非常用溶融塩組電池及びその使用方法並びに非常用電源装置
【課題】メンテナンスフリーで保存でき、停電等の非常時に使用できる電池及び非常用電源装置を提供する。
【解決手段】電解質として溶融塩を含む溶融塩電池が複数個集まって構成され、充電後、電解質が固化した状態で保存される非常用溶融塩組電池であって、複数の本稼働用溶融塩電池B1と、本稼働用溶融塩電池B1を加熱する加熱装置14(第1の加熱装置)と、加熱装置14を動作させることが可能な少なくとも1つの始動用溶融塩電池B2と、始動用加熱装置100(第2の加熱装置)とを備えている。始動用加熱装置100は、始動用溶融塩電池B2の電池容器に付随して設けられ、非動作時は当該始動用溶融塩電池の電解質を融点未満の温度に維持する常温体であるが、動作時は電池容器の加熱体となるものである。
【解決手段】電解質として溶融塩を含む溶融塩電池が複数個集まって構成され、充電後、電解質が固化した状態で保存される非常用溶融塩組電池であって、複数の本稼働用溶融塩電池B1と、本稼働用溶融塩電池B1を加熱する加熱装置14(第1の加熱装置)と、加熱装置14を動作させることが可能な少なくとも1つの始動用溶融塩電池B2と、始動用加熱装置100(第2の加熱装置)とを備えている。始動用加熱装置100は、始動用溶融塩電池B2の電池容器に付随して設けられ、非動作時は当該始動用溶融塩電池の電解質を融点未満の温度に維持する常温体であるが、動作時は電池容器の加熱体となるものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融塩電池、すなわち溶融塩を電解質とする電池に関する。
【背景技術】
【0002】
災害発生によって停電が長時間に及ぶ場合に、例えば各家庭において大容量の非常用電源装置があれば、情報収集や、夜間の照明確保等が可能となり、非常に有益である。従来、このような非常用電源装置のうち、バッテリを用いるタイプでは、主として鉛蓄電池又はリチウムイオン電池が使用されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−159379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、鉛蓄電池は使用しなくても自己放電するので、常に若しくは少なくとも定期的に充電を行うことが必要である。このことは、リチウムイオン電池においても同様である。言い換えれば、日頃から、いざというときのために充電を怠らない注意が必要である。また、当然ながら、充電のために電気エネルギーを消費する。すなわち、完全にメンテナンスフリーで放置しておいて、いざとなれば使用できる、という便利で無駄のない非常用電源装置は、未だ提案されていない。
【0005】
かかる課題に鑑み、本発明は、メンテナンスフリーで保存でき、停電等の非常時に使用できる電池及び非常用電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明は、電解質として溶融塩を含む溶融塩電池が複数個集まって構成され、充電後、電解質が固化した状態で保存される非常用溶融塩組電池であって、複数の本稼働用溶融塩電池と、前記複数の本稼働用溶融塩電池を加熱する第1の加熱装置と、前記第1の加熱装置を動作させることが可能な少なくとも1つの始動用溶融塩電池と、前記始動用溶融塩電池の電池容器に付随して設けられ、非動作時は当該始動用溶融塩電池の電解質を融点未満の温度に維持する常温体であるが、動作時は前記電池容器の加熱体となる始動用の第2の加熱装置とを備えたものである。
【0007】
上記のように構成された非常用溶融塩組電池では、非常用以外の通常は第1,第2の加熱装置を動作させないことで、電解質が融点未満の温度に維持されるので、電池の放電は進行しない。そして、電池としての始動が必要な時には、第2の加熱装置が加熱体となり、始動用溶融塩電池の電解質を融点以上の温度にすることにより、当該始動用溶融塩電池は使用可能な状態となる。始動用溶融塩電池が使用可能な状態となれば、その電気エネルギーにより、第1の加熱装置を動作させて本稼働用溶融塩電池を加熱し、組電池全体を使用可能な状態とすることができる。従って、通常は各電池を放電させずに保存し、非常時には所望の電圧・電流を出力可能な非常用溶融塩組電池を提供することができる。
【0008】
(2)また、上記(1)の非常用溶融塩組電池において、第2の加熱装置は、電池容器に対する外容器であって、熱媒体を導入することができるものであってもよい。
(3)また、上記(2)の非常用溶融塩組電池の使用方法としては、熱媒体の無い状態では第2の加熱装置を常温体に維持し、熱媒体を導入することによって第2の加熱装置を加熱体に変化させることができる。
すなわち、熱媒体として例えば、湯を注入する、水を注入してから加熱する、又は、熱風を通す、等により、容易に、始動用溶融塩電池を使用可能とすることができる。このような熱媒体の導入は、停電時でも可能であるので、非常時の溶融塩電池始動に好適である。
【0009】
(4)また、上記(1)の非常用溶融塩組電池において、第2の加熱装置は、電池容器を覆うケース内に、化学反応によって発熱し得る物質が、化学反応の開始を阻止するシールを設けて封入されていてもよい。
(5)また、上記(4)の非常用溶融塩組電池の使用方法としては、シールを設けた状態では第2の加熱装置を常温体に維持し、シールを除去することによって第2の加熱装置を加熱体に変化させることができる。
この場合の第2の加熱装置においては、シールを除去することによって化学反応が開始され、発熱するので、容易に、始動用溶融塩電池を使用可能とすることができる。このように使用される第2の加熱装置は外部のエネルギーに依存せず発熱できるので、非常時の溶融塩電池始動に好適である。
【0010】
(6)また、上記(1)の非常用溶融塩組電池において、第2の加熱装置は、電池容器の外面に設けられ、汎用の電池によって加熱可能であってもよい。
この場合の第2の加熱装置は、広く普及していて利用しやすい乾電池等の汎用電池を接続することで発熱するので、容易に、始動用溶融塩電池を使用可能とすることができる。このような第2の加熱装置は、停電時でも発熱可能であるので、非常時の溶融塩電池始動に好適である。
