説明

非接触ICタグシステム

【課題】 リーダ・ライタ側から電力を供給しつつ、安定したデータ信号の伝送を可能にすると共に、ICタグに書き込むデータが複数ある場合にも相互に干渉しないスポット的な伝送を行うことのできる非接触ICタグシステムを提供することである。
【解決手段】 リーダ・ライタ11とICタグ12とを備えた非接触ICタグシステム10において、前記リーダ・ライタ11側に可視光Lによる所定の発光パターンを発信するデータ送信部14、ICタグ12側に前記発光パターンを受信するデータ受信部24を設けることで、前記可視光Lを介してデータの伝送を行うと共に、前記リーダ・ライタ11側から送出する搬送波Rを介してICタグ12側に電力供給を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データ信号の伝送に可視光を利用した非接触ICタグシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電波(搬送波)を介して送受信することで、商品あるいは生産物等のシリアル番号や製造年月日などの各種情報(データ)を照合・管理することのできる非接触式のICタグが広く用いられるようになってきている。このICタグを用いた基本構成は、図4に示すように、商品などに付するシート状のICタグ3と、このICタグ3と搬送波Rを介してデータをやりとりするリーダ・ライタ2とからなる。
【0003】
前記ICタグ3は、搬送波Rに載せたデータを受信するためのアンテナ4と、前記データを記憶するメモリ部5、その他、データの入出力を制御する制御回路6等を備えて構成されている。また、前記リーダ・ライタ2は、前記ICタグ3に送信するデータの読み出し部や電力供給部等を有する本体部7と、この本体部7から搬送波Rを介してICタグ3に書き込まれるデータの伝送や電力を供給するためのアンテナ8とを備えている。
【0004】
前記構成のICタグ3は、内部に電源部を持たず、前記リーダ・ライタ2側から搬送波Rを介して電力を供給するパッシブタイプのものであるため、データと電力の伝送を単一の搬送波Rを介して行うようになっている。このように搬送波Rにデータと電力を載せて伝送する場合は、搬送波Rに所定の変調や符号化等の処理が施される。
【0005】
図5は、上記ICタグ3を用いた商品管理ラインの一例を示したものである。この例は、ベルトコンベア9a上を流れる個々の商品9bごとにICタグ3が付され、ベルトコンベア9aの下方にはアンテナ8を備えた複数のリーダ・ライタ2が所定間隔ごとに複数配置して構成されたものである。前記個々のリーダ・ライタ2には異なったデータが格納されており、ベルトコンベア9a上を流れる商品9bが通過する過程でそれらのデータが逐次ICタグ3に書き込まれるように構成されている。このようなシステムにあっては、前記リーダ・ライタ2を隣接して配置した場合に、それぞれのアンテナ8から出力される搬送波R同士が重なる重合領域Mが生じ、この重合領域Mを前記商品9bが通過すると、ICタグ3に誤ったデータが書き込まれてしまうおそれがある。
【0006】
このような搬送波R同士の干渉を回避して正確なデータの書き込み動作を行わせるためには、リーダ・ライタ2側に備わるアンテナ8をICタグ3に正確に対応させる必要がある。このため、特許文献1では、前記リーダ・ライタにスポット光を投射する光源を備え、前記スポット光がICタグに投射されたタイミングによってデータの書き込みを行うようにした構成例が示されている。
【特許文献1】特開2006−11839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記パッシブタイプのICタグにあっては、前述したように、データと電力の伝送を単一の搬送波Rに載せて伝送させるため、搬送波Rに対して変調度の設定や調整を施すための処理が複雑となる。また、データをデジタル符号化して伝送させるための符号化や帯域制限などの処理が必要となる。
【0008】
前記搬送波Rに施す処理に関しては、変調の度合いが高過ぎると、データの伝送時に電力の供給が不足し、逆に変調の度合いが低過ぎるとデータの伝送エラーが発生するため、最適な変調度に設定あるいは維持するのが容易でないといった問題がある。
【0009】
また、前記搬送波Rは、周囲の電気製品や携帯電話等から発する電磁波や気象現象などによる環境の変化によって影響を受けやすい。このため、特にデータの伝送中におけるノイズの発生によって送受信エラーや伝送遅延などを引き起こしやすく、信頼性に欠けるといった問題もある。
