説明

非接触導電率測定装置

【課題】 マイクロ波を用いた、簡単な構成の非接触導電率計測装置の提供【解決手段】 ガンダイオードを用いたオシレータ110で発振されたマイクロ波は、アイソレータ120、サーキュレータ130、ホーンアンテナ140を経てシリコンウェーハ150に照射される。アイソレータ120は、装置の動作に影響する定常波を減少させるために使用する。同一のホーンアンテナ140で反射波が受信され、サーキュレータ130と接続されているディテクタ160で検波されて、電圧として出力する。ディテクタ160では電界の振幅の二乗に比例した出力電圧が得られる。シリコンウェーハ150からの反射波の振幅は反射係数の絶対値に比例するため、出力電圧も反射係数の絶対値の二乗に比例する。反射係数と導電率とは一定の関係があるので、シリコンウェーハ150の導電率を求めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電率を測定することに関し、特にマイクロ波を用いて非接触で導電率を測定するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波による方法は、シリコンウェーハの非接触による導電率測定に用いられている(非特許文献1,特許文献1参照)。空気中を伝播することができるマイクロ波を使用することにより、非接触測定を実現することができる。また、マイクロ波は、その反応が試料の電気的性質に直接関連しているという利点を有している。
しかしながら、マイクロ波による試料の測定に対する専用の装置がなく、電子機器の受動的、能動的なネットワークのSパラメータを測定するネットワークアナライザをその代替品として、通常使用している。このネットワークアナライザはサイズが大きく高価なものであり、産業上の機器として用いることが難しい。
【0003】
【非特許文献1】Ju,Y.,Inoue,K.,Saka,M.and Abe,H.,Contactless measurement of electrical conductivity of semiconductor wafers using the reflection of millimeter waves,Journal of Applied Physics Letters,Vol.81 n 19,2002,pp.3585−3587
【特許文献1】特開2004−177274号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上述の問題点を解決し、マイクロ波により導電率を非接触で測定するためのコンパクトな機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するために、本発明は、マイクロ波を用いた非接触導電率計測装置であって、マイクロ波を発振するオシレータと、該オシレータと接続したサーキュレータと、該サーキュレータと接続した、マイクロ波を試料に対して送信し、反射波を受信するホーンアンテナと、前記サーキュレータと接続した、受信したマイクロ波の大きさの2乗に比例する電圧を出力するディテクタと、前記電圧を入力して、導電率を計算する計算手段とを備えることを特徴とする。
前記サーキュレータは、装置の動作に影響する定常波を減少させるために、アイソレータを介してオシレータと接続することもできる。
シリコンウェーハを測定する場合、前記オシレータで発振するマイクロ波の周波数は、94GHzとすることがよい。
【発明の効果】
【0006】
上述の構成により、簡単でコンパクトな構成のマイクロ波を用いた非接触導電率測定装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。
<マイクロ波による導電率測定の装置構成>
はじめに、本発明の実施形態であるマイクロ波を用いた非接触による導電率測定のための装置構成を、図1を用いて説明する。以下では、シリコンウェーハの導電率測定を例にして説明する。
ガンダイオードを用いたオシレータ110で発振されたマイクロ波は、アイソレータ120、サーキュレータ130、ホーンアンテナ140を経てシリコンウェーハ150に照射される。アイソレータ120は、装置の動作に影響する定常波を減少させるために使用した。その後、同一のホーンアンテナ140で反射波が受信され、サーキュレータ130と接続しているディテクタ160で検波されて、電圧として出力する。ディテクタ160では電界の振幅の二乗に比例した出力電圧が得られる。出力電圧は、A/D変換器でデジタル信号に変換され、コンピュータ(図示せず)に入力される。ここで、シリコンウェーハ150からの反射波の振幅は反射係数の絶対値に比例するため、出力電圧も反射係数の絶対値の二乗に比例する。反射係数と導電率とは一定の関係があるので、コンピュータにより関係式を用いて計算することにより、シリコンウェーハ150の導電率を求めることができる。これらの原理等については、以下で詳しく説明する。
【0008】
<マイクロ波による導電率測定の原理>
上述の構成により、シリコンウェーハに照射したマイクロ波の反射係数を測定することで、シリコンウェーハの導電率測定を行う。以下にその原理を述べる。
図2に示すように、材料1,2,3からなる三層のスラブに材料1からマイクロ波をz軸方向に照射した場合を考える。ここで、実際の測定を考慮して、材料1,3は空気、材料2はシリコンウェーハとする。ここにE,E(i=1,2,3)は各材料i中をz軸に対し、正方向および負方向に伝播する電界の振幅を示す。ε,μと空気中の誘電率,透磁率、ε,μ,σはシリコンウェーハの誘電率,透磁率,導電率で、dはシリコンウェーハの厚さである。またバーErsはシリコンウェーハ表面、すなわち材料1と2の界面からの反射波である。さらにバーErbは、照射されたマイクロ波の一部がシリコンウェーハ内に入射した後に材料2と3の境界で反射し材料1へ返ってくるマイクロ波である。シリコンウェーハからの反射波は、バーErsとバーErbのベクトル和で与えられ、その振幅はEである。各材料中の電界及び磁界は、Z方向の位置の関数として表される。
【0009】
いま、三層スラブ内のMaxwell方程式は、

