説明

非光沢面を有する塗装金属板及びその製造方法。

【課題】マット剤や発泡剤を使用せずに非光沢性面が形成された塗装金属板を提供する。
【解決手段】金属基板2と、金属基板2の表面に形成され且つ紫外線硬化型インキの硬化物からなる印刷インキ層3と、印刷インキ層3を覆うように形成されたオーバーコート層5とから形成されており、印刷インキ層3の表面3aには微細な凹凸が形成されており、且つオーバーコート層5は、その表面に印刷インキ層3の微細な凹凸面が反映される程度の実質上均質な厚みを有しており、オーバーコート層5に形成された凹凸によって非光沢面が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非光沢面を有する塗装金属板及びその製造方法に関するものであり、特に好ましくは、光沢面と非光沢面との両方を有する塗装金属板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属キャップや金属容器などに代表される金属製品は、その表面に印刷塗装が施され、表面保護と同時に装飾性を付与している。このような印刷塗装が表面に施された金属製品は、例えば、予め所定の位置に印刷塗装がされた塗装金属板を用い、これを打ち抜き、プレス成形、絞り成形などの成形工程を経て製造されている。
【0003】
上記のような塗装金属板は、印刷インキ層の上に、ツヤニス層とも呼ばれるオーバーコート層が形成され、これにより、表面平滑性を確保し、金属板や印刷インキ層の表面保護と同時に表面光沢性が与えられている。
【0004】
ところで、現在では、デザインの多様化に伴い、光沢性のある表面のみならず、非光沢性の表面や光沢性表面と非光沢性表面との両方を有する装飾も求められている。非光沢性の表面は、表面をマット状(ツヤひけ)にしたり、表面に微細な凹凸を形成することにより得られるものであり、一般に、印刷インキ層の形成に用いるインキやオーバーコート層の形成に用いるツヤニスに、マット剤(ツヤひけ剤、シリカ等の無機粉末)や発泡剤を添加することにより、非光沢性の表面を得ている。
【0005】
しかしながら、マット剤や発泡剤が配合されたツヤニスを用いた場合には、全面が非光沢性の表面となってしまい、光沢性の表面と非光沢性の表面とが混在する装飾には不適当であり、デザイン的に制限を受けてしまう。また、マット剤や発泡剤が配合されたインキの場合には、部分的に非光沢性の表面とするという要求には応えられるものの、特殊なインキを使用しなければならず、また、光沢性の表面を形成する場合とは異なるインキを使用しなければならないという問題があり、さらなる改善が要望されている。さらに、発泡剤を用いて非光沢性の表面を得る場合には、塗装層中に気泡(空間)が形成されるため、成形過程等でダストが発生するという問題もある。
【0006】
特許文献1には、不均一な凹凸面により非光沢性の印刷表面を形成する技法が提案されており、缶体の被塗装面に、下地インキが印刷されてなる下地層と、該下地層の印刷面に前記下地インキと馴染まない上地塗料が塗装されてなる上地層とが形成されているとともに、前記上地層の塗装面に、前記下地層の印刷面で前記上地塗料を班状に凝集させてなる微細な凹凸が設けられているピール状塗装缶が開示されている。即ち、このピール状塗装缶は、下地インキが未乾燥の状態で、下地インキとは馴染まない上地塗料を用いて上地塗装を行うと、下地インキに溶媒が残存しており、この溶媒と上地塗料の濡れ性の悪さが上地塗料の凝集効果を高め、この結果、上地塗料の凝集によって、表面に斑状のピール状の凹凸(即ち非光沢性面)を形成することができるのである。
【0007】
【特許文献1】特許第2671530号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の特許文献1で提案されている技術は、マット剤や発泡剤を使用せずに非光沢性面が形成されているため、特殊なインキを使用せずに、通常のインキを用いて印刷を行うことができ、また発泡剤に由来するダストの発生なども有効に解消できるという利点がある。しかしながら、未乾燥の下地インキ(残存する溶媒)と上地塗料との濡れ性の悪さを利用して非光沢性面を形成しているため、下地インキの乾燥状態(残存溶媒量)によって凝集の程度が大きく変化してしまい、従って、表面に形成される凹凸の程度(非光沢性の程度)の調整が極めて困難であるという問題がある。また、光沢性の表面と非光沢性の表面とを同時に形成することが困難であるという問題もある。
【0009】
従って、本発明の目的は、マット剤や発泡剤を使用せずに非光沢性面が形成された塗装金属板及びその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、マット剤や発泡剤を使用せずに非光沢性面極めて容易に非光沢性面を形成し得るばかりか、非光沢性面の程度を容易に調整することができ、しかも、光沢性面と非光沢性面との両方の有する塗装金属板の製造にも容易に適用できる塗装金属板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、金属基板と、該金属基板の少なくとも一方の面に形成された塗装層とからなり、該塗装層の表面には、微細な凹凸面からなる非光沢面領域が形成されている塗装金属板において、
前記塗装層は、前記金属基板の表面に形成され且つ紫外線硬化型インキの硬化物からなる印刷インキ層と、該印刷インキ層の表面に形成されたオーバーコート層とから形成されており、
前記非光沢面領域において、前記印刷インキ層の表面には、微細な凹凸が形成されており、且つ前記オーバーコート層は、その表面に該印刷インキ層の微細な凹凸面が反映される程度の実質上均質な厚みを有しており、該オーバーコート層に形成された凹凸によって非光沢面が形成されていることを特徴とする塗装金属板が提供される。
