説明

非円形歯車を用いる非線形弾性要素

【課題】弾性係数について非線形特性を持つ非線形弾性要素であって、該非線形特性について所望のものを容易にかつ確実に得られるように設計可能な非線形弾性要素を提供する。
【解決手段】 非線形弾性要素は第1の非円形歯車(10)と、この第1の非円形歯車に噛み合う第2の非円形歯車(12)とを具備する。第2の非円形歯車には弾性手段(20)が組み込まれ、この弾性手段では、第2の非円形歯車の回動方向に応じて弾性エネルギの蓄積若しくは解放が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性係数について非線形特性を持つ新規な非線形弾性要素に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、ロボットの関節モデルとして、2つの非線形弾性要素を用いる拮抗駆動型の可変剛性関節モデルが開示されている。しかし、この非線形弾性要素の非線形弾性特性の範囲は比較的狭く、その可変剛性関節に高剛性(低コンプライアンス)を設定することはできない。また、非線形弾性要素の弾性係数に所望の非線形特性を与えるように該非線形弾性要素を設計することは難しく、このため所望の剛性を持つ可変剛性関節を低コストで実用化することはできない。
【0003】
非特許文献2には、ロボットの関節モデルとして、線形弾性要素とプーリーとにより構成された拮抗駆動型の可変剛性関節モデルが開示されている。この可変剛性関節では、個々の線形弾性要素を独立して弾性変位させる弾性変位機構が組み込まれ、これにより幅広い非線形特性範囲を実現すると共に無限大までの高剛性を設定し得るようにされているが、しかし2つの線形弾性要素とそこに組み込まれる弾性変位機構との設置スペースが比較的大きく、この可変剛性関節を実用化することは難しい。
【0004】
非特許文献3には、拮抗駆動型の可変剛性関節モデルとして、2つの輪状弾性体を用いるものが開示されているが、この可変剛性関節では、高剛性を設定することが難しく、また輪状弾性体は可変剛性関節の小型化に適さないという欠点を持つ。
【0005】
非特許文献4には、非線形ばね要素として、捩じりばねを案内棒に巻き付けたものが開示されている。詳述すると、捩じりばねが角度変位を受けると、捩じりばねの巻き回が案内棒に順次巻き付いて、その有効巻き数が変化させられ、これにより該捩じりばねに非線形特性が与えられる。この非線形ばね要素においては、広い非線形特性範囲を確保するためには捩じりばねの巻き数を多くすることが必要であり、その全体構成は嵩張ったものとなる。また、この非線形ばね要素に急峻な非線形特性を与えることは困難である。
【0006】
非特許文献5には、可変剛性関節モデルとして、線形コイルばねに円板部材を適宜組み込んでその有効長を強制的に設定するものが開示されている。この可変剛性関節モデルでは、動作時、円板部材は線形コイルばねから受ける摩擦に対抗して強制的に回転させられなければならず、このため円板部材を高速で回転させて応答性を向上させようとするとき、線形コイルばねに意図しない捩じれが生じやすいという問題がある。
【0007】
非特許文献6には、可変剛性関節モデルとして、柔軟な閉リンク系を構成するリンクに弾性体を使用したものが開示されている。この可変剛性関節には人間らしい動きを再現できる長所があるが、しかし比較的大きな設置スペースが必要とされ、任意の関節に使用するにはその構成が複雑であり、また可変剛性範囲も制限を受ける。
【0008】
非特許文献7には、可変剛性関節モデルとして、板ばねの一端を片持ち梁の態様で固定し、該板ばねに対して負荷を掛ける箇所をシフトさせることにより可変剛性を得るものが開示されている。この可変剛性関節にあっては、板ばねの弾性限界の範囲は狭く、大きな角度の出力変位を得ることはできない。また、低剛性を得るためには板ばねを長くすることが必要であり、この場合可変剛性関節の設置スペースを大きくすることが必要となる。
【0009】
【非特許文献1】K.F. Laurin Kovitz, J.E. Colkgate and S.D.R. Carnes: “Design of Components for Programmable Passive Impedance” Proceedings of International Conference on Robotics and Automation, pp.1476-1481, 1991
【非特許文献2】兵頭和人及び小林博明:“非線形バネ要素を持つ腱制御手首機構の研究”:日本ロボット学会誌、vol. 11, No. 8,pp.1244-1251, 1993
