説明

静電容量素子

【課題】 生産性に優れる温度補償型の静電容量素子を提供する。
【解決手段】 静電容量素子10は、基板20と、該基板20の上に位置する第1コンデンサ30と、基板20の上に位置し且つ第1コンデンサ30と電気的に並列接続されている第2コンデンサ40とを有する。第1コンデンサ30は、第1下部電極31と、第1誘電体32と、第1上部電極33とで構成される。第2コンデンサ40は、第1下部電極31と組成の異なる第2下部電極41と、第1誘電体32と同組成である第2誘電体42と、第2上部電極43とで構成される。第1コンデンサ30の温度が上昇する際に変化する静電容量と、第2コンデンサ40の温度が上昇する際に変化する静電容量とで正負が異なっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電容量素子に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルタなどの種々の電子素子には、多数のコンデンサが用いられている。コンデンサの静電容量は、当該コンデンサの温度によって変化する場合がある。フィルタに用いられているコンデンサの静電容量が変化すると、当該フィルタの通過帯域が変化してしまう。そこで、温度変化によるコンデンサの容量変化を補償する技術が開発されている。その技術の1つが、例えば特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−75783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載された技術では、コンデンサの誘電体の組成を変えたものを積層することで、静電容量の温度変化を互いに補償している。異なる組成の誘電体を積層して1つのコンデンサとして形成するので、製造が煩雑になっていた。
【0005】
本発明は、上述の事情のもとで考え出されたものであって、生産性に優れる温度補償型の静電容量素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の静電容量素子は、基板と、該基板の上に位置する第1コンデンサと、前記基板の上に位置し且つ前記第1コンデンサと電気的に並列接続されている第2コンデンサとを有し、前記第1コンデンサは、第1下部電極と、第1誘電体と、第1上部電極とで構成され、前記第2コンデンサは、前記第1下部電極と組成の異なる第2下部電極と、前記第1誘電体と同組成である第2誘電体と、第2上部電極とで構成され、前記第1コンデンサの温度が上昇する際の静電容量の変化量と、前記第2コンデンサの温度が上昇する際の静電容量の変化量とで変化の正負が異なっている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、下部電極の組成を異なるものとすることで、第1コンデンサと第2コンデンサとの温度変化に対する静電容量の変化量の正負を変えることができるので生産性に優れる温度補償型の静電容量素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る静電容量素子の第1の実施形態の概略構成を示す平面図である。
【図2】図1に示したII−II線に沿った断面図である。
【図3】本発明に係る静電容量素子の第2の実施形態の概略構成を示す平面図である。
【図4】図3に示したIV−IV線に沿った断面図である。
【図5】本発明に係る静電容量素子の第3の実施形態の概略構成を示す平面図である。
【図6】図5に示したVI−VI線に沿った断面図である。
【図7】第1コンデンサの実施例の静電容量特性を示すグラフである。
【図8】第2コンデンサの実施例の静電容量特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<静電容量素子の第1の実施形態>
本発明の静電容量素子の実施形態の一例である静電容量素子10について、図面を参照しつつ説明する。図1,2に示した静電容量素子10は、支持基板20と、第1コンデンサ30と、第2コンデンサ40と、配線導体50と、保護層60とを含んで構成されている。
【0010】
支持基板20は、第1コンデンサ30、第2コンデンサ40、配線導体50、および保護層60の支持部材となるものである。この支持基板20としては、例えばアルミナなどのセラミック基板、サファイアなどの単結晶基板、シリコンなどの半導体基板などが挙げられる。本実施形態では、支持基板20としてシリコン基板を採用している。この支持基板20の一主面の上(図2の上方向)には、第1コンデンサ30および第2コンデンサ40が支持されている。
