非接触膜厚測定装置及び方法
【課題】分解能の高い非接触膜厚測定装置及び方法を提供する。
【解決手段】膜厚測定対象物に照射して反射されるテラヘルツエコーパルス光Lteの計測時系列波形を取得する計測時系列波形取得手段41と、膜厚測定対象物に代えて表面反射鏡を配置した状態で、発生手段4から発生されて検出されるテラヘルツパルス光Ltの基準時系列波形と前記計測時系列波形とから、膜厚測定対象物固有の時系列波形を演算する固有時系列波形演算手段42とを備え、固有時系列波形演算手段42は前記計測時系列波形をフーリエ変換して得た計測電場スペクトルに、前記基準時系列波形をフーリエ変換して得た基準電場スペクトル及び定数で表されるウィナー逆フィルターを乗じて固有電場スペクトルを求める固有電場スペクトル演算手段421と、前記定数を増減させて前記固有電場スペクトルを逆フーリエ変換して前記固有時系列波形を得る固有時系列波形演算手段422とを有する。
【解決手段】膜厚測定対象物に照射して反射されるテラヘルツエコーパルス光Lteの計測時系列波形を取得する計測時系列波形取得手段41と、膜厚測定対象物に代えて表面反射鏡を配置した状態で、発生手段4から発生されて検出されるテラヘルツパルス光Ltの基準時系列波形と前記計測時系列波形とから、膜厚測定対象物固有の時系列波形を演算する固有時系列波形演算手段42とを備え、固有時系列波形演算手段42は前記計測時系列波形をフーリエ変換して得た計測電場スペクトルに、前記基準時系列波形をフーリエ変換して得た基準電場スペクトル及び定数で表されるウィナー逆フィルターを乗じて固有電場スペクトルを求める固有電場スペクトル演算手段421と、前記定数を増減させて前記固有電場スペクトルを逆フーリエ変換して前記固有時系列波形を得る固有時系列波形演算手段422とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材に形成された膜の厚さを測定する装置及び方法に関する。詳しくは、膜厚測定対象にテラヘルツパルス光を照射して非接触で膜厚を測定する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や家電製品など多くの工業製品は、基材(下地)の防錆、製品の美観などのために塗装されている。例えば、メタリック塗装乗用車の場合、図10(a)に示すように、下地鋼板60の上に防錆のための電着塗装膜61が形成され、その上に飛び石などを防ぐチッピングプライマー塗装膜62が形成され、その上に中塗り塗装膜63が形成され、その上に顔料と光輝材を含むベース塗装膜64が形成された後、顔料と光輝材を含まないクリア塗装膜65が形成されている。電着塗装膜61は、下地の防錆のために形成され、チッピングプライマー塗装膜62は、飛び石などによる傷つきを防止するために形成される。したがって、これらの膜厚が規定の膜厚を下回ると、防錆機能や傷つき防止機能が損なわれるため、膜厚を測定して厳密に管理する必要がある。また、中塗り塗装膜63、ベース塗装膜64及びクリア塗装膜65は、外観品質(色、メタリック感、光沢、ゆず肌、深み感など)と密接に関連する。したがって、これらの膜厚も測定管理される必要がある。
【0003】
従来は、各塗装膜が形成される都度ドライ状態で渦電流式膜厚計を接触させて膜厚を測定していた。したがって、従来の渦電流式膜厚計による測定には工業製品にキズを付ける問題や、多層膜の各層の膜厚を測定することができないといった問題があった。
【0004】
そこで、キズ付きの問題を解決するために光学干渉を応用した非接触膜厚計が開発された(例えば、特許文献1及び2参照。)が、多層膜の各膜厚を測定することができなかった。
【0005】
最近、上記従来の膜厚計の問題を解決するために、膜厚測定対象にテラヘルツパルス光を照射して非接触で膜厚を測定する装置が開発された(例えば、特許文献3参照。)。テラヘルツパルス光は、波長が30〜3000μm(周波数が0.1〜10THz)の電磁波であり、主たる成分が高分子材料である塗膜を透過する。したがって、図10(a)に示すような多層膜からなる膜厚測定対象物にテラヘルツパルス光を入射させると、屈折率不連続面である各境界面IP1〜IP5でフレネル反射が起き、反射テラヘルツパルス光(以下、テラヘルツエコーパルス光という。)が得られる。このテラヘルツエコーパルス光の電場強度の時系列波形を模式的に示すと、図10(b)のようになり、それぞれ互いに隣接する各境界面からのエコーパルスP1、P2間の時間差T12、エコーパルスP2、P3間の時間差T23、及びエコーパルスP3、P4間の時間差T34に基づいて、タイム・オブ・フライト法を用いて次式により各塗装膜の膜厚を測定することができる。
【0006】
膜厚=(時間差×光速)/(塗膜の群屈折率) (1)
【特許文献1】特許3542346号公報
【特許文献2】特許3326961号公報
【特許文献3】特開2004−28618号公報(第6−7頁、図1、図5、図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、エコーパルス間の時間差から膜厚を求める場合、エコーパルスのパルス幅が膜厚測定分解能を決め、パルス幅をτ、塗膜の群屈折率をn、光速をcとすると、(1)式から分解能Rは、
R=τc/2n=TRc/n (2)
となる。すなわち、図11にテラヘルツエコーパルス光を模式的に示すように、隣り合うエコーパルスが分離できる限界時間差TR=τ/2が分解能を決めることがわかる。したがって、膜厚測定分解能を上げるためには、テラヘルツエコーパルス光のパルス幅を短くしなければならないことがわかる。
【0008】
上記従来の膜厚測定装置では、τ=400fsであり(特許文献3の図5参照。)、n=2とすると、R=30μmと見積もられる。すなわち、従来の膜厚測定装置では30μm未満の膜厚を測定することができない。
【0009】
さらに、図11は、テラヘルツエコーパルス光を模式的に示したものであり、実際はノイズが重畳し、さらに分解能が低下する。
【0010】
また、上記従来の膜厚測定装置では、テラヘルツパルス光の発生部と検出部との間の光路中に、膜厚測定対象物がその測定面でテラヘルツパルス光が正反射するように配置される。したがって、測定面が膜厚測定対象物の凹部にあると、その測定面でテラヘルツパルス光を正反射させることができないので、その測定面の膜厚を測定することができない。
【0011】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、膜厚測定分解能の高い非接触膜厚測定装置及び方法を提供することを課題とする。
【0012】
また、膜厚測定対象物の凹部の膜厚を測定できる非接触膜厚測定装置及び方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するためになされた本発明の非接触膜厚測定装置は、テラヘルツパルス光の発生手段と、前記発生手段から発生して所定の光路を経て到達するテラヘルツパルス光を検出する検出手段と、前記光路上に膜厚測定対象物を配置した状態で、前記テラヘルツパルス光を前記膜厚測定対象物に照射することにより前記膜厚測定対象物で反射して前記検出手段により検出されるテラヘルツエコーパルス光の、電場強度の時系列波形である計測時系列波形を取得する計測時系列波形取得手段と、前記光路上に前記膜厚測定対象物に代えて表面反射鏡を配置した状態で、前記発生手段から発生されて前記検出手段にて検出されるテラヘルツパルス光の、電場強度の時系列波形である基準時系列波形と、前記計測時系列波形と、から、前記膜厚測定対象物固有の時系列波形を演算する固有時系列波形演算手段と、を備え、前記固有時系列波形演算手段は、(a)前記計測時系列波形をフーリエ変換して得た計測電場スペクトルに、前記基準時系列波形をフーリエ変換して得た基準電場スペクトル及び定数で表されるウィナー逆フィルターを乗じて固有電場スペクトルを求める固有電場スペクトル演算手段と、(b)前記定数を増減させて前記固有電場スペクトルを逆フーリエ変換して前記固有時系列波形を得る固有時系列波形演算手段と、を有することを特徴とする。
【0014】
上記非接触膜厚測定装置において、前記発生手段と前記膜厚測定対象物との間に前記光路を折り曲げる光路折り曲げ手段を備えるとよい。
【0015】
上記の課題を解決するためになされた本発明の非接触膜厚測定方法は、テラヘルツパルス光の発生手段と前記発生手段から発生して所定の光路を経て到達するテラヘルツパルス光を検出する検出手段とを用いて、前記光路上に膜厚測定対象物を配置した状態で、前記テラヘルツパルス光を前記膜厚測定対象物に照射することにより前記膜厚測定対象物で反射して前記検出手段により検出されるテラヘルツエコーパルス光の、電場強度の時系列波形である計測時系列波形を取得する計測時系列波形取得ステップと、前記光路上に前記膜厚測定対象物に代えて表面反射鏡を配置した状態で、前記発生部から発生されて前記検出部にて検出されるテラヘルツパルス光の、電場強度の時系列波形である基準時系列波形と、前記計測時系列波形と、から、前記膜厚測定対象物固有の時系列波形を演算する固有時系列波形演算ステップと、を備え、前記固有時系列波形演算ステップは、(a)前記計測時系列波形をフーリエ変換して得た計測電場スペクトルに、前記基準時系列波形をフーリエ変換して得た基準電場スペクトル及び定数で表されるウィナー逆フィルターを乗じて固有電場スペクトルを求める固有電場スペクトル演算ステップと、(b)前記定数を増減させて前記固有電場スペクトルを逆フーリエ変換して前記固有時系列波形を得る固有時系列波形演算ステップと、を有することを特徴とする。
