実装や低コスト化を図ることができる静電吸引型インクジェットヘッドを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的に応えるために本発明(請求項1記載の発明)に係る静電吸引型インクジェットヘッドは、熱毛細管現象(マランゴニ効果)を利用してインク液面をインク流路の先端まで移動させることにより液面と対向電極の距離を接近させ、距離の2乗に反比例して増大するクーロン力によってインクを飛翔させるとともに、インク供給部のインク流路を画素ごとの微細幅流路にすることにより、画像情報に応じて選択的にインク滴を飛翔させて印字を行うように構成したことを特徴とする。
【0010】
本発明(請求項2記載の発明)に係る静電吸引型インクジェットプリントヘッドは、請求項1において、インク供給部を構成する部材を、親水性の材質を使用するか、または親水コーティングを施すことにより、流路の内壁及び、天板内面は親水性とするとともに、流路先端の端面には、撥水コーティングを施し、流路を移動してきたインクが隣接した流路に滲み出さないように構成したことを特徴とする。
【0011】
本発明(請求項3記載の発明)に係る静電吸引型インクジェットプリントヘッドは、請求項1または請求項2において、非印字時においてヒーターをOFFしたときには、圧力調整器により各インク流路におけるインク液面が所定の待機位置に位置するようにインク室の圧力を調整することを特徴とする。
【0012】
本発明(請求項4記載の発明)に係る静電吸引型インクジェットプリントヘッドは、請求項1、請求項2または請求項3において、インク流路の先端部を鋭角化したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように本発明に係る静電吸引型インクジェットヘッドによれば、静電吸引型インクジェットヘッドにおいて、熱毛細管現象を利用しインクを選択的に流路先端に移動させ、対向電極との距離の縮小化により増大した静電力によりインク滴を飛翔させて印字するようにしたので、簡単な構成であるにもかかわらず、以下に述べる優れた効果を奏する。
【0014】
すなわち、本発明によれば、20〜30V程度の低電圧で印字のON/OFF制御が可能となる。
また、エッチング、またはMEMS技術により容易に微細流路が形成可能であり、個別ヒーターも印刷方式工程で形成可能であるから、容易に高密度化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1(a),(b)は本発明に係る静電吸引型インクジェットヘッドの一実施形態を示す。これらの図において、符号1はインク供給部で、このインク供給部1は、親水性基材(例えばガラス)上に、幅w、深さdとなる溝を化学エッチング法、又は機械的方法により形成することにより構成されたインク流路2を備え、またその後方にはインク室3が形成されている。このインク室3はこの基材と一体に形成するか、別部材で形成したものを当接するとよい。
【0016】
さらに、これらの上に、各インク流路2に対応した位置に薄膜ヒーター4を形成した天板を接合する。
ここで、この天板も親水性基材を用いる。なお、基材が親水性でない場合は、上記の溝の内側、この天板の内側に親水コーティングを施しても良い。但し、インク流路2の端面には撥水コーティングを施し、インク流路2先端に移動して来たインクが端面から隣接した流路に滲み出さないようにする。
【0017】
天板上の薄膜ヒーター4は個別制御SW5を経由してヒーター用電源6(20〜30V)に接続する。インク室3の背面に、背面電極7を形成し、接地する。
なお、この電極7はインク室3の背面に限定するものではなく、流路2の内側にメッキ等によって形成してもよい。
【0018】
対向電極10と印字用紙11をインク流路2の端面前方に位置させ、対向電極10は制御SWを経由してバイアス電源13(2〜3kV)に接続する。
【0019】
なお、後方のインク室3はインクチューブ9を通じて、インクタンク(図示せず)、圧力調整器(図示せず)に接続されており、インク室3内の圧力は、ヒーター4がOFFの状態で流路内のインク液面の先端が、図1(b)中のA−A’線の位置に来るように圧力を調整する。
【0020】
このような状態において、印字する画素に対応するヒーター4をONしてインク流路2を加熱すると、加熱された部分の表面張力が低下(熱毛細管現象またはマランゴニ効果という。)し、流路前方の低温部分のインク流路2にインクが流れ出し、インク流路2の端面に到達する。
【0021】
電荷(導電性インクの場合は注入電荷、帯電顔料インクの場合は帯電顔料)が流路先端のインク表面に集まり、電界の集中が発生する。
その結果、導電性インクの場合はインク表面に作用する静電力が表面を不安定にし、曳き糸の成長を促し(静電曳き糸現象)、ついにはテーラーコーンと呼ばれる半月状の液の頂部より引き出され、細い流体ジェットとなる。
【0022】
帯電顔料インクの場合は対向電極と凝集した顔料が持つ電荷との間に作用するクーロン力がインク液の表面張力を超えた時点で、周囲の溶媒を引き連れて飛翔を開始する。