本発明の塗装金属板においては、前記非光沢面領域とともに、実質上平滑な面からなる光沢領域が形成されていることが好適である。
【0011】
本発明によれば、また、上記塗装金属板の製造方法として、
金属基板の少なくとも一方の表面に紫外線硬化型インキをコーティングして未硬化のインキコーティング層を形成する工程;
前記インキコーティング層に紫外線を照射することにより、該インキコーティング層の面方向の少なくとも一部では、金属基板側の領域が未硬化乃至半硬化層となり且つ該未硬化乃至半硬化層の上の表面領域が硬化層となった印刷インキ前駆体層を形成する部分硬化工程;
前記紫外線硬化型インキと親和性を有する溶剤を含有するオーバーコート材を用意し、前記印刷インキ前駆体層上に、該オーバーコート材をコーティングしてオーバーコーティング層を形成する工程;
前記印刷インキ前駆体層及びオーバーコーティング層が形成された金属基板を加熱することにより、前記印刷インキ前駆体層の未硬化乃至半硬化層及びオーバーコーティング層を完全硬化させ、印刷インキ前駆体層を印刷インキ層とすると同時に、オーバーコーティング層を表面に微細な凹凸を有するオーバーコート層とする仕上げ硬化工程;
とからなることを特徴とする非光沢面領域を有する塗装金属板の製造方法が提供される。
【0012】
本発明の製造方法においては、
(1)前記インキコーティング層の厚みを厚くして、金属基板側の領域が未硬化乃至半硬化層となり且つ該未硬化層の上の表面領域が硬化層となった印刷インキ前駆体層が形成されるように紫外線を照射すること、
(2)前記印刷インキ前駆体層が形成される以外の面方向の部分では、前記紫外線照射による硬化によって前記印刷インキコーティング層の厚み方向の全体が硬化した印刷インキ層を形成すること、
が好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の塗装金属板は、印刷インキ層の表面(オーバーコート層との界面)が微細な凹凸面となっており、この表面形状がオーバーコート層の表面に反映されて非光沢面領域が形成されているという構造上の特徴を有しており、例えば発泡剤を用いて非光沢面を形成しているものとは異なり、印刷インキ層やオーバーコート層は、内部に気泡などの空間部を有していない緻密な層となっている。従って、気泡等の空間に由来するダストの発生を生じることがない。また、このような塗装金属板は、マット剤などが配合された特殊なインキを用いることなく製造できるため、非光沢面領域と同時に光沢面領域を有することができる。
【0014】
また、本発明の製造方法によれば、印刷インキ層の形成材料として紫外線硬化型インキを使用し、且つオーバーコート層は、紫外線硬化型インキに対して親和性の高い溶剤を含むオーバーコート材を用いて形成すればよく、それ以外は、紫外線硬化型インキの紫外線照射による硬化条件を調整することによって非光沢性面を形成することができる。即ち、用いる紫外線硬化型インキやオーバーコート材は、格別の材料ではなく、何れも光沢性表面の形成にも使用できるものである。従って、かかる方法では、硬化条件の調整により、非光沢性表面と同時に光沢性面も形成することができ、種々の装飾的要求に応えることができ、その汎用性は極めて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を、添付図面に示す具体例に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の塗装金属板の断面構造の例を示す図であり、
図2は、本発明の塗装金属板の断面構造の他の例を示す図であり、
図3は、本発明の塗装金属板の製造プロセスを示す図である。
【0016】
<塗装金属板の層構造>
図1を参照して、全体として1で示す本発明の塗装金属板は、金属基板2と、該金属基板2の表面に形成された印刷インキ層3と、印刷インキ層3を覆うように形成されたオーバーコート層5とからなる層構造を有している。即ち、印刷インキ層3とオーバーコート層5とによって塗装層が形成されている。図1から理解されるように、本発明の塗装金属板1は、印刷インキ層3の表面3aが微細な凹凸面となっており、この微細な凹凸面がオーバーコート層5の表面にも反映されており、その表面5aも微細な凹凸面となっており、従って、非光沢性の表面を有していることが理解されよう。
【0017】
金属基板2を構成する金属材料やその厚みは、その用途等に応じて適宜のものであってよく、例えば金属キャップや金属容器などの用途に使用する場合には、各種表面処理鋼板やアルミニウム等の軽金属板が使用される。表面処理鋼板としては、冷間圧延鋼板を焼鈍後、二次冷間圧延し、亜鉛メッキ、錫メッキ、ニッケルメッキ、電解クロム酸処理、クロム酸処理等の少なくとも1種の表面処理を行ったものを例示することができる。また、軽金属板としては、所謂純アルミニウム板の他に、アルミニウムとMn,Mg,Zn,Cuなどとの合金も例示することができる。勿論、上記のような金属材料に限定されるものではなく、用途に応じては、他の金属材料からなる金属板であってもよい。
【0018】
尚、図1には示されていないが、金属基板2の印刷インキ層3が形成されている面と反対側の面には、必要に応じて、有機樹脂保護層が形成されていてもよい。この有機樹脂被覆層は、熱可塑性樹脂で形成されていてもよいし、熱硬化性樹脂で形成されていてもよい。
【0019】
本発明において、印刷インキ層3は、後述する製造方法に関連して、紫外線硬化型インキの硬化物からなるものであり、その組成等は、製造方法の項で説明する。また、オーバーコート層5は、仕上げワニス層とも呼ばれる透明な層であり、各種熱可塑性樹脂やセルロースなどを含むラッカー等からなるオーバーコート材を塗布し、硬化乃至焼き付けることによって形成されるものである。
【0020】
