説明

非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜の成膜方法及びその成膜装置

【課題】非晶質炭素とシリコン酸化物の特性を兼ね備えた非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜を均一且つ迅速に成膜可能な成膜方法を提供する。
【解決手段】対向配置された保持電極1と印加電極2を有する電極体10との間に原料ガスを含む混合ガスG0を供給し、大気圧雰囲気下において、必要に応じて電極体10と保持電極1との間に直流バイアス電圧を発生させながら、印加電極2に交流電圧を印加する。これにより、保持電極1に保持された被成膜体Wと電極体10との間でグロー放電プラズマを発生させ、被成膜体Wに非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜を成膜する。原料ガスは、炭化水素系ガスと有機シラン系ガスと酸素源ガスとを含む。原料ガス中、有機シラン系ガス:酸素源ガス=99.9:0.1〜0.1:99.9であり、且つ、炭化水素系ガス:有機シラン系ガス+酸素源ガス=1:99〜99:1の混合比で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気圧放電プラズマを用いた非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜の成膜方法と、その成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非晶質炭素膜は、高硬度、低摩耗、低摩擦、表面平滑性に優れるという特徴を有し、一般的に摺動膜や保護膜として金型、工具、摺動部材などの表面に成膜される。非晶質炭素は、ダイヤモンドと同じ結合状態の炭素原子を比較的多く含み、一般的にダイヤモンドライクカーボン(DLC)と呼ばれる。当該非晶質炭素からなる膜は、プラズマ化学蒸着法(プラズマCVD)やスパッタリングによって成膜されることが多い。しかし、従来のプラズマCVDやスパッタリングを用いた成膜方法では、基本的に低圧雰囲気下でプラズマを発生させるため、成膜速度が遅いという課題がある。
【0003】
そこで、成膜速度を向上させるためには大気圧雰囲気下での処理が考えられる。しかし、単に大気圧雰囲気下において原料ガスを放電空間に導入しても、低圧雰囲気下に比べてガス拡散性が劣るため、原料ガスの偏りが生じやすい。これでは、均一な非晶質炭素膜を得られ難い。また、従来のプラズマCVDやスパッタリングでは、広範囲に亘って均質なプラズマも得られ難い。したがって、均質な膜を形成できる領域が限られ、成膜の大面積化も困難であった。さらに、従来のプラズマCVDやスパッタリングは、真空容器を用いたバッチ式であるため、生産性に難点があるなどの問題もあった。
【0004】
このような事情に鑑みて、大気圧雰囲気下での均質な放電プラズマによって迅速に非晶質炭素膜を成膜可能な技術として、本出願人が先に提案した下記特許文献1,2がある。特許文献1,2では、大気圧雰囲気下において、印加電極を有する電極体を保持電極に対向させ、該電極体と保持電極との間に炭化水素系ガスを含む原料ガスを供給し、電極体と保持電極との間に直流バイアス電圧を発生させながら印加電極に交流電圧を印加して、電極体と被成膜体(基材)との間でグロー放電プラズマを発生させることで、被成膜体表面に非晶質炭素膜を成膜している。そして、直流バイアス電圧、交流電圧の周波数、電圧、放電ギャップ距離、不活性ガス/炭化水素系ガスの混合比などを所定の条件で行うことで、高硬度で均質な非晶質炭素膜を迅速に成膜している。
【0005】
また、特許文献1,2では、被成膜体を保持する保持電極と、該保持電極に対して対向位置された複数の印加電極を有する電極体と、保持電極と電極体との間に直流バイアス電圧を発生させる直流バイアス電圧印加手段と、大気圧雰囲気下で印加電極に交流電圧を印加して、保持電極と電極体の間の高周波電界においてグロー放電プラズマを発生させる電圧印加手段と、保持電極と電極体の間に、炭化水素系ガスを供給する原料ガス供給手段と、保持電極と電極体とを相対移動させる移動手段と、保持電極の背面に配された被成膜体を加熱する加熱手段とを有し、一つの印加電極と隣り合う他の一つの該印加電極との間に、原料ガスを供給する原料ガス供給口が設けられた成膜装置を使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−291328号公報