【0016】
上記非接触膜厚測定方法において、前記発生手段と前記膜厚測定対象物との間の前記光路を光路折り曲げ手段で折り曲げるものとするとよい。
【発明の効果】
【0017】
固有時系列波形演算手段が(a)計測時系列波形をフーリエ変換して得た計測電場スペクトルに、基準時系列波形をフーリエ変換して得た基準電場スペクトル及び定数で表されるウィナー逆フィルターを乗じて固有電場スペクトルを求める固有電場スペクトル演算手段と、(b)定数を増減させて固有電場スペクトルを逆フーリエ変換して固有時系列波形を得る固有時系列波形演算手段と、を有しているので、定数を増減させて固有時系列波形演算手段で得られる固有時系列波形のノイズを抑えてパルス幅を短くすることができる。
【0018】
また、発生手段と膜厚測定対象物との間に光路を折り曲げる光路折り曲げ手段を備えるので、膜厚測定対象物の凹部の膜厚を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施形態を図面を参照して詳しく説明する。
【0020】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1による非接触膜厚測定装置を模式的に示す概略構成図である。図2は、本実施形態による非接触膜厚測定装置のブロック図である。図3は、本実施形態による非接触膜厚測定装置の制御・演算処理手段40の動作を示すフローチャートである。
【0021】
本実施形態による非接触膜厚測定装置は、図1に示すように、テラヘルツパルス光Ltの発生手段4と、発生手段4から発生して所定の光路を経て到達するテラヘルツエコーパルス光Lteを検出する検出手段7と、制御・演算処理手段40とを備えている。
【0022】
本実施形態による非接触膜厚測定装置は、上記の他に、テラヘルツパルス光の発生手段4を励起するポンプ光Lpuと検出手段7でテラヘルツエコーパルスLteの計測時系列波形Esam(t)を検出するためのプローブ光Lprを発生する超短光パルス光源1と、超短光パルス光源1から発生された超短光パルスレーザLoをポンプ光Lpuとプローブ光Lprとに分割する光分割手段2と、プローブ光Lprの時間遅延を制御する光遅延手段3、他を備えている。
【0023】
超短光パルス光源1は、SHG結晶を備えるErドープファイバレーザで、パルス幅17fs、繰り返し周波数50MHz、中心波長1550nm、出力100mWの基本波パルスと、中心波長780nm、出力10mWの第2高調波パルスからなる超短光パルスレーザL0を発生する。
【0024】
繰り返し周波数は、大きいほどテラヘルツエコーパルスLteの計測時系列波形Esam(t)のSN比を上げることができるが、繰り返し周波数が大き過ぎるとパルス間隔が狭まり、時間領域でのスキャンレンジが狭まるので、膜厚測定対象に応じて適切な繰り返し周波数のレーザを用いることが望ましい。特に、10μm以下の膜厚を測定する場合、テラヘルツパルス光のパルス幅をできる限り小さくする必要がある。例えば、10μmの膜厚を測定する場合、屈折率が2の媒質であれば、表面と裏面との反射では光路差が40μm(=2×2×10μm)となり、時間差は130fs(=40×10−6/3×108)となる。したがって、テラヘルツエコーパルス光のパルス幅は130fs程度でなければならない。パルス幅が100fs程度のパルスレーザでテラヘルツパルス光を発生させた場合、発生手段4がシリコンレンズ付き光伝導スイッチでは、1ps、非線形結晶でも500fs程度となる。これは、シリコンレンズ付き光伝導スイッチでは、レンズや基板をテラヘルツパルス光が通過する際、吸収や分散の効果の存在があり、また、非線形結晶では、位相不整合や吸収の効果がきく。勿論、非線形結晶を薄くすることで、前出の効果を低減することは可能であるが、同時にテラヘルツパルス光の出力も減少するため実用的でない。したがって、短パルス化されたテラヘルツパルス光を発生させるためにはパルス幅の短い超短光パルスレーザを用いることが効果的である。
【0025】
本実施形態の超短光パルス光源1は、上記のようにパルス幅17fsの超短光パルスレーザを発生するので、発生手段4に非線形結晶を用いることでパルス幅100fs程度のテラヘルツパルス光を発生させることができる。その結果、膜厚が10μm程度の薄い膜厚でも測定することができる(後述の実施例1及び実施例2参照。)。
【0026】
超短光パルス光源1は、上記に限定されるものでなく、例えば、Ybドープファイバレーザやチタンサファイアレーザ等でもよい。
【0027】
光分割手段2は、2色ミラーで、超短光パルスレーザL0を波長1550nmのポンプ光Lpu(基本波パルス)と波長780nmのプローブ光Lpr(第2高調波パルス)に分割する。超短光パルス光源1がチタンサファイアレーザ等の単一波長で発振するレーザの場合は、光分割手段2にビームスプリッタを用いる。ビームスプリッタは、対応波長帯域が広いものが望ましい。2色ミラーは、パルス幅を伸ばさないために厚さが0.5mm以下であることが望ましい。
【0028】
光遅延手段3は、交差ミラー31と交差ミラー31を矢印A方向に移動させる移動機構32とを備え、後述のポンプ光Lpuでポンプされて発生するテラヘルツパルス光Ltに対して、2色ミラー2で分割されたプローブ光Lprに時間的な遅れ、或いは進みを発生させる。移動機構32は、後述の制御・演算処理手段40で制御される。
【0029】
ポンプ光Lpuは、変調器8を通過して変調を受ける。変調器8による変調周波数は、ポンプ光Lpuの繰り返し周波数の1/10以下程度であれば高い方が好ましい。本実施形態では、変調器8にチョッパが用いられ、ポンプ光Lpuは1kHzで変調される。なお、変調器8に音響光学変調器(AOM)や電気光学変調器(EOM)等を用いると、高速変調が可能になる。
【0030】
変調を受けたポンプ光Lpuは、レンズ9でテラヘルツパルス光の発生手段4に集光される。発生手段4には非線形結晶やアンテナが形成された光伝導スイッチを用いることができる。光伝導スイッチを透過型で使用すると、基板やシリコンレンズの吸収や分散を受けやすく、パルス幅の短いテラヘルツパルス光を発生させることが困難である。光伝導スイッチを用いる場合は、シリコンレンズを用いないで反射型で使用するとよいが、この場合、テラヘルツパルス光の大半は誘電率の大きい基板側に放射されるため、テラヘルツパルス光の出力が小さくなるという欠点がある。そのため、ポンプ光Lpuを集光照射するだけでテラヘルツパルス光の発生が可能な非線形結晶を使うことが好ましい。非線形結晶には、ZnTe 、ZnSe、GaP、GaAs、CdTe、GaSe等のII−VI族系、III−V族系の半導体、LiNbO3、MgO:LiNbO3、Fe:LiNbO3、LiTaO3、BBO(βBaB2O2)、LBO(LiB3O5)、KTP(KTiOPO4)、AgGaS2、AgGaSe2等の波長変換用非線形結晶、或いは、KDP、ADP、KNbO3、BaTiO3、鉛系またはジルコニウム系強誘電体等の強誘電体結晶を使うこともできる。また、発生手段4は、PMN、PZN、PZT等の鉛系リラクサー及びKTa1-xNbxO3、K1-xLixTaO3、Sr1-xCaxTiO3等の量子常誘電体系リラクサーでもよい。また、テラヘルツパルス光の発生手段4は、DAST(4-dimethylamino-N-methyl-4 stilbazolium tosylate)等の有機非線形結晶でもよい。本実施形態では、発生手段4に厚さ0.1mmのDASTを用いた。DAST4にポンプ光Lpuが照射されると、結晶のχ(2)効果でテラヘルツパルス光Ltが発生される。
【0031】
発生手段4から発生されたテラヘルツパルス光Ltは、軸外し放物面鏡51でコリメートされ、その後、軸外し放物面鏡52で膜厚測定対象物20に集光される。
【0032】
膜厚測定対象物20から反射されるテラヘルツエコーパルス光Lteは、軸外し放物面鏡61でコリメートされた後、軸外し放物面鏡62で検出手段7に集光される。
【0033】
検出手段7は、シリコンレンズ71と光伝導スイッチ72を備えている。光伝導スイッチ72は、低温成長GaAs基板にダイポールアンテナを形成したもので、ダイポールアンテナのギャップ部をプローブ光Lprで励起して、そこにテラヘルツエコーパルスLteを入射させてその電場振幅時間波形である計測時系列波形Esam(t)を得ることができる。
【0034】
16は、光伝導スイッチ72からの電気信号を増幅するプリアンプである。
【0035】
10は、光伝導スイッチ72で検出された信号の中からチョッパ8の変調信号に同期した成分を抽出して増幅するロックインアンプである。
【0036】
11は、A/D変換器である。
【0037】
40は、光遅延手段3の位置情報と、A/D変換器11からのデータを格納して処理する制御・演算処理手段であり、光遅延手段3の移動機構32を制御する機能も有している。
【0038】
制御・演算処理手段40は、図2に示すように、テラヘルツパルス光Ltを膜厚測定対象物20に照射することにより膜厚測定対象物20で反射して検出手段7により検出されるテラヘルツエコーパルスLte光の電場強度の時系列波形である計測時系列波形Esam(t)を取得する計測時系列波形取得手段41と、膜厚測定対象物20に代えて表面反射鏡を配置した状態で、発生手段4から発生されて検出手段7にて検出されるテラヘルツパルス光Ltの、電場強度の時系列波形である基準時系列波形Eref(t)と、計測時系列波形Esam(t)と、から、膜厚測定対象物固有の時系列波形H(t)を演算する固有時系列波形演算手段42と、を備えている。