前述したように、本発明の塗装金属板1においては、印刷インキ層3の表面3aが微細な凹凸面となっており、オーバーコート層5の表面5aには、このような凹凸面が反映されている。このような凹凸面によって、この塗装金属板1の表面は非光沢性面となる。本発明において、オーバーコート層5の表面5aの凹凸の程度は、要求される装飾の程度などに応じて適度な非光沢性が発現するようなものであればよいが、一般的には、表面粗さRz(JIS B 0601-1994)が0.1乃至10μm程度の範囲にあれば、明確な非光沢性面となる。
【0021】
また、オーバーコート層5の厚みは、一般に、1乃至20μm、特に4乃至10μm程度の範囲にあることが好適である。即ち、この厚みが過度に厚いと、印刷インキ層3の表面3aの凹凸がオーバーコート層5の表面に十分に反映されず、この表面が光沢面となってしまい、本発明の目的を達成することができなくなってしまうおそれがある。また、この厚みが薄すぎると、印刷インキ層3の保護機能など、オーバーコート層5の本来の機能が失われてしまうおそれがある。
【0022】
本発明の塗装基板1は、上述したように、オーバーコート層5の表面5aに微細な凹凸が形成されて非光沢面となっているものであるが、このような非光沢面と同時に光沢面を有していてもよい。このような例を図2(a)及び図2(b)に示した。図2において、非光沢面領域はXで示され、光沢面領域はYで示されている。
【0023】
図2(a)及び図2(b)から理解されるように、非光沢面領域Xでは、印刷インキ層3の表面3aが微細な凹凸面となっており、オーバーコート層5の表面5aに微細な凹凸が反映されているが、光沢面領域Yでは、印刷インキ層3の表面3aは平滑面となっており、従って、オーバーコート層5の表面5aも平滑面となっており、従って光沢を有する面となっている。
【0024】
また、非光沢面領域Xと光沢面領域Yとを併せ持つ図2の例の塗装金属板1の層構造は、後述する製造方法、即ち、非光沢面の形成手段によって若干異なり、例えば、図2(a)の例では、非光沢面領域Xにおける印刷インキ層3の厚みが、光沢面領域Yにおける印刷インキ層の厚みより厚くなっている。一方、図2(b)の例では、微細な凹凸の表面3aを有している非光沢面領域Xにおける印刷インキ層3の厚みと、平滑な表面を有している光沢面領域Yにおける印刷インキ層3の厚みとは、実質上、同じである。
【0025】
上述した図1及び図2における本発明の塗装金属板では、印刷インキ層3やオーバーコート層5は、何れも、気泡などを含まない緻密な層であり、従って、ダストの発生などを生じることがない。
このような本発明の塗装金属板は、以下に述べる方法によって製造される。
【0026】
<塗装金属板の製造>
本発明の塗装金属板を製造するにあたっては、先ず、印刷インキ層3の表面3a、ひいてはオーバーコート層5の表面5aを微細な凹凸面とするために、印刷インキ層3を形成するためのインキとして、紫外線硬化型インキを使用し、且つオーバーコート層5を形成するためのオーバーコート材として、紫外線硬化型インキと親和性を有する溶剤を含有するものを使用する。
【0027】
(1)紫外線硬化型インキ;
紫外線硬化型インキは、それ自体公知の紫外線硬化型樹脂組成物に目的とする色を発現するための着色剤、及びその他、公知の塗料用添加剤が配合されたものであり、紫外線硬化型樹脂組成物には、大別して、カチオン硬化型と紫外線ラジカル硬化型のものがある。
【0028】
(1−a)カチオン硬化型の樹脂組成物
カチオン硬化型のものでは、樹脂成分として紫外線硬化型エポキシ樹脂と、光重合開始剤として、カチオン性紫外線重合開始剤とを含むものを代表的なものとして例示することができる。
【0029】
紫外線硬化型エポキシ樹脂は、分子内に脂環族基を有しており且つ脂環族基の隣接炭素原子がオキシラン環を形成しているエポキシ樹脂成分を含有しているものであり、例えば分子内に少なくとも1個のエポキシシクロアルカン基、例えばエポキシシクロヘキサン環、エポキシシクロペンタン環等を有するエポキシ化合物等が単独或いは組み合わせで使用される。その適当な例は、これに限定されないが、ビニルシクロヘキセンジエポキシド、ビニルシクロヘキセンモノエポキシド、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサン・カーボキシレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサン−m−ジオキサン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート、リモネンジオキサイド等である。
【0030】
また、上記エポキシ樹脂と組み合わせで用いるカチオン性紫外線重合開始剤とは、紫外線によって分解し、ルイス酸を放出し、このルイス酸がエポキシ基を重合する作用を有するものであり、その例として、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩、芳香族セレニウム塩、芳香族ジアゾニウム塩等が挙げられる。
【0031】
芳香族ヨードニウム塩としては、例えば、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、4−クロルフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、ジ(4−メトキシフェニル)ヨードニウムクロライド、(4−メトキシフェニル)フェニルヨードニウム等のジアリルヨードニウム塩を挙げることができる。
【0032】