【0011】
(7)また、上記(1)の非常用溶融塩組電池において、第2の加熱装置は、電池容器の外面に直接又は間接に、太陽光を集光して加熱する装置を含むものであってもよい。
この場合の第2の加熱装置は、太陽光を当てるだけで電池容器を加熱し、容易に、始動用溶融塩電池を使用可能とすることができる。このような第2の加熱装置は自然のエネルギーを利用するものであるので、非常時の溶融塩電池始動に好適である。
【0012】
(8)また、上記(1),(2),(4),(6),(7)のいずれかの非常用溶融塩組電池と、当該非常用溶融塩組電池の出力する電圧を、商用交流電圧に変換するインバータ装置とを備えた非常用電源装置を提供することができる。
このような非常用電源装置は、災害等による停電時に、商用交流電圧と同じ交流電圧で電力供給を行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、メンテナンスフリーで保存でき、停電等の非常時に使用できる非常用溶融塩組電池及び、これを用いた非常用電源装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】溶融塩電池における発電要素の基本構造を原理的に示す略図である。
【図2】溶融塩電池本体(電池としての本体部分)の積層構造を簡略に示す斜視図である。
【図3】図2と同様の構造についての横断面図である。
【図4】電池容器に収められた状態の溶融塩電池の外観の概略を示す斜視図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る非常用溶融塩組電池の概略構造を示す斜視図である。
【図6】図5に示す非常用溶融塩組電池の始動用配線図である。
【図7】始動用溶融塩電池の外容器(始動用加熱装置の第1例)の断面図である。
【図8】始動用加熱装置の第2例としての外容器を示す断面図である。
【図9】始動用加熱装置の第3例を示す断面図である。
【図10】始動用加熱装置の第4例を示す断面図である。
【図11】始動用加熱装置の第5例を示す略図である。
【図12】主として家庭用の非常用電源装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る非常用溶融塩組電池(使用方法も含む。)及びこれを用いた非常用電源装置について、図面を参照して説明する。
エネルギー密度に優れた二次電池として、例えば、リチウムイオン電池、ナトリウム硫黄電池、ニッケル水素電池が知られているが、近年、高いエネルギー密度に加えて、不燃性という強力な利点を持つ二次電池として、溶融塩を電解質とする溶融塩電池が開発されている。
【0016】
溶融塩電池の稼働温度領域は57℃〜190℃であり、これは、上記他の電池と比べて温度範囲が広い。そのため、排熱スペースや防火等の装備が不要であり、個々の素電池を高密度に集めて組電池を構成しても全体としては比較的コンパクトである、という利点がある。このような溶融塩組電池は、家庭での電力貯蔵用途に好適である。また、溶融塩電池は、常温では、電解質の融点である57℃に満たないため、固化している。固化した状態では電池として機能せず、自己放電もしない。
【0017】
《溶融塩電池の基本構造》
図1は、溶融塩電池における発電要素の基本構造を原理的に示す略図である。図において、発電要素は、正極1、負極2及びそれらの間に介在するセパレータ3を備えている。正極1は、正極集電体1aと、正極材1bとによって構成されている。負極2は、負極集電体2aと、負極材2bとによって構成されている。
【0018】
正極集電体1aの素材は、例えば、アルミニウム不織布(線径100μm、気孔率80%)である。正極材1bは、正極活物質としての例えばNaCrO2と、アセチレンブラックと、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)と、N−メチル−2−ピロリドンとを、質量比85:10:5:50の割合で混練したものである。そして、このように混練したものを、アルミニウム不織布の正極集電体1aに充填し、乾燥後に、1000kgf/cm2にてプレスし、正極1の厚みが約1mmとなるように形成される。
一方、負極2においては、アルミニウム製の負極集電体2a上に、負極活物質としての例えば錫を含むSn−Na合金が、メッキにより形成される。
【0019】
正極1及び負極2の間に介在するセパレータ3は、ガラスの不織布(厚さ200μm)に電解質としての溶融塩を含浸させたものである。この溶融塩は、例えば、NaFSA(ナトリウム ビスフルオロスルフォニルアミド)0.45mol%と、KFSA(カリウム ビスフルオロスルフォニルアミド)0.55mol%との混合物であり、融点は57℃である。融点以上の温度では、溶融塩は溶融し、高濃度のイオンが溶解した電解液となって、正極1及び負極2に触れている。また、この溶融塩は不燃性である。この溶融塩電池の稼働温度領域は57℃〜190℃であり、通常は、85℃〜95℃に温度を維持して使用される。
【0020】
なお、上述した各部の材質・成分や数値は好適な一例であるが、これらに限定されるものではない。
例えば、溶融塩としては、上記の他、LiFSA−KFSA−CsFSAの混合物も好適である。また、他の塩を混合する場合もあり(有機カチオン等)、一般には、溶融塩は、(a)NaFSA、又は、LiFSAを含む混合物、(b)NaTFSA、又は、LiTFSAを含む混合物、が適する。これらの場合、各混合物の溶融塩は、比較的低融点となるので、少ない加熱で溶融塩電池を作動させることができる。
【0021】
次に、より具体的な溶融塩電池の発電要素の構成について説明する。図2は、溶融塩電池本体(電池としての本体部分)10の積層構造を簡略に示す斜視図、図3は同様の構造についての横断面図である。
図2及び図3において、複数(図示しているのは6個)の矩形平板状の負極2と、袋状のセパレータ3に各々収容された複数(図示しているのは5個)の矩形平板状の正極1とが、互いに対向して図3における上下方向すなわち積層方向に重ね合わせられ、積層構造を成している。
【0022】
