説明

非水系電解液二次電池用セパレータ及びそれを用いた非水系電解液二次電池

【課題】突き刺し強度などの機械的物性に優れ、両極間の短絡の問題のない非水系電解液二次電池用セパレータと、この非水系電解液二次電池用セパレータを用いた、安全性に優れた非水系電解液二次電池を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂と充填剤とを含む熱可塑性樹脂組成物からなり、厚み25μm当たりの突き刺し強度が2.5N以上である非水系電解液二次電池用セパレータ。熱可塑性樹脂と充填剤とを含む熱可塑性樹脂組成物からなる非水系電解液二次電池用セパレータであって、該熱可塑性樹脂の融点以上の温度で少なくとも1回の延伸処理が施された後、該融点以上での延伸処理と同方向に融点未満の温度で少なくとも1回の延伸処理が施されたものである非水系電解液二次電池用セパレータ。この非水系電解液二次電池用セパレータを備える非水系電解液二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解液二次電池用セパレータ及びそれを用いた非水系電解液二次電池に関し、詳しくは、突き刺し強度に優れた非水系二次電池用セパレータ、及び該セパレータと、リチウムを吸蔵・放出することが可能な負極及び正極と、非水系溶媒及びリチウム塩を有する非水系電解液とを備えてなる非水系電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電気製品の軽量化、小型化に伴ない高いエネルギー密度を持ち、且つ軽量な非水系電解液二次電池であるリチウム二次電池が広い分野で使用されている。
【0003】
リチウム二次電池は、通常、コバルト酸リチウムに代表されるリチウム化合物などの正極活物質を含有する活物質層を集電体上に形成させた正極と、黒鉛などに代表されるリチウムの吸蔵・放出が可能な炭素材料などの負極活物質を含有する活物質層を集電体上に形成させた負極と、LiPF等のリチウム塩等の電解質を通常非プロトン性の非水系溶媒に溶解した非水系電解液と、高分子多孔質膜からなるセパレータとから主として構成される。
【0004】
リチウム二次電池で使用されるセパレータには、両極間のイオン伝導を妨げないこと、電解液を保持できること、電解液に対して耐性を有すること、などの要件を満たすことが求められ、主としてポリエチレンやポリプロピレン等の熱可塑性樹脂からなる高分子多孔質膜が用いられている。
【0005】
ところで、リチウム二次電池は高いエネルギー密度を持つため、電極間の短絡等が生じた場合は一度に電流が流れて大きな発熱を生じ、電解液の分解・発火等を起こして非常に危険である。この両極間の短絡は、電極とセパレータの捲回時における巻き締まりや充放電時の電極の膨張・収縮による圧力、あるいは電池を落下させたときの衝撃などで、活物質がセパレータを突き破って生じることが多い。従って、このような異常事態を防止するため、セパレータには、更に高い突き刺し強度が求められている。
【0006】
従来、これらの高分子多孔質膜を製造する方法としては、例えば以下の手法が公知技術として知られている。
(1) 高分子材料に後工程で容易に抽出除去可能な可塑剤を加えて成形を行い、その後可塑剤を適当な溶媒で除去して多孔化する抽出法(特許文献1)。
(2) 結晶性高分子材料を成形した後、構造的に弱い非晶部分を選択的に延伸して微細孔を形成する延伸法(特許文献2)。
(3) 高分子材料に充填剤を加えて成形を行い、その後の延伸操作により高分子材料と充填剤との界面を剥離させて微細孔を形成する界面剥離法(特許文献3)。
【0007】
しかしながら(1)の抽出法は、大量の廃液を処理する必要があり、環境・経済性の両面において問題がある。また抽出工程で発生する膜の収縮のために均等な膜を得ることが難しく、歩留まりなど生産性においても問題がある。(2)の延伸法は、延伸前の結晶相・非晶相の構造制御により孔径分布を制御するために、長時間の熱処理が必要であり、生産性の面で問題がある。
【0008】
これに対して、(3)の界面剥離法は、廃液の発生などはなく、環境・経済性の両面において優れた方法である。また、高分子材料と充填剤との界面は延伸操作により容易に剥離することができるため、熱処理などの前処理を必要とせずに多孔質膜を得ることができ、生産性の面でも優れた手法である。
【0009】
しかしながら、界面剥離法は、高分子材料と充填剤との界面を延伸操作により容易に剥離することができる反面、一度開孔するとその後の延伸で開孔部が拡大しやすく、空孔率が過剰となって突き刺し強度などの機械的物性が低下する傾向があり、前述の捲回時の巻き締まりや充放電時の電極の膨張収縮、電池缶の落下等の際の安全性が充分に確保できているとは言い難かった。
【0010】
なお、熱可塑性樹脂に充填剤を含有したセパレータとしては、特許文献4及び5に公知技術が開示されている。しかしながら、特許文献4で開示されている実施例は何れも分子量100万を超える樹脂で成形性に難があるため、可塑剤として鉱物オイルを大量に添加して成形せざるを得ず、また開孔のため成形後に可塑剤を抽出除去することが必要で、前述の通り環境・経済性の両面において問題がある。特許文献5でもやはり基材樹脂の分子量が高いため、成形性確保のため、分子量20000以下の低分子量樹脂の添加が必須となっているが、これらの低分子量樹脂は融点が低いため、通常の電池の使用温度で溶融して孔の閉塞を生じてセパレータとして機能しなくなるという欠点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−029563号公報
【特許文献2】特開平7−304110号公報
【特許文献3】特開2002−201298号公報
【特許文献4】特開平11−260338号公報