芳香族スルホニウム塩としては、例えば、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボレート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、p−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−クロルフェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート等のトリアリールスルホニウム塩を挙げることができる。
【0033】
芳香族セレニウム塩としては、例えば、トリフェニルセレニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルセレニウムヘキサフルオロアンチモネート等のトリアリールセレニウム塩を挙げることができる。
【0034】
また、その他のカチオン性紫外線重合開始剤として、(2,4−シクロペンタジェン−1−イル)[(1−メトキシチエチル)−ベンゼン]−アイロン−ヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルスルホニウムヘキサフルロアンチモネート、ジアルキルフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジアルキルフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4,4’−ビス[ジ(β−ヒドロキシエトキシ)フェニルスルフォニオ]フェニルスルフィド−ビス−ヘキサフルオロアンチモーネート、4,4-ビス[ジ(β−ヒドロキシエトキシ)フェニルスルフォニオ]フェニルスルフィド−ビス−ヘキサフルオロホスフェート等を使用することもできる。
【0035】
また、上述したカチオン性紫外線重合開始剤は、一般に、紫外線硬化型エポキシ樹脂100重量部当り、0.5乃至10重量部の量で使用される。また、必要により、それ自体公知のカチオン重合性ビニル単量体、希釈剤、他のエポキシ樹脂、増感剤、架橋剤等が配合されていてもよい。
【0036】
(1−b)紫外線ラジカル硬化型の樹脂組成物
このタイプの紫外線硬化型樹脂組成物は、紫外線硬化型モノマー乃至プレポリマーと光ラジカル重合開始剤とを含むものである。
【0037】
紫外線硬化型モノマー乃至プレポリマーとしては、分子内に複数のエチレン系不飽和基を有するモノマー乃至プレポリマー或いはそれらの混合物が使用される。その適当な例はエポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、熱硬化型アクリル樹脂、熱硬化型ポリエステル樹脂等である。
【0038】
エポキシアクリレート樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂とエチレン系不飽和カルボン酸、例えばアクリル酸、メタアクリル酸との付加物、或いはこの付加物とエチレン系不飽和多価カルボン酸無水物、例えば無水マレイン酸、無水イタコン酸等との反応物等が使用される。
【0039】
ウレタンアクリレート樹脂としては、イソシアネート末端ポリエステル或いはイソシアネート末端ポリオールと官能基含有アクリル単量体、例えばアクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等とを反応させて得られたウレタンアクリレート樹脂が使用される。
【0040】
熱硬化型アクリル樹脂としては、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート(HDDMA)、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート(EGDA)、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、ポリエチレングリコールジアクリレート(PEGA)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGMA)、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジアクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、N,N,N’,N’−テトラキス(β−ヒドロキシエチル)エチレンジアミンのアクリル酸エステル、2,2−ビス[4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン等が使用される。
【0041】
熱硬化型ポリエステル樹脂としては、分子中にエチレン系不飽和結合を含むポリエステル、例えば、エチレン系不飽和多価カルボン酸、例えばマレイン酸、フマール酸、イタコン酸、テトラヒドロフタール酸等と、イソフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、アジピン酸、セバチン酸、重合脂肪酸等の他の酸成分との組み合わせと、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ビスフェノール類等の多価アルコールとを縮合させて得られるポリエステル樹脂が使用される。
【0042】
また、上記以外にも、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート(DAP)、ジアリルイソフタレート、ジアリルアジペート、ジアリルグリコレート、ジアリルマレエート、ジアリルセバケート、トリアリルフオスフエート、トリアリルアコニテート、トリメリット酸アリルエステル、ピロメリット酸アリルエステル等の他の多官能性モノマーも使用しうる。
【0043】