【特許文献2】特開2010−126734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、保護膜という意味においては、シリコン酸化物膜も従来から知られている。シリコン酸化物膜は、高硬度、平滑性、絶縁性に優れるという特徴を有し、絶縁膜として用いられることもある。当該シリコン酸化物膜も、有機シラン系ガスを原料として低圧雰囲気下におけるプラズマCVDによって成膜されることが多い。この場合、上記非晶質炭素膜の場合と同様に成膜速度に課題がある。そこで、上記特許文献1,2の成膜技術によってシリコン酸化膜を成膜することが考えられる。しかし、有機シラン系ガスを原料として大気圧放電プラズマ技術によりシリコン酸化物膜を成膜しようとすると、原料ガスの分解エネルギーが小さいためシラノール結合が充分に形成されない。これでは、得られるシリコン酸化物膜の硬度が低下してしまうという課題が生じる。
【0008】
一方、非晶質炭素膜は、その優れた硬度により残留応力が高い。そのため、膜厚を大きくとするとクラックが生じやすくなるため、厚膜を形成し難いという課題があった。また被成膜体の種類によっては、非晶質炭素膜はシリコン酸化物膜に比して接着性が劣るという課題もある。
【0009】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、非晶質炭素とシリコン酸化物の特性を兼ね備えた非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜の成膜方法と、該非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜を均一且つ迅速に成膜可能な成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そのための手段として、本発明は非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜を得るものである。具体的には、互いに対向配置された保持電極と、印加電極を有する電極体との間に原料ガスを供給し、大気圧雰囲気下において、前記印加電極に交流電圧を印加して前記保持電極に保持された被成膜体と前記電極体との間でグロー放電プラズマを発生させることで、前記被成膜体の表面に膜を成膜する成膜方法であって、前記原料ガスが、炭化水素系ガスと有機シラン系ガスと酸素源ガスとを含む。そのうえで、該原料ガス中、前記有機シラン系ガス:前記酸素源ガスが99.9:0.1〜0.1:99.9であり、且つ、前記炭化水素系ガス:前記有機シラン系ガス+前記酸素源ガスが1:99〜99:1の混合比で構成されていることを特徴とする。なお、本発明において大気圧雰囲気とは、成膜を大気圧開放下で行った際の圧力を指し、ガスの給排気による圧力変動の範囲を含む。
【0011】
これによれば、従来のシリコン酸化物膜に比べると、非晶質炭素が混合されていことで、大気圧放電プラズマによっても優れた硬度を有する膜を成膜することができる。一方、従来の非晶質炭素膜に比べると、シリコン酸化物も混合されていることで膜中の残留応力が低下する。これにより、従来よりも膜厚を大きくしてもクラックの発生を抑制することができる。また、被成膜体(基材)との密着性も向上する。
【0012】
前記保持電極と電極体との間には、必要に応じて前記原料ガスと共に不活性ガスも供給される。この場合、前記原料ガス:前記不活性ガスの混合比は、100:0〜0.01:99.99とすればよい。
【0013】
成膜条件としては、前記交流電圧の周波数を0.1kHz以上、前記交流電圧を1〜50kV、前記電極体と保持電極との間の放電ギャップ距離を0.1mm〜5mmとすることが好適である。また、ガス流速は1〜3,000mm/secとすることが好適である。さらに、成膜中、前記電極体と印加電極との間に0〜10,000Vの直流バイアス電圧を発生させることも好ましい。このような条件で成膜することで、均一な非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜を得ることができる。
【0014】
なお、非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜の成膜中は、前記被成膜体を50〜300℃に加熱することが好ましい。これによれば、被成膜体表面での成膜反応を促進させることができる。
【0015】
また、本発明によれば、上記の成膜方法によって成膜された非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜、及び当該非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜を表面に備える成膜体を提供することもできる。
【0016】
また、被成膜体を保持する保持電極と、該保持電極に対して対向位置された電極体と、大気圧雰囲気下で前記印加電極に交流電圧を印加して、前記保持電極と電極体の間の高周波電界においてグロー放電プラズマを発生させる電圧印加手段と、前記保持電極と電極体の間に原料ガスを供給する原料ガス供給手段とを有し、前記原料ガス供給手段が、炭化水素系ガス供給手段と、有機シラン系ガス供給手段と、酸素源ガス供給手段とを含む、非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜の成膜装置を提供することもできる。これによれば、保持電極に直流バイアス電圧をかけながら成膜することで、大気圧雰囲気下においても的確に非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜を成膜することができる。