セパレータ3は、隣り合う正極1と負極2との間に介在しており、言い換えれば、セパレータ3を介して、正極1及び負極2が交互に積層されていることになる。実際に積層する数は、例えば、正極1が20個、負極2が21個、セパレータ3は「袋」としては20袋であるが、正極1・負極2間に介在する個数としては40個である。なお、セパレータ3は、袋状に限定されず、分離した40個であってもよい。
【0023】
なお、図3では、セパレータ3と負極2とが互いに離れているように描いているが、溶融塩電池の完成時には互いに密着する。正極1も、当然に、セパレータ3に密着している。また、正極1の縦方向及び横方向それぞれの寸法は、デンドライトの発生を防止するために、負極2の縦方向及び横方向の寸法より小さくしてあり、正極1の外縁が、セパレータ3を介して負極2の周縁部に対向するようになっている。
【0024】
上記のように構成された溶融塩電池本体10は、例えばアルミニウム合金製で直方体状の電池容器に収容され、素電池すなわち、電池としての物理的な一個体を成す。
図4は、このような電池容器11に収められた状態の溶融塩電池Bの外観の概略を示す斜視図である。なお、図2,図3における正極1及び負極2のそれぞれからは、端子1p及び1nが電池容器11の外部へ、電池容器11との絶縁を保って引き出される。また、電池容器11の上部には、内部の気圧が過度に上昇したときに放圧するための安全弁12が設けられている。なお、電池容器11の内面には絶縁処理が施されており、電池容器11は、内部の電解質と電気的に絶縁されている。
【0025】
図4に示した溶融塩電池Bの一個体形状は、一例に過ぎず、形状・寸法は任意に構成することができる。
上記のような溶融塩電池Bは、用途に必要な電圧や電流容量を得るべく、複数個が集まって互いに直列又は直並列に接続され、組電池を構成した状態で使用することができる。
【0026】
《非常用溶融塩組電池》
《始動用加熱装置の第1例》
図5は、本発明の一実施形態に係る非常用溶融塩組電池の概略構造を示す斜視図である。図において、溶融塩電池は、複数の本稼働用溶融塩電池B1と、少なくとも1つの始動用溶融塩電池B2とによって構成されている。隣り合う本稼働用溶融塩電池B1の間には、加熱装置14(第1の加熱装置)が介装されている。始動用溶融塩電池B2は、外容器13に収容されている。なお、図5に示す装置全体は、ケース(図示せず。)に収容されていてもよい。
【0027】
図6は、図5に示す非常用溶融塩組電池の始動用配線図(図5には図示せず。)である。なお、本稼働用溶融塩電池B1の出力配線は図示を省略している。始動用溶融塩電池B2の例えば端子1pは、スイッチ15を介して、互いに並列に接続された複数の加熱装置14に一方の端子に接続されている。また、始動用溶融塩電池B2の端子1nは、互いに並列に接続された複数の加熱装置14の他方の端子に接続されている。
【0028】
図7は、始動用溶融塩電池B2の外容器13の断面図である。図において、外容器13の内面における底面、正面・背面及び両側面には支持部13sが設けられている。支持部13sは、始動用溶融塩電池B2を支持し、かつ、外容器15と始動用溶融塩電池B2との間での水の流通を妨げない。水(湯)が入っていない状態では、外容器13は特に意味を成さず、電池容器11は常温(室温)である。従って、始動用溶融塩電池B2は、電池としては休眠状態にあり、自己放電もしない。
【0029】
ここで、停電によって非常用溶融塩組電池を稼働させる必要が生じた場合には、外容器13と、始動用溶融塩電池B2との間の空間に、熱湯を注入し、始動用溶融塩電池B2の電池容器11を加熱すべく高温の湯に浸けた状態とする。これにより、始動用溶融塩電池B2の電解質は溶融し、電池として使用可能な状態となる。この状態で、図6のスイッチ15を閉じていることにより、始動用溶融塩電池B2から各加熱装置14に電力が供給される。
【0030】
各加熱装置14が発熱すると、本稼働用溶融塩電池B1の電解質は溶融し、電池として使用可能な状態となる。なお、本稼働用溶融塩電池B1から負荷(図示せず。)に電力を供給し始めると、通常、放電による発熱によって融点以上の温度を維持できるようになるので、本稼働用溶融塩電池B1が稼働し始めれば、スイッチ15を開いてもよい。なお、スイッチ15は必ずしも必要ではなく、スイッチ無しの直結でもよい。
【0031】
以上のように、始動用溶融塩電池B2の電池容器11に付随して設けられる外容器13は、始動用加熱装置(第2の加熱装置)100となっており、湯の無い通常の状態(すなわち加熱の非動作時)では始動用溶融塩電池B2の電解質を融点未満の温度に維持する常温体であって、湯を注入することにより電池容器11の加熱体となる(すなわち加熱の動作時)。上記の非常用溶融塩組電池では、非常時以外の通常(湯なし)は電解質が融点未満の温度に維持されるので、電池の放電は進行しない。従って、予め各溶融塩電池B1,B2を満充電の状態にしてから電解質を固化させれば、その後、使用しない限り追加的に充電する必要は無い。
【0032】
そして、電池としての始動が必要な時には、湯を入れるという操作によって、始動用溶融塩電池B2の電解質を融点以上の温度にすることにより、当該始動用溶融塩電池B2は使用可能な状態となる。始動用溶融塩電池B2が使用可能な状態となれば、その電気エネルギーにより、加熱装置14を使用して本稼働用溶融塩電池B1を加熱し、組電池全体を使用可能な状態とすることができる。従って、通常は各電池を放電させずに保存し、非常時には所望の電圧・電流を出力可能な非常用溶融塩組電池を提供することができる。すなわち、このような非常用溶融塩組電池はメンテナンスフリーで保存でき、停電等の非常時には使用できる。
【0033】
また、熱媒体として湯を注入することにより、容易に、始動用溶融塩電池B2を使用可能とすることができる。このような熱媒体の導入は、停電時でも可能であるので、非常時の溶融塩電池始動に好適である。なお、湯を入れる以外に、水を入れた金属製の外容器13を、燃料を燃やすことで加熱し、水を湯にしてもよい。
【0034】
《始動用加熱装置の第2例》