【0010】
さらに、前記図5に示したように、ICタグ3に複数のリーダ・ライタ2からそれぞれ異なったデータを書き込む場合に、前記リーダ・ライタ2を隣接して配置すると、搬送波Rを用いた伝送では相互に干渉し合う。このため、特許文献1に示されているようなスポット光によってアンテナの向く方向を調整したとしても、伝播範囲の広い搬送波RではICタグに正確に照準を合わせることが困難となるため、正確なデータ信号の伝送ができないといった問題があった。
【0011】
そこで、本発明の目的は、リーダ・ライタ側から電力を供給しつつ、安定したデータ信号の伝送を可能にすると共に、ICタグに書き込むデータが複数ある場合にも相互に干渉しないスポット的な伝送を行うことのできる非接触ICタグシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の非接触ICタグシステムは、リーダ・ライタとICタグとを備えた非接触ICタグシステムにおいて、前記リーダ・ライタ側に可視光による所定の発光パターンを発信するデータ送信部、ICタグ側に前記発光パターンを受信するデータ受信部を設けることで、前記可視光を介してデータの伝送を行うと共に、前記リーダ・ライタ側から送出する搬送波を介してICタグ側に電力供給を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る非接触ICタグシステムによれば、各種の情報からなるデータの伝送を搬送波と別の可視光を媒介にして行うため、外部の環境等に影響されることなく、安定した高品質なデータの伝送を行うことができる。また、前記データの伝送を従来の搬送波から切り離すことで、搬送波による電力の伝送効率も向上する。
【0014】
また、前記データの伝送に可視光を用いているため、伝送範囲を光の届く角度や距離に限定させることができるので、スポット的な限られた範囲でのデータの書き込みが可能となる。これによって、複数のリーダ・ライタを隣接して配置した場合であっても、複数のデータ同士が干渉したり、混信したりすることなく、必要なデータを正確に書き込むことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面に基づいて本発明に係る非接触ICタグシステムの実施形態を詳細に説明する。
【0016】
図1に示すように、本発明の非接触ICタグシステム10は、リーダ・ライタ11と、このリーダ・ライタ11から発せられる可視光L及び電波(搬送波)Rを介してデータ及び電力を受けるICタグ12とで構成されている。
【0017】
前記リーダ・ライタ11は、図2(a)に示すように、ICタグ12に伝送するデータや電力を格納している本体部13と、この本体部13から前記データを送信するデータ送信部14と、電力を送信する電力送出部15とを備えて構成されている。
【0018】
前記データ送信部14は、前記本体部13に格納されている書き込み用の情報(データ信号)を可視光Lによる発光パターンに変換する可視光パターン変換部16と、前記発光パターンを外部に向けて照射する発光部17とを備えている。
【0019】
前記発光部17は、発光ダイオード又はレーザダイオード等を光源とするスポットライトであり、前記本体部13と同じケーシングに収容されるか、このケーシングから所定の照射方向に可変可能に分離して配置される。前記発光ダイオードは、一般的に可視光と赤外光とに分けられるが、各種装置の稼動状態などを示すランプや表示ボードの光源等に使用されるような可視光タイプのものが使用される。特に、この可視光タイプの発光ダイオードの中でも白色LEDなどは、照明機器等にも使用されるように高輝度であるため、本発明のシステム構成に適している。このような発光ダイオードは、他の照明装置に比べて非常にスイッチングスピードが高く、耐久性にも優れているため、可視光を用いた通信に必要な高速なON−OFFの繰り返し操作が可能である。なお、赤外光タイプの発光ダイオードは、主にIrDA等の通信用途や、位置検出等のセンサー用途に使用されるものであるが、前記可視光タイプの発光ダイオードの代わりに使用することもできる。
【0020】
前記発光部17から発せられる可視光Lは、波長が380〜770ミリミクロンの人間の目で視認可能な光線である。この可視光の中に人間の目で認識できない高速の点滅による発光パターンが存在しており、この発光パターンの組み合わせによって、所定の情報からなるデータ信号が作られる。