【0039】
固有時系列波形演算手段42は、計測時系列波形Esam(t)をフーリエ変換して得た計測電場スペクトルEsam(ω)に、基準時系列波形Eref(t)をフーリエ変換して得た基準電場スペクトルEref(ω)及び定数kで表されるウィナー逆フィルターWref(ω)を乗じて固有電場スペクトルH(ω)を求める固有電場スペクトル演算手段421と、定数kを増減させて固有電場スペクトルH(ω)を逆フーリエ変換して固有時系列波形H(t)を得る固有時系列波形演算手段422と、を有している。制御・演算処理手段40は、後述する図3の動作を行うが、たとえば、コンピュータを用いて構成することができる。
【0040】
ここで、計測時系列波形Esam(t)に基づいて固有時系列波形H(t)を求める手法について説明する。なお、以下の数式の積分範囲は、−∞から+∞までである。
【0041】
膜厚測定対象物20の代わりに表面反射鏡を配置した状態でテラヘルツパルス光Ltの反射光を検出手段7で検出して、テラヘルツエコーパルス光Lteの電場強度の時系列波形E(t)を、予め計測しておく。この時系列波形E(t)を基準時系列波形Eref(t)と呼ぶ。
【0042】
基準時系列波形Eref(t)について、(3)式で定義されるフーリエ変換を実行して基準電場スペクトルEref(ω)を得る。
【0043】
Eref(ω)=∫Eref(t)exp(iωt)dt (3)
さらに、計測時系列波形Esam(t)についても、(4)式で定義されるフーリエ変換を実行して計測電場スペクトルEsam(ω)を得る。
【0044】
Esam(ω)=∫Esam(t)exp(iωt)dt (4)
また、(5)式で定義されるウィナー逆フィルター(Wiener inverse filter)Wref(ω)を算出する。
【0045】
Wref(ω)=Eref(ω)/[|Eref(ω)|2+1/k] (5)
ここで、kは定数である。
【0046】
また、(6)式で定義される固有電場スペクトルH(ω)を算出する。
【0047】
H(ω)=Esam(ω)/Eref(ω)≒Esam(ω)Wref(ω) (6)
固有電場スペクトルH(ω)について、(7)式で定義される逆フーリエ変換を実行して固有時系列波形H(t)を得る。
【0048】
H(t)=(2π)−1∫H(ω)exp(−iωt)dω
≒(2π)−1∫Esam(ω)Wref(ω)exp(−iωt)dω(7)
次に、非接触膜厚測定装置の動作を説明する。
【0049】
まず、超短光パルス光源1から発生された超短光パルスレーザLoは、2色ミラー2でポンプ光Lpuとプローブ光Lprに分割される。
【0050】
ポンプ光Lpuは、チョッパ8で強度変調された後、レンズ9でDAST4のc軸方向に集光照射される。すると、DAST4のχ(2)効果でテラヘルツパルス光Ltが発生される。
【0051】
テラヘルツパルス光Ltは、入射光学系5の軸外し放物面鏡51でコリメートされた後、軸外し放物面鏡52で膜厚測定対象物20に集光照射される。すると、膜厚測定対象物20の屈折率が異なる界面から反射され、テラヘルツエコーパルス光Lteが放射される。
【0052】
膜厚測定対象物20から放射されるテラヘルツエコーパルス光Lteは、受光光学系6の軸外し放物面鏡61でコリメートされ、軸外し放物面鏡62でシリコンレンズ71を介して光伝導スイッチ72に集光される。
【0053】
一方、2色ミラー2で分割されたプローブ光Lprは、光遅延手段3を経て、レンズ19により光伝導スイッチ72に集光される。光遅延手段3をスキャンすることにより、光伝導スイッチ72でテラヘルツエコーパルス光Lteの電場強度の時系列波形である計測時系列波形Esam(t)を計測する。すなわち、光伝導スイッチ72の信号をアンプ16で増幅し、さらに、ロックインアンプ10で増幅し、制御・演算処理手段40でデータ蓄積して、テラヘルツエコーパルス光Lteの計測時系列波形Esam(t)を得る。
【0054】
次に、本実施形態における制御・演算処理手段40の動作の一例について、図3を参照して説明する。制御・演算処理手段40の計測時系列波形取得手段41は、動作を開始すると、表面反射鏡の基準時系列波形Eref(t)を計測し(ステップS1)、基準時系列波形Eref(t)をフーリエ変換して基準電場スペクトルEref(ω)を算出する(ステップS2)。次いで、計測時系列波形取得手段41は、膜厚測定対象物20の計測時系列波形Esam(t)を計測し(ステップS3)、計測時系列波形Eref(t)をフーリエ変換して計測電場スペクトルEsam(ω)を算出する(ステップS4)。
【0055】
次いで、固有電場スペクトル演算手段421は、(3)式で表されるウィナー逆フィルターWref(ω)を算出し(ステップS5)、定数kを初期値にする(ステップS6)。
【0056】
次いで、固有電場スペクトル演算手段421がWref(ω)を(4)式に代入して固有電場スペクトルH(ω)を算出し(ステップS7)、固有時系列波形演算手段422が固有電場スペクトルH(ω)を逆フーリエ変換して固有時系列波形H(t)を算出する(ステップS8)。
【0057】
次いで、制御・演算処理手段40は、固有時系列波形H(t)を表示し(ステップS9)、ノイズレベルが低いか否か及びパルス幅が短いか否かを判定する(ステップS10)。
【0058】
ステップS10で否(NO)と判定されると、新たなk値を設定し(ステップS11)、ステップS7へ戻る。
【0059】
一方、ステップS10でノイズレベルが低く且つパルス幅が短いと判定されると、制御・演算処理手段40は、動作を終了する。
【0060】
以上詳述したように、本実施形態の非接触膜厚測定装置は、ウィナー逆フィルターの定数kを増減させて、固有時系列波形H(t)のノイズレベルを抑え、パルス幅を短くすることができる。その結果、膜厚測定分解能が高くなる。
【0061】
(実施形態2)
図4は、本発明の実施形態2による非接触膜厚測定装置を模式的に示す概略構成図である。本実施形態の非接触膜厚測定装置は、実施形態1の非接触膜厚測定装置において、軸外し放物面鏡52と軸外し放物面鏡61とを紙面に直交する方向(上下方向)に重ねて配置し、テラヘルツパルス光発生手段4と膜厚測定対象物20との間に光路を折り曲げる光路折り曲げ手段70を備えるようにした以外、実施形態1の非接触膜厚測定装置と同じである。同一の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0062】
なお、本実施形態の膜厚測定対象物30は、アルミシリンダピストンヘッドで、シールリング用の凹溝が形成されている。
【0063】
光路折り曲げ手段70は、上記ピストンヘッドの凹溝部の水平面のアルマイト皮膜層の厚さを測定するためのもので、表面反射プリズムである。
【0064】
発生手段4から発生されたテラヘルツエコーパルス光Ltは、軸外し放物面鏡51でコリメートされた後、軸外し放物面鏡52によって右方向で下向き(紙面に直交する方向)に集光される。軸外し放物面鏡52で集光されたテラヘルツパルス光Ltは、表面反射プリズム72で反射され、膜厚測定対象物30の凹溝の水平面に集光照射される。凹溝の水平面からのテラヘルツエコーパルス光Lteは、表面反射プリズム72で反射され、軸外し放物面鏡61でコリメートされる。
【0065】
本実施形態の非接触膜厚測定装置は、発生手段4と膜厚測定対象物30との間に光路を折り曲げる光路折り曲げ手段70を備えているので、膜厚測定対象物30の凹溝の膜厚を測定することができる。
【実施例1】
【0066】
本発明者らは、実施形態1の非接触膜厚測定装置を用いて、塗装膜の膜厚を測定した。
【0067】
膜厚測定対象物は、図5に示すように、鋼板21の上に顔料を含有するソリッド塗装膜22と、マイカ光輝材を含有するマイカ塗装膜23と、クリア塗装膜24とを重ね塗りしたものである。各塗装膜が塗装されるたびに、膜厚が接触式膜厚計(渦電流式膜厚計)で測定され、図5に示すように、ソリッド塗装膜22の膜厚は、30μm、マイカ塗装膜23の膜厚は、10μm、クリア塗装膜24の膜厚は、20μmであった。
【0068】
各塗装膜の屈折率をエリプソメータで測定した結果、ソリッド塗装膜22の屈折率が2.1、マイカ塗装膜23の屈折率が1.5、クリア塗装膜24の屈折率が1.8であった。
【0069】
図6は、図5に示す膜厚測定対象物から得られる計測時系列波形を演算処理して算出した固有時系列波形図である。すなわち、ノイズレベルを抑え、パルス幅が短くなるようにウィナー逆フィルターの定数kを増減させた結果得られた固有時系列波形である。
【0070】
図6から明らかなように、先ず、最初に空気とクリア塗装膜24との間の境界面IP11で反射した上に凸のエコーパルス信号が現れている。境界面IP11で反射したエコーパルス信号の約220fs後に、クリア塗装膜24とマイカ塗装膜23との間の境界面IP12からのエコーパルス信号(下に凸の信号)が見られる。また、境界面IP12からのエコーパルス信号の約100fs後に、マイカ塗装膜23とソリッド塗装膜22との間の境界面IP13からの上に凸のエコーパルス信号が現れている。さらに、境界面IP13からのエコーパルス信号の約440fs後に、ソリッド塗装膜22と鋼板21との間の境界面IP14からの上に凸のエコーパルス信号が現れている。