そして、いずれの場合も対向電極10に向けて飛翔し、その前方に位置する印字用紙11上に記録される。
【0023】
ここで、溝の幅wは600dpiのラインヘッドを想定すると、実装密度より10〜30μmとなる。
【0024】
また、導電性流体に電界が作用した時のインク成長(液面の波立ち)は、外力として静電力を付加した流体運動方程式で記述される電気流体力学表面波の1つであると考えられる。(画像電子学会誌第17巻第4号1988年p185〜p193参照)
【0025】
この運動方程式より、溝の深さdは次式(1)で表される。
d>(πγ/ε0)・E0-2 ・・・(1)
ただし、γ:表面張力[N/m]、ε0:真空の誘電率[F/m]、E0:電界の強さ[V/m]
【0026】
これに、一般的な動作条件をあてはめて計算すると
d>71.0[μm]
ただし、γ=20[MN/m]、E0=10000000[V/m]
となる。
【0027】
インクの移動長Lが長くなると液滴の移動時間が増大し、印字速度が遅くなる。
しかし、印字のON/OFF制御の電圧幅の許容値は大きくなる。
このバランスをとり、インクの移動の長さ:Lは0.1〜0.5mmとする。
【0028】
上述した構成によれば、従来の静電吸引型インクジェットヘッドと異なり、薄膜ヒーター4の動作に必要な低電圧、すなわち20〜30V程度の低電圧で印字のON/OFF制御が可能となる。
また、上述した構成では、エッチング、またはMEMS技術により容易に微細流路が形成可能であり、個別ヒーター4も印刷方式工程で形成可能であるから、容易に高密度化が可能となる。
【0029】
なお、本発明は上述した実施の形態で説明した構造には限定されず、静電吸引型インクジェットヘッドを構成する各部の形状、構造等を適宜変形、変更し得ることはいうまでもない。
【0030】
たとえば図2に示すように、インク流路2の先端部を先鋭化するように構成するとよい。このように構成すれば、電荷の集中、ひいては電界の集中を促し、インク滴の飛翔開始を容易にする。
【0031】
また、図3に示すように、インク供給部1のインク流路2において、天板に設けたヒーター4に対応する部分の流路2の流路幅を幅狭に形成するように構成する等の変形例も考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】(a)は本発明に係る静電吸引型インクジェットヘッドの一実施形態を示す概略斜視図、(b)はそのインク供給部の平面図、正面図および左、右側面図である。
【図2】本発明に係る静電吸引型インクジェットヘッドの別の実施形態を示すインク供給部の平面図、正面図および左、右側面図である。
【図3】本発明に係る静電吸引型インクジェットヘッドにおいてインク流路の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1…インク供給部、2…インク流路、3…インク室、4…薄膜ヒーター、5…個別制御SW、6…ヒーター用電源、7…背面電極、9…インクチューブ、10…対向電極、11…印字用紙、13…バイアス電源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱毛細管現象を利用してインク液面をインク流路の先端まで移動させることにより液面と対向電極の距離を接近させ、距離の2乗に反比例して増大するクーロン力によってインクを飛翔させるとともに、
インク供給部のインク流路を画素ごとの微細幅流路にすることにより、画像情報に応じて選択的にインク滴を飛翔させて印字を行うように構成したことを特徴とする静電吸引型インクジェットプリントヘッド。
【請求項2】
請求項1記載の静電吸引型インクジェットヘッドにおいて、
インク供給部を構成する部材を、親水性の材質を使用するか、または親水コーティングを施すことにより、流路の内壁及び、天板内面は親水性とするとともに、
流路先端の端面には、撥水コーティングを施し、流路を移動してきたインクが隣接した流路に滲み出さないように構成したことを特徴とする静電吸引型インクジェットヘッド。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の静電吸引型インクジェットヘッドにおいて、
非印字時においてヒーターをOFFしたときには、圧力調整器により各インク流路におけるインク液面が所定の待機位置に位置するようにインク室の圧力を調整することを特徴とする静電吸引型インクジェットヘッド。
【請求項4】
請求項1、請求項2または請求項3記載の静電吸引型インクジェットヘッドにおいて、
インク流路の先端部を鋭角化したことを特徴とする静電吸引型インクジェットヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−233907(P2009−233907A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80019(P2008−80019)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】