説明

静電誘導トランジスタによるオーディオ電力増幅回路

【課題】同じ導電型のトランジスタを使用して、出力トランスなしにスピーカの2端子のボイスコイルを直結できるプッシュプル増幅回路で構成されたオーディオ電力増幅回路を提供する。また、オーディオ電力増幅回路の出力の周波数特性の範囲を高域に延ばす。
【解決手段】ソース接地型プッシュプル回路として接続された一対の同じ導電型の静電誘導トランジスタと、両端とセンタータップを有し、両端がそれぞれ前記静電誘導トランジスタのそれぞれのドレインに接続され、センタータップが動作電源のドレイン側電圧ラインに接続されたチョークコイルと、前記一対の静電誘導トランジスタの両ドレイン間にボイスコイルが接続されたスピーカと、前記静電誘導トランジスタの各ゲートに動作用のゲートバイアスを与えるゲートバイアス手段と、前記静電誘導トランジスタの各ゲートにプッシュプル動作のための互いに位相反転した入力を供給する手段とを備えてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、オーディオ電力増幅回路に関し、特に、電力増幅段に静電誘導トランジスタを用いて、かつ、プッシュプル増幅段の静電誘導トランジスタにスピーカのボイスコイルを直結できるように工夫したオーディオ電力増幅回路に関する。
【背景技術】
【0002】
オーディオ増幅器の電力増幅段にトランジスタを使用したプッシュプル増幅回路は、種々のものが知られており、使用するトランジスタとしても、バイポーラトランジスタ(BPT)、電界効果トランジスタ(FET)、静電誘導トランジスタ(SIT)のいずれもが挙げられる。また、トランジスタは、真空管の場合と違って、導電型が2種類(「NPNとPNP」または「NチャネルとPチャネル」、以下、「N型とP型」と総称する)あるので、プッシュプル増幅回路としては、同じ導電型(N型同士またはP型同士)のトランジスタを対として使用する回路に加えて、異なる導電型(N型およびP型)のトランジスタを対として使用する相補型が存在する。それぞれの形式の増幅回路は、それぞれの特徴を有しており、出力インピーダンスが高い回路、出力インピーダンスが低い回路、出力トランスが必要な回路、出力トランスが不要でスピーカが直結できる回路など、必要に応じて種々設計される。
【0003】
しかしながら、同じ導電型のトランジスタを使用して、出力トランスなしにスピーカの2端子のボイスコイルを直結できる格好なプッシュプル増幅回路は、存在しなかった。特に、トランジスタによるプッシュプル増幅回路の場合、相補型のトランジスタを使用すると、直結型の構成を採ることが容易ではあるが、トランジスタとして、相補型で特性の揃った対を見つけることは、非常にむずかしい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は、同じ導電型のトランジスタを使用して、出力トランスなしにスピーカの2端子のボイスコイルを直結できるプッシュプル増幅回路で構成されたオーディオ電力増幅回路を提供することを目的とする。
【0005】
さらに、この発明は、上記のオーディオ電力増幅回路において、出力の周波数特性の範囲を高域に延ばすことも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、この発明のオーディオ電力増幅回路は、トランジスタとして、3極真空管の電圧電流特性に類似の電圧電流特性を有し出力インピーダンスが低いSITの同じ導電型の対のものを、ソース接地型プッシュプル回路接続で使用して、両SITに対しては、各そのドレインにチョークコイルを介してドレイン側直流電圧を給電し、スピーカのボイスコイルに対しては、両ドレイン間に現れる交流出力を供給する構成を採る。
【0007】
より具体的には、この発明によるオーディオ電力増幅回路は、ソース接地型プッシュプル回路として接続された一対の同じ導電型の静電誘導トランジスタと、両端とセンタータップを有し、両端がそれぞれ前記静電誘導トランジスタのそれぞれのドレインに接続され、センタータップが動作電源のドレイン側電圧ラインに接続されたチョークコイルと、前記一対の静電誘導トランジスタの両ドレイン間にボイスコイルが接続されたスピーカと、前記静電誘導トランジスタの各ゲートにそれぞれ動作用のゲートバイアスを与えるゲートバイアス手段と、前記静電誘導トランジスタの各ゲートにそれぞれプッシュプル動作のための互いに位相反転した入力を供給する手段とを備えてなる。
【0008】
また、この発明によるオーディオ電力増幅回路は、静電誘導トランジスタとしてNチャネル型の静電誘導トランジスタを使用するのが好ましい。
【0009】
さらに、この発明は、上記の構成において、チョークコイルに内在する漂遊容量による高域での周波数特性の低下を補うために、周波数特性の低下が見込まれる周波数帯域に共振周波数を設定した並列共振回路をチョークコイルに直列に接続した構成を採る。
【0010】
そのための構成として、より具体的には、この発明によるオーディオ電力増幅回路は、前記チョークコイルの両端側のそれぞれに前記オーディオ電力増幅回路の周波数特性の高域に属する共振周波数を有する並列共振回路を直列に接続して構成する。
【0011】
