説明

非円形歯車対を用いた変速機の変速方法

【課題】クラッチや歯車の設計の自由度を高くでき、最適な性能となるクラッチや歯車を備えた変速機を実現しやすい、非円形歯車対を用いた変速機の変速方法を提供する。
【解決手段】入力部材12と出力部材14との間に、クラッチ40,42を介して歯車対16,17が配置され、非円形歯車対用クラッチ44を介して非円形歯車対18が配置されている。非円形歯車対18は、入力部材12と出力部材14との間に歯車対16,17が連結されたときの減速比と等しくなる定速噛み合い区間と、隣り合う定速噛み合い区間の間において減速比が変化する変速噛み合い区間とを含む。減速比を切り替える際に、クラッチ40,42と非円形歯車対用クラッチ44のいずれか一方がONであり、かつ、他方がOFFである状態から、一方をOFFにした後に他方をONにする工程を含む。後からONにする他方のクラッチは、噛み合いクラッチである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非円形歯車対を用いた変速機の変速方法に関し、詳しくは、減速比を切り替える際に非円形歯車対を用いた変速機の変速方法に関する。
【0002】
なお、本明細書中において、「減速比」は、駆動側回転速度/被動側回転速度(あるいは、入力側回転速度/出力側回転速度)で表され、駆動側回転速度よりも被動側回転速度の方が小さくなる場合(いわゆる減速の場合)には1より大きい値となる。「減速比」は、駆動側回転速度よりも被動側回転速度の方が大きい場合(いわゆる増速の場合)についても同じ定義を用いて表し、この場合には、1より小さい値となる。
【背景技術】
【0003】
従来、入力軸と出力軸との間に連結する歯車対を切り替えることにより減速比を変える一般の変速機では、減速比を切り替える際にいずれの歯車対も入力軸と出力軸との間に連結されていない状態があり、このときには動力が伝達されない。そこで、減速比を切り替える際に過渡的に非円形歯車対を入力軸と出力軸との間に連結することにより、減速比を切り替える際も連続して動力が伝達されるようにすることができる、非円形歯車対を備えた変速機が提案されている。
【0004】
例えば、変速機は、減速比Rの歯車対と、減速比Rの歯車対と、減速比がRとRを含む範囲で変化する非円形歯車対とを、それぞれ、クラッチを用いて入力軸と出力軸との間に解除可能に連結できるように構成にする。この変速機を用いて、減速比をRからRに変える場合、図10に示すようにクラッチを動作させる。
【0005】
図10(a)は、非円形歯車対の減速比を模式的に示すグラフである。横軸は入力軸の回転角度、縦軸は非円形歯車対の減速比である。図10(b)の表は、クラッチのONの状態を○印で示し、OFFの状態は空欄としている。減速比Rの歯車対のクラッチを「クラッチ(R)」、減速比Rの歯車対のクラッチを「クラッチ(R)」、減速比が変化する非円形歯車対のクラッチを「クラッチ(変速)」と表している。
【0006】
図10に示すように、減速比Rの歯車対のクラッチのみがONであり、減速比がRである状態で、非円形歯車対の減速比が一定の減速比Rとなる区間302に入ったら、減速比が変化する非円形歯車対のクラッチをONにする。非円形歯車対のクラッチをONにするとき、減速比Rの歯車対のクラッチは、ONのままである。
【0007】
次いで、区間302において非円形歯車対のクラッチがONになった後、かつ、非円形歯車対の減速比がRからRに変化する区間303に入る前に、減速比Rの歯車対のクラッチをOFFにする。
【0008】
次いで、非円形歯車対のクラッチのみがONの状態で、非円形歯車対の減速比がRからRに変化する区間303を通過した後、一定の減速比Rとなる区間304に入ったら、減速比Rの歯車対のクラッチをONにする。減速比Rの歯車対のクラッチをONにするとき、非円形歯車対のクラッチはONのままである。
【0009】
次いで、区間304において減速比RのクラッチがONになった後、かつ、非円形歯車対の減速比がRからRに変化する区間305に入る前に、非円形歯車対のクラッチをOFFにする。これにより、入力軸と出力軸との間に減速比Rの歯車対のみが連結された状態になり、入力軸と出力軸との間の減速比は一定の減速比Rとなる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2008/062718号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した非円形歯車対を備えた変速機において、歯車対及び非円形歯車対のクラッチには、効率よく動力を伝達できる噛み合いクラッチを用いることが好ましい。
【0012】
しかし、図10に示したように、区間302,304において、ON/OFFを切り替える歯車対のクラッチと非円形歯車対のクラッチとの2つのクラッチを同時にONにする場合、2つのクラッチのうち、後でONになるクラッチについては、駆動側と被動側のクラッチ歯の位相を一致させる必要がある。しかも、減速比の切り替えを繰り返しても位相を一致させる必要がある。このため、クラッチの設計や、歯車対及び非円形歯車対の歯車の設計において制約が生じ、設計の自由度が低下し、最適な性能となるクラッチや歯車を備えた変速機の実現が困難となる場合がある。
【0013】
本発明は、かかる実情に鑑み、クラッチや歯車の設計の自由度を高くでき、最適な性能となるクラッチや歯車を備えた変速機を実現しやすい、非円形歯車対を用いた変速機の変速方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題を解決するために、以下のように構成した、非円形歯車対を用いた変速機の変速方法を提供する。
【0015】