上記の多官能性モノマー乃至プレポリマーは、通常1官能性モノマーと組み合わせで使用するのが普通であり、このようなモノマーとして、アクリロイルモルフォリン、グリシジルアクリレート(GA)、グリシジルメタクリレート(GMA)、カルビトールアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、ジシクロペンタジエニルアクリレート、ジヒドロジシクロペンタジエニルメタクリレート、イソボルニルアクリレート、アクリルアミド(AAm)、メタクリルアミド(MAm)、N−メチロールアクリルアミド(N−MAM)、N−ジアセトンアクリルアミド(DAAM)、N−ビニルピロリドン、マレイン酸、イタコン酸、メチルメタクリレート(MMA)、エチルアクリレート、スチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル(VAc)、ビニルトルエン等を例示することができる。
【0044】
紫外線硬化型モノマー乃至プレポリマーと組み合わせで使用される光ラジカル重合開始剤の代表的なものとしては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾイン及びそのアルキルエーテル類;アセトフェノン、2,2-ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン等のアセトフェノン類;2−メチルアントラキノン、2−アミルアントラキノン等のアントラキノン類;2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等のケタール類;ベンゾフェノン等のベンゾフェノン類またはキサントン類;などある。
【0045】
かかる光ラジカル重合開始剤は、一般に、上述した紫外線硬化性樹脂成分100重量部当り0.1〜30重量部、特に1〜25重量部となる割合で使用される。また、光ラジカル重合開始剤と共に、安息香酸系又は第三級アミン系など公知慣用の光重合促進剤の少なくとも1種を併用することもできる。
【0046】
(1−c)着色剤
着色剤としては、顔料が使用されるが、このような顔料の具体例としては、以下のものを挙げることができる。
【0047】
黒色顔料:カーボンブラック、アセチレンブラック、ランブラック、アニリンブラック。
黄色顔料:亜鉛黄、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、ミネラルファストイエロー、ニッケルチタンイエロー、ネーブルスイエロー、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、ハンザイエロー10G、ベンジジンイエローG、ベンジジンイエローGR、キノリンイエローレーキ、パーマンネントイエローNCG、タートラジンレーキ。
橙色顔料:赤口黄鉛、モリブテンオレンジ、パーマネントオレンジGTR、ピラゾロンオレンジ、バルカンオレンジ、インダスレンブリリアントオレンジRK、ベンジジンオレンジG、インダスレンブリリアントオレンジGK。
赤色顔料:ベンガラ、カドミウムレッド、鉛丹、硫化水銀カドミウム、パーマネントレッド4R、リソールレッド、ピラゾロンレッド、ウオッチングレッドカルシウム塩、レーキレッドD、ブリリアントカーミン6B、エオシンレーキ、ローダミンレーキB、アリザリンレーキ、ブリリアントカーミン3B。
紫色顔料:マンガン紫、ファストバイオレットB、メチルバイオレットレーキ。
青色顔料:紺青、コバルトブルー、アルカリブルーレーキ、ビクトリアブルーレーキ、フタロシアニンブルー、無金属フタロシアニンブルー、フタロシアニンブルー部分塩素化物、ファーストスカイブルー、インダスレンブルーBC。
緑色顔料:クロムグリーン、酸化クロム、ピグメントグリーンB、マラカイトグリーンレーキ、ファナルイエローグリーンG。
白色顔料:亜鉛華、二酸化チタン、アンチモン白、硫化亜鉛。
体質顔料:バライト粉、炭酸バリウム、クレー、シリカ、ホワイトカーボン、タルク、アルミナホワイト。
【0048】
上述した顔料の内、紫外線硬化阻害を起こすおそれのあるものについては、例えば、顔料粒子の表面を樹脂等で被覆して使用することができる。このような顔料は、一般に、インキ中に、10乃至60重量%の量で使用される。
【0049】
(1−d)その他の配合剤
上述した成分を含有する紫外線硬化型インキには、それ自体公知の配合剤を公知の処方で配合することができ、このような配合剤としては、シリコーンオイル等の消泡剤、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、アクリル共重合体等のレベリング剤、増粘剤、減粘剤等を例示することができる。
【0050】
本発明においては、上述した紫外線硬化型インキとして、特に紫外線ラジカル重合硬化型の樹脂組成物を含有するものが好適である。即ち、本発明では、オーバーコート材として、紫外線硬化型インキと親和性を有する溶剤を含有するものを使用する必要があるが、カチオン硬化型のものはエポキシ樹脂を主体とするものであるため、このような溶剤が著しく制限されるのに対して、紫外線ラジカル硬化型の樹脂組成物を含有するものでは、溶剤選択の幅が非常に広いからである。また、後述する製造工程において、熱処理による仕上げ硬化を有効に行うためには、紫外線ラジカル硬化型の樹脂組成物の中でも特に、熱硬化型アクリル樹脂や熱硬化型ポリエステル樹脂を樹脂成分として含有しているものが好適である。
【0051】
(2)オーバーコート材
オーバーコート層5の形成に用いるオーバーコート材としては、透明な膜形成成分とともに、前述した紫外線硬化型インキと親和性を有する溶剤を含有するものが使用される。
【0052】