また、前記チョークコイルは、前記センタータップから両方の側となる各側部分を、複数の巻線区間に分割して構成するとともに、前記両方の側で対応する巻線区間同士を並行させて巻線し、前記各側部分ごとに前記分割された複数の巻線区間を合わせて結線して、前記チョークコイルの各側部分として使用する構成とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、同じ導電型のトランジスタを使用して、出力トランスなしにスピーカの2端子のボイスコイルを直結できるプッシュプル増幅回路でオーディオ電力増幅回路を構成することができる。
【0013】
また、この発明によれば、オーディオ電力増幅回路において、出力の周波数特性の範囲を高域に延ばすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、この発明によるオーディオ電力増幅回路の一実施形態の構成を原理的に示す回路図であり、以下にこの構成を詳細に説明する。
【0015】
図1に示す実施態様では、主要能動素子として一対の静電誘導トランジスタSIT1およびSIT2がソース接地型のプッシュプル増幅回路の形に接続されており、それぞれのSITのソースは、それぞれ低い抵抗値のソース直列抵抗Rs1およびRs2を介して、さらに共通の同じく低い抵抗値のソース直列抵抗Rs0を介して動作電源VDDのソース側電圧ライン(負側)に接続されている。他方、それぞれのSITのドレインは、同一コアに巻回されて中点タップを有するチョークコイルCHKの両端のそれぞれに接続されており、当該チョークコイルCHKの中点タップは、動作電源VDDのドレイン側電圧ライン(正側)に接続されていて、動作電源VDDのドレイン側直流電圧がチョークコイルCHKの各片側部分を介してSIT1およびSIT2の各ドレインにそれぞれ供給されている。さらに、チョークコイルCHKの両端は、それぞれ出力端OUT1およびOUT2としてスピーカSPのボイスコイルVCの両端に接続されていて、プッシュプル回路の交流出力をボイスコイルVCに供給している。この場合、チョークコイルのインダクタンスは、SITの内部抵抗やボイスコイルVCの抵抗に比べて、交流的に十分に大きな値とし、音声信号出力が十分にボイスコイルVCの方に供給されるようにする。例えば、100mH(ミリヘンリー)もあれば、30Hzの交流信号に対して20Ω(オーム)近いインピーダンスを呈する。
【0016】
SIT1およびSIT2の各ゲートは、プッシュプル増幅回路のための一対の位相反転入力端IN1およびIN2のそれぞれに接続され、SIT1およびSIT2をプッシュプル駆動している。また、SIT1およびSIT2の各ゲートは、それぞれゲートバイアス供給回路GB1およびGB2を介して、動作中心を設定するためのゲートバイアス電源VGGのゲート側電圧ライン(負側)に接続されているとともに、それぞれゲートバイアス調節回路Rg1およびRg2を介して、各SITのソースに接続されている。ゲートバイアス電源VGGのソース側電圧ライン(正側)は、上記の動作電源VDDのソース側電圧ライン(負側)に接続されていて、ゲートバイアス供給回路GB1およびGB2のそれぞれからSIT1およびSIT2のそれぞれのゲートに供給されるゲートバイアスが、ソース電位に対して負電圧となるようになっている。
【0017】
図2は、図1のプッシュプル増幅回路の各素子の具体的数値例を記入するとともに、ゲートバイアス回路の部分および位相反転回路(phase splitter)の部分の具体的回路構成例を記入した回路図である。
【0018】
図2において、図中左上端付近に描かれた入力端子INと接地端子GNDとの間に供給されたオーディオ入力信号は、一対のMOS−FETによる位相反転回路を介して各位相反転入力端IN1およびIN2にそれぞれ伝達され、SIT1およびSIT2のプッシュプル増幅回路を駆動する。なお、一対の静電誘導トランジスタSIT1およびSIT2は、同じ品種(型番)のSITで極力特性の揃った対を選定して使用するのがよく、また、導電型としては、内部抵抗の大きさや特性の面から、Nチャネル型が好ましく、例えば、その出力電圧電流特性は、図3に示すような特性を呈するものが選定される。
【0019】
図4は、図1に示したプッシュプル増幅回路を部分的に改良して、高域の周波数特性をさらに高域に延ばしたプッシュプル増幅回路を示す回路図であり、チョークコイルCHKの両側に、それぞれ2個の並列共振回路PR11とPR12およびPR21とPR22を直列に追加して設けてある。並列共振回路PR11およびPR21は、例えば、共振周波数を20MHzに設定し、並列共振回路PR12およびPR22は、例えば、共振周波数を50MHzに設定する。そうすることにより、チョークコイルCHKの巻線間の漂遊容量による高周波域でのチョークコイルCHKのインピーダンスの低下を補正し、ボイスコイルVCの方に供給される信号の周波数域を高周波の方に延ばしている。実験測定では、これらの並列共振回路PR11、PR12、PR21、PR22がない場合に、実用周波数帯域幅が5Hz〜10MHz程度であったところが、並列共振回路PR11、PR12、PR21、PR22を挿入したことにより、実用周波数帯域幅は、5Hz〜100MHz程度に延びたことが観測された。
【0020】
