説明

非接触ICタグ用リーダライタおよびその信号送信方法

【課題】 搬送波周波数の周波数切り替えに伴い発生するスペクトルの不要な広がりを低減し、かつ特別な回路の追加を行わずに、伝送効率の低下が抑制されるICタグ用リーダライタを提供する。
【解決手段】 送信信号2の送信中でかつOFF変調となるタイミングで周波数ホッピング処理を行うことで、通信データの伝送効率と速度を落とすことなく周波数ホッピング時のノイズや不要なスプリアスの送信を抑えることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送波周波数を周波数切り替えパターン(ホッピングパターン)等に基づいて切り替えることでスペクトル拡散を行う周波数ホッピング送信を利用した非接触ICタグ用リーダライタおよびその信号送信方法に関し、特に、搬送波周波数の周波数切り替え(周波数ホッピング)に伴い発生するスペクトルの不要な広がりを軽減させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非接触でデータの書き込みおよび読み出しを行うデータキャリア、RFID(Radio Frequency Identification)、無線タグ、またはICタグと呼称される通信媒体が普及しつつあり、現在ではこれら通信媒体を用いて、様々な種類の通信方法が開発されている。
【0003】
この通信媒体であるICタグを読み取るための非接触ICタグ用リーダライタ(以下、リーダライタと称す)の中でも、2.45GHz帯のリーダライタにおける移動体識別用無線設備標準規格として、ARIB STD−T81がある。この規格では、電波法により、周波数ホッピング(Frequency Hopping Spectrum Spread)方式の使用が義務付けられており、広い周波数帯域を複数の周波数チャネルに分割し、その周波数チャネルを一定の規則に従いながらランダムに選択して使用している。
【0004】
このため、特定の周波数チャネルで干渉(狭帯域干渉)が発生しても、別の周波数チャネルに切り替えることにより、狭帯域干渉を避けることができる利点がある。図4は、従来の周波数ホッピング時のノイズとスプリアスの説明図である。スプリアスとは、干渉によって生じる目的信号付近に発生する不要波である。周波数ホッピングの搬送波周波数の切り替え時は、一般的に、搬送波の立ち上がりや立ち下りに伴う波形変化や周波数変化中のオーバシュート、アンダーシュート、ノイズなどにより、図4のような不要な周波数やスペクトルの広がりが発生する。具体的には、搬送波の周波数f1がf2に移動(ホッピング)する際に、一時的にfnのようなノイズ周波数が発生する場合がある。また、f2のスプリアスが一時的に破線のように広がりを見せたりする。
【0005】
図5は、従来のリーダライタ送信部の回路構成ブロック図を表している。前記ノイズやスプリアスを低減するために、従来では例えば、図5に示すようなリーダライタ送信部が構成されている。この送信部は、搬送波発生器4、ASK(Amplitude shift keying:振幅偏移)変調器5、変調波整形器8、電力増幅器6、空中線7を備える。搬送波発生器4には、周波数設定信号1aと周波数切替信号1bが入力され、ここで搬送波4aを生成する。ASK変調器5では、送信信号2に基づいて前記搬送波4aをASK変調して変調波5aを生成する。変調波整形器8では、この変調波5aの波形を整形し、整形された変調波5aは電力増幅器6で増幅されて送信波6aとなる。この送信波6aは空中線7により空中へ送信される。なお、電力増幅器6をコントロールするためには、増幅器制御信号3が必要となる。
【0006】
図6は、増幅器制御信号3を使用した従来の周波数ホッピング制御を説明するための信号波形の模式図である。搬送波周波数の切り替え時のノイズやスプリアスの不要な広がりを抑えるため、増幅器制御信号3により送信波6aの出力を制御している。この周波数切り替えの期間、増幅器制御信号3をL(Low)状態に保ち、送信波のレベルを抑えている。また、図6は、図5のリーダライタ送信部による送信波6aの構成手順を示している。搬送波4aは、周波数設定信号1aによって変更する周波数が決定され、更に周波数切替信号1bによって切替タイミングが設定される。搬送波4aは、この周波数切替信号1bにより設定された切替タイミングによって、その周波数がf1、f2、f3の順に切り替えられる。
【0007】
なお、搬送波発生器4は、一般的に無線用の安定した周波数信号を作り出す方法の1つとして、VCO(Voltage Controlled Oscillator:電圧制御発振器)とPLL(Phase Locked Loop:位相周期回路)とを組み合わせた、もしくはDDS(Direct Digital Synthesizer:直接デジタル合成方式信号発生器)、もしくは上記2者とを組み合わせた回路で構成される。
【0008】
特許文献1では、DDSにおいて、搬送波周波数の切り替え時に出力振幅を制限することにより、搬送波周波数の切り替えに伴い発生するノイズスペクトルの低減方法が記載されている。
【0009】
また、特許文献2では、変調器と電力増幅器の間に波形整形回路を追加することにより送信波形の波形変化を滑らかにする手段などが記載されている。
【0010】
【特許文献1】特開平8−65054号公報
【特許文献2】特開平11−220426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来の方法では、ノイズやスプリアスの低減を解決するのみで、データ通信の伝送効率は考慮されていなかった。送信信号を送信中に搬送波の出力を低下させることは、送信信号に自らノイズを加えることでもあり、データ通信の伝送効率の低下につながっていた。