【0011】
第1コンデンサ30は、第1下部電極31と、第1誘電体32と、第1上部電極33とを積層して構成されている。この第1下部電極31と第1上部電極33とは、第1誘電体32を間に介して対向している。
【0012】
第2コンデンサ40は、第2下部電極41と、第2誘電体42と、第2上部電極43とを積層して構成されている。この第2下部電極41と第2上部電極43とは、第2誘電体42を間に介して対向している。本実施形態では、第1下部電極31と第2下部電極41とを異なる組成の材料を採用し、第1誘電体32と第2誘電体42とを同じ組成の材料を採用している。
【0013】
上述の第1下部電極31および第2下部電極41としては、種々の導電材料が採用可能である。本実施形態では、第1誘電体32および第2誘電体42を高温スパッタリングで形成することから高融点の導電材料を採用している。高融点の導電材料としては、例えば白金(Pt)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)などが挙げられる。本実施形態では、第1下部電極31として白金を採用し、第2下部電極41としてイリジウムを採用している。本実施形態では、下部電極として白金を採用した第1コンデンサ30は温度が上昇する際に静電容量が減少し、下部電極としてイリジウムを採用した第2コンデンサ40は温度が上昇する際に静電容量が増加する。
【0014】
上述の第1誘電体32および第2誘電体42としては、種々の誘電体材料が採用可能である。この誘電体材料としては、例えば、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、およびチタン酸ストロンチウムバリウム(以下、BST)などが挙げられる。本実施形態では、第1誘電体32および第2誘電体42としてBSTを採用している。また、本実施形態では、第1誘電体32および第2誘電体42を高温下でスパッタリングによって形成している。このスパッタリングの際の温度としては、例えば500℃〜800℃の範囲が挙げられる。
【0015】
上述の第1上部電極33および第2上部電極43としては、種々の導電材料が採用可能である。この導電材料としては、例えば白金(Pt)、イリジウム(Ir)、酸化イリジウム(IrO)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、およびこれらの金属を積層したものなどが挙げられる。本実施形態では、第1上部電極33および第2上部電極43としてIrOとIrとを誘電体側から順次積層した構成を採用している。
【0016】
配線導体50は、第1コンデンサ30および第2コンデンサ40を電気的に並列に接続
する機能を担っている。この配線導体50は、第1導体51と、第2導体52とを含んで構成されている。この第1導体51は、第1下部電極31と、第2下部電極41とを電気的に接続している。本実施形態の第1導体51は、第1下部電極31および第2下部電極41に跨って位置し、各電極に接している。第2導体52は、第1上部電極33と、第2上部電極43とを電気的に接続している。このようにして配線導体50は、第1コンデンサ30および第2コンデンサ40を電気的に並列接続している。
【0017】
保護層60は、第1コンデンサ30および第2コンデンサ40を外部から保護する機能を担っている。保護層60は、第1コンデンサ30および第2コンデンサ40を覆っている。この保護層60は、第1上部電極33および第2上部電極43の上に貫通孔を有している。第2導体52は、保護層60の貫通孔を通じて第1上部電極33および第2上部電極に接続されている。この保護層60として採用可能な材料としては、例えば、酸化ケイ素(SiO)、窒化ケイ素(Si)などの無機物材料、およびポリイミドなどの樹脂材料などが挙げられる。
【0018】
本実施形態の静電容量素子10は、静電容量素子10の温度が上昇する際の、第1コンデンサ30の温度が上昇する際の静電容量の変化量と、第2コンデンサ40の温度が上昇する際の静電容量の変化量との正負が異なっている。第1コンデンサ30と、第2コンデンサ40とを電気的に並列に接続することによって、温度変化に伴う静電容量の変化を低減することができる。
【0019】