透明な膜形成成分としては、環状オレフィン共重合体;エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・塩化ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等のビニル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の熱可塑性ポリエステル;及びこれらのブレンド物;などを使用することができる。また、ニトロセルロース、アセチルセルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース等のセルロースエステルや、エチルセルロース、ベンジルセルロース等のセルロースエーテルなどのセルロース誘導体(即ち、ラッカー成分)を使用することもできる。特に、非光沢面と同時に光沢面を形成する場合には、熱可塑性ポリエステルと尿素或いはメラミン等のアミノ樹脂とのブレンド物やアクリル樹脂、ビニル樹脂が好適である。
【0053】
また、上記の透明な膜形成成分の溶剤には、メタノール、エタノール、i−ブタノール、2−エトキシエタノール等のアルコール類、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、i−オクタン等の脂肪族炭化水素類、トルエン、キシレン、ナフタレン等の芳香族炭化水素類、アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジエチルエーテル、メチル t−ブチルエーテル、ジベンジルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素類などがあるが、本発明においては、これらの溶剤の内、使用する紫外線硬化型インキの種類に応じて、該インキと親和性を有するものが選択的に使用される。
【0054】
尚、紫外線硬化型インキに対して親和性の高い溶剤とは、該インキの硬化物に対して濡れ性の高いもの、例えば25℃での液滴接触角が70度以下のものを意味する。
【0055】
上記のような溶剤は、紫外線硬化型インキに対する親和性の程度によっても多少異なるが、一般に、前記膜形成成分100重量部当り、20乃至80重量部、特に40乃至60重量部の量で使用することが好ましい。
【0056】
本発明においては、上記のような紫外線硬化型インキ及びオーバーコート材を用いて、紫外線硬化型インキのコーティング、部分硬化、オーバーコート材のコーティング及び仕上げ硬化の各工程を経て、目的とする塗装金属板を製造する。
【0057】
即ち、図3を参照して、先ず、金属基板2の表面に、紫外線硬化型インキをコーティングして、インキコーティング層10を形成する(図3(a))。このコーティングは、スクリーン印刷、グラビア印刷など、それ自体公知の方法により行うことができ、この段階では、インキコーティング層10は未硬化の状態にある。
【0058】
次いで、インキコーティング層10に紫外線を照射して、該コーティング層10を部分的に硬化せしめることにより、印刷インキ前駆体層13を形成する(図3(b))。即ち、図3(b)に示されているように、この部分硬化によって形成される印刷インキ前駆体層13は、金属基板2側の領域が未硬化乃至半硬化層13aとなり且つ該層13aの上の表面領域が硬化層13bとなった二層構造を有している。この紫外線照射により、インキコーティング層10の厚み方向の全体にわたって完全に硬化させて印刷インキ層とせず、部分硬化により、一旦、上記のような二層構造を有する印刷インキ前駆体層13を形成することが、非光沢性表面を形成する上で重要である。
【0059】
本発明においては、上記のようにして印刷インキ前駆体層13を形成した後、この全体を覆うように、前述した溶剤含有のオーバーコート材をコーティングして、硬化後の厚みが前述した範囲となるような厚みのオーバーコーティング層15を形成する(図3(c))。
【0060】
このように、印刷インキ前駆体層13及びオーバーコーティング層15を形成した後、熱処理によって仕上げ硬化を行うことにより、図3(d)に示されるように、印刷インキ前駆体層13中の未硬化乃至半硬化層13aが完全硬化し且つ硬化層13bの上面が微細な凹凸面となって印刷インキ層3となり、さらに、オーバーコーティング層15が焼き付けられて硬化し、上面が微細な凹凸面5aとなったオーバーコート層5が形成され、図1に示すような層構造を有する塗装金属板1が得られるのである。
【0061】
本発明においては、上記の熱処理によって、オーバーコート層5側の表面3aが微細な凹凸面となった印刷インキ層3が形成され、この表面3aがオーバーコート層5の表面5aに反映されるのであるが、このような凹凸面の形成は、現象として見出されたものであり、何故、このような凹凸面が形成されるかの正確な理由は解明されていない。しかるに、本発明者は、次のように推定している。
【0062】
即ち、図3(c)に示されているように、印刷インキ前駆体層13上にオーバーコーティング層15を形成すると、該層15には、紫外線硬化型インキに対して親和性を有する溶剤が含まれている。このため、該溶剤が、印刷インキ前駆体層13の上部領域の硬化層13bを通って、下方領域の未硬化乃至半硬化層13aにまで浸透する。この結果、この未硬化乃至半硬化層13aの流動性が増大し、この状態で、その後の加熱によって、溶剤が除去されると同時に硬化するため、硬化収縮が大きく、この硬化収縮が上部の硬化層13bに反映され、該硬化層13bの上面が微細な凹凸面となり、印刷インキ層3が形成され、印刷インキ層3の凹凸面がオーバーコーティング層15の硬化によって形成されるオーバーコート層5の上面5aに反映するものと考えられるのである。例えば、後述する比較例の実験結果から理解されるように、前記溶剤として、紫外線硬化型インキに親和性を有していないものを用いた場合には、硬化層13bを介しての未硬化乃至半硬化層13aへの溶剤の浸透が生じないため、形成される印刷インキ層3の上面は微細な凹凸面とはならず、従って、非光沢面を発現させることができない。
【0063】