で得られる。ここにバーE、バーHはそれぞれ各材料(i=1〜3)内の電界および磁界を表す。j=√(−1)で、η、ηは空気の特性インピーダンス、ηはシリコンウェーハの特性インピーダンスを表す。またγはシリコンウェーハの伝播係数で、αとβはγの実部と虚部を示す。さらにβおよびβは空気の伝播係数の虚部を示す。加えてωはマイクロ波の角周波数である。得られたMaxwell方程式は次式(11)〜(14)で与えられるz=0、z=dでの境界条件を満たさなければならない。

さらに、シリコンウェーハは非磁性体であるから

と表示できる。以上の式(1)〜(15)より、マイクロ波がシリコンウェーハに入射した際の反射係数Γが次式(16)〜(18)で得られる。ここでシリコンウェーハの誘電率および透磁率が一定であるため、Γは導電率σおよび厚さdの関数として求まる。

【0010】
次にシリコンウェーハ表面でのマイクロ波の反射を考える。シリコンウェーハ表面でのマイクロ波の反射係数Γ

で与えられ、導電率σのみの関数である。
式(16)と式(19)を用いて、シリコンウェーハ表面での反射係数の絶対値|Γ|反射係数の絶対値|Γ|とを比較すると、図3の表の結果となる。図3の表は、導電率(S/m):行,厚さ(μm):列の条件で計算した比を示している。この図3において、網掛けしている厚さ及び導電率の条件では、この差は1%以下である。このため、この条件下では、反射係数の絶対値|Γ|は、厚さdとは独立に、シリコンウェーハ表面での反射係数の絶対値|Γ|、すなわち導電率σにより決定することができる。
【0011】
<測定に使用する周波数>
シリコンウェーハの導電率測定に最適なマイクロ波の周波数を検討する。
導電率測定に印加されるマイクロ波の周波数は、周波数領域における複素導電率及び反射係数に対するウェーハの厚みの効果を考察することにより決定される。
金属材料(シリコンウェーハも含まれる)の複素導電率の周波数依存性は、Drudeモデルより式(20)で与えられる。

ここで、上記の式において、ωはマイクロ波の角周波数;σωはωにおけるシリコンウェーハの複素導電率;σdcは直流(dc)又は低い周波数の導電率(実部のみ);τは電子の平均衝突時間;j=√(−1)である。
【0012】
さて、室温での金属(銅)の衝突時間は3.33×10−14secである。このとき、周波数が100GHz以下であれば1>>ωτが成り立ち、σω≒σdcと近似できる。ここで、シリコンウェーハの衝突時間は金属の衝突時間と同程度と考えてよい。このため、シリコンウェーハにおいても、周波数が100GHz以下であればσω≒σdcと考えられ、周波数が導電率に与える影響を考えなくてよい。
一方、周波数が増加すると、シリコンウェーハ内部でのマイクロ波の減衰は大きくなる。そのため、ウェーハの底部表面からの反射は無視できる。このため、反射波はウェーハの上部表面からのみと考えることができ、マイクロ波の応答信号は、ウェーハの厚さにより影響されていない。ウェーハの厚さに影響されない導電率測定には、高周波を印加することが望ましい。
以上に述べた相反する2つの理由から、以下で説明する実施例では、シリコンウェーハの導電率測定に最適と考えられる周波数94GHzを用いた。
【実施例】
【0013】
上述のマイクロ波を用いた測定装置の構成において、実際にシリコンウェーハを用いて、導電率を測定した。
試験片として直径100mm、厚さ525±25μmでPをドープしたn型のシリコンウェーハS〜Sの7枚を用意した。なお、測定に用いたシリコンウェーハはcz法によるもので、測定に用いた面がミラー加工されている。四探針法で測定したシリコンウェーハの導電率σ範囲は58〜212S/mであった。また、導電率が2.8×10S/mで、寸法50×50×2mmの銅板を用意した。いま、シリコンウェーハS〜Sの反射係数の絶対値と出力電圧を|Γ|とv(k=1〜7)、銅板の反射係数と出力電圧を|Γcu|、vcuとする。このとき銅板表面でマイクロ波は全反射、すなわち|Γcu|=1と考えられるから|Γ|が次式で得られる。