非円形歯車対を用いた変速機の変速方法は、(a)回転可能に支持された入力部材と、(b)回転可能に支持された出力部材と、(c)前記入力部材と前記出力部材との間にそれぞれ配置され、前記入力部材と前記出力部材との間に連結されたときの減速比が一定である、少なくとも2つの歯車対と、(d)前記入力部材と前記出力部材との間に、少なくとも2つの前記歯車対を、それぞれ、ONのときに連結し、OFFのときに連結を解除する、少なくとも2つクラッチと、(e)前記入力部材と前記出力部材との間に配置され、前記入力部材と前記出力部材との間に連結されたときの減速比が変動する、少なくとも1つの非円形歯車対と、(f)前記入力部材と前記出力部材との間に前記非円形歯車対を、ONのときに連結し、OFFのときに連結を解除する、少なくとも1つの非円形歯車対用クラッチとを備え、前記非円形歯車対は、前記入力部材と前記出力部材との間に前記非円形歯車対が連結され、前記非円形歯車対の一方が1回転し、前記非円形歯車対の他方が1回転以上回転して前記非円形歯車対の噛み合いが一巡するときに、(i)前記非円形歯車対の噛み合いにより前記入力部材と前記出力部材との間の減速比が、前記入力部材と前記出力部材との間に少なくとも2つの前記歯車対がそれぞれ連結されたときの前記入力部材と前記出力部材との間の減速比と同じになる、少なくとも2つの定速噛み合い区間と、(ii)隣り合う前記定速噛み合い区間の間において、前記非円形歯車対の噛み合いにより前記入力部材と前記出力部材との間の減速比が、隣り合う前記定速噛み合い区間の一方の減速比から隣り合う前記定速噛み合い区間の他方の減速比まで変化する、少なくとも2つの変速噛み合い区間とを含む、変速機を用いる。前記入力部材と前記出力部材との間に1つの前記歯車対のみが連結された第1の状態から、前記入力部材と前記出力部材との間に前記非円形歯車対のみが連結され前記変速噛み合い区間で噛み合う中間状態を経て、前記入力部材と前記出力部材との間に他の一つの前記歯車対のみが連結された第2の状態に切り替えることにより、回転する前記入力部材と前記出力部材との間の減速比を切り替える際に、前記非円形歯車対が前記定速噛み合い区間で噛み合い、前記入力部材と前記出力部材の間に前記歯車対を連結する場合の前記入力部材と前記出力部材との間の減速比と前記入力部材と前記出力部材の間に前記非円形歯車対を連結する場合の前記入力部材と前記出力部材との間の減速比とが同一であり、当該歯車対用の前記クラッチと当該非円形歯車対用の前記非円形歯車対用クラッチのいずれか一方がONであり、かつ、他方がOFFである状態から、前記一方をOFFにした後に前記他方をONにする工程を含み、前記他方は、位相が合う方向に駆動側と被動側が相対移動可能であれば駆動側と被動側の位相がずれていてもONにすることができる噛み合いクラッチである。
【0016】
上記方法によれば、非円形歯車対が定速噛み合い区間で噛み合い、歯車対と非円形歯車対の減速比が同一である間に、歯車対用と非円形歯車対用の2つのクラッチを同時にONにしないので、2つのクラッチのうち、後でONとなる他方のクラッチは、駆動側と被動側の位相がずれていても噛み合わせことができ、駆動側と被動側の位相を一致させる必要がない。このため、クラッチや歯車の設計の自由度を高くでき、最適な性能となる噛み合いクラッチや歯車を実現しやすくなる。
【0017】
好ましい一態様において、前記クラッチがONであるときに、前記入力部材と前記出力部材との間に連結された前記歯車対と減速比が一致する前記定速噛み合い区間で前記非円形歯車対が噛み合っている間に前記クラッチをOFFにした後、前記非円形歯車対用クラッチをONにすることにより、前記第1の状態から前記中間状態に切り替える。
【0018】
この場合、非円形歯車対用クラッチを、噛み合いクラッチにすることができる。
【0019】
好ましい他の態様において、前記クラッチがONであるならば前記入力部材と前記出力部材との間に連結される前記歯車対の減速比と一致する前記定速噛み合い区間で前記非円形歯車対が噛み合っている間に前記非円形歯車対用クラッチをOFFにした後に、前記クラッチをONにすることにより、前記中間状態から前記第2の状態に切り替える。
【0020】
この場合、クラッチを、噛み合いクラッチにすることができる。
【0021】
好ましくは、前記入力部材と前記出力部材とは、それぞれ、第1部分と第2部分とを含む。前記歯車対は、前記入力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第1部分との間に配置される。前記非円形歯車対は、前記入力部材の前記第2部分と前記出力部材の前記第2部分との間に配置される。前記変速機は、(a)前記入力部材の前記第1部分と前記入力部材の前記第2部分とを回転伝達可能に結合する第1の増減速装置と、(b)前記出力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第2部分とを回転伝達可能に結合する第2の増減速装置とをさらに備える。前記非円形歯車対用クラッチは、前記第1の増減速装置と前記入力部材の前記第2部分と前記非円形歯車対と前記出力部材の前記第2部分と前記第2の増減速装置とを介して前記入力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第1部分との間を解除可能に連結する。前記非円形歯車対は、前記入力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第1部分との間に前記非円形歯車対が連結される。前記非円形歯車対の一方が1回転し、前記非円形歯車対の他方が1回転以上回転して前記非円形歯車対の噛み合いが一巡するときに、(a)前記定速噛み合い区間において、前記非円形歯車対の噛み合いにより前記入力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第1部分との間の減速比が、前記入力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第1部分との間に前記歯車対が連結されたときの前記入力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第1部分との間の減速比と同じになり、(b)前記変速噛み合い区間において、前記非円形歯車対の噛み合いにより前記入力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第1部分との間の減速比が、隣り合う前記定速噛み合い区間の一方の減速比から隣り合う前記定速噛み合い区間の他方の減速比まで変化する。