【0012】
特許文献1のような、増幅器制御信号によって、ノイズやスプリアスの低減を図る方法では、電力増幅器を入出力する際の速度変化が遅いため、送信信号に含まれる通信データを、周波数ホッピングで一旦途切れた送信信号を再び次への送信に移行するためには、途切れた間の間隔を広く確保する必要があり、これによっても通信速度が低下するという問題があった。また、特許文献2のような手段においては、波形を整形するための波形整形回路を追加する必要があるため、装置が大型化し、コストが増大するという問題があった。
【0013】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、搬送波周波数の周波数切り替えに伴い発生するスペクトルの不要な広がりを低減し、かつ特別な回路の追加を行わずに、伝送効率の低下が抑制される非接触ICタグ用リーダライタおよびその信号送信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成する本発明は、送信信号をASK変調および周波数ホッピング方式で送信する非接触ICタグ用リーダライタであって、搬送波周波数の周波数切り替えタイミングを含む所定時間にわたって、前記送信信号をOFF変調するOFF変調手段を有することを特徴とする非接触ICタグ用リーダライタである。
【0015】
上記目的を達成する本発明は、送信信号をASK変調および周波数ホッピング方式で送信し、前記ASK変調として、OFF変調手段を利用する非接触ICタグ用リーダライタであって、前記送信信号中に含まれるデータ通信中のOFF変調となるタイミングで、搬送波周波数を切り替える周波数切替手段を有することを特徴とする非接触ICタグ用リーダライタである。
【0016】
また、上記目的を達成する本発明は、送信信号をASK変調および周波数ホッピング方式で送信する非接触ICタグ用リーダライタの信号送信方法であって、搬送波周波数の周波数切り替えタイミングを含む所定時間にわたって、前記送信信号をOFF変調することを特徴とする非接触ICタグ用リーダライタの信号送信方法である。
【0017】
更に、上記目的を達成する本発明は、送信信号をASK変調および周波数ホッピング方式で送信し、前記ASK変調として、OFF変調手段を利用する非接触ICタグ用リーダライタの信号送信方法であって、前記送信信号中に含まれるデータ通信中のOFF変調となるタイミングで、搬送波周波数を切り替えることを特徴とする非接触ICタグ用リーダライタの信号送信方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、特殊な回路を追加することなく、ASK変調方式のリーダライタにおいて周波数ホッピング時に発生するスプリアスの不要な広がりを抑えることが可能となる。
【0019】
また、本発明の第2の発明によれば、周波数ホッピング期間中に送信を中断する必要がなくなり、通信データの送信途中で周波数ホッピングを行うので、通信データを、ノイズやスプリアスの低減を図るために一旦中断する必要がなくなり、通信データの伝送効率の低下を抑えることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための実施の形態を図面を用いて詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るICタグ用リーダライタの送信部のブロック図である。この送信部は、搬送波発生器4、ASK変調器5、電力増幅器6、空中線7を備える。搬送波発生器4には、周波数設定信号1aと周波数切替信号1bが入力され、ここで搬送波4aが生成される。ASK変調器5では、送信信号2に基づいて前記搬送波4aをASK変調して変調波5aを生成する。変調波5aは電力増幅器6で増幅されて送信波6aとなる。この送信波6aは空中線7により空中へ送信される。
【0022】
ここで、ASK変調とは振幅に情報を持たせた変調方式のことで、送信したいデータが時刻tで変化する関数D(t)で表される場合、最も単純なASKの変調では、ASKの変調を施した波形Y(t)は次式(1)で表される。
Y(t)=D(t)×sin(2πft+θ)・・・・・(1)
D(t)は、最も単純な場合では、1か0の値をとる。図7は、ASK変調の説明図である。図7のように、D(t)=1のときは振幅1の正弦波になり、D(t)=0のときはY(t)=0で何もない状態になる。このY(t)=0の状態に変調するのがOFF変調となる。
【0023】
ASK変調器5がOFF変調手段を備えている場合には、このOFF変調手段を利用すれば良い。本願発明では、ASK変調器5のOFF変調を利用する場合は、搬送波周波数の周波数切替タイミング(周波数をf1からf2へ、またf2からf3へ切り替えるタイミング)を含む所定時間にわたって、送信信号2をL状態に固定することでOFF変調するようにできる。また、別の方法としては、スイッチを用いてOFFにすることにより簡単にOFF変調することができる。具体的には、周波数切替信号1bにより設定される切替タイミングを基準に、数ミリから数十ミリ秒前から始まり、切替タイミングから数ミリから数十ミリ秒後に終了する期間、OFF変調を行う。この結果、変調波5aおよび送信波6aの出力を抑えることが可能になり、ホッピングによるノイズやスプリアスの広がりを低減することができる。つまり、波形整形回路等の特殊な回路に頼ることなく、送信信号2もしくはスイッチによって、変調波5aを制御することでスプリアスを抑えることができる。