次に、図5〜図7を参照して、この発明で使用するチョークコイルCHKの製作について説明する。チョークコイルCHKは、所望のインダクタンスが得られること、所望の直流電流量を許容すること、巻線間の漂遊容量が小さいこと、プッシュプルの両側について特性が等しくバランスしていることが重要である。そのために、この発明では、その製作に工夫を凝らしている。
【0021】
図5は、チョークコイルCHKの外観の概略を示す平面図である。図示のように、コアは、磁性体板を積層巻きしたものを2つのU字形に切り離し、巻線した2本のボビンに通して突き合わせた所謂カットコアである。各ボビンに巻回した巻線は、便宜上、図では「コイル1」、「コイル2」と呼ぶ。各コイルは、それぞれ2本ずつ8組の巻線を施したもので、図では、巻線に1番から16番までの番号を付し、巻始め端を通常の数字で、巻終わり端を「’」付の数字で示している。また、各巻線は、それぞれの巻方向(極性)が重要で、図6〜7では、同極性側に黒丸「・」を付してあり、図5では、巻線「1」と「2」を例として、それらを巻き始める向きが注記してある。さらに、巻線「1」と「2」、巻線「3」と「4」、…、巻線「15」と「16」といった具合に、2本ずつを並べて平行に巻いてあり、各対において巻線の構造上の特性を完全に一致させている。また、図6からも分かるように、巻線「1」と「2」を巻き始める向きと巻線「3」と「4」を巻き始める向きとは、互いに逆向きであり、同じ巻方向として使用するに際して巻始めと巻終わりの立場による影響が平均化されるように工夫してある。巻き上がった巻線は、図7に示すように結線して、同一コア上に巻回された2個のチョークコイル「A−A’」および「B−B’」として使用する。プッシュプル回路への接続は、「A」端をSIT1のドレインに、「A’」端および「B」端を合わせてセンタータップとして電源VDDのドレイン側電圧ラインに、「B’」端をSIT2のドレインにそれぞれ接続する。
【0022】
以上、この発明を、好適な実施態様について説明したが、当業者であれば、ここに説明した技術的思想における各断片的なアイデアを適宜組み合わせて採用することができるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明によるオーディオ電力増幅回路の一実施形態の構成を原理的に示す回路図である。
【図2】図1のプッシュプル増幅回路を含む具体的回路構成を各素子の具体的数値例とともに示す回路図である。
【図3】この発明で使用するSITの出力電圧電流特性の例を示すグラフである。
【図4】図1に示したプッシュプル増幅回路を改良した実施態様の構成を原理的に示す回路図である。
【図5】この発明で使用するチョークコイルの外観の概略を示す平面図である。
【図6】この発明で使用するチョークコイルの巻線の要領を示す図である。
【図7】この発明で使用するチョークコイルの巻線の結線状態を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
SIT1、SIT2 … 静電誘導トランジスタ
CHK … チョークコイル
VC … ボイスコイル
GB1、GB2 … ゲートバイアス回路
IN1、IN2 … 位相反転入力端
PR11、PR12、PR21、PR22 … 並列共振回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソース接地型プッシュプル回路として接続された一対の同じ導電型の静電誘導トランジスタと、
両端とセンタータップを有し、両端がそれぞれ前記静電誘導トランジスタのそれぞれのドレインに接続され、センタータップが動作電源のドレイン側電圧ラインに接続されたチョークコイルと、
前記一対の静電誘導トランジスタの両ドレイン間にボイスコイルが接続されたスピーカと、
前記静電誘導トランジスタの各ゲートにそれぞれ動作用のゲートバイアスを与えるゲートバイアス手段と、
前記静電誘導トランジスタの各ゲートにそれぞれプッシュプル動作のための互いに位相反転した入力を供給する手段と
を備えてなる静電誘導トランジスタによるオーディオ電力増幅回路。
【請求項2】
請求項1に記載のオーディオ電力増幅回路において、
前記静電誘導トランジスタがNチャネル型である
ことを特徴とする回路。
【請求項3】
請求項1または2に記載のオーディオ電力増幅回路であって、さらに、
前記チョークコイルの両端側のそれぞれに前記オーディオ電力増幅回路の周波数特性の高域に属する共振周波数を有する並列共振回路を直列に接続してなる
ことを特徴とする回路。
【請求項4】
請求項1または2または3に記載のオーディオ電力増幅回路において、
前記チョークコイルは、前記センタータップから両方の側となる各側部分を、複数の巻線区間に分割して構成するとともに、前記両方の側で対応する巻線区間同士を並行させて巻線し、前記各側部分ごとに前記分割された複数の巻線区間を合わせて結線して、前記チョークコイルの各側部分として使用する
ことを特徴とする回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−208428(P2007−208428A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22538(P2006−22538)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(505041335)株式会社エス・アール・シー・シー (6)
【Fターム(参考)】