上述した本発明の製造方法において、インキコーティング層10の部分硬化によって形成される印刷インキ前駆体層13中の硬化層13bの厚みは、通常、0.5乃至2μm程度の範囲にあることが好ましい。即ち、この硬化層13bの厚みが、必要以上に厚いと、未硬化乃至半硬化層13aへの浸透が不十分となり、硬化収縮が不満足となったり或いは硬化収縮が硬化層13bの上面に有効に反映されず、結局、微細な凹凸面が印刷インキ層3の上面3aに形成されず、非光沢面の形成が困難となってしまうおそれがある。また、硬化層13bの厚みがあまり薄いと、オーバーコーティング層15と印刷インキ前駆体層13とが一体化してしまい、この場合にも、オーバーコート層5の表面5aに微細な凹凸面を形成すること、即ち非光沢面を形成することが困難となってしまうおそれがある。
【0064】
また、本発明において、上記印刷インキ前駆体層13の下側の未硬化乃至半硬化層13aの厚みは、通常、1.0乃至8μmの範囲にあることが好ましい。即ち、この厚みが、あまり薄いと、仕上げ硬化のための熱処理に際しての硬化収縮が不十分となり、微細な凹凸面が印刷インキ層3の上面3aに形成されず、非光沢面の形成が困難となる。また、この厚みが必要以上に厚いと、格別の効果が得られるわけではなく、むしろ、仕上げ硬化のための熱処理時間が必要以上に長くなってしまい、生産性が大きく低下してしまう。
【0065】
上述した本発明の製造方法において、インキコーティング層10の部分硬化による印刷インキ前駆体層13の形成は、紫外線照射条件に応じて、インキコーティング層10の厚みを調整する厚くすることにより容易に行うことができる。即ち、前述した厚みの硬化層13bが形成されるように、照射する紫外線の強度や照射時間を設定しておき、ここで設定された硬化層13bの厚みに、形成すべき未硬化乃至半硬化層13aの厚みを加えた厚みを、インキコーティング層10の厚みとすればよいのである。
【0066】
また、インキコーティング層の厚みに応じて、紫外線照射条件を設定することによっても、インキコーティング層10の部分硬化によって印刷インキ前駆体層13を形成することができる。即ち、インキコーティング層10の全体厚みが硬化しない程度に紫外線の強度や照射時間を設定しておけばよいのである。
【0067】
本発明の製造方法において、前述した熱処理による仕上げ硬化は、用いた溶剤や紫外線硬化型インキの種類に応じて、印刷インキ前駆体層13中の未硬化乃至半硬化層13aが完全に硬化し、且つオーバーコーティング層15中の溶剤が完全に揮散し、オーバーコーティング層15の焼付けにより硬化したオーバーコート層5が形成される程度の温度及び時間で行えばよい。一般的には、オーバーコーティング材中の透明な膜形成成分の融点以下及び溶剤の沸点以上(通常、80乃至200℃程度)で5乃至15分程度加熱を行えばよい。
【0068】
本発明によれば、上記のようにして図1に示す層構造の塗装金属板1を製造することができる。
また、紫外線照射に際して、一部の領域にのみ、前述した部分硬化による印刷インキ前駆体層13を形成し、他の領域では、全体が硬化した印刷インキ層3とし、次いで、表面全体にオーバーコーティング材をコーティングし、前述した熱処理による仕上げ硬化を行えば、一部の領域に非光沢性表面が形成され、他の領域に光沢性表面が形成されたと層金属板1を製造することができる。
【0069】
上記の場合において、インキコーティング層10の厚み調整により部分硬化によりインキ前駆体層13を形成する場合には、例えば、図4に示すように、一様に紫外線硬化型インキをコーティングしてインキコーティング層10aを形成し、次いで所定の部分に上塗りして、他の部分よりも厚みのあるインキコーティング層10bを形成すればよい。即ち、インキコーティング層10aが、紫外線照射によって厚み方向の全体が硬化して直ちに印刷インキ層5がとなる。このインキコーティング層10aが、前述した硬化層13bの厚みに相当するものである。また、厚塗りにより形成されたインキコーティング層10bでは、紫外線照射により、前述した二層構造の印刷インキ前駆体層13が形成されることとなる。即ち、このコーティング層10bは、未硬化乃至半硬化層13aの厚み分だけ、インキコーティング層10aよりも厚く形成されるものである。
このようにして、紫外線照射を行って一部の領域にのみ印刷インキ前駆体層13を形成した後、全面にオーバーコーティング材を塗布して仕上げ硬化を行うことにより、前述した図2(a)に示されている層構造の塗装金属板1を製造することができる。
【0070】
一方、紫外線照射条件を調整して部分硬化による印刷インキ前駆体層13を形成する場合には、金属基板2の表面に一様に紫外線硬化型インキを塗布して均一な厚みのインキコーティング層を形成し、全面に紫外線を所定時間照射して部分硬化を行った後、非光沢面とすべき位置にマスクを設け、さらに紫外線照射を続行することにより、非光沢面とすべき部分のみが印刷インキ前駆体層13となり、他の部分(光沢面とすべき部分)で印刷インキ層3を直ちに形成することができる。また、非光沢面とすべき部分に、紫外線吸収能を有する半透明のマスクを配置し、高強度の紫外線を照射するなどの方法を採用することによっても、非光沢面とすべき部分のみを印刷インキ前駆体層13とし、光沢面とすべき部分を印刷インキ層3とすることができる。従って、この後、全面にオーバーコーティング材を塗布して仕上げ硬化を行うことにより、前述した図2(b)に示されている層構造の塗装金属板1を製造することができる。
【0071】
上記のようにして製造された塗装金属板1は、例えば、打ち抜き成形、プレス成形、絞り−再絞り加工、絞り−再絞り−しごき加工、絞り−曲げ延ばし再絞り加工、絞り−曲げ延ばし−しごき加工等の公知の成形工程を経て、金属キャップ、金属缶など、種々の用途に供される。
【実施例】
【0072】
本発明を、以下、実験例により説明する。
【0073】
<実験例1>
厚さ0.2mmの表面処理アルミニウム板の表面にポリエステル白色塗料を塗装・加熱乾燥して、厚み0.7μの白色下地塗膜を持つ塗装板を調製した。