【非特許文献3】Hitoshi KINO, Naruyasu OKAMURA, Syuichi YABE:“Basic Characteristics of Tendon-Driven Manipulator Using Belt Pulleys”: Proc. Of 2004 IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems
【非特許文献4】小金澤鋼一、清水祐貴:“非線形弾性システムを有するアクチュエータを用いた腱駆動他自由度関節の機械式剛性制御”:日本ロボット学会誌、vol. 22, No. 8, pp.1048-1049, 2004
【非特許文献5】尾出十八、王安麟、松本徳之:“可変剛性バネの試作とその変位制御問題への応用”:日本機械学会論文集(C編)、59巻564号、pp.262-267, 1993
【非特許文献6】岡田晶史、中村仁彦:“サイバネティック・ショルダ:動物の肩の動きを模倣する3自由度機構”:第15回日本ロボット学会学術講演会予稿集、pp.767-768, 1997
【非特許文献7】森田寿郎、菅野重樹:“メカニカルインピーダンス調節機構による関節制御・機構の提案とロボット指への適用”:日本ロボット学会誌、vol. 14, No. 1, pp.131-136, 1996
【0010】
以上述べたように、従来の研究において、様々な非線形弾性要素或いは可変剛性関節が提案されているが、いずれも研究段階のものであり、実用化し得るものは無い。というのは、非線形弾性要素の弾性係数について所望の非線形特性が得られるように該非線形弾性要素を設計することが実際問題として極めて困難であるからである。また、実用化を阻む要因としては、構成の複雑化や設置スペースの増大化等も挙げられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、弾性係数について非線形特性を持つ非線形弾性要素であって、該非線形特性について所望のものを容易にかつ確実に得られるように設計可能な非線形弾性要素を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による非線形弾性要素は第1の非円形歯車と、この第1の非円形歯車に噛み合う第2の非円形歯車とを具備する。第2の非円形歯車には弾性手段が組み込まれ、この弾性手段では、第2の非円形歯車の回動方向に応じて弾性エネルギの蓄積若しくは解放が行われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
先ず、図1を参照すると、本発明による非線形弾性要素に用いられ得る一対の非円形歯車10及び12が模式的に示される。図1では、非円形歯車10及び12の各々は輪郭線で示されているが、この輪郭線は該当非円形歯車(10、12)のピッチ曲線を表している。この一対の非円形歯車10及び12が互いに噛み合った状態で一方の非円形歯車から他方の非円形歯車に回転駆動力を伝え得るためには、一対の非円形歯車10及び12のピッチ曲線が常に接した状態に維持されなければならない。このような双方のピッチ曲線の導出について以下に述べる。
【0014】
なお、非円形歯車のピッチ曲線設計手法については非特許文献8及び9に明らかにされている。
【0015】
【非特許文献8】Nicholas P. Chironis:“GEAR DESIGN AND APPLICATION”:McGraw-hill, pp.158-167, 1967
【非特許文献9】香取英雄:“非円形歯車の設計・製作と応用”:日刊工業新聞社,2001
【0016】
先ず、図2で用いられる記号について説明する。
Cは非円形歯車10及び12の中心間距離(一定値)である。
及びRは非円形歯車10及び12のそれぞれのピッチ半径である。
θ及びθはピッチ半径R及びRのそれぞれに対する回動角であり、非円形歯車10が適当な基準位置から角度θだけ回動させられたとき、非円形歯車12は該回動角度θに対応して角度θだけ回動させられることになる。
φは傾斜角として定義されるものであって、この傾斜角φは非円形歯車10及び12のピッチ曲線の接点における接線に対して直角な直線が非円形歯車10及び12の中心間と通る直線と成す角度である。
【0017】
ここで、非円形歯車(駆動歯車)10を角速度ωで角度θだけ回動させることにより、非変形歯車(被動歯車)12が角速度ωで角度θだけ回動させられるとした際の角速度比G(θ)を以下のように定義する。
G(θ)=ω=dθ/dθ=R/R (1)
【0018】
非円形歯車10及び12が互いに噛み合った状態で回転し得るためには、常に以下の式が成り立つことが条件となる。
dθ=Rdθ
+R=C
【0019】
以上の2つの式から非円形歯車10及び12のピッチ曲線は以下の式によって一意に決まることになる。
=CG(θ)/[1+G(θ)] (2)
=C−R=C/[1+G(θ)] (3)
【0020】
また、上記式(2)はG(θ)の関数とされるので、以下の式も成り立つことになる。
【数1】