図8は、始動用加熱装置100の第2例としての外容器15を示す断面図である。外容器15の内面には、第1例(図7)と同様に支持部15sが設けられている。一方、第1例とは異なって、開口部15aが設けられ、熱風を送り込むホース16が接続される。すなわち、湯の代わりに熱風を送り込むことで、同様に、始動用溶融塩電池B2を使用可能とすることができる。熱風を供給しなければ電池容器11は常温(室温)であり、始動用溶融塩電池B2は、電池として機能せず、自己放電もしない。
【0035】
《始動用加熱装置の第3例》
図9は、始動用加熱装置100の第3例を示す断面図である。図において、始動用溶融塩電池B2は、上面を除き、ケース17によって覆われている。ケース17内には、例えば鉄粉、塩、活性炭、水、バーミキュライトを混ぜた粉状体18が、酸素を抜いた状態で封入されている。ケース17は、多数の小さな孔が設けられており、それらの孔を塞ぐようにシール19が貼り付けられている。通常は、この状態で保存され、封入された粉状体18は空気に触れない。シール19を剥がす、という操作をすると、孔を通して粉状体18が空気に触れ、鉄の酸化による発熱が起きる(使い捨てカイロの原理)。これにより、始動用溶融塩電池B2を融点以上に加熱して使用可能とすることができる。
なお、他にも、酸化マグネシウムや酸化カルシウムのように水と反応して発熱する物質を、シールによって水と分離した状態で封入しておき、シールを除去又は破断することで水と反応させ、発熱させることもできる。
【0036】
この場合の始動用加熱装置100においては、シール19を除去することによって化学反応が開始され、発熱するので、容易に、始動用溶融塩電池B2を使用可能とすることができる。このような始動用加熱装置100は外部のエネルギーに依存せず発熱できるので、非常時の溶融塩電池始動に好適である。
なお、この場合の始動用加熱装置100は、再利用できないので、一度使用すると始動用加熱装置100全体又は一部を取り替える必要がある。
【0037】
《始動用加熱装置の第4例》
図10は、始動用加熱装置100の第4例を示す断面図である。図において、始動用溶融塩電池B2の外面には、シート状のヒータ20が巻かれている。ヒータ20への給電線は例えば所定個数の乾電池22を装着できる電池ホルダ21に接続されている。通常は、乾電池22は装着されていないが、装着によりヒータ20に通電すれば、始動用溶融塩電池B2を融点以上に加熱して使用可能とすることができる。なお、乾電池の代わりに、携帯電話やデジタルカメラに使用されるリチウムイオン電池その他の汎用電池を使用してもよい。
【0038】
この場合の始動用加熱装置100は、広く普及していて利用しやすい汎用電池を接続することで発熱するので、容易に、始動用溶融塩電池を使用可能とすることができる。このような始動用加熱装置は、停電時でも発熱可能であるので、非常時の溶融塩電池始動に好適である。
【0039】
《始動用加熱装置の第5例》
図11は、始動用加熱装置100の第5例を示す略図である。この始動用加熱装置100は、集光レンズ23Lを備えた集光装置23によって太陽光を集光し、熱線吸収性に優れた吸熱板24を介して、始動用溶融塩電池B2を加熱しようとする構成である。
この場合の始動用加熱装置100は、太陽光を当てるだけで電池容器11を加熱し、容易に、始動用溶融塩電池B2を使用可能とすることができる。このような始動用加熱装置100は自然のエネルギーを利用するものであるので、非常時の溶融塩電池始動に好適である。
【0040】
《非常用電源装置》
図12は、主として家庭用の、非常用電源装置400を示すブロック図である。図において、上述のいずれかの始動用加熱装置100を備えた始動用溶融塩電池B2を含む非常用溶融塩組電池200から出力される直流電圧は、インバータ装置300によって、交流100Vに変換される。なお、インバータ装置300を駆動するための制御電源電圧も、非常用溶融塩組電池200から提供することができる。このような非常用電源装置400は、災害等による停電時に、商用交流電圧と同じ交流電圧で電力供給を行うことができる。
【0041】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0042】
11:電池容器
13:外容器
14:加熱装置(第1の加熱装置)
15:外容器
17:ケース
18:粉状体(物質)
19:シール
22:乾電池(汎用電池)
23:集光装置
100:始動用加熱装置(第2の加熱装置)
200:非常用溶融塩組電池
300:インバータ装置
400:非常用電源装置
B:溶融塩電池
B1:本稼働用溶融塩電池
B2:始動用溶融塩電池
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融塩電池、すなわち溶融塩を電解質とする電池に関する。
【背景技術】
【0002】
災害発生によって停電が長時間に及ぶ場合に、例えば各家庭において大容量の非常用電源装置があれば、情報収集や、夜間の照明確保等が可能となり、非常に有益である。従来、このような非常用電源装置のうち、バッテリを用いるタイプでは、主として鉛蓄電池又はリチウムイオン電池が使用されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−159379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、鉛蓄電池は使用しなくても自己放電するので、常に若しくは少なくとも定期的に充電を行うことが必要である。このことは、リチウムイオン電池においても同様である。言い換えれば、日頃から、いざというときのために充電を怠らない注意が必要である。また、当然ながら、充電のために電気エネルギーを消費する。すなわち、完全にメンテナンスフリーで放置しておいて、いざとなれば使用できる、という便利で無駄のない非常用電源装置は、未だ提案されていない。
【0005】