【0022】
この場合、増減速装置により、入力部材の第1部分と出力部材の第1部分との間に連結する歯車対を切り換える際に、非円形歯車対が入力部材の第2部分と出力部材の第2部分との間に連結されている時間を長く(又は、短く)することができ、それに伴って、クラッチを作動させる時間を長く(又は、減速比の切り替えに要する時間を短く)することができる。
【0023】
入力が高速回転であっても、適宜な減速比の増減速装置により非円形歯車対の回転を遅くすることで、クラッチの切り換え動作をすべき時間を長くすることができるので、容易に減速比を変えることができる。入力が低速回転である場合には、適宜な減速比の増減速装置により非円形歯車対の回転を速くすることで、減速比の切り換えに要する時間を短縮することができる。
【0024】
また、非円形歯車対の設計の自由度を高くできる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、クラッチや歯車の設計の自由度を高くでき、最適な性能となるクラッチや歯車を備えた変速機を実現しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】変速機の構成を模式的に示す機構図である。(実施例1)
【図2】変速機のクラッチの要部構成図である。(実施例1)
【図3】変速機の歯車のピッチ円あるいはピッチ曲線を模式的に示す図である。(実施例1)
【図4】(a)非円形歯車対の減速比を模式的に示すグラフ、(b)クラッチのONとOFFを示す表である。(実施例1)
【図5】(a)非円形歯車対の減速比を模式的に示すグラフ、(b)クラッチのONとOFFを示す表である。(実施例1)
【図6】変速機の構成を示す断面図である。(実施例1)
【図7】変速機の動作を示す断面図である。(実施例1)
【図8】変速機の動作を示す断面図である。(実施例1)
【図9】変速機の構成を模式的に示す機構図である。(実施例2)
【図10】(a)非円形歯車対の減速比を模式的に示すグラフ、(b)クラッチのONとOFFを示す表である。(従来例)
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、図1〜図9を参照しながら説明する。
【0028】
<実施例1> 実施例1について、図1〜図8を参照しながら説明する。
【0029】
まず、実施例1で用いる変速機10の基本的な構成について、図1〜図3を参照しながら説明する。
【0030】
図1は、変速機10の構成を模式的に示す機構図である。図1に示すように、変速機10は、回転可能に支持されている入力軸12及び出力軸14と、第1の歯車対16と、第2の歯車対17と、非円形歯車対18と、クラッチ40,42,44とを備えている。
【0031】
歯車対16,17及び非円形歯車対18は、それぞれ、一対の歯車20,30;22,32;24,34が噛み合い、回転角度の遅れがない。すなわち、回転角度を正確に伝達し、かつ動力を効率的に伝達する。
【0032】
入力軸12には、歯車対16,17及び非円形歯車対18の一方の歯車(入力側歯車)20,22,24が固定され、これらの歯車20,22,24は入力軸12と一体となって回転する。
【0033】
出力軸14には、歯車対16,17及び非円形歯車対18の他方の歯車(出力側歯車)30,32,34が、相対回転可能な状態に支持されている。出力側歯車30,32,34は、クラッチ40,42,44により、選択的に出力軸14に結合される。すなわち、クラッチ40,42,44がつながっているONのときには、対応する出力側歯車30,32,34は出力軸14に対して結合され、結合された出力側歯車30,32,34と出力軸14とは一体となって回転する。クラッチ40,42,44が切れているOFFのときには、出力側歯車30,32,34は、出力軸14の軸方向の移動が拘束されながら、出力軸14に対して相対回転可能となる。
【0034】
クラッチ40,42,44がONのとき、クラッチ40,42,44での滑り等がなければ、クラッチ40,42,44がONとなっている出力側歯車30,32,34から出力軸14に、回転角度を正確に伝達し、かつ動力を効率的に伝達することができる。
【0035】
クラッチ40,42,44には、ドグクラッチ、ジョークラッチ、歯形クラッチ等の噛み合いクラッチを用いる。円板クラッチ、ドラムクラッチなどの摩擦クラッチでは滑りが発生する可能性がある。これに対して、噛み合いクラッチは、駆動側と被動側とに形成された突起や穴等の機械的構造が噛み合い、摩擦クラッチのような滑りが発生しないので、回転角度を極めて正確に伝達し、かつ動力を極めて効率的に伝達することができるからである。
【0036】
クラッチ40,42,44には、例えば図2に示す噛み合いクラッチ48を用いる。図2は噛み合いクラッチ48の構成を模式的に示す要部構成図である。図2に示すように、噛み合いクラッチ48は、駆動側48sと被動側48tとが軸方向に互いに対向するように配置され、互いに対向する側面に、突起形状のクラッチ歯48p,48qが間欠的に設けられている。被動側48tと駆動側48sは、いずれか一方又は両方が軸方向に移動し、互いに接離する。
【0037】
例えば、不図示のアクチュエータにより、矢印48xで示すように被動側48tが駆動側48sの方向に付勢されて移動すると、図2(a)に示すように、駆動側48sと被動側48tのクラッチ歯48p,48qが互いに間挿し合うように噛み合い、クラッチ48はONになる。
【0038】
駆動側48sと被動側48tのクラッチ歯48p,48qは、先端に斜面48m,48nが形成されている。これにより、図2(b)のように駆動側48sと被動側48tのクラッチ歯48p,48qの位相がずれている状態であっても、駆動側48sと被動側48tとが位相が変わる方向に相対移動可能であれば、被動側48tが駆動側48sの方向に付勢されると位相が合い、クラッチ48はONになる。
【0039】