【0071】
境界面IP12からのエコーパルス信号が下に凸になるのは、マイカ塗装膜23の屈折率が1.5であり、クリア塗装膜24の屈折率1.8より小さいためである。また、境界面IP13からのエコーパルス信号と境界面IP14からのエコーパルス信号の間に、なだらかな信号が見られるが、これはマイカ塗装膜23中のマイカ光輝材からの反射によるものと考えられる。なお、境界面IP14からのエコーパルス信号より遅い時間領域には、多数の多重反射信号が見られる。
【0072】
塗装膜の屈折率の値(1.8、1.5、2.1)と、図6から得られる信号間の時間差(220、100、440fs)を(1)式に代入して各塗装膜の膜厚を算出した結果、クリア塗装膜24の膜厚が18μm、マイカ塗装膜23の膜厚が10μm、ソリッド塗装膜22の膜厚が31μmであった。
【0073】
本発明の非接触膜厚測定装置を用いて測定された上記の膜厚値と従来の渦電流式膜厚計で測定した膜厚値とを比較すると、両者が±2μmの範囲で一致することがわかる。
【0074】
本発明の非接触膜厚測定装置は、ノイズレベルを抑え、信号のパルス幅が短くなるようにウィナー逆フィルターの定数kを増減させて固有時系列波形を算出するので、10μmの膜厚を測定することができた。
【0075】
また、図6の信号のパルス幅は、たとえば、空気とクリア塗装膜24との間の境界面IP11からのエコーパルス信号の場合、150fsである。これを(2)式に代入すると、膜厚測定分解能は12.5μmとなり、上記の10μmの膜厚を測定できたことと整合しない。これは、次の理由による。分解能が(2)式で表されるのは、多層膜の屈折率が順次大きい場合、すなわち、上に凸の信号だけが現れる場合である。それに対して、本実施例の場合、1層目より2層目の屈折率が小さいために、1層目と2層目の境界面IP12からのエコーパルス信号が下に凸の信号となる。その結果、膜厚測定分解能が(2)式に従わないのである。
【0076】
本実施例のように、1層目より2層目の屈折率が小さい場合、信号のパルス幅が短くなるように、ウィナー逆フィルターの定数kを増減させるより、ノイズレベルを下げて高さの低い信号のピークが現れるように、ウィナー逆フィルターの定数kを増減させことが望ましい。
【実施例2】
【0077】
本発明者らは、実施形態1の非接触膜厚測定装置を用いて、アルマイト被膜の膜厚を測定した。
【0078】
図7は、膜厚測定対象物の断面図であり、図8は、図7に示す膜厚測定対象物から得られる計測時系列波形を演算処理して算出した固有時系列波形図である。すなわち、ノイズレベルを抑え、パルス幅が短くなるようにウィナー逆フィルターの定数kを増減させた結果得られた固有時系列波形である。
【0079】
膜厚測定対象物は図7に示すように、アルミ板25の上にアルマイト皮膜26を形成したものである。アルマイト処理条件を変えてアルマイト皮膜の膜厚Zが5μm、10μm、15μm、20μmの4水準のサンプルを用意した。なお、4水準のサンプルは、アルマイト処理条件を変えて作成した多数のサンプルを断面顕微鏡観察することで選定された。アルマイト皮膜の屈折率は、エリプソメータで測定した結果、5.2であった。
【0080】
図8において、上から順にアルマイト皮膜26の膜厚Z=20μmのサンプル、Z=15μmのサンプル、Z=10μmのサンプル、Z=5μmのサンプルの固有時系列波形である。
【0081】
図8から明らかなように、まず、最初に空気とアルマイト皮膜26との境界面IP15からのエコーパルス光が観測され、Z=20μmのサンプルの場合、346fs後にアルマイト皮膜26とアルミ板25との境界面IP16からのエコーパルス光が観測される。同様に、Z=15μmのサンプルの場合、267fs後に、Z=10μのサンプルの場合、173fs後に、Z=5μmのサンプルの場合、80fs後に、アルマイト皮膜26とアルミ板25との境界面IP16からのエコーパルス光が観測される。
【0082】
図9は、アルマイト皮膜の屈折率の値(5.2)と、図8から得られる信号間の時間差(346、267、173、80fs)を(1)式に代入して算出した各皮膜の膜厚を縦軸にとり、断面顕微鏡観察で求めた膜厚を横軸にとって、算出した膜厚値をプロットしたグラフである。
【0083】
図9から、断面顕微鏡観察で求めた膜厚を真値としたときの、膜厚測定誤差が±0.4μmであることがわかる。
【0084】
本発明の非接触膜厚測定装置は、ノイズレベルを抑え、信号のパルス幅が短くなるようにウィナー逆フィルターの定数kを増減させて固有時系列波形を算出するので、5μmのアルマイト皮膜を±0.4μmの精度で測定することができた。
【0085】
図9の最下部の固有時系列波形において、最初のエコーパルス光のパルス幅は、36fsであり、これを(2)式に代入すると、膜厚測定分解能は、1μmとなる。
【0086】
これまで、アルマイト皮膜の膜厚を非接触は勿論、非破壊で測定することができなかったが、本発明の非接触膜厚測定装置を用いると、上記のように、高精度、高分解能で測定できることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の実施形態1による非接触膜厚測定装置を模式的に示す概略構成図である。
【図2】実施形態1による非接触膜厚測定装置のブロック図である。
【図3】実施形態1による非接触膜厚測定装置の制御・演算処理手段40の動作を示すフローチャートである。
【図4】)本発明の実施形態2による非接触膜厚測定装置を模式的に示す概略構成図である。
【図5】図1及び図2に示す実施形態1の非接触膜厚測定装置によって測定された実施例1の膜厚測定対象物の断面図である。
【図6】図5に示す膜厚測定対象物から得られる計測時系列波形を演算処理して算出した固有時系列波形図である。
【図7】図1及び図2に示す実施形態1の非接触膜厚測定装置によって測定された実施例2の膜厚測定対象物の断面図である。
【図8】図7に示す膜厚測定対象物から得られる計測時系列波形を演算処理して算出した固有時系列波形図である。
【図9】アルマイト皮膜の屈折率の値と、図8から得られる信号間の時間差を(1)式に代入して算出した各皮膜の膜厚を縦軸にとり、断面顕微鏡観察で求めた膜厚を横軸にとって、算出した膜厚値をプロットしたグラフである。
【図10】従来技術による膜厚測定原理を示す図であって、(a)は自動車ボディー塗装における多層塗装膜の一例を示す断面図であり、(b)は(a)において測定されたテラヘルツエコーパルスを示す電場振幅時間分解波形図である。
【図11】テラヘルツエコーパルスのパルス幅と膜厚測定分解の関係を説明するための図である。
【符号の説明】
【0088】
4・・・・・・・・テラヘルツパルス光の発生手段
7・・・・・・・・検出手段
20、30・・・・膜厚測定対象物
41・・・・・・・計測時系列波形取得手段
42・・・・・・・固有時系列波形演算手段
421・・・・・固有電場スペクトル演算手段
422・・・・・固有時系列波形演算手段
70・・・・・・・光路折り曲げ手段
Lt・・・・・・・・テラヘルツパルス光
Lte・・・・・・・・テラヘルツエコーパルス光
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材に形成された膜の厚さを測定する装置及び方法に関する。詳しくは、膜厚測定対象にテラヘルツパルス光を照射して非接触で膜厚を測定する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や家電製品など多くの工業製品は、基材(下地)の防錆、製品の美観などのために塗装されている。例えば、メタリック塗装乗用車の場合、図10(a)に示すように、下地鋼板60の上に防錆のための電着塗装膜61が形成され、その上に飛び石などを防ぐチッピングプライマー塗装膜62が形成され、その上に中塗り塗装膜63が形成され、その上に顔料と光輝材を含むベース塗装膜64が形成された後、顔料と光輝材を含まないクリア塗装膜65が形成されている。電着塗装膜61は、下地の防錆のために形成され、チッピングプライマー塗装膜62は、飛び石などによる傷つきを防止するために形成される。したがって、これらの膜厚が規定の膜厚を下回ると、防錆機能や傷つき防止機能が損なわれるため、膜厚を測定して厳密に管理する必要がある。また、中塗り塗装膜63、ベース塗装膜64及びクリア塗装膜65は、外観品質(色、メタリック感、光沢、ゆず肌、深み感など)と密接に関連する。したがって、これらの膜厚も測定管理される必要がある。
【0003】
従来は、各塗装膜が形成される都度ドライ状態で渦電流式膜厚計を接触させて膜厚を測定していた。したがって、従来の渦電流式膜厚計による測定には工業製品にキズを付ける問題や、多層膜の各層の膜厚を測定することができないといった問題があった。
【0004】
そこで、キズ付きの問題を解決するために光学干渉を応用した非接触膜厚計が開発された(例えば、特許文献1及び2参照。)が、多層膜の各膜厚を測定することができなかった。
【0005】