【0017】
当該非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜の成膜装置は、前記電極体と印加電極との間に直流バイアス電圧を発生させる直流バイアス電圧印加手段も有することが好ましい。さらに、前記保持電極と前記電極体とを相対移動させる移動手段とを有し、前記電極体は複数の印加電極を有し、一つの印加電極と隣り合う他の一つの該印加電極との間に、前記原料ガスを供給する原料ガス供給口を設けることが好ましい。これによれば、保持電極と電極体とを相対移動させながら、隣り合う印加電極との間に設けられた原料ガス供給口から原料ガスを供給しているので、低圧雰囲気下の場合よりもガス拡散性に劣る大気圧雰囲気下においても、原料ガスの偏りを抑制しながら迅速に均一な非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜を得ることができる。
【0018】
また、前記保持電極の背面には、前記被成膜体を加熱する加熱手段を設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、非晶質炭素とシリコン酸化物の特性を兼ね備え、従来の非晶質炭素膜やシリコン酸化物膜の欠点が補われた非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜を、均一且つ迅速に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態1の成膜装置の模式図である。
【図2】実施形態2の成膜装置の要部側断面図である。
【図3】図2のX−X断面図である。
【図4】実施形態3の成膜装置の要部側断面図である。
【図5】実施形態3の成膜装置の要部平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(実施形態1)
先ず、成膜装置について説明する。本実施形態1の成膜装置100は、図1に示すように、被成膜体(基材)Wを保持する保持電極1と、該保持電極1に対して対向位置された電極体10を構成する印加電極2と、保持電極1と電極体10との間に直流バイアス電圧を発生させる直流バイアス電圧印加手段20と、印加電極2に交流電圧を印加して、保持電極1と電極体10との間の高周波電界(放電空間)においてグロー放電プラズマを発生させる電圧印加手段30と、保持電極1と電極体10の間に原料ガスを供給する原料ガス供給手段40とを有する。
【0022】
保持電極1は平板形状であり、その表面(印加電極2との対向面)側の平面方向中央部には、板状の被成膜体Wを収容可能な凹部1aが凹み形成されている。被成膜体Wは凹部1aに収容保持され、被成膜体Wの表面(成膜面)と保持電極1の表面とは略面一となっている。これにより、放電空間内に安定なガス流を作ることができ、不要な放電の発生を抑制できる。一方、保持電極1の裏面には、被成膜体Wを加熱する加熱装置3が配設されている。加熱装置3は、板状のヒーターと熱電対とによって構成されている。
【0023】
保持電極1は導電体であれば特に限定されず、例えばアルミニウム、銅、真鍮等の金属製や、カーボン製などとすることができる。被成膜体Wは、最終的に表面に非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜を備える成膜体の基材となるものである。被成膜体Wとしては特に制限は無く、例えば鉄鋼、非鉄金属、各種合金等の金属材や、高分子材などを使用できる。高分子材としては、加熱される温度に対し、熱変形しない材料を使用することが好ましい。
【0024】
印加電極2の形状は成膜方法に応じた長さがあれば特に限定されないが、本実施形態1の成膜装置100では、保持電極1と略同じ面積を有する1つの平板形状の印加電極2が、所定の放電ギャップ距離を介して保持電極1と平行に対向配置されている。印加電極2は、その表面(保持電極1との対向面)が誘電体4で被覆された状態で電極体10を構成している。印加電極2が誘電体4で被覆されていることで、電圧印加時に絶縁破壊を起こしてアーク放電を発生するのを抑制できる。誘電体4は、別途形成した誘電体を印加電極2に接合してもよいし、印加電極2へ溶射等によって誘電体層を形成することもできる。誘電体4は、誘電率が3以上あるものが好ましい。このような誘電体としては、例えばガラスや、二酸化珪素、酸化アルミニウム、二酸化ジルコニウム、二酸化チタンなどの金属酸化物、チタン酸バリウム等の複酸化物などが挙げられる。中でも、誘電体4として誘電率が高い酸化アルミニウムや二酸化ジルコニウムを用いることで、効率的に電極間へエネルギーを注入することができる。
【0025】