【特許文献5】特開2002−69221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、突き刺し強度などの機械的物性に優れ、両極間の短絡の問題のない非水系電解液二次電池用セパレータと、この非水系電解液二次電池用セパレータを用いた、安全性に優れた非水系電解液二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは鋭意研究の結果、低分子量成分を必要とせずに熱成形が可能な通常の分子量の熱可塑性樹脂と充填剤からなる熱可塑性樹脂組成物に、特定の温度条件で延伸操作を施すことで得られるセパレータの突き刺し強度が著しく向上することを見出し、本発明を完成させた。
即ち本発明は以下を要旨とする。
【0014】
[1] 熱可塑性樹脂と充填剤とを含む熱可塑性樹脂組成物からなり、厚み25μm当たりの突き刺し強度が2.5N以上であることを特徴とする非水系電解液二次電池用セパレータ。
【0015】
[2] 熱可塑性樹脂が、JISK7210に基づくメルトフローレートが0.01乃至0.3g/10minのポリオレフィン樹脂であることを特徴とする[1]に記載の非水系電解液二次電池用セパレータ。
【0016】
[3] ポリオレフィン樹脂が、ポリエチレン及び/又はポリプロピレンであることを特徴とする[2]に記載の非水系電解液二次電池用セパレータ。
【0017】
[4] ポリオレフィン樹脂が、高密度ポリエチレンであることを特徴とする[2]又は[3]に記載の非水系電解液二次電池用セパレータ。
【0018】
[5] 充填剤が、無機物であることを特徴とする[1]乃至[4]のいずれかに記載の非水系電解液二次電池用セパレータ。
【0019】
[6] 熱可塑性樹脂組成物中の充填剤含量が、10乃至50体積%であることを特徴とする[1]乃至[5]のいずれかに記載の非水系電解液二次電池用セパレータ。
【0020】
[7] 充填剤が、硫酸塩であることを特徴とする[1]乃至[6]のいずれかに記載の非水系電解液二次電池用セパレータ。
【0021】
[8] 硫酸塩が、硫酸バリウムであることを特徴とする[7]に記載の非水系電解液二次電池用セパレータ。
【0022】
[9] 充填剤が、金属酸化物であることを特徴とする[1]乃至[6]のいずれかに記載の非水系電解液二次電池用セパレータ。
【0023】
[10] 金属酸化物が、アルミナであることを特徴とする[9]に記載の非水系電解液二次電池用セパレータ。
【0024】
[11] 熱可塑性樹脂と充填剤とを含む熱可塑性樹脂組成物からなる非水系電解液二次電池用セパレータであって、該セパレータは、該熱可塑性樹脂の融点以上の温度で少なくとも1回の延伸処理が施された後、該融点以上での延伸処理と同方向に該融点未満の温度で少なくとも1回の延伸処理が施されたものであることを特徴とする非水系電解液二次電池用セパレータ。
【0025】
[12] リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極と、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極と、非水系溶媒及びリチウム塩を含有する非水系電解液と、セパレータとを有する非水系電解液二次電池において、セパレータとして、[1]乃至[11]のいずれかに記載のセパレータを用いたことを特徴とする非水系電解液二次電池。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、電極とセパレータの捲回時における巻き締まりや充放電時の電極の膨張・収縮による圧力、あるいは電池を落下させたときの衝撃などで活物質がセパレータを突き破ることがなく、両極間の短絡を生じることのない、突き刺し強度等の機械的物性に優れた非水系電解液二次電池用セパレータと、このセパレータとリチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極及び負極と非水系溶媒及びリチウム塩を含有する非水系電解液とを備えてなる、安全性の高い非水系電解液二次電池が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0028】
[非水系電解液二次電池用セパレータ]
まず、本発明の非水系電解液二次電池用セパレータについて説明する。
本発明の非水系電解液二次電池用セパレータは、熱可塑性樹脂と充填剤とを含む熱可塑性樹脂組成物からなり、厚み25μm当たりの突き刺し強度が2.5N以上であることを特徴とする。
【0029】
{熱可塑性樹脂組成物}
<熱可塑性樹脂>
本発明のセパレータを構成する熱可塑性樹脂組成物の基材樹脂としての熱可塑性樹脂は、後述する充填剤が均等に分散されうるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、アセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂などが挙げられる。
【0030】
これらの中でも、耐熱性、耐溶剤性、可撓性のバランスに優れていることから、特に好ましいのはポリオレフィン樹脂である。
【0031】
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン又は1−デセン等のモノオレフィン重合体や、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン又は1−デセンと4−メチル−1−ペンテン又は酢酸ビニル等の他のモノマーとの共重合体等を主成分とするものが挙げられ、具体的には、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、結晶性エチレン−プロピレンブロック共重合体、ポリブテン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
【0032】
本発明においては、上記ポリオレフィン樹脂の中でも高密度ポリエチレン又はポリプロピレンを用いるのが好ましい。
【0033】
上記ポリオレフィン樹脂等の熱可塑性樹脂は1種を単独で用いても2種以上を混合して用いても良い。
【0034】