最近、上記従来の膜厚計の問題を解決するために、膜厚測定対象にテラヘルツパルス光を照射して非接触で膜厚を測定する装置が開発された(例えば、特許文献3参照。)。テラヘルツパルス光は、波長が30〜3000μm(周波数が0.1〜10THz)の電磁波であり、主たる成分が高分子材料である塗膜を透過する。したがって、図10(a)に示すような多層膜からなる膜厚測定対象物にテラヘルツパルス光を入射させると、屈折率不連続面である各境界面IP1〜IP5でフレネル反射が起き、反射テラヘルツパルス光(以下、テラヘルツエコーパルス光という。)が得られる。このテラヘルツエコーパルス光の電場強度の時系列波形を模式的に示すと、図10(b)のようになり、それぞれ互いに隣接する各境界面からのエコーパルスP1、P2間の時間差T12、エコーパルスP2、P3間の時間差T23、及びエコーパルスP3、P4間の時間差T34に基づいて、タイム・オブ・フライト法を用いて次式により各塗装膜の膜厚を測定することができる。
【0006】
膜厚=(時間差×光速)/(塗膜の群屈折率) (1)
【特許文献1】特許3542346号公報
【特許文献2】特許3326961号公報
【特許文献3】特開2004−28618号公報(第6−7頁、図1、図5、図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、エコーパルス間の時間差から膜厚を求める場合、エコーパルスのパルス幅が膜厚測定分解能を決め、パルス幅をτ、塗膜の群屈折率をn、光速をcとすると、(1)式から分解能Rは、
R=τc/2n=TRc/n (2)
となる。すなわち、図11にテラヘルツエコーパルス光を模式的に示すように、隣り合うエコーパルスが分離できる限界時間差TR=τ/2が分解能を決めることがわかる。したがって、膜厚測定分解能を上げるためには、テラヘルツエコーパルス光のパルス幅を短くしなければならないことがわかる。
【0008】
上記従来の膜厚測定装置では、τ=400fsであり(特許文献3の図5参照。)、n=2とすると、R=30μmと見積もられる。すなわち、従来の膜厚測定装置では30μm未満の膜厚を測定することができない。
【0009】
さらに、図11は、テラヘルツエコーパルス光を模式的に示したものであり、実際はノイズが重畳し、さらに分解能が低下する。
【0010】
また、上記従来の膜厚測定装置では、テラヘルツパルス光の発生部と検出部との間の光路中に、膜厚測定対象物がその測定面でテラヘルツパルス光が正反射するように配置される。したがって、測定面が膜厚測定対象物の凹部にあると、その測定面でテラヘルツパルス光を正反射させることができないので、その測定面の膜厚を測定することができない。
【0011】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、膜厚測定分解能の高い非接触膜厚測定装置及び方法を提供することを課題とする。
【0012】
また、膜厚測定対象物の凹部の膜厚を測定できる非接触膜厚測定装置及び方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するためになされた本発明の非接触膜厚測定装置は、テラヘルツパルス光の発生手段と、前記発生手段から発生して所定の光路を経て到達するテラヘルツパルス光を検出する検出手段と、前記光路上に膜厚測定対象物を配置した状態で、前記テラヘルツパルス光を前記膜厚測定対象物に照射することにより前記膜厚測定対象物で反射して前記検出手段により検出されるテラヘルツエコーパルス光の、電場強度の時系列波形である計測時系列波形を取得する計測時系列波形取得手段と、前記光路上に前記膜厚測定対象物に代えて表面反射鏡を配置した状態で、前記発生手段から発生されて前記検出手段にて検出されるテラヘルツパルス光の、電場強度の時系列波形である基準時系列波形と、前記計測時系列波形と、から、前記膜厚測定対象物固有の時系列波形を演算する固有時系列波形演算手段と、を備え、前記固有時系列波形演算手段は、(a)前記計測時系列波形をフーリエ変換して得た計測電場スペクトルに、前記基準時系列波形をフーリエ変換して得た基準電場スペクトル及び定数で表されるウィナー逆フィルターを乗じて固有電場スペクトルを求める固有電場スペクトル演算手段と、(b)前記定数を増減させて前記固有電場スペクトルを逆フーリエ変換して前記固有時系列波形を得る固有時系列波形演算手段と、を有することを特徴とする。
【0014】
上記非接触膜厚測定装置において、前記発生手段と前記膜厚測定対象物との間に前記光路を折り曲げる光路折り曲げ手段を備えるとよい。
【0015】
上記の課題を解決するためになされた本発明の非接触膜厚測定方法は、テラヘルツパルス光の発生手段と前記発生手段から発生して所定の光路を経て到達するテラヘルツパルス光を検出する検出手段とを用いて、前記光路上に膜厚測定対象物を配置した状態で、前記テラヘルツパルス光を前記膜厚測定対象物に照射することにより前記膜厚測定対象物で反射して前記検出手段により検出されるテラヘルツエコーパルス光の、電場強度の時系列波形である計測時系列波形を取得する計測時系列波形取得ステップと、前記光路上に前記膜厚測定対象物に代えて表面反射鏡を配置した状態で、前記発生部から発生されて前記検出部にて検出されるテラヘルツパルス光の、電場強度の時系列波形である基準時系列波形と、前記計測時系列波形と、から、前記膜厚測定対象物固有の時系列波形を演算する固有時系列波形演算ステップと、を備え、前記固有時系列波形演算ステップは、(a)前記計測時系列波形をフーリエ変換して得た計測電場スペクトルに、前記基準時系列波形をフーリエ変換して得た基準電場スペクトル及び定数で表されるウィナー逆フィルターを乗じて固有電場スペクトルを求める固有電場スペクトル演算ステップと、(b)前記定数を増減させて前記固有電場スペクトルを逆フーリエ変換して前記固有時系列波形を得る固有時系列波形演算ステップと、を有することを特徴とする。
【0016】
上記非接触膜厚測定方法において、前記発生手段と前記膜厚測定対象物との間の前記光路を光路折り曲げ手段で折り曲げるものとするとよい。
【発明の効果】
【0017】
固有時系列波形演算手段が(a)計測時系列波形をフーリエ変換して得た計測電場スペクトルに、基準時系列波形をフーリエ変換して得た基準電場スペクトル及び定数で表されるウィナー逆フィルターを乗じて固有電場スペクトルを求める固有電場スペクトル演算手段と、(b)定数を増減させて固有電場スペクトルを逆フーリエ変換して固有時系列波形を得る固有時系列波形演算手段と、を有しているので、定数を増減させて固有時系列波形演算手段で得られる固有時系列波形のノイズを抑えてパルス幅を短くすることができる。
【0018】
また、発生手段と膜厚測定対象物との間に光路を折り曲げる光路折り曲げ手段を備えるので、膜厚測定対象物の凹部の膜厚を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施形態を図面を参照して詳しく説明する。
【0020】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1による非接触膜厚測定装置を模式的に示す概略構成図である。図2は、本実施形態による非接触膜厚測定装置のブロック図である。図3は、本実施形態による非接触膜厚測定装置の制御・演算処理手段40の動作を示すフローチャートである。
【0021】
本実施形態による非接触膜厚測定装置は、図1に示すように、テラヘルツパルス光Ltの発生手段4と、発生手段4から発生して所定の光路を経て到達するテラヘルツエコーパルス光Lteを検出する検出手段7と、制御・演算処理手段40とを備えている。
【0022】
本実施形態による非接触膜厚測定装置は、上記の他に、テラヘルツパルス光の発生手段4を励起するポンプ光Lpuと検出手段7でテラヘルツエコーパルスLteの計測時系列波形Esam(t)を検出するためのプローブ光Lprを発生する超短光パルス光源1と、超短光パルス光源1から発生された超短光パルスレーザLoをポンプ光Lpuとプローブ光Lprとに分割する光分割手段2と、プローブ光Lprの時間遅延を制御する光遅延手段3、他を備えている。
【0023】
超短光パルス光源1は、SHG結晶を備えるErドープファイバレーザで、パルス幅17fs、繰り返し周波数50MHz、中心波長1550nm、出力100mWの基本波パルスと、中心波長780nm、出力10mWの第2高調波パルスからなる超短光パルスレーザL0を発生する。
【0024】
繰り返し周波数は、大きいほどテラヘルツエコーパルスLteの計測時系列波形Esam(t)のSN比を上げることができるが、繰り返し周波数が大き過ぎるとパルス間隔が狭まり、時間領域でのスキャンレンジが狭まるので、膜厚測定対象に応じて適切な繰り返し周波数のレーザを用いることが望ましい。特に、10μm以下の膜厚を測定する場合、テラヘルツパルス光のパルス幅をできる限り小さくする必要がある。例えば、10μmの膜厚を測定する場合、屈折率が2の媒質であれば、表面と裏面との反射では光路差が40μm(=2×2×10μm)となり、時間差は130fs(=40×10−6/3×108)となる。したがって、テラヘルツエコーパルス光のパルス幅は130fs程度でなければならない。パルス幅が100fs程度のパルスレーザでテラヘルツパルス光を発生させた場合、発生手段4がシリコンレンズ付き光伝導スイッチでは、1ps、非線形結晶でも500fs程度となる。これは、シリコンレンズ付き光伝導スイッチでは、レンズや基板をテラヘルツパルス光が通過する際、吸収や分散の効果の存在があり、また、非線形結晶では、位相不整合や吸収の効果がきく。勿論、非線形結晶を薄くすることで、前出の効果を低減することは可能であるが、同時にテラヘルツパルス光の出力も減少するため実用的でない。したがって、短パルス化されたテラヘルツパルス光を発生させるためにはパルス幅の短い超短光パルスレーザを用いることが効果的である。