かかる課題に鑑み、本発明は、メンテナンスフリーで保存でき、停電等の非常時に使用できる電池及び非常用電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明は、電解質として溶融塩を含む溶融塩電池が複数個集まって構成され、充電後、電解質が固化した状態で保存される非常用溶融塩組電池であって、複数の本稼働用溶融塩電池と、前記複数の本稼働用溶融塩電池を加熱する第1の加熱装置と、前記第1の加熱装置を動作させることが可能な少なくとも1つの始動用溶融塩電池と、前記始動用溶融塩電池の電池容器に付随して設けられ、非動作時は当該始動用溶融塩電池の電解質を融点未満の温度に維持する常温体であるが、動作時は前記電池容器の加熱体となる始動用の第2の加熱装置とを備えたものである。
【0007】
上記のように構成された非常用溶融塩組電池では、非常用以外の通常は第1,第2の加熱装置を動作させないことで、電解質が融点未満の温度に維持されるので、電池の放電は進行しない。そして、電池としての始動が必要な時には、第2の加熱装置が加熱体となり、始動用溶融塩電池の電解質を融点以上の温度にすることにより、当該始動用溶融塩電池は使用可能な状態となる。始動用溶融塩電池が使用可能な状態となれば、その電気エネルギーにより、第1の加熱装置を動作させて本稼働用溶融塩電池を加熱し、組電池全体を使用可能な状態とすることができる。従って、通常は各電池を放電させずに保存し、非常時には所望の電圧・電流を出力可能な非常用溶融塩組電池を提供することができる。
【0008】
(2)また、上記(1)の非常用溶融塩組電池において、第2の加熱装置は、電池容器に対する外容器であって、熱媒体を導入することができるものであってもよい。
(3)また、上記(2)の非常用溶融塩組電池の使用方法としては、熱媒体の無い状態では第2の加熱装置を常温体に維持し、熱媒体を導入することによって第2の加熱装置を加熱体に変化させることができる。
すなわち、熱媒体として例えば、湯を注入する、水を注入してから加熱する、又は、熱風を通す、等により、容易に、始動用溶融塩電池を使用可能とすることができる。このような熱媒体の導入は、停電時でも可能であるので、非常時の溶融塩電池始動に好適である。
【0009】
(4)また、上記(1)の非常用溶融塩組電池において、第2の加熱装置は、電池容器を覆うケース内に、化学反応によって発熱し得る物質が、化学反応の開始を阻止するシールを設けて封入されていてもよい。
(5)また、上記(4)の非常用溶融塩組電池の使用方法としては、シールを設けた状態では第2の加熱装置を常温体に維持し、シールを除去することによって第2の加熱装置を加熱体に変化させることができる。
この場合の第2の加熱装置においては、シールを除去することによって化学反応が開始され、発熱するので、容易に、始動用溶融塩電池を使用可能とすることができる。このように使用される第2の加熱装置は外部のエネルギーに依存せず発熱できるので、非常時の溶融塩電池始動に好適である。
【0010】
(6)また、上記(1)の非常用溶融塩組電池において、第2の加熱装置は、電池容器の外面に設けられ、汎用の電池によって加熱可能であってもよい。
この場合の第2の加熱装置は、広く普及していて利用しやすい乾電池等の汎用電池を接続することで発熱するので、容易に、始動用溶融塩電池を使用可能とすることができる。このような第2の加熱装置は、停電時でも発熱可能であるので、非常時の溶融塩電池始動に好適である。
【0011】
(7)また、上記(1)の非常用溶融塩組電池において、第2の加熱装置は、電池容器の外面に直接又は間接に、太陽光を集光して加熱する装置を含むものであってもよい。
この場合の第2の加熱装置は、太陽光を当てるだけで電池容器を加熱し、容易に、始動用溶融塩電池を使用可能とすることができる。このような第2の加熱装置は自然のエネルギーを利用するものであるので、非常時の溶融塩電池始動に好適である。
【0012】
(8)また、上記(1),(2),(4),(6),(7)のいずれかの非常用溶融塩組電池と、当該非常用溶融塩組電池の出力する電圧を、商用交流電圧に変換するインバータ装置とを備えた非常用電源装置を提供することができる。
このような非常用電源装置は、災害等による停電時に、商用交流電圧と同じ交流電圧で電力供給を行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、メンテナンスフリーで保存でき、停電等の非常時に使用できる非常用溶融塩組電池及び、これを用いた非常用電源装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】溶融塩電池における発電要素の基本構造を原理的に示す略図である。
【図2】溶融塩電池本体(電池としての本体部分)の積層構造を簡略に示す斜視図である。
【図3】図2と同様の構造についての横断面図である。
【図4】電池容器に収められた状態の溶融塩電池の外観の概略を示す斜視図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る非常用溶融塩組電池の概略構造を示す斜視図である。
【図6】図5に示す非常用溶融塩組電池の始動用配線図である。
【図7】始動用溶融塩電池の外容器(始動用加熱装置の第1例)の断面図である。
【図8】始動用加熱装置の第2例としての外容器を示す断面図である。
【図9】始動用加熱装置の第3例を示す断面図である。
【図10】始動用加熱装置の第4例を示す断面図である。
【図11】始動用加熱装置の第5例を示す略図である。
【図12】主として家庭用の非常用電源装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る非常用溶融塩組電池(使用方法も含む。)及びこれを用いた非常用電源装置について、図面を参照して説明する。
エネルギー密度に優れた二次電池として、例えば、リチウムイオン電池、ナトリウム硫黄電池、ニッケル水素電池が知られているが、近年、高いエネルギー密度に加えて、不燃性という強力な利点を持つ二次電池として、溶融塩を電解質とする溶融塩電池が開発されている。
【0016】
溶融塩電池の稼働温度領域は57℃〜190℃であり、これは、上記他の電池と比べて温度範囲が広い。そのため、排熱スペースや防火等の装備が不要であり、個々の素電池を高密度に集めて組電池を構成しても全体としては比較的コンパクトである、という利点がある。このような溶融塩組電池は、家庭での電力貯蔵用途に好適である。また、溶融塩電池は、常温では、電解質の融点である57℃に満たないため、固化している。固化した状態では電池として機能せず、自己放電もしない。