【0024】
図2に、本発明の第1の実施の形態に係るICタグ用リーダライタによる周波数ホッピング制御を説明するための信号波形の模式図を示す。本実施の形態では、ASK変調器5がOFF変調手段を備えている場合である。周波数設定信号1aを送信した後、周波数切替信号1bをLにすると搬送波4aの周波数が切り替えられる。なお、図8は搬送波4aの波形を模式的に表した図である。その周波数範囲をf1、f2、f3で示している。
【0025】
また、図2において、搬送波4aに対して送信信号2でASK変調をかけたものが変調波5aとなっている。変調波5aは電力増幅器6で増幅され、送信波6aとなる。このため、送信信号2でデータ通信をしている間は、その信号に対応して送信波6aの変調信号部が表れ、データ通信をH(High)状態に固定していると、対応する無変調信号が表れる。また、送信信号2をL状態に固定することで、OFF変調により送信波6aも振幅を小さくすることができる。
【0026】
図3に、本発明の第2の実施の形態に係る周波数ホッピング制御を説明するための信号波形の模式図を示す。図3は、送信信号2のデータ通信時の通信信号12のみを表しており、図2,6よりも時間軸を拡大している。仮にここで、通信信号12は、一定時間内にL(Low)パルスが2回発生すると「1」、Lパルスが1回発生すると「0」を示すこととする。ここで、Lパルスの場合はOFF変調となっている。この通信信号12において、Lパルスの出力がなされる、つまり、Lowのパルスを発生させる瞬間というのは、ASK変調におけるOFF変調が行われているので、その間に、周波数切替信号1bから切り替え指示を出すようにし、搬送波4aが周波数f1から周波数f2に切り替えるようにする。
【0027】
この結果、通信信号12中に通信データの基本パルスとなっているLパルスを用い、この送信波6aの強度が低くなっている時間内に周波数ホッピングを行うので、ホッピング時に発生するノイズやスプリアスの広がりを抑えることが可能となる。また、通信信号12における通信データの送信途中でホッピングを行うため、データ通信を一時的に中断する必要も無くなる。
【0028】
この制御方法を実現するには、ICタグ用リーダライタにおける送信部に、搬送波発生器4とASK変調器5、電力増幅器6、空中線7、および、送信信号2のOFF変調タイミングに合わせて周波数ホッピングが行われるよう、周波数設定信号1aおよび周波数切替信号1bを発生して搬送波発生器4に入力する信号生成器とを備えるようにすれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るICタグ用リーダライタにおける送信部のブロック図。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るICタグ用リーダライタによる周波数ホッピング制御を説明するための信号波形の模式図。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る周波数ホッピング制御を説明するための信号波形の模式図。
【図4】従来の周波数ホッピング時のノイズとスプリアスの説明図。
【図5】従来のリーダライタ送信部の回路構成ブロック図。
【図6】増幅器制御信号を使用した従来の周波数ホッピング制御を説明するための信号波形の模式図。
【図7】ASK変調の説明図。
【図8】搬送波の波形を模式的に表した図。
【符号の説明】
【0030】
1a 周波数設定信号
1b 周波数切替信号
2 送信信号
3 増幅器制御信号
4 搬送波発生器
4a 搬送波
5 ASK変調器
5a 変調波
6 電力増幅器
6a 送信波
7 空中線
8 変調波整形器
12 通信信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号をASK変調および周波数ホッピング方式で送信する非接触ICタグ用リーダライタであって、搬送波周波数の周波数切り替えタイミングを含む所定時間にわたって、前記送信信号をOFF変調するOFF変調手段を有することを特徴とする非接触ICタグ用リーダライタ。
【請求項2】
送信信号をASK変調および周波数ホッピング方式で送信し、前記ASK変調として、OFF変調手段を利用する非接触ICタグ用リーダライタであって、前記送信信号中に含まれるデータ通信中のOFF変調となるタイミングで、搬送波周波数を切り替える周波数切替手段を有することを特徴とする非接触ICタグ用リーダ・ライタ。
【請求項3】
送信信号をASK変調および周波数ホッピング方式で送信する非接触ICタグ用リーダライタの信号送信方法であって、搬送波周波数の周波数切り替えタイミングを含む所定時間にわたって、前記送信信号をOFF変調することを特徴とする非接触ICタグ用リーダライタの信号送信方法。
【請求項4】
送信信号をASK変調および周波数ホッピング方式で送信し、前記ASK変調として、OFF変調手段を利用する非接触ICタグ用リーダライタの信号送信方法であって、前記送信信号中に含まれるデータ通信中のOFF変調となるタイミングで、搬送波周波数を切り替えることを特徴とする非接触ICタグ用リーダライタの信号送信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−236617(P2008−236617A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−76531(P2007−76531)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】