この静電容量素子10は、第1誘電体32および第2誘電体42を共通の材料を採用している。このため、第1誘電体32および第2誘電体42を同時に製造することができるので、第1誘電体32および第2誘電体42をそれぞれ個別の材料で形成している場合に比べて容易に製造することができる。すなわち、一般には電極などの導体を形成するプロセスに比べて誘電体を形成するプロセスの方が複雑であるため、比較的製造容易な導体を個別の材料で形成したとしても、全体としての生産性を高めることができる。
【0020】
<静電容量素子の第2の実施形態>
本発明の静電容量素子の実施形態の他の例である静電容量素子10Aについて図面を参照しつつ、説明する。図3,4に示した静電容量素子10Aは、支持基板20と、第1コンデンサとしての第1コンデンサ部30Aと、第2コンデンサとしての第2コンデンサ部40Aと、配線導体50Aと、保護層60Aとを含んで構成されている。
【0021】
この静電容量素子10Aでは、第1下部電極31Aと第1上部電極33Aとが対向する領域が第1コンデンサとして機能し、第2下部電極41Aと第2上部電極43Aとが対向する領域が第2コンデンサとして機能している。本実施形態では、第1コンデンサとして機能する部位を第1コンデンサ部30Aとし、第2コンデンサとして機能する部位を第2コンデンサ部40Aとしている。
【0022】
第1下部電極31Aと第1上部電極33Aとの間、および第2下部電極41Aと第2上部電極43Aとの間には、誘電体70Aが位置している。この誘電体70Aは、第1誘電体と第2誘電体とが一体的に構成されているものである。言い換えると、この誘電体70Aのうち、第1下部電極31Aと第1上部電極33Aとの間に位置する部位が第1誘電体として機能し、第2下部電極41Aと第2上部電極43Aとの間に位置する部位が第2誘電体として機能する。
【0023】
第1導体51A、第2導体52A、および保護層60Bは、静電容量素子10の各素子に対応している。
【0024】
<静電容量素子の第3の実施形態>
本発明の静電容量素子の実施形態の他の例である静電容量素子10Bについて図面を参照しつつ、説明する。図5,6に示した静電容量素子10Bは、支持基板20と、第1コンデンサとしての第1コンデンサ部30Bと、第2コンデンサとしての第2コンデンサ部40Bと、配線導体50Bと、保護層60Bとを含んで構成されている。また、静電容量素子10Bでは、第1下部電極31Bの端部が第2下部電極41Bの上に重なっている。
【0025】
この静電容量素子10Bでは、第1下部電極31Bと第1上部電極33Bとが対向する領域が第1コンデンサとして機能し、第2下部電極41Bと第2上部電極43Bとが対向する領域が第2コンデンサとして機能している。本実施形態では、第1コンデンサとして機能する部位を第1コンデンサ部30Bとし、第2コンデンサとして機能する部位を第2コンデンサ部40Bとしている。
【0026】
第1下部電極31Bと第1上部電極33Bとの間、および第2下部電極41Bと第2上部電極43Bとの間には、誘電体70Bが位置している。この誘電体70Bは、第1誘電体と第2誘電体とが一体的に構成されているものである。言い換えると、この誘電体70Bのうち、第1下部電極31Bと第1上部電極33Bとの間に位置する部位が第1誘電体として機能し、第2下部電極41Bと第2上部電極43Bとの間に位置する部位が第2誘電体として機能する。
【0027】
第1導体51B、第2導体52B、および保護層60Bは、静電容量素子10の各素子に対応している。
【実施例】
【0028】
図1,2に示した静電容量素子10を作製し、静電容量の温度変化に対する変動を測定した。実験条件としては、以下の数値を採用した。
【0029】
支持基板20として表面に熱酸化膜を3000Å形成したシリコン基板を採用し、第1下部電極31としてイリジウム(Ir)を採用し、第2下部電極41として白金(Pt)を採用し、第1誘電体32および第2誘電体42としてBSTを採用し、第1上部電極33および第2上部電極43としてIrOとIrとを誘電体側から順次積層した構成を採用し、保護層60としてSiOを採用した。
【0030】
また、第1下部電極31は、面積が540μm×670μmとなり、厚みが100nmとなるように形成した。第1誘電体32は、面積が400μm×400μmとなり、厚み100nmがとなるように形成した。第1上部電極33は、面積が280μm×280μmとなり、IrO層の厚みが100nm、Ir層の厚みが30nmとなるように形成した。第2下部電極41は、面積が540μm×670μmとなり、厚みが100nmとなるように形成した。第2誘電体42は、面積が400μm×400μmとなり、厚みが100nmとなるように形成した。第2上部電極43は、面積が280μm×280μmとなり、IrO層の厚みが100nm、Ir層の厚みが30nmとなるように形成した。