このような熱可塑性樹脂は、JISK7210に基づくメルトフローレートが0.01乃至0.3g/10minであることが好ましく、より好ましくは0.02乃至0.2g/10min、更に好ましくは0.03乃至0.1g/10minである。メルトフローがこの上限を超えると、樹脂の分子量が低くなるため、充分な機械的強度を得ることが難しくなる傾向がある。また、この下限を下回ると樹脂の分子量が高くなり過ぎて通常の熱成形が難しくなり、低分子量成分の添加が必須となって、低分子量成分の抽出が必要になったり、電池使用中に、電池温度が上昇するとセパレータの閉塞を招く虞がある。
【0035】
<充填剤>
本発明の非水系電解液二次電池用セパレータを構成する熱可塑性樹脂組成物に含まれる充填剤としては、一般に、リチウム二次電池で用いられるカーボネート系有機電解液を分解しない性質を有する無機充填剤が選ばれる。そのような充填剤としては、難水溶性の硫酸塩、アルミナ等が挙げられるが、特に硫酸バリウムが好適に用いられる。なお、ここに云う難水溶性とは、25℃の水に対する溶解度が5mg/l以下であることを指す。
【0036】
一般に充填剤として用いられることの多い炭酸カルシウムなどの炭酸塩や酸化チタン、シリカなどは、非水電解液成分の分解を招く虞がある。
【0037】
充填剤の粒径としては、平均粒径の下限が通常0.01μm以上、好ましくは0.1μm以上、中でも0.2μm以上であり、上限は通常10μm以下、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、中でも1μm以下であることが好ましい。充填剤の平均粒径が10μmを超えると、延伸で形成される孔の径が大きくなりすぎ、延伸破断やフィルム強度の低下を招きやすい。また、平均粒径が0.01μmより小さいと充填剤が凝集し易くなるため、基材樹脂に均等に充填剤を分散させることが難しくなりやすい。
【0038】
本発明においては、上記条件に適合する充填剤であれば1種を単独で用いることもでき、2種以上を混合して用いることもできる。
【0039】
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物中の上記充填剤の配合量は、熱可塑性樹脂と充填剤とを含む熱可塑性樹脂組成物中好ましくは10乃至50体積%であり、より好ましくは15乃至40体積%、特に好ましくは20乃至30体積%である。この充填剤の配合量が10体積%未満であると連通孔を形成することが難しく、セパレータとしての機能を発現することが困難となる。また、50体積%を超えるとフィルム成形時の粘度が高くなり加工性に劣るばかりでなく、多孔化のための延伸時にフィルム破断を生じる虞がある。
【0040】
充填剤としては、熱可塑性樹脂への分散性を高めるために表面処理剤により表面処理されているものを用いることもできる。この表面処理としては、熱可塑性樹脂がポリオレフィン樹脂の場合、例えばステアリン酸等の脂肪酸又はその金属塩、或いはポリシロキサンやシランカップリング剤による処理が挙げられる。
【0041】
<他の添加剤>
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物中には、前記熱可塑性樹脂との相溶性を有する低分子量化合物を少量添加しても良い。この低分子量化合物は熱可塑性樹脂の分子間に入り込み、分子間の相互作用を低下させると共に結晶化を阻害し、その結果、シート成形時の熱可塑性樹脂組成物の延伸性を向上させる。また、低分子量化合物は熱可塑性樹脂と充填剤との界面接着力を適度に高めて、延伸による孔の粗大化を防止する作用を奏すると共に、熱可塑性樹脂と充填剤との界面接着力を高めることでフィルムからの充填剤の脱落を防止する作用を奏する。
【0042】
この低分子量化合物としては分子量200〜3000のものが好適に用いられる。この低分子量化合物の分子量が3000を超えると低分子量化合物が熱可塑性樹脂の分子間に入りにくくなるため、延伸性の向上効果が不充分となる。また、分子量が200未満では、相溶性は上がるが、低分子量化合物がセパレータを構成する高分子多孔質膜表面に析出する、いわゆるブルーミングが起こりやすくなり、膜性状の悪化やブロッキングを起こしやすくなる。
【0043】
低分子量化合物としては、熱可塑性樹脂がポリオレフィン樹脂の場合、脂肪族炭化水素又はグリセライドなどが好ましく使われる。特に、ポリオレフィン樹脂がポリエチレンの場合は、流動パラフィンや低融点ワックスが好ましく用いられる。
【0044】
上記低分子量化合物の配合量は、熱可塑性樹脂と充填剤との合計100重量部に対し好ましくは1乃至10重量部である。この低分子量化合物の配合量が1重量部未満であると、低分子量化合物を配合することによる上記効果が十分に得られず、また10重量部を超えると熱可塑性樹脂の分子間の相互作用を低下させ過ぎて、十分な強度が得られなくなる。また、シート成形時に発煙が生じたり、スクリュー部分での滑りが生じて、安定なシート成形が難しくなる。さらに、低分子量化合物の抽出が必要になったり、電池を使用中に電池温度が上昇するとセパレータの閉塞を招く虞がある。
【0045】
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物には、更に必要に応じて熱安定剤等の他の添加剤を添加することができる。上記添加剤としては、公知のものであれば特に制限されず用いられる。これらの添加剤の配合量は、熱可塑性樹脂と充填剤との合計100重量部に対し通常0.05乃至1重量部である。
【0046】
{製造方法}
本発明の非水系電解液二次電池用セパレータの製造方法としては界面剥離法が好ましい。
本発明の非水系電解液二次電池用セパレータは、より具体的には、次のような方法で製造される。
【0047】
まず、充填剤と熱可塑性樹脂、及び必要に応じて添加される低分子量化合物や酸化防止剤等の添加剤の所定量を配合し、溶融混練することにより熱可塑性樹脂組成物を調製する。ここで、上記樹脂組成物はヘンシェルミキサー等によって予備混合を行い、しかる後に通常用いられる一軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、ミキシングロール又は二軸混練機等を用いて調製しても良く、予備混練を省略して直接上記押出機等で樹脂組成物を調製しても良い。