ところで測定の際に、一部のマイクロ波はセンサ先端で反射する。このためディテクタにおいて検波されるマイクロ波は、センサ先端および被測定物からの反射波のベクトル和となる。このときスタンドオフ距離変化により被測定物からの反射波の位相が変化すると、検波されるマイクロ波も変化する。つまりマイクロ波による測定では、スタンドオフ距離が常に一定であることが要求される。
【0014】
表1に7枚のシリコンウェーハに対して測定した四探針法による導電率σおよびマイクロ波測定による出力電圧vと式(21)より得られた反射係数|Γ|を示す。ここに銅板に対する出力電圧vcuは、0.8654Vであった。


|Γ|と|Γ|の値の間に差が見られた。これはシリコンウェーハ表面以外からの反射の影響やセンサの指向性、装置内のコンポーネントでのマイクロ波のもれなどが原因と考えられる。しかしながら、|Γ|と導電率とは1対1の対応関係がある。このことから反射係数の絶対値|Γ|を測定することで、シリコンウェーハの導電率を測定できる。
【0015】
続いて、導電率測定が可能か検証する。まず、S,S,S,Sを用いて、有効な反射係数の絶対値と導電率の関係式を求めた。

ここに、σは、図1にの構成のマイクロ波測定により評価された導電率で、C(i=1〜4)は定数で、C=412.4S/m、C=407.1S/m、C=128.5S/m、C=10.4S/mであった。続いて、得られた関係式(22)を用いて、S、S、Sに対するσを求めた。結果を図4に示す。図4に示すように、評価結果と四探針法による測定結果はよく一致しており、非接触で導電率を評価できることが証明された。これにより、オンラインでのシリコンウェーハの導電率評価が、シリコンウェーハの厚さとは独立に行えることが期待される。
【0016】
ところで、シリコンウェーハの誘電率および透磁率は、一定と考えられる。このとき、上述と同じ実験時条件であれば式(22)より、マイクロ波を用いてシリコンウェーハの導電率を求めることができる。また、スタンドオフ距離やセンサなどの実験条件が変わっても、数枚のシリコンウェーハを用いて定数Cを再度決定することで、導電率評価が可能となる。
さらにガリウム砒素(GaAs)などのシリコンウェーハ以外の材料に対しても、誘電率および透磁率が一定であれば、数枚の試験片を用いてCを決定することで導電率評価が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
[図1]実施形態の装置構成を示す図である。
[図2]マイクロ波のシリコンウェーハに対する送信と反射のモデルを示す図である。
[図3]式(16)と式(19)で計算した、シリコンウェーハ表面での反射係数の絶対値|Γ|と反射係数の絶対値|Γ|との比を示す表である。
[図4]図1の装置により得た導電率と従来の4点プローブ法での導電率との比較のグラフを示す図である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波を用いた非接触導電率計測装置であって、
マイクロ波を発振するオシレータと、
該オシレータと接続したサーキュレータと、
該サーキュレータと接続した、マイクロ波を試料に対して送信し、反射波を受信するホーンアンテナと、
前記サーキュレータと接続した、受信したマイクロ波の大きさの2乗に比例する電圧を出力するディテクタと、
前記電圧を入力して、導電率を計算する計算手段と
を備えることを特徴とする非接触導電率計測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の非接触導電率計測装置において、
前記サーキュレータは、アイソレータを介してオシレータと接続していることを特徴とする非接触導電率計測装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の非接触導電率計測装置において、
シリコンウェーハを測定する場合、前記オシレータで発振するマイクロ波の周波数は、94GHzであることを特徴とする非接触導電率計測装置。

【国際公開番号】WO2005/045450
【国際公開日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【発行日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515311(P2005−515311)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016410
【国際出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(899000035)株式会社 東北テクノアーチ (68)
【Fターム(参考)】