【0025】
本実施形態の超短光パルス光源1は、上記のようにパルス幅17fsの超短光パルスレーザを発生するので、発生手段4に非線形結晶を用いることでパルス幅100fs程度のテラヘルツパルス光を発生させることができる。その結果、膜厚が10μm程度の薄い膜厚でも測定することができる(後述の実施例1及び実施例2参照。)。
【0026】
超短光パルス光源1は、上記に限定されるものでなく、例えば、Ybドープファイバレーザやチタンサファイアレーザ等でもよい。
【0027】
光分割手段2は、2色ミラーで、超短光パルスレーザL0を波長1550nmのポンプ光Lpu(基本波パルス)と波長780nmのプローブ光Lpr(第2高調波パルス)に分割する。超短光パルス光源1がチタンサファイアレーザ等の単一波長で発振するレーザの場合は、光分割手段2にビームスプリッタを用いる。ビームスプリッタは、対応波長帯域が広いものが望ましい。2色ミラーは、パルス幅を伸ばさないために厚さが0.5mm以下であることが望ましい。
【0028】
光遅延手段3は、交差ミラー31と交差ミラー31を矢印A方向に移動させる移動機構32とを備え、後述のポンプ光Lpuでポンプされて発生するテラヘルツパルス光Ltに対して、2色ミラー2で分割されたプローブ光Lprに時間的な遅れ、或いは進みを発生させる。移動機構32は、後述の制御・演算処理手段40で制御される。
【0029】
ポンプ光Lpuは、変調器8を通過して変調を受ける。変調器8による変調周波数は、ポンプ光Lpuの繰り返し周波数の1/10以下程度であれば高い方が好ましい。本実施形態では、変調器8にチョッパが用いられ、ポンプ光Lpuは1kHzで変調される。なお、変調器8に音響光学変調器(AOM)や電気光学変調器(EOM)等を用いると、高速変調が可能になる。
【0030】
変調を受けたポンプ光Lpuは、レンズ9でテラヘルツパルス光の発生手段4に集光される。発生手段4には非線形結晶やアンテナが形成された光伝導スイッチを用いることができる。光伝導スイッチを透過型で使用すると、基板やシリコンレンズの吸収や分散を受けやすく、パルス幅の短いテラヘルツパルス光を発生させることが困難である。光伝導スイッチを用いる場合は、シリコンレンズを用いないで反射型で使用するとよいが、この場合、テラヘルツパルス光の大半は誘電率の大きい基板側に放射されるため、テラヘルツパルス光の出力が小さくなるという欠点がある。そのため、ポンプ光Lpuを集光照射するだけでテラヘルツパルス光の発生が可能な非線形結晶を使うことが好ましい。非線形結晶には、ZnTe 、ZnSe、GaP、GaAs、CdTe、GaSe等のII−VI族系、III−V族系の半導体、LiNbO3、MgO:LiNbO3、Fe:LiNbO3、LiTaO3、BBO(βBaB2O2)、LBO(LiB3O5)、KTP(KTiOPO4)、AgGaS2、AgGaSe2等の波長変換用非線形結晶、或いは、KDP、ADP、KNbO3、BaTiO3、鉛系またはジルコニウム系強誘電体等の強誘電体結晶を使うこともできる。また、発生手段4は、PMN、PZN、PZT等の鉛系リラクサー及びKTa1-xNbxO3、K1-xLixTaO3、Sr1-xCaxTiO3等の量子常誘電体系リラクサーでもよい。また、テラヘルツパルス光の発生手段4は、DAST(4-dimethylamino-N-methyl-4 stilbazolium tosylate)等の有機非線形結晶でもよい。本実施形態では、発生手段4に厚さ0.1mmのDASTを用いた。DAST4にポンプ光Lpuが照射されると、結晶のχ(2)効果でテラヘルツパルス光Ltが発生される。
【0031】
発生手段4から発生されたテラヘルツパルス光Ltは、軸外し放物面鏡51でコリメートされ、その後、軸外し放物面鏡52で膜厚測定対象物20に集光される。
【0032】
膜厚測定対象物20から反射されるテラヘルツエコーパルス光Lteは、軸外し放物面鏡61でコリメートされた後、軸外し放物面鏡62で検出手段7に集光される。
【0033】
検出手段7は、シリコンレンズ71と光伝導スイッチ72を備えている。光伝導スイッチ72は、低温成長GaAs基板にダイポールアンテナを形成したもので、ダイポールアンテナのギャップ部をプローブ光Lprで励起して、そこにテラヘルツエコーパルスLteを入射させてその電場振幅時間波形である計測時系列波形Esam(t)を得ることができる。
【0034】
16は、光伝導スイッチ72からの電気信号を増幅するプリアンプである。
【0035】
10は、光伝導スイッチ72で検出された信号の中からチョッパ8の変調信号に同期した成分を抽出して増幅するロックインアンプである。
【0036】
11は、A/D変換器である。
【0037】
40は、光遅延手段3の位置情報と、A/D変換器11からのデータを格納して処理する制御・演算処理手段であり、光遅延手段3の移動機構32を制御する機能も有している。
【0038】
制御・演算処理手段40は、図2に示すように、テラヘルツパルス光Ltを膜厚測定対象物20に照射することにより膜厚測定対象物20で反射して検出手段7により検出されるテラヘルツエコーパルスLte光の電場強度の時系列波形である計測時系列波形Esam(t)を取得する計測時系列波形取得手段41と、膜厚測定対象物20に代えて表面反射鏡を配置した状態で、発生手段4から発生されて検出手段7にて検出されるテラヘルツパルス光Ltの、電場強度の時系列波形である基準時系列波形Eref(t)と、計測時系列波形Esam(t)と、から、膜厚測定対象物固有の時系列波形H(t)を演算する固有時系列波形演算手段42と、を備えている。
【0039】
固有時系列波形演算手段42は、計測時系列波形Esam(t)をフーリエ変換して得た計測電場スペクトルEsam(ω)に、基準時系列波形Eref(t)をフーリエ変換して得た基準電場スペクトルEref(ω)及び定数kで表されるウィナー逆フィルターWref(ω)を乗じて固有電場スペクトルH(ω)を求める固有電場スペクトル演算手段421と、定数kを増減させて固有電場スペクトルH(ω)を逆フーリエ変換して固有時系列波形H(t)を得る固有時系列波形演算手段422と、を有している。制御・演算処理手段40は、後述する図3の動作を行うが、たとえば、コンピュータを用いて構成することができる。
【0040】
ここで、計測時系列波形Esam(t)に基づいて固有時系列波形H(t)を求める手法について説明する。なお、以下の数式の積分範囲は、−∞から+∞までである。
【0041】
膜厚測定対象物20の代わりに表面反射鏡を配置した状態でテラヘルツパルス光Ltの反射光を検出手段7で検出して、テラヘルツエコーパルス光Lteの電場強度の時系列波形E(t)を、予め計測しておく。この時系列波形E(t)を基準時系列波形Eref(t)と呼ぶ。
【0042】
基準時系列波形Eref(t)について、(3)式で定義されるフーリエ変換を実行して基準電場スペクトルEref(ω)を得る。
【0043】
Eref(ω)=∫Eref(t)exp(iωt)dt (3)
さらに、計測時系列波形Esam(t)についても、(4)式で定義されるフーリエ変換を実行して計測電場スペクトルEsam(ω)を得る。
【0044】
Esam(ω)=∫Esam(t)exp(iωt)dt (4)
また、(5)式で定義されるウィナー逆フィルター(Wiener inverse filter)Wref(ω)を算出する。
【0045】
Wref(ω)=Eref(ω)/[|Eref(ω)|2+1/k] (5)
ここで、kは定数である。
【0046】
また、(6)式で定義される固有電場スペクトルH(ω)を算出する。
【0047】
H(ω)=Esam(ω)/Eref(ω)≒Esam(ω)Wref(ω) (6)
固有電場スペクトルH(ω)について、(7)式で定義される逆フーリエ変換を実行して固有時系列波形H(t)を得る。
【0048】
H(t)=(2π)−1∫H(ω)exp(−iωt)dω
≒(2π)−1∫Esam(ω)Wref(ω)exp(−iωt)dω(7)
次に、非接触膜厚測定装置の動作を説明する。
【0049】
まず、超短光パルス光源1から発生された超短光パルスレーザLoは、2色ミラー2でポンプ光Lpuとプローブ光Lprに分割される。
【0050】
ポンプ光Lpuは、チョッパ8で強度変調された後、レンズ9でDAST4のc軸方向に集光照射される。すると、DAST4のχ(2)効果でテラヘルツパルス光Ltが発生される。
【0051】
テラヘルツパルス光Ltは、入射光学系5の軸外し放物面鏡51でコリメートされた後、軸外し放物面鏡52で膜厚測定対象物20に集光照射される。すると、膜厚測定対象物20の屈折率が異なる界面から反射され、テラヘルツエコーパルス光Lteが放射される。
【0052】
膜厚測定対象物20から放射されるテラヘルツエコーパルス光Lteは、受光光学系6の軸外し放物面鏡61でコリメートされ、軸外し放物面鏡62でシリコンレンズ71を介して光伝導スイッチ72に集光される。
【0053】
一方、2色ミラー2で分割されたプローブ光Lprは、光遅延手段3を経て、レンズ19により光伝導スイッチ72に集光される。光遅延手段3をスキャンすることにより、光伝導スイッチ72でテラヘルツエコーパルス光Lteの電場強度の時系列波形である計測時系列波形Esam(t)を計測する。すなわち、光伝導スイッチ72の信号をアンプ16で増幅し、さらに、ロックインアンプ10で増幅し、制御・演算処理手段40でデータ蓄積して、テラヘルツエコーパルス光Lteの計測時系列波形Esam(t)を得る。