印加電極2(電極体10)には、直流バイアス電圧印加手段20が電気的に配線されていることで、印加電極2に正の直流バイアス電圧が印加される。当該直流バイアス電圧印加手段20は、印加電極2に直流電圧を印加する公知の直流電源21と、コンデンサ22と、コイル23とによって構成されている。コンデンサ22及びコイル23は、後述の交流電源31からの高周波成分を直流バイアス電圧印加手段20側へ流入させないために配設される。コンデンサ22は、使用する直流電源21の電圧に耐え得るものであればよい。コイル23も、交流電源31の周波数に対応する仕様であればよい。なお、本実施形態1では印加電極2に正の直流バイアス電圧を印加する回路構成となっているが、保持電極1に直接負の直流バイアス電圧を印加する回路構成とすることもできる。
【0026】
一方、保持電極1と印加電極2とには、電圧印加手段30が電気的に配線されている。当該電圧印加手段30は、保持電極1及び印加電極2に交流電圧を印加する交流電源31と、当該交流電源31に対応するコンデンサ32とによって構成されている。交流電源31としては、例えば高圧パルス電源やRF電源などを使用できる。コンデンサ32は、直流電源21からの直流成分を電圧印加手段30側へ流入させないために配設される。コンデンサ32は、使用する交流電源31の電圧に耐え得るものであればよい。また、保持電極1は接地されている。これにより、保持電極1側に相対的に正イオンが引きつけられやすい状態となる。
【0027】
原料ガス供給手段40としては、炭化水素系ガスボンベ41と、有機シラン系ガス源ボンベ42と、酸素源ガスボンベ43とを有する。また、成膜装置100には、原料ガス供給手段40と共に、不活性ガス供給手段として不活性ガスボンベ44も設けられている。炭化水素系ガスボンベ41、有機シラン系ガス源ボンベ42、酸素源ガスボンベ43、及び不活性ガスボンベ44にはそれぞれ配管45が連結されており、各ボンベ41・42・43・44から供給される各ガスは、最終的に1つの原料ガス供給口としてのガス供給口46から保持電極1と印加電極2との間の放電空間へ混合ガスG0として供給される。なお、ガス供給口46には、層流状態となるように整流した混合ガスG0をライン状に均一に流すためのガス供給ノズルを設けておくことが好ましい。
【0028】
一方、放電空間を挟んでガス供給口46の反対側には、排気ガスG1を成膜装置100外へ排気する排気口47が設けられている。図示していないが、排気口47には、排気ガスG1を積極的に排気する排気ポンプが連結されている。これにより、印加電極2と保持電極1との間は常に新しい混合ガスが一定方向に流れるようになっている。
【0029】
炭化水素系ガスボンベ41、有機シラン系ガス源ボンベ42、酸素源ガスボンベ43、及び不活性ガスボンベ44に連結された各配管45上には、それぞれ各ガスの流量を別個調製するバルブ48が設けられている。また、図示していないが、有機シラン系ガス源ボンベ42に連結された配管上には、液状の有機ケイ素化合物を気化する気化手段が設けられている。なお、炭化水素系ガスボンベ41が本発明の炭化水素系ガス供給手段に相当し、有機シラン系ガス源ボンベ42が本発明の有機シラン系ガス供給手段に相当し、酸素源ガスボンベ43が本発明の酸素源ガス供給手段に相当する。
【0030】
炭化水素系ガスとしては、例えばメタン、エタン、プロパン等の飽和炭化水素のほか、エチレン、アセチレン等の不飽和炭化水素、及びベンゼン等の芳香族炭化水素などが挙げられる。中でも、反応性が高いアセチレンを用いることが好ましい。有機シラン系ガスとしては、例えば珪酸エチル(TEOS)、トリメチルシラン(TMS)、テトラメチルシクロテトラシロキサン(TMCTS)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、トリエトキシシラン(SiH(OC253)、又はトリスジメチルアミノシラン(SiH(N(CH323)などの有機ケイ素化合物を気化したガスが挙げられる。酸素源ガスとしては、例えば酸素単体、空気、N2Oなどが挙げられる。不活性ガスは、必要に応じて希釈ガスとして使用されるものであって、例えばヘリウム、アルゴン、窒素が挙げられる。窒素ガスを用いるとより低コストになり好ましい。また低いエネルギーで高硬度な成膜を行うためにはヘリウムを用いることが好ましい。
【0031】
次に成膜方法について説明する。被成膜体Wの表面へ膜を成膜するには、互いに対向配置された保持電極1と電極体10との間に、少なくとも炭化水素系ガス、有機シラン系ガス、及び酸素源ガスを含む原料ガスを供給し、必要に応じて電極体10と保持電極1との間に直流バイアス電圧を発生させながら、印加電極2に交流電圧を印加して、保持電極1に保持された被成膜体Wと電極体10との間でグロー放電プラズマを発生させることで、被成膜体Wの表面に非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜を成膜することができる。このとき、大気圧雰囲気下において成膜が行われる。大気圧雰囲気下とは、成膜を大気圧開放環境下で行うことを意味し、具体的には0.5気圧(約50kPa)〜2気圧(約203kPa)程度の範囲で変動し得る。すなわち、本発明では、大気圧プラズマCVD法によって非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜を成膜している。