【0017】
《溶融塩電池の基本構造》
図1は、溶融塩電池における発電要素の基本構造を原理的に示す略図である。図において、発電要素は、正極1、負極2及びそれらの間に介在するセパレータ3を備えている。正極1は、正極集電体1aと、正極材1bとによって構成されている。負極2は、負極集電体2aと、負極材2bとによって構成されている。
【0018】
正極集電体1aの素材は、例えば、アルミニウム不織布(線径100μm、気孔率80%)である。正極材1bは、正極活物質としての例えばNaCrO2と、アセチレンブラックと、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)と、N−メチル−2−ピロリドンとを、質量比85:10:5:50の割合で混練したものである。そして、このように混練したものを、アルミニウム不織布の正極集電体1aに充填し、乾燥後に、1000kgf/cm2にてプレスし、正極1の厚みが約1mmとなるように形成される。
一方、負極2においては、アルミニウム製の負極集電体2a上に、負極活物質としての例えば錫を含むSn−Na合金が、メッキにより形成される。
【0019】
正極1及び負極2の間に介在するセパレータ3は、ガラスの不織布(厚さ200μm)に電解質としての溶融塩を含浸させたものである。この溶融塩は、例えば、NaFSA(ナトリウム ビスフルオロスルフォニルアミド)0.45mol%と、KFSA(カリウム ビスフルオロスルフォニルアミド)0.55mol%との混合物であり、融点は57℃である。融点以上の温度では、溶融塩は溶融し、高濃度のイオンが溶解した電解液となって、正極1及び負極2に触れている。また、この溶融塩は不燃性である。この溶融塩電池の稼働温度領域は57℃〜190℃であり、通常は、85℃〜95℃に温度を維持して使用される。
【0020】
なお、上述した各部の材質・成分や数値は好適な一例であるが、これらに限定されるものではない。
例えば、溶融塩としては、上記の他、LiFSA−KFSA−CsFSAの混合物も好適である。また、他の塩を混合する場合もあり(有機カチオン等)、一般には、溶融塩は、(a)NaFSA、又は、LiFSAを含む混合物、(b)NaTFSA、又は、LiTFSAを含む混合物、が適する。これらの場合、各混合物の溶融塩は、比較的低融点となるので、少ない加熱で溶融塩電池を作動させることができる。
【0021】
次に、より具体的な溶融塩電池の発電要素の構成について説明する。図2は、溶融塩電池本体(電池としての本体部分)10の積層構造を簡略に示す斜視図、図3は同様の構造についての横断面図である。
図2及び図3において、複数(図示しているのは6個)の矩形平板状の負極2と、袋状のセパレータ3に各々収容された複数(図示しているのは5個)の矩形平板状の正極1とが、互いに対向して図3における上下方向すなわち積層方向に重ね合わせられ、積層構造を成している。
【0022】
セパレータ3は、隣り合う正極1と負極2との間に介在しており、言い換えれば、セパレータ3を介して、正極1及び負極2が交互に積層されていることになる。実際に積層する数は、例えば、正極1が20個、負極2が21個、セパレータ3は「袋」としては20袋であるが、正極1・負極2間に介在する個数としては40個である。なお、セパレータ3は、袋状に限定されず、分離した40個であってもよい。
【0023】
なお、図3では、セパレータ3と負極2とが互いに離れているように描いているが、溶融塩電池の完成時には互いに密着する。正極1も、当然に、セパレータ3に密着している。また、正極1の縦方向及び横方向それぞれの寸法は、デンドライトの発生を防止するために、負極2の縦方向及び横方向の寸法より小さくしてあり、正極1の外縁が、セパレータ3を介して負極2の周縁部に対向するようになっている。
【0024】
上記のように構成された溶融塩電池本体10は、例えばアルミニウム合金製で直方体状の電池容器に収容され、素電池すなわち、電池としての物理的な一個体を成す。
図4は、このような電池容器11に収められた状態の溶融塩電池Bの外観の概略を示す斜視図である。なお、図2,図3における正極1及び負極2のそれぞれからは、端子1p及び1nが電池容器11の外部へ、電池容器11との絶縁を保って引き出される。また、電池容器11の上部には、内部の気圧が過度に上昇したときに放圧するための安全弁12が設けられている。なお、電池容器11の内面には絶縁処理が施されており、電池容器11は、内部の電解質と電気的に絶縁されている。
【0025】
図4に示した溶融塩電池Bの一個体形状は、一例に過ぎず、形状・寸法は任意に構成することができる。
上記のような溶融塩電池Bは、用途に必要な電圧や電流容量を得るべく、複数個が集まって互いに直列又は直並列に接続され、組電池を構成した状態で使用することができる。
【0026】
《非常用溶融塩組電池》
《始動用加熱装置の第1例》
図5は、本発明の一実施形態に係る非常用溶融塩組電池の概略構造を示す斜視図である。図において、溶融塩電池は、複数の本稼働用溶融塩電池B1と、少なくとも1つの始動用溶融塩電池B2とによって構成されている。隣り合う本稼働用溶融塩電池B1の間には、加熱装置14(第1の加熱装置)が介装されている。始動用溶融塩電池B2は、外容器13に収容されている。なお、図5に示す装置全体は、ケース(図示せず。)に収容されていてもよい。
【0027】
図6は、図5に示す非常用溶融塩組電池の始動用配線図(図5には図示せず。)である。なお、本稼働用溶融塩電池B1の出力配線は図示を省略している。始動用溶融塩電池B2の例えば端子1pは、スイッチ15を介して、互いに並列に接続された複数の加熱装置14に一方の端子に接続されている。また、始動用溶融塩電池B2の端子1nは、互いに並列に接続された複数の加熱装置14の他方の端子に接続されている。
【0028】
図7は、始動用溶融塩電池B2の外容器13の断面図である。図において、外容器13の内面における底面、正面・背面及び両側面には支持部13sが設けられている。支持部13sは、始動用溶融塩電池B2を支持し、かつ、外容器15と始動用溶融塩電池B2との間での水の流通を妨げない。水(湯)が入っていない状態では、外容器13は特に意味を成さず、電池容器11は常温(室温)である。従って、始動用溶融塩電池B2は、電池としては休眠状態にあり、自己放電もしない。