【0021】
要するに、一対の非円形歯車の角速度比G(θ)及び中心間距離Cを設定すれば、その一対の非円形歯車のピッチ曲線が求められ、該一対の非円形歯車の設計が可能である。一般的に、一対の非円形歯車の中心間距離Cが一定であるという条件下では、一方の非円形歯車に任意のピッチ曲線が与えられたとき、その一方の非円形歯車に噛み合い得るピッチ曲線を持つ他方の非円形歯車は常に存在するが、しかしその他方の非円形歯車のピッチ曲線が閉曲線となるとは限らない。なお、本発明による非線形弾性要素では、閉曲線となるピッチ曲線を持つ非円形歯車と開曲線となるピッチ曲線を持つ非円形歯車とのいずれでも使用できる。
【0022】
非円形歯車では、通常の円形歯車とは異なり、傾斜角φは一定ではない。この傾斜角(ピッチ曲線圧力角)φが限度を越えて大きくなると、一対の非円形歯車間で良好な噛み合い状態が得られなくなる。傾斜角φは以下の式によって算出される。
【数2】

【0023】
具体的には、傾斜角φについては、上述の非特許文献8では、一対の非円形歯車の噛み合いが外れないようにするためには、傾斜角φの絶対値が45[deg]以下であるとされ、また上述の非特許文献9では、傾斜角φの絶対値と基準圧力角との和が50[deg]以下であるべきであると経験的に提案している。なお、基準圧力角とは、歯形が基準円と交わるにおける歯形の接線と、その点を通る中心連結線との成す角度である。
【0024】
また、実際に非円形歯車を製作する際には歯数の導出等も必要になるが、これらは通常の円形歯車の場合と同様である。
【0025】
図2を参照すると、本発明による非線形弾性要素の基本原理構成が一実施形態として図示され、これについて以下に説明する。
【0026】
図2に示すように、非線形弾性要素には図1に示した一対の非円形歯車10及び12が用いられ、非円形歯車10及び12は便宜的にそれぞれ駆動歯車及び被動歯車として定義される。
【0027】
駆動歯車10にはその中心に一体化されたシャフト14が設けられ、駆動歯車10は該シャフト14の回転中心軸線の周りで回転自在となるように適当な支持枠(図1では、その一部が参照符号16で示されている)によって適宜保持される。同様に、被動歯車12にもその中心に一体化されたシャフト18が設けられ、被動歯車12は該シャフト18の回転中心軸線の回りで回転自在となるように支持枠16によって適宜保持される。
【0028】
本実施形態では、被動歯車12のシャフト18の回りにトーションばね20が弾性手段として組み込まれ、トーションばね20の一端部20Aは支持枠16に固定され、その他端部20Bは被動歯車12の側面から突出するピン22に掛け止めされ、このため被動歯車12はトーションばね20から弾性力を受けることなる。即ち、被動歯車12の回動方向に応じて、トーションばね20には弾性エネルギが蓄積若しくは解放されることになる。
【0029】
このような非線形弾性要素が種々の機械の構成要素として使用されるとき、駆動歯車10のシャフト14に対して適当な負荷が及ぼされ、該負荷は後述するように非線形弾性力に支配されることになる。
【0030】
以上述べたような非線形弾性要素においては、例えば、駆動歯車10の動作角度範囲として、始端θ1Sから時計方向に向かう終端θ1Fまでの角度範囲が設定されているとすると、これに対応して被動歯車12の動作角度範囲については始端θ2Sから反時計方向に向かう終端θ2Fまでの角度範囲が設定されることになる。即ち、駆動歯車10のシャフト14が無負荷のとき、或いは所定の一定負荷が該シャフト14に掛けられているとき、駆動歯車10と被動歯車12とは共にそれら始端θ1S及びθ2Sで噛み合った状態とされ、駆動歯車10のシャフト14に加わる負荷が次第に増大して該駆動歯車10が反時計方向に回動させられると、被動歯車12は時計方向に回動させられ、このときトーションばね20には弾性エネルギが蓄積されることになる。
【0031】
なお、駆動歯車10の動作角度範囲から除外される部分、即ち始端θ1Sから反時計方向に向かう終端θ1Fまでの部分については必要に応じて該駆動歯車10から除いてもよく、同様に被動歯車12の弾性動作角度範囲から除外される部分、即ち始端θ2Sから時計方向に向かう終端θ2Fまでの部分については必要に応じて該駆動歯車10から除いてもよい。
【0032】
ここで、駆動歯車10及び被動歯車12がそれぞれの始端θ1S及びθ2Sからの角度θ及びθで釣り合うように、駆動歯車10のシャフト14に負荷が掛けられているとすると、被動歯車12がトーションばね20から受けるトルクをtとすると、
t=kθ
となる。ここでkはトーションばね20の弾性係数である。
【0033】
また、駆動歯車10及び被動歯車12がその接点で釣り合っているという条件から以下の式が成立する。
t/R=t/R
【0034】
この式は上記式(1)、(3)及び(4)から以下のようになる。
【数3】