【0032】
先ず、保持電極1の凹部1aに被成膜体Wをセットする。次いで、炭化水素系ガスボンベ41、有機シラン系ガス源ボンベ42、酸素源ガスボンベ43、及び必要に応じて不活性ガスボンベ44を開き、原料ガスを含む混合ガスG0を、配管45を通してガス供給口46から保持電極1と印加電極2との間の放電空間へ供給する。このときの原料ガスの混合比としては、流量比(体積比)基準で、有機シラン系ガス:酸素源ガス=99.9:0.1〜0.1:99.9とし、且つ、炭化水素系ガス:有機シラン系ガス+酸素源ガス=1:99〜99:1とすればよい。また、混合ガスG0中には、流量比(体積比)基準で、原料ガス:不活性ガス=100:0〜0.01:99.99の範囲で不活性ガスを混合することができる。不活性ガスも存在すると、放電が安定すると共に原料ガスの適切な分解によって平滑表面、緻密膜形成など良質な膜特性が得られる。炭化水素系ガスや有機シラン系ガスは不活性ガスと比べてイオン化され難いので、原料ガスに対する不活性ガスの混合比は、できるだけ高いことが好ましい。したがって、原料ガス:不活性ガスの混合比は、20:80〜0.1:99.9が好ましい。各種ガスの混合比は、それぞれに対応するバルブ48の開度を調節することで調整できる。また、膜の高機能化を目的に、上記原料ガス以外の金属成分等を含むガスを混合することもできる。混合ガスの混合比は、成膜中一定比率でもよいし、適宜変動させることもできる。成膜中に混合比を変動させた場合に、膜厚方向に物性の異なる機能性膜が形成される。
【0033】
混合ガスG0の流速は、1〜3,000mm/sec、好ましくは200〜2000mm/secとする。ガス流速が1mm/secより遅いと、均一なガス流れを作り難く、局所的な放電が発生しやすい。また、ドロップレット等の異物が発生し易く、膜質を低下させる。一方、ガス流速が3,000mm/secより速いと、原料ガス成分は蒸着される前に排気されてしまい、反って成膜速度が遅くなる。また、排気ガスG1の排気流速は、混合ガスG0の流速と同等以上とすることが好ましい。混合ガスG0と同等以上で排気することで、混合ガスG0が均一に対流し、原料ガスが均等に拡散される。排気ガスG1の排気流速は、排気ポンプの出力によって調整できる。
【0034】
印加電極2には交流電源31によって電圧が印加されると共に、直流電源21によって電極体10と保持電極1との間に直流バイアス電圧が発生し、グロー放電が生じる。すると、放電空間に供給された原料ガスが活性化し、マイナス電位側の電極に薄膜が堆積する。このとき、保持電極1に直流バイアス電圧が印加されていることで、保持電極1に保持された被成膜体Wが負の極性を持つ。これにより、被成膜体Wの表面に非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜が形成される。
【0035】
電極体10と保持電極1との放電ギャップ距離は、0.1〜5mmが好ましく、0.3〜2mmがより好ましい。この範囲で成膜工程を行うと、安定なガス流の保持とギャップ空間内の均一な放電が得られやすい。放電ギャップ距離が0.1mmより小さいと、部分的な異常放電が発生し易い。一方、放電ギャップ距離が5mmより大きいと、原料ガスをイオン化するのに高電力が必要になる。
【0036】
直流バイアス電圧は必ずしも印加する必要は無いが、直流バイアス電圧を印加する場合は、少なくともDC10,000V以下とする。直流バイアス電圧がDC10000Vより大きいと、絶縁破壊が起こり易くなるからである。直流バイアス電圧も印加することで、成膜性がより向上する。直流バイアス電圧印加する場合は、DC200〜10,000Vが好ましく、DC1,000V〜7,000Vがより好ましい。
【0037】
交流電圧は、1〜50kVが好ましく、5〜20kVがより好ましい。交流電圧が1kVより小さいと、原料ガスのイオン化が進み難い。一方、交流電圧が50kVより大きいと、アーク放電を起こし易い。また、交流電圧の周波数は0.1kHz以上あればよい。
【0038】
なお、成膜中は被成膜体Wの温度を必ずしも制御する必要はないが、加熱装置3によって被成膜体Wを加熱することが好ましい。これにより、被成膜体W表面での成膜反応が促進され、処理時間を短縮できる。被成膜体Wを加熱する場合の温度としては、50〜300℃が好ましく、150〜250℃がより好ましい。50℃未満では加熱による反応促進効果が低く、300℃を超えると、非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜が分解されやすくなり膜の硬度が低下する。また、被成膜体Wの耐熱性に応じて温度制御してもよい。