すなわち、クラッチ40,42,44には、位相が合う方向に駆動側48sと被動側18tが相対移動可能であれば、駆動側48sと被動側48tの位相がずれていてもONにすることができる噛み合いクラッチ48を用いる。
【0040】
図示していないが、クラッチ40,42,44はアクチュエータによって駆動され、アクチュエータの動作は、制御装置によって制御される。また、非円形歯車対18の位相は不図示のセンサにより検出され、検出信号は制御装置に入力される。制御装置は、回転を止めることなく減速比を切り替え、回転角度を正確に伝達し、かつ動力を効率的に伝達することができるように、クラッチ40,42,44のON/OFFを制御する。
【0041】
歯車対16,17及び非円形歯車対18は、クラッチ40,42,44のONによって、入力軸12と出力軸14との間に選択的に連結される。クラッチ40のONにより第1の歯車対16が入力軸12と出力軸14との間に連結されたとき、入力軸12と出力軸14との間の減速比は、相対的に大きい一定の減速比Rとなる。クラッチ42のONにより第2の歯車対17が入力軸12と出力軸14との間に連結されたとき、入力軸12と出力軸14との間の減速比は、相対的に小さい一定の減速比Rとなる。クラッチ44のONにより非円形歯車対18が入力軸12と出力軸14との間に連結されたとき、入力軸12と出力軸14との間の減速比は、少なくとも減速比RとRとを含む範囲内で変化する。
【0042】
例えば図3に示すように、歯車対16,17及び非円形歯車対18の歯車をかみ合いピッチ円(以下、単に「ピッチ円」という。)あるいはかみ合いピッチ曲線(以下、単に「ピッチ曲線」という。)で表し、歯面の図示を省略すると、第1及び第2の歯車対16,17は、対をなす歯車20,30;22,32のピッチ円20p,30p;22p,32pが互いに接する円形歯車である。
【0043】
非円形歯車対18の対をなす歯車24,34は非円形歯車であり、非円形歯車対18の対をなす歯車24,34のピッチ曲線24p,34pは、減速比Rの第1の歯車対16のピッチ円20p,30pの円弧と等しい第1の区間25,35と、減速比Rの第2の歯車対のピッチ円22p,32pの円弧と等しい第3の区間27,37と、減速比がRとRとの間で変化する第2及び第4の区間26,36;28,38とを有する。非円形歯車対18の対をなす歯車24,34は、図3において矢印で示す方向に回転するとき、歯車24,34のピッチ曲線24p,34pの各区間25,35;26,36;27,37;28,38同士が噛み合う。
【0044】
非円形歯車対18が入力軸12と出力軸14との間に連結されている状況において、非円形歯車対18が、図3(a)に示すように、第3の区間27,37で噛み合う場合は、入力軸12と出力軸14との間の減速比はRとなり、図3(b)で示すように、第1の区間25,35で噛み合う場合は、入力軸12と出力軸14との間の減速比はRとなる。第1の区間25,35と第3の区間27,37は、定速噛み合い区間である。
【0045】
第2の区間26,36、第4の区間28,38で噛み合う場合は、入力軸12と出力軸14との間の減速比は、RとRの間で変化する。第2の区間26,36と第4の区間28,38は、変速噛み合い区間である。
【0046】
なお、非円形歯車対18の一方の歯車が1回転すると他方の歯車が1回転して噛み合いが一巡する場合を例示したが、非円形歯車対は、一方の歯車が1回転すると他方の歯車が2回転以上回転して噛み合いが一巡する構成としてもよい。
【0047】
次に、変速機10の動作について、図4及び図5を参照しながら説明する。図4(a)及び図5(a)は、非円形歯車対18の減速比を模式的に示すグラフである。横軸は入力軸12の回転角度、縦軸は入力側歯車24と出力側歯車34との間の減速比である。図4(b)及び図5(b)の表では、クラッチ40,42,44のONの状態を○印で示し、クラッチ40,42,44のOFFの状態は空欄としている。図4(b)及び図5(b)において、減速比Rの第1の歯車対16のクラッチ40を「クラッチ(R)」、減速比Rの第2の歯車対17のクラッチ42を「クラッチ(R)」、減速比が変化する非円形歯車対18のクラッチ44を「クラッチ(変速)」と表している。
【0048】
減速比Rの第1の歯車対16のクラッチ40がON、クラッチ42,44がOFFのときには、入力軸12と出力軸14との間は、一定の減速比Rとなる。減速比Rの第2の歯車対17のクラッチ42がON、クラッチ40,44がOFFのときには、入力軸12と出力軸14との間は、一定の減速比Rとなる。非円形歯車対18の減速比は、図4(a)及び図5(a)に示すように、入力軸12の回転に伴って減速比RとRとを含む所定範囲内で変化する。なお、図4(a)及び図5(a)において、非円形歯車対18の減速比が変化するときの曲線は模式的に図示されている。
【0049】
入力軸12と出力軸14との間の減速比をRからRに変える場合には、図4に示すようにクラッチ40,42,44を動作させる。
【0050】
減速比Rの第1の歯車対16のクラッチ40のみがONであり、入力軸12と出力軸14との間の減速比がRである状態で、非円形歯車対18の減速比がRからRに変化する区間81を通過した後、非円形歯車対18の減速比が一定の減速比Rとなる区間82に入ったら、減速比Rの第1の歯車対16のクラッチ40をOFFにした後に、減速比が変化する非円形歯車対18のクラッチ44をONにする。
【0051】
すなわち、区間82内において、最初の区間82aでは、減速比Rの第1の歯車対16のクラッチ40はONのままである。その次の区間82xで、減速比Rの第1の歯車対16のクラッチ40がOFFになる。この区間82xでは、すべてのクラッチ40,42,44がOFFである。さらに次の区間82bで、減速比が変化する非円形歯車対18のクラッチ44がONになる。
【0052】
次いで、非円形歯車対18のクラッチ44のみがONの状態で、非円形歯車対18の減速比がRからRに変化する区間83を通過した後、非円形歯車対18の減速比が一定の減速比Rとなる区間84に入ったら、減速比が変化する非円形歯車対18のクラッチ44をOFFにした後に、減速比Rの第2の歯車対17のクラッチ42をONにして、減速比Rの状態とする。