【0054】
次に、本実施形態における制御・演算処理手段40の動作の一例について、図3を参照して説明する。制御・演算処理手段40の計測時系列波形取得手段41は、動作を開始すると、表面反射鏡の基準時系列波形Eref(t)を計測し(ステップS1)、基準時系列波形Eref(t)をフーリエ変換して基準電場スペクトルEref(ω)を算出する(ステップS2)。次いで、計測時系列波形取得手段41は、膜厚測定対象物20の計測時系列波形Esam(t)を計測し(ステップS3)、計測時系列波形Eref(t)をフーリエ変換して計測電場スペクトルEsam(ω)を算出する(ステップS4)。
【0055】
次いで、固有電場スペクトル演算手段421は、(3)式で表されるウィナー逆フィルターWref(ω)を算出し(ステップS5)、定数kを初期値にする(ステップS6)。
【0056】
次いで、固有電場スペクトル演算手段421がWref(ω)を(4)式に代入して固有電場スペクトルH(ω)を算出し(ステップS7)、固有時系列波形演算手段422が固有電場スペクトルH(ω)を逆フーリエ変換して固有時系列波形H(t)を算出する(ステップS8)。
【0057】
次いで、制御・演算処理手段40は、固有時系列波形H(t)を表示し(ステップS9)、ノイズレベルが低いか否か及びパルス幅が短いか否かを判定する(ステップS10)。
【0058】
ステップS10で否(NO)と判定されると、新たなk値を設定し(ステップS11)、ステップS7へ戻る。
【0059】
一方、ステップS10でノイズレベルが低く且つパルス幅が短いと判定されると、制御・演算処理手段40は、動作を終了する。
【0060】
以上詳述したように、本実施形態の非接触膜厚測定装置は、ウィナー逆フィルターの定数kを増減させて、固有時系列波形H(t)のノイズレベルを抑え、パルス幅を短くすることができる。その結果、膜厚測定分解能が高くなる。
【0061】
(実施形態2)
図4は、本発明の実施形態2による非接触膜厚測定装置を模式的に示す概略構成図である。本実施形態の非接触膜厚測定装置は、実施形態1の非接触膜厚測定装置において、軸外し放物面鏡52と軸外し放物面鏡61とを紙面に直交する方向(上下方向)に重ねて配置し、テラヘルツパルス光発生手段4と膜厚測定対象物20との間に光路を折り曲げる光路折り曲げ手段70を備えるようにした以外、実施形態1の非接触膜厚測定装置と同じである。同一の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0062】
なお、本実施形態の膜厚測定対象物30は、アルミシリンダピストンヘッドで、シールリング用の凹溝が形成されている。
【0063】
光路折り曲げ手段70は、上記ピストンヘッドの凹溝部の水平面のアルマイト皮膜層の厚さを測定するためのもので、表面反射プリズムである。
【0064】
発生手段4から発生されたテラヘルツエコーパルス光Ltは、軸外し放物面鏡51でコリメートされた後、軸外し放物面鏡52によって右方向で下向き(紙面に直交する方向)に集光される。軸外し放物面鏡52で集光されたテラヘルツパルス光Ltは、表面反射プリズム72で反射され、膜厚測定対象物30の凹溝の水平面に集光照射される。凹溝の水平面からのテラヘルツエコーパルス光Lteは、表面反射プリズム72で反射され、軸外し放物面鏡61でコリメートされる。
【0065】
本実施形態の非接触膜厚測定装置は、発生手段4と膜厚測定対象物30との間に光路を折り曲げる光路折り曲げ手段70を備えているので、膜厚測定対象物30の凹溝の膜厚を測定することができる。
【実施例1】
【0066】
本発明者らは、実施形態1の非接触膜厚測定装置を用いて、塗装膜の膜厚を測定した。
【0067】
膜厚測定対象物は、図5に示すように、鋼板21の上に顔料を含有するソリッド塗装膜22と、マイカ光輝材を含有するマイカ塗装膜23と、クリア塗装膜24とを重ね塗りしたものである。各塗装膜が塗装されるたびに、膜厚が接触式膜厚計(渦電流式膜厚計)で測定され、図5に示すように、ソリッド塗装膜22の膜厚は、30μm、マイカ塗装膜23の膜厚は、10μm、クリア塗装膜24の膜厚は、20μmであった。
【0068】
各塗装膜の屈折率をエリプソメータで測定した結果、ソリッド塗装膜22の屈折率が2.1、マイカ塗装膜23の屈折率が1.5、クリア塗装膜24の屈折率が1.8であった。
【0069】
図6は、図5に示す膜厚測定対象物から得られる計測時系列波形を演算処理して算出した固有時系列波形図である。すなわち、ノイズレベルを抑え、パルス幅が短くなるようにウィナー逆フィルターの定数kを増減させた結果得られた固有時系列波形である。
【0070】
図6から明らかなように、先ず、最初に空気とクリア塗装膜24との間の境界面IP11で反射した上に凸のエコーパルス信号が現れている。境界面IP11で反射したエコーパルス信号の約220fs後に、クリア塗装膜24とマイカ塗装膜23との間の境界面IP12からのエコーパルス信号(下に凸の信号)が見られる。また、境界面IP12からのエコーパルス信号の約100fs後に、マイカ塗装膜23とソリッド塗装膜22との間の境界面IP13からの上に凸のエコーパルス信号が現れている。さらに、境界面IP13からのエコーパルス信号の約440fs後に、ソリッド塗装膜22と鋼板21との間の境界面IP14からの上に凸のエコーパルス信号が現れている。
【0071】
境界面IP12からのエコーパルス信号が下に凸になるのは、マイカ塗装膜23の屈折率が1.5であり、クリア塗装膜24の屈折率1.8より小さいためである。また、境界面IP13からのエコーパルス信号と境界面IP14からのエコーパルス信号の間に、なだらかな信号が見られるが、これはマイカ塗装膜23中のマイカ光輝材からの反射によるものと考えられる。なお、境界面IP14からのエコーパルス信号より遅い時間領域には、多数の多重反射信号が見られる。
【0072】
塗装膜の屈折率の値(1.8、1.5、2.1)と、図6から得られる信号間の時間差(220、100、440fs)を(1)式に代入して各塗装膜の膜厚を算出した結果、クリア塗装膜24の膜厚が18μm、マイカ塗装膜23の膜厚が10μm、ソリッド塗装膜22の膜厚が31μmであった。
【0073】
本発明の非接触膜厚測定装置を用いて測定された上記の膜厚値と従来の渦電流式膜厚計で測定した膜厚値とを比較すると、両者が±2μmの範囲で一致することがわかる。
【0074】
本発明の非接触膜厚測定装置は、ノイズレベルを抑え、信号のパルス幅が短くなるようにウィナー逆フィルターの定数kを増減させて固有時系列波形を算出するので、10μmの膜厚を測定することができた。
【0075】
また、図6の信号のパルス幅は、たとえば、空気とクリア塗装膜24との間の境界面IP11からのエコーパルス信号の場合、150fsである。これを(2)式に代入すると、膜厚測定分解能は12.5μmとなり、上記の10μmの膜厚を測定できたことと整合しない。これは、次の理由による。分解能が(2)式で表されるのは、多層膜の屈折率が順次大きい場合、すなわち、上に凸の信号だけが現れる場合である。それに対して、本実施例の場合、1層目より2層目の屈折率が小さいために、1層目と2層目の境界面IP12からのエコーパルス信号が下に凸の信号となる。その結果、膜厚測定分解能が(2)式に従わないのである。
【0076】
本実施例のように、1層目より2層目の屈折率が小さい場合、信号のパルス幅が短くなるように、ウィナー逆フィルターの定数kを増減させるより、ノイズレベルを下げて高さの低い信号のピークが現れるように、ウィナー逆フィルターの定数kを増減させことが望ましい。
【実施例2】
【0077】
本発明者らは、実施形態1の非接触膜厚測定装置を用いて、アルマイト被膜の膜厚を測定した。
【0078】
図7は、膜厚測定対象物の断面図であり、図8は、図7に示す膜厚測定対象物から得られる計測時系列波形を演算処理して算出した固有時系列波形図である。すなわち、ノイズレベルを抑え、パルス幅が短くなるようにウィナー逆フィルターの定数kを増減させた結果得られた固有時系列波形である。
【0079】
膜厚測定対象物は図7に示すように、アルミ板25の上にアルマイト皮膜26を形成したものである。アルマイト処理条件を変えてアルマイト皮膜の膜厚Zが5μm、10μm、15μm、20μmの4水準のサンプルを用意した。なお、4水準のサンプルは、アルマイト処理条件を変えて作成した多数のサンプルを断面顕微鏡観察することで選定された。アルマイト皮膜の屈折率は、エリプソメータで測定した結果、5.2であった。
【0080】
図8において、上から順にアルマイト皮膜26の膜厚Z=20μmのサンプル、Z=15μmのサンプル、Z=10μmのサンプル、Z=5μmのサンプルの固有時系列波形である。
【0081】
図8から明らかなように、まず、最初に空気とアルマイト皮膜26との境界面IP15からのエコーパルス光が観測され、Z=20μmのサンプルの場合、346fs後にアルマイト皮膜26とアルミ板25との境界面IP16からのエコーパルス光が観測される。同様に、Z=15μmのサンプルの場合、267fs後に、Z=10μのサンプルの場合、173fs後に、Z=5μmのサンプルの場合、80fs後に、アルマイト皮膜26とアルミ板25との境界面IP16からのエコーパルス光が観測される。
【0082】