【0039】
非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜の膜厚は、プラズマ処理を行う時間によって調整できる。得られた非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜は硬度、平滑性、摩耗性、絶縁性に優れ、保護膜、摺動膜、絶縁膜等として利用でき、このような非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜を表面に備える成膜体を得ることができる。
【0040】
(実施形態2)
図2、図3に、本発明に係る成膜装置の実施形態2の要部断面を示す。本実施形態2の成膜装置200も、上記実施形態1の成膜装置100と基本的構成は同じであり、保持電極1、印加電極2を含む電極体、保持電極1と電極体との間に直流バイアス電圧を発生させる直流バイアス電圧印加手段、大気圧雰囲気下で印加電極2に交流電圧を印加して、放電空間にグロー放電プラズマを発生させる電圧印加手段、原料ガス供給手段などを有する。したがって、以下には実施形態1と異なる点を中心に説明する。
【0041】
図2,図3に示すように、保持電極1及び印加電極2は、それぞれ耐熱構造材12によって挟持されている。これにより、保持電極1や印加電極2を安定して固定できる。耐熱構造材12としては、絶縁性と300℃以上の耐熱性を有し、寸法変化の少ないセラミックスが好適に用いられる。保持電極1側の耐熱構造材12は、保持電極1や被成膜体Wと略面一となっている。一方、印加電極2側の耐熱構造材12は、印加電極2と略面一となっており、耐熱構造材12の保持電極1との対向面も誘電体4によって被覆されている。
【0042】
加熱装置3及び印加電極2の裏面には、冷却装置11が配設されている。冷却装置11により、成膜処理後に被成膜体Wを冷却したり、成膜中の印加電極2の温度を安定させることができる。冷却装置11としては、例えば水冷構造の治具を好適に使用できる。
【0043】
また、耐熱構造材12の両側縁には、スペーサー17が挟持されている。このスペーサー17の厚みによって電極間の放電ギャップ距離を設定できる。スペーサー17には、絶縁性と300℃以上の耐熱性を有するセラミックスが好適に用いられる。成膜方法や電気回路を含めてその他は実施形態1と同様なので、要部以外の図示を省略すると共に、同じ部材に同じ符合を付してその説明も省略する。
【0044】
(実施形態3)
図4,図5に、本発明に係る成膜装置の実施形態3の要部断面を示す。本実施形態3の成膜装置300も、上記実施形態1の成膜装置100と基本的構成は同じであり、保持電極1、印加電極2を含む電極体10、保持電極1と電極体10との間に直流バイアス電圧を発生させる直流バイアス電圧印加手段、大気圧雰囲気下で印加電極2に交流電圧を印加して、放電空間にグロー放電プラズマを発生させる電圧印加手段、原料ガス供給手段などを有する。したがって、以下には実施形態1と異なる点を中心に説明する。
【0045】
図4,図5に示すように、本実施形態3の成膜装置300では、保持電極1に複数の凹部1aが並設されており、複数の被成膜体Wを保持可能となっている。また、保持電極1は、図外の移動手段によって矢印Cの方向に平行移動可能となっている。そして、当該保持電極1の移動を円滑に行うために、保持電極1の背面には耐熱性の潤滑剤15が配設される。潤滑剤15としては、例えばフィルム、シート、液体及び粉体が好適に用いられる。
【0046】
そのうえで、被成膜体Wを加熱する加熱装置3が、潤滑剤15を介して保持電極1の裏面に配設されている。また、保持電極1の移動方向基準で加熱装置3の下流に、成膜処理後に被成膜体Wを冷却する冷却装置11が、耐熱構造材12を介して配置されている。
【0047】
電極体10としては、誘電体4によってその表面(保持電極1との対向面)が被覆された複数の印加電極2を有する。そのうえで、ガス供給口46が、一つの印加電極2と隣り合う他の一つの印加電極2との間に設けられており、当該ガス供給口46の印加電極2を挟んだ少なくとも両側に、排気口47が設けられている。ここでのガス供給口46及び排気口47は、スリット形状となっている。そのスリットの幅は、放電ギャップ距離の1〜2倍程度が望ましい。スリット長さは、非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜を成膜する被成膜体Wの表面を被覆出来る程度の長さであればよい。
【0048】