【0053】
すなわち、区間84内において、最初の区間84aでは、減速比が変化する非円形歯車対18のクラッチ44はONのままである。その次の区間84xで、減速比が変化する非円形歯車対18のクラッチ44がOFFになる。この区間84xでは、すべてのクラッチ40,42,44がOFFである。さらに次の区間84bで、減速比Rの第2の歯車対17のクラッチ42がONになり、入力軸12と出力軸14との間に第2の歯車対17のみが連結され、入力軸12と出力軸14との間は一定の減速比Rとなる。
【0054】
入力軸12と出力軸14との間の減速比をRからRに変える場合には、図5に示すようにクラッチ40,42,44を動作させる。
【0055】
減速比Rの第2の歯車対17のクラッチ42のみがONであり、入力軸12と出力軸14との間の減速比がRである状態で、非円形歯車対18の減速比がRからRに変化する区間91を通過した後、非円形歯車対18の減速比が一定の減速比Rとなる区間92に入ったら、減速比Rの第2の歯車対17のクラッチ42をOFFにした後に、減速比が変化する非円形歯車対18のクラッチ44をONにする。
【0056】
すなわち、区間92内において、最初の区間92aでは、減速比Rの第2の歯車対17のクラッチ42はONのままである。その次の区間92xで、減速比Rの第2の歯車対17のクラッチ42がOFFになる。この区間92xでは、すべてのクラッチ40,42,44がOFFである。さらに次の区間92bで、減速比が変化する非円形歯車対18のクラッチ44がONになる。
【0057】
次いで、非円形歯車対18のクラッチ44のみがONの状態で、非円形歯車対18の減速比がRからRに変化する区間93を通過した後、非円形歯車対18の減速比が一定の減速比Rとなる区間94に入ったら、減速比が変化する非円形歯車対18のクラッチ44をOFFにした後に、減速比Rの第1の歯車対16のクラッチ40をONにして、減速比Rの状態とする。
【0058】
すなわち、区間94内において、最初の区間94aでは、減速比が変化する非円形歯車対18のクラッチ44はONのままである。その次の区間94xで、減速比が変化する非円形歯車対18のクラッチ44がOFFになる。この区間94xでは、すべてのクラッチ40,42,44がOFFである。さらに次の区間94bで、減速比Rの第1の歯車対16のクラッチ40がONになり、入力軸12と出力軸14との間に第1の歯車対16のみが連結され、入力軸12と出力軸14との間は一定の減速比Rになる。
【0059】
以上のように入力軸12と出力軸14との間の減速比をRからRに、あるいはRからRに変える場合、クラッチを切り替える区間82,84,92,94においてON/OFFを切り替える2つのクラッチのうち一方のクラッチ40,44,42,44をONからOFFにした後に、他方のクラッチ44,42,44,40をONにしており、2つのクラッチは同時にONにしない。区間82,84,92,94においてON/OFFを切り替える2つのクラッチのうち、後でONとなる他方のクラッチ44,42,44,40は、位相が合う方向に駆動側と被動側が相対移動可能であれば駆動側と被動側の位相がずれていてもONにすることができる噛み合いクラッチであるため、駆動側と被動側の位相を一致させる必要がない。このため、クラッチ40,42,44や歯車20,22,24,30,32,34の設計の自由度を高くでき、最適な性能となるクラッチ40,42,44や歯車20,22,24,30,32,34を備えた変速機10を実現しやすい。
【0060】
クラッチ40,42,44は、区間82,84,92,94において駆動側と被動側とが同じ速度のときに、すなわち相対速度がゼロのときに、ON/OFFの切り替えを行う。このため、通常の歯車式変速機で用いられるシンクロコーン(相対速度をゼロにするための摩擦部材)は不要である。
【0061】
なお、すべてのクラッチ40,42,44がOFFになる区間82x,84xでは、駆動力が伝達されないので、この区間82x,84xの時間は、できるだけ短くすることが好ましい。
【0062】
次に、変速機10の具体的な構成例について、図6〜図8を参照しながら説明する。
【0063】
図6の断面図に示すように、入力軸12に、歯車対16,17及び非円形歯車対18の入力側歯車20,22,24が順に固定されている。出力軸14には、歯車対16,17及び非円形歯車対18の出力側歯車30,32,34が相対回転可能かつ、軸方向移動不可能な状態で順に支持されている。第1の歯車対16の出力側歯車30と第2の歯車対17の出力側歯車32との間には、クラッチ500のシフター41が配置されている。クラッチ500は、シフター41を兼用することで、第1の歯車対16用のクラッチ40と第2の歯車対17用のクラッチ42との両方の機能を実現している。第2の歯車対17の出力側歯車32と非円形歯車対18の出力側歯車34との間には、非円形歯車対用クラッチ502のシフター45が配置されている。クラッチ500,502のシフター41,45は、出力軸14に形成されたスプライン溝に摺動自在に支持されており、出力軸14に沿って軸方向には移動自在であるが、出力軸14に対する相対回転はできない状態であり、出力軸14と一体となって回転するようになっている。
【0064】
クラッチ500,502のシフター41,45の外周面には、不図示のアクチュエータが嵌合する溝41x、45xが形成されている。クラッチ500のシフター41は、溝41xに嵌合する不図示のアクチュエータの駆動によって、図6に示した中間位置から、矢印41s,41tに示すように両側に移動する。非円形歯車対用クラッチ502のシフター45は、溝45xに嵌合する不図示のアクチュエータの駆動によって、図5に示した待機位置から、矢印45tで示す片側だけに移動する。
【0065】