図9は、アルマイト皮膜の屈折率の値(5.2)と、図8から得られる信号間の時間差(346、267、173、80fs)を(1)式に代入して算出した各皮膜の膜厚を縦軸にとり、断面顕微鏡観察で求めた膜厚を横軸にとって、算出した膜厚値をプロットしたグラフである。
【0083】
図9から、断面顕微鏡観察で求めた膜厚を真値としたときの、膜厚測定誤差が±0.4μmであることがわかる。
【0084】
本発明の非接触膜厚測定装置は、ノイズレベルを抑え、信号のパルス幅が短くなるようにウィナー逆フィルターの定数kを増減させて固有時系列波形を算出するので、5μmのアルマイト皮膜を±0.4μmの精度で測定することができた。
【0085】
図9の最下部の固有時系列波形において、最初のエコーパルス光のパルス幅は、36fsであり、これを(2)式に代入すると、膜厚測定分解能は、1μmとなる。
【0086】
これまで、アルマイト皮膜の膜厚を非接触は勿論、非破壊で測定することができなかったが、本発明の非接触膜厚測定装置を用いると、上記のように、高精度、高分解能で測定できることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の実施形態1による非接触膜厚測定装置を模式的に示す概略構成図である。
【図2】実施形態1による非接触膜厚測定装置のブロック図である。
【図3】実施形態1による非接触膜厚測定装置の制御・演算処理手段40の動作を示すフローチャートである。
【図4】)本発明の実施形態2による非接触膜厚測定装置を模式的に示す概略構成図である。
【図5】図1及び図2に示す実施形態1の非接触膜厚測定装置によって測定された実施例1の膜厚測定対象物の断面図である。
【図6】図5に示す膜厚測定対象物から得られる計測時系列波形を演算処理して算出した固有時系列波形図である。
【図7】図1及び図2に示す実施形態1の非接触膜厚測定装置によって測定された実施例2の膜厚測定対象物の断面図である。
【図8】図7に示す膜厚測定対象物から得られる計測時系列波形を演算処理して算出した固有時系列波形図である。
【図9】アルマイト皮膜の屈折率の値と、図8から得られる信号間の時間差を(1)式に代入して算出した各皮膜の膜厚を縦軸にとり、断面顕微鏡観察で求めた膜厚を横軸にとって、算出した膜厚値をプロットしたグラフである。
【図10】従来技術による膜厚測定原理を示す図であって、(a)は自動車ボディー塗装における多層塗装膜の一例を示す断面図であり、(b)は(a)において測定されたテラヘルツエコーパルスを示す電場振幅時間分解波形図である。
【図11】テラヘルツエコーパルスのパルス幅と膜厚測定分解の関係を説明するための図である。
【符号の説明】
【0088】
4・・・・・・・・テラヘルツパルス光の発生手段
7・・・・・・・・検出手段
20、30・・・・膜厚測定対象物
41・・・・・・・計測時系列波形取得手段
42・・・・・・・固有時系列波形演算手段
421・・・・・固有電場スペクトル演算手段
422・・・・・固有時系列波形演算手段
70・・・・・・・光路折り曲げ手段
Lt・・・・・・・・テラヘルツパルス光
Lte・・・・・・・・テラヘルツエコーパルス光
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テラヘルツパルス光の発生手段と、
前記発生手段から発生して所定の光路を経て到達するテラヘルツパルス光を検出する検出手段と、
前記光路上に膜厚測定対象物を配置した状態で、前記テラヘルツパルス光を前記膜厚測定対象物に照射することにより前記膜厚測定対象物で反射して前記検出手段により検出されるテラヘルツエコーパルス光の、電場強度の時系列波形である計測時系列波形を取得する計測時系列波形取得手段と、
前記光路上に前記膜厚測定対象物に代えて表面反射鏡を配置した状態で、前記発生手段から発生されて前記検出手段にて検出されるテラヘルツパルス光の、電場強度の時系列波形である基準時系列波形と、前記計測時系列波形と、から、前記膜厚測定対象物固有の時系列波形を演算する固有時系列波形演算手段と、を備え、
前記固有時系列波形演算手段は、(a)前記計測時系列波形をフーリエ変換して得た計測電場スペクトルに、前記基準時系列波形をフーリエ変換して得た基準電場スペクトル及び定数で表されるウィナー逆フィルターを乗じて固有電場スペクトルを求める固有電場スペクトル演算手段と、(b)前記定数を増減させて前記固有電場スペクトルを逆フーリエ変換して前記固有時系列波形を得る固有時系列波形演算手段と、を有することを特徴とする非接触膜厚測定装置。
【請求項2】
前記発生手段と前記膜厚測定対象物との間に前記光路を折り曲げる光路折り曲げ手段を備える請求項1に記載の非接触膜厚測定装置。
【請求項3】
テラヘルツパルス光の発生手段と前記発生手段から発生して所定の光路を経て到達するテラヘルツパルス光を検出する検出手段とを用いて、前記光路上に膜厚測定対象物を配置した状態で、前記テラヘルツパルス光を前記膜厚測定対象物に照射することにより前記膜厚測定対象物で反射して前記検出手段により検出されるテラヘルツエコーパルス光の、電場強度の時系列波形である計測時系列波形を取得する計測時系列波形取得ステップと、
前記光路上に前記膜厚測定対象物に代えて表面反射鏡を配置した状態で、前記発生手段から発生されて前記検出手段にて検出されるテラヘルツパルス光の、電場強度の時系列波形である基準時系列波形と、前記計測時系列波形と、から、前記膜厚測定対象物固有の時系列波形を演算する固有時系列波形演算ステップと、を備え、
前記固有時系列波形演算ステップは、(a)前記計測時系列波形をフーリエ変換して得た計測電場スペクトルに、前記基準時系列波形をフーリエ変換して得た基準電場スペクトル及び定数で表されるウィナー逆フィルターを乗じて固有電場スペクトルを求める固有電場スペクトル演算ステップと、(b)前記定数を増減させて前記固有電場スペクトルを逆フーリエ変換して前記固有時系列波形を得る固有時系列波形演算ステップと、を有することを特徴とする非接触膜厚測定方法。
【請求項4】
前記発生手段と前記膜厚測定対象物との間の前記光路を光路折り曲げ手段で折り曲げる請求項3に記載の非接触膜厚測定方法。
【請求項1】
テラヘルツパルス光の発生手段と、
前記発生手段から発生して所定の光路を経て到達するテラヘルツパルス光を検出する検出手段と、
前記光路上に膜厚測定対象物を配置した状態で、前記テラヘルツパルス光を前記膜厚測定対象物に照射することにより前記膜厚測定対象物で反射して前記検出手段により検出されるテラヘルツエコーパルス光の、電場強度の時系列波形である計測時系列波形を取得する計測時系列波形取得手段と、
前記光路上に前記膜厚測定対象物に代えて表面反射鏡を配置した状態で、前記発生手段から発生されて前記検出手段にて検出されるテラヘルツパルス光の、電場強度の時系列波形である基準時系列波形と、前記計測時系列波形と、から、前記膜厚測定対象物固有の時系列波形を演算する固有時系列波形演算手段と、を備え、
前記固有時系列波形演算手段は、(a)前記計測時系列波形をフーリエ変換して得た計測電場スペクトルに、前記基準時系列波形をフーリエ変換して得た基準電場スペクトル及び定数で表されるウィナー逆フィルターを乗じて固有電場スペクトルを求める固有電場スペクトル演算手段と、(b)前記定数を増減させて前記固有電場スペクトルを逆フーリエ変換して前記固有時系列波形を得る固有時系列波形演算手段と、を有することを特徴とする非接触膜厚測定装置。
【請求項2】
前記発生手段と前記膜厚測定対象物との間に前記光路を折り曲げる光路折り曲げ手段を備える請求項1に記載の非接触膜厚測定装置。
【請求項3】
テラヘルツパルス光の発生手段と前記発生手段から発生して所定の光路を経て到達するテラヘルツパルス光を検出する検出手段とを用いて、前記光路上に膜厚測定対象物を配置した状態で、前記テラヘルツパルス光を前記膜厚測定対象物に照射することにより前記膜厚測定対象物で反射して前記検出手段により検出されるテラヘルツエコーパルス光の、電場強度の時系列波形である計測時系列波形を取得する計測時系列波形取得ステップと、
前記光路上に前記膜厚測定対象物に代えて表面反射鏡を配置した状態で、前記発生手段から発生されて前記検出手段にて検出されるテラヘルツパルス光の、電場強度の時系列波形である基準時系列波形と、前記計測時系列波形と、から、前記膜厚測定対象物固有の時系列波形を演算する固有時系列波形演算ステップと、を備え、
前記固有時系列波形演算ステップは、(a)前記計測時系列波形をフーリエ変換して得た計測電場スペクトルに、前記基準時系列波形をフーリエ変換して得た基準電場スペクトル及び定数で表されるウィナー逆フィルターを乗じて固有電場スペクトルを求める固有電場スペクトル演算ステップと、(b)前記定数を増減させて前記固有電場スペクトルを逆フーリエ変換して前記固有時系列波形を得る固有時系列波形演算ステップと、を有することを特徴とする非接触膜厚測定方法。
【請求項4】
前記発生手段と前記膜厚測定対象物との間の前記光路を光路折り曲げ手段で折り曲げる請求項3に記載の非接触膜厚測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−139402(P2010−139402A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316586(P2008−316586)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]