前記塗装板の表面に表1に示したインキ厚みにて、マツイカガク社製金属印刷用紫外線硬化型インキ「CPUVーOL シリーズ」を塗布・印刷した。
印刷後、紫外線照射装置(岩崎電気社製 UB061-3)を使用し、下記条件でUV照射し、連続してオーバーコート材としてポリエステル樹脂塗料を乾燥後の塗布量が40mg/dmとなるように塗装印刷板全面に塗布し、電気オーブンにて180℃10分間加熱乾燥を施し、印刷塗装板を得た。
UV照射条件:
ランプ;高圧水銀ランプ、120W/cm、2灯
照射時間;0.5秒
【0074】
得られた塗装板に関して塗装面外観及び光沢率を測定し、結果を表1に示した。
インキ膜厚が3ミクロン以下の条件品ではインキ表面上のオーバーコート層は平滑で高光沢を有しているが4ミクロン以上からは表面に塗膜の縮みが発生し、膜厚の増加と共にマット状から縮緬状の特徴的な外観を呈した。
【0075】
【表1】

【0076】
<実験例2>
実施例1と同様の手法でインキ膜厚を2,4,8μmに調製した印刷板を、表2に示した照射条件でUV照射したのち実施例1と同様にオーバ−コートを施し塗装面外観を評価した。
【0077】
【表2】

【0078】
<実験例3>
実施例2と同様の手法でインキ膜厚2,4,8μmに調製した印刷板を照射条件0.4secでUV照射したのちオーバ−コート材として水性塗料を施し塗装面外観を評価した。結果を表3に示す。
水性塗料;関西ペイント製 アクリル系塗料
塗装条件;塗布量 45mg/dm2 185℃ー10分焼き付け
【0079】
【表3】

【0080】
<実験例4>
厚さ0.2mmの表面処理アルミニウム板の表面に片面側にポリエステル白色塗料を、反対面側にはエポキシ系塗料を塗装・加熱乾燥して、片面に白色下地塗膜を持つ両面塗装板を調製した。
波間に浮かぶ船のデザイン版を用意し、白色塗装面上に実施例1で用いた藍インキを波デザイン部に紅インキを船デザイン部となるような配色で、藍インキは厚み0.6μに、紅インキ厚みは0.2μに連続して印刷し、実施例1と同様にUV照射後オーバーコートを施して印刷塗装板を得た。
得られた印刷板の外観は、波の部分が縮緬状となり立体的な意匠効果を示した。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の塗装金属板の断面構造の例を示す図。
【図2】本発明の塗装金属板の断面構造の他の例を示す図。
【図3】本発明の塗装金属板の製造プロセスを示す図。
【図4】図2(a)の塗装金属板を製造する際のインキコーティング層を示す図。
【符号の説明】
【0082】
1:塗装金属板
3:印刷インキ層
5:オーバーコート層
X:非光沢面領域
Y:光沢面領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板と、該金属基板の少なくとも一方の面に形成された塗装層とからなり、該塗装層の表面には、微細な凹凸面からなる非光沢面領域が形成されている塗装金属板において、
前記塗装層は、前記金属基板の表面に形成され且つ紫外線硬化型インキの硬化物からなる印刷インキ層と、該印刷インキ層の表面に形成されたオーバーコート層とから形成されており、
前記非光沢面領域において、前記印刷インキ層の表面には、微細な凹凸が形成されており、且つ前記オーバーコート層は、その表面に該印刷インキ層の微細な凹凸面が反映される程度の実質上均質な厚みを有しており、該オーバーコート層に形成された凹凸によって非光沢面が形成されていることを特徴とする塗装金属板。
【請求項2】
前記非光沢面領域とともに、実質上平滑な面からなる光沢領域が形成されている請求項1に記載の塗装金属板。
【請求項3】
金属基板の少なくとも一方の表面に紫外線硬化型インキをコーティングして未硬化のインキコーティング層を形成する工程;
前記インキコーティング層に紫外線を照射することにより、該インキコーティング層の面方向の少なくとも一部では、金属基板側の領域が未硬化乃至半硬化層となり且つ該未硬化乃至半硬化層の上の表面領域が硬化層となった印刷インキ前駆体層を形成する部分硬化工程;
前記紫外線硬化型インキと親和性を有する溶剤を含有するオーバーコート材を用意し、前記印刷インキ前駆体層上に、該オーバーコート材をコーティングしてオーバーコーティング層を形成する工程;
前記印刷インキ前駆体層及びオーバーコーティング層が形成された金属基板を加熱することにより、前記印刷インキ前駆体層の未硬化乃至半硬化層及びオーバーコーティング層を完全硬化させ、印刷インキ前駆体層を印刷インキ層とすると同時に、オーバーコーティング層を表面に微細な凹凸を有するオーバーコート層とする仕上げ硬化工程;
とからなることを特徴とする非光沢面領域を有する塗装金属板の製造方法。
【請求項4】
前記インキコーティング層の厚みを厚くして、金属基板側の領域が未硬化乃至半硬化層となり且つ該未硬化層の上の表面領域が硬化層となった印刷インキ前駆体層が形成されるように紫外線を照射する請求項3に記載の塗装金属板の製造方法。
【請求項5】
前記印刷インキ前駆体層が形成される以外の面方向の部分では、前記紫外線照射による硬化によって前記印刷インキコーティング層の厚み方向の全体が硬化した印刷インキ層を形成する請求項3または4に記載の塗装金属板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−200662(P2008−200662A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−43084(P2007−43084)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000228442)日本クラウンコルク株式会社 (382)
【Fターム(参考)】