炭化水素系ガスボンベ、有機シラン系ガス源ボンベ、酸素源ガスボンベ、不活性ガスボンベなどから供給された、少なくとも炭化水素系ガスと有機シラン系ガスと酸素源ガスからなる原料ガスを含む混合ガスは、図4の細矢印で示すように、ガス供給口46から放電空間へ供給され、両側の排気口47・47から吸い上げ排気される。このため、印加電極2と保持電極1との間は常に新しいガスが一定方向に流れるようになっている。また、より狭い範囲に均一なライン状のガス流を形成することが出来る。また、大気圧雰囲気下では難しいガスの対流が起こりやすくなることで原料ガスが均等に拡散され、均一な非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜を成膜することができる。図5に示すように、保持電極1には移動方向ではない相対する両側縁部に、スペーサー17が配設されている。
【0049】
非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜を成膜する際は、移動手段によって保持電極1を矢印Cの方向に移動させながらプラズマ放電を行う。これにより、複数の被成膜体Wの表面に、順次非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜を成膜することができる。非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜の膜厚は、保持電極1の移動速度によって調整することができる。
【0050】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、これに限られることは無く、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態1〜3では、被成膜体Wを保持するために保持電極1に凹部1aを形成したが、例えば複数の分割された保持電極1に被成膜体Wを挟持したり、保持電極1に貫通孔を形成して、当該貫通孔に被成膜体を挿通保持することもできる。また、印加電極2を含む電極体10と保持電極1とは、上下を逆に設置することもできる。
【0051】
保持電極1の形状は、被成膜体Wの表面が曲面形状の場合は、それが略同一面状になるような曲面形状となってもよい。この場合でも、印加電極2と保持電極1との間には平行平坦部が形成される形状が好ましい。
【0052】
また、上記実施形態3では保持電極1をスライド移動させたが、印加電極2側をスライド移動させてもよい。また、例えば被成膜体Wがリング状の場合、保持電極1と印加電極2とを、周回転方向へ相対的にスライド移動させればよい。
【0053】
上記実施形態1〜3において、保持電極1(電極体10)と印加電極2との間に直流バイアス電圧を発生させる直流バイアス電圧印加手段を廃すこともできる。
【実施例】
【0054】
実施形態1の成膜装置を用いて、実施例及び比較例を作成した。具体的には、縦30mm、横30mm、厚み3mmのハイス鋼(SKH51)製平板を被成膜体として用いた。保持電極には、縦70mm、横70mm、厚み5mmの銅製の平板を用い、凹部に被成膜体を収容保持した。加熱装置には、坂口電熱社製の高温面状発熱体「スーパーラピッド」と、シース熱電対を用いた。印加電極にはm縦70mm、横70mm、厚み5mmの平板を用い、印加電極の表面には、誘電体として厚み1mmのアルミナ製平板を配設した。直流電源には、グラスマンジャパンハイボルテージ社製の直流高圧電源を用いた。そのうえで、成膜は次の条件で行った。
【0055】
実施例1、比較例1:被成膜体の加熱温度200℃、放電ギャップ距離0.5mm、交流電圧20kV、交流電源周波数10kHz、直流バイアス電圧4000V、ガス流速1200mm/sec、電圧印加時間3minの条件で、大気圧開放環境下(約101kPa)の環境下で成膜を行った。
比較例2:被成膜体の温度を30℃で行った以外は、実施例1と同じ条件で成膜を行った。
【0056】
また、炭化水素系ガスとしてアセチレンを、有機シラン系ガス源としてトリメチルシランを、酸素源ガスとして酸素単体を、不活性ガスとしてヘリウムをそれぞれ使用し、これらの混合比は次の比率で一定とした。
実施例1、比較例2用の混合ガス;アセチレンガス:トリメチルシランガス:酸素ガス:ヘリウムガス=1:0.1:0.1:98.8
比較例1用の混合ガス;トリメチルシランガス:酸素ガス:ヘリウムガス=0.1:0.1:99.8
【0057】
上記の条件で得られた実施例及び比較例の成膜体に対して、その膜硬度をナノインデンテーション法により測定した。ナノインデンターには、原子間力顕微鏡(SHIMADZU社製SPM9500J2 )に取り付けたHYSITORON社製Toribo Scopeを用いた。なお、ナノインデンテーション法によれば、基材の影響を受けずに、薄膜そのものの硬度を測定することができる。
【0058】
膜硬度を測定した結果、実施例1の膜硬度は2GPaであることに対し、比較例1の膜硬度は0.8GPaであり、比較例2の膜硬度は0.2であった。これにより、大気圧プラズマCVDによっても、シリコン酸化物と非晶質炭素の混合膜であれば、シリコン酸化物膜よりも硬度の高い膜を得られることが確認された。また、被成膜体を加熱することが好ましいことがわかった。
【符号の説明】
【0059】
1 保持電極