クラッチ500のシフター41は、第1の歯車対16の出力側歯車30に対向する側面と、第2の歯車対17の出力側歯車32に対向する側面に、所定のピッチで突起(ドグ)41a,41bが形成されている。第1の歯車対16の出力側歯車30と第2の歯車対17の出力側歯車32には、クラッチ500の構成要素として、クラッチ500のシフター41に対向する側面に、クラッチ500のシフター41の突起41a,41bに対応して、所定のピッチで凹部(ドグ穴)31,33が形成されている。矢印41s,41tで示す方向にクラッチ500のシフター41が移動したとき、クラッチ500のシフター41の突起41a,41bが、出力側歯車30,32の凹部31,33に嵌合し、クラッチ500のシフター41を介して出力軸14と出力側歯車30,32とが一体となって回転する。すなわち、入力軸12と出力軸14との間に第1又は第2の歯車対16,17が連結され、入力軸12から、第1又は第2の歯車対16,17を介して出力軸14に、回転角度を正確に伝達し、かつ動力を効率的に伝達することができる。
【0066】
非円形歯車対用クラッチ502のシフター45は、非円形歯車対18の出力側歯車34に対向する側面に、所定のピッチで突起(ドグ)45bが形成されている。非円形歯車対18の出力側歯車34には、非円形歯車対用クラッチ502の構成要素として、非円形歯車対用クラッチ502のシフター45に対向する側面に、非円形歯車対用クラッチ502のシフター45の突起45bに対応して、所定のピッチで凹部(ドグ穴)35が形成されており、矢印45tで示す方向に非円形歯車対用クラッチ502のシフター45が移動したとき、非円形歯車対用クラッチ502のシフター45の突起45bが、非円形歯車対18の出力側歯車34の凹部35に嵌合し、非円形歯車対用クラッチ502のシフター45を介して出力軸14と出力側歯車34とが一体となって回転する。すなわち、入力軸12と出力軸14との間に非円形歯車対18が連結され、入力軸12から、非円形歯車対18を介して出力軸14に、回転角度を正確に伝達し、かつ動力を効率的に伝達することができる。
【0067】
次に、この変速機10の動作の一例について、図7及び図8を参照しながら説明する。
【0068】
図7(a)に示すように、クラッチ500のシフター41が矢印41sで示す方向に移動して第1の歯車対16の出力側歯車30に嵌合し、非円形歯車対用クラッチ502のシフター45が待機位置にあるとき、入力軸12と出力軸14との間には、第1の歯車対16のみが連結される。このとき、回転角度及び動力は、図7(a)において破線で示すように、入力軸12から第1の歯車対16の入力側歯車20、出力側歯車30、クラッチ500のシフター41を介して、出力軸14に伝達され、減速比はRとなる。
【0069】
減速比をRからRに切り替える場合には、非円形歯車対18の減速比がRになる状態の間に、図7(b)に示すように、クラッチ500のシフター41が中間位置に移動し、第1の歯車対16の出力側歯車30との嵌合が解除される。
【0070】
次いで、非円形歯車対18の減速比がRになる状態の間に、図7(c)に示すように、非円形歯車対用クラッチ502のシフター45が矢印45tで示す方向に移動して非円形歯車対18の出力側歯車34に嵌合し、入力軸12と出力軸14との間に、非円形歯車対18が連結される。これにより、回転角度及び動力は、破線で示すように、入力軸12から、非円形歯車対18の入力側歯車24、出力側歯車34、非円形歯車対用クラッチ502のシフター45を介して、出力軸14に伝達される。
【0071】
次いで、非円形歯車対18のみが連結された状態で、非円形歯車対18の減速比がRからRに変化する。
【0072】
次いで、非円形歯車対18の減速比がRになると、図8(d)に示すように、非円形歯車対用クラッチ502のシフター45が待機位置に移動し、非円形歯車対18の出力側歯車34との嵌合が解除される。
【0073】
次いで、図8(e)に示すように、クラッチ500のシフター41が矢印41tで示す方向に移動して第2の歯車対17の出力側歯車32に嵌合し、入力軸12と出力軸14との間に、第2の歯車対17が連結される。これにより、回転角度及び動力は、破線で示すように、入力軸12から、第2の歯車対17の入力側歯車22、出力側歯車32、クラッチ500のシフター41を介して、出力軸14に伝達され、一定の減速比Rとなり、減速比の切り替えが完了する。
【0074】
<実施例2> 実施例2で用いる変速機10aについて、図9を参照しながら説明する。
【0075】
実施例2の変速機10aは、実施例1の変速機10と略同様に構成されている。以下では、実施例1との相違点を中心に説明し、同じ構成部分には同じ符号を用いる。
【0076】
図9は、実施例2の変速機10aの構成を模式的に示す機構図である。図9に示すように、実施例2の変速機10aは、実施例1と異なり、増減速装置29,39を備える。入力軸12a及び出力軸14aは、第1及び第2の歯車対16,17が配置される第1部分12s,14sと、非円形歯車対18が配置される第2部分12t,14tとに分割されている。入力軸12aの第1部分12sと入力軸12aの第2部分12tとは、第1の増減速装置29を介して回転伝達可能に結合されている。出力軸14aの第1部分14sと出力軸14aの第2部分14tとは、第2の増減速装置39を介して回転伝達可能に結合されている。
【0077】
ここで、第1の増減速装置29の減速比を、入力軸12aの第1部分12sの回転速度Ni1と入力軸12aの第2部分12tの回転速度Ni2とを用いて、Ni1/Ni2と定義する。第2の増減速装置39の減速比を、出力軸14aの第2部分14tの回転速度No2と出力軸14aの第1部分14sの回転速度No1を用いて、No2/No1と定義する。第2の増減速装置39の減速比の定義は、No1/No2ではないことに留意する必要がある。
【0078】