【0048】
次いで、上記熱可塑性樹脂組成物をシート成形する。シート成形は通常用いられるTダイによるTダイ法や円形ダイによるインフレーション法などにより行うことができる。
【0049】
次いで、成形されたシートの延伸を行う。該延伸には、シートの引き取り方向(MD)に延伸する縦一軸延伸、テンター延伸機等により横方向(TD)に延伸する横一軸延伸、MDへの一軸延伸後引き続きテンター延伸機等によりTDに延伸する逐次二軸延伸法、又は縦方向及び横方向を同時に延伸する同時二軸延伸法がある。上記一軸延伸はロール延伸により行うことができる。
【0050】
上記延伸処理は、好ましくは、少なくとも一方向に施されており該延伸処理は熱可塑性樹脂の融点以上の温度で少なくとも1回の延伸が施される高温延伸工程と、この高温延伸後に高温延伸と同方向に融点未満の温度で少なくとも1回の延伸が施される低温延伸工程との2つの工程から成る。ここで熱可塑性樹脂の融点はJISK7121に基いて定められる。
【0051】
高温延伸は、熱可塑性樹脂の融点乃至融点+10℃の温度で施され、好ましくは融点乃至融点+5℃の温度で施される。高温延伸は開孔部を生じずに熱可塑性樹脂組成物を配向させて機械的強度を向上させるために施すものであり、界面剥離が生じない温度で施す必要があり、融点以上の温度で施される。高温延伸が融点未満の温度で施されると、延伸初期に樹脂と充填剤の間に界面剥離が生じて開孔し、以後の延伸では開孔部が拡大するだけで機械的強度の向上につながらない。また、高温延伸が融点+10℃を超える温度では樹脂の流動性が高くなりすぎて、高温延伸が樹脂組成物の配向につながらず、充分な機械的強度の向上につながりにくい。
【0052】
低温延伸は、高温延伸後に高温延伸と同方向に施される。低温延伸は熱可塑性樹脂の好ましくは融点−30℃乃至融点−2℃の温度で施され、より好ましくは融点−20℃乃至融点−5℃の温度で施される。低温延伸が融点−30℃未満の温度で施されると熱可塑性樹脂組成物の軟化が充分ではないため、延伸破断を起こしやすくなり好ましくない。また低温延伸が融点−2℃より高い温度で施されると樹脂と充填剤の間の界面剥離が生じにくいため、開孔が充分に行われず、セパレータとして機能することが困難となる。
【0053】
なお、本発明において、高温延伸後に低温延伸を行うことは重要であり、高温延伸と低温延伸は順番を入れ替えることはできない。即ち、この順番を入れ替えると低温延伸で開孔した孔が高温延伸で潰れてしまい、非多孔性のフィルムとなるため、セパレータとして機能しなくなる。
【0054】
また、高温延伸と低温延伸は同方向に行う必要がある。高温延伸と低温延伸の方向が異なると、後から施す低温延伸により、高温延伸による樹脂組成物の配向が緩和されてしまうため充分な機械的強度を発現しなくなる。
【0055】
延伸倍率は必要とされる孔径や強度に応じて任意に設定されるが、厚み25μm当たりの突き刺し強度が2.5N以上であるためには、高温延伸と低温延伸の倍率の積が少なくとも一軸方向に4倍以上8倍以下となることが好ましい。一軸方向の延伸倍率の積が4倍未満では、高温延伸の倍率が低すぎる場合は強度が充分に向上せず、厚み25μm当たりの突き刺し強度を2.5N以上することが難しくなり、低温延伸の倍率が低すぎる場合は界面剥離による開孔が充分に生じずセパレータとして機能することが難しくなる。突き刺し強度と開孔が充分に行われるためには、高温延伸及び低温延伸の倍率はそれぞれ2倍以上であることが好ましい。また、一軸方向の延伸倍率の積が8倍を超えると延伸倍率が高くなりすぎて、延伸破断を起こしやすくなる傾向がある。
【0056】
なお、本発明のセパレータの製造に当たり、延伸処理は、上述の如く、少なくとも一方向に高温延伸した後同方向に低温延伸を行うものであれば良く、この高温延伸及び低温延伸が共に一軸延伸であっても二軸延伸であっても良く、高温延伸と低温延伸の一方が二軸延伸で他方が一軸延伸であっても良い。さらに、高温延伸及び低温延伸共二軸延伸を行う方が突き刺し強度が上がりやすく、多孔化もし易いため好ましい。
【0057】
{突き刺し強度}
本発明の非水系電解液二次電池用セパレータは、厚み25μm当たりの突き刺し強度が2.5N以上であることを特徴とする。この突き刺し強度が2.5未満では、本発明の目的を達成し得ない。厚み25μm当たりの突き刺し強度は好ましくは3.0N以上である。突き刺し強度は大きい程好ましく、その上限は特に定めないが、通常5.0N以下程度である。
なお、厚み25μm当たりの突き刺し強度は、後述の実施例の項に記載される突き刺し強度測定方法により測定される。
【0058】
{その他の物性}
本発明の非水系電解液二次電池用セパレータの多孔度は、本発明のセパレータを構成する多孔質膜の空孔率の下限として通常30%以上、好ましくは40%以上、更に好ましくは50%以上であり、上限として通常80%以下、好ましくは70%以下、更に好ましくは65%以下、特に好ましくは60%以下である。空孔率が30%未満であるとイオンの透過性が充分でなく、セパレータとしての機能を果たすことができない虞がある。また、空孔率が80%を超えると、フィルムの実強度が低くなるため、電池作成時の破断や活物質による突き抜けと短絡が生じる虞がある。
【0059】
なお、多孔質膜の空孔率とは、以下の計算式によって算出される値である。
空孔率Pv(%)=100×(1−w/〔ρ・S・t〕)
S:多孔質膜の面積
t:多孔質膜の厚み
w:多孔質膜の重さ
ρ:多孔質膜の真比重
なお、高分子多孔質膜を構成する成分i(樹脂や充填剤など)のブレンド重量をWi、比重をρiとすると真比重ρは以下の式で求められる。式中、Σは全ての成分の和を表す。
多孔質膜の真比重ρ=ΣWi/Σ(Wi/ρi)
【0060】