1a 凹部
2 印加電極
3 加熱装置
4 誘電体
10 電極体
11 冷却装置
12 耐熱構造材
15 潤滑剤
17 スペーサー
20 直流バイアス電圧印加手段
21 直流電源
30 電圧印加手段
31 交流電源
40 原料ガス供給手段
46 ガス供給口
47 排気口
100・200・300 成膜装置
W 被成膜体



【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向配置された保持電極と印加電極を有する電極体との間に原料ガスを供給し、大気圧雰囲気下において、前記印加電極に交流電圧を印加して、前記保持電極に保持された被成膜体と前記電極体との間でグロー放電プラズマを発生させることで、前記被成膜体の表面に膜を成膜する成膜方法であって、
前記原料ガスが、炭化水素系ガスと有機シラン系ガスと酸素源ガスとを含み、
該原料ガス中、前記有機シラン系ガス:前記酸素源ガスが99.9:0.1〜0.1:99.9であり、且つ、前記炭化水素系ガス:前記有機シラン系ガス+前記酸素源ガスが1:99〜99:1の混合比で構成されていることを特徴とする、非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜の成膜方法。
【請求項2】
前記保持電極と電極体との間には、前記原料ガスと共に不活性ガスも供給され、
前記原料ガス:前記不活性ガスの混合比が100:0〜0.01:99.99である、請求項1に記載の非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜の成膜方法。
【請求項3】
前記交流電圧が周波数0.1kHz以上であり、
前記交流電圧が1〜50kVであり、
前記電極体と保持電極との間の放電ギャップ距離が0.1〜5mmである、請求項1または請求項2に記載の非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜の成膜方法。
【請求項4】
ガス流速が1〜3,000mm/secである、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜の成膜方法。
【請求項5】
成膜中、前記電極体と印加電極との間に0〜10,000Vの直流バイアス電圧を発生させる、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜の成膜方法。
【請求項6】
前記被成膜体を50〜300℃に加熱しながら成膜する、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜の成膜方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜の成膜方法によって成膜された、非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜。
【請求項8】
請求項7に記載の非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜を表面に備える、成膜体。
【請求項9】
被成膜体を保持する保持電極と、
該保持電極に対して対向位置された印加電極を有する電極体と、
大気圧雰囲気下で前記印加電極に交流電圧を印加して、前記保持電極と電極体の間の高周波電界においてグロー放電プラズマを発生させる電圧印加手段と、
前記保持電極と電極体の間に原料ガスを供給する原料ガス供給手段とを有し、
前記原料ガス供給手段が、炭化水素系ガス供給手段と、有機シラン系ガス供給手段と、酸素源ガス供給手段とを含む、非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜の成膜装置。
【請求項10】
前記電極体と印加電極との間に直流バイアス電圧を発生させる直流バイアス電圧印加手段を有する、請求項10に記載の成膜装置。
【請求項11】
前記保持電極と前記電極体とを相対移動させる移動手段とを有し、
前記電極体は複数の印加電極を有し、
一つの印加電極と隣り合う他の一つの印加電極との間に、前記原料ガスを供給する原料ガス供給口が設けられている、請求項9または請求項10に記載の非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜の成膜装置。
【請求項12】
前記保持電極の背面に前記被成膜体を加熱する加熱手段を有する、請求項9ないし請求項11のいずれかに記載の非晶質炭素・シリコン酸化物混合膜の成膜装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−172201(P2012−172201A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35580(P2011−35580)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】