【0031】
なお、第1下部電極31と支持基板20との間、および第2下部電極41と支持基板20との間には、密着層として厚み20nmのTiOxからなる層を形成した。
【0032】
上述の条件で静電容量素子10を作製し、第1コンデンサ30および第2コンデンサ40の静電容量の温度変化に対する変動をそれぞれ測定した。本実施例での測定には、LCRメータ(アジレント社製4284A)を用いた。この測定では、30mVrmsの交番電圧を1kHzの周波数で印加している。測定した結果を図7,8に示す。図7は、第1コンデンサ30の静電容量と、第1コンデンサ30の温度との相関関係を示すグラフであ
る。図8は、第2コンデンサ40の静電容量と、第2コンデンサ40の温度との相関関係を示すグラフである。図7,8において縦軸は静電容量を表し、横軸は温度を表している。
【0033】
図7,8に示した結果から、第1コンデンサ30は温度が上昇する際に静電容量が増加し、すなわち静電容量の変化量が正であり、第2コンデンサ40は温度が上昇する際に静電容量が減少し、すなわち静電容量の変化量が負であることが分かった。よって、第1コンデンサ30の温度が上昇する際の静電容量の変化量と、第2コンデンサ40の温度が上昇する際の静電容量の変化量との変化の正負が異なっていることが分かった。その結果、第1コンデンサ30と、第2コンデンサ40とを電気的に並列に接続することによって、温度変化に伴う静電容量の変化量を低減できる。
【0034】
なお、本発明は上記の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を施すことは何等差し支えない。
【0035】
例えば、静電容量素子10,10A,10Bでは、第1上部電極33,33A,33Bと第2上部電極43,43A,43Bとが独立しているが、一体的に構成され、1つの上部電極であってもよい。第1上部電極と第2上部電極とが1つの上部電極として構成されている場合、第1下部電極および第2下部電極を基準にして第1コンデンサ部と第2コンデンサ部とに区別される。
【0036】
また、所定の基準温度において、第1コンデンサ30の静電容量と第2コンデンサ40の静電容量とを異ならせてもよい。
【符号の説明】
【0037】
10,10A,10B・・・静電容量素子
20・・・支持基板
30・・・第1コンデンサ
30A,30B・・・第1コンデンサ
31,31A,31B・・・第1下部電極
32・・・第1誘電体
33,33A,33B・・・第1上部電極
40・・・第2コンデンサ
40A,40B・・・第2コンデンサ部
41,41A,41B・・・第2下部電極
42・・・第2誘電体
43,43A,43B・・・第2上部電極
50,50A,50B・・・配線導体
51,51A,51B・・・第1導体
52,52A,52B・・・第2導体
60,60A,60B・・・保護層
70A,70B・・・誘電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板の上に位置する第1コンデンサと、前記基板の上に位置し且つ前記第1コンデンサと電気的に並列接続されている第2コンデンサとを有し、
前記第1コンデンサは、第1下部電極と、第1誘電体と、第1上部電極とで構成され、
前記第2コンデンサは、前記第1下部電極と組成の異なる第2下部電極と、前記第1誘電体と同組成である第2誘電体と、第2上部電極とで構成され、
前記第1コンデンサの温度が上昇する際の静電容量の変化量と、前記第2コンデンサの温度が上昇する際の静電容量の変化量との変化の正負が異なっている、静電容量素子。
【請求項2】
前記第1誘電体は、前記第2誘電体と一体的に構成されている、請求項1に記載の静電容量素子。
【請求項3】
前記第1上部電極は、前記第2上部電極と一体的に構成されている、請求項1に記載の静電容量素子。
【請求項4】
前記第1下部電極は、前記第2下部電極と接している、請求項1に記載の静電容量素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−248718(P2012−248718A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120004(P2011−120004)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】