【0035】
また、この式(5)はエネルギ保存則から求めることもできる。即ち、図2に示す非線形弾性要素の系としてのエネルギはトーションばね20のポテンシャルエネルギのみである。即ち、ポテンシャルエネルギをUとすると、
【数4】

【0036】
この式をθで微分すると、以下のようになり、これは上記式(5)と同じである。
【数5】

【0037】
上記式(4)において、項kG(θ)=k(R/R)=k′とすると、τ=k′θであるから、k′は以下の式で表せる。
【数6】

【0038】
即ち、k′は図2に示す非線形弾性要素の弾性係数を示し、この弾性係数k′は非線形特性を持つことになる。要するに、被動歯車12が回動させられたとき、そのピッチ半径Rが長くなると、弾性係数k′は小さくなり、該ピッチ半径Rが短くなると、弾性係数k′は大きくなる。
【0039】
本発明によれば、弾性係数k′について所望の非線形特性を持つ非線形弾性要素を容易にしかも確実に設計することが保証され得る。詳述すると、先ず、弾性係数k′について所望の非線形特性が決定されると、トーションばね20の弾性係数kを適宜選ぶことにより角速度比G(θ)=R/Rが決定される。角速度比G(θ)=R/Rが決定されると、上記式(2)及び(3)から駆動歯車10及び被動歯車12のピッチ曲線が求まる。かくして、弾性係数k′ついて所望の非線形特性を持つ非線形弾性要素を容易にしかも確実に設計するできる。
【0040】
本発明による非線形弾性要素の応用例として、ロボットの関節に用いられ得る拮抗駆動型可変剛性関節が挙げられる。このような拮抗駆動型可変剛性関節では、図2に示す非線形弾性要素と、この非線形弾性要素と同じ非線形特性を持つもう1つの非線形弾性要素との2つが用意され、これら2つの非線形弾性要素が互いに拮抗するように組み合わされる。
【0041】
図3を参照すると、拮抗駆動型可変剛性関節の一構成例が模式図として示される。同図において、参照符号NTS1は一方の非線形弾性要素即ち第1の非線形弾性要素を示し、参照符号NTS2は他方の非線形弾性要素即ち第2の非線形弾性要素を示す。
【0042】
この構成例では、第1の非線形弾性要素NTS1の駆動歯車(10)のシャフト(14)と非線形弾性要素NTS2の駆動歯車(10)のシャフト(14)とは互いに接続させられて拮抗シャフト(出力シャフト)ASを形成する。拮抗シャフトASが一方向に回動させられると、第1の非線形弾性要素NTS1の駆動歯車(10)はそのトーションばね(20)に弾性エネルギを蓄積するように回動させられ、第2の非線形弾性要素NTS2の駆動歯車(10)はそのトーションばね(20)から弾性エネルギを解放するように回動させられる。また、第1の非線形弾性要素NTS1の被動歯車(12)のシャフト(18)にはそこから駆動歯車(10)側に向かって延びる延長シャフトが取り付けられ、その延長シャフトの先端部は拮抗シャフトASに対して同心となるように直角に曲げられて剛性設定シャフトSS1とされる。同様に、第2の非線形弾性要素NTS2の被動歯車(12)のシャフト(18)にはそこから駆動歯車(10)側に向かって延びる延長シャフトが取り付けられ、その延長シャフトの先端部は拮抗シャフトASに対して同心となるように直角に曲げられて剛性設定シャフトSS2とされる。
【0043】
図3において、θは拮抗駆動型可変剛性関節に所望の剛性を設定するための剛性設定角を示し、この剛性設定角θの設定については剛性設定シャフトSS1及びSS2を外部から回動させることによって行われる。また、Δは剛性設定角θの設定により得られる拮抗シャフトASの出力変位を示す。
【0044】
従って、拮抗シャフトASの出力トルクτtotalは以下の式によって表せる。
τtotal=τ(θ+Δ)−τ(θ−Δ)
【0045】
この式をテイラー展開し、Δが十分小さく、三次以上の高次項の影響を無視すると、該式は以下のようになる。
【数7】