例えば、増減速装置29,39により、非円形歯車対18側の回転速度を遅くすることができる。すなわち、入力軸12aの第1部分12sと第2部分12tの間に設けられた第1の増減速装置29の減速比をRとし、入力軸12aの第1部分12sの回転速度に対して、入力軸12aの第2部分12tの回転速度を遅くするとともに、出力軸14aの第2部分14tと第1部分14sとの間に設けられた第2の増減速装置39の減速比を1/Rとし、出力軸14aの第1部分14sの回転速度に対して、出力軸14aの第2部分14tの回転速度を遅くすることで、非円形歯車対18側の回転速度を遅くする。これによって、入力軸12aの第1部分12sの回転が高速であっても、実施例1と同様に、非円形歯車対18側の噛み合いによって減速比を変化させながら回転を伝達することができる。
【0079】
なお、増減速装置29,39に同じ構成の増減速装置を用い、入力側と出力側を入れ替えて、一方で減速し、他方で増速してもよい。
【0080】
増減速装置29,39により、非円形歯車対18側の回転速度を速くすることも可能である。
【0081】
変速機10aの減速比は、増減速装置29,39と非円形歯車対18とによって全体として切り換えればよいので、入力軸12a側に設ける第1の増減速装置29の減速比Rinと、出力軸14a側に設ける第2の増減速装置39の減速比Routとが、Rin×Rout=1とならなくても構わない。
【0082】
例えば、第1の歯車対16の減速比がR1、第2の歯車対17の減速比がR2、非円形歯車対18のある区間の減速比がR1'、非円形歯車対18の他の区間の減速比がR2'とすると、次の2つの式、
R1=Rin×R1'×Rout (1)
R2=Rin×R2'×Rout (2)
を満たせば、変速機10aの減速比を、R1からR2、又はR2からR1に切り換えることができる。
【0083】
実施例1の変速機10では、入力が高速回転であると、クラッチの切り換え動作をすべき時間が短くなり、減速比の切り換えが困難になる場合がある。
【0084】
これに対し、実施例2の変速機10aは、入力が高速回転であっても、適宜な減速比の増減速装置29,39により非円形歯車対18の回転を遅くすることで、クラッチの切り換え動作をすべき時間を長くすることができるので、容易に減速比を変えることができる。
【0085】
逆に、入力が低速回転である場合には、適宜な減速比の増減速装置29,39により非円形歯車対18の回転を速くすることで、減速比の切り換えに要する時間を短縮することができる。
【0086】
また、非円形歯車対18の設計の自由度を高くすることも可能である。
【0087】
非円形歯車対用クラッチは、第1の増減速装置29と入力軸12aの第2部分12tと非円形歯車対18と出力軸14aの第2部分14tと第2の増減速装置39とを介して入力軸12aの第1部分12sと出力軸14aの第1部分14sとの間を解除可能に連結すればよい。そのため、例えば、非円形歯車対用クラッチは、入力軸12aの第1部分12sと第1の増減速装置29との間、第1の増減速装置29と入力軸12aの第2部分12tとの間、出力軸14aの第2部分14tと第2の増減速装置39との間、又は第2の増減速装置39と出力軸14aの第1部分14sとの間に設けることもできる。この場合、非円形歯車対18が常に入力軸12aの第2部分12tと出力軸14aの第2部分14tとの間に連結された構成にすることができる。
【0088】
実施例2の変速機10aは、実施例1と同じ変速方法で、減速比をRからRに変えたり、RからRに変えたりすることができる。実施例1と同じく、クラッチ40,42,44は、位相が合う方向に駆動側と被動側が相対移動可能であれば駆動側と被動側の位相がずれていてもONにすることができる噛み合いクラッチであるため、駆動側と被動側の位相を一致させる必要がない。このため、クラッチ40,42,44や歯車20,22,24,30,32,34の設計の自由度を高くでき、最適な性能となるクラッチ40,42,44や歯車20,22,24,30,32,34を備えた変速機10aを実現しやすい。
【0089】
<まとめ> 以上に説明した非円形歯車対を用いた変速機の変速方法は、クラッチや歯車の設計の自由度を高くでき、最適な性能となるクラッチや歯車を備えた変速機を実現しやすい。
【0090】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変更を加えて実施することが可能である。
【0091】
例えば、本発明は、変速機のクラッチ及び非円形歯車対用クラッチの少なくとも一つが噛み合いクラッチであればよく、噛み合いクラッチ以外の滑りクラッチなどのクラッチを含んでいても構わない。
【0092】
また、3つ以上の歯車対を備えたり、2つ以上の非円形歯車対を備えたりしてもよい。歯車対及び非円形歯車対の軸方向の配置順序は任意に選択できる。クラッチ及び非円形歯車対用クラッチは、入力軸側に設けてもよい。
【符号の説明】
【0093】
10,10a 変速機
12,12a 入力軸(入力部材)
12s 第1部分(入力部材の第1部分)
12t 第2部分(入力部材の第2部分)
14,14a 出力軸(出力部材)
14s 第1部分(出力部材の第1部分)
14t 第2部分(出力部材の第2部分)
16,17 歯車対
18 非円形歯車対
20,22,24 歯車(入力側歯車)
25 第1の区間(定速噛み合い区間)
26 第2の区間(変速噛み合い区間)
27 第3の区間(定速噛み合い区間)
28 第4の区間(変速噛み合い区間)
29 増減速装置(第1の増減速装置)
30,32,34 歯車(出力側歯車)
35 第1の区間(定速噛み合い区間)
36 第2の区間(変速噛み合い区間)
37 第3の区間(定速噛み合い区間)
38 第4の区間(変速噛み合い区間)
39 増減速装置(第2の増減速装置)
40,42 クラッチ
44 非円形歯車対用クラッチ
48 噛み合いクラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に支持された入力部材と、
回転可能に支持された出力部材と、
前記入力部材と前記出力部材との間にそれぞれ配置され、前記入力部材と前記出力部材との間に連結されたときの減速比が一定である、少なくとも2つの歯車対と、
前記入力部材と前記出力部材との間に、少なくとも2つの前記歯車対を、それぞれ、ONのときに連結し、OFFのときに連結を解除する、少なくとも2つクラッチと、