【0021】
また、前記発光部17をリーダ・ライタ11から分離して設ける場合は、図1に示したように、発光ダイオードが実装された基板の周囲を取り囲むような反射面を有した集光体18に収容され、ケーブル19を介して接続される。さらに、前記集光体18を配置あるいは取り付けやすいように、スタンド部あるいはクリップを設けることもできる。
【0022】
前記電力送出部15は、ICタグ12に電力を供給するための搬送波Rを発生させ、所定の出力に増幅させる電力変調部21と、増幅させた搬送波Rを空中に放出させるための送信用のアンテナ22を備えている。この送信用のアンテナ22からは、一例として、13.56MHzの搬送波Rを100mWで送出される。ただし、要求されるICタグとの通信距離により、電力量は異なるため、電波法の規制の中で可能な範囲で出力調整することになる。また、電力供給するためには他の周波数(2.45GHz/特定小電力)を使用することも可能であるが、電波法に基づいた規格の中で送信機を設計する必要がある。
【0023】
前記ICタグ12は、シート状の薄い基材をベースにして構成され、図2(b)に示すように、データ受信部24、電力受給部25、制御回路28及びメモリ部29とを備えている。
【0024】
前記データ受信部24は、前記リーダ・ライタ11側の発光部17から発せられる可視光Lによる発光パターンを検知する受光部27と、この受光部27で検知された発光パターンをデジタルのデータ信号に変換するデータ変換部26とで構成されている。前記受光部27は、フォトダイオード又はこのフォトダイオードの他にドライバ回路等を内蔵したフォトICなどで構成される。前記フォトダイオードは、受光した光を電流に変換する特性を有している。したがって、本システム構成では、発光部17から送られてくる光のデータを受光し、ICタグ12のデータ変換部26へ受光データをそのまま送出する働きをする。前記データ変換部26は、フォトダイオードが送信部から送られてきた点滅周期のデータを増幅し、デジタル信号に変換する。また、前記フォトダイオードは、前記発光ダイオードから発せられる可視光Lを効率よく受けるために、受光面を除いた部分が遮光され、実装用の基材の端部から外方向に向かうように表面実装される。
【0025】
前記電力受給部25は、前記リーダ・ライタ11側の送信用のアンテナ22から発せられる搬送波Rを受信するための受信用のアンテナ32と、この受信用のアンテナ32を介して取り込まれた搬送波Rを電力変換する電力変換部31とで構成される。この電力変換部31では、前記受信用のアンテナ32を介して受信された搬送波RをICタグ駆動用の電力に変換させる。なお、搬送波Rは、周波数が13.56MHzのものが一般的に広く使用されるが、900MHzのものやマイクロ波(2.45GHz)を使用する場合もある。
【0026】
このように、ICタグ12内の受信用のアンテナ32で前記リーダ・ライタ11から発信されている搬送波Rを検出することで、その誘導起電力を利用して発電を行い、これで制御回路28を介して命令を実行するための時間の単位となるクロック信号を作り出している。一方、リーダ・ライタ11の発光部17から発せられる可視光Lによる発光パターンによって、データ信号による各種の情報がメモリ部29に書き込まれる。
【0027】
次に、前記非接触ICタグシステム10を用いた応用例を図3に基づいて説明する。この応用例は、ベルトコンベア41上を順次流れる商品や生産物等の物体42に対してシリアル番号や製造年月日、内容物等の情報を逐次書き込むと共に、この情報の管理を行うためのシステム構成例を示したものである。このシステムにおける複数のリーダ・ライタ11は、それぞれの発光部17がケーブル19を介して接続配置されている。そして、前記物体42に付されているICタグ12に書き込むデータの格納部と電力供給部とが備わる本体部13は、ベルトコンベア41の下方にまとめて配置され、各発光部17はICタグ12が付された物体42の通過間隔に合わせて配置される。前記発光部17は、光源に発光ダイオードを使用したスポットライトであり、この発光ダイオードの周囲を円筒形状の集光体18で囲うことで単一の指向性を有して構成される。なお、このシステムにあっては、発光部17と本体部13とが対になるように構成しているが、前記本体部13を単一構成にし、リーダ・ライタに共通の電力供給部と、各発光部に対応して切り替え可能なデータ送信部を設けて構成することもできる。
【0028】