また、本発明のセパレータの厚みの上限値は、通常、100μm以下、中でも50μm以下、好ましくは40μm以下であり、下限値は、通常5μm以上、好ましくは10μm以上である。厚みが5μm未満であると、実強度が低いため、電池の作成時の破断や活物質による突き抜けと短絡が生じる虞がある。また、厚みが100μmを超えるとセパレータの電気抵抗が高くなるため、電池の容量が低下する虞がある。厚みを5〜100μmの範囲とすることにより、良好なイオン透過性を有するセパレータとすることができる。
【0061】
[非水系電解液二次電池]
次に、本発明の非水系電解液二次電池について説明する。
本発明の非水系電解液二次電池は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極と、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極と、非水系溶媒及びリチウム塩を含有する非水系電解液と、上述の本発明の非水系電解液二次電池用セパレータとを備えるものである。
【0062】
{非水系電解液}
<非水系溶媒>
本発明の非水系電解液二次電池に使用される電解液の非水系溶媒としては、非水系電解液二次電池の溶媒として公知の任意のものを用いることができる。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等のアルキレンカーボネート等の環状カーボネート(好ましくは炭素数3〜5のアルキレンカーボネート);ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−n−プロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート等のジアルキルカーボネート(好ましくは炭素数1〜4のアルキル基を有するジアルキルカーボネート)等の鎖状カーボネート;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル;ジメトキシエタン、ジメトキシメタン等の鎖状エーテ
ル;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状カルボン酸エステル;酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の鎖状カルボン酸エステルなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種類以上を併用しても良い。
【0063】
上記例示溶媒の中でも、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを混合した混合非水系溶媒が、充放電特性、電池寿命等の電池性能全般を高める観点から好ましい。また、上記混合非水系溶媒は、環状カーボネート及び鎖状カーボネートをそれぞれ非水系溶媒全体の15体積%以上含み、且つ、それらの体積の合計が非水系溶媒全体の70体積%以上となるように混合することが好ましい。
【0064】
上記の環状カーボネート及び鎖状カーボネートを混合した混合非水系溶媒に用いられる環状カーボネートとしては、アルキレン基の炭素数が2以上4以下のアルキレンカーボネートが好ましい。その具体例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられる。中でも、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートが好ましい。
【0065】
また、上記の環状カーボネート及び鎖状カーボネートを混合した混合非水系溶媒に用いられる鎖状カーボネートとしては、炭素数が1以上4以下のアルキル基を有するジアルキルカーボネートが好ましい。その具体例としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−n−プロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチル−n−プロピルカーボネート、エチル−n−プロピルカーボネートなどが挙げられる。中でも、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートが好ましい。
【0066】
これらの環状カーボネート及び鎖状カーボネートは各々独立に、1種のみを単独で使用しても良く、複数種を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0067】
混合非水系溶媒の環状カーボネートの割合は15体積%以上、特に20〜50体積%で、鎖状カーボネートの割合は30体積%以上、特に40〜80体積%で、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの含有比率は、環状カーボネート:鎖状カーボネート=1:1〜4(体積比)であることが好ましい。
【0068】
さらに、上記の混合非水系溶媒は、製造されるリチウム電池の電池性能を低下させない範囲であれば、環状カーボネート及び鎖状カーボネート以外の溶媒を含んでいても良い。混合非水系溶媒中における環状カーボネート及び鎖状カーボネート以外の溶媒の割合は、通常30体積%以下、好ましくは10体積%以下である。
【0069】
<リチウム塩>
非水系電解液の溶質であるリチウム塩としては、任意のものを用いることができる。例えば、LiClO、LiPF、LiBF等の無機リチウム塩;LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiPF(CF、LiPF(C、LiPF(CFSO、LiPF(CSO、LiBF(CF、LiBF(C、LiBF(CFSO、LiBF(CSO等の含フッ素有機リチウム塩などが挙げられる。これらのうち、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO等の含フッ素有機リチウム塩、特にLiPF、LiBFが好ましい。なお、リチウム塩についても1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0070】