【0029】
ここで、停電によって非常用溶融塩組電池を稼働させる必要が生じた場合には、外容器13と、始動用溶融塩電池B2との間の空間に、熱湯を注入し、始動用溶融塩電池B2の電池容器11を加熱すべく高温の湯に浸けた状態とする。これにより、始動用溶融塩電池B2の電解質は溶融し、電池として使用可能な状態となる。この状態で、図6のスイッチ15を閉じていることにより、始動用溶融塩電池B2から各加熱装置14に電力が供給される。
【0030】
各加熱装置14が発熱すると、本稼働用溶融塩電池B1の電解質は溶融し、電池として使用可能な状態となる。なお、本稼働用溶融塩電池B1から負荷(図示せず。)に電力を供給し始めると、通常、放電による発熱によって融点以上の温度を維持できるようになるので、本稼働用溶融塩電池B1が稼働し始めれば、スイッチ15を開いてもよい。なお、スイッチ15は必ずしも必要ではなく、スイッチ無しの直結でもよい。
【0031】
以上のように、始動用溶融塩電池B2の電池容器11に付随して設けられる外容器13は、始動用加熱装置(第2の加熱装置)100となっており、湯の無い通常の状態(すなわち加熱の非動作時)では始動用溶融塩電池B2の電解質を融点未満の温度に維持する常温体であって、湯を注入することにより電池容器11の加熱体となる(すなわち加熱の動作時)。上記の非常用溶融塩組電池では、非常時以外の通常(湯なし)は電解質が融点未満の温度に維持されるので、電池の放電は進行しない。従って、予め各溶融塩電池B1,B2を満充電の状態にしてから電解質を固化させれば、その後、使用しない限り追加的に充電する必要は無い。
【0032】
そして、電池としての始動が必要な時には、湯を入れるという操作によって、始動用溶融塩電池B2の電解質を融点以上の温度にすることにより、当該始動用溶融塩電池B2は使用可能な状態となる。始動用溶融塩電池B2が使用可能な状態となれば、その電気エネルギーにより、加熱装置14を使用して本稼働用溶融塩電池B1を加熱し、組電池全体を使用可能な状態とすることができる。従って、通常は各電池を放電させずに保存し、非常時には所望の電圧・電流を出力可能な非常用溶融塩組電池を提供することができる。すなわち、このような非常用溶融塩組電池はメンテナンスフリーで保存でき、停電等の非常時には使用できる。
【0033】
また、熱媒体として湯を注入することにより、容易に、始動用溶融塩電池B2を使用可能とすることができる。このような熱媒体の導入は、停電時でも可能であるので、非常時の溶融塩電池始動に好適である。なお、湯を入れる以外に、水を入れた金属製の外容器13を、燃料を燃やすことで加熱し、水を湯にしてもよい。
【0034】
《始動用加熱装置の第2例》
図8は、始動用加熱装置100の第2例としての外容器15を示す断面図である。外容器15の内面には、第1例(図7)と同様に支持部15sが設けられている。一方、第1例とは異なって、開口部15aが設けられ、熱風を送り込むホース16が接続される。すなわち、湯の代わりに熱風を送り込むことで、同様に、始動用溶融塩電池B2を使用可能とすることができる。熱風を供給しなければ電池容器11は常温(室温)であり、始動用溶融塩電池B2は、電池として機能せず、自己放電もしない。
【0035】
《始動用加熱装置の第3例》
図9は、始動用加熱装置100の第3例を示す断面図である。図において、始動用溶融塩電池B2は、上面を除き、ケース17によって覆われている。ケース17内には、例えば鉄粉、塩、活性炭、水、バーミキュライトを混ぜた粉状体18が、酸素を抜いた状態で封入されている。ケース17は、多数の小さな孔が設けられており、それらの孔を塞ぐようにシール19が貼り付けられている。通常は、この状態で保存され、封入された粉状体18は空気に触れない。シール19を剥がす、という操作をすると、孔を通して粉状体18が空気に触れ、鉄の酸化による発熱が起きる(使い捨てカイロの原理)。これにより、始動用溶融塩電池B2を融点以上に加熱して使用可能とすることができる。
なお、他にも、酸化マグネシウムや酸化カルシウムのように水と反応して発熱する物質を、シールによって水と分離した状態で封入しておき、シールを除去又は破断することで水と反応させ、発熱させることもできる。
【0036】
この場合の始動用加熱装置100においては、シール19を除去することによって化学反応が開始され、発熱するので、容易に、始動用溶融塩電池B2を使用可能とすることができる。このような始動用加熱装置100は外部のエネルギーに依存せず発熱できるので、非常時の溶融塩電池始動に好適である。
なお、この場合の始動用加熱装置100は、再利用できないので、一度使用すると始動用加熱装置100全体又は一部を取り替える必要がある。
【0037】
《始動用加熱装置の第4例》
図10は、始動用加熱装置100の第4例を示す断面図である。図において、始動用溶融塩電池B2の外面には、シート状のヒータ20が巻かれている。ヒータ20への給電線は例えば所定個数の乾電池22を装着できる電池ホルダ21に接続されている。通常は、乾電池22は装着されていないが、装着によりヒータ20に通電すれば、始動用溶融塩電池B2を融点以上に加熱して使用可能とすることができる。なお、乾電池の代わりに、携帯電話やデジタルカメラに使用されるリチウムイオン電池その他の汎用電池を使用してもよい。
【0038】
この場合の始動用加熱装置100は、広く普及していて利用しやすい汎用電池を接続することで発熱するので、容易に、始動用溶融塩電池を使用可能とすることができる。このような始動用加熱装置は、停電時でも発熱可能であるので、非常時の溶融塩電池始動に好適である。
【0039】
《始動用加熱装置の第5例》
図11は、始動用加熱装置100の第5例を示す略図である。この始動用加熱装置100は、集光レンズ23Lを備えた集光装置23によって太陽光を集光し、熱線吸収性に優れた吸熱板24を介して、始動用溶融塩電池B2を加熱しようとする構成である。