前記入力部材と前記出力部材との間に配置され、前記入力部材と前記出力部材との間に連結されたときの減速比が変動する、少なくとも1つの非円形歯車対と、
前記入力部材と前記出力部材との間に前記非円形歯車対を、ONのときに連結し、OFFのときに連結を解除する、少なくとも1つの非円形歯車対用クラッチと、
を備え、
前記非円形歯車対は、
前記入力部材と前記出力部材との間に前記非円形歯車対が連結され、前記非円形歯車対の一方が1回転し、前記非円形歯車対の他方が1回転以上回転して前記非円形歯車対の噛み合いが一巡するときに、
前記非円形歯車対の噛み合いにより前記入力部材と前記出力部材との間の減速比が、前記入力部材と前記出力部材との間に少なくとも2つの前記歯車対がそれぞれ連結されたときの前記入力部材と前記出力部材との間の減速比と同じになる、少なくとも2つの定速噛み合い区間と、
隣り合う前記定速噛み合い区間の間において、前記非円形歯車対の噛み合いにより前記入力部材と前記出力部材との間の減速比が、隣り合う前記定速噛み合い区間の一方の減速比から隣り合う前記定速噛み合い区間の他方の減速比まで変化する、少なくとも2つの変速噛み合い区間と、
を含む、変速機を用いて、
前記入力部材と前記出力部材との間に1つの前記歯車対のみが連結された第1の状態から、前記入力部材と前記出力部材との間に前記非円形歯車対のみが連結され前記変速噛み合い区間で噛み合う中間状態を経て、前記入力部材と前記出力部材との間に他の一つの前記歯車対のみが連結された第2の状態に切り替えることにより、回転する前記入力部材と前記出力部材との間の減速比を切り替える際に、
前記非円形歯車対が前記定速噛み合い区間で噛み合い、前記入力部材と前記出力部材の間に前記歯車対を連結する場合の前記入力部材と前記出力部材との間の減速比と前記入力部材と前記出力部材の間に前記非円形歯車対を連結する場合の前記入力部材と前記出力部材との間の減速比とが同一であり、当該歯車対用の前記クラッチと当該非円形歯車対用の前記非円形歯車対用クラッチのいずれか一方がONであり、かつ、他方がOFFである状態から、前記一方をOFFにした後に前記他方をONにする工程を含み、
前記他方は、位相が合う方向に駆動側と被動側が相対移動可能であれば駆動側と被動側の位相がずれていてもONにすることができる噛み合いクラッチであることを特徴とする、非円形歯車対を用いた変速機の変速方法。
【請求項2】
前記クラッチがONであるときに、前記入力部材と前記出力部材との間に連結された前記歯車対と減速比が一致する前記定速噛み合い区間で前記非円形歯車対が噛み合っている間に前記クラッチをOFFにした後、前記非円形歯車対用クラッチをONにすることにより、前記第1の状態から前記中間状態に切り替えることを特徴とする、請求項1に記載の非円形歯車対を用いた変速機の変速方法。
【請求項3】
前記クラッチがONであるならば前記入力部材と前記出力部材との間に連結される前記歯車対の減速比と一致する前記定速噛み合い区間で前記非円形歯車対が噛み合っている間に前記非円形歯車対用クラッチをOFFにした後に、前記クラッチをONにすることにより、前記中間状態から前記第2の状態に切り替えることを特徴とする、請求項1又は2に記載の非円形歯車対を用いた変速機の変速方法。
【請求項4】
前記入力部材と前記出力部材とは、それぞれ、第1部分と第2部分とを含み、
前記歯車対は、前記入力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第1部分との間に配置され、
前記非円形歯車対は、前記入力部材の前記第2部分と前記出力部材の前記第2部分との間に配置され、
前記変速機は、
前記入力部材の前記第1部分と前記入力部材の前記第2部分とを回転伝達可能に結合する第1の増減速装置と、
前記出力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第2部分とを回転伝達可能に結合する第2の増減速装置と、
をさらに備え、
前記非円形歯車対用クラッチは、前記第1の増減速装置と前記入力部材の前記第2部分と前記非円形歯車対と前記出力部材の前記第2部分と前記第2の増減速装置とを介して前記入力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第1部分との間を解除可能に連結し、
前記非円形歯車対は、前記入力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第1部分との間に前記非円形歯車対が連結され、
前記非円形歯車対の一方が1回転し、前記非円形歯車対の他方が1回転以上回転して前記非円形歯車対の噛み合いが一巡するときに、
前記定速噛み合い区間において、前記非円形歯車対の噛み合いにより前記入力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第1部分との間の減速比が、前記入力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第1部分との間に前記歯車対が連結されたときの前記入力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第1部分との間の減速比と同じになり、
前記変速噛み合い区間において、前記非円形歯車対の噛み合いにより前記入力部材の前記第1部分と前記出力部材の前記第1部分との間の減速比が、隣り合う前記定速噛み合い区間の一方の減速比から隣り合う前記定速噛み合い区間の他方の減速比まで変化することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一つに記載の非円形歯車対を用いた変速機の変速方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−127483(P2012−127483A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282040(P2010−282040)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】