上記応用例のように、データ発信側のリーダ・ライタ11とデータ受信側である物体42に付されたICタグ12との距離が比較的狭く、限られた範囲でのデータ信号の伝送に可視光Lを利用しているため、外部の電磁界現象や様々なノイズによる影響を受けることなく、必要な情報のみを効率よく伝送させることができる。特に、一つのICタグ12に対して複数のリーダ・ライタ11から異なる情報を付加する際にも、情報同士が干渉することがない。また、前記発光部17がリーダ・ライタ11から独立し、可視光Lの照射方向が可変可能となっているので、情報を書き込む側のICタグ12が付された物体42の位置や方向、あるいは、移動する方向に適合させることが可能となる。
【0029】
上記応用例における非接触ICタグシステム10は、商品等の物体42に付加される各種の情報をベルトコンベア41上で流れる間に順次書き込むことを目的として構成されたものであるが、このようなシステムに限定されることなく、製造ラインあるいは物流ラインなどの一定の定められた範囲における商品等の管理システムに応用することができる。
【0030】
以上説明したように、本発明の非接触ICタグシステムにあっては、電力伝送は従来の搬送波を用い、各種の情報からなるデータ伝送は可視光によって行うように分離構成されているので、電力の伝送及びデータの伝送を安定かつ正確に行うことができる。また、前記データ伝送が可視光を媒体としているため、ICタグに対するデータの書き込み位置が正確に定まることによって、データ伝送エラーを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る非接触ICタグシステムの概略構成図である。
【図2】上記非接触ICタグシステムのシステムブロック図である。
【図3】上記非接触ICタグシステムを用いた商品管理の応用例を示す説明図である。
【図4】従来の非接触ICタグシステムの概略構成図である。
【図5】従来の非接触ICタグシステムを用いて構成された商品管理の応用例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0032】
L 可視光
R 搬送波(電波)
10 非接触ICタグシステム
11 リーダ・ライタ
12 ICタグ
13 本体部
14 データ送信部
15 電力送出部
16 可視光パターン変換部
17 発光部
18 集光体
19 ケーブル
21 電力変調部
22 アンテナ
24 データ受信部
25 電力受給部
26 データ変換部
27 受光部
28 制御回路
29 メモリ部
31 電力変換部
32 アンテナ
41 ベルトコンベア
42 物体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リーダ・ライタとICタグとを備えた非接触ICタグシステムにおいて、
前記リーダ・ライタ側に可視光による所定の発光パターンを発信するデータ送信部、ICタグ側に前記発光パターンを受信するデータ受信部を設けることで、前記可視光を介してデータの伝送を行うと共に、前記リーダ・ライタ側から送出する搬送波を介してICタグ側に電力供給を行うことを特徴とする非接触ICタグシステム。
【請求項2】
前記データ送信部は、前記ICタグ側に書き込むデータを前記発光パターンに変換する可視光パターン変換部と、前記発光パターンを外部に向けて照射させる発光部とを備える請求項1記載の非接触ICタグシステム。
【請求項3】
前記データ受信部は、前記発光部から発せられる前記発光パターンを検知する受光部と、この受光部で検知された前記発光パターンをデータに変換するデータ変換部とを備える請求項1記載の非接触ICタグシステム。
【請求項4】
前記発光部は、発光ダイオード又はレーザダイオードによって構成される請求項2記載の非接触ICタグシステム。
【請求項5】
前記受光部は、フォトダイオード又はフォトICによって構成される請求項3記載の非接触ICタグシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−257489(P2008−257489A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−99045(P2007−99045)
【出願日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(000131430)シチズン電子株式会社 (798)
【Fターム(参考)】