【0046】
この式でK(θ)は剛性設定角θによって得られる弾性係数であり、この弾性係数K(θ)は上記式(6)から以下のように表せる。
【数8】

【0047】
要するに、剛性設定シャフトSS1及びSS2に剛性設定角θを適宜設定することにより、拮抗駆動型可変剛性関節について所望の剛性が得られることになる。
【0048】
このような拮抗駆動型可変剛性関節をロボットの関節に組み込むことにより、ロボットの腕や脚に安全性を付加できるという利点が得られる。詳述すると、人間と共存するロボットには不意の衝突における安全が求められる。このような場合、ロボットの関節に低剛性即ち柔らかさを与えることが有効であるとされている。従来、ロボットの関節に駆動モータを直結してソフトウエア的な処理でその関節に柔らかさを付与しているが、しかしソフトウエア的な処理の場合には不意の衝突を検出してから関節の剛性を制御するためにその制御系には必ずタイムラグが存在する。従って、従来のソフトウエア的な処理では、急激な衝突時には制御不能となる場合があり、このときロボットの腕や脚が予想し得ない動きをすることがあり、極めて危険な状態となる。しかしながら、上述したような拮抗駆動型可変剛性関節では、急激な衝突を受けたときでも、ロボットの腕や脚が予想し得ない動きをすることはあり得ない。
【0049】
なお、図3の構成例では、第1及び第2の非線形弾性要素NTS1及びNTS2のそれぞれに剛性設定シャフトSS1及びSS2が用意されているが、剛性設定シャフトSS1及びSS2のいずれか一方だけが設けられていてもよいが、しかしその場合には図3の構成を多少改変することが必要である。即ち、例えば、第1の非線形弾性要素NTS1の剛性設定シャフトSS1だけが設けられるとき、第2の非線形弾性要素NTS2の被動歯車(12)のシャフト(18)と該剛性設定シャフトSS1との間に歯車機構を設けて、剛性設定シャフトSS1が一方向に回動させられたとき、該被動歯車(12)のシャフト(18)が逆方向に回動させられるようにすることが必要となる。
【0050】
また、本発明による非線形弾性要素のその他の応用例として、該非線形弾性要素と小型モータとを組み合わせて、出力軸に任意の機械式可変剛性を備えたアクチュエータを構成することもできる。このようなアクチュエータでは、小型モータからの駆動力が駆動歯車10を介してトーションばね20に弾性エネルギとして一旦蓄積させられ、その弾性エネルギが必要に応じて可変トルクとして出力され、その後トーションばね20には弾性エネルギが蓄積されることになる。
【0051】
本発明による非線形弾性要素の更に別の応用例として、該非線形弾性要素の弾性係数即ち剛性を変化させて固有振動数を調節できる制振装置を構成するこもとできる。具体的には、本発明による非線形弾性用を車両や工作機械のサスペンションに応用することができる。
【0052】
以上述べた非線形弾性要素の実施形態では、トーションばね20が被動歯車12に組み込まれるが、トーションばね20に代えてその他の弾性手段が用いられてもよい。例えば、その他の弾性手段としてコイルばねが挙げられる。この場合、コイルばねの一端は支持枠16に固着され、その他端には索条が連結されて、該索条が被動歯車12のシャフト18に巻き付けられる。これにより被動歯車12の回動方向に応じて、コイルばねには弾性エネルギが蓄積若しくは解放されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明による非線形弾性要素に用いられる一対の非円形歯車のピッチ曲線の導出を説明するための説明図である。
【図2】本発明による非線形弾性要素の一実施形態を示す模式図である。
【図3】本発明による非線形弾性要素の応用例としての拮抗駆動型可変剛性関節を示す模式図である。
【符号の説明】
【0054】
10:駆動歯車(非円形歯車)
12:被動歯車(非円形歯車)
14:シャフト
16:支持枠
18:シャフト
20:トーションばね
22:ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の非円形歯車(10)と、この第1の非円形歯車に噛み合う第2の非円形歯車(12)と、この第2の非円形歯車に組み込まれた弾性手段(20)であって、該第2の非円形歯車の回動方向に応じて弾性エネルギの蓄積若しくは解放が行われるようになった弾性手段とを具備して成る非線形弾性要素。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−78036(P2007−78036A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−264676(P2005−264676)
【出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】