これらのリチウム塩の非水系電解液中の濃度の下限値としては、通常0.5mol/l以上、中でも0.75mol/l以上、上限値としては、通常2mol/l以下、中でも1.5mol/l以下である。リチウム塩の濃度がこの上限値を超えると非水系電解液の粘度が高くなり、電気伝導率も低下する。また、下限値を下回ると電気伝導率が低くなるので、上記濃度範囲内で非水系電解液を調製することが好ましい。
【0071】
<被膜形成剤>
本発明に係る非水系電解液は、負極表面に抵抗性被膜を形成しうる被膜形成剤を含有してもよい。本発明で用いる被膜形成剤としては、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート、フェニルエチレンカーボネート、エリスリタンカーボネート等のエチレン性不飽和結合を有するカーボネート化合物や、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、無水ジグリコール酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、フェニルコハク酸無水物等のカルボン酸無水物等が挙げられる。特に、良好なサイクル特性向上効果と、被膜抵抗の温度依存性の観点から、被膜形成剤としてはビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、無水コハク酸が好ましく、特に良質な被膜を形成しうることから、ビニレンカーボネートを用いることが更に好ましい。なお、これらの被膜形成剤は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても構わない。
【0072】
本発明において、非水系電解液中の被膜形成剤の含有量は、0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.3重量%以上であり、10重量%以下、好ましくは8重量%以下、より好ましくは7重量%以下である。被膜形成剤の含有量が上記範囲の下限を下回ると電池のサイクル特性向上効果が得られ難い一方で、上限を超えると低温におけるレート特性の低下を招くおそれがある。
【0073】
なお、本発明に係る非水系電解液には、非水系溶媒、リチウム塩及び被膜形成剤以外に、必要に応じて他の有用な成分、例えば従来公知の過充電防止剤、脱水剤、脱酸剤、正極保護剤等の各種の添加剤を含有させても良い。
【0074】
{正極}
正極としては、通常、正極活物質とバインダーを含有する活物質層を集電体上に形成させたものが用いられる。
【0075】
正極活物質としては、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵・放出可能なものであれば、その種類に制限はない。好ましい例としては、リチウム遷移金属複合酸化物が挙げられる。
【0076】
リチウム遷移金属複合酸化物の具体例としては、LiCoOなどのリチウム・コバルト複合酸化物、LiNiOなどのリチウム・ニッケル複合酸化物、LiMnOなどのリチウム・マンガン複合酸化物等が挙げられる。これらのリチウム遷移金属複合酸化物は、主体となる遷移金属原子の一部をAl、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Si等の他の金属で置き換えると、安定化させることができるので好ましい。これらの正極活物質は、何れか1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0077】
バインダーとしては、電極製造時に使用する溶媒や電解液、電池使用時に用いる他の材料に対して安定な材料であれば、特に限定されない。その具体例としてはポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体)、SBR(スチレン−ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、フッ素ゴム、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ニトロセルロース等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、複数種を併用しても良い。
【0078】
正極活物質層中のバインダーの割合は、下限値が通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、より好ましくは5重量%以上であり、上限値が通常80重量%以下、好ましくは60重量%以下、より好ましくは40重量%以下、更に好ましくは10重量%以下である。バインダーの割合が少ないと、活物質を十分に保持できないので、正極の機械的強度が不足し、サイクル特性等の電池性能を悪化させることがあり、逆に多すぎると電池容量や導電性を下げることになる。
【0079】
正極活物質層は、通常、導電性を高めるため導電剤を含有する。導電剤としては、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛の微粒子や、アセチレンブラック等のカーボンブラック、ニードルコークス等の無定形炭素微粒子等の炭素質材料を挙げることができる。これらは1種を単独で用いても、複数種を併用しても良い。
【0080】
正極活物質層中の導電剤の割合は、下限値が通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、更に好ましくは1重量%以上であり、上限値が通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下、更に好ましくは15重量%以下である。導電剤の割合が少ないと導電性が不十分になることがあり、逆に多すぎると電池容量が低下することがある。
【0081】
正極活物質層には、その他、増粘剤等の通常の活物質層の添加剤を含有させることができる。