この場合の始動用加熱装置100は、太陽光を当てるだけで電池容器11を加熱し、容易に、始動用溶融塩電池B2を使用可能とすることができる。このような始動用加熱装置100は自然のエネルギーを利用するものであるので、非常時の溶融塩電池始動に好適である。
【0040】
《非常用電源装置》
図12は、主として家庭用の、非常用電源装置400を示すブロック図である。図において、上述のいずれかの始動用加熱装置100を備えた始動用溶融塩電池B2を含む非常用溶融塩組電池200から出力される直流電圧は、インバータ装置300によって、交流100Vに変換される。なお、インバータ装置300を駆動するための制御電源電圧も、非常用溶融塩組電池200から提供することができる。このような非常用電源装置400は、災害等による停電時に、商用交流電圧と同じ交流電圧で電力供給を行うことができる。
【0041】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0042】
11:電池容器
13:外容器
14:加熱装置(第1の加熱装置)
15:外容器
17:ケース
18:粉状体(物質)
19:シール
22:乾電池(汎用電池)
23:集光装置
100:始動用加熱装置(第2の加熱装置)
200:非常用溶融塩組電池
300:インバータ装置
400:非常用電源装置
B:溶融塩電池
B1:本稼働用溶融塩電池
B2:始動用溶融塩電池
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質として溶融塩を含む溶融塩電池が複数個集まって構成され、充電後、電解質が固化した状態で保存される非常用溶融塩組電池であって、
複数の本稼働用溶融塩電池と、
前記複数の本稼働用溶融塩電池を加熱する第1の加熱装置と、
前記第1の加熱装置を動作させることが可能な少なくとも1つの始動用溶融塩電池と、
前記始動用溶融塩電池の電池容器に付随して設けられ、非動作時は当該始動用溶融塩電池の電解質を融点未満の温度に維持する常温体であるが、動作時は前記電池容器の加熱体となる始動用の第2の加熱装置と
を備えていることを特徴とする非常用溶融塩組電池。
【請求項2】
前記第2の加熱装置は、前記電池容器に対する外容器であって、熱媒体を導入することができるものである請求項1記載の非常用溶融塩組電池。
【請求項3】
請求項2の非常用溶融塩組電池の使用方法であって、前記熱媒体の無い状態では前記第2の加熱装置を常温体に維持し、前記熱媒体を導入することによって前記第2の加熱装置を加熱体に変化させる非常用溶融塩組電池の使用方法。
【請求項4】
前記第2の加熱装置は、前記電池容器を覆うケース内に、化学反応によって発熱し得る物質が、化学反応の開始を阻止するシールを設けて封入されている請求項1記載の非常用溶融塩組電池。
【請求項5】
請求項4の非常用溶融塩組電池の使用方法であって、前記シールを設けた状態では前記第2の加熱装置を常温体に維持し、前記シールを除去することによって前記第2の加熱装置を加熱体に変化させる非常用溶融塩組電池の使用方法。
【請求項6】
前記第2の加熱装置は、前記電池容器の外面に設けられ、汎用の電池によって加熱可能である請求項1記載の非常用溶融塩組電池。
【請求項7】
前記第2の加熱装置は、前記電池容器の外面に直接又は間接に、太陽光を集光して加熱する装置を含む請求項1記載の非常用溶融塩組電池。
【請求項8】
請求項1,2,4,6,7のいずれか1項に記載の非常用溶融塩組電池と、当該非常用溶融塩組電池の出力する電圧を、商用交流電圧に変換するインバータ装置とを備えた非常用電源装置。
【請求項1】
電解質として溶融塩を含む溶融塩電池が複数個集まって構成され、充電後、電解質が固化した状態で保存される非常用溶融塩組電池であって、
複数の本稼働用溶融塩電池と、
前記複数の本稼働用溶融塩電池を加熱する第1の加熱装置と、
前記第1の加熱装置を動作させることが可能な少なくとも1つの始動用溶融塩電池と、
前記始動用溶融塩電池の電池容器に付随して設けられ、非動作時は当該始動用溶融塩電池の電解質を融点未満の温度に維持する常温体であるが、動作時は前記電池容器の加熱体となる始動用の第2の加熱装置と
を備えていることを特徴とする非常用溶融塩組電池。
【請求項2】
前記第2の加熱装置は、前記電池容器に対する外容器であって、熱媒体を導入することができるものである請求項1記載の非常用溶融塩組電池。
【請求項3】
請求項2の非常用溶融塩組電池の使用方法であって、前記熱媒体の無い状態では前記第2の加熱装置を常温体に維持し、前記熱媒体を導入することによって前記第2の加熱装置を加熱体に変化させる非常用溶融塩組電池の使用方法。
【請求項4】
前記第2の加熱装置は、前記電池容器を覆うケース内に、化学反応によって発熱し得る物質が、化学反応の開始を阻止するシールを設けて封入されている請求項1記載の非常用溶融塩組電池。
【請求項5】
請求項4の非常用溶融塩組電池の使用方法であって、前記シールを設けた状態では前記第2の加熱装置を常温体に維持し、前記シールを除去することによって前記第2の加熱装置を加熱体に変化させる非常用溶融塩組電池の使用方法。
【請求項6】
前記第2の加熱装置は、前記電池容器の外面に設けられ、汎用の電池によって加熱可能である請求項1記載の非常用溶融塩組電池。
【請求項7】
前記第2の加熱装置は、前記電池容器の外面に直接又は間接に、太陽光を集光して加熱する装置を含む請求項1記載の非常用溶融塩組電池。
【請求項8】
請求項1,2,4,6,7のいずれか1項に記載の非常用溶融塩組電池と、当該非常用溶融塩組電池の出力する電圧を、商用交流電圧に変換するインバータ装置とを備えた非常用電源装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−80663(P2013−80663A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221066(P2011−221066)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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