増粘剤は電極製造時に使用する溶媒や電解液、電池使用時に用いる他の材料に対して安定な材料であれば、特に限定されない。その具体例としては、カルボキシルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、複数種を併用しても良い。
【0082】
正極の集電体には、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等が使用される。
【0083】
正極は、前述の正極活物質とバインダーと導電剤、必要に応じて添加されるその他の添加剤とを溶媒でスラリー化したものを集電体に塗布して乾燥することにより形成することができる。スラリー化のために用いる溶媒としては、通常、バインダーを溶解する有機溶剤が使用される。例えば、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフラン等が用いられるがこれらに限定されない。これらは1種を単独で用いても、複数種を併用しても良い。また、水に分散剤、増粘剤等を加えてSBR等のラテックスで活物質をスラリー化することもできる。
【0084】
このようにして形成される正極活物質層の厚さは、通常10〜200μm程度である。なお、塗布・乾燥によって得られた活物質層は、活物質の充填密度を上げるために、ローラープレス等により圧密化するのが好ましい。
【0085】
{負極}
負極は、通常、負極活物質とバインダーを含有する活物質層を集電体上に形成させたものが用いられる。
【0086】
負極活物質としては様々な熱分解条件での有機物の熱分解物や人造黒鉛、天然黒鉛等のリチウムを吸蔵・放出可能な炭素質材料;酸化錫、酸化珪素等のリチウムを吸蔵・放出可能な金属酸化物材料;リチウム金属;種々のリチウム合金などを用いることができる。これらの負極活物質は、1種を単独で用いても良く、2種類以上を混合して用いても良い。
【0087】
バインダーとしては、電極製造時に使用する溶媒や電解液、電池使用時に用いる他の材料に対して安定な材料であれば、特に限定されない。その具体例としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、スチレン−ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム等を挙げることができる。これらは1種を単独で用いても、複数種を併用しても良い。
【0088】
負極活物質層中の上述のバインダーの割合は、下限値が通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、より好ましくは5重量%以上であり、上限値が通常80重量%以下、好ましくは60重量%以下、より好ましくは40重量%以下、更に好ましくは10重量%以下である。バインダーの割合が少ないと、活物質を十分に保持できないので負極の機械的強度が不足し、サイクル特性等の電池性能を悪化させることがあり、逆に多すぎると電池容量や導電性を下げることになる。
【0089】
負極活物質層には、その他、増粘剤等の通常の活物質層の添加剤を含有させることができる。
増粘剤は電極製造時に使用する溶媒や電解液、電池使用時に用いる他の材料に対して安定な材料であれば、特に限定されない。その具体例としては、カルボキシルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、複数種を併用しても良い。
【0090】
負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等が使用される。
【0091】
負極は、前述の負極活物質とバインダー、必要に応じて添加されるその他の添加剤とを溶媒でスラリー化したものを集電体に塗布して乾燥することにより形成することができる。スラリー化のために用いる溶媒としては、通常、バインダーを溶解する有機溶剤が使用される。例えば、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフラン等が用いられるがこれらに限定されない。これらは1種を単独で用いても、複数種を併用しても良い。また、水に分散剤、増粘剤等を加えてSBR等のラテックスで活物質をスラリー化することもできる。
【0092】
このようにして形成される負極活物質層の厚さは、通常、10〜200μm程度である。なお、塗布・乾燥によって得られた活物質層は、活物質の充填密度を上げるために、ローラープレス等により圧密化するのが好ましい。
【0093】
{電池構成}
本発明の非水系電解液二次電池は、上述した正極と、負極と、非水系電解液と、セパレータとを、適切な形状に組み立てることにより製造される。更に、必要に応じて外装ケース等の他の構成要素を用いることも可能である。
【0094】
その電池形状は特に制限されず、一般的に採用されている各種形状の中から、その用途に応じて適宜選択することができる。一般的に採用されている形状の例としては、シート電極及びセパレータをスパイラル状にしたシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを組み合わせたインサイドアウト構造のシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを積層したコインタイプ、シート電極及びセパレータを積層したラミネートタイプなどが挙げられる。また、電池を組み立てる方法も特に制限されず、目的とする電池の形状に合わせて、通常用いられている各種方法の中から適宜選択することができる。
【0095】
以上、本発明の非水系電解液二次電池の一般的な実施形態について説明したが、本発明の非水系電解液二次電池は上記実施形態に制限されるものではなく、その要旨を越えない限りにおいて、各種の変形を加えて実施することが可能である。
【実施例】
【0096】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
【0097】
なお、以下の実施例及び比較例において、セパレータの突き刺し強度は以下の方法で測定した。
<セパレータの突き刺し強度測定方法>
ホルダーで固定したサンプル(測定部:直径10mmの円形)に、直径1mm、先端曲率半径0.5mmの金属(SUS440C)製針を厚さ方向に300mm/minの速さで突き刺して、穴が開口する最大荷重を測定する。突き刺し強度は厚みに比例するとして、厚み25μm当たりの突き刺し強度を求める。
【0098】
[実施例1]
高密度ポリエチレン〔プライムポリマー社製「ハイゼックス7000F」、JISK7210に基づくメルトフローレートが0.04g/10min、JISK7121に基づく融点が131℃〕50重量部(82.2体積%)、充填剤として硫酸バリウム〔平均粒径0.66μm〕50重量部(17.8体積%)を配合して180℃で溶融混練し、得られた樹脂組成物を180℃で熱プレスを行って原反シートを得た。原反シートの厚みは平均450μmであった。
次に、得られた原反シートを135℃で2×2の同時二軸延伸を行った。次いで125℃で3×3の同時二軸延伸を行った。
得られたフィルムは膜厚24μm、空孔率47%、25μm当たりの突き刺し強度は350g(3.43N)であった。
【0099】
[実施例2]
高密度ポリエチレン〔プライムポリマー社製「ハイゼックス7000F」、JISK7210に基づくメルトフローレートが0.04g/10min、JISK7121に基づく融点が131℃〕50重量部(82.2体積%)、充填剤として硫酸バリウム〔平均粒径0.66μm〕50重量部(17.8体積%)を配合して180℃で溶融混練し、得られた樹脂組成物を180℃で熱プレスを行って原反シートを得た。原反シートの厚みは平均360μmであった。
次に、得られた原反シートを135℃で2×2の同時二軸延伸を行った。次いで120℃で3×3の同時二軸延伸を行った。
得られたフィルムは膜厚16μm、空孔率36%、25μm当たりの突き刺し強度は440g(4.31N)であった。
【0100】
[比較例1]
高密度ポリエチレン〔プライムポリマー社製「ハイゼックス7000F」、JISK7210に基づくメルトフローレートが0.04g/10min、JISK7121に基づく融点が131℃〕50重量部(82.2体積%)、充填剤として硫酸バリウム〔平均粒径0.66μm〕50重量部(17.8体積%)を配合して180℃で溶融混練し、得られた樹脂組成物を180℃で熱プレスを行って原反シートを得た。原反シートの厚みは平均200μmであった。
次に、得られた原反シートを125℃で3×3の同時二軸延伸を行った。
得られたフィルムは膜厚62μm、空孔率64%、25μm当たりの突き刺し強度は90g(0.88N)であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と充填剤とを含む熱可塑性樹脂組成物からなり、厚み25μm当たりの突き刺し強度が2.5N以上であることを特徴とする非水系電解液二次電池用セパレータ。
【請求項2】
熱可塑性樹脂が、JISK7210に基づくメルトフローレートが0.01乃至0.3g/10minのポリオレフィン樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の非水系電解液二次電池用セパレータ。
【請求項3】
ポリオレフィン樹脂が、ポリエチレン及び/又はポリプロピレンであることを特徴とする請求項2に記載の非水系電解液二次電池用セパレータ。
【請求項4】
ポリオレフィン樹脂が、高密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項2又は3に記載の非水系電解液二次電池用セパレータ。
【請求項5】
充填剤が、無機物であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の非水系電解液二次電池用セパレータ。
【請求項6】
熱可塑性樹脂組成物中の充填剤含量が、10乃至50体積%であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の非水系電解液二次電池用セパレータ。
【請求項7】
充填剤が、硫酸塩であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の非水系電解液二次電池用セパレータ。
【請求項8】
硫酸塩が、硫酸バリウムであることを特徴とする請求項7に記載の非水系電解液二次電池用セパレータ。
【請求項9】
充填剤が、金属酸化物であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の非水系電解液二次電池用セパレータ。
【請求項10】
金属酸化物が、アルミナであることを特徴とする請求項9に記載の非水系電解液二次電池用セパレータ。
【請求項11】
熱可塑性樹脂と充填剤とを含む熱可塑性樹脂組成物からなる非水系電解液二次電池用セパレータであって、該セパレータは、該熱可塑性樹脂の融点以上の温度で少なくとも1回の延伸処理が施された後、該融点以上での延伸処理と同方向に該融点未満の温度で少なくとも1回の延伸処理が施されたものであることを特徴とする非水系電解液二次電池用セパレータ。
【請求項12】
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極と、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極と、非水系溶媒及びリチウム塩を含有する非水系電解液と、セパレータとを有する非水系電解液二次電池において、セパレータとして、請求項1乃至11のいずれかに記載のセパレータを用いたことを特徴とする非水系電解液二次電池。

【公開番号】特開2012−169286(P2012−169286A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−96387(P2012−96387)
【出願日】平成24年4月20日(2012.4.20)
【分割の表示】特願2005−304636(P2005−304